「永遠の時間って、退屈だと思わない? 次冠」
「そんな哲学的な話をするために俺を呼んだんじゃないだろ、彩葉」
私は日が少し傾いてきた頃に、人里の隅にある喫茶店、道草というところで幼馴染の永井 次冠と話していた。
私はなんとなく、この結界についてのことをいろはさんから聞いていた。ずっと、平和が続く幻想郷。それが霊夢さんの願い、祈り。それにはある1つの問題点があった。
ずっと平和が続く幻想郷、というのはずっと、つまり永遠に平和であるということ。なら、霊夢さんはどうやってその永遠を見るのだろうか。
もし、結界内の時間を止めるピンみたいなのがいれば、それも一応破壊しておきたい。
「いやいや、結構重要な話なんだよ?」
「そうには聞こえねーんだよ。まあ、俺からしたら、永遠ってのは別にいいんじゃないか? ずっと好きな人と一緒にいたい、この時間が永遠に続いてほしい、そう願った奴にはとっても嬉しい言葉なんじゃないか」
確かに、次冠はそういう人間なのかもしれない。
そういう精神を持つ人間だからこそ、ピン留めには相応しかったのかもしれない。
幼馴染だけれども、私は本来の幻想郷の姿というものを見ておきたい。例えそれが不可能なことであっても、いろはさんが愛し、守った幻想郷の姿を見てみたい。
「やっぱり、そうなんだよね。次冠ってさ」
「? お前、さっきから何言ってんだ?」
もう、ここからはこちらのターンだ。
次冠に手綱を握られてしまった時点でこちらの負けだ。
「次冠、先に言うね。さよなら」
「は?! お前何言ってんだよ! 今から死ぬような言い方しやがってよ!」
「死ぬ、か。多分次冠とか他の人にとっては死ぬことはないんだと思うよ。私みたいな変な存在じゃない限りは」
「お前はお前だろうが! 変な存在じゃないだろうが!」
テーブルの上に置かれていたミルクティーとコーヒーが大きな波を立てる。その振動は外には漏らさない。
こういう時に使うことが出来る、いろはさんの能力、「波を鎮める程度の能力」。
本来ならば、こんな使い方ではないのだろうが。
「お前がどんな状態に陥ってるのか知らねえがよ、俺はお前のことを思ってんだよ! だから、話せよ」
ああ、やっぱり、ピン留めであったとしても、私が長い時間を共に過ごした幼馴染、永井 次冠だったのだ。
だから、壊したくない。あくまで今回、いや、これからずっと先まで彼と会うことはない。
「ごめんね、次冠。何があるのかは次冠には話せない。それに、これは誰にも話すことができないことなんだよ」
「なら、俺だけに話せ」
「それも無理。信頼していないっていうわけじゃなくて、もう、引き返せないし立ち止まることもできない。だったら、私は進む道を選んで行く。もう、他の運命に繋がる道は閉ざされたんだ」
「どういう、こと、なんだよ……」
次冠は涙を流し始めた。
彼と一緒にいた時間はあまりにも長い。私にだって、次冠とお別れしたくない。だから、せめてこういう風にお話をしている。
「次冠、ごめんね」
「謝るなら……、説明してくれよ……。なら、まだ諦めがつくっていうのによ……」
「次冠」
「なんだよ」
呼び声に反応し、次冠は顔を上げる。
どんなに頑張って踏ん張っていたとしても、子供の精神。今すぐにでも、崩れそうな表情をしていた。
「なんだって言って…?!」
私は次冠の唇に唇を重ねた。
喫茶店内には、暇すぎてお会計を支払うところで寝ている人しかいない。
静寂が流れる。静かに、閑かに。
「それじゃあ、ばいばい、さようなら。次冠。会うことはもう、ないよ」