めだかの察しが良すぎて謎の作り甲斐がない……と嘆きつつもそういえばジョジョキャラも超速理解が標準スキルなのでこれが普通です。
箱庭学園の片隅には四十年前まで使用されていた旧校舎が解体されることなく風雨に晒されていて、その崩壊寸前の廃墟は生徒間において『
そして現在、そんな旧校舎の管理人を勤めているのがめだかの実兄。すなわち、
「やあやあよく来てくれたねようこそだ。一年ぶりだぞ愛しの妹めだかちゃん!
勿論妹愛に溢れる僕にはお前の用件くらいわかりきっている。すぐにお兄ちゃんが全盛期
「「「…………」」」
そう言って爽やかな笑顔で奏丞たちを出迎えてくれた真黒。
しかし、その部屋の様子には三人ともドン引きしていた。
なにせ部屋中を埋め尽くしていたのは無数の黒神めだかグッズ! ポスター、ペナント、ぬいぐるみ、フィギュア等々……もちろんすべてお手製である。めだか本人ですらこれどこから撮った? と思う写真も盛り沢山。
それでもとにかく話を進めるため、善吉がヒソヒソ声でめだかの背を押す。
「(め、めだかちゃん! ほら笑顔笑顔!)」
「ご……ご無沙汰しておりますお兄様。挨拶が遅くなってしまったことをめだかは本当に申し訳なく思っております。でもお兄様も少しは実家にお顔を出されたらいかがですか? お父様もお母様も大変心を痛めてらっしゃいますよ?」
「お父様? お母様? そんな奴らは知らないね。お兄ちゃんにはただ二人、
「フンッ(ゲシャッ)」
「オゴッ、ゲウーッ!」
「一瞬! めだかちゃんが一瞬で簡単に乱神モードに!!」
めだかに抱き着いた真黒が条件反射的に殴り飛ばされつつも、いちいち真面目に取り合っていられないとばかりに、めだかと善吉は元フラスコ計画参加者である真黒からの情報収集とバージョンアップの修行について熱心に交渉し始めた。
しかし実のところ奏丞にはくじらからのタレコミのおかげでその辺りの事情が既知であり、修行にも興味はない。それ以上に一男子高校生としてもっと重要なことがあるのだ。
――さて、しばらくしてめだか達三人の話がまとまったところで。
「さあ二人とも、まずはコースを選択してくれ。Aコースはありとあらゆる苦痛を全身で経験する、悪魔も泣き叫ぶようなハードトレーニングでしかも効果と命を保証できない。Bコースは寝て起きたら最強になっている。さてどっちのコースがお望みだい?」
「「Aコース!」」
「そしてCコースは『お兄ちゃんと一緒に』寝て起きたら最強になって「「Aコースゥ!!」」あはは、超食い気味。
そしてそこで我関せずでめだかちゃんフィギュアを超ローアングルから写メってる奏丞くん!」
「えっ、お前話に入って来ないと思ったら何やって(ピロン♪)うおおおいテメー今なんのメール送ってきやがった?!」
「善吉が喜ぶかと思って。俺は本物見飽きたし。ヒヒヒ」
「笑い方が邪悪なんだよぉ! 俺だって散々見せられとるわ!」
「めだかちゃんの日頃の露出事情はさておき。奏丞くん、君はAコースだ」
「……!?」
「いや、写メのことは別にいいんだけど。君の場合追い込まれた状況での判断力が重要になるからラクな特訓は無しかなー。あと二人の特訓にも付き合ってネ♪」
「お、俺は
「ちなみにもう一つのオススメコースは十二時間のくじらちゃん談義をして最強になるDコースだよ」
「!!?」
そう言ってニッコリと笑う真黒。が、『逃がさないよ』という言外のオーラが見える見える。
「(なあめだかちゃん、確かくじらさんってお前の姉ちゃんのことだよな。俺も昔遊んでもらった覚えはあるんだけど、顔もなんとなくでしか思い出せねー)」
「(うむ。六年前に家出をしたが、居場所を知っていた奏丞が兄貴の依頼で同じ中学校に通っていたはずだ)」
「詮索しないと約束した以上、今もくじらちゃんの居場所を探るようなことはしていない。箱庭学園に来ていることは想像ついてるけどね。だが、くじらちゃんの魅力を語り合うことなら話は別! 一切の不義はない! なぜなら詮索してるわけじゃないから!」
真黒がポケットからリモコンを取り出しポチリとボタンを押すと、壁の一部がスライドし始めた。
その隠し部屋にあったのは……めだかと同じく部屋を覆いつくす程のくじらグッズ!
