原作レギュラーメンバーの内、この作品で一番出番がないのは喜界島もがなだけど、一番扱いが悪いのは阿久根高貴ですね間違いない。
オメェ『しまった!?』が多すぎんだよぉ!
とはいえ本作の話の流れは原作と大きくは変わらないですし原作崩壊なんてしてないですヨ?
ホントホント作者嘘ツカナイ。
善吉が地下二階で宗像形を降し、真黒と合流できた生徒会執行部は地下三階へと足を踏み入れていた。
地下一階は迷路、地下二階は日本庭園になっていたが、地下三階は。
「な、なんなんだここは……?!」
「……何って見ての通りここは
「……大人も子供も楽しめないけど、大人も子供も
善吉の驚愕に対馬兄弟が答えた。
なるほど、そこにある数々の遊具を見れば、ここをアスレチックと称するのもまあわかる。
剣山のような足場、天井からぶら下がるトゲだらけのロープ、床から飛び出した丸ノコにそこかしこへ転がる数多の銃弾、その他罠の数々……
「これがアスレチックって言えるかよ?!」
少なくとも、人間用のアスレチックとは到底思えない。
「地獄の鬼がSAS〇KEを又聞きして思いついたような場所だぜこりゃあ……」
「迷路だの日本庭園だのよりはまだ訓練施設として納得できるが……真黒さん、ここのことは?」
「僕の
「こ、こんな罠だらけのところを突破できる人がいるってこと?! しかも罠が発動済みってことは私たち以外にも乗り込んできた人がいるの?!」
「いーや違うね。破壊痕がそこかしこにある。どうにも隅々の遊具まで
真黒の目線の先でめだかは床にしゃがみこんでいる。
床にポツポツと開いているピンポン玉大の謎の穴に触れているようだ。
「なるほど、この穴からは火が出るしかけなのだろう。内側がまだ熱い。どうやら罠が動いたばかりのようだ」
「おっかねえ。針でも鉄砲でも火炎放射でもなんでもありかよ……」
「そうだ。それは裏を返せば『なんにでも対応できるように訓練している』ということでもある」
「……めだかちゃん」
「ああ、そうだなお兄様」
真黒とめだかが顔を見合わせ、ニヤリと笑い合った。
「……で、どーするよめだかちゃん。手分けしてフロアを探してみっか?」
「そうしよう。一般人……まあ使っているのはみな他の
――さて、手分けした結果、一人で探索することになった高貴。別にハブられたとかではなく、高貴ならば一人でも問題ないだろうとの判断の上である。
さっきから見ている限り、やはり罠は隅から隅まで作動した後の様子だ。
「しかしこの罠。仕掛ける方も仕掛ける方だが、挑む方も挑む方だな」
恐ろしい罠の数々ではあるが、一部の罠が破壊されているどころか、壊した罠を利用して他の罠を防御しているような痕跡すら見える。
罠の破壊すら攻略法の一つとして想定しており、まさになんでも有りがコンセプトと言えるだろう。
「これも研究の一環だとしたら、いったい何を想定してこんなフロアを……」
「そりゃあもちろん何でもしてくる相手を仮想敵にしてんだよ」
「!?」
声の方向に振り向くと、そこには顔を包帯でぐるぐる巻きにして隠した女子生徒が一人。右目の辺りにはどうなっているのか、大振りのナイフが一本刺さっている。
この奇抜なファッションは紛れもなく、名瀬夭歌だ。そして高貴は彼女のことを知っている。
「おおっと! 大きな声を立てねーでくれよ。俺はお前と二人きりで話してーんだからよ。
えーっと! どうだ? 自己紹介は必要か?」
「……いや、必要ないよ。きみのことなら知っているし憶えているよ。なにせ元クラスメイトだからね。
夭歌は一年前までは
そのおかげで、
「ハハ! 柔道界の王子様に憶えててもらえて光栄だな。だったらかったりー前置きは抜きだ。手っ取り早くいこう。高貴くん、俺と取引しようぜ」
「……取引?」
「ああそうだ取引だ。生徒会役員の中でお前が一番冷静そうだからな。
話は簡単だよ。お前はもう引き上げてくれねーか? 生徒会長殿と遊びたいってのに、邪魔な奴が多いんだ。どーせ生徒会の業務もほっぽり出して来てんだろ? 他の生徒達のためにもそこは手分けしろよ」
「……去年と別条のない勝手な言い分だね、名瀬さん。そして他の生徒のためというのは確かにごもっともだ。
だけど悪いが関知させてもらうよ。生徒会執行部唯一の上級生として、下級生達だけを危険な任務につかせるわけにはいかないからね! ……はっ!?」
その瞬間、高貴は真上から微かな音が聞こえ、その場を飛びのいた。
高貴の立っていた場所に何かが着地する。
「およ? 避けられちった」
その正体とは、天井に貼りついていた古賀いたみだった。
「ひゅううううう~! 真上からの不意打ちを避けるとかさっすが高貴くん!
