目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

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新年あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

年明け早々の投稿にもかかわらず通常回ですが、
せっかくなので原作キャラの皆さんから一言いただきましょう。

もがな「数少ない私の見せ場が消し飛びました」
善吉「俺が漢を魅せるデビルカッコいい戦いが消し飛びました」
めだか「ヒロインらしく洗脳を解いてもらう感動のシーンが消し飛びました」
なじみ「内容が気になる人は原作六巻を買ってね! 大好評販売中だぜ☆」



第二十五話:ハイ・ヴォルテージ

 

 

 誘拐されためだかを救出するために地下十二階へ突入した生徒会執行部。

 そこで待ち受けていた十三組の十三人(サーティン・パーティ)きっての道化、行橋未造はガストラップで一行を一網打尽にしようとするも、喜界島もがなの奮闘によりこれを突破する。

 また、無念にも救出が間に合わず、都城王土により新たな人格をインストールされて『黒神めだか(改)』となっためだかが、これまで身に付けた数々のスキルを披露しつつ一行に襲い掛かるも、善吉との(バイオレンスな)コミュニケーションを経て自身を洗脳し直すことで都城の洗脳を解除。二人の絆の強さを都城に見せつけるのであった。

 

「ふむ、まあそこそこためになる座興(じっけん)だった。お前達の絆には感服したよ。

 まあ貴様らの健闘はわざわざ何話も使って描写する程のことでもなかったが」

「いいや。私の仲間達は単行本にして一巻弱になるほどの素晴らしい働きをしてくれた!

 次は私が働く番だ。いよいよもってフラスコ計画、叩き潰してくれるぞ!」

「ならばいいだろう、ついて来ることを許そう。地の底の底で決着をつけようではないか。地下十三階――最深部にして最新部。フラスコ計画の真相へとご招待だ」

 

 都城がそう言うと一部の床がスライドし、地下十三階への階段が姿を現す。

 今更罠を警戒して躊躇するめだか達ではなく、都城の後に続いて大人しく階段を下っていくが、その間の雑談として、めだかはくじらに話しかけた。

 

「……それでお姉さま。私達はあなたのご期待通り成長できましたか?」

「おいおい、せめて全部終わらせてからそういうことは話せよ。まだ俺は生徒会(オマエラ)の敵なんだぜ」

「いえ、敵であっても私の敬愛する姉であることに変わりはありません。であれば姉妹でコミュニケーションを取ることはなんらおかしくはないでしょう?」

「そういう小生意気な建前は成長ととって良いもんか……ん~、そうだな。概ね期待通りではあるぜ。力業が多くてスマートさに欠けるのは俺好みじゃねーがな」

「及第点をいただけたならひとまず良しとしますよ。今度はもっと高得点を目指すとしましょう」

「……名瀬さん。俺はめだかさんが許しても、めだかさんの記憶を弄んだことは許していないからな。君も、静観していた宇城クンもだ」

「か弱い女生徒を脅さねーでくれよ高貴くん。俺は別にいいけどよー……奏丞(アイツ)はあくまで俺の顔を立ててくれただけだし、ちょっとだけ勘弁してやってくれな」

「(……ねえ人吉。なんか黒神さんのお姉さんって宇城の扱いが他の人とちょっと違わない?)」

「(うんまあ、そういうことなんだろうなとは俺も薄々思ってるよ)」

「(わー、そうなんだ!? へー! へー!)」

「くじらちゃん、君はもうちょっと本人にそういうところを見せていれば……」

「それはそう。名瀬ちゃん照れ隠しが物騒なんだもん」

「や、やめろよ。俺をイジる流れにすんなよ……」

「ラスボス戦前に恋バナとは、貴様らの図太さには流石の俺も感心するな」

 

 やがてたどり着いた地下十三階。

 季節は夏だというのに、そこは真冬の外に放り出されたかのように寒く、吐く息が白い。周囲にあるのは高々と列をなす大量のコンピューターだ。視界に入るだけでも十や二十ではきかず、フロア全体がこれらの様なコンピューターで埋め尽くされていることは想像に難くない。

 

「……まるで軍の情報局だな。なんだこの大量のコンピューターは」

「つーか寒っ! 冷房効き過ぎじゃねーのかこのフロア!!」

「仕方ないよ善吉くん。これくらい冷やさないと五分で僕達は蒸し焼きになってしまうからね。なにせ十三万千三百十三台ものスーパーコンピューターが、二十四時間三百六十五日休むことなく並列で動作してるんだ。