いっそ目も覆いたくなるような光景に三人は再度ドン引きである。
「僕の心におっ立つ三本柱は友情・努力・勝利じゃない。妹・妹・妹だ! 妹萌え! いつだってそれが僕の唯一の行動原理だ! くじらちゃんの魅力を思えば十二時間談義どころか今期の授業時間すら全部諦めてほしいくらいだね!」
「……悪いことは言わねーから、Aコースにしとけ? ダチのよしみで一緒に地獄巡りしようぜ。グヘヘ」
「……諦めて我々に付き合うのだな。楽な道を選ぶと貴様のためにならんが、今だけは楽な方を選ぶことを許そうではないか。ムフフ」
「チクショーイヤらしい笑い方しやがって! わかったよAコースで頼んますぅ!」
――特訓開始から十二時間後の午前六時。無事特訓を乗り越えためだかと善吉は
しかし、奏丞は
「どうやらスタンドの腕は鈍っていないようで安心したよ。おかげでめだかちゃんと善吉くんのトレーニングも捗った」
「キツ過ぎて死ぬかと思ったっスよ……」
「あの程度で死ぬようならくじらちゃんのことは任せられないと判断せざるを得ないね! まあちゃんと乗り越えた以上、無用な心配だったさ」
「いや別に任せてもらいたくはないっス」
「はっきり言うなあ君は……」
まあ実際、くじら(現・名瀬夭歌)自身しっかりしてるので誰かに任されるような器でもないだろう。助けが必要なら奏丞も力を貸すが、基本的にくじらは自分でなんとかできるタイプだ。
……と、ここはとぼけさせてもらおう。
「くじらちゃんについては根掘り葉掘り聞きたいところだけど、約束があるからねえ。廊下とかでバッタリ会えたら最高なんだけど」
「ん? でも真黒さん常に
「いや、授業中じゃなければあちこちうろついてみてるよ。ここにくじらちゃんが顔を出すことはまずないだろうからね! まあ、それでもあいにくまだ会えてないんだけど……」
「身体ボロボロなのに元気っすねー……」
今の真黒は原作と同様、フラスコ計画を抜けるために体内の臓器を一部失っている。
腎臓一個、左側の肺、心筋の二割、動脈五本、静脈三本、肝臓の半分、胃の四分の三……奏丞が治療を提案したこともあるが、真黒はフラスコ計画で色々と見られた代償としてこの結果を受け入れており、治療を断られている。
というか、原作の真黒がフラスコ計画に参加したのはくじらを探すためだった気もするが、生来の育成好きな性格が災いして結局参加してしまったのだろうと奏丞は想像していた。
「しかし
少なくともめだかは気が付いていただろう。隠し部屋にあった数々のくじらグッズの中に、明らかにくじらが成長した姿のグッズも混じっていたということに。六年前に家出して以来、家族には見せていないはずの姿が。
「さあ奏丞くん! 新しくくじらちゃんの素顔の写真は仕入れられたかな?!」
「今回はありますよ。はい、これっす」
「……ヴッ」
真黒が変な声を出して悶えている。
写真の内容は、くじらが普段の変装(頭部包帯グルグル巻きが変装と言えるかは置いておくとして)を解いた私服姿で、喫茶店ででかいパフェを食べているところだった。いつもの無表情で、カメラに向かってピースをしている。
ちなみになぜか、向かいの席で奏丞が同じパフェをスプーンで一緒につついている。
「の、脳が……! 破壊と再生が繰り返される……! 愛する妹が、むさ苦しい男連れ……オゴゴゴゴ!」
「毎回大変っすね」
「君が撮ってくる写真がツーショットばかりだからだろう……!?」
「いやまあそれはくじらの意趣返しというか……」
「(それ以外のジメッとした思惑も多分に含んでそうだよ?! 『兄貴わかってるよな?』って声が聞こえてきそうだよ!)」
実は真黒に渡す写真は毎回くじらに検閲されている。許可が出る条件はいくつかあり、例えば変装後の姿ではないことだとか、私服姿であるとか……奏丞も写真に写っているだとか。
「繰り返すが、僕は詮索しないと約束した! だから写真を見て『あーこの喫茶店は○○駅前にあるあそこかー』とか『窓ガラスにお団子髪のカメラマンが映ってるなー』とか『奏丞くんを横目で見る目が妖しくなーい?』とか気になることはいっぱいあるけども、詮索はしない! しないけれども! くじらちゃんの元気な姿を見るだけなら詮索じゃないからセーフ! ノーカウント! ノーカウントなんだ!」