けど、ま。一瞬気を逸らせりゃそれで十分なんだわ」
夭歌がリモコンを操作すると、高貴が来た道に非常用シャッターが降りる。
慌てて高貴が近づき蹴り飛ばしてみてもビクともしない。
「……なるほど。邪魔者は一人ずつ消していこうってハラか」
「おいおい消すなんて物騒な物言いすんなよ学友なのに。せっかくだからちょっと
でもまあこうして戦闘パートに入ったことだし、やっぱ自己紹介はしておいてやるよ」
夭歌の隣に立ったいたみが仮面ライダー一号の変身ポーズを取り、
「私は二年十三組『
同じく夭歌は仮面ライダー王蛇の変身ポーズを取った。
「二年十三組『
「「以後よろしく」」
「……ふっ、ならばお返しに俺も名乗らせてもらおう。二年十一組『柔道界のプリンス』阿久根高貴! ちなみに俺は仮面ライダー龍騎が好きさ」
「むー、阿久根くんも名瀬ちゃんと同じく平成ライダー派かぁ」
「古賀ちゃん仮面ライダー談義は今はいいから」
「……話は戻すけど
「おう、まあ遊びながら聞いてくれや」
「なんの「せりゃ!」ぐっ!?」
突然のいたみの拳も高貴は見事受け流してみせた。
その結果、拳は高貴ではなく、その背後にあるコンクリートの壁を粉砕する。
「おー、よく見切ったね! ならさらにもう一発!」
「な、なんだこの冗談みたいな破壊力は! 人に出せるパワーじゃないぞ!?
まさかこのフロアで訓練しているのは君か?!」
「まー古賀ちゃんは改造人間だからな。筋肉・骨組・神経から循環器・呼吸器・消化器系に至るまで、古賀ちゃんのエロいボディに人の手が入ってねえ場所はねえのさ!」
「か、改造人間だって?!」
「ちなみに『
まあ今の成長した高千穂先輩と戦ったらどーなるかわからねーけど」
「今となってはあの罠もウォーミングアップにしかならないし、私もちゃんと
必死になっていたみの攻撃を捌く高貴とは対照的に、夭歌は実に落ち着いた様子で話す。
「まあそれはおいといてだ。俺がお前で
「アッ、アイツ!? 誰のことだ!? 「ほらほらほら~!」……くっ」
「だがよー、高千穂先輩を見て思ったわけだ。先輩も黒神めだかも人吉善吉も。そして俺と古賀ちゃんも。アイツと関係が深かったりバトルしたヤツは何かが違う。
じゃあそれは何か? 気になるのはそこだ」
「まさか……宇城クンのことか?!」
「おっとスキあり!」
「……甘い!」
いたみの攻撃を躱し、高貴が背後から組み付く。
柔道における寝技、裸締めだ。
相手を壊す心配がないこういった非破壊技を高貴は好んで使う。
「おおー。まさか古賀ちゃんに真正面から真背面に組み付ける人間がこの世にいるとはね。実に予想外だ」
「ふふ……! この俺の柔道をナメてもらっちゃ困るよ!」
「なに得意げにしてんだ。
「なっ……ぐあっ?!」
人体ならばありえない方向にいたみの腕の関節が曲がり、高貴の首を掴んだのだ。いたみを拘束していた腕も凄まじい力で引きはがされる。
「絞め殺す気がねーなら寝技なんか使うなや。
完全に組み付きから脱したいたみは、掴んだ高貴をそのまま壁に投げつけた。
高貴は壁に対して受け身を取ったが、あまりの勢いにダメージを殺し切れない。
「(グッ、人をボールみたいに簡単に放り投げるなよ……!)」
「名瀬ちゃん名瀬ちゃん。なんか彼って……」
「うーん、もうちょっと様子見てみっか」
「いってて……作戦会議かい?」
「まーな。んじゃ横やりが来ない今のうちにステージ変更しておくか」
「今度は何を……」
「とうっ! ライダーキーック!!」
「!?」
いたみが天井まで飛び上がり、そのまま天井を蹴った勢いで高貴に飛び蹴りをした。
高貴は回避できたものの、蹴りを受けた床はあまりの威力に崩落する。
当然、崩落には高貴も夭歌も巻き込まれた。
「コ、コンクリの床が!? この子滅茶苦茶だ!」
