目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

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勢いだ!
矛盾やら何やらは勢いでなんとか誤魔化すんだ……!




第三十五話:LESSON13

 

 

 お前らに勝ちたい。

 格好よくなくても、強くなくても、正しくなくても、美しくなくても、可愛げがなくても、綺麗じゃなくても。

 格好よくて強くて正しくて美しくて可愛くて綺麗な連中に勝ちたい。

 才能に恵まれなくっても、頭が悪くても、性格が悪くても、おちこぼれでも、はぐれものでも、出来損ないでも。

 才能あふれる頭と性格のいい、上り調子でつるんでる、できた連中に勝ちたい。

 友達ができないままで友達ができる奴に勝ちたい。

 努力できないままで努力できる連中に勝ちたい。

 勝利できないままで勝利できる奴に勝ちたい。

 不幸なままで幸せな奴に勝ちたい。

 嫌われ者でも。憎まれっ子でも。やられ役でも。

 主役を張れるって証明したい。

 

「……くっ、球磨川くんの顔が!」

 

 球磨川の本当の願い。自覚してしまえばもうダメだった。

 いつものへらへら顔が掻き消える。善吉を見る目は睨みつけるように……とは少し違う。忌々しさでもない。その顔は、瞳では想像もできなかった球磨川のその表情は。

 『真剣さ』だった。

 そして今や、善吉は球磨川にとって『越えるべき壁』となったのだ。

 

「よく言ったぜ善吉! 良い度胸だ! だが時間がない! 御託はいいから早く球磨川を倒して穴から脱出しろ! でなきゃ蛇共の餌食だ!」

「へっ、俺の渾身の啖呵を御託なんて、相変わらず魔王なお師匠様だぜ……!」

「『……いいや正しく御託だよ』『気合を入れ直したって』『君を取り巻く状況は変わっていない』『少年ジャンプにも相応しい素晴らしい名言だと褒めてあげるけど』『それが果たしてハブ達に通じるかな?』」

 

 球磨川の言う通りだ。なんとか恐怖は跳ね除けたが、状況は何も好転していなかった。

 沈み続ける足場は間もなく穴底に到達し、そうなれば善吉はあっという間にハブの餌食になるだろう。

 コンディションも悪い。球磨川によって視力を失った善吉は、球磨川の居場所がわからない。がむしゃらに攻撃していればラッキーヒットもあるかもしれないが、そんなに悠長なことをしている時間はない。そもそも目が見えない状態では球磨川の攻撃が防げない以上、螺子で死ぬか蛇で死ぬかの二択といったところか。

 それならば、いったい何ができるというのか? 善吉は己に問いかける。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「善吉!」

 

 叱責するようなくじらの声だった。

 そういえば訓練中、くじけそうな善吉の尻を何度もこんな声で叱りながら蹴り飛ばしてきたっけ。そしてその度に、なにくそと立ち上がっていたのだ。

 目が見えなくたって、鬼師匠が今どんな顔で自分を見ているのか、善吉には簡単に想像できる。

 

「LESSON13だ!」

「!!」

「『レッスン……?』」

 

 ――活路が見えた気がした。

 

「……忘れもしねえ、LESSON13!」

 

 くじらとの特訓で叩きこまれた数々の思考法、戦闘理論。LESSON13はその、最後の一つ。

 

「『逆に考えろ』!! カッ! 確かにそうだ! 金網のリングは半分が破壊されたが、逆に言えばもう半分はまだ残ってる! おかげで猶予があるぜ!

 球磨川! お前がハブにビビッて全部壊さなかったおかげで、俺が攻撃できるチャンスは残ってる!」

「『……それで?』」

 

 今の球磨川の短い一言は、善吉にとって値千金だった。

 間髪入れず、精一杯、球磨川の声がした方向へ善吉は向かっていく。

 そして……得意の蹴りを思いっきりかました!

