目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

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来週の投稿はお休みの予定。本当に申し訳ない。




第三十一話:恋人はオレだッ!

 

 

「最近俺の扱いが悪いと思う」

「そりゃそーだろ……何が原因か、胸に手を当てて考えてみろよ」

「椅子にグルグル巻きにされてて手が動かせねえ」

「だろーな」

「しょうがないからそろそろ解いてあげよっか。ジッとしててねー」

「ありがとう人吉先生…………尋問中にめっちゃ俺の身体触って来たのは何?」

「だって筋肉すごいんだもん! いいわよねー若い男の筋肉。善吉くんもこれくらい筋肉付けてみない?」

「母親が男友達にべたべた触ってるの見ると複雑なんだけどよ……筋肉はこれ以上いらねー。格闘技使いにくくなっちまう」

「うーん、こうして見ると確かにスポーツ向きって感じの身体つきでもないかなあ。もうちょっと絞った方がいいんじゃない? 水泳部来ない? いい運動になるよ!」

「いやいや、これでいいんだよ。彼の場合はスタンドありきの戦い方になるからね。不意打ちされようが致命傷受けようが、即死しなきゃリカバリーが利くから、とにかく死ににくい身体に鍛えたんだよ」

「よくわかりますよ。以前柔道で戦った時がそうでしたが、とにかく耐久性に優れている印象でした。真黒さんが鍛えたにしては変な戦い方だと思いましたが、道理でこんな身体になるわけですね」

「死ににくい身体なら私みたいに改造受けるの、オススメなんだけどなー。一緒にくじらちゃんにお願いしたげよっか? きっと喜ぶよ~?」

 

 奏丞がスタンドについて色々暴露した後。

 来る球磨川との戦いに備えた戦力補充のため、めだかとくじらが日之影前生徒会長を呼びに行っていた。

 日之影(ひのかげ)空洞(くうどう)

 以前、奏丞に会うため一年生の教室に押しかけて来たこともある男だが、彼は箱庭学園トップの実力者だ。

 あまりに巨大(デカ)く、あまりに強大(つよ)いがために、人は思わず目を逸らし、認識できなくなり、記憶からも消し去ってしまうという異常性(アブノーマル)知られざる英雄(ミスターアンノウン)』というスキルを持っている。

 それがどれほどのスキルかというと……

 

「めだかちゃん達、この大変な時にどこ行ってんだろうな」

 

 善吉がボヤいている通り、めだかとくじらが日之影を呼びに行ったことすら忘れているくらいだ。

 さてその間、教室に残ったメンバーは共有した情報について話している。

 

「江迎ちゃんに当てるのは奏丞くんで確定だね。なんせ見えない人型のエネルギー体なんて僕達は相手のしようがないからね」

「もちろん、怒江のことは任せてください。とはいえ今は家族の護衛のためにスタンドは遠くにいるし、こういう時に本体攻められるとスゲー困るっすけどね」

「理屈を聞いただけなら俺達でも罠とかで本体を狙えば戦えないことはなさそうだが……真正面からは絶対無理だな。

 古賀さん、君の設計思想(コンセプト)的にはその辺りどうクリアするんだい?」

「ん? ごり押しー」

「ご、ごり押し?」

「最低限急所のガードを固めたら、後はパワーと再生力に任せて高速で突っ込むんだよ。流石に奏丞くんは致命的なスタンド使わないだろうし、そのスキにって感じ!」

「怒江のスタンドは触れた物を腐らせるはずだから、それやると普通に致命傷っすよ」

「参考にならないなぁ…………あっ、でも私の声帯砲(おおきいこえ)は防げないから効くってこと?」

「おー、効く効く。俺にも効くし怒江にも効く」

「喜界島ちゃん最強説が出てきたわね……ちなみに君の致命的なスタンドって例えば何があるの?」

「相手を爆弾に変えるスタンドとかありますよ」

「……爆発したら変えられた人はどうなるの?」

「それは『爆発したダイナマイトはどうなるの?』って質問と同じですね」

「くれぐれも使わないでよそんな能力!? まったくもう…………はい、解けたわよ」

「ありがとうございます」

 

 殺人カビをばら撒いたり世界中のキャラクターを実体化して大混乱を起こしたりと、物騒なスタンドはまだまだある……が、使う機会は今のところまったくない。ちょっともったいない様な気もするものの、このまま一生使わずに済むならその方がいいだろう。

