目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

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第二十四話:裏の六人

 

 

「――『記憶』は重要だ。自分が一体何者で、どんな能力があるのか。何が得意で何が不得意か。どんな経験をして、何を教訓としたのか。どんな目的を抱えていて、どこへ行きたいのか。Etc(エトセトラ)etc(エトセトラ)……『記憶』は時に足を引っ張ることもあるけど、だが『芯』を作る。『心の芯』だ。『芯』がなければ進むべき道を進めなくなる。

 だから、『芯』を失ったお前が弱っちいことは、これっぽちも予想外じゃない。当たり前のことだ」

 

 いたみがめだかの首根っこを引っ掴んで持ち上げている。

 めだかはとうに気を失っていた。それを見る高貴も真黒も満身創痍で倒れており、立ち上がる体力は既に残っていない。

 

「……くじらちゃん、完全に僕達の負けだ。だからもうめだかちゃんを離してやってくれ」

「そうはいかねーなー。地下十三階にお住まいのあの支配者様がコイツを欲しがってるからな。気絶している今のうちに連れて行くとするぜ」

「まさか……都城……王土っ……!! そんな、今のめだかちゃんを連れて行ったりしたら……!」

「『人心支配』の能力(アブノーマル)持ってるお人だからな。記憶が戻る前のめだかなら簡単に洗脳しちまうかもなあ」

「……っ!」

「……名瀬さん、君は一体何がしたいんだ?! めだかさんを騙して痛めつけて、取り返しがつかなくなるまで何もかも滅茶苦茶にする気か?!」

「いいや取り返しはつくぜ、高貴くん。保険が()()。騙してるつもりもねーよ。なあ兄貴? よ~く知ってるんだもんなあ?」

「…………」

「だが、あくまで保険。大事なのはコイツ()自身が乗り越えることだ。腕力だけじゃどうにもならないけど、はたしてどうなるかな?」

 

 挑発的に笑うくじらをいたみが抱える。小脇には気絶しためだかも捕まっていた。

 

「ばいばーい大好きなお兄ちゃん☆」

「くっ……待っ……!」

「駄目です真黒さん! この穴は深過ぎる! 落ちたら怪我じゃすみません!!」

 

 地下三階から落ちて来た時にいたみが勢い余って作った、地下六階へ直結する穴に三人が飛び込んで行ってしまった。それを追おうとした真黒を高貴が慌てて引き止める。

 

「急いで人吉くんや喜界島さんと合流し! 階段を探して追いましょう!! 地下十三階と言っていました! 行き先はわかってるんですから……」

「……まただ。僕はまたくじらちゃんの力になれなかった! くじらちゃん、君は――」

 

 真黒は弱々しく拳を握りしめた。

 

「いったい()()()()()()()()()……」

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「あーあ、いいの名瀬ちゃん? 家族をボロボロにした上に人格まで変えさせるなんて。宇城くんに嫌われても知らないよ~?」

「仕方ねーじゃん、俺だってこう見えてすげー心苦しいんだぜ?

 でもアイツが記憶もいじれるってわかったんだからよ。最悪、めだかと善ちゃんが乗り越えられなくてもリカバリーは利くさ」

「はぁー……責められるかもよ?」

「そん時ゃアイツが高千穂先輩と宗像先輩の記憶だの身体だのイジッたことを存分に指摘してやるぜ」

 

 なんだかんだ奏丞もそういう外道戦法は取るタイプなので、渋い顔はしつつも人のことは言えないのであった。

 くじらは自身の顔に包帯を巻き、プスッとナイフを刺し直す。

 

「さてしかし、こっからどーすっかな。頼れる先輩二人はやられちまったし、古賀ちゃんには少し休んでもらいたいけど、都城先輩の洗脳にも時間はかかるだろうしな。

 兄貴が策を練って、善ちゃんが漢を見せれば洗脳の阻止は間に合っちまうかもな」

「――お困りのようだな名瀬統括。なんなら時間稼ぎは私達が担当してやってもいいぜ?」

「!?」

 

 悩んでいるくじらに背後から声をかける六人の生徒がいた。

 

「義を見てせざるは勇なきなり! 仲間のピンチを見逃せないこの私だ!」

 

 三年十三組、検体名『死番虫(デスウォッチ)』糸島軍規!

