奏丞「思ってたよりも俺んとこに襲撃来ないけど、だからって護衛やめるわけにもいかないから出番が……」
球磨川「『封じ込め成功!』『計画通り!』『というか外野から余計なことされるとメンドい!』」
「――それではお集まりの皆々様。決戦舞台『毒蛇の巣窟』。これにて完成にございます。
グラウンドに開いた縦十メートル×横十メートル×深さ十メートルの正方形のこちらの大穴。底にはトカゲ目クサリヘビ科のハブがぎっしりと詰まっております。
そして参加者のお二方には四隅のポールにはめ込んだ金網上にてバトルを行っていただくことになります。
ご覧の通り金網は角の各リングがポールに嵌っているだけですので、ストッパー等で固定されているわけではございません。当然暴れれば暴れる程金網は沈み込み、やがて底に到達してしまうと金網の隙間をすり抜けた獰猛な毒蛇達によって
今回の生徒会戦挙を取り仕切る選挙管理委員会副委員長、
それを聞くのは生徒会出場者の善吉と、その付き添いに来ためだか、くじら、瞳。そして……
「『ふーん?☆』」
マイナス十三組からの出場者、球磨川だ。
終業式の日から一週間が経った本日。生徒会戦挙・第一戦目……庶務戦が実施される。
生徒会から善吉が出るのは当然として、懸念通りこうして球磨川が出場して来たのはやはり善吉を狙い撃ちにしたいからだろう。
しかし少なくとも、球磨川が出て来たからといって善吉が動揺したかというとそうではない。
「最低に悪趣味なステージだが……上等だぜ! 俺にとっちゃあ早押しクイズとか言われるよりは断然戦いやすい!」
むしろ因縁の相手である球磨川を乗り越えたい善吉からすれば、ありがたいくらいだ。この程度は十分想定していた展開だし、強がりではなく願ったり叶ったりといったところか。
「長者原二年生。それで、この戦いの勝敗条件はなんだ?」
「はい、黒神めだかさま。球磨川様の勝利条件は、人吉様が腕にお巻きになっておられる腕章を奪うこと。そして人吉様の勝利条件は腕章を守り切り、球磨川様に『まいった』の一言を言わせることでございます」
「……やはり現生徒会側の勝利条件がかなり厳しいな」
「おっしゃる通りです。先日お伝えしたように、本生徒会戦挙では現生徒会の資格が問われます。君臨すべき生徒会である以上、圧倒的な実力差で挑戦者を屈服させることが必須。故に、挑戦者側に有利なルール体系になるのは王者としての義務となります。
更に言えば、この勝負では決着がつかないまま底に到達すればその時点で両者失格となりますが、それはつまり現生徒会としての資質を提示できなかったということ。生徒会戦挙の勝敗数が引き分けになった場合も現生徒会の敗北となりますので、黒神めだかさま達にとって引き分けとは実質敗北である旨も改めてご承知おきください」
「……引き分けイコール敗北なのはわかったけどよ、こいつらの勝敗がついたらすぐに救助できんのか? 下手に回収に降りたらそいつまでハブにやられるだろ?」
「もちろん救助の準備はあらかじめ整えております。ロープ、縄梯子、防護服等々……当然、血清をはじめとした医療用品も用意しております」
「大丈夫とは思うけど、念のため私達にも用意した道具をチェックさせてちょうだい。それくらい構わないわよね?」
「もちろんでございます。これらはあくまで試合終了後に使われる道具。勝敗に直接影響するものではございませんので、手に取ってご確認いただいても問題ありません」
めだか、くじら、瞳が長者原に詰め寄っているが、どんなに試合内容がひどくても実施されることは間違いないだろう。
善吉はそんなめだか達のやり取りを背に、無数の毒蛇が蠢く暗い穴底をジッと見つめていた。いくら鬼教官くじらの特訓を乗り越えたとはいえ、この中に落ちれば当然ひとたまりもないだろう。生還のためには早期決着が必要だが……
