私はずっと、人だと思っていた。妖怪のほんの一側面の力を扱うことが出来る程度の、普通の人間。
最近はそんなことを思わない。つい最近、彩葉と出会ってから私は私ではないことにようやく気がついた。彼女が私に教えてくれたのではない。私がその事実に目を背け続けていた。
私はお母さんの子どもでもないし、紫が外の世界から拾ってきた捨て子なんかでもない。
ある結界を作り上げた時に発生した概念。
そんなことに、私は気付いたときには私は半妖怪として成っていた。
こんなことが、紫が望んだ妖怪と人間の架け橋だったのだろうか。博麗の巫女として、博麗の巫女に退治されることが紫にとって、理想だったのだろうか。いや、そんなことはない。決してない。私は断言出来る。何年も紫と過ごしていない。
何が紫にとって理想だったのか。私に向けた表情を一つ一つを思い出す。
私に修行をさせるとき、お母さんや私を叱るとき、藍と接するとき、何一つ、紫はあの鉄のような笑顔を崩したことはない。時々、無表情というか固まったり真顔になったりするときはあっても、太陽を見ているかのように笑っていた。
そんな紫が陰りを見せたことは、
「……?」
1つだけ、そう、たった1つだけ。
私が一度だけ、紫に私にとっては先々代の、お母さんにとっては先代の話を聞こうとした時、彼女は陰を見せた。その時言った言葉は。
「彼女は、本当に美しい人だったわ、だったっけ……」
紫はもしかして、お母さんを死なせたくないの?
そんなことを予想していたとしても、ただの暇潰しにしかならない。時間は有限なのだ。
私が今、何をするべきなのか。私が生まれた原因が人として許されない行動だとしても、今の私は博麗の巫女。この幻想郷に守るために働く。私はこの幻想郷を守るために生まれたんだ。
___________
「霖之助さん、いる?」
「おや、霊夢じゃないか。どうしたんだい? 桜花を連れていないところを見るに、私的な用事かね?」
博麗 霊夢は香霖堂にいた。
理由は一つ。香霖堂の店主、森近 霖之助の種族について詳しく知るため。ひいては博麗 桜花を守るため。
「単刀直入に質問するわ。霖之助さんは半人半妖であっているのよね?」
「その辺りは周知の事実だ。単刀直入ではないじゃないか。君はもう少し」
「そんな説教を聞くためにここに来たんじゃないの。ただ単なる確認よ。ここからが本来の質問。霖之助さん、あなたはその半妖を暴走させたことっていうのはあるのかしら?」
雨が降り、どんよりとした空気が漂う。香霖堂にもその空気は伝わっているのだろうか、緊張の糸が張り詰めたように静寂が流れていた。
「なんとも懐かしい話になるね。確か霧雨の親父さんに修行に行くよりも遥か昔の話だ。それでも、大丈夫かい?」
「うん、私の認識では人と妖怪は交わることはない、交わってはいけないもの。なのに霖之助さんは半人半妖。どういうことなのかも教えてほしいの」
「そのことは僕にも分からない。予測だけでもいいのなら、僕はおそらく、誰かに配合された存在なんだ。それが誰かまでは予測出来ないけれどね」