 ようやく拘束が解けた奏丞は椅子に座り直した。

 

「そーいやお前、これまで手紙でしかやり取りしてなかったヤツが来たってわりにはあんまり驚いてねーな?」

「引っ越して来るつもりってのはその手紙で聞いてたしな。引っ越し先の住所知らねーと手紙出せなくなるし」

「ねえねえ十三年間毎日文通してたってホント?! 宇城には勿体ないくらいすっごく健気な子じゃない!」

「毎日そんなことしてたなら、そりゃあ速記が得意にもなるわけだ。子供の頃の約束をずっと守ってるなんて、君にしてはずいぶん律儀じゃないか」

「そこはまあ色々口出しした責任というか……てか勿体ないとか俺にしてはってなんだよ! 俺はいつだってハンサムなナイスガイだろうがよ!」

 

 そう言った奏丞の両肩に、真黒といたみがポンと手を乗せる。

 

「そうかいそうかいハンサムくん。口出しした責任はきっちり取ってくれるんだね……?

「ナイスガイさん凄いなー憧れちゃうなー。なら相応しい責任の取り方見せてよねぇ?

「(……やっぱり扱いがひどい気がする!?)」

 

 もちろん自業自得だった。

 その時、ゴンゴンと教室のドアをノックする音が聞こえてくる。

 話をそらすため、渡りに船とばかりに奏丞は食い気味に返事をした。

 

「はいどうぞー!」

「うわびっくりした! おめー何いきなり大声出してんだ!」

「ん? だってノックされてんじゃん」

「ノックゥ? なんのこった?」

「……あー」

 

 他のメンバーもノックを認識できていなかったらしい。これはおそらく、めだかとくじらが呼びに行っていた日之影のスキルのせいだろうと察した奏丞。

 

「おー、入るぜー」

「どーもっす、日之影先輩」

「へっ、包帯まみれなわりに元気そうじゃねーか宇城。ノックして返事してもらえたのは久しぶりだぜ」

『……思い出したぁ!』

 

 奏丞が教室に入って来た日之影を見て、他の面々も連鎖的に彼のことを思い出したらしい。日之影の後ろにはめだかとくじらもついて来ている。

 

「ふーん……」

 

日之影は教室にいた面々を見渡した。

 

「……黒神真黒(ごうかく)人吉善吉(ごうかく)人吉瞳(ごうかく)阿久根高貴(ふごうかく)喜界島もがな(ふごうかく)古賀いたみ(ごうかく)……」

 

 そして最後に奏丞を見て。

 

「……宇城奏丞(とっこうやく)

「は?」

 

 日之影はめだかの方を見た。

 

「……もう全部宇城(コイツ)に任せっか?」

「おいコラ」

「名案ではありますが流石にそうもいきませんので……」

「ちょいと待ちなよ日之影くん。僕みたいな弱っちいのが合格なのに阿久根くんや喜界島さんが不合格なのはどういうことだい?」

「俺が言ってるのは腕っ節の強さじゃねーよ真黒くん。精神(メンタル)の強さだ」

 

 ドカリと椅子に座った日之影が話し出す。

 

「俺はついさっきマイナス十三組と接触してきた」

『!』

「率直に言って『話にならない』というのが奴ら過負荷(マイナス)への感想だ。そしてマイナス十三組の真の異端さは性質(スキル)じゃなくて性格(キャラクター)にこそある。

 いや――いっそ人格とか心とか言った方がいいのかな」

「宇城が特効薬って言うのは能力も精神も強いから対過負荷に向いてるってこと?」

「あくまで重要なのは精神さ。力の有る無しはこの際関係ねーんだ。

 ……現に俺がそうだった。誰よりも力があるはずのこの俺が、過負荷(やつら)との戦いを渾身の力で投げ出した。戦うという形でさえ、嫌うという形でさえ、連中には関わりたくないと思ったんだ。

 そういう意味では……ははっ、現生徒会長殿も合格だし、名瀬も合格だよ。

 どうやら妙ちきりんな薬を常用してるせいで、ちっとやそっとじゃ折れなさそうだなぁ?」

 

 そう言ってにやにやと奏丞を見つめてくる日之影。

 

