『無音』   作:閏 冬月

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最終小節 あなたは今、幸せですか? 後編

全て消滅した幻想郷の中に、一つだけ存在するものがあった。

それは、空音の音だった。

そして、それに近付く気配が一つ。

その気配が空音の音に触れた瞬間、存在を現した。

それ、彼女は空音いろはだった。

 

「本当だったんだ……」

 

彼女自身も大きく驚いているようだ。

空音の音というのは、先代の博麗の巫女ととある駄神が共同で特別な結界を張ったものだ。

その結界のおかげで、幻想郷が消滅しても空音の音なんとか存在していた理由である。そして、空音の一族はそれを代々、受け継ぐ義務がある。

 

現在、八雲紫はどこにいるのかはわからない。

どうすれば、幻想郷を再建することができるかなんてものは誰も知らない。

 

 

 

 

けれど、なんだかお母さんから聞いたことがある。

空音の一族は、ちょっとしたことをしないといけない。

そのときはいつ来るかは知らない。けど、必ずやってくる。

 

確か、お母さんはこう言った。

 

もし、そのときが来たら、まず空音の音に書かれてある五線譜を全て、ビリビリに破く。

そして、どんな方法でもいいから、空音の音にある音を全ての音を奏でて。

と。

 

私はその言葉のまま、空音の音を勢いよく破いた。

すると、頭の中で一気に音楽が流れ始めた。

正直なところ、頭がパンクしそうだ。それに、この中から、1つの曲を見つけることがとても難しそうだ。

しかし、この幻想郷は私にしか救うことが出来ない。

それならば、やらないわけにはいかない。

どれだけ難しかろうが、みんなを救う手段があるのならば、私は命でもなんでも、私の全てを賭ける。

 

まず、この状態でも、音を出すことができるか確認。

声と口笛なら大丈夫そうだ。

そして、持ち前の絶対音感で一連の曲を見つけ出す。

そこからは私しか出来ないことだ。

 

一番最初に見つけた音を口笛で奏で始める。

そうすると、なんとなくだが幻想郷の輪郭が見えてきた。

私のご先祖様は、幻想郷が消滅した時に再建することが出来る音を創っていたのか。そう考えると、ご先祖様には頭が上がらない。

奏で始めてから、少しの時間が経った頃、ある言葉が頭の中に浮かんだ。

あの時の白昼夢とでも言うべき、夢の中で言われた言葉。

 

『近々、君の役目を嫌という程、思い知らされる時が来るよ』

 

これが私の役目なんだろうか。

私は今になって、あの夢の内容を全て思い出した。

 

(ほんっと、嫌だって思うほど、思い知らされてるよ……!)

 

 

 

 

 

___________

 

 

 

 

全部の空音の音を奏で終わった。

我ながらよく頑張ったと褒めてやりたい。

 

私は極度の疲労で倒れていた。

博麗神社の境内のど真ん中でだ。

これは霊夢に怒られるだろう。

もし、この状態で能力を使えと言われて、使ったとしたら多分私は死ぬ。そんなことは絶対にしたくないけれど。

 

視界の端に紅白の姿が見えた。

見間違えようがない。霊夢だ。

なんて言われようとも、怒られようとも、甘んじて受け入れること心の中で決心した。

 

「大丈夫ですか!?」

 

え……?

 

「なんで霊夢…そんな他人行儀な態度にとるの?」

「いや、初対面の人には行儀よくしないと」

 

もしかしなくとも、私の存在が無くなっているのだろうか?

そこでやっと気づいた。

私の音をまだ奏でていないんだ。私は、まだ存在していないのだ。

 

私の音というのは、私のこれまでを詰めて、私の心、記憶、感情を込めた『無い』音。

ねえ、みんな、聞いてくれる?

ねえ、幻想郷、あなたも聞いてくれる?

 

私はそっと左胸に右腕を当てた。

これってスペルカードと言っていいのかよく分からない。私は、弾幕勝負なんて物騒なこと、やったことがないから。それでも、私はこれをスペルカードとして扱おう。

たった1つの私だけのスペルカード。

 

それでは聴いて下さい。

 

「スペルカード 音符 『無音』」

 

空音 いろは唯一のスペルカードが生み出したのは、弾幕ではなく、正真正銘の空音 いろは、最期の演奏だった。

5分23秒。

その中には、空音いろはの人生が詰まっていた。

音が聴こえず、絶望にも似た日々、霊夢や魔理沙との楽しい日々、『無音』奏でた時の感情、その他にもたくさんの彼女が紡いできた物語が短い時間で奏でられていた。

 

そして、最後の彼女の小さな問い。

 

あなたは今、幸せですか?

 

 

 

 

「ごめん!忘れてた!」

「…………」

 

頬に涙が零れてきた。

 

大丈夫。私は貴女、霊夢や魔理沙、みんなと出逢えて本当に良かった。

最期にみんなに思い出してもらっただけで充分。

 

私は少しだけ、微笑んだ。

 

「やめてよ!いろは!逝かないで!」

「ごめん……。約束、破っちゃった」

 

約束、それは霊夢の前で、死なないこと。

 

「いろは!」

 

 

 

 

じゃあね。みんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一週間後、人里近くの命蓮寺にて空音いろはの葬式が行われた。

そこには、多くの人や妖怪たちが参列したという。

 

 

 

___________

 

 

 

 

その時、処刑人は呟いた。

 

「その魂、ここで朽ちるには早すぎる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、輪廻の輪は狂いだす。くるくると、狂狂と。

 

 




どうも、閏 冬月です。

番外編として、エゾ末様の
東方姉弟録 〜もし霊夢に弟がいたら〜
とのコラボになります。


次回もよろしくお願いします。
以上、閏 冬月からでした!
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