「『善吉ちゃーん』『なーに黄昏てんのー?』」
「! 球磨川! 気安く肩組んでくるんじゃねーよ!」
善吉の肩に手を回して、球磨川が話しかけてきた。相変わらず何を考えているのかわからないニヤケ面が善吉のすぐ傍にある。
「『あはは』『ごめんごめーん!』『いやね』『これ提案なんだけどさあ……』『僕』『わざと負けたげよっか?』」
「!」
「『よく考えたら人吉先生の前で善吉ちゃんに酷いことしたくないしさー』『あと選管の皆のノリが思いの外良くて若干テンション下がっちゃったし』」
「球磨川、てめえって奴は…………
「『…………』」
スンッ、と、球磨川の表情が消えた気がした。
――なるほど。こうして見ると案外、
地獄の闘技場で球磨川と戦おうとしているのに、善吉は今、自分でも驚くほど
「……せっかくの提案だけど、譲られた白星なんていらねえな。お前なりにマイナス十三組として勝とうとしてんなら、俺も同じだ。生徒会庶務として……人吉善吉として、俺はお前に勝ちたい」
「『……おいおいおいおい』『こんな残酷でくだらない試合をさっさと終わらせてあげようって言うんだよ?』『どーしちゃったのよ善吉ちゃん』『そんなつまんない意地張って皆を泣かせたらどーすんのさ?』」
「そうだぜ意地だ。つまらなくて、くだらない俺の意地だ。だけど意地があるからこそ!」
怖さはある。当たり前だ。これから始まる戦いには命がかかっている。誰に助けてもらうこともできず、たった一人であの球磨川とやり合おうとしている。
だがしかし善吉は! それでも球磨川の手を振りほどいて、躊躇なく金網に足を踏み入れた!
「どんな苦難も乗り越えられるんだぜ!」
「『……まるでジャンプ主人公みたいな熱い台詞を吐くじゃあないか』『ただちょーっと』『君のキャラにあってねーんじゃねーの?』『そんなキャラブレしてちゃあ』『きっと読者の顰蹙を買うぜ』」
球磨川も善吉の後に続いて金網に乗る。
そんな様子をニヤニヤと機嫌良さそうに見ていたくじらに、めだかが話しかけた。
「お姉さま。善吉のあの変わりようは?」
「おう。怖がりでプルプル震え切ってたあの善ちゃんが、実に俺好みな感じになったぜ~♪」
「……まあお姉さまの好みにとやかくは言いませんが。しかしいったいどんな訓練を課したのです。あのスタイル……善吉に合っていると言えば合っていますが、合っていないと言えば合っていない」
「趣旨は凶化合宿と同じさ。メンタル重視のトレーニングってだけだぜ」
「何が同じですか、それどころか
「ククク……」
嗤いながら、ンベッと舌を出したくじらに、めだかはため息が出そうになるのをなんとかこらえた。視線の先では既に善吉と球磨川がステージ上で向かい合っているのだ。死地に立つ幼馴染を尻目に、くじらに構って気を抜いている場合ではない。
「『さーて』『それじゃあ早速おっぱじめようか生徒会庶務戦!』
『善吉ちゃん!』『せっかくだからちょっとは遊ばせて』「フンッ!」『ぐえっ!?』」
螺子を構えて突っ込んだ球磨川は善吉の蹴りを腹部に受け、止まらざるをえなかった。めだかとも蹴り合える、善吉お得意の強烈なサバットだ。
よろめき、思わず腹をおさえる球磨川の顎下へ、更に。
「ッシャア!」
「『ふぶっ!?』」
頭蓋骨ごと砕かんばかりの飛び膝蹴りが直撃した。この間善吉は目をつぶるどころか、球磨川から一切目を離していない。
螺子を手放し、球磨川は仰向けに倒れ込んだ。まさかこれほど早く球磨川をダウンさせられるとは思っていなかったのか、その場の面々は唖然としている。善吉本人と……この展開を予想していたくじらはこれっぽちも驚いていないが。
もちろんたったこれだけの攻防でも金網がどんどん沈み込んでおり、長者原はこの勝負が長引かないことを密かに予感している。