「……オレェェ?」

「そうお前。気になってたんだけどよ、なんでお前には俺のことがいつでも問題なく認識できてるんだ?」

「そう言われても……俺、スキルの干渉防ぐスキル持ってんですよ。たぶんそれのせいじゃないかと思うんですけど」

「俺の知られざる英雄(ミスターアンノウン)は言ってみりゃ『ピカピカ光るスキルのせいで眩しいから皆目を閉じちまう』って理屈さ。

 俺が滅茶苦茶強いって異常(アブノーマル)があるから結果みんなが目を逸らしちまうってだけで、お前に直接干渉してるわけじゃねーんだが、それでも効かないのか?」

「どーなんすかね? 『強い』とか『眩しい』くらいで一々目ェ逸らしてらんないっすから、俺としちゃどっちでも都合がいいんですけど」

「……ふふ、そーゆートコなんだろうな」

 

 日之影はさっきの自分の醜態を思い出し、苦笑いした。

 

「気持ち悪いだの関わりたくないだのじゃねーんだ……吐き気を催す邪悪に対して、真正面から『上等だ』って立ち向かっていけることが大切なんだろう」

「……日之影前生徒会長。ですがそれは『過負荷に対して強い』だけでもあります。いみじくもあなたの言う通り、こやつはあくまで特効薬。『駆逐』はできても『共生』できるかは別の話です」

「……共生できると思うのか? あの悍ましい過負荷達と」

「中学の頃はできませんでした。ですが、私も少しは成長しています。頼もしい仲間も増えました。ならば昔の私ではできなかったことが、今ならできるかもしれません」

「それでもダメだったら?」

「それでもダメならその時は……そうですね。笑って誤魔化すとしますよ」

「……ははっ、お前もすっかり言うようになっちまってな」

 

 日之影は教室を見回す。めだかと同じく、逃げ腰のヤツなんてどこにもいない。ここへ来るまで、心はこれまでになく悲観的だったが……とんでもない。ここにいるのは最高に頼もしく、希望が持てるメンバーだったのだ。

 

「……『凶化合宿』、やってみるか? あの不知火理事長があまりに過酷過ぎて廃止したっていういわく付きのメンタルトレーニングだが」

「あの理事長が……!?」

「凶化合宿か……まだ皆には早いと思っていたけど……」

「そうも言ってられないだろ、真黒くん。

 幸い明日の一学期終業式を終えればしばらく夏休みだ。夏休みをフルに使って合宿ができればマイナス十三組にも有利に立ち回れるかもしれねえ。

 それでも奴らを相手にする方が楽かもしれんくらい諸刃の剣だが……どうするお前ら?」

「「「やります!」」」

「……そうか」

 

 善吉、高貴、もがなの即答に日之影がほほ笑む。

 

「お前はどうする宇城? なーんか言いたげな顔してるが」

「うーん……」

 

 原作では明日にでも行動を起こす球磨川を知る奏丞は、言おうか言うまいか少し悩んだが……

 

「夏休みいっぱいの合宿ってちょーっと悠長すぎないっすか?」

 

 ほのめかす形でやっぱり言うことにしたようだ。

 

「悠長だって?」

「あの球磨川だったら今日明日にでも全部台無しにしたいはずっすよ。俺達がのんびり修行パートしてる間、アイツらが呑気に夏休みしてそれを見逃しますかね?」

「……奏丞よ。つまり奴らは速やかな十三組抹殺のため、策を練ると予想するわけだな? 具体的な予想はしているのか?」

「俺じゃ考えつかん」

「…………はぁ、で?」

 

 呆れたようなめだかの表情だが……続きを早く言え、というように顎を動かす。

 

「俺じゃ考えつかない策だけどよ、めだかならどうする?」

「…………ふむ」

「お前ならどう生徒会(おれたち)を黙らせて、不登校の問題児たちを集めて、残らず抹殺する?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 あれから一夜明けて七月十七日。

 全校生徒(十三組は除く)を集めた箱庭学園一学期の終業式が始まろうとしていた。

 壇上に立つめだかが開会の宣言をすべく喋り始める。

 

「それではこれより本年度一学期終業式をフンッ!」

 

 ――終業式をフン!!??

 

 突然のめだかの意味不明な発言に、生徒たちが驚いた!

