目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

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 ようやく次の話が書けました。
 日毎薄くなっていく内容に頭を悩ませている次第であります。


 なに? 主人公の出番もスタンドの出番もない? 逆に考えるんだ。「“ジョジョ”が絡めば何でもいいや」と考えるんだ……




第十四話:陀尾・ザ・ギャンブラー

 

 現在生徒会にいる役員は『会長』『書記』『庶務』、そしてオマケの客員が一人である。

 しかし本来役職は五つあり、現生徒会には未だ『副会長』と『会計』がいない状態だった。単純計算で生徒会という組織の四割が欠けている事になるだろうか。

 つまり何が言いたいかというと、その分のツケが現生徒会役員に回ってくるわけで。

 

「……人吉クン、俺生徒会やめちゃダメかなー?」

「あっはっは! 逃がしませんよー阿久根先輩☆」

 

 片しても片しても片付かない書類の山に囲まれ、善吉と高貴は既にグロッキーだった。そこらの人間より遥かに体力があるこの二人ですら沈むのだから、相当の仕事量だ。

 そんな善吉達の弱音を聞いて、同じく作業していためだかが一つ鼻を鳴らした。

 

「まったく、誇るべき箱庭学園生徒会執行部の男子役員が揃って弱音を吐いている場合か」

「……そうは言ってもよ、この量は異常だぜ。おかしいだろ、この山みてーな紙束はよー。人類が相手しちゃいけない量だって」

「くっ、認めたくはないですが……正直、彼と同意見ですね。投げ出すつもりはありませんが、流石にこれは予想以上ですよ」

「確かに楽ではないだろう。私とてここ最近の業務ラッシュには少々参っておる。

 しかし見ろ。奏丞など、既に貴様らと同じ量を片付け終えて悠々としているぞ」

「…………」

「「むっ……」」

 

 確かに奏丞はめだかに次ぐ速度で事に当たり、先程ついにノルマを果たした。そしてそれからは腕を組んで無言でこちらを見ているのだが、今の善吉達には苦しむ自分達を見ながら憎たらしくふんぞり返っている様にしか見えない。

 

「あーあー薄情な奴だぜまったく。仕事が終わったんならよー、少しぐらいは手伝ってくれても……」

「……いや、待つんだ人吉クン。なんだか様子が……」

「はい?」

 

 そう言われて、善吉は改めて奏丞を見てみる。そう言えば仕事を終えて以降、奏丞はあの姿のまま不自然に沈黙を保っていた。その表情はどこか哀しげで、しかし、満ち足りているかの様に穏やかで。

 さて、そんな奏丞をよくよく注視してみれば。

 

「こ……こいつ……死んでいる……!」

「おいいいい!? 決定的な何かが切れちゃってるじゃねェか!」

 

 二〇×□年 6月△日

 宇城奏丞 死亡

 

「戻ってこいオラァアアアアア!!」

「ごふっ…………ハッ!?」

「あ、危なかった……生徒会で死人が出る所だった……!」

「いやいや大袈裟過ぎるぞ貴様ら……」

 

 善吉のコークスクリュー・ブローによる心臓マッサージが効を奏し、奏丞は無事に現世に戻って来たようだ。

 

「善吉、俺……変な『夢』を見たぜ……。俺……夢の中で暗闇を歩いてるとよォー、光が見えて俺の死んだ兄貴に会ったんだ」

「生きてんならさっさと目ェ醒ませコラァ!! つーかお前の兄貴は生きとるわ!」

「……しかしめだかさん、どうにも部費に関する陳情が多いみたいですね」

「うむ。勧誘期間が終わり、部活動が本格化したのが理由だろうな。何をするにも先立つモノは必要という事か」

「元柔道部員として言うなら、部費は一円でも多いに越した事はないですからね。その気持ちはわかるんですが……」

 

 かといって増額できる予算枠は限られているし、数多く存在する箱庭学園の部活でそれを分け合っても、行き渡るのは雀の涙程度しかない。

 平等に部費を増額しても、陳情が止む事はないだろう。

 