「立てよ球磨川! この程度で参るオメェじゃねーだろ! まだ勝負は始まったばかりだぜ!」
「『ひ、ひどい言い草だよ善吉ちゃん』『人の顎を蹴り砕いておいて』『まだまだサンドバックになれって言うのかい……?』」
グニャリと気持ち悪い動きで体を捩って立ち上がる球磨川。はたから見ていた瞳ですら気分が悪くなるような動きを前に、やはり善吉は決して目を逸らさない。
「ここが沈み込む金網じゃなけりゃあ、寝ているお前を
「『ますますひどい言い草だあ……』『あんなに優しかった善吉ちゃんはどこ行っちゃったの』『かいっ!』」
再度突撃する球磨川に対しても、変わらず善吉には動揺がない。
「どりゃああああ!!」
「『うばっ!』『くべっ!』『おごっ!?』」
容赦ない蹴りの連打が球磨川に突き刺さる。先ほどの繰り返しのように、だがそれ以上の勢いで球磨川は再度倒れ込んだ。
金網は穴底に向かって更に深く沈み込む。
「す、すごい! すごいわよ善吉くん! あの球磨川くんを前にまったく引いてない! くじらちゃん、あなた本当にどんな訓練をさせたの!?」
詰め寄る瞳をチラリと見て、くじらはフンッ、と腕を組んで答える。
「どーもこーも!
幸い反骨精神は元からあったから下地は十分! 過負荷戦以上の修羅場の経験と
「カッ! そういうことだぜ球磨川! お前のせいでせっかくの夏休みが地獄と現世の往復旅行になっちまってたからな! この機に溜まった鬱憤も晴らさせてもらうぜッ!」
「……そういうことですか」
啖呵を切って自ら球磨川に突っ込んでいく善吉を見ながら、めだかはくじらの言う訓練内容に納得した。
「フラスコ計画の副産物、凶化合宿の趣旨は『弱者を理解するために自ら弱くなる』という逆転的な発想……つまりは他者への共感性を重視しています。
しかしお姉さまの訓練はやはり真逆だ。『どんなに不利な状況でも決して折れない』という、自我の強さに重きを置いている。善吉の大好物……確かに反骨精神と言えますね。
私としては、誰とでも仲良くなれる善吉にはむしろ凶化合宿の方が向いていると思ったのですが」
「お前の言うことはわからんじゃねーけど……仲良しこよしを極めようなんざ俺の好みじゃねーなァ。
ぶっちゃけ凶化合宿だって俺、疑問なんよ。本筋のフラスコ計画すら兄貴が改善してようやく見れたモンになったぐらいだから、横筋の凶化合宿なんざなおさらじゃねーかとよ」
「本当にぶっちゃけたわね。こうしてる間にも訓練してる子たちがいるってのに……確かに私と真黒くんで精査する前はちょっとひどい訓練内容だったけど」
凶化合宿のように精神面を重視する話であれば、元心療外科医である瞳は正しく専門家だった。そのためめだか、高貴、もがなの三名が合宿に参加する前に内容もしっかり見ているが……くじらの懸念通りな内容だったため、真黒と話し合ってある程度修正する羽目になっている。しかしだからこそ、今の凶化合宿をクリアできるのであれば、過負荷との戦いにもきっと役に立つだろうとも期待しているのは間違いない。
とはいえ……
「はああああああッ!!」
「『ひでぶっ!』『たわばっ!』『あべしっ!』」
「……確かに凶化合宿をクリアしたって、あそこまで暴れられるようになれたかというと疑問だわね」
善吉は先程から絶好調で蹴り続けており、球磨川の悲鳴が途切れない。もちろん頼もしくはあるが、相手が球磨川とはいえ学生をあそこまで容赦なく蹴る姿は、親としては少々複雑な想いだ。誰に似たかと言われると間違いなく自分に似ていると確信できるが。
何度目かのダウンをした球磨川に、善吉は息を整えて言い放つ。
「ふーっ…………いいか球磨川! 俺は今、全校生徒の期待を背負って戦ってんだ! すげェプレッシャーだけど、正しいプレッシャーだ! 俺は今『正しいことの白』の中にいる誇りがある! 悪ィがお前の