 全く! 地下三階以降は色々様変わりしたみたいだけどこのフロアだけはやっぱり一年前と同じだったか……」

「じゅっ……十三万台……!?」

「さて黒神、一面に広がるこの圧巻な光景。これがフラスコ計画だ」

 

 都城が見せつけるように両手を広げる。

 

「お前が潰そうと目論むフラスコ計画にはこれだけの投資がなされている。金だけのことではない――金が動く以上当然人も動く。フラスコ計画に従事し人生をかけている人間の数は国内だけでも十万は下らん。

 お前はみんなを幸せにしたいそうだが、お前がフラスコ計画を潰せば! 俺達はともかくそいつらは確実に不幸になるな」

「…………」

「逆に言えば黒神、お前は考えたことがあるのか?

 『悩むこともなく困ることもなく誰に相談することもなく誰に助けられることもない、完全に完成された完全なる人間に誰でもなれる』。

 そんな崇高な理念に基づくフラスコ計画が完成したならばどれだけの幸福がそこに生まれるのか、お前はちゃんと考えたことがあるのか?」

「そのために箱庭学園の全校生徒を犠牲にしようというのだろう? その時点で論外だ。考えたくもない」

「つまり犠牲者が出なければ論外ではないということだな。ならば黒神。これが最後の勧誘、最後通牒だ。

 王の妻になれとはもう言わん。しかしフラスコ計画に協力しろ。犠牲者が出るのが嫌なら犠牲者が出ないよう、お前がご自慢の頭脳をもってそう取り計らえばよかろう。

 俺達も幸せになりお前達も幸せになりみんな幸せになる。落としどころの妥協点としては悪くないはずだぞ」

「……厚意から出た提案だと信じるが、しかし都城三年生。()()()()()()()()()

 

 都城とてこれだけの話であっさりめだかが心変わりするとも思っていない。

 相変わらず気難しい表情でこちらを見るめだかに、腕を組み直して応える。

 

「構わん。一つと言わず十でも百でも聞いてみろ」

()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……黒神、お前話を聞いていたか?」

「『悩むこともなく困ることもなく誰に相談することもなく誰に助けられることもない、完全に完成された完全なる人間』……うむ、つまり具体的にはどういう人間なのだ?」

「…………」

「選択肢を前に悩む必要がない奴は完全か? ケガをした時に自分も他人も体を治せたら完全か? 火が欲しい時に身一つで火が出せる奴は完全か?

 私はそういう人間を一人だけ知っている――が、あやつは完全な人間などではない」

「(めだかちゃん……)」

「あらゆる正解がわかれば完全、命を自由自在に扱えれば完全、世界を支配できれば完全……言い始めればキリがない。『完全な人間』なんて曖昧なゴール、誰が目指したところでなれっこないさ」

「……ぶっふ!!」

「!!」

 

 それを聞いて吹き出す者がいた。いたみだ。みんなの視線を集めながら、彼女は笑っている。

 

「あっははははは…………いやーごめんごめん!

 まー確かに? ()()()()()()()()()()()()がいたとしても! イコール完全ってことにはならないよね!」

「古賀……」

「王土さんは下がっていてください。やっぱ叩きのめすかのめされるか……くくく、どっちかしかないですね! 話が全然かみ合わないんですから!」

 

 いたみが都城の前に進み出てめだかと向き合う。

 

「黒神はどうあれフラスコ計画が気に入らない。私達は存続させたい。だったら戦うっきゃないでしょ? ここはひとつ、最強の実力をもう一回見せてやりますよ!」

「……しかし古賀よ。お前では黒神を叩きのめすには実力不足だよ」

「なーに、対策は考えてきましたよ! それでも私が勝てなきゃ、だーれも勝てません。王土さんの異常(アブノーマル)だって戦うタイプじゃないでしょう?」

「いや、偉大なる俺にはもう一つ裏技(アブノーマル)がある」

「え?」

 

 そう言って都城は突如、いたみの背中に右手を抉り込んだ! グチャリという粘性の音と凄惨な光景に、誰もが呆気にとられる。

 都城はいたみの心臓を握り込んだ。

 