 

「仲間? ああ、私達ってそういう設定でしたっけ」

 

 二年十三組、検体名『宙ぶらりん(フリーワールド)』湯前音眼!

 

「そんな女はどうでもいいですけれど、都城に恩を売れるというのは悪くありませんね」

 

 二年十三組、検体名『初恋(ラヴ)』百町破魔矢!

 

「…………」

 

 三年十三組、検体名『髪々の黄昏(トリックオアトリートメント)』筑前優鳥!

 

「俺は普通(カス)がそばにいるというだけで不愉快だ。頼まれなくても駆除しに行くつもりだったぞ」

 

 二年十三組、検体名『占領役者(スターマスター)』鶴御崎山海!

 

「同感です。普通(ゴミ)は分別せずに捨てましょう」

 

 三年十三組、検体名『食虫食物(デンタルシューズ)』上峰書子!

 

「あんたら……『十三組の十三人(サーティン・パーティ)裏の六人(プラスシックス)』!? なんでこんな所に?!」

「(バカな、こいつらは今回の件では不参加だったはず! まさか理事長が追加の指示でも出したのか?!)」

 

 ――こいつらはマズい。何がマズいって、生徒会を()()()()()()()

 くじらは焦る気持ちをなんとか抑え込む。

 

「……いいのかよ。てっきり今回の件は無関心だと思ってたぜ」

「おや、どうしました名瀬。随分動揺しているようですね」

「(百町破魔矢……ちっ、余計な口は挟めねえか)勝手にあんたらの手を借りて王さまのお小言を貰うのは俺なんだぜ。動揺だけじゃなく、頭抱えたくなる気持ちも察してくれよな」

「ははは、遠慮はいらんぞ名瀬統括! 都城も内心喜ぶはずだ! さあ行くぞ皆の衆!」

 

 糸島は高笑いしながら裏の六人(プラスシックス)を引き連れ、くじらが止める間もなくエレベーターの方へ行ってしまった。

 

「い、行っちゃった。これマズいよね!? どーする名瀬ちゃん?!」

「……まずは慌てず騒がず携帯端末で監視室のチェックだ。奏丞の様子は?」

「まだ部屋に……って今出ちゃったよ!?」

「…………」

 

 くじらは無機質な天を仰いだ。

 

「……もうどうにでもなれ~」

「こ、ここまで来て諦めないでよぉ?!」

 

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「なにいっ! 俺たちだけ逃げろだって!? 正気で言っているのか人吉くん!!」

 

 めだかを除く生徒会一行(と真黒、対馬兄弟)は地下四階で今後の作戦を話し合っていたが、高貴はその言葉を言った善吉の胸倉を掴み、壁に押し付けていた。

 

「逃げろとは言ってねーですよ! もうこうなったらあんたと真黒さんに奏丞を探して来てもらうしかありません! 地下(ここ)じゃ俺達の電話は通じないし、唯一通じる真黒さんのケータイでも出なかった! 意図があるのかないのか知らないけど、こうなったらぶん殴ってでもアイツを参戦させなきゃダメなんだ!」

 

 善吉が高貴を押しのけ、周囲を見回した。

 

「めだかちゃんはさらわれ、あんたはボロボロ、真黒さんまでボロボロだ! めだかちゃんと正面から殴り合える古賀先輩も含めて敵はまだ十人も残ってるんですよ! かろうじて無傷な俺と喜界島だけじゃ限界がある! 奏丞(アイツ)がいなくてもと俺も始めは思ってましたが、それでめだかちゃんがひどい目に遭っちまうぐらいならプライドなんて俺は捨てますよ!」

「ぐっ……!」

「――おいおい仲間割れか生徒会執行部? 助けになりそうなヤツが一人だけとは悲しーねえ」

「……えっ!? なんであんた達がここに……!?」

 

 そんな善吉達に声をかける、見覚えのある()()の生徒。

 

「なんでって……随分不愉快な物言いですね人吉くん!」

 

 一年三組、通称『手錠メリケンの鬼瀬』鬼瀬針音!

 

「いやなに。大事な後輩が困っとるゆーて不知火ちゃんに教えてもーて、おっとり刀で駆けつけたちゅーわけやん」

 

 三年十一組、通称『反則王』鍋島猫美!