「だったらよ、いっそのこと部活同士で勝負でもさせて、勝った所を優先的に増額してやりゃいいんじゃねーの」

「ほう、妙案だな。しかし奏丞、その場合ネックになるのは勝負の内容だぞ」

「そういえば俺が担当している業務の中に部活動対抗のリレー大会がありましたが……うーむ、それではやはり陸上部が圧倒的に有利になってしまうな」

 

 いい案が出ず考え込んでいる所、善吉がふと何かを思い出して、目安箱から一枚の紙を取り出す。

 

「それならこれが丁度いいんじゃねえか?」

「ん? それは……新たな投書か?」

「後で話そうと思ってたんだけど……『新設された50メートルプールがあまり活用されていないのがもったいないと思います。何かあれを使った学校行事を開くことができませんか』だと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「さあ貴様達、戦争の時間だ」

 

 ざわ……ざわ……

 

「働かざる者食うべからずと言うが、これは真理に反している。私達はむしろこう言うべきなのだ。

 『働いた者は食ってよい!』

 貴様達、欲しい部費(モノ)は勝って得よ!!」

 

 本日は日曜日。

 世間では勉学や仕事の疲れを癒し、明日から再び始まる闘いの為に英気を養う休息日であるが、今この場は「そんなの関係ねェ」と言わんばかりに闘いに挑んで来た猛者達で溢れ返っていた。

 ここはつい先日新設されたばかりの屋内プール。

 生徒会が企画した“箱庭学園部活動対抗水中運動会”開催の地である。

 

『ついに始まりました、部活動対抗水中運動会! 増額予算を賭けたこの恐ろしい大会を勝ち抜けるのは、一体どこなのでしょうか!?

 おっと申し遅れました、本大会実況は、わたし放送部部長代行阿蘇短冊が!

 解説は――』

『俺が解説で何が悪い。生徒会の嘱託役員、本部流の宇城だ』

『更に今回お呼びした特別ゲスト!』

『この世に知らぬことなし! 一文字流不知火ちゃんでーっす♪』

『が! お送りします!!』

 

 何故か放送席に座る事になった奏丞だった。

 

『宇城くんがこうしたイベントに出て来るのは本大会が初! 普段は裏方に回って手伝っているらしいのですが、その分他のお三方と比べると学生間の知名度は低いとか。かく言うわたしもこれが初見でして、ゴツい彼をくん付けで呼ぶ事に違和感しか感じません! しかしいい機会なので色々聞いちゃいましょう!

 宇城くんは一体どんな仕事をしているんでしょう?』

『仕事自体は庶務に近いな。会長を手伝う事もあれば書記の手伝いもする。目安箱にもいくつか関わっているけど、まあ強いて言うなら“雑用”って奴だな』

『なるほどー。

 更に聞いた所によれば、黒神めだか生徒会長と庶務の人吉くんとは幼馴染みだとか』

『そうだなぁ、かれこれ十年以上の付き合いになるかな』

『はー! そしてゲストの不知火さんはそんな宇城くんと人吉くんの大親友だとか!』

『おーっと、聞いちゃう? それ聞いちゃう? ふふふ、まあ二人とは長ーく深ーいお付き合いだからねー。二人の事ならなんでも聞いちゃいな!』

『ではではそのなれそめなど……』

『エットネー、中学までは別でー、この四月に初めて会ったんだけどー、人吉があたしが落とした消しゴム拾ってくれたの! んでその人吉が後で宇城を紹介してくれたってワケ』

『短っ! そして浅っ!』

 

 普段は生徒会メンバーの内の誰かが放送席に座ったり、あるいは進行を任されたりしているのだが、今回はその三人共が大会に出場してしまったので、放送席には奏丞が座る事になったのだ。

 しかしこの席、思いの外高い所にあり、広いプールの隅々までを見渡す事ができる。

 眼下に見下ろす生徒達がまるでゴミの様だ。

 