 とはいえ、これは別にめだかがトチ狂ったというわけではなく……

 

「『おっと危ない!』『油断も隙もないねえめだかちゃんは!』」

「……油断も隙もないのは貴様の方だぞ、球磨川!」

 

 ちょっかいをかけようと背後から迫って来た球磨川を、めだかが蹴り上げたのだ。

 残念ながら球磨川はあっさりと避けたので、蹴りが当たることはなかったが。

 

「このような場で何の用だ。今壇上に上がってよいのは生徒会役員だけだぞ。

 構ってほしいなら式が終わった後で構ってやるから後にしろ」

「『……生徒会役員ねえ』『いやいや邪魔する気も構ってほしいわけでもないんだよ』

 『ただ』『このような正式な場でめだかちゃんに話しておきたいことがあるだけでさ』」

 

 すっ、と球磨川が懐から取り出した紙には、見知らぬ名前がビッシリと書かれている。見えた限りでは全てがマイナス十三組所属となっている名前ばかり……しかもおそらく、全校生徒の過半数に達するであろう数だ。理事長によって水増しされた生徒達だろう。

 その表紙には……『生徒会長解職請求に対する同意署名』という記載。

 

「『箱庭学園学校則第四十五条第三項に基づき』『生徒会長黒神めだか』『君に解任請求(リコール)を宣言する』」

「…………第四十五条第三項。『生徒会執行部に明白な不備がある場合、全校生徒の過半数の署名をもって役員は即日罷免される』」

「『おや?』『あんまり驚かないねえ』『もしかして自分たちの不備を自覚してたのかな?』」

「生徒会則第二条『生徒会執行部は会長・副会長・会計・書記・庶務の五名よりなり、会長は当選後()()に他の役職に相応しき者を選定しなければならない』。

 ……貴様が言いたいのはつまりこういうことだろう。『今の生徒会には副会長が不在』だとな」

「『わかってやってるならなお罪深いね!』『とはいえ潔いのは良いことだ』『()()生徒会長の唯一の美徳だね!』『だからこそ君はこれから何をすべきかもちゃーんとわかっているわけだ』」

「ふん……第四十五条第十三項『解任責任』。『行事運営に支障をきたさぬよう、解任請求者は次期選挙までの間臨時で生徒会長を務めなければならない』。

 つまり臨時生徒会長になる貴様に、この会長の腕章を渡す必要がある」

「『その通り』『補足すると会長の解任は役員諸共だ』『だから君達先代生徒会執行部は全員』『僕達新生徒会に腕章を渡す必要がある』」

 

 そう言った球磨川の傍に並び立つ四人。

 つい先日顔合わせしたばかりの江迎怒江の他に、瞳が警戒していた球磨川に匹敵する絶対値の持ち主……志布志(しぶし)飛沫(しぶき)蝶ヶ崎(ちょうがさき)蛾々丸(ががまる)

 そして最後の一人が……

 

「なっ……えっ……? 不知火っ……!? どうして……!?」

「…………」

 

 驚く善吉と顔を合わせようとしない不知火半袖だった。

 

「……なるほど。校則や生徒会則についての入れ知恵は理事長かと思ったが、不知火だったか。ならば当然、生徒会則第十七条『生徒総会の強制召集権』についても知っているわけだ」

「『そう――『生徒会長は職務に則り任意に生徒総会を設け全校生徒を一同に集められる』』『この場合の全校生徒にはもちろん』『通常は登校義務のない十三組生も含まれるんでしょ?』」

「ああ、その通りだ」

「『……なーんかつまらないなあ』『もうちょっと良いリアクションない?』『変にしらーっとしちゃってさ!』『学生生活最後の壇上(ステージ)なんだから』『ここはウケ狙いで最期のひと花を咲かせてほしかったよ!』

 『まーいいや』『それじゃあ新生徒会長としてマニフェスト発表を「その必要はない」んん?』」

 

 絶望するわけでもなく、めだかは冷静に球磨川を見ている。

 いや、めだかだけではない。善吉達他の役員も同じだ。

 慌てふためいたっておかしくない状況にもかかわらず、誰も冷静さを失わず球磨川を睨みつけている。

 

「黒箱塾塾則第百五十九項『塾頭解任請求ニ関スル項目』」

「『……黒箱塾?』」

「この箱庭学園の前身……黒箱塾におけるリコールのルールだよ。

 塾頭……つまり今で言う生徒会長に解職を請求する場合、塾頭側と請求者側の決闘をもって次期塾頭を選出するという内容だ。

 当時は防具をつけずに互いに日本刀を持って五つの役職を奪い合ったらしい。だから貴様達が私達をリコールすると言うのなら、それに準ずる形での果たし合いを交える形になるだろうな」