 

「1527638ウキソースケ61956、1413764091674535713」

 

 一年十三組、通称『雲仙姉』雲仙冥加!

 

「ケケケ! まあ理由とか御託とかいーだろうが! まずはカッチョヨク登場シーンを決めさせろや」

 

 二年十三組、通称『モンスターチャイルド』雲仙冥利!

 

「「「負け犬軍団参上!!」」」

 

 かつて生徒会が破った(?)宿敵達四人が、生徒会の危機に駆け付けた!

 

「あんた達は確か生徒会(おれたち)との戦いに敗れて死んだはず!!」

「死んでねえよ(怒)」

「相変わらず失礼ですね! あなた方がピンチだというからわざわざ助けに来てあげたんじゃないですか!」

「そうそう! さっきも言うたけど不知火ちゃんから教えてもうてなー」

「不知火……? 不知火! つまりあいつが! 俺達のために学園中を駆け回ってみんなに助けを求めてくれたってことですか……!?(じ~ん)」

「「いやツ〇ッターで」」

「ツ〇ッターで!?」

 

 鬼瀬と鍋島が見せたケータイにはこう書かれていた。

 『生徒会ピンチ。メンバー損なう。』

 

「損なう!?」

「あら知らなかったんですか? 箱庭生のほとんどがフォローしている人気のツ〇ッターですよ」

「いやちょっと待て! それなのに助けが四人しか来ないって逆に少ないだろ!! えー……マジで? 生徒会の支持率九十八パーセントってあの設定なくなったの……?」

「ケケケ! まーテメーらがピンチだとかいうデマっぽい情報を鵜呑みにする生徒(やつ)がまずいねーんだろ。

 テメーらが倒した高千穂と宗像のヤロー共もあの身体で来ようとしてたんだぜ? まあ案の定というか()()()()()()()()()()せいでドクターストップされたんだけどよ」

「あの二人まで……」

「ちなみにオレは別にテメーらを助けに来たわけじゃねーぜ。風紀委員長として! 学園の平和のためにテメーらの不始末を片付けに来てやっただけだ」

「479152043120ウキソースケ7964132、5076470841321107435769831」

「(噂の雲仙姉……たぶんいいこと言ってるけど、さっきから奏丞の名前しかわかんねえ)」

「え、アイツ姉ちゃんとそんな下ネタ談義したのかよ! ウッソだろ!?」

「なにやってんだアイツ!!?」

 

 誤解も一部生まれたが、戦力が増えて非常に心強いのは確かだった。冥利は未だに生徒会との闘いの傷は癒え切っていないが、鬼瀬、鍋島、冥加は無傷の状態だ。

 しかも地下の入り口まで戻って地下十三階まで直通のエレベーターを使うという鍋島の(卑怯な)アイデアを採用したので、戦闘回数を必要最低限にできる。

 この窮地において、めだかを救出できる希望が見えて来たわけだ。

 

「(ピッピッピッピッピ――ッ)ほーいパスワード入力完了ー☆ これでエレベーターちゃんすぐ来るぜー☆」

「すげえ……文字制限なしのパスワードをいとも簡単に……」

「やっぱりすごいんですね『十三人(パーティ)』は! 全員それと同じことができるんでしょ?」

「いんや? このエレベーターを使えるのは俺と『裏の六人(プラスシックス)』の七人だけだぜ」

「『裏の六人(プラスシックス)』?」

 

 冥利と対馬兄弟の会話を聞いた善吉が話に入る。

 

「何者なんです?」

「異常度なら都城や行橋も凌駕する面倒なヤツらがいてよー。まあそう怯えんなよテメーら。裏の六人だろうが甲賀七忍だろーが、どーせそいつら全員ショートカットできるんだか「にひひひひビンゴォ! エレベーターでワープなんてこすい卑怯者の考えそうなこったぜ!」!?」

 

 冥利が呼び出したエレベーターから降りて来たのは、なんと裏の六人(プラスシックス)全員だった!

 生徒会がエレベーターで地下十三階まで直行することを予想し、あらかじめエレベーターに乗っていたのだ!