「『うん』『参った!』『僕の負けだよ』『強くなったね善吉ちゃん!』」
「!?」
そう、あっさりと降参した球磨川には流石に善吉も驚いた。
「なっ……降参だと!?」
「『そうさ降参だよ』『いつまでもか弱い後輩だと思っていたけれど』『いつの間にか僕を越えてたんだね』」
「てめえ……あっさり降参なんて、今度は何企んでやがる!」
「『企むも何も』『試合は君の勝ちで終わりさ』『本当に君は強くなった!』『憎まれ役を買って出た甲斐もあったってものさ』『これなら君に本当の話ができる』」
「本当の話!? なんのことだ!?」
「『今こそ語るよ』『僕がこの学園に来なければならなかった理由を!』」
「理由だって――」
――次の瞬間、球磨川は話に気を取られた善吉のスキを突くように、両手に螺子を持って突撃した。
そして……善吉は依然問題なく、球磨川の両手を蹴り弾く。
「『……おおっ』『防がれちゃったかー』」
「……今更そんな奇抜なだけのトークでスキができるかよ」
「『うん』『
「なにを「善吉ィ!!」ッ!?」
これまでになく切羽詰まった声でめだかが叫ぶ。
「もう動くなっ!!」
「――うおっ?!」
ガクンと善吉の身体が揺れた。だが、だからといって善吉が怪我をしたわけでも体調を崩したわけでもない。
揺れたのは善吉が今まさに立つ地面……金網の方だった。
「今の揺れはまさかッ!?」
「『そう』『僕は悪くない』」
善吉が金網の角に目をやれば、揺れの原因は一目瞭然。
「なっ、なにィ――ッ!?」
四箇所の内、既に二箇所! 金網の角のリングが球磨川の螺子によって破壊されている! ポールにはまっていたリングが! だから金網が傾いたのだ! 身動ぎどころか、もはやただ立っているだけでも金網は沈み込んでいっている!
「『――君が螺子を弾いたからだ』『君が弾いた螺子が留め具を壊してしまった』『君が下手に抵抗したから』『こんなに大変なことになったんだ』」
「! しまっ」
「『やっとスキを見せたね☆』」
球磨川が善吉の顔を鷲掴みにした。得意の螺子攻撃ではなかったことを善吉は疑問に思いながらも、急いでその手を振り払う。
「放しやがれッ!」
「『いいとも!』『可愛い後輩の頼みならね!』」
「あっ、なんっ……?!」
拍子抜けする程あっさりと手を放して距離を取る球磨川。
だが……善吉は戸惑うように手を顔に持って行き、触ったり、目をこすったりしている。
なぜだか寒気がするような予感がして、めだかが声を荒げた。
「しっかりしろ善吉! 落ち着いて球磨川を見ろ!」
「『いやあ』『もう見えないんじゃないかなあ』」
「なっ……」
善吉が震え始める。呼吸が乱れ、心は凍えるように冷えて来る。顔を上げたが……球磨川の方を見ていない。見えていない。
「『――善吉ちゃん』『君の言う正しさは』『言ってみれば”歩行者の正しさ”によく似ている』
『ただ道を歩いている時』『横断歩道を渡る時』『信号のない交差点で車と行き交う時』『優先されるのはいつだって歩行者だ』『そして車と接触した時に十割歩行者が悪いことにならないのも』『法が後ろ盾になってるからだ』『歩行者優先は国も認める紛れもない正義だ』」
「はぁっ……! はぁっ……!」
「『歩行者はいつだってその正しさを信じている』『少なくとも赤信号を渡ったり』『高速道路のど真ん中を歩いたりせず』『ルールを守っている限りはね』
『故にこうも思っている』『「俺は歩行者だぞ」って』『「俺が優先されるんだぞ」ってね』『たとえ車が突っ込んで来たって』『間違っているのは相手で』『自分は間違いなく正しいってね……』」
「……っ!」
「『なるほどその通りだ善吉ちゃん』『
「なっ……球磨川の傷が治って……いや、なくなっていきやがる!?」