「ご……え……? お……おーど……さん?」

「対象者の心臓(ハート)に直接! 電磁波を送り相互干渉することで対象者から電気信号(アブノーマル)の周波数を強制的に取り立てる。行橋風に名付けてみるなら都城王土の真骨頂その②――『理不尽な重税』だ。不知火理事長しか知らない文字通りの裏技だよ」

 

 都城はいたみから引き抜いた手を振るい、こびりついた血肉を落とす。

 

「なッ……なにやってんだァテメェエエエ!!」

「おや、名瀬よ。ダウナー気取りのお前がそんな声を出せるとはな」

 

 倒れたいたみにくじらが駆け寄る。

 いたみの回復力を期待しながら見た傷口は、期待に反してまったく再生していない。嘲笑うハロウィンカボチャの口穴の様にガッポリ開いた背中の穴からはダラダラと血液を垂れ流すままになっている。心臓が破壊されたため、血流には勢いさえ既に残っていない。

 

「血が止まらない!? なんで!?」

「古賀の再生能力もいただいたからな。偉大なる俺の税率は……百パーセントだッ」

「ぐっ!?」

「しまった、めだかちゃん!?」

「あ、あの圧倒的パワー! 古賀さんのパワーそのものだ!?」

 

 めだかが都城に蹴り飛ばされ、コンピューターの列をなぎ倒す。それを見た善吉が悲鳴を上げた。高貴にとっては見覚えのある、トラウマ染みた身体能力を都城は発揮している。

 

「ふむ、やはり! 前から古賀の改造性(アブノーマル)は偉大な俺にこそ相応しいと思っていた。元がノーマルの古賀じゃあどう改造したところで限界があるからな」

「あっあっ、血、血が……い、いやだ! 古賀ちゃん目を覚まして! だめ! お兄ちゃん助けてっ! 勝手に家出してごめんなさい! お願いしますなんでも言うこと聞きますから古賀ちゃんを助けて! 古賀ちゃんは俺の友達なんだ! 死んでほしくないんだっ!」

「……おいおい名瀬! そんなに大泣きしながら敵に懇願なんて情けない真似をするなよ。友人が一人死ぬだけだろう。まるで普通(ノーマル)のようだぞ。んん? ああ、つまり――」

 

 顔に巻き付けた包帯を涙でビショビショにし、必死にいたみの傷口を押さえながら叫ぶくじらに。

 

「『覚悟』が足りなかったのはお前の方だったようだな?」

「~~~~ッ!!?」

 

 悲鳴はもはや声にもならなかった。

 

「やはり偉大なる俺にはお前しかおらんな行橋……おや気絶したのか?

 ああ……離れていろというのを忘れていたな。心臓を貫かれた古賀の痛みを受信してしまったか。これは迂闊だったな。……まあいいか」

「……貴っ様、それでも人間か!!」

「もちろん俺が人間だ」

 

 元は最新コンピューターだったガラクタの山を吹き飛ばしてめだかが立ち上がり、そのまま都城に突っ込んで殴り合いを始める。

 

「くじらちゃん!! 気をしっかり持って!!」

「お、お兄ちゃ……」

「善吉くんに携帯を渡すんだ! 僕とくじらちゃんは延命のために手を動かすよ!」

「えっ、俺ですか!?」

「で、でも()()()の携帯は地下じゃ……!」

「あってほしくなかったけど、こんなこともあろうかと僕の携帯を渡してある!」

「! こ、これ使え!」

「お、おう!」

 

 くじらから投げ渡された携帯電話をキャッチした善吉は、教えられたパスワードをすぐさま入力する。

 

「僕の携帯番号にコールし続けてくれ!」

「アイツも今は戦闘中のはず……なんて言ってられねえか! チクショウ、絶対出てくれよ!?」

 

 めだかと都城の凄まじい打撃音を背景に、呼出音が鳴り始める。これほど切羽詰まっている心境で聞く一定間隔の呼出音は、善吉からすればこれ以上なく緩慢にすら聞こえた。

 そして時間にして十数秒後。

 

『――――!?』

「!! 出た! 奏丞だな!?」

『――――――!?』

「そうだ! 今」

「奏丞!!」

 

 くじらが叫んだ。

 

「助けて!!!」

 