 

「だが生憎私達にかかっちゃあその程度の作戦はお見通しなんだよ!!」

「ぬうっ、返す言葉もあらへんっ!」

「……おい人吉状況が変わった。予定変更だ。ここはオレ達チーム負け犬が引き受けるからよ、テメーらは階段で地下十三階まで向かえ!」

「!? なっ、何を言って……」

「こいつらが揃ってここに来た以上、今なら最下層までほぼがら空きだぜ。地下一階の迷路で手間取らなきゃ黒神の洗脳にはギリ間に合うだろ」

「馬鹿言うな! あんた達を置いて行くなんてできるわけ――」

「るっせえボケ! 足手まといだから消えろっつってんだよ!! 既に問題はフラスコ計画がどーとかじゃなくて! オレ達がこの場をどうやって生き延びるかってことに変わってるんだ!!」

「盛り上がっているところ悪いが」

 

 ――その時、エレベーターに最も近かった鶴御崎がその音を聞いていた。

 

「ん? どうした鶴御崎」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『なにっ!?』

 

 この場の全員が驚いた。

 それもそのはず、先ほどの冥利の話では、エレベーターを使えるのは冥利と裏の六人(プラスシックス)だけなのだ。それはつまり、使える人間は全員既にこの場にいるということだ。

 

「雲仙先輩! あんた、エレベーター動かせるのは自分とアイツらだけって言ってましたよね!? 実は他にもとんでもない敵が残ってたってことですか?!」

「んな劇場版みたいな後出し新キャラなんているかよ!? この場のメンバーが全員だ! 他にはいねー!」

「あ、私わかった! 黒神さんだよ! きっと黒神さんが逃げて来たんだ!」

「まさか、めだかさんが自力で脱出を!?」

「……ってヤツらは言ってるが、どう思う百町?」

「……薬剤投与と拘束は続いているでしょうし、あの時の様子では逃げるどころか意識を取り戻しているとも思えませんね。ですが『十三組の十三人(サーティン・パーティ)』に他の該当者がいないのも事実」

「……おそらくエレベーターは十三階まで降りていない。さっき聞いた時、妙な挙動の音がしていた。もっと浅い階層で止まってから、再度昇って来ている」

「どういうことです? これ直通ですよ。まさか途中乗車とでも言うんですかあ?」

 

 善吉は考える。これから現れるのはいったい何者なのか?

 おそらく『十三組の十三人(サーティン・パーティ)』ではないのだろう。マジに全員心当たりがないらしい。

 そしてめだかちゃんでもないようだ。自分も知らないヤツなんだろうか? このデビル使いにくいエレベーターが使えそうで、この大ピンチって時に追い打ちみたいに現れて、誰もが予想だにしないヤ……ツ……?

 

「まさかッ!!?」

 

 エレベーターが開く。中には男が一人いた。

 デカい男だ。百九十センチはあるだろう図体。学校指定の学ランを着てはいるが前ボタンは全開にしており、プロレスラーの様なブ厚い筋肉がシャツの胸元から覗いている。

 半身になるような、妙にスタイリッシュな立ち方をしているその男を、善吉は知っている。

 生徒会執行部は知っている!

 

「お前はッ!」

「あの男はッ!」

「一度見たらこの姿は絶対に忘れられないッ!」

「「「宇城奏丞!!」」」

「YES I AM!」

 

 この小説の主人公(ヒーロー)、宇城奏丞! (やっとこさ)参戦!!

 

「ってな~にがイエスアイアムだよ馬鹿野郎! こんな時に呑気して格好つけてんじゃあねーぜェーッ!」

「おおっ!! その悪態のつきぶり! しょぼくれてたわりにはよォ~、結構大丈夫そうじゃあねーかッ!」

「宇城クン、なんで地下から来たんだ?! しかもそのエレベーターを使えるってことはやはり異常(アブノーマル)なのか?!」

「その話は後だぜ阿久根先輩!」

「なんですぐに来てくれなかったの?! こっちはすっごくすっごく大変だったんだよ!?」

「……そ、その話も後だぜ喜界島」

「お前くじらさんとグルだったってなぁ~!? こんだけ仕出かしたんだから遺言と棺桶の準備もしてるよなぁ~!」

「…………(目逸らし)」

「「「お前――!!」」」

 