 

「これが俺の、正真正銘最後の攻撃だァアアアア!!」

「『……バーカ』」

 

 何かを蹴り飛ばした感触はした。だが……その感触は球磨川の顔でもなく、胴体でもなかった。固い硬い……冷たい螺子の感触。

 

「『――ビビってるだって?』『(マイナス)毒蛇(マイナス)ごときに?』」

 

 二隅から聞こえる、金属が割れる音。

 

「『勘違いするんじゃあない』『君が暴れたからだ』『君が滅茶苦茶に蹴ったせいで螺子はあらぬ方向へ蹴飛ばされて』『金具を全部壊してしまったんだ』『だから』『僕は被害者だ』」

 

 もはや足場を支える物は何もない。一瞬の浮遊感だけを善吉達に与えて。

 

「『僕は悪くない』」

 

 金網は地獄の底へと――

 

 

 

「――ありがとう球磨川。おかげで()()()生き残れる可能性が増したぜ」

 

 

 

「『!!?』」

 

 金網は即、穴底に到達した。

 だがすでに、善吉はその瞬間に備えて片足を思いっきり振り上げているッ!!

 

「オラァッ!!」

「『なんッ!?』」

 

 『震脚』! 善吉の十八番のッ! 時計台地下二階ではワンフロアが丸ごと揺れた程の威力を誇る、善吉の震脚だった!!

 金網に潰される穴底いっぱいの毒蛇達が、僅かなスペースを精一杯のたうち回る!

 

「『震脚っ!?』『なんのつもりで』」

「オラァッ!!」

「『二発目っ!?』『ま……まさかッ!?』」

 

 容赦なく二発目の震脚! だが当然、それだけで終わるわけもない!

 

「オラァッ!!」

「『さっきの挑発は!』『僕に残りの金具を壊させるためにッ!?』」

 

 間髪入れずに三発目! 今の善吉の辞書に『手加減』……いや、『足加減』の文字はない!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

「『蛇達を金網で圧殺するつもりかァ――ッ!!?』」

「よし! 善吉、それでいいっ! それがBEST(ベスト)! 生き残れる唯一の可能性! 逆に考えたな! 落ちちまえばいいってなァ!!」

 

 金網を支える四隅のリングは、この策においてはむしろ邪魔だった。ストッパーはなくとも、少なくとも人二人が上に立てるほどポールとガッチリとはまっているのだ。震脚の威力を最大限に発揮するには、金網が完全にフリーな方が良い。

 無論、これは賭けだった。

 球磨川が思惑通りに動いてくれるかなんてわからず、こうして震脚を放ち続けている次の瞬間には金網の穴からスルリと蛇が抜け出し、善吉に襲い掛かるかもしれない。金網自体、いつまで壊れないでいられるかわからない。

 だから賭けだった。それでも、生き残るために善吉は賭けた!

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 善吉は止まらない。止まれるわけがない。目が見えない以上周囲がどんな状況かわからず、望みをかけてとにかく動くしかなかった。止まることがあるとすれば、力尽きた瞬間か、あるいは……

 

「『やめるんだ善吉ちゃん!!』」

「ぐわっ!?」

 

 ……誰かに止められた時だ。

 球磨川だった。

 球磨川が暴れる善吉に飛び掛かり、押し倒したのだ。

 

「『我が身惜しさに他の命を踏み潰すなんて間違えているよ!』『だってこの地球に暮らす同じ命じゃあないかっ!』」

「ハアッ……ハアッ……」

 

 ……白々しいことを言う。球磨川がそんな殊勝なことを言うわけがない。信じたくなるような嘘を吐いて、善吉のあがきを止めたかっただけだろう。

 それはわかっているが……まあ言わんとすることは間違いでもない。

 

「……そうだな。確かにその通りだぜ球磨川。それに倒れちまっちゃあ得意の足技も封じられちまった」

「『……(ニヤァ)』」

「――でも、それでも死んでやるわけにはいかねぇ」

「だからこの先は私がカバーしよう」

「『は?』」

 

 ズドンッ!!

 

 暗い穴底で再度衝撃が走ると同時に、微弱な電流が金網を駆け巡る!

 球磨川は知らずとも、これは正しく……都城王土の『言葉の重み』!