『どこかで黒い事を考えている人がいる気がしますが、とりあえず置いておきましょうか。

 さてお二方、本大会では数多くの部が参加しているわけですが……ズバリ! 優勝するのはどのチームとお考えでしょうか!?』

『普通に考えれば、水中が土俵の競泳部辺りが有利だろうな。水の中で身体を動かす事に慣れてるのはかなりの強みだろう。

 ……まあ、それにも付いて行けそうなのが一人、生徒会チームにもいるんだけど』

『ほほー、宇城くんの予想では競泳部、次いで生徒会執行部が優勝候補というわけですね。

 それでは不知火さんはどう見ますか?』

『あたしもそこが二強って事には賛成だねー。競泳部は言うまでもなく、生徒会長さんはチームにいるだけでアドバンテージみたいなもんだよ。ただーし! 解説ならちゃんと“ダークホース”の紹介もしてやんないと……ねー宇城♪』

『…………』

『ダッ、ダークホースですか……?』

『そっそ。いるんだよねー、そういうのが。

 “水中”が競泳部の土俵なら――あいつらの土俵は“勝負そのもの”!!』

 

 果たして、半袖の視線の先にいるのは……

 

 

 

 

 

 

 第一種目を目前に控えて、高貴は()()に気が付いた。一瞬呆気にとられ、視線を持ち主の顔に移した瞬間、顔つきが険しくなる。

 そんな高貴に気付き、同じくそれを見つけた善吉も思わず眉をひそめる。

 

「ちょっと、いいですか?」

 

 高貴が話しかけた男子生徒。このチームは……この男は。

 

陀尾(だび)先輩」

 

 我らが主人公、宇城奏丞が所属する『賭博部』の部長だ。

 

「これはこれは、生徒会書記の阿久根くんじゃあないですか。何の用ですかね……」

「何の用かって? 決まっています! あなた達二人が着ている水着ッ! 一体それは何なのですか!」

 

 高貴が指摘したのは、履いて来た水着だった。

 しかしただの水着ではない。

 デカかった。サイズなどまるで合っていない。膝下十センチはあるだろうか。厚手の布地はぶかぶかで、ウエストをヒモで括っていなければ容易く脱げ落ちてしまうだろう。

 三人チームにいる男子の二人共がそんな水着を着ているのだ。

 

「何と言われてもねェ……水着だとしか答えようがない。はて、何か問題でも?」

「俺が先輩方の事を知らないと思ったら大間違いです! 賭博部の陀尾兄弟! そして三羅(みら)さん!」

 

 ここ『箱庭学園』には『賭博部』という屈強男(タフ・ガイ)の血も凍る地獄の部活動があった。

 その内容とは部員達が何でもありの様々なギャンブルで互いに闘い、あるいは学園外での勝負に出向くわけだが。

 ギャンブルである以上、そこには賭け金(ベット)が関わるのだが、凄まじいのはその内容! 真剣勝負の上に互いに金や価値のある物を賭けており、勝った場合それを戦利品として持ち帰るというもの。

 お遊びのギャンブルならば大したことはないのだが、真剣(ガチ)度が上がるとそのイカサマ合戦で凄まじい騙し合いの地獄図! 一戦一戦を相手を出し抜きながら戦わなければならない! ほとんどの新入部員はその過酷さのため、服ごと絞り取られて逃げ帰る……

 この『賭博部』に在籍しているのは現在五人しかいない!

 一年生の『彗星』宇城、『箱庭のアレキサンダー大王』大柳、二年生の『取り立て人』三羅、そして二年と三年生の『陀尾兄弟』がそうだ!

 そんな賭博部員が、いかにも何かを隠し持てそうな水着を着ている以上、イカサマを疑わずにはいられないというわけだッ!

 

「申し訳ありませんが、その水着の中身! 確認させていただきましょうッ!」

 

 周囲の騒めきが大きくなる。一部の女子生徒は鼻血を流し始める。

 だがしかし、それに対する返答は……

 

「断る」

「……やはり、あんた達は!」

「当然でしょう。ごらんなさい、少なくともわたし達は『ルール違反をしていない』」

「なんだって……」

「ルール上では水着の指定はなかった筈だが」

 

 確かにその通りだった。全校生徒へ事前に出した通達では水着を持参せよとは書いておいたが、どんな水着にしろ、とは書いていない。

 つまり、陀尾兄弟はルール違反はしていない。

 