「わ、わかりましたから……」
いい加減、真黒の脳も限界かもしれなかった。
「というか、いい加減くじらちゃんのことを君はどう考えているんだ! そこらへんなあなあにしてラブコメ続けようとするなら僕はモンスターと化して抗議するぞ!」
「ええ……善吉は?」
「今の彼はまだ漢を磨いている最中なので様子見だ!」
「善吉には甘くないっすか?!」
「君よりはまだ可愛げがあるからヨシッ!」
ひでぇ……と一瞬思った奏丞だが、妹狂いの真黒の言う『可愛げ』には(意味深)が付くので羨ましくもなかった。
「さあキリキリ話しなさい! くじらちゃんのことはどう思ってるんだ?!」
「えー……」
「大丈夫、聞いたからって君を拷問したり殺したりするようなことはしないから! するとしたらくじらちゃんの許可をもらってからにするから!」
「大丈夫の感覚がマフィア基準か……?」
話す内容次第で殺意を持たれる可能性は非常に高いので普通に危険だった。
「えー、まあ彼女はとてもクールでどんな時もどっしり構えていて、それでいて長い間ほっとくとピーピー言い始めちゃうようなさみしがりな一面もある可愛げのある人だと思います」
「そんな擬人化した冷蔵庫の人物像みたいな建前いらないから、もっとぶっちゃけてくれ! この際下ネタでもいいから! ほら、顔がいいとか胸が大きいとか!」
「アンタそれでいいのか?! 愛する妹なんだろ?!」
「くじらちゃんの魅力の一つとして肯定はできるから、そういう目で見る男の存在も納得はする! あとは僕の脳が絶えるまで耐えてみせる! さあ猥談しよう、思春期の男同士なんだからっ!」
「脳もブレーキも壊れつつあるなこの人……しゃーない、そこまで言うなら言いますが」
奏丞は一息おいて。
「まあ顔は良いっすよね。めっちゃ美人。あと胸はデカいし尻の形もイイのでビジュアルはばっちり。しかもめだか程じゃないにせよ結構見せつけてくるタイプ(原作ではめだかと真黒の脱ぎ癖とは相容れなかった気がするが、はて?)なんで普通にエッチっすね」
「ミ゜ッ」
「性格面でも面倒見はいいし行動力あるし気前も良いしで、スゲー頼りになる人だと思いますよ」
「ほ、ほう……じゃあ彼女になったら最高だろうね……?」
「彼女はなぁー……」
「え、そこで渋る?!」
「なんつーか、マッドサイエンティスト的に油断ならないタイプなんで、彼女になっても油断できなさそうな感じがちょっと……俺、付き合うなら油断できるタイプの子がいいなーと」
「…………」
何かの拍子に食べ物とかに薬品混ぜたりしそう……というか実際にされたことが多々あるので、最終的にはそんな感想になる。
それを聞いた真黒は絶句した後、頭を抱えた。
「(くじらちゃんがまさか『お友達でいましょう』と言われる側だとはこの真黒の目をもってしても見抜けなかった! 贅沢なこと言いやがってとは思うけど、くじらちゃんのちょっかいはかなり過激っぽいから彼の警戒心も否定はしにくい……! こうなったら急いでくじらちゃんと合流して作戦会議しないと色々と手遅れになるぞ……!)」
そんな時、奏丞の携帯電話に着信があった。どうやらめだかからの電話のようだ。
「めだかから電話が来たのでちょっと出ますね」
「君はめだかちゃんの方がいいのかい?!」
「なんの話だよもう!? ……もしもーし、都城先輩はどうだった?」
『うむ、結論としてはかなり良くない状況だ』
「なんだ、デートに遅刻したか?」
『遅刻はしなかったが、対応は遅きに失したというところだ。
都城三年生が言っていたが、フラスコ計画とは箱庭学園全校生徒を犠牲に完全な人間を作る計画らしく、昨日今日始まった話ではないようだ。わかったことはいまだ僅かだが、このような計画はもはや一日たりとて野放しにはできん!』
「なるほど、つまり?」
『今日中にフラスコ計画を叩き潰す! この後善吉と共に時計台に乗り込むつもりだから、貴様の力も貸してくれ』