 

「『な、なっ!?』」

 

 今の一撃によって、もはや動ける蛇はいなくなってしまった。

 倒れている善吉と球磨川の横に堂々と立つ人間がいる。

 球磨川は驚愕を持ってそいつを見て……善吉は、見えていないはずの目で見つめ合った。

 

「『め、めだかちゃんッ!?』」

「へへへ……結局お前に助けてもらっちまったな」

「構わん。貴様の発想のおかげで、私も躊躇なく穴に飛び込めた。さあ、いい加減外へ出るぞ」

「おっと……わりぃな」

「『ぐえっ』」

「……フッ!」

 

 めだかが球磨川の首根っこを掴み、善吉の腰を抱き寄せてジャンプした。人二人を抱えて、ひとっ飛びで穴の外へと脱出したのだ。

 めだかはそのまま球磨川をベチャッと地面に投げ捨て、消耗して立てなくなった善吉をゆっくりと地面に座らせる。

 

「『……酷いんじゃあないかめだかちゃん』『僕の扱いはともかく』『動物好きな君が蛇達を傷つけるような行動をするのは』」

「悪いことをしたとは思っている。しかし私には善吉の方が大事なのだ」

「『……君が誰かを特別視するなんて』」

「それを言うなら球磨川。まさか自殺までしようとするとは思わなかったぞ。そんなに()()()()()()()ことが気に入らなかったか?」

「『…………』」

「ふっ、そう睨むなよ。少し意地の悪い質問だったな」

「……どうやら、めだかちゃん。俺はまだまだ、お前に告白できないみたいだ」

「……まったく! 貴様という男はまったく! 時々信じられんような無茶をしよって! 自分磨きもほどほどにしろよ! 貴様が死んだら私は大泣きして暴れてやるからな!」

「そりゃあ……死んだって見たくねえ光景だぜ」

「だが……」

「……!?」

 

 めだかは優しく善吉の頭を引き寄せ、ぎゅむっと胸に抱きしめた。

 

「……よく頑張ったな。そうやって頑張る善吉が、私は大好きだ」

 

 周囲がどよめいた。

 特に周りで生徒会戦挙をサポートしている選挙管理委員会の面々は、超人生徒会長の印象が強いだけにめだかの言葉に驚愕を隠せない。

 瞳にいたってはあらあらまあまあと目が爛々と輝いており、息子の恋路が順風満帆らしいことを喜んだ。

 

「……善ちゃあ~~ん? よかったなぁ~、頑張ったご褒美がもらえてなぁ~~?」

「…………」

「おいおいなんとか言ってみろよぉ~~?」

「…………」

「……むっ? どうしたのだ善吉?」

 

 くじらのからかいにも反応しない善吉を不思議に思い、めだかが頭を放すと……

 

「…………(チーン)」

「ぜ、善吉―っ!? すまん、苦しかったのか!? 強く締め過ぎたか!?」

「善吉くんが! 幸せそうに気絶してるっ!?」

「うわー……いやまあ、体力使い切ったって思ってやるのが情けか……」

「『……はあ』『君ってヤツは』『格好つけるなら』『もうちょっと最後まで格好つけてよね』」

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「善吉大丈夫かっ!?」

 

 善吉が負傷したと聞いて、治療のためにすっ飛んで来た奏丞。

 部屋にいたのはベッドの傍に立つめだか、くじら、瞳。そして――

 

「よっ。心配かけたな」

 

 平気そうな顔でベッドから身を起こしている善吉だった。

 

「無事……なのか? 視力なくなった上に、鼻血垂らしながら精神が壊れ切ったかのごとく緩んだ顔で気を失ったって聞いたぞ」

「そこまでじゃねえよ!! ……なかったよな?! というか誰がそんなこと言った!?」

「くじらから」

「俺からー(ダブルピース)」

「ぐがが……今憤死しそう……!」

 

 実際の事情を説明することになると余計に恥ずかしい思いをしそうなので、怒るに怒れない善吉。せっかく庶務戦が終わって一段落したはずなのに、心が全然休まらなかった。

 

「目は……見えてるっぽいな? なんだよ焦らせやがって。くじらがなんとかしてくれたのか?」

「いや、マジで見えなくなってたんだけどよ……なんか起きたら治ってた」

「……んん? どーいうこったよ?」

「善吉くんの言うことは本当よ? 確かに球磨川くんのスキルのせいで視力を失っていたはずなのに、なぜか今は治ってるの」

「あやつの『大嘘憑き(オールフィクション)』とやらは時間制限がありそうな能力でもないしな。もしあれば兄貴たちの傷もとっくに開き直している。対抗策がありそうなら是が非でも知りたいが……」