「ならば何故そんな水着を着て来たんだ!」

「これは陀尾家に伝わる由緒正しい勝負パンツ……いや、勝負水着なのだよ。それを君は『怪しいから』という理由だけで、人の水着を剥いで下半身を調べようというのだ。この場の生徒達全員を調べるルールがあるというならまだしも、感情を優先して不平等にもわたし達だけを調べるとは……生徒会権限と言うにはあまりにも身勝手ではないかね?」

「ぐっ……!」

 

 痛い所を突かれたと、高貴は唸る。

 場所が場所なだけに、調査するにはそれ相応の理由が必要だ。勝負水着など明らかに嘘っぱちだろうが、本当に嘘なのかを調べる術はないし、確かに「怪しいから」で理由になるならば、他の生徒にもそれが言えてしまう。何もない様に見せかけて何かを仕込んでいるかもしれないのだ。『怪しい』ではないか。さっきから鼻血を垂らして挙動不審な女子生徒達など、かなり怪しい。

 しかし生徒全員の水着を確認するには時間的余裕がないし、イカサマの証拠がない以上、目の前の男達を裸にひん剥くだけの正当な理由がないのだ。

 だからと言ってこのまま見過ごす事もできない。賭博部が何らかのイカサマを仕掛ける事は確実! そう、コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実だ!

 そしてこの阿久根高貴の目が黒いうちは、この生徒会執行部主催の大会をイカサマで汚す事は許さないッ!

 

「いやいや陀尾先輩、頼みますよ。こちらとしても、そこらへんをハッキリさせとかないと安心してイベントを進められないんですよ」

 

 善吉も高貴の援護に回る。イカサマを許したくないのは善吉も同じだった。

 善吉はチラリとめだかを見たが、彼女は疑わしきは罰せずという性格。どうやらこの件には静観を決め込んだらしい。腕を組んでこちらを見ているだけだ。

 

「フゥ、これでは平行線だな。なら仕方がない……阿久根くん。第一種目の最高得点はいくらかな?」

「……二十ポイントですね」

「ならば、一人五ポイントだッ! わたしと弟を調べるならば、賭博部にプラス十ポイントをしてもらおうッ!」

「「なっ、なんだってェー!?」」

 

 プールサイドに激震が走った。

 あろう事か、賭博部は競技以外で点数を稼ごうというのだ!

 

「バ、バカな事を!? 言うに事欠いて点数をよこせだって!」

「ダダを捏ねているのはあなた方だ。わたし達が正々堂々と勝負しようとしている所に水を差して来るんだからなあ」

「どの口でッ……」

「調べるか! 調べないか! フフフ、どうです? つまんないけどスリルあるでしょう」

「あ、阿久根先輩……」

 

 相手がイカサマをしていると賭けたなら、調べればいい。ここまで場を引っ掻き回したのだ、不正を見つけてしまえば、二人を退場させる事もできる。

 イカサマをしていないと賭けたなら、調べなければいい。もしそうなら、彼らは正々堂々と大会に挑む事になる。一番丸く納まる形だろう。

 ポイントを賭ける事に生徒達から苦情が出る可能性もあるが、周囲を見れば高貴達に向けるのは総じて同情的な視線。彼らは生徒会の味方だ。

 めだかは変わらず静観を保っている。助けは期待できないだろう。そして賭けに負けても、恐らく高貴達を責めはしない。

 高貴は自分の判断でこのギャンブルに乗らなければならないのだ。

 葛藤の末、高貴が出した答えは。

 

「……いいでしょう。十ポイントを賭けて、あんた達を調べさせてもらうッ!」

「グッド!」

「阿久根先輩、勝算はあるんですか!?」

「……いや、悔しいが、ハッキリ言って『ない』! しかしもっとも避けなくてはいけないのは彼らのイカサマを放置する事だ。その内容によっては、彼らの独走を許す事にもなりかねない! それではこの大会の、延いては生徒会執行部の正統性も失われるだろう……」

「それは確かに……」

「イカサマがあったなら即決着。なかったとしても、正々堂々と闘うならば十ポイント差程度は埋めようもある。確認こそがもっともリスクが少ない選択なんだッ」

 

 それを聞く陀尾部長は不敵に笑っているだけだった。他の二人にも動揺は見られない。

 この余裕が不気味にも思えるが、しかしこれでイカサマの有無がわかれば高貴も安心できるのだ。

 降りるという選択肢など、ない。

 

