壊音を奏でるための条件を満たすためには、あることをしなければならない。しかし、私はそれを嫌う。
「蒼月 空、あなたは私の作戦を聞いてどう思うか、感想をもらってもいいですか?」
「まあ、勝算があるというのなら判断してやる。言ってみろ」
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「おい……。お前はそれでいいのかよ……?」
私は静かに首を下ろす。
これ以外に私が活躍というか、関わってこの異変を解決する方法がない。皆無だ。
一つの懸念としては、この方法では彩葉の方にもかなりの負担がかかるということ。私の方には何の問題もない。ただ、この苦痛を彼女に味あわせてしまって大丈夫なのだろうか。それだけが心配なのだ。
そろそろ起きるであろう彼女に小さく、小さく語りかける。
(ねえ、彩葉。あなたはとても大切な親友のためなら、××ようなことがあったとしても、耐えられる?)
彼女は微笑んだような表情を浮かべ、こちらに語り返す。
(無論、それが桜花のためになるなら、それが私が愛する幻想郷のためになるなら、私はいくらだってやるよ)
そう、だよね。こんなことを聞いた私が馬鹿だった。私は何度も陽友 彩葉に願った。私の魂を持っているのであれば、友達を大切にしてほしいと。
結果、その願いは叶った。
とても、願ってもいないタイミングで。
「私も彩葉も同意してる。だから、大丈夫」
「全部、話したのか?」
「処刑人に関しては伏せてね」
確かに、彩葉は桜花のことを知ると悲しそうな顔をした。
しかし、桜花にとって救済になることを知ると、どんなことよりも救うと心に決めたようだった。それであるならば、どうして私が彼女を止めることが出来るのだろうか。
さすが、私の意思を受け継いでいるだけはある。
「実行するときは言えよ。居候させてもらうしよ」
「は? 何言ってるの?」
「毎日毎日、どっかからここまで来るのってかなりキツいんだぞ? 知らんだろ?」
いやいや、その話は想定外すぎる。
まず、彩葉の方に話を通さないといけないというのに。
「何言ってるのこの変質者」
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「何言ってるのこの変質者」
「変質者じゃねぇって……、陽友 彩葉の方か……。急に変わんなよ。ビビるっての」
そんなもの、こちらにとってはどうでもよい。私といろはさんが入れ替わるタイミングはどちらとも同意した瞬間だ。事前に言うことなど不可能である。
「なら、一つだけ条件ね。桜花の能力はこの中で私が1番よく知ってる。だから、今から書く手紙を人里の永井 次冠に渡してほしいの」
「そんだけでいいのか?」
「うん。もちろん」
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「ただいまー」
父母の姿はない。母は確か今日の夜は女性限定居酒屋の仕事、父は守衛としての仕事がある。
ここまで静かで暗いと恐怖心が煽られるものもある。
ろうそくを灯そうとしても、少しは節約しないといけないため、少しためらう。
少し古びた木製の階段を軋ませながら、2階へと向かう。俺の部屋だ。
俺の部屋にある小さな机の上に、「永井 次冠」と書かれた封筒がある。裏面を見てみると、「陽友 彩葉」と書かれていた。
「あいつから?」
封を切り、中身を読む。
『明後日の午後3時ごろにかふぇ、道草に来て。話したいことがあるから』
彩葉が話したいと言う内容がよく分からないまま、俺は当日を迎える。