「……なんか、薄っすら夢で誰かに会ったような気がするんだけどなぁ」

「とまあ、こんな調子だぜ。弱点が知れたらよかったけど、あいにく追加のお役立ち情報はなさそうだ」

「……まあ無事ならそれでいいや。特にやることないなら俺は帰るよ」

「いや待て。他にも怪我人がいる。貴様にはそちらの治療をしに行ってくれ」

「……誰だ?」

「日之影前会長だ。マイナス十三組の襲撃にあった」

「日之影先輩が!?」

 

 めだか達も、襲撃のことを知ったのは庶務戦後に球磨川が漏らしたからだった。凶化合宿中の日之影達を妨害するため、マイナス十三組が襲撃したらしい。

 襲撃されることも予想して備えていたため、その場にいた真黒、高貴、もがなはなんとか逃げられたようだが、殿を務めた日之影は逃げられず、血みどろになって発見されたのだ。

 それでも生来の頑丈な身体のおかげで命に別状はないため、今は別室で寝込んでいる。

 

「日之影くんの所には私が案内するわ。めだかちゃんはもうちょっと善吉くんの傍にいたいみたいだし、くじらちゃんも念のため精密検査してくれる予定なのよ」

「あんの野郎ども、結局仕掛けてきやがったのかよ! むかつくぜ、いっそ俺も襲撃してやるか……!」

「き、気持ちはわかるけど落ち着いて……ね?」

「……奏丞」

 

 マイナス十三組の手口に憤る奏丞に、くじらが声をかけた。

 

「お前なんか…………雰囲気変わったか?」

「あん? なんのこった?」

「いや……そうやって素直に怒ってんの、ちょっと珍しい気がしてよ」

「……そーだっけ? 普通にいつも怒ってるだろ。…………いやいつも怒ってるのはヤバいだろ。短気か」

「自分で言って自分でツッコむなよ。まあいいや。とにかく今は問題が山積みだ」

 

 くじらが今度はめだかを見た。そして、わかっていると言うようにめだかも頷く。

 

「実際に襲撃があった以上、今後も関係者に近しい者達の警護をやめるわけにはいきません。そして凶化合宿についても、合宿場所をどうやって知ったかわからない以上はまた襲撃があると見ていいでしょう。これまで通りに合宿を続けることは非常に難しくなりました」

「そうだ。そして阿久根くんも喜界島ちゃんも揃って日之影先輩に不合格を突き付けられてる。修行がまるでできてない状態でアイツらを試合に出すのは、はっきり言って過負荷(マイナス)どもに餌をやるようなもんだ」

「……阿久根書記と喜界島会計の運動能力に匹敵する者など」

「ま、考えておきな。こっちも一応考えておいてやっからよ」

「……くじら師匠。どこに行くんです?」

「どこってお前の検査のために機材取ってくんだよ。大して荷物はないし、一人で行ってくる」

「駄目よくじらちゃん! まさに襲撃があったばかりなのよ!? 一人で行動するのは危険だわ!」

「そんな遠くまで行かねーから安心しろよ。いざとなったら連絡すっからさ」

「くじら」

「ん?」

 

 奏丞がポンッとくじらの肩を叩き……呆れたような視線で言った。

 

「お前……ま~たなんか企んでるな?」

「……クククッ」

 

 黒幕系女子の策略スマイルで返答。奏丞は違う意味で滅茶苦茶心配になった。

 

「企んでるなんて失敬だなぁ! 俺なりに色々とお前らのことを考えてやってんだぜ?」

「お前がそーいう綺麗ごと言う時はたいてい何か誤魔化してるゾ。俺は超不安だゾ」

「ククク……なあに心配すんな。俺はいつだって、俺のやりたいようにやるだけだ」

「それが不安つってんだよ……」

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 二年十三組。一年から三年のマイナス十三組の仮拠点として占領している教室にて。