「OKだ。妙な陰謀なんざパパっと終わらせよーぜ」
『話が早くて助かる。時計台視察のための許可証と授業免除申請を貴様の分もまとめて出しておくので、準備ができ次第生徒会室へ来てくれ』
「え、授業免除できんの? それなら頼んだ。んじゃまた後で」
奏丞は携帯電話をしまい、真黒に向き直る。
「じゃあ真黒さん、ちょっくらめだかたちと一緒にフラスコ計画を潰して来ますよ」
「うーん、流石めだかちゃん即断即決。迅速でなく拙速だったというオチじゃなきゃいいけど。まあ準備もせずに乗り込まないだけまだ成長が見えるかな」
「真黒さんはどうします?」
「そうだね、心配だし僕もあとから向かうよ。なんせ僕の知る限り、参加メンバーはどいつもこいつも曲者揃いだからね! いくら君とめだかちゃんがいるとはいえ、不測の事態は起き得る。妹と後輩を守るのも年長者の務めさ」
「これで妹狂いがなければもーちょい素直に尊敬できるのに……」
「おいおい、狂おしいほど愛しいと思う心は美しいものだろう?」
「発露の結果が
「うん、いってらっしゃい」
そう言って奏丞は
さて、準備といっても大してすることはない。日頃エニグマで紙にして持ち歩いている所持品のチェックを一通り終えたら、あとは精々トイレを済ませておくくらいだ。できれば仮眠の一つも取りたいが、まあ一晩寝ずにトレーニングしたくらいで倒れるほど、奏丞もヤワな鍛え方はしていない。
そう思っていたところへ、また奏丞の携帯電話が鳴り始めた。
「まためだかか? …………おっとコイツは」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ここは生徒会室。
投書でいっぱいになっていた目安箱を回収した善吉は、一人開封作業を始めていた。
「……こりゃひどいな。苦情にせよ陳情にせよ、ぜーんぶ十三組がらみの投書じゃねーか。まあこれまで不登校だった問題児たちが一斉に登校してきたんだから無理もないか。そんなに雲仙先輩の後釜が欲しいかねぇ」
「…………」
「おっ、来たかめだかちゃん。見てみろよ、目安箱にこんなに投書が……」
先生に視察のための交渉をしに行っていためだかに話しかけるが、善吉から見るとどうも表情が険しい感じがする。フラスコ計画の深刻さを憂慮しているのかと思ったが、職員室へ行く前はもっと闘志に溢れた顔をしていたはずだ。
「どうしたよ、そんな険しい顔して。まさか授業ほっぽり出すのはダメだったとかか?」
「む、よくわかったな善吉よ。部分的に正解だ」
「……え、マジかよ? ってか部分的に?」
「我々生徒会執行部の承認は得られた。しかし奏丞の分の承認は得られなかった、というのが100点だ」
「げっ、そうなのか。まあ俺たちは勝手に客員扱いしてるけど、実際生徒会執行部にそんな役職はないからな。事実上部外者だから特別扱いはないってことか……」
「いや、その理由はない。基本的に生徒の自主性を重んじるのが我が校の校風だ。生徒会執行部であろうとなかろうと関係なく、よほどの理由がない限り申請は許可するはずなのだ」
「……おい待てよ。それはつまり、『許可しない理由』があるってことか?! 先生はなんか言ってたか?!」
「『不知火理事長の指示』だそうだ」
「理事長……って、フラスコ計画の元締めじゃねーかよ! それなら話はわかったぜ。アイツが来たらフラスコ計画おじゃん確定だからビビッて嫌がらせしてんだな! カッ、みみっちいことしやがるぜ!」
「…………」
「まあアイツには関係ない話だな。阿久根先輩と喜界島はどうする? 誘っとかなくていーのか?」
「今回の任務には少なからず肉弾戦が含まれそうだからな。阿久根書記と喜界島会計には向くまいよ」
「ああ……まあ確かにそうだな。喜界島はこういうケースじゃ役に立たねーだろうし、阿久根先輩は
その時、めだかと善吉の携帯電話が同時に鳴った。どうやらメールを受信したようだ。
「誰だよこんな時に……」
「……当ててみようか。送り主は奏丞。内容は『待ち合わせには来られない』だ」
「なっ……」
慌てて善吉がメールを見ると、まさしく送り主は奏丞だった。宛先はもちろんめだかと善吉。