「やれやれ床をぶち抜いて場面転換なんて往年の特撮番組みたいだぜ。
つーか頭脳労働専門の森ガールな俺はこのまま落ちたら頭打って死んじまうんだけど…………なっとぉ!」
地下四階に落ちてくるも、下にあったベッドに落ちたおかげで夭歌は無事だった。でんぐり返しし損ねたような体勢で落ちたせいでパンツ丸出しになっているが。高貴は当然のように体一つで受け身を取り、無傷である。
高貴は趣の変わった周囲を見回した。ここはどうやら多くの医療用ベッドや医療器材、薬品棚等がズラリと並んでいるフロアのようだ。
「ぐっ……ここは……手術室? 地下四階は病院なのか……?」
「似たようなもんだがしかしちげーよ高貴くん。
「…………」
「…………パンツ見んなよ」
「あ、ごめん……相変わらず残念な運動神経だね名瀬さん。元
「ほっとけ。
「にひひ、ライダージャーンプ!」
「うおあっ!?」
床を拳でぶち抜き、姿が見えなかったいたみが飛び出て来る。
そのまま天井に着
「にゃはは! 勢いあまって地下六階まで行っちゃった! お待たせ阿久根くん!」
「て、天井に立ってる?! なにかのトリックか!?」
「単に足の握力で天井掴んでるだけだよーん。私がさっき上から奇襲した時も天井に立ってたんだよ?」
「この異常さ……もはや高千穂先輩や宗像先輩がかわいく見えてくるな……!」
「むっ、女の子に対して失礼な! くらえお仕置きのライダーキックー!」
「やれやれ本当に
そう言って高貴が迎え撃つ。
空中に飛び上がり、いたみに組み付いた高貴はそのまま蹴り足をボキンとへし折った!
「い~~~~~~ッ!?」
「膝十字固めっ、それも空中で! やるなぁおい、実に技巧派だな!」
いたみが倒れ、激痛に悶えている姿を高貴はきまりが悪そうに見ている。
「しかし残酷だね高貴くん。古賀ちゃんが改造人間だと見るや締め技から関節技に切り替えて躊躇なく破壊かよ。さすがは旧破壊臣って手際だぜ。
そーいや拒絶の扉をぶっ壊したのもお前なんだっけ? 改心したっつー割に結局お前あっちこっち壊しまくりじゃん。俺が思ってるほど黒神はお前を変えてねーのかな?」
「……いいや、確かに俺は変わったよ。昔は人間を壊せばスカッとしたもんだけどね、今はただただ気分が悪いよ。
ほら! そんな離れたところで格好つけてないでさっさと治療「
「ライダーチョーップ!!」
「がっ……ぐああっ!?」
激痛でうずくまっていたはずのいたみが、高貴の背後から肩にチョップを放ったのだ。
「……
「な……馬鹿な、なぜ立ってる?! 確実に足の骨が折れたはず……!」
「改造人間古賀ちゃんは複雑骨折程度なら十秒もありゃ治るんだよ」
「じゅっ……十秒!? 十秒だって?! めだかさんの回復力も相当に常識外れだがその数字は次元が違うぞ!」
「いやそこは別に重要じゃないんだよ。高貴くんお前、足一本折った程度でなんで目を離した?」
「うーん、もしかして私が足一本折れたら戦意喪失すると思った? 痛いの恐いから降参ーって言うと思った?」
「!?」
愕然とする。高貴自身、考えもしなかった思考だ。
「黒神めだかなら敵は最後まで抗ってくると信じて目を逸らさない。高千穂先輩も相手が自分を上回ることを認めた上で、更にその上を行くべく全力で戦った。人吉善吉ですら、
「…………ッ?!」
「よぉ~くわかったぜ。お前は『破壊者』としては一目置かれているが、『戦闘者』としては違う!
そうかそういうことか! 『破壊』と『戦い』の決定的な違い! アイツが及ぼす影響とは「そこまでだよ名瀬夭歌ちゃん」っ、誰だ!」
柱の陰から姿を現した人物は。
「なっ……真黒さん!? なぜ
「あはは! やだなあ阿久根くん。きみの仲間はきみを全面的に信頼している。阿久根くんには僕達の助けなんて邪魔になるだけだとわかっているとも!
