『無音』   作:閏 冬月

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最終小節 終奏曲 〜過去と今、そして繋がる未来

博麗 霊夢は目が醒めると、元の博麗神社にいた。縁側で寝転んでいるだけの、至って普通の博麗の巫女。

たった一つを除けば、先ほどまで、昼寝をしていたようにしか見えないだろう。

 

「桜花……、いろは……」

 

博麗 霊夢は、泣いていた。

あの結界内の記憶は、博麗 霊夢と八雲 紫、処刑人しか持っていない。いつまでも続くかと思われた、誰も死なず、平和が永遠に続くあの結界。彼女にとっては、心残りでしかない。

 

「おーい、霊夢ー! 遊びにきたぜ!」

 

陽気な声で、霧雨 魔理沙は普段通りに博麗神社へと来た。

魔理沙には当然、あの結界内の記憶はない。

 

「魔理沙……」

「ん、霊夢? 泣いてんのか?」

 

魔理沙は茶化すように笑うけれども、霊夢にとっては茶化してほしくないような内容である。霊夢は思わずキレそうになるが、グッとこらえる。魔理沙は知らない。それならば、あのことをなにも知らない者を怒るわけにはいかない。

 

「魔理沙、今から話すこと、信じて、誰にも話さないでくれる?」

「どういった内容なんだ?」

「私が、語られてはいけないような異変を起こしたって話」

 

んー、と悩む魔理沙だが、すぐに答えは出たようだ。

 

「いいぜ。私と霊夢の中でだけの、秘密の話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「そんなことが、あったのか。多分の範囲でしかないが、私もいろはと同じように、そうしたろうなぁ」

「そうだと思う。全て、私が責任を持ってやらなければならなかったこと。けれど、それを全部いろはに後始末までしてもらったの」

「そういや、そっちにはいろはがいたんだよな。こっちには来てねえのか?」

 

そう言いながら、魔理沙はキョロキョロといろはを探すが、見つからない。当然である。だって、

 

「いろは、こっちの幻想郷でも死んでるのに……」

「まあ、そうだよなぁ。あいつが亡くなってもう1ヶ月だろ? 私はさ、まだ信じられないんだよ。だから、その話を聞いたとき、お前が羨ましいと思ったよ、霊夢」

「……、まあ、思い出したくないんだけどね。いろはのことも、桜花のことも」

 

このまま、私を縛りつけるならいっそ、忘れたい。そう言いかけると、魔理沙は私の胸ぐらを掴んだ。

そして、怒る。

 

「お前がいろはも彩葉も桜花も忘れたら誰が3人を覚えているんだよ! 確かに桜花と彩葉は存在すべきではなかったかもしれない、けどいろはまで忘れたら、いろはの存在を否定するんだぞ!」

「あんたには分かんないでしょ! 大切な友達が2回も私の目の前で死んだっていうときの私の感情なんか!」

 

そして、いつも通りの決闘方法、弾幕ごっこが始まった。

怒りをぶつけても、私たちはこの方法でしか決着をつけることが出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ま、負けた……」

「いつも通りの結果でしょ?」

 

それもそうだったなと、魔理沙は笑う。

その屈託のない笑顔はあの結界の中での魔理沙も一緒だったと思う。そこまで詳しくは覚えきれてはいないけれども。

 

「なあ、命蓮寺にあるいろはの墓に結界内では行ったのか?」

「そういや行ってないわね。多分、いろはがきっかけになったっていうのと、いろはへの罪悪感があったからかしら。もしくはいろはの死を認めたくなかったとか」

「それなら、一緒に行こうぜ。そこでお前の過ごした結界内での20年をいろはに聞かせてやれよ」

「それもそうね。神仏習合で少し嫌な気もあるけど」

 

よっこらせっと2人で言いながら、いろはの墓へと向かう。

いろはの墓だけは、命蓮寺ではない。そこの土地の名前は博麗神社。私が責任を持って、管理するために白蓮に頼んだのだ。

1ヶ月も放置していてごめんね、いろは。これから毎日、欠かさず行くから。彩葉ちゃんのことも、桜花のことも、あのときの全部いろはに伝えるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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無音奏者と呼ばれた、空音 いろはの墓の周囲はやけに静かである。

しかし、皆が退屈するような静けさではない。聞き惚れるような、それはどこまでも、ずっとずっと続く、1つの音色のような無音。

あなたには、この想いが届くだろうか。

 

いいや、届かせるんだ。ずっとずっと、先まで。

だから、彼女は奏で続ける。

私は幸せだったと。あなたに出会えて、私は幸せだったと。

 

 

さあ、今日も休むことなく、未来永劫、奏で続けよう。

 

 

 

 

 

 

この想い、旋律に乗せて。

 

 

 

 

 

 




ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございました。

後語りをここでするのは野暮でしょう。
この物語が、1つの幻想郷であるように、私はそう願います。





参考文献

空音 いろは及び陽友 彩葉のものと思われる手記


制作協力

博麗神社 博麗の巫女
博麗 侑芽

香霖堂 店主
森近霖之助

八雲 紫

閏の名を冠する者



第十代目稗田家当主
稗田 伊礼

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