今回は短め。束の間の休息回みたいなものですヨ~。
なので読んでもすぐに忘れていただいて良いですし、なんなら読まなくても大丈夫なくらいですホントホント(だから、当てないでくれぇっ!)
「ここが奏丞くんのお部屋なんだ! へー! ふーん!」
「……あんまりマジマジ見られても気恥ずかしいから自重してくれよ?」
「ベッド座っちゃお! いいわよね? いいに決まってるわよね? ごろーん! うふふふ寝転がっちゃった! これが奏丞くんの匂いかぁー。知ってる? 相手の匂いが好きなカップルは相性いいんですって。きっと生物としての本能が運命の相手を知っているのね。だから奏丞くんとの相性も……うふふふふふふふふふふ☆」
「話を聞いてくれい」
案の定自重してくれない怒江であった。まあ部屋に入れる前からわかっていたことではあるが。
しかし自分のベッドで女の子にパタパタされているととっても気になって仕方がない。
……あーあーお客様、枕に顔を埋めないでください。男の枕なんて汚いもんなんです。頭皮の脂が気になる年頃なんです勘弁してください。あーあー。
「いやでーす勘弁しませーん。それとも一緒に寝る? それなら詰めてあげるけど!
……そうだわ。こういう時ってピロートークっていうのをするのよね! しましょうピロートーク! カップルはみんなやってるのよねっ! 私もやってみたい!」
「……そういや友達とそんな話したって手紙に書いてたことあったな。触れるの恐くてスルーしたけど……それが何かわかってんのか?」
「日本語で言うと…………枕ことば?」
「なにもかもわかってねーじゃねーか! 枕ことばで何すんだよ! ピロートークは無しっ!」
「あれえ、そうなの? 奏丞くんあんまり興味ない? 前の学校では皆そういうことに興味があったみたいなのに」
「前の学校……城砦女学院?」
「そうよお」
「皆ピロートークに興味津々?」
「そうよお」
「女子校擦れてんなぁ……」
「でも私には『そのままでいてほしい』って、あんまり詳しくお話ししてくれなかったなあ」
「よかった擦れてても良心はあった!」
怒江はその能力に反して綺麗好きというか、ちょっと潔癖なところがあり、結果として学校では素直で清純なイメージを持たれているようだった。
どこかお嬢様っぽい怒江に余計な知識を植え付けることは学友たちにも躊躇われたのだろう……
「いやまあそれはそれでいいとして。しっかしこんな時間にどうしたんだ?」
「んー。今のうちにお顔……また見ておきたくて」
「……明日から夏休みなんだから、明るい内に来たらよかったろ?」
「だって戦争になっちゃったもん」
「……まあなぁ」
ベッドに横になっている怒江が、奏丞をじっと見つめる。さっきまでの楽しそうな顔だったのに、今は寂しそうな表情だ。
「きっと奏丞くん達生徒会は、戦いに向けて色々用意があるんでしょう? 修行する人もいるって聞いたわ」
「情報通だな。おおかた不知火のヤツだろうけど。というかどっから情報仕入れてんだあんにゃろう」
「明るい内に来ちゃったら私、きっとお外に誘いたくなっちゃうわ。それでうれしはずかしデート回が始まって、なんやかんやで最初の庶務戦がされるまでに小説換算で百話分くらいのキラキラ青春番外編が挟まると思うの」
「…………」
それはまた、色んな意味で失踪しかねない事態である。
「でも皆忙しい中で奏丞くんだけ気楽に遊んでたりしたらいい顔はされないんじゃないかって思って。だから私、会うのは今日の内がいいと思ったの」
「気を遣ってくれたのか……悪いな、ありがとう」
「ううん、気にしないで! 奏丞くんはそーゆー気遣いは疎いもんね? 未来の旦那様のために代わりに気を配るのは私の役目だもん!」
「なにい? 失敬な、俺は超気遣うタイプだぞ。気遣いの鬼だぞ」
「ふふふ……知ってる。子供の頃の口約束を守って、ずーっとお手紙くれてるものね?」
そう言って、にへらっ、と怒江が笑った。
……天使か? 正直滅茶苦茶可愛くて健気だ。
奏丞はふと、今日のミーティングでくじらが浮かべていた魔王スマイルを思い出して……やっぱり考えないことにした。
なにせ笑顔の種類が違い過ぎる。プリンとプリン体くらい違う。