だから閉じ込められたきみを置いてみんなで先に地下四階に降りてさ。手分けしてフロアを探索していたらたまたまこの場面に遭遇したんだよ」
「いや! 仮に信頼の結果だとしてもその行動は流石に冷たくないですか!?」
「そうは言っても、僕もめだかちゃんも
そう言って真黒は夭歌を見る。敵対者を見つめる顔とは思えない、穏やかな顔だ。
そういえば、高貴にはその表情に覚えがある。たしか妹のめだかを見つめる時にもこんな顔をしていたような……
「この日が来ることを何度夢見たことか。元気な姿を見られて本当に嬉しいよ、愛する妹くじらちゃん」
「……えっ、くじらちゃん? まさか真黒さんの妹でめだかさんの姉という、あのくじらさん?!」
「そうだよ間違いない。顔を隠したところで奏丞くんから貰った写真とあのフロアを見れば一目瞭然さ。
さあお兄ちゃんと再会の抱擁を交わそうじゃないか! さあさあさあ優しく抱きしめてあげるからお兄ちゃんの胸に飛び込んでおいで!!」
「(ええ……もしかしてお兄さん、想像以上にヤバいタイプの人? ねえ名瀬ちゃんどうするの?)」
「…………」
いたみに肘でつつかれた夭歌の回答は。
「…………くじら? 誰それ、俺名瀬夭歌だから。近寄らないでくれます見知らぬ変態の人」
「「えええええええ?!!」」
めっちゃ誤魔化した! 高貴もいたみも驚愕である。
「いやまあここで素直にハグするには近寄り難い変態性なのは確か! 迂闊に肯定できないのも納得はできる!」
「くぅ~! 身内がこんなに変態だったなんてかわいそう! 絶対に私が守ってあげるからね!」
「おや、もしかして僕の味方はいない感じ?」
さもありなん。
「ふふふまったく焦らせてくれるね悪い妹だなぁ! そういう素っ気ないところもまた可愛げがあって大好きだけどね!」
「いやホント気持ち悪いんで出て行ってくれ俺の半径百メートル以内に入ってくんな」
「……まああの物騒なアスレチックを見る限りでは僕より奏丞くんのことを理解しているわけではないようだけどね?」
「はあ? 俺の方がアイツのこと全部わかってるからすっこんでろトレーナー気取りのニワカ野郎」
「うーんこれは相当こじらせているな」
「名瀬ちゃん抑えて抑えて! 強火が漏れてるよ!?」
「な、なんだこの過剰なまでの対抗意識は?! まさか真黒さん、これはつまり……」
「そこは言わぬが花だよ阿久根くん」
夭歌は舌打ちを一つして、真黒から更に距離を取る。
「もういい古賀ちゃん。高貴くんと変態不審者、まとめてぶっ飛ばしてくれ」
「う、うんいいよ。ちょっと待っててね!」
「その子が君の自慢の友達かい? どうやら凄まじい改造を施したようだね」
「そうだよこれが俺の
「面白い! だったら高貴くんがその子に勝ったらその覆面を剥がしてもらうというのはどうかな?」
「……いいだろう。この覆面でもなんでも賭けてやろうじゃねーか。勝てるなんざありえねー話だがな」
「名瀬ちゃん……いいの?」
「いいよ。俺は古賀ちゃんを信じているからな」
「いや、しかし真黒さん――」
「
「ハッ!? 危なっ……」
「あっとまた奇襲失敗! 名瀬ちゃんの素顔がかかっちゃったからね! ちょっと本気でいくよ!」
「くそっ、俺はまた同じミスを……!」
真黒の声のおかげでいたみの攻撃を躱すことができたが、高貴には今のところ反撃の有効打がない。回復力では治らない脱臼を狙おうかと思ったが、足一本折っても闘志が衰えない相手が、脱臼程度で止まるだろうか。なんなら無理矢理骨をはめ直すくらいのことはやりそうだ。
「(さっきの阿久根くんへのチョップ。コンクリートも容易く粉砕する彼女の身体能力を考慮すると、あれで阿久根くんが真っ二つになるのが自然だった。しかし実際には『かなり痛い』で済んでいる。殺さないよう明らかに手加減されているね?)