 生徒会執行部から至極当然の非難が飛んだ。

 

「い、言いたいことは山ほどあるだろうけど、弁解も命乞いも後でさせてくれ! それよりここは俺と負け犬軍団に任せてもらうぜ!」

「ほう」

 

 エレベーターから降りた奏丞に向かい合ったのは鶴御崎だ。

 互いに高身長な男同士、睨み合う姿だけでも傍から見ていて威圧感がある。

 

「面白いの反対の、反対だな! 異常(アブノーマル)どころか特別(スペシャル)でもない普通(カス)のお前が俺達裏の六人(プラスシックス)に挑むとは。

 もっともお前程度に……そんな資格はないだろうがな」

「よう先輩。資格が必要ならよォ、今この場で発行してもらうぜ。ちょうど解きやすそうな試験問題が目の前にあるからな!」

「……面白いの反対の反対の、反対だ」

「既に射程距離だぜ。てめえも、俺も」

 

 善吉達が固唾を飲んで見守る。裏の六人(プラスシックス)は面白いとばかりに余裕でニヤついているが、相手は体裁上は普通(ノーマル)の生徒、無理もない。

 睨み合う二人の空気に当てられ、もがなの流した冷や汗が頬を伝い…………地面に落ちた!

 

「貴様の顔面をグツグツのシチューにしてくれるッ!!」

 

 鶴御崎が動いた。

 彼はサイボーグの異常(アブノーマル)、全身機械の男だ。彼が伸ばした手は鉄をも簡単に溶かせる程の高温を放ちながら、奏丞の頭部に迫る。

 しかし……その瞬間は訪れない。

 

「ペイズリー・パークッ!」

「ムッ!?」

 

 電子機器に憑り付くスタンドが、機械である鶴御崎の身体に乗り移る!

 本来は『行くべき方向や場所へ導く』スタンドだが、その過程で電子機器に取り付くことができ、機械を操作できる。

 鶴御崎の全身を電気の様に瞬く間に駆け抜けたペイズリー・パークは、彼の機能を容易くシャットダウンさせた。

 力が抜けた赤熱する手は奏丞に触れることなく空を切り、鶴御崎は硬質な音を立てて無言で倒れ伏した。

 

「――――…………」

「まず一人」

「~~ッ! この場は任せたぜ、奏丞!」

 

 この展開を予感していた善吉が走り出し、ハッとした他の生徒会メンバーもそれに続く。

 

「任せな! お前もめだかのこと頼んだぜ!」

「ったりめーだ!」

「奏丞くん、これを!」

 

 真黒が奏丞に自身の携帯電話を投げ渡した。

 

「僕の携帯電話だ! 地下でも通じる! 何かあったら連絡する!」

「わかりました!」

「パスワードは『いいよ妹(11416510)』だ!」

「いいからはよ行け!」

「おっと行かせないよ! 『髪々の黄昏(トリックオアトリートメント)』!」

 

 筑前のスキルによって一気に伸びていく髪の毛が、善吉達を拘束しようと迫る。

 だがしかし。

 

「ケケケ舐めんなよ! 既に俺は放っているぜ! 『鋼糸玉(ストリングボール)』!」

 

 冥利が投擲していたスーパーボールが筑前の髪の周りを囲むような軌道で跳ね回り、ボールに巻き付けている糸をその軌道に残していく。

 

「そして! 76、404515097(オラッ、この糸を引っ張れ)!」

「170482605071083(姉に向かってなんだその口は)! 2(ふ)ッ」

「んんっ? ……あらら、私の髪が結われちゃった」

 

 輪を作った糸を冥加がその剛腕で引っ張ると、内側にあった筑前の髪の毛がギュッと縛られる。

 そのおかげで文字通り間一髪、善吉達はうまく逃げ切れたようだ。

 

「雲仙くーん、こっちの二人抑えられんからはよ戻ってー!」

「おっとわりいな、鬼瀬ちゃん仕上げよろしく」

「ええ! わたしの手錠でガッチガチに縛り固めて「どこ行くのー?」くっ!?」

 

 筑前に近づこうとした鬼瀬の前に湯前が躍り出た。

 慌てて立ち止まる鬼瀬だが、明らかに私服の湯前を見て風紀委員魂が燃え上がる。

 