くじらが叫んだように、善吉の攻撃でできた傷が見る見るなくなっていく。血まみれだった服も、綺麗さっぱりと元通りの姿だ。善吉達にも見覚えがある、時計台地下で真黒ともがなを治した時と同じ光景だった。
「『――
めだか達へのパフォーマンスなのか、乱れてもいない襟を正し直した球磨川は、うろたえる善吉を見て醜悪な笑みを浮かべた。
「『
「…………ッ!!」
「『優先されてようと正しかろうと』『貧乏くじを引くのは君だ』『だから君はその
「……球磨川テメェ!!」
「『それともこんな修羅場は自慢の鬼教官も教えてくれてなかったかな?☆』『優しい教官で良かったね!』『甘えん坊な君にぴったりな良い教官だよ!』」
「……長者原二年生! あやつは降参を宣言した後に善吉を攻撃したぞ! あれは反則ではないのか!?」
「い、いえ、黒神めだかさま。反則以前の問題です。球磨川さまが降参を宣言した時点で既に勝敗は決しております。ですのでその後はあくまで個人同士の問題なので、我々選挙管理委員会に介入する権限はございません」
「狼狽えんなめだか! 個人の問題ってんなら俺達が手を貸したって反則なんかねえんだ! おい長者原くんロープ貸せッ」
「ええ、どうぞ」
長者原からロープを奪い取ったくじらは、すぐさま善吉の背後にロープを垂らす。
「『なかったことにする能力』だと!? 傷が治ったのもソレか! とんでもねェ能力だが、試合が終わったんなら穴倉でノンキしてる理由もねぇ!
善吉! お前の真後ろにロープがあるからとにかく掴め! こっちで引っ張り上げる!」
「『おいおい』『男同士の熱い喧嘩に女の子が介入しちゃあ駄目じゃあないか』」
「ぐっ……!?」
くじらの手元から垂れるロープに螺子が突き刺さり、あっけなく千切られてしまった。くじらは慌てて手を伸ばしたが掴み取れず、千切れたロープの先は穴に落ちてしまう。
「『じゃっ』『続けよっかっ!』『僕も男らしく戦ってみせるから』『善吉ちゃんも目が見えなくたって最期まで勇敢に戦ってほしいなっ!』」
「……クソッ!」
善吉はなんとかファイティングポーズを取った。しかし駄目だ、目が見えていないせいで球磨川の方向には正しく向き合えていない。
原作とは違い、善吉は目を閉じても戦えるような訓練は受けていない。まともに戦うことはもはや不可能だった。
「『足場もどんどんずり落ちちゃってるけど』『周りのことなんか気にせず』『お互い納得いくまでじっくり戦おう!』」
善吉は沈み続ける足場に不安を隠せない。金網が穴底に到達するまで、あとどれほど猶予があるのだろう。
原作とは違い、善吉が置かれた状況は遥かに悪かった。精神力の高さを買われたせいで、ここまでしなければ追い詰められないと球磨川に判断されてしまったのだ。
「善吉っ!! しっかりしろぉ!!」
「(めだかちゃん……)」
今にも泣いてしまいそうなめだかの声を聞いて、善吉は悲しくなった。いつだって自分はめだかの隣で頑張って来たのだ。立ち上がって来たのだ。それは決して、こんな声をさせるための努力ではない。
原作とは違い、善吉とめだかの間には『約束』があった。だから善吉の危機が、こんなにもめだかを悲しませている。あの『約束』なんてなければ、もっとめだかは冷静でいられたのかもしれない。
「『大変な訓練の甲斐あって』『全校生徒のために勝つって目的をしっかり果たせたんだ!』『だからきっと君の奮闘を皆喜んでくれるさ!』『なのに悲しむような奴がいたら君の所に送って謝らせてやるから安心してね☆』」
「…………目、的?」
球磨川は『全校生徒のために勝つこと』を目的と言ったのだろうか? ……訓練のモチベーションがそれだったって? それを支えに、鬼超えて
――そんなこと、誰が言ったんだ?