……よし、僕も妹の素顔がかかっているし
「なっ、なんですって?!」
「……ふん、随分と懇切丁寧なアドバイスだな」
「独力で君たちを相手取るにはまだまだだからね」
全身脱臼というのはまだわかる。手足一本外したからといって、はめ直されたら元も子もない。つまり全身くまなく関節を外して物理的に身動きできない状態にするわけだ。
疲労というのも、言われてからピンと来た。足を折ったときの悲鳴。痛覚なんて改造で遮断すればよかったのに残している。きっとエネルギー切れになる前の危険信号として痛みを残しておく必要があったわけだ。おそらくこの超パワーの代償がエネルギーの消耗の激しさなのだろう。
だが、柔道を使ってはいけない? そうは言っても柔道を使わなければ弱点を突くことも……
「古賀ちゃん、
「りょーかい! それっ」
いたみが高貴に掴みかかった。
いかにも素人丸出しな姿で手を伸ばしてくるのを見て、高貴は
「あっ」
慣れ親しんだ柔道を使って。
真黒がやれやれと首を振る。
「ぎッ……いいいいっ~~~~~~?!」
「ッ……だっ、だがこうして抑え込んだ状態からなら他の部位の脱臼も!」
左肩が脱臼した痛々しい悲鳴を聞いて高貴が多少ひるむも、体勢を変えて別の技をしかけようとして。
「こ、これは?!」
身体がいたみから離れない。いたみの左腕を抑え込んでいた高貴の腹部が掴まれているのだ。
関節を外したはずの、いたみの左腕の手で!
「肩関節が外れたからってよォ~、拳が握れないわけじゃねーんだぜ。ただしメチャクチャ痛いだろうがね」
「い~~……ッたいけどォ! こんなものォッ!!」
「なっ!」
いたみが抑えられていない右腕を、コンクリートの床に突き刺した!
そのまま高貴も聞いたことがないような音で床をえぐりながら、背後にいる高貴に向き直るかのように身体を捻る。
「ごあっ?!」
潜っていた右拳はすぐに床から顔を出し、逃げられなかった高貴を脇腹から殴り飛ばした。
「ぐはっ……そんな、コンクリを寒天みたいに……!」
「そこの変態の言うことを聞いてなかったようだなァ。お前目ん玉付いてんのか? これまで何見てたんだ?
仮にラオウが女の子大になって北斗神拳使わなくなったとして、お前柔道で組み伏せられると思うのかよ」
「(肩が痛い……けどそれ以上にたとえが可愛くないよぅ……)」
「…………っ!」
「古賀ちゃんにしたらコンクリもゼリーも変わらねぇ! ゼリーの上で柔道できるようになってから出直してこいや!」
「……いやはや大したパワーだね。だがそれ以上に脱臼の痛みも承知の上で高貴くんの柔道を誘ったいたみちゃんの精神力も称賛するよ」
「いたたたた……と、当然! 腕が外れようが無くそうが、それすら利用して私は勝つよ!」
「な、なんていう精神力なんだ……! いやまさか、俺に足りないというのは!」
「『覚悟』だ!!」
夭歌が叫んだ。
「紙を『破る』時、紙に『破られる』心配をする奴はいねェ! だが人と戦う時は『負ける』可能性が常につきまとう!
翻って元破壊臣サマは相手を『
高貴が真っ青になりながら聞いているのを、真黒は気の毒そうに見ていた。
「だが、
『覚悟』だッ! 『覚悟』が必要なんだッ! 『覚悟』は!」
夭歌が息を吸い込んで。
「『絶望』を吹き飛ばすからだッ!!」
しかし真黒はここでようやく気付く。
「昔は歴史上の天才達が、不幸な境遇にあったから偉大な発見をできたと思っていた。
だが違う! 『覚悟』があったからできたんだ! 『覚悟』で不幸を吹き飛ばした! そして『覚悟した者』だから『幸福』だった!!」
ただこじらせているだけではない。その執着はまるで、妹に愛情を注ぐ真黒のように。万人に愛情を注ぐめだかのように。
「いいだろう! 気が変わったぜ! だったら
――奏丞くん、君絶対に責任取ってもらうからね!!?
超、こじらせていた……!!
奏丞「言うほど覚悟見せたことあるっけ?!」
善吉「お前が普段の組手ですら心臓止めて死んだふりするから気絶された程度じゃ油断できなくなっちまったぞ」
めだか「貴様が手足ふん縛っても質の悪い吸血鬼ばりに首だけでもあがいてくるから容赦できなくなったぞ」
奏丞「そうは言っても練習しとかないとぶっつけで行動できるか不安だし……」
善吉「バ、バカヤロウ! お前一人だけ想定してる戦いの世界観が違うんだよ!」
めだか「ええい何度言ってもわからん奴だ! 善吉、今日こそコヤツをとっちめるぞ!」