「『……そんな文明開化以前に定められた野蛮な決まりごとが現代で通用すると思うの?』『塾則なんて手続き上たまたま撤廃されてないってだけのルールでしょ?』」

「それを言うなら貴様の出してきたルールは学園史上一度も使用されたことのない条文だ。塾則第百五十九項には「『過去三回の適用実績があるって?』」!?」

 

 球磨川の一言に、めだかの冷静な顔が崩れた。

 

「『――その顔が見たかったんだよ』『めだかちゃん』」

 

 邪悪な三日月の如き笑顔が、ニタリと球磨川の顔に浮かぶ。

 

「塾則まで知っていたのか、貴様ッ!?」

「『原則同士が対立した場合の判断は現生徒会長に委ねられるのが原則――』『リコールを宣言してしまった以上』『僕達はめだかちゃんに従うしかないってわけだ』」

 

 まるで泣き顔を隠すかの様に、しかしどこまでも嘘くさい演技で、球磨川は自身の顔を両手で押さえる。

 

「『せっかく話し合いで終わらそうとしていたのに』『君の望みを尊重して平和に終わらせようと思っていたのに』『君が殺し合いをしたいって言うから』『僕達はやりたくもない決闘に応じるしかない』

 『そう』『めだかちゃんが望んだんだよ』『めだかちゃんが人死にを望んだんだ』『だから』『この決闘で何が起ころうと』『僕は悪くない』」

「~~ッ、『プレッシャー』のかけ方が……ずいぶんとうまくなっていたようだな……!」

 

 実のところめだか達にとって、塾則を持ち出し決闘する流れにするのは既定路線だった。無差別な被害を減らし、マイナス十三組との直接対決に勝負を落とし込む策だったが……それを球磨川が承知しており、むしろこの状況を狙っていたとなると話は変わってくる。

 間違いなくペースはまだ球磨川の方にあり、マイナス十三組は決闘を前提にして備えているということだからだ。

 こちらを睨みつけるめだかを気分良く眺めながら、球磨川はつい昨日の、怒江を除く幹部会で不知火が言っていたことを思い出す。

 

 

 

 

 

「――と、こんな感じで最終的には五対五の団体戦になるでしょうねー☆」

「『なるほどね!』『そうそう上手くはいかないわけだ』『だけどあの奏丞ちゃんがそんな複雑な策思いつくかなー?』」

「絶対思いつかないでしょうね! 賭けてもいいですが塾則どころか校則なんて一項たりとも覚えてないですよ!

 ただ、彼もなかなか性格が悪いですからねえ。少なくとも球磨川先輩がのんびり夏休みなんて悠長なことはしないだろうと生徒会長殿に進言するでしょうから、おそらく生徒会長がこの流れに思い至るでしょーね☆」

「合法的に殺し合えるのはオモシロソーだけどよー。五戦中三勝しなきゃダメなんだろ? 俺達三人で達成できるとしてもかったりーなー」

「心配ご無用♪ 三勝どころか引き分けでもこっちの勝ちです☆

 『君臨すべき生徒会には圧勝の義務が課せられる。故に現生徒会は新生徒会と互角の戦いをした時点で資格なし』。

 決闘するなら挑戦者(クーデター)サイドに明確に勝ってなきゃ現生徒会として相応しくないってしょーもない理屈ですが、それがルールなんだから仕方ないですね!」

「……確かにあの不確定要素の塊に大暴れされる心配なく、出張って来ても一戦だけに封じ込められるなら上策でしょうか。球磨川先輩、確か勝てる可能性があるのは江迎さんだけと言っていましたよね」

「そのまま戦うだけじゃたぶん勝ち目はありませんよー。ただまーそこは球磨川先輩の腕の見せ所ですね♪」

「『……なるほどね!』『その時が来たら怒江ちゃんが勝てるよう』『彼の能力を制限するような策を仕掛ければいいわけだ』『そー言われるとなんとでもできそうな感じがしてくるかな!』『まっ』『そこらへんはステージの内容次第でもあるね!』」

「強いて言うならオドシの類は通じないでしょうねー。人質だのは対策してくるでしょうし、萎縮して弱るどころか過負荷に対する正義の怒りを身につけて向かって来るでしょうね☆」

「『あっつ苦しーなあ』『まー奏丞ちゃんはわかりやすいタイプだし』『どーとでもなるでしょ』

 『よーし』『それじゃあ明日は不知火ちゃんの作戦で行こう!』」

「あざまーす☆(……はー、あのおバカのせいで調整大変だよまったく。こりゃラーメン奢りじゃ足りないなぁもー!)」

 