「『待ち合わせには間に合わない、すまん』……」
「ほう? それは
「なに言ってんだ、お前ドンピシャじゃねーかよ?!」
「いいや違うぞ。私はあやつが今回の件に
「……アイツ先生に止められたのか? そんなんで止まるタマじゃねえだろうけど」
「許可の有無自体は関係あるまい。そもそもあやつ、授業免除のことも知らずサボって来るつもりだったぞ」
「ああ、だからこそ嫌がらせにしかならねぇと思ったんだ。だけどそれだけなら状況は悪くも良くもなっていないんじゃないか?」
「そう急くな。順番に話していこう(がばっ)」
「ってなんで今服脱いだ?!」
「? 視察に相応しい服装に着替えたいからな」
「そういう意味じゃなくゥ!」
めだかは自身のロッカーに制服をしまいつつ、顔を赤らめた善吉に説明する。
「そもそも理事長が先生に働きかけた理由はなにか?」
「そんなもん、奏丞に来てほしくないからだろ?」
「その通り。まずそれがある。では、
「……理事長じゃないのか?」
「そこがおそらく違うのだ。今朝、都城三年生はこんなことを話していたな」
――宇城とかいうのもどうせそのうち関わるだろう。リベンジしたがっている奴もいることだし、アレの秘密を暴くのも面白い。
「ああ。都城並のヤツをシレッと倒してたって今更驚かねーけど……生徒の方はやる気満々てことか? なんか奏丞の扱いがチグハグだぜ」
「うむ。不知火理事長が奏丞を脅威と感じているのであれば、それを主要メンバーに周知していないのは奇妙に思える。それに都城三年生の口ぶりから、奏丞の戦闘スタイルはおそらくまだ知られていないだろう。どうせ秘密主義なあやつのことだ、戦った時の記録も残してはおるまい」
「……まさか昨日の昼休みにしでかしたっぽいのはそれか?」
「さてな。しかしだからこそ、不知火理事長が奏丞という脅威の大きさを把握していることは不自然なのだ。故に、不知火理事長はメッセンジャーでしかなく、奏丞の不参加を働きかけているのは別の人間だと予想できる」
「奏丞の実力をよく知っていて……しかもフラスコ計画のメンバーの戦力を比較できるくらい色々知ってる立場の奴ってことか」
「そして同僚にその情報を共有しておらん。どうにも個人的な意図のように感じる」
「……都城のヤロウ、あんだけ尊大にプレゼンしておいて結局一枚岩じゃねーじゃねェか」
めだかは様々な衣装をロッカーにしまい込んでいるが、その中から今回チョイスしたのは白衣の研究者姿だったようだ。
フラスコ計画が何かの研究っぽいから白衣なのか……? と善吉は思ったが、まあめだかにしては比較的大人しめの服装なのでとやかくは言うまい。
「加えて奏丞からのメールだ」
「? このメールが?」
「なりすまし、ということはあるまい。敵が打ったメールならばせめてもう少し危機感を煽るなり罠にかけるなりするだろう。となると奏丞本人のメールということになるが、内容が切羽詰まった様子ではない。一言謝罪を打つ余裕すらある。つまり、あやつは身動きできない状況ではないのだ」
「戦って負けたとかじゃない? ……まさか人質でも取られてんのかアイツ?!」
「それもない」
「違うのかよ!」
「言っただろう、内容が切羽詰まっていない。あやつの能力を把握し、人質を取るほど悪辣な相手であれば第三者との連絡手段は真っ先に絶つ。
そもそも我々が今日動くのは私個人の判断によるのだ。私が『それなら予定が合う一週間後にしよう』と言い始めれば人質奪還のための時間ができてしまうし、奪還された後の報復も果たしてどうなることやら」
「ゲェーッ、バチギレしたアイツの反撃なんて想像もしたくねー! しかしそーなると、黒幕は説得してアイツを止めたってことかよ? 言っちゃあなんだが俺たちがピンチって時にアイツが来ない説得材料なんてあんのか?」
「さて、それこそ想像するしかないが、少なくともあやつに参戦を我慢させる交渉ができるほどには性格をよく知っているし、無下にはできん相手と見える」
「……そうなるとメール文の印象も変わってくるぜ。俺には『我慢できなくなったら参戦する』って感じに見えるな」