 球磨川は凶化合宿への襲撃を終わらせた蝶ヶ崎と志布志の戦果報告を聞いていた。

 

「……申し訳ありません球磨川先輩。せっかくの好機でしたのに、肝心の生徒会メンバーには逃げられてしまいました」

「『いやいやむしろお礼を言いたいくらいだよ蛾々丸ちゃん!』『二人はよくやってくれたからね!』『修行の妨害ができた上にちゃんと無傷で帰って来てくれたんだから』『ね!』」

「球磨川さんにそー言ってもらえるんなら助かるね。まとめてぶっ殺せるのがベストだったから、一人沈めたくらいじゃあ戦果になんねーかと思ってたんだよ」

「『またまたぁ』『計画がベストに進んだことなんて』『僕達の人生に一度でもあったかい?』」

「ハハッ! それを言っちゃあオシマイだな!」

「そうは言ってもですよ……」

「『真面目だなあ蛾々丸ちゃんは』『大丈夫!』『一度襲撃を経験した以上』『これまで通りの修行なんて彼らはできないさ!』『今後も様子は見るけど』『二度目に怯えて四苦八苦する彼らを僕達は高みの見物すればいい』」

 

 生徒会側の打合せが心配だの不安だので暗い内容だったこととは対照的に、マイナス十三組の打合せは明るく和気藹々としていた。人生において失敗を受け入れ続けてきた彼らは、今更一度や百度の失敗くらいで互いを責めたりはしない。当初の予定通りにいかなくとも、まあいつも通りだね、で話が終わるのだ。

 

「『とにかく』『目下の問題は四人だ』」

 

 球磨川が細身の螺子を持ち、黒板にガリガリと名前を書いていく。黒板を引っ掻く音に不快感を覚える人は多いが、蝶ヶ崎と志布志は平然とした様子だ。

 

「『まずは黒神めだか』『この子ははっきり言って現状手が付けられない』『中学の頃より搦め手にも強くなってるみたいで』『仮に人質を取ったところで欠片も諦めちゃくれないだろうね』」

「あーやだやだ。これだから諦めの悪いヤツは始末がわりーな」

「対抗できる絶対値の持ち主は球磨川先輩くらいでしょうが……まともに相手をする方がもはや間違いですね」

「『その通りっ!』『なので試合内容にもよるけど会長戦は負け戦』『万が一で引き分けくらいに考えた方がいいね!』」

「万が一の可能性なんて当てられたためしがありませんよ……」

 

 次に球磨川が書いた名前は……

 

「『二人目は阿久根高貴』『中学の頃はそれはもう尖ってたんだけど』『今はすっかり丸くなっちゃってたよ』」

「そう聞くと大した相手とも思えませんが」

「今でも球磨川さんにビビり散らしてるようなヤツじゃねーか。一度屈服してるなんてデカい古傷だぜ」

「『だとしても』『“元・破壊臣”の力は健在だよ』『高貴ちゃんの能力が十全に発揮されれば』『彼に勝てる人間なんていないんじゃないかな!』」

「だからこそ、こうして修行の妨害なんてしているんですからね」

「『そうそう』『要は十全に能力を発揮できなくしちゃえばいいだけだからね☆』『修行を終えられず』『怯え切って出て来た高貴ちゃんなら』『僕達の相手にはならないよ』」

 

 そして三人目の名前。

 

「『三人目は宇城奏丞』『この子もはっきり言って手が付けられない』『というか奏丞ちゃんだけ精神強度の世界観が違ってて意味不明!』『謎の能力もいっぱいあるし』『いつもの感じで盤外戦術を仕掛けたりしたら』『正義の怒りでむしろパワーアップしそうな面倒さがあるね』」

「……所詮その能力とやらがあるから強気に出られてるってだけじゃねーのか?」

「『今より遥かに熟していなかった二歳の彼が』『四歳の僕に対して歯向かって来たんだ』『だから問題なのはやっぱり精神の方で』『あーゆーのが一番何をしてくるかわからない厄介なタイプだ』」