「未来の旦那かはさておき……せっかく来てくれたんだしゆっくりしていきなよ。別に泊まりに来たわけじゃないんだろ? 帰りは送るからさ」
奏丞は怒江が持ってきたポーチを見た。小さく薄いので、着替えが入っている感じではなさそうだ。
これでリュックなんて背負って来ていたら部屋に上げるべきか迷っていただろうが、今回は幸いにもそうではなかった。
「ありがと! 男の子に送ってもらうなんて初めて! いっそ私の所に泊まっていく? 着替えを持って来るといいわよ!」
「残念泊まりませーん。送るだけでーす」
「もうっ! もうちょっとガッついてくれてもいいんじゃない? あんまり遠慮しいだと私が襲っちゃうかもよお?」
「おっとスタンドは勘弁してくれよ。今俺にはスタンドがいないんだ」
「え? なんで?」
「家族の護衛に付かせてる。生徒会戦挙のとばっちりがあったら困るからな」
「……そうなんだ。へぇー…………」
「おいコラ何考えてんだ」
おもむろに怒江が出した
スタンド使いとはいえスタンドにはスタンドでなければ触れない。そのため実は奏丞にとって危ない状況なのだが……
「……なーんちゃってね」
怒江はラブラフレシアをあっさりと引っ込めた。
「昔、お引っ越しでお別れした時のもう一つの約束、覚えてる?」
「ああ、覚えてるよ」
十三年前の懐かしい思い出だ。あの時交わしたのは確か、文通しようという約束と。
「次に会った時は思いっきり遊ぼうって言ったっけな」
「そう、それ。タイミングが悪くて再会直後ってわけにはいかなかったけど、おあつらえ向きのシチュエーションになりそうだし、私も思いっきり戦わせてもらうわ。そっちの約束もちゃーんと守ってね?」
「もちろん。さっき会計戦って言ってたよな? 誰がいつ出るか、もう決まってるのか?」
「おーっと、いくら奏丞くんとはいえこっちの作戦は内緒よ? マイナス十三組への裏切りになっちゃうからね!
でも球磨川さんは私に奏丞くんと戦ってほしいみたいで、くれぐれも会計戦に出るようにって奏丞くんへの伝言も預かってるから、それだけは教えておくわ。会計戦、一緒に楽しみましょー?」
「ふーん……搦め手で俺を出させようとするかと思ったけど、予想に反してストレートに言って来たな。そう言って実は会計戦以外に出る可能性はないか?」
「大丈夫だと思う。球磨川さん、良い人だもん」
「い、良い人かぁ……」
めだか達への嫌がらせを考えると良い人扱いは難しいが、それでも仲間意識は強い球磨川のことだ。怒江に対してはそういった非常識な部分をあまり出していないのかもしれない。
まあそれは奏丞の勝手な想像なので、やはり油断はできないが。
「怒江を利用してやろうって感じはないのか? 俺に対する切り札って意味ではそれが一番心配なんだけど」
「ふーん心配してくれてるんだあ♪ でもそれなら安心して。球磨川さん、そーゆー感じのことはあんまり私に頼んでこないから。作戦会議は私抜きでしてるけど、それであーしてこーしてって後から言うこともないし」
「……なるほど? ちなみに空き教室探してたのは球磨川の指示じゃなかったのか?」
「あれも球磨川さんがちょっと悩んでたみたいだから、役に立てるかなーって思ってやったの。結局不知火さんが別の教室確保してたから、いらないお世話だったみたいだけど。
……あー、だけどどうにか奏丞くんのスタンドに縛りを付けようとはするかも。たぶん奏丞くんが全力出したらすぐに勝負がついちゃうでしょ?」
「そうだなあ。かなり無法な能力もあるし、真の意味で全力出したら自惚れじゃなくあっという間に勝負が終わるぞ」
「流石にそれはねえー……うん、ならちょうど良いくらいにお願いね!」
「……まあ球磨川次第だな。全力で頑張ってるみんなには悪いけど、良い落としどころを見つけるさ」
とはいえ怒江のスタンドも触れた物を腐らせる強力なスタンドだったはずだ。舐めプしていたらそれこそこちらがあっという間に返り討ちにされかねない。
というかそもそも。
「……特に能力は変わってないよな? さっき見たスタンドの腕、昔はそんな砲門みたいな穴は付いてなかったと思うんだけど……」
