『無音』   作:閏 冬月

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第22小節 波を鎮める程度の能力

「波を鎮める能力か……。割と応用に聞きそうな能力だな」

「音以外に試したことがないからなぁ……」

 

魔理沙は、それじゃあ試してみるか、と言って手ごろなナイフを取り出した。嫌な予感がする。

私の心臓は警鐘を鳴らすが如く、鼓動を打つ。息が荒くなる。

 

魔理沙はテーブルの上に左手を置き、ナイフを持った右手を大きく天に掲げ、振り下ろす。

 

「イダダダダ!!」

「何やってんの馬鹿っ!」

 

慌ててナイフを魔理沙の手のひらから抜こうとするも、何かに固定されたかのように一切動かない。

怖い、怖い。友達を失うことが怖い。奥底の恐怖は到底忘れそうにもない。

私の記憶を一切思い出すことのなかった、あの時の霊夢のように。

 

「痛いのは慣れっこだ。今なら試せると思って私はこの行為をやってるんだぜ?」

「ああーっ! 何回でも言うよ! この馬鹿っ!」

 

痛みというのを波に置き換えよう。

激しく上下に動くところが痛いと思うところ、けれども左手のみの波を抑えていいのか? 過去に永遠亭に行ったことがある。その時に手術と言われる施工を受けた。それの中では一切感覚がなかった。麻酔、と呼ばれるものを使っていたらしい。

それをイメージして、波を鎮める。

 

「…………、どう? 魔理沙」

「痛いとは全然思わないな。なんなら左腕の感覚全部無いぞ?」

 

実験、にしては上出来の部類に入るだろう。

私もここまで上手くことが運ぶとは思ってもいなかった。ひとえに過去の経験が生きたということだろう。

それにしても、魔理沙に対して一言だけ言っておきたい。

 

「魔理沙、ナイフと左手、あとテーブルになにかしらの力で固定してたでしょ」

「あ、やっぱりバレてた?」

 

バレバレも何も、魔理沙が左手にナイフを突き刺した時にはテーブルにはナイフの刃は届いていなかった。それなのに、私の力でナイフを引き抜けないどころか、ナイフと共に左手が上がる気配が一切なかった。

いくら非力な10歳ほどの身体とはいえ、流石に魔理沙の左手ぐらいは持ち上げることは出来る。それこそ、魔理沙が私の腕を右腕で抑えるか、なにかしらの力を入れない限り。

 

「お前、こうでもしなきゃ能力使わずにどうやって助けるが考えるだろ」

「当然でしょ。私の性格をよく理解してるんでしょ?」

 

まあな、と魔理沙は少し懐かしげに笑った。その顔は私の記憶にはない、恐らく私がいなかった時に得た笑顔なのだろう。少し、寂しくも感じる。

 

「さて、と、痛みがない内に引き抜いとくか!」

 

そう言って、魔理沙は左手からナイフを引き抜く。

そして後悔。そのあとを見るのではなかった。

魔理沙は私に見せつけるかのように、左手をこちらに向ける。ぐちゅぐちゅと赤く光る隙間から白いものが見える。さらには、そこを塞ぐようにせっせと働く繊維たち見える。

正直に言おう。かなりグロテスク。吐きそうになる。

 

「あ、キツかったら目ぇ隠しとけよ? いろはにとっちゃあかなりグロテスクだからな」

「その言葉、もう10秒前ぐらいに欲しかったかな?」

 

これだから魔理沙の友達というのは疲れるのだ。






来月、『無音』をメインで書くため、投稿間隔が短くなると思います。

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