「その服装、校則違反です! くらえ風紀鉄拳!(とぷんっ)ってええっ!?」

「わーんお腹に食らっちゃったー(棒読み)、えーん死んじゃうよー(棒読み)」

「な、なんですその棒読み!? というか拳がお腹貫通したんですけどぉ?!」

 

 鬼瀬の拳が、水の塊でも突き抜けたかのように湯前の身体を貫通した。しかし当の本人はフーセンガムを膨らませながら平然としている。

 

「上峰ちゃーん、今のうちにこの糸解いてくれない?」

「いいですよ。面白そうな素材なので、そうめんみたいにすすってみましょう」

「潜行しろ、ダイバー・ダウンッ!」

「!」

 

 奏丞の声に警戒し、上峰は口を開いて防御の体勢を取る。

 なんでも食べて解析できる上峰には、二丁のマシンガンを乱射されても弾丸を口でキャッチできる程の防御能力があるのだ!

 だが、口があるのはあくまで上半身。ダイバー・ダウンの攻撃目標は上半身にはない!

 

「なっ!? 足首に何か?!」

「床を変形! そしてェ!」

 

 床に潜っていたダイバー・ダウンが上峰の足首を掴み、床を変形させて作った穴へ引きずり込むように、上峰を腰上まで地面に埋めた。

 慌てて抜け出そうとして上峰が手をつくが、既にダイバー・ダウンが上峰の体型に合わせて床を変形し直しており、ピッタリ嵌って抜け出せない。

 

「な、なんですこれ!?」

「てめえは何でも喰っちまえるんだってなあ! だがよ、()()()()()()()()なら関係ないな!

 胸元まで埋まると人は呼吸ができなくなるらしいから、(そこ)までで勘弁してやるぜ!」

「!?」

 

 上峰は懸命に身を屈めて床を食い破ろうともがくが、腰が完全に埋まった以上は身体を床まで曲げることは不可能だ。背骨が九十度へし曲がれば口が届くかもしれないが、それができるわけもない。

 

「これで二人ッ!」

 

 裏の六人(プラスシックス)と負け犬軍団の人数が逆転した。

 

「こいつは驚いたぜ! まさかしっちゃかめっちゃかさで俺達に張り合えるヤツがいるとはな!」

「これは……早々に動く必要がありますね。筑前、今糸を切りますよ(プツッ)」

「ありがと~。もう自分で切ろうかと思ってたよ。ま、次はもう少しうまいことやるよ」

「あーあ、早くも四対五だねー。ま、だからどーだこーだって言うわけじゃないけど」

「むむう、せっかく二人減らしたっちゅーに、あの二人が動いたらむしろこっちの赤字やない?」

「ケッ、確かにな。だがここまで裏の六人(プラスシックス)()()()()()のは初めてだぜ! なんにせよ、まとめてぶっ潰すチャンスだ!」

「ええそうですとも! あんな校則違反のオンパレード、生徒会が許しても風紀委員が赦しません!!」

「6501448046456568010(流石私の彼氏は一味違うな)! 2047891034595661480(私の前だからって張り切り過ぎだぞ)!」

「046784651414781(ちょっと待て今なんつったぁ)!!?」

 

 くじらから『十三組の十三人(サーティン・パーティ)』全員の能力は聞いているからこそ奏丞は確信している。これから先の戦いは、さっきまでのようにうまくはいかないだろう。

 特に糸島と百町のスキルはスタンドチートを持ってしてなお、恐るべき能力であることを知ってしまっている! ここで帰れるなら回れ右して帰りたいぐらいだが。

 

「この場を任せろって言っちまったからな。そういうわけにもいかねえぜ」

 

 奏丞は改めて気合を入れ直す。

 

「こっちも()()()()()からな! 全力でやらせてもらうぜ!」

 

 奏丞はそのスタンドを繰り出した!

 

「行くぞ! キング・クリムゾンッ!!」

 






なじみ「なお、『裏の六人(プラスシックス)との戦闘』も『もがなの覚悟』も『洗脳めだかVS漢・善吉VSダークライ』も消し飛んじまったぜ。これも全部キング・クリムゾンを使った宇城くんのせいです。あ~あ」

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