『無音』   作:閏 冬月

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第26小節 その音は友を裏切るために壊音を奏でる

「幻想郷を……、壊す?」

 

待って、理解が全く追いつかない。

今の幻想郷が紛い物? 霊夢が創った? 壊すってどうやって? そもそも幻想郷って壊せるものなの?

様々な疑問が頭の中に湧き出す。今にも脳が悲鳴を上げて、沸騰しそうだ。

 

「ああ、紛い物の幻想郷を壊す。どうやって壊すか、それがお前の気掛かりか?」

壊れそうな頭の波を無理やり鎮め、私は静かに頷く。

 

「こんだけ大規模、尚且つ効果も大規模ときた。そんな結界であれば楔と言えるものが一つか二つぐらいは現れる」

 

八雲 紫と初代博麗の巫女なら、話は別だっただろうがよ、と蒼月 空は肩を竦める。

 

「それはまあ、置いといてだ。その楔とやらはこちら側で既に発見済みだ」

 

私は最悪の展開の予想をしつつ、その楔の候補を立てる。ただ、そんな候補立てするまでも無い。

予想の最悪は、必ず当たる。

 

「博麗 桜花、ですよね?」

「ご名答。お前だけに話すことの出来る理由の一つは、処刑人のこと、そしてもう一個あった。それがこの、博麗 桜花のことだ。十中八九、お前の中にいるもう1人に言ったら、抵抗するか卒倒するだろ?」

 

その読みは半分正解だ。残りの半分は、私がそれを許すかということ。

楔があるから、幻想郷を壊すことが出来るということはその楔を壊すということ。つまり、桜花のことを殺すということ。

 

「その依頼でしたっけ? それは断ります」

 

私はどうしても、親友は裏切りたくない。私の最期を不本意ながらも看取ってくれた霊夢ならなおさら。

例え、これが史上最大、これまでもこれからも類を見ない博麗の巫女が起こした大異変だったしても、私は幻想郷最弱、幻想郷きっての平和主義者である。

 

「お前、幻想郷がどうなってもいいのか?」

 

ああ、勿論。親友のためなら。

幻想郷だって意思を持つ。それが受け入れているなら、私たちが出る幕もない。

いや、少し待てよ。これは、幻想郷は受け入れているのか? 受け入れているのならば、何故私や蒼月 空が存在することが出来る?

 

「一つだけ質問」

「答えられる範囲ならいくらでも」

「処刑人という役割について」

「……普段ならば、閻魔の目を盗んで行動し、罪人の処刑、魂の行き場を無くし消滅させる。今現在のあいつの役割は本来の幻想郷の代弁者。あいつが悪と見なせば、八雲 紫だって処刑の対象になる」

 

ここまでの話を聞いて、ようやく私の役割が分かった。

幻想郷はあくまでこの状態を受け入れていない。だから、代弁者、夕顔 禊は完璧な幻想郷に穴を穿った。それが私と蒼月 空。

 

「こちらから情報提供だ。この結界を創った原因の一つはお前だ。さらに、俺はこの世界とは別の世界線から来た妖怪だ。ここが壊れたとしても戻るようになる契約だ。しかし、お前は元々こちらの人間。ここが壊れたら、魂の××が待っている」

「なーんだ、その程度か」

 

確かに、私が原因となったのは、この依頼を引き受ける要因の一つとなる。

そう考えながらも、私の心境は不自然なほど落ち着いている。心音も問題なし。なんなら、一切鼓動していないかのごとく静かである。綺麗な和音を、身体は奏でていた。

 

「私は友のために動く。幻想郷が認めないということは悪になるなら、友は悪となる。友だちには悪になってほしくないしね」

 

友を裏切らないために友を裏切る。

矛盾した行動動機だろうか。少なくとも、私はそうは思わない。

私は死にたくないし、戦いたくない。けれども、幻想郷を救いたい。綺麗事を抜かすな、そういう声もあるかもしれない。けれども、1つだけその方法はある。

壊音を奏でること。これを遂行するにはある1つの条件がある。


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