「ルール無用で大暴れされたら一番困る相手ですね……彼の相手が一度だけで済むのはやはり不知火さんの策のおかげですか」

「しかも試合内容によっちゃ勝てる可能性もあるんだろ? 同じタイプの能力持ってる怒江ちゃんがわざわざ相手すんだから」

「そうですとも。黒神めだかよりはまだ御しやすい相手でしょうね」

「『怒江ちゃんも勝つ気満々だし』『あとは僕が上手くフォローすれば十分勝てる試合だよ☆』」

 

 そして最後の四人目は。

 

「『古賀いたみ』『改造人間だ』『彼女はめだかちゃんに匹敵する程面倒だ』」

 

 まさかのいたみである。

 

「『めだかちゃん以上の身体能力に再生力』『それだけでも大変だけど精神力も強いときた』『間違いなく』『僕達が正面から戦っちゃあダメな相手だ』」

「あの化け物会長並に動ける人間が他にも存在するなんて信じ難い話でしたが……不知火さんからの資料を見るに間違いないのでしょう」

「物理攻撃しかしてこないなら蛾々丸くん勝てるんじゃねーの? しかも全身改造済なら並のヤツよか体中古傷だらけじゃん。再生能力次第だけどあたしだって勝てるだろ」

「『そこらへんは一瞬で再起不能にできるかどうかでもあるねっ!』『少年漫画じゃあるまいし』『分の悪い賭けは嫌った方がいいよ』

 『それよりも』『いたみちゃんを相手にしないもっといい方法がある』『めだかちゃんとは違って』『特定の友情に篤いってウィークポイントがあるからね♪』」

 

 球磨川はもう一つの名前を黒板に書き込んだ。

 

「『黒神くじら』『自他共に認めるいたみちゃんの大親友だ』『くじらちゃんに危害が及べば』『いたみちゃんは確実に大人しくなるだろうね』」

「おっ、良い考えじゃんか。そいつ運動神経は大したことないんだろ? 攫って真っ赤にデコッた写真送ってやろう!」

「『おっとダメダメ!』『下手に彼女に手を出したら怒れる奏丞ちゃんあたりが乗り込んで来ちゃうよ』『そしたら計画がおじゃんになりかねないからね』『派手には動かず』『いたみちゃんとくじらちゃんだけが状況をわかってるのが望ましい』『互いが互いの人質になってるとなお良い!』」

「おや? しかし古賀いたみには二、三十人ばかり、()()()()()()()()()()()()()()()()()? 黒神くじらに話をつける前に襲ってしまうと大事になりかねませんよ」

「それとも今からこっそり黒神くじらを攫うか? 確実にできるかわかんねーぞ?」

「『まあ任せてよ!』『それについても手を打ってるからさ!』」

 

 そう言って、球磨川は黒板に刻まれた文字をなかったことにした。傷だらけ、チョーク塗れだった黒板が一瞬で新品のように綺麗になる。

 

「『わざわざ攫うなんて面倒臭いからね!』『庶務戦後に解散する時』『くじらちゃんにメモを渡して来たんだ』『一人でここに来いってね!』」

「へえ……ってことは?」

「『そろそろ来るんじゃないかな』」

 

 球磨川達が耳をすませば、廊下を誰かが一人歩いて来る音がする。足音はやがて教室の前で止まり……ノックもなく扉が開かれた。

 現れたのは球磨川の予定通り、黒神くじらである。

 大した度胸だと、志布志はヒューと口笛を吹いた。

 

「来てやったぜ球磨川の旦那。もてなしの準備はできてんだろうな」

「『……よく来てくれたね!』『さあそこに座りなよ!』『三人で心を込めて歓迎させてもらうからさ!』」

 

 くじらはついさっき別れためだか達にはこのことを一切話していない。故にこの後何が起ころうと、助けが来ることもないだろう。

 蝶ヶ崎と志布志には楽しい楽しい惨劇の予感。球磨川には……妙な違和感。

 そしてくじらにとっては――

 

「(――()()()()()。何もかも期待通りに動いてくれやがる!)」

 

 すべてが魔王の手のひらの上である。

 

 






ラスボスの相手なんて大変だなあ(どちらがラスボスとは言ってない)

来週の投稿はたぶんお休み。
私生活が忙しくなってきたので、更新頻度が落ちそうです。
また長い時止めになってしまうのか……

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