「俺は陀尾先輩の方を調べる。人吉クン、キミは弟の方の陀尾くんを調べるんだ。決して不正を見逃すんじゃあないぞ」

「わかってます。阿久根先輩も気をつけてくださいね……」

「GO AHEAD! Mr.Akune! 早くしたまえッ! 日が暮れてしまうまで待つ気かね?」

「……まったく、挑発も程々にしてくださいよ。兄さん」

 

 不正の確認の為に、四人はロッカールームへ向かった。

 後には未だ騒めく生徒達が残された。

 

 

 

 

 

『ぜっ、前代未聞!! 賭博部、まさかの十ポイントをフライングゲット! これが賭博部流の闘い方というのでしょうか! 流石のわたしも驚きを禁じえません!』

『あひゃひゃひゃひゃ!!』

『ぐああ……』

 

 半袖は爆笑しているが、当然奏丞は笑えるわけもなく、頭を抱えるしかない。何かしでかすのではと警戒はしていたが、流石は天才ギャンブラー、つくづく予想斜め上を行く奴らだ。

 

『確かに不知火さんがダークホースと評するだけはありますね……宇城くんはどうしてあんな部に入ったんですか? いやほんとマジで』

『……良い悪いは置いといて、ああいう突飛な発想ができる所を学びたかったんだけどなぁ。ホント、いろんな意味でスゲー先輩達だよ……』

 

 奏丞にとっては格闘技系の部活動よりも参考になる事が多いのだが、金が絡むと途端に尊敬できなくなる部活仲間達だった。

 

『できれば宇城くんにはああなってほしくないですねぇ……おっと! ここで四人が戻って来たみたいですね!』

 

 

 

 

 

 

 高貴、善吉、そして陀尾兄弟がロッカールームから帰って来た。

 果たして不正は見つかったのか? 生徒達は四人に注目するが……答えは言うまでもなかった。

 生徒会が変わらず険しい顔をしているのに対して、賭博部の余裕の表情は崩れていなかったのだ。

 陀尾部長が高貴に話しかける。

 

「さあ阿久根くん。君の口から言ってもらおうか! 『彼らは不正をしていませんでした。疑ったお詫びに十ポイントを差し上げます』とね!」

「ぐっ……!」

 

 悔しい。悔しいが、しかし二人の水着の中には何も仕込んでいなかった。それは事実であり、認めるしかない。加点は避けられないのだ。

 

「……不正はなかった。賭博部に、十ポイントを加点するっ……!」

「ククク……感謝するよ」

 

 悔しがる高貴とすれ違いざまに、陀尾部長が囁いた。

 

「イカサマをする。イカサマをしない。どちらも選べて初めてギャンブラーなのだよ……」

「……クソッ!」

 

 我慢できずに、ついに高貴は悪態を吐いた。

 ……さて、本当に陀尾兄弟はイカサマをしていなかったのだろうか?

 はっきりさせておこう!

 彼らは、間違いなく『イカサマをしていたッ』!

 

「(フフフ……そうそう気付く物ではあるまい。水着に仕込んであるこの()には!)」

 

 実はこの水着、布地の中に釣糸を仕込んでいるのだ。

 それが一体何の役に立つのか?

 例えば、この糸をキツく締めればぶかぶかの水着も身体にフィットさせる事ができる。水から受ける抵抗はこれで軽減、他の水着とのハンデはなくなる。

 例えば、裾の部分だけ糸を締めれば、この水着は巨大な『ポケット』と化す。プールで定番の塩素拾いの様な種目では物を集めるのが容易になるだろう。

 もちろん、戻す事はできないが、最終手段として糸を抜き取る事も可能だ。他チームの妨害もできるのだ。

 そして、この厚手の生地では上からなぞっても細い糸に気付く事は到底できないだろう。

 

「(リスクの少ない選択だと? この百戦錬磨の陀尾を相手になまっちょろい事を! 今貴様らは最悪の道を選んだのだ!

 すなわち! 『点数はとられ』『イカサマも見つけられない』という選択をな!)」

 

 しかも彼らのイカサマはこれだけではない。

 高貴達がカケラも疑問に思っていない物にも不正が隠れている。

 なんと――それはヘルパー!