「ふふ、かもしれんな。そして、それならば申請を却下したところで奏丞の性格的に何の障害にもならないことはわかるだろう。だから根回しした意味も違う意味が見えてきそうだ」
「え、そうかぁ?」
「私の先入観も混じるが、こんな見方はどうかな? 『こっちに来るな、お前は授業でも受けていろ』ではなく、『授業を理由にこっちには来るな』」
「そりゃあ……まるで奏丞に来ない言い訳を与えてるみたいじゃねーか。気のせいか、気遣いみたいなものまで感じるぜ?」
「結論ありきの見方だがな」
「結論って、黒幕の正体がわかってんのか?!」
「さあ?」
「おいいい! 全部わかった感じで解説してたじゃねーか!」
「いやいや、あくまで現時点では予想でしかないというだけだよ」
髪を結い、眼鏡をスチャリとかけたできる研究者……のコスプレをしためだかは、白衣を翻して善吉に向き直った。
普段より露出は少ないけどなんかこういうのもいいな、と善吉はこっそり思う。
「さてこれまでのことをまとめよう。つまり今回の黒幕は『フラスコ計画の関係者であり』『奏丞が秘密にしているはずの能力を把握しており』『奏丞の性格をよく知っていて』『奏丞が無下にはできない』人物ということになる」
「そんなの、全部当てはまるのは真黒さんしかいねーぞ?! ……いや言っておいてなんだけど真黒さんじゃねーだろ? さっきの特訓、奏丞とも連携する前提での特訓だったぜ」
「私も同意見だ。というか、過保護の兄貴ならむしろ必ず参戦させようとするだろうな」
「おいおい、じゃあ誰なんだよ。結局新キャラの仕業ってんならもう腹いっぱいだぞ……」
「安心しろ、新キャラでもなければぽっと出のキャラでもない。それどころか我々にとってはレギュラーキャラとすら言える」
「めだかちゃんだって全部該当する奴は知らないんだろ?」
「全部はな。しかし、一つ目以外が該当する人物ならば一人だけ! 私は思い浮かぶ顔がある」
「…………おい、まさか」
「そして、もし予想が当たっていたならばその人物は必然的に一つ目の条件も満たしていたということだ!」
ニィイイイッ、と好戦的に笑うめだかの感情の答えは、傍で何度も見て来た善吉にとってはサービス問題だ。それはつまり……『面白くなってきた!!』ということだった。
「いつになるやらとは思っていたが、まさかこのような劇的な再会ができるとは予想していなかった! いや、あの時理事長室で顔合わせが済んでいたのならば伏線はもう十分! ならばあとは感動のネタバレを味わいに行くぞ、善吉ッ!!」
「……へっ、わかったよ。そーいやここ最近、バトル面じゃアイツに頼っちまってるところがあって気になってたんだ。この程度、俺たちだけで対応できるってことを証明してやるか!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
めだかと善吉宛のメールが届く、少し前のこと。
奏丞は時計台の地下四階を一人訪れていた。
「…………」
「よう。頼んだ通り、誰にも見つからずに来てくれたな」
「すごー、監視カメラにもまったく映ってないじゃん。なんかもう妖怪じみてるね。妖怪神出鬼没マッチョマンじゃん」
「それは流石に勘弁してくれませんかね。そこのミイラみたいなのにそうしろって頼まれただけなんで……」
「じゃあ妖怪神出鬼没言いなりマッチョマン」
「足すなよ引けよ!」
「どーどー怒んな怒んな。まま、とりあえず座って聞いていきな。学生にとっては友達よりも大事な大事な授業が始まる前には話を終わらせてやるからよ!」
ニィイイイッ、と好戦的に笑う夭歌の感情の答えは、傍で何度も見て来た奏丞にとってはサービス問題だ。それはつまり……『手のひらで転がしてやるぜ!!』ということだった。
夭歌「不知火理事長、宇城奏丞の存在は黒神めだかの
袴「おやおや、あなたがそこまで彼を邪魔に感じているとは。わかりました、先生には伝えておきましょう。同じ中学校の後輩でも、案外あなたにとってはどうでもいい存在なのでしょうかね」
いたみ「(理事長見る目ないなぁ)」