『――――』

「えっあっ、おい!? き、切れちまった!!」

「なんだと、宇城クンにこっちの状況は伝わってるのか!?」

「いやアイツ」

「なんだっ!!」

「『今行く』って……」

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 時間は少し前に遡る。

 奏丞&負け犬軍団と裏の六人(プラスシックス)の戦いは未だに終わっていなかった。

 これまでの戦いをしかと説明するのであれば漫画本にして二巻はたっぷり使う程の死闘に次ぐ死闘、逆転に次ぐ逆転であり、スタンド使いの奏丞ですら全身傷だらけになる程激しいものだったが、ひとまずそれは置いておこう。

 結果を述べると、周りの援護を受けつつも鬼瀬は筑前と相打ちになるという大健闘を果たし、湯前の妨害をかいくぐりながら百町のスキを作った鍋島はあえなく倒れてしまった。百町のフォローに入ろうとする糸島も、素手で殴りかかってくる奏丞と後衛を務める冥利のコンビに足止めされている状況だ。……床に埋めて動きを封じただけの上峰? 動けないところを鍋島が早々に背後から締め落としてましたね。

 そして今まさにこの千載一遇のチャンスを逃すまいと、百町にトドメを刺すために冥加が鉄球をブチかまそうとしている。その結果がどうあれ、十秒後にはまた一人、この場に立つ人間が減っていることだろう。

 

「6330478211578993841631(鍋島の命を賭した*1チャンス逃しはせん)! 6445801615(喰らってくたばれ)!」

「たかが『鉄球』使いごときが甘いんですよ! 粉々に粉砕してやりましょう! ハアアアアッ!!」

 

 百町の攻撃が冥加の鉄球を迎え撃つ。百キロの鉄球とはいえ相手は恐るべき裏の六人(プラスシックス)の一角。仮に互いの攻撃が激突すれば、破壊されるのは間違いなく鉄球の方だ。これまでの戦いで、冥加もそれを重々承知している。

 

「8(ハ)――ッ!」

「(なのに何故です!? 何故勝利を疑っていないかの様に突っ込んで来る!? 愚かな、意気込んだとて現実は変わりませんよ!)」

 

 そして百町の攻撃が鉄球に直撃しようとした瞬間! なんと鉄球がスライムの如くグニャリと形を変え、鉄球自ら攻撃を避けたのだ!

 

「な、なんだとォ――ッ!?」

 

 そのままグニャグニャと、鉄球だったモノは別の何かに形を変えていく。

 

「こ、これはスキルで形を変えているのか?! それともまさか! ()()()()()()()()()()()!?」

女教皇(ハイプリエステス)!! 鉄球に化けさせて冥加に持たせたぜ!」

 

 奏丞の使った『女教皇(ハイプリエステス)』は金属やガラス等の鉱物なら何にでも化けられるスタンド! 射程距離は『A』と非常に長いが、至近距離であればある程大きく、パワーのある姿にも化けられるのだ!

 そして冥加の攻撃はまだ終わっていない! その能力によって鉄球の次に化けた姿は!

 

「こ、これは拳!? 巨大な鉄の拳が!」

「921(これが)! 476728435685148703(初めてのラブラブ共同作業)! 『78157172285(刑鬼入拳)』2(だ)――ッ!!」

「何言ってるかわかりませんがアホなこと言ってぶげあ――っ!」

 

 鉄の拳は百町の顔面を眼鏡ごと殴り抜けた!

 

「百町――ッ!」

「わーいたそー(棒読み)。死んだんじゃないの~」

「ケケケ四人目だぜ! なかなかいいコンビネーションだったが宇城ィ! テメェマジで後で話があるからな!」

「あん? 祝勝会の誘いっすか?」

「ちっげーわボケナスゥ!!」

「貴様らこの私の後輩百町までも! 許さん!」

「ぐわッ!?」

 

 更に苛烈になった糸島の攻撃に奏丞がぶっ飛ばされる。それでもなんとか受け身を取って体勢を立て直そうとしたところで、この場にいないはずの幼馴染の声が聞こえてきた。

 

『お兄ちゃん♡ お兄ちゃん♡ お兄ちゃん♡』

 

「う、うおおおなんだこの気色わりぃ猫撫で声はぁ?!」

「……あっ、これ黒神真黒のケータイの着信音じゃねーか!」

「知ってるんすか雲仙先輩!」

「あいつ化け物妹の声を着信音にしてんだよ! クソッ、二度と聞きたくなかったのに聞いちまった! おえっ!」

「あんたら救出対象なのにボロクソ言うねー」

「このクソ忙しい時に誰だいったい……!」

「電話など取る暇があるかな!? フンッ!」

「いッ!? ……てーなコンチクショウ!」

 