 

「(貴様程度にはこれも見破れまい……このヘルパーに入っているのは空気ではないッ、満杯の『水』なのだッ!)」

 

 つまり、もはやそこには浮具としての機能は存在しないのだ! ハンデは無いも同然! 学園の物を配布したから不正などないという、正に心理的盲点を突いたイカサマと言えるだろう!

 

「(しかしこれだけでは終わらんぞ! ダメ押しの一発だ!)」

「待てっ!」

「(……かかったか!)」

 

 待ったをかけたのは善吉だった。

 突如叫んだ後輩に、高貴も目を丸くする。

 

「人吉クン? どうしたんだ一体……」

「すみませんが、試合開始はもう少し待ってもらいます。その前に話し合っておかなきゃならない事があるンですよ……三羅先輩」

「……なに?」

「アンタは……不正をしていますか?」

「!?」

 

 善吉が指したのは、なんと三羅。『一見何の変哲もない水着を着ている』三羅だった。

 さしもの高貴もこれには驚いた。

 

「人吉クン、それは……」

「阿久根先輩もよく考えてください。相手は()()賭博部……勝つ為ならサギもイカサマも何でもやる、あの賭博部だ! 部員全員が鍋島先輩にも匹敵するであろう奴らが、たった十点ぽっちリードしたくらいで後は正々堂々なんて、俺には信じられない! 奴らは勝てるだけの手を打って来ているハズですよ!」

「それはそうだが……!」

「それにミスリードは詐欺師の常套手段です。何もない様に見せかけて何かある……十分考えられる事です」

「ううっ……!?」

 

 善吉の心には、そして今正に高貴の心には、疑心暗鬼が生じていた。何かあるのではないか? 何かあるはずではないか? 疑う気持ちが二人の中に大きく渦巻いていた。

 それこそが、彼らの狙いと知らずに!

 

「ちょっと待ってほしい……今、あたしが何かしてるとでも? 部長達のイカサマを疑ったようだけど、あたしもそうだと? そもそもこの水着は学園指定の物よ」

「だからこそですよ。怪しい水着で注目を集めておいて、しかし本命は一見普通の水着の方だった……かもしれないでしょう」

「……つまり、まさかとは思うけど。『あたしの水着も確認したい』と。そういう事なのかしら? 女の子に『水着を脱げ』と、そういうワケなのかしら?」

「…………」

 

 そこが善吉にとってもネックだった。

 何せ相手は女子だ。一歩間違えれば……否、間違えなくてもセクハラ問題になってしまう。名誉ある生徒会執行部が手錠(ワッパ)をかけられるわけにはいかない。

 三羅を呼び止めたものの、打つ手が無く焦っていた善吉に……救いの手が差し伸べられた。

 

「男子である善吉達では不適切だろう。三羅二年生の確認は私がしよう」

「めだかちゃん!」

「…………」

 

 こればかりは分が悪いと思ったのか、満を持して、めだかが出て来た。

 

「世間一般では女子は男子に肌を晒す事に抵抗があるからな。ならばここは女同士で仲良く取り調べを行うべきだろう? 私なら気にしないが」

「めだかさん、自分が世間一般とは違う事は自覚してたんですね……」

「勝手に話を進めないでほしい。私がその取り調べとやらに応じるかどうかを」

「ほう。嫌か? 三羅二年生」

「嫌ね。私は例え女同士だろうと、人前で裸になるなんてゴメン」

「(そうだ、まずはゴネろ! 猜疑心を煽れ、三羅!)」

 

 三羅に疑いがかかる。これすらも陀尾にとっては計算通りだった。

 善吉の様に、人は疑心暗鬼に捕らわれている時、何もない物にも何かあるのではと疑わずにはいられない。散々場を引っ掻き回してエサを振り撒いたのだ。食い付かないわけがない。

 そして三羅がゴネればゴネるほど、その猜疑心はますます深まっていくのだ……もはや見て見ぬフリができなくなるほどに。

 だがその考え、実際はまったくの空回りなのだ。

 実の所、三羅に不正は何もない。

 

「(まさか男子に調べさせるわけもない。ならば女子である生徒会長が出て来る事は必至! そしてあの化け物ならばどんなイカサマを仕込んでも看破するだろう……奴をナメてはいけない)」

 

 だからこそ、三羅には何も仕込まなかったのだ。調べた所でイカサマなど出て来ない。

 しかし、この調子ならば必ず食い付く。『ポイント』が、幻想でできた空っぽのエサに……!