原作と同じように、善吉の脳裏に過去の思い出が蘇る。そう……あれは忘れもしない、中学生の時のことだった。
『――で、善吉。お前もうめだかに告白したのか?』
「……はっ? ……えっ? 俺が? めだかちゃんに?! なんで急に電話でそんな話に!?」
『俺が
「んなワケねーだろ! 俺はめだかちゃんとはそんなつもりじゃねーよ!?」
『は? いやだって……お前めっちゃめだかのこと好きじゃん』
「……!? ち、違う! 俺はただめだかちゃんの隣にいられたら」
『付き合えるなら付き合っちゃいたいくらい好きなんだろ? エロいことしたいんだろ? ひゅー思春期ぃー。どすけべ男ー』
「……そっ、そんなことはっ! いや俺……でもっ……そんな、俺って……あっあっあっ」
『狼狽えんなエロ吉!』
「エロ吉言うなっ!?」
『お前の【人吉善吉】の四文字中三文字には【エロ】が隠れてる! だから単純計算でお前は七割五分エロだ!』
「単純計算すんな高度計算し直せ!!」
『中坊はエロくて当然だろ! 自覚しろエロ吉! お前はちゃんと異性に興味津々だ!』
「だからエロ吉言うなあっ!? こんなケダモノみたいな……恥ずかしいっ、俺みたいな下半身男がめだかちゃんの隣になんて……!」
『うーん潔癖なヤツ。しゃーねー、ちょっとめだかに善吉のことアリかナシか聞いてみてやるよ』
「……はあっ!? お前何言って『ブツッ』おい待てェ――!?」
「――善吉ィ!! 二歳の時の私の告白を覚えていないというのは本当か!?」
「なんのことォ?! というかアイツに何言われたんだァ!?」
「二歳の頃に貴様に振られたから付き合うのは諦めていると話したら『そんなん覚えてるワケねーだろバカがよぉ』とか『一般二歳児がまともに告白なんて取り合えるワケねーだろアホがよぉ』とか『出会ってちょっと話したくらいで即告白とか誰だって断るわボケがよぉ』とかえらいボロクソに言われたのだ! 私ちょっと泣いたぞ!」
「辛辣が過ぎる!? というか無性に『お前が言うな』ってアイツに言ってやりてぇ!」
「私としては当時結構勇気を出したつもりだったが善吉は覚えていないのか!? だったら今なら返事は変わりそうか!?」
「!!」
「私は今でも貴様のことが好きだ! 両想いなら嬉しいし、付き合ってほしい! というか結婚してほしい! 十三年経って諦めたつもりになっていたが、実際はいまだに諦められていなかったと改めて自覚した!」
「…………」
「だから善吉っ! 貴様の返事を聞かせてくれ!」
「……くっ、ぐぅっ………………………………めだかちゃん!!」
「ああ!」
「俺はっ………………俺は! めだかちゃんとはまだ付き合えないっ!」
「…………!!?(ガーン)」
「聞いてくれめだかちゃん! 俺は――」
「『死ぬ覚悟はできたね?』『それじゃあサヨナラ善吉ちゃん――』」
…………覚悟だって? 『死ぬ覚悟』だって!?
「
「『!』」
善吉の震えが止まった。言葉に覇気が戻り、過去最高に心が燃え滾っている。
「『覚悟』とはッ! 死を受け入れることでも、ましてや犠牲の心でもないッ!」
善吉の顔を見て……球磨川はなぜだか、二の句が継げなかった。
「『覚悟』とは!! 暗闇の荒野に!! 進むべき道を切り開くことだッ!」
「『――――』」
「めだかちゃんに相応しい男になって『好きだ』って伝えるまで! 俺に立ち止まってる暇なんかないんだぜ!」
原作のどこにもないセリフを言ってのけた善吉に、球磨川は思い出した。
――僕は、
瞳「善吉くん、いつの間にかとんでもなく男前になって……」
くじら「こーゆーのでいいんだよこーゆーので……!」
瞳「(……後方腕組み教官面してる)」
めだか「…………善吉」
瞳「(……あのめだかちゃんが女の顔してるぅ!?)」