 善吉達に動きがあったのだろう、すぐに電話を取りたいところだが糸島がそのスキをなかなか見せない。焦る奏丞を見て、時間を稼ぐために冥加が糸島に向かっていく。

 

「ウキソースケ! 835058101075249(今のうちに電話を取れ)!」

「! 助かるぜ冥加!」

「7041410013393(今愛してるって言った)?!」

「87941257047821610(言ってねえぞ色ボケクソ姉貴)!」

 

 奏丞は急ぎ糸島から距離を取り、電話に出る。

 

「もしもぉし!?」

『!! 出た! 奏丞だな!?』

「お前善吉か!?」

『そうだ! 今」

『奏丞!!』

 

 くじらの声が聞こえた。

 

『助けて!!!』

 

「今行く」

『えっあっ、お――』

 

 戸惑う善吉の声も聞かず、奏丞は電話を切った。

 

「雲仙先輩! この場任せてもいいですか?!」

「……行け! さっきから低難易度で飽きて来たとこだぜ! ちょうどいい味変だ!」

「美しい先輩愛だがそこは行かせない私だ!」

「!」

 

 割り込んで来た糸島が今まさに超必殺技を放とうとしていた! すぐさまスタンドを使い全力で防御しなければこの場の全員の命すら危ない状況だったが――しかし!

 

「ほいっ」

「おべっ!?(ズテーン!)」

 

 そんな糸島の足を文字通り引っ張ったのは……倒れていたはずの鍋島猫美!

 

「ささ、はよ行ったげて♪」

「ケケケ☆ 流石反則王、迫真の死んだふりだな!」

「ひ、卑怯なヤツめぇ~!?」

「ウケる~。写真撮っとこーかな(棒読み)」

「鍋島先輩! あざっす! スティッキィ・フィンガーズッ!!」

『!?』

 

 エレベーター手前の床をスティッキィ・フィンガーズで殴りつければ、ジッパーで開かれた先にエレベーターシャフトが見える。地下十三階まで一直線の縦穴だ。

 

「みんな、すぐにそいつらを倒したら仲間連れて即、下の階に移動してくれ! ()()()()がここに近づいて来てる! 思ったより早い!」

「テメッ、最後の最後に爆弾残してくんじゃねーよ!? 一体何のこった!?」

「悪い、後は頼んだ!」

 

 そう言って奏丞はエレベーターシャフトに飛び込んだ。

 

「スティッキィ・フィンガーズ! 壁にジッパーを貼り付けろ!」

 

 縦穴の壁に、最深部まで続くジッパーのラインができた。その引手を掴み、奏丞は一気に下まで降りていく。すぐに最下層のドアに到着し、そのドアもまたスティッキィ・フィンガーズのジッパーで開けて飛び込んだ!

 

『!!』

 

 突如現れた奏丞に注目が集まる。

 奏丞はくじらの姿を探し……血まみれで倒れているいたみと、脇目も振らず泣きじゃくりながら応急処置をしているくじらを見つけた。

 

「…………」

 

 無言で奏丞は走り出した。いたみまでの最短距離を一直線に。

 しかし進路上には殴り合うめだかと都城がいる。

 

「ほう! いつ来たか知らんがちょうどいい!」

「! 待っ」

 

 止めようとするめだかを都城が弾き飛ばし、向かってくる奏丞に即飛び掛かった。

 

「貴様の奇天烈なスキルも徴税できるか試してみようッ!」

「しまった、逃げろ宇城クン!」

「…………」

 

 高貴の警告の声が飛ぶが、間に合わない。都城が奏丞に触れそうになった瞬間……奏丞の姿が消え、都城は誰に触れることもなく床に着地した。

 

「なにッ、消えた!? ヤツはどこへ……ハッ?!」

 

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 

 ――都城が背後に振り向くと、奏丞がいつの間にかいたみの傍で膝をついている。

 

「(なんだと!? 馬鹿な、いつの間に後ろに! まさか今の強化された俺の動体視力ですらヤツのスピードを見切れなかったというのか!?)」

 