 

「(高すぎず、しかし少なすぎず。女子である事を利用して男子の三倍の得点、十五ポイントをここで狙う!)」

「まあ、確認はしたので脱ぐ必要はないが」

「……どういう事?」

「脱ぐ必要はないと言った。どうやら三羅二年生に不正はないようだ」

「!」

「なっ! 何ィ~~……」

 

 何でもない事の様に断言しためだかに善吉が詰め寄る。

 

「オイオイめだかちゃん、何でんな事見ただけでわかるんだ? いくら薄い水着だからって、相手は賭博部だぜ! こう、胸の所に隠してるとかさあ……」

「貴様はキャッツ・アイでも相手にしているのか? 疑いたくなる気持ちはわからんでもないが。だが安心しろ、三羅二年生の体格は見ればわかる。何かを隠せる様なスペースはあの水着にはない」

「見ればわかるって……」

「身長、肩幅、背筋、歩幅、重心……足音や跳ねる水の量も見ればおのずとわかる」

「そういやお前はそんな奴だったな……」

「流石めだかさん! 俺達にできない事を平然と言ってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ!」

 

 それに対し、賭博部にとっては冷や汗もんである。これが常人の言葉ならハッタリ(ブラフ)以外の何物でもないだろうが、しかし相手は今を時めく化け物生徒会長、めだかはできると言ったらできる奴なのだ。

 しかし幸運なのはめだかの化け物具合を試合前に再確認できた事だ。予想以上に危険な奴だったが、その分賭博部から慢心を取り除いてくれるだろう。全身全霊をそそいでゲームに挑めるというものだ。

 ……もっとも、彼らに次はなかったが。

 

「ふん、疑いが晴れたならもう用はないな。我々はこれで失礼する」

「待て。今度は私が貴様達を調べる」

「えッ!? し、調べるだとッ! 何を調べようと……!?」

「無論、貴様達の不正についてだ」

 

 めだか、まさかの二度目の捜査の宣言である。

 

「さっきは善吉達と賭けをしていたな。私も賭けていいぞ。十ポイントと言わず百ポイントでも優勝でも何でも賭けてやろう。調べる事に変わりはないからな」

「めだかさん! お言葉ですが、彼らは既に一度、俺達で調べていますよ!?」

「阿久根書記、貴様達を責めはしない。ただ相手が一枚上手だったという事だ」

 

 めだかはそう答えるやいなや、一瞬の内に陀尾兄弟に駆け寄り、風の様に二人の間を通り抜けた。

 

「ふむ、まあこんなものか」

「「!?」」

 

 めだかが両手の人差し指を見せつける様に揺らしている。そこには何かの布切れと、釣糸が垂れ下がっていた。

 

「「なにィーッ!!」」

 

 それらは紛れもなく陀尾兄弟の水着の一部だった。めだかがすれ違う一瞬で千切り取ったのだ。

 

「生地が分厚い理由はこの糸を隠す為だな。布の上から触っただけではなかなかわからん。水着の一部だと言われると不正とはとれんが……」

「そっ、そうだ! それは水着を締める為の糸! イカサマではない!」

「そうか。では次はヘルパーを出してもらおう」

「ゲーッ!?」

 

 陀尾の頭はショート寸前である。

 

「めだかちゃん、ヘルパーってどういう事だ?」

「自分や阿久根書記の物とよく見比べてみろ」

「?」

 

 何かあるのかと善吉と高貴はその言葉に従い、陀尾兄弟が着けているヘルパーと自分達のヘルパーを交互に見る。

 最初に気がついたのは高貴だ。

 

