『無音』   作:閏 冬月

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第34小説 終序曲

処刑人は静かに告げる。

 

「刑罰、執行」

 

幻想郷に於ける死の化身。彼に畏怖を覚えないわけがない。それでも、博麗 霊夢は足を踏み出し、処刑人と博麗 桜花の間に割り入った。

 

「あんたに、桜花を殺させるわけないじゃない」

「この結界は幻想郷には不要。ついでに、そこの蒼月 空も」

「あんたには必要なくても! 私には必要なのよ! この世界、みんなが死なない、平和な世界が!」

 

表情のない処刑人は首を傾ける。死者がすぐそこに、1人出ているではないかと。しかし、言葉なくして博麗 霊夢には通じない。

 

「私が必要としているなら壊さなくてもいいでしょ!」

「目先の欲ばかり。個人ではなく、話しているのは全体。博麗の巫女、お前にとっての話ではない、幻想郷にとっての話だ」

 

このままでは埒があかないと感じたのか、処刑人は刀をすっと取り出す。しかし、博麗 霊夢はそれに物怖じしない。

 

「処刑するっていうんなら、私からしなさいよ」

 

やれやれといった感じで処刑人は首を振る。何も考えていない、要求は全て子どものようなものだ。相手にしている暇はない。

 

「お前が期待していることは一つも叶えられない。外の、本来の幻想郷は進みが止まっている。ここではお前は過去かもしれないが、外は今の者。処刑してしまえば、幻想郷の秩序は崩れる」

 

だから、と言いながら刀を振り回す。それはまるで、糸を切っているかのようだった。

 

「意識の断絶」

 

博麗 霊夢は、糸の切れた人形のように、ストンと地に伏せた。

博麗の巫女が表の面での秩序とするならば、処刑人は裏の面での秩序。汚れは処刑人が全て背負う。抗おうとしても、幻想郷は処刑人を味方する。

 

「ねえ、私を殺すの?」

「……ああ」

「なら、さ。彩葉も一緒に殺してほしいんだけど」

 

処刑人は刹那、考えたが返事はしない。

それが処刑人にとっての返答だった。

 

「その罪、背負ってやる。だから、楽になれ」

 

桜花はただ満足げに頷いて、目を閉じた。

 

「彩葉、すぐそっちに行くね。一緒に休もうね」

 

「禊」

 

その言葉とともに、処刑人は博麗 桜花と陽友 彩葉をこの世から消し去った。

博麗 桜花を処刑すれば、おそらく全てが終わる。

 

「あらら、桜花、死んじゃったのね」

 

中空に浮かび上がったのは、八雲 紫。紛い物ではなく、正真正銘、本物の八雲 紫である。

 

「紫、何をしに来た」

「あら、心外ね。私は私で仕事を果たしに来たのよ。貴方が何か計画していたのは知っていたのよ。けれども、私は手出しをしなかった」

 

八雲 紫は桜花を撫でながら、呟く。

 

「霊夢が言い出したときは驚いたわ。けど、異変を起こす覚悟でやるって言うなら、私も本気でやってあげることしかなかったの。こんなの、ただの言い訳になるわね。けど、この異変は絶対に誰かが解決すると思っていたわ。多分、この異変を見兼ねたこの子によって、とか考えていた。けれども、現実は貴方が全て仕組み、解決まで持っていったのね、禊」

「……。結果、空音 いろはが死ななければこの異変は起こっていなかった。空音 いろはにこの異変の尻拭い、贖罪をさせた。処刑人として、職務を果たしただけ」

 

そう、と八雲 紫は博麗 桜花と陽友 彩葉の頭を抱えた。

 

「彩葉っていうのね、貴女。桜花と霊夢を止めてくれて、ありがとう」

 

2人の頭を離すと、八雲 紫は大きく伸びをして、仕事を果たすことに決めた。左手で日傘を開き、右手の指で空中を弄る。

 

「さて、もうこの幻想郷は終わり。次回なんてものは、作らせないから」

 

その言葉を聞くと、処刑人は姿を消した。

幻想郷の裏の面へと、姿を眩ませた。






あと1小節、皆様、終わるまで響き続ける『無音』に、もう少しの間だけお付き合いくださいませ。
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