 しかし驚愕はそれだけではない。瀕死の状態だったはずのいたみが、何事もなかったかのように身体を起こしたのだ。

 それを見て驚いているのは都城だけでなく、高貴ともがなも同様だ。めだかと善吉、真黒はわかっていたかのようにホッとしている。

 そして……腰が抜けたくじらは、膝をついてなお大きい奏丞を見上げた。

 

「…………奏すわぷっ!?」

「…………」

 

 くじらの顔にハンカチが押し付けられ、些か乱暴な手つきで目元が拭われる。

 

「そっ、まっ…………っぷ、もう! 何すんだよ!」

「くじら」

「な…………なんだよ」

「見てろ」

「…………え?」

 

 ハンカチをくじらに押し付け、奏丞が立ち上がり歩いて行く。都城に向かって。

 くじらは奏丞の背を茫然と見つめ、都城がニヤニヤと笑い、めだかは察した様に道を開けた。

 

「奏丞ッ! そいつは今古賀先輩の超パワーと再生力をコピーしてやがる! 接近戦は危険だぜ!」

「……と、貴様の友人は言っているようだが?」

「……バカ言ってるぜ。近づかなきゃあよ」

 

 奏丞は都城の目の前に立った。互いに手を伸ばせば容易に届く距離だ。

 

「てめえをぶん殴れねえじゃあねーか……!」

「ククク……とぼけた男だがやはり激情の性格か。それとも茹り過ぎて脳みそが馬鹿になっているのか?」

「ああ……最高にムカついてるぜ。テメーみたいに平気で人を傷つけて笑ってる奴には特によ」

 

 そう言うやいなや、奏丞は左拳を大きく振りかぶった。防御をカケラも考えていない姿勢だ。それを見た都城はなおさら笑いが止まらない。

 

「おいおいおいおい、まさかその左手で俺を殴ろうなんて考えてるんじゃああるまいな?! 一体なんのパフォーマンスだ。道化具合で行橋に張り合っているつもりか?」

「ッ!!」

 

 殴った。奏丞は無言で都城を殴りつけた。当然、振りかぶった左拳で。

 そして……パシッ!! とあっけなく都城の右手に受け止められた。

 

「……なんだ今のパンチは。まるでピッチャーフライを取るみたいに簡単に受け止められ(グチャッ)おっと!」

「~~~~ッ!?」

 

 湿った音が響く。少し力を込めただけの都城の右手が、奏丞の左手を容易く握り潰したのだ!

 

「ハッ、ハハハハハハハハ!! すまんすまん訂正する! まるで腐り切ったトマトを潰さずキャッチするように大変なパンチだったよ! まさか人体がかくも脆かったとはな! いやあ俺もまだまだだな学ばせてもらった! ハハハ(ガシッ)…………は?」

 

 都城の右手首が掴まれた。何に? 奏丞の右手ではない。

 ――それは左手だった。潰したはずの左手の陰から、もう一つ左手が出て来て都城の右手首を掴んだのだ。

 

「え?」

 

 一瞬! 都城の動揺の一瞬を奏丞は逃さなかった!

 

「ドラァッ!!」

「がぺッ!!?」

 

 右拳による全力の顔面パンチが都城をぶっ飛ばした! 棚に突っ込んだ都城にコンピューターの破片が降り注ぐ。

 静まりかえっていた……もう誰も声をあげなかった。うめき声すらあげず、皆ただアングリと口を開けていた。

 

「てめえが潰した左手はキッスのシールで()()()()左手……シールを剥がせば(バチィィーン!)ってぇ~! ……っ、一つに戻るッ!」

 

 ただし、戻った時には破壊が起きる。『キッス』はそういうスタンド能力。無事だった方の左手も一つに戻った拍子にズタズタになったし滅茶苦茶痛いが、それでも。

 

「ふー……すげー痛いけど……素手で殴ったらちょっとだけスカッとしたぜ。

 くじら、お前はどうだ?」

「……………………ああ」

 

 めだかはやれやれとばかりに苦笑いを浮かべ、

 

「ちょっとだけ………スカッとしたよ」

 

 善吉は無茶な幼馴染にため息をつき、

 

「……ちょっとだけ…………な」

 

 くじらは湿ったハンカチを、強く握りしめた。

 

 

*1
死んだとは言ってない





 原作との反応の違いは、くじらが治療を諦めたか諦めてないか。
 そして作者好みの泣き叫び方か否か♡

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