「はっ! そういえば透けて見える腕が、俺達のに比べて微妙に大きく見える!」

「……あっ、確かに!」

「見え方が違うという事は屈折率が違うという事。つまりあのヘルパーの中に詰まっているのは空気ではない。空気の屈折率を約1と考えれば、あの中身の屈折率は目算で約1.33といった所か。ちょうど水の屈折率に当たる」

「なんという事だ……これは確かな不正だぞ!」

「おのれ……」

 

 高貴は憤慨するが、同時に戦慄せずにはいられなかった。自分だけでは賭博部の策に完全にハマっていたのだ。イカサマを見逃した上にポイントまで持っていかれる所だった。

 人より優れているという自負はあったが、この箱庭学園において、自身は何と頼りない事か。

 

「わかってたんなら言ってくれりゃあ良かったのに……」

「今回の様な事が起きるのは今日だけではないぞ。貴様達は事あるごとに私を頼る気か? 生徒会執行部を名乗るならば、己の判断で最善策を見極められなければならん。今回は二人にとっていい教訓となっただろう」

「「……反省します」」

「うむ、精進せよ。

 ……それでは先輩方、覚悟はよろしいですね?」

「「ひっ……」」

 

 

 

 

 

 

 ひィえーーっ――

 

『い、いやー無事に(?)事が済んで良かったですねー。何故か生徒会長は嬉しそうにしてますけど……』

『肉体的、精神的に関わらず、めだかはああやって人と戦う事が大好きだからな。賭博部らしい陀尾先輩達の戦い方に感じるもんがあったんだろ』

『いやあ、前座に面白い物見れたねー。無敵の生徒会長様がいなけりゃダントツで優勝候補だったのに♪』

『一時はどこよりもリードしてましたけど、終わってみれば賭博部は試合前に負けてしまいましたねぇ』

『さて、それはどうかな!』

『え? どうかなって……賭博部はもう退場なのでは?』

『いいや! 正確には不正をしていた陀尾兄弟、二人が退場したんだよ。つまり三羅先輩はまだ残ってるってコト。そして賭博部には失格していない部員が二人いる!』

『……ええっ!? という事はつまり……』

『ふっふっふ……宇城ぃ。部長さんがかけた保険が働く時だよ♪』

 

 こいつは本当に頭が切れるな、と考えつつ、奏丞は先日の事を思い出す。

 この運動会の開催が発表された後、部室で作戦会議をしていた時の話だ。

 

 ――万が一わたし達が失格になった場合は、お前達一年生が三羅と共に試合に出ろ。

 

 三羅が失格にならなければ、出場部員は三人ピッタリ揃う。

 もちろん、部ごと失格になってしまう可能性はあったのだが、賭博部にとってはそれすら賭けの対象だ。しかもめだかの性格を分析すれば十分勝ち目のある賭け。

 その証拠に、放送席に座る奏丞に向かって――

 

「いい機会だ奏丞! 貴様も降りて来て戦え!」

 

 ニヤリと笑うめだかがいる。

 確かに今回勝利したのはめだかだろう。しかしここまでの展開を予測し、備えておいた賭博部も決して敗北はしていない。

 

『……こんな時こそあの言葉だな。“やれやれ”という奴だぜ』

『あひゃひゃ♪ イマドキのやれやれ系主人公気取ってないで早く行ってやりなよ!』

『ええっ、宇城くんには解説の仕事があったのに……頑張ってくださいね』

『どーも』

 

 波乱に富んだ部活動対抗水中運動会は、ようやく開幕の時を迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「アイツら、ウチより卑怯やない?」

「……賭博部の面々、だいぶ濃かったですね」

「なあ、俺達キャラというかインパクトというか……喰われてる?」

「待ちに待ってた競泳部の出番は!?」

 

 そんなものは残っていない。

 

 

 





 キャーミズノウエニタッテルー

奏丞「……いや待て、その理屈はおかしい」
善吉「どした?」
奏丞「ヘルパーの上に立ってるって事はよ」
善吉「うん」
奏丞「めだかの全体重をヘルパー一個で支えられてるって事だよな」
善吉「…………」
奏丞「俺達そんなヘルパーを二個も着けて潜ってんだけど」
善吉「……………………お前んとこのハチマキは?」
奏丞「答えろやコラァ。……鍋島先輩に持ってかれた」

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