 

 

 

 

 ――つまりは全て、球磨川の予定通りの展開ということだ。

 

「……つくづく予想通りにならん男だよ貴様は」

「『別に前言撤回してくれてもいいんだぜ?』『僕らは平和主義者なんだ!』『争いなんて良くないよ!』

 『それにどーせ生徒会長じゃなくなるんなら』『今更みんなの前で二言の醜態晒したって構わないでしょ?』」

「この黒神めだか、吐いた唾は飲まん主義だ! 宣言通り実施するぞ! 生徒会選挙……否! 生徒会戦挙だ!!」

「『OK!』『立場の弱い僕らは』『泣く泣くそれに従うとするよ!』」

「フン、抜け抜けと……」

「『さあ戻ろうか』『卑怯な現生徒会に負けないよう』『僕達も作戦会議だ!』」

 

 踵を返す球磨川に続いて志布志、蝶ヶ崎、不知火も壇上から去ろうとする。

 

 ――その時怒江はなんとなく……本当になんとなく。茫然としていた一般生徒達の方をチラリと見た。

 別に、探そうとしたわけではない。

 ただ、きっとこの生徒の群れのどこかから、自分を見ているんだろうと思ってふと見ただけだった。

 再会はきっと、映画館の隣の席に意図せず座るような、気付かず図書館で同じ本を取ろうとしたような、そんな運命のような会い方になると思っていたからだ。

 ……だから、まるで磁石が引き合ったかのように奏丞と視線が合い、呑気にこちらへ手を振っているのを見て、これもまた運命だと思ったのだ。

 

「~~~~っ!!(ぱあっ)」

 

 怒江の顔に笑顔が溢れた。体が完全にそちらの方へ向く。

 我慢できずに壇上を降りれば、その可愛らしい顔にも絆されない生徒達(箱庭生の危機管理力はなかなか高い)が一斉に怒江を避けて綺麗な道ができた。

 

「『あらら』『やっぱり我慢できなかったみたいだね』」

「……いいのですか球磨川さん? 説得されて万が一でも離反されたら困るのでは?」

「『大丈夫大丈夫!』『怒江ちゃんと奏丞ちゃんの性格ならそんな無粋なことしないでしょ』」

 

 開けた道の先にいる奏丞に駆け寄り、怒江が嬉しそうに話しかける。

 

「奏丞くん、ひさしぶりっ!!」

「よっ、久しぶりだな! 十三年ぶりか?」

「うん! ようやく会えて私嬉しいわ!」

「ずーっと手紙だけのやり取りだけだったからなあ。俺も会えて嬉しいぜ」

「じゃあ一緒に暮らしましょう!」

話題転換(ギアチェン)えぐない?」

「またお引越しの準備をしないとね!」

「……あ、この感じもスゲー懐かしいぞ」

 

 忘れもしない、あの勢いの予感だった。

 