「ふふふ……それもないしょー☆」
「……マジ? スタンド成長してんのォ? 手紙では特にそんなこと言ってなかったよな?」
「言ってないわ? あなたをビックリさせるためにね! それに私だって私なりに勝つ気でいるもの!」
「……そっか、怒江もそうかあ」
「?」
善吉と同じだった。怒江もまた、自分なりに今回の戦いに臨んでいたのだ。
「……俺もそうするぜ。お前らに本気でぶつからせてもらう」
「もしかして奏丞くんも修行してパワーアップしちゃうの?」
「修行じゃないぞ。前々から考えてた
誰にも相談したことはないが……実行するのは既に決めていることだ。
それでも怒江にだけこうして話しているのは、日頃から手紙でアレコレと相談したりされたりしているという慣れがあるからだった。
「なあにそれ。なんだかよくわからないけど……心配いらないわ!」
「……そりゃまたなんで?」
怒江は起き上がり、ベッドに腰掛けて言った。
「奏丞くんならきっと大丈夫って信じてるから!」
「………………やっぱ天使か?」
「えっ? やだもう、なにいきなり!」
どう考えても天使だった。突然の言葉に少し照れているようだ。
奏丞としては不安も大きい考えだっただけに、怒江にこうして応援してもらえたら勇気が湧いてきた。
「ありがとう。俺、すげえ勇気づけられたよ。よし! いっちょ賭けてみっか!」
「それならよかった! じゃあ私も付き合うわ!」
「いや、それはいいわ」
「……え?」
怒江がピシッと固まった。
「……ウッソでしょ、この流れで断るのっ?」
「つっても特にお願いしたいことないし……あとゆっくりしてくのはいいけど夜遅くなる前には帰るんだぞ。女子が真夜中に出歩くのは良くない」
「そーいうところはデリカシーないと思う! 零点! 失格! 追試受けなさい!」
「わ、悪いって。さっき言ったようにちゃんと家まで送ってくからさ……」
「……五点だけ追加してあげる」
「何点満点?」
「百点満点よ」
「焼け石に水だったな……」
その後もブーたれている怒江をなんとか宥めすかし、家まで送り届けた奏丞。一瞬スタンドを使われて家に引きずり込まれそうになったが、かろうじて逃げることに成功する。
自宅へ戻り、前々から考えていた
――そしてすっかり太陽が高くなってからノソノソと起き出してきた奏丞は、寝ぼけまなこで身支度をしようとしたところで、綺麗に折りたたまれた見覚えのまったくない紙片が、机の上へ目立つように置かれているのを発見する。
「…………ッ!?」
眠気が一気に吹き飛んだ。
奏丞は侵入者を警戒し、素早く部屋を見回す。
他に異常なものは…………どうやら見られない。窓やドアが勝手に開いていたり、ということもない。紙片に触れる前に他の部屋も見てみたが、やはり同様に異常はなかった。
紙片だけだ。机の真ん中にポツンと置かれた紙片だけが、明らかな異常だった。
「なんだこれ……誰だ? いつの間に部屋に侵入してきやがった? 部屋に入られたとしても俺なら気付いて起きるはず……ヤバい、これはかなり普通じゃないぞ……」
真黒の訓練で、気配があれば起きられるようにしている奏丞でも気づかなかったのだ。この時点で犯人の技量が並ではない。
さらに奇妙なことに……紙片の表面には文字が書かれている。奇妙というのは単に文字が書かれていることではない。その見覚えがある筆跡こそが問題なのだ。
「……バカな、これは俺の字だッ!?」
警戒しつつ、三十センチの定規を使い紙片をつついてみるが……爆発したりはしないし、紙の内側からカサカサ音が聞こえてくるようなこともない。
意を決して手に取ってみても、やはり何も起きない。書かれている文字をマジマジと見てみる。……やはり、これは自分の字だ。間違いない。だが、どう考えても書いた覚えがない。
「…………なんなんだ、こりゃあ?」
書かれている内容に目を通す。
そこにはこう書かれている。
【 ①この紙を誰にも見せず、教えるな
②この紙を決して破らず、なくすな
③この紙をどんな時でも常に持ち歩け
④全て諦めて、何もかもどうでもよくなった時だけこの紙を開け 】
「…………」
十三年間文通しててこの程度の湿度だって?
何か妙だな……