「本当はこのタイミングで会うつもりはなかったのよ? 愛する者同士の再会はきっとロマンチックで運命的になると思ってたもの! でも自然と視線が合っちゃったからね。気持ちが通じ合ってるんだってわかったわ。こんなに素晴らしいことは他にないわよ! だから今以上の演出は蛇足よね! 妄想の運命よりも今ここにある運命の方が大切だもの! つまらない予想をしていい気になっていた私の姿は思えばお笑いだったわね! だけどそうなると引っ越し先を最初からあなたの住所にしなかったのも手痛い失敗だったかなあ。もっと後で再会した時にお引っ越しの相談をしようと思ってたから、こんなに早く会えたなんて想定外だったの! あっ、でも一秒でも早く会いたいってあなたの気持ちはちゃんとわかってたのよ。ないがしろにしてたわけじゃないから安心してね。大丈夫、これまで会えなくて寂しい思いをした分、これからの生活はきっと素晴らしい生活になるわ! とはいえだからってそんなに無邪気に期待したって今回の戦いでは手加減しないわよー。球磨川さんには私が過負荷(マイナス)じゃなくて普通(ノーマル)なのに理事長さんを説得して一年マイナス十三組として転校する手助けをしてもらった恩があるからね! 成長した私の力を見てほしいし、手足ちょん切ってさらっちゃうくらい本気で挑ませてもらうわ! あっ、今もしかして嫌われたんじゃないかって不安になっちゃった? もちろん違うのよ? あなたが好きになってくれた私でいるために、恩知らずなことはできないってだけ! 私だって億が一、兆が一あなたに嫌われたならあなたと一緒にすぐお墓に入りたくなるくらい悲しくなるから同じ気持ちね! もう、しばらく会わない間にヤンデレさんになっちゃって。そーいう独占欲の強い所、私以外に見せちゃダメよ? 勘違いする女はいくらでもいるんだから。今後は変なトラブルにならないよう、そこらへんもしっかり私が面倒見てあげるわね。嬉しいでしょ。ふふふ、そんなに喜ばれちゃうと私も照れちゃうなあ。身長はすっかり大きくなって男らしくなってるのに、そういう所は変わってないんだから! でも送ってもらった写真で見るよりも実物のあなたの方がずっと素敵よ。あなたが私に見惚れてるのと同じようにね。ああ、また気持ちが通じ合っちゃったわ。お似合いっていうのはこういうことを言うのね。どっかの誰かさんみたいに奏丞くんの優しさに付け込んで横恋慕している間抜けとは大違い! というか独りよがり過ぎてもはや可哀想になってくるくらい。募金箱があったらニ十円くらいは募金してあげたいほど可哀想! まあそんな奴はどうでもいいとして、ちゃんと能力についてはできるだけ皆に秘密にしてるのよ? 球磨川さんには私の能力話しちゃったけどそれくらいかな。転校のための必要経費だったから仕方ないわよね。実際家族にだって話してないもの。あなたとの大事な秘密だもんね! スタンド(これ)を見る度にあなたとの繋がりを思い出して凄く興奮してきちゃうくらい! 奏丞くんも同じよね? スタンド(これ)を見る度に興奮してるのよね? 私達って似た者同士よね!?」

 

 全校生徒の心が一つになる。

 ――この子、超ヤベー!!?

 

「怒江…………動機は違うけど、確かにスタンド(これ)を見るとテンションは上がっちまうな」

 

 ――普通に答えるんだ!?

 

「でも俺との同居は流石に無理だし俺の友達をあんまり悪く言わないでくれよな」

「あっ、ごめんね? 久しぶりに会えたおかげで思った以上に昂っちゃってるみたい」

 

 ――普通に聞き入れるんだ!?

 

 十三年の文通の成果をナメちゃあいけない。

 今まで自身のことやら周りのことやらを散々手紙越しに話し合ってきたのだ。お互いにちっとやそっとのやり取りではもはや動じないのだ。

 

「……く、球磨川。江迎一年生はあれで本当に過負荷ではないのか?」

「『うんまあ……』『あれでもちゃんと普通(ノーマル)だよ』『誰がどう見てどう聞こうと』『彼女はただの恋する女の子だ』」

 

 とはいえ怒江の様子に引いているのはめだかも球磨川も同じだが。

 これもう心通じ合ってるだろ。

 

「ところで奏丞くんこの後ヒマ? せっかくだから校内案内してよ」

「あー、いいよ。というか周りの視線超痛いからこの場を離れてぇ……」

 

 誰もが話しかけ辛い空気の中、二人はこの場を去って行くのだろうと思われたが――

 

「――待ちな」

 

 そんなの関係ねェとばかりに話しかける者がいた!

 

「好き勝手べらべら喋りやがって。やっぱり戦争か……いつ始める? 俺も参戦する」

「く、くじら院!?」

「誰だよくじら院」

 

 ここまで見せつけられては黙っちゃいられない黒神くじら!

 

「ウキソースケ1704574367015(宇城奏丞とおっぱい談義か)? 437674337800(私も参戦する)」

「何言ってるかわからな院!?」

「767565324428(何を言ってるかさっぱりわからんがな)!」

 

 偶然登校していた、おっぱい談義(していません)には目がない雲仙冥加!

 

「……なぁーにあんたら。私これから学校デートに行きたいんですけどぉ?」

「デートなんてねェよ。掃除ロボット(ル〇バ)くれてやるからそれでも追いかけてろ」

「7140785158026(お前ら機嫌が悪いのか)? 7943870338027732191380262345372(そんな時はおっぱいネタブッパしておけば皆笑顔になれるぞ)!」

「…………」

 

 そんな修羅場が衆目に晒されている奏丞は、今後の学園生活がどうなるかを想像して、急速に目が死んでいくのであった。

 

 






作者「はー、あのおバカのせいで調整大変だよまったく!」

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