【完結】スパイになってしまったのだが   作:だら子

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最終話: 「D機関のスパイは死なない」

———やっべえ。三好の死亡フラグどうするよ。

 

今更、そんなことを考え始めた。

ホテルの一室にあるベッドに座りながら頭を抱える。それと同時に、長髪のウイッグも一緒になって揺れた。視線を下にするとロングスカートが目に入る。思わず破りたい気持ちになった。

 

(まーた女装かよ…! しかも、結城中佐と一緒にドイツにくる羽目になるなんて…)

 

今回、結城中佐と一緒にドイツへ来ていた。三好からの情報を受け取りのためである。それ故、今、ホテルの別室で結城中佐は三好と何やら話し込んでいた。

ちなみに結城中佐とは途中合流だ。その前までは他のD機関のパシリだった。結城中佐、ほんっっっっとに私のことパシらせすぎ。普通、スパイって長期に渡って1カ国に滞在するものじゃないの? 無駄に私、国から国へ移動しているんだけど…。

しかも、ナチュラルに原作介入もさせられるし…。実井が主役の『ダブルジョーカー』でも普通にモブ役として登場したわ。やめろよ…。

 

(それよりも三好の死亡フラグだよ死亡フラグ!)

 

今は1940年秋。三好のいる場所はドイツ。外は雪。現在、三好が結城中佐へ全ての情報を渡し中。これが意味することは分かるな?

 

———ここで別れた瞬間、三好は列車事故で死ぬ!

 

それを考えた刹那、私は再び頭を抱える。声にならない叫び声を上げた。そのまま仰ける。

今の今までずっと考えないようにしていた問題がついに来てしまった…。どうするよ。いや、本当にどうするよ?! 三好が死ぬなんて嫌だよ?! そりゃあ一応、今まで苦渋を共にして来た仲間だしさァ。三好の死を知っているのにむざむざと死なせたくないよね。流石に目覚めが悪い。まあ、本音を言うと、

 

(私の仕事が増えるだろうが!)

 

最低な自覚はある。でも、ぶっちゃけこれが本音です。いや、仕方がないじゃん?! 三好って凄く優秀なんですよ。考えてもみて? 結城中佐が昔に捕らえられた場所はドイツ。更に現在、ドイツは同盟国。スパイであるとバレたら即国際問題へと発展してまうに違いない。そのような場所へ結城中佐の後釜として三好は送り込まれた。恐らく、彼はD機関の中でも特に優秀だからだろう。そんな三好がいなくなれば私の仕事が確実に増える…!

 

(あーどうやって回避するか。正直に『前世の記憶があります! 三好が死にます!』とか言う?)

 

うーん、一発で死ぬな、私が。

 

結城中佐と三好直々に精神科を勧められてしまう。それか、超絶蔑んだ目で見られてしまうだろう。場合によっては戦場送りだ。世知辛い。

自分でも言うのもなんだが、前世の記憶があるなんて頭がおかしいよな。しかも、本人が心底それを信じ切っているなんて。更には前世の人格に影響を受けまくっているときた。でもなあ、それが私にとっての真実だからなあ。

 

(この場に三好を長い間止まらせるような問題を起こすか。それとも、他の場所へ行くように仕向けるか)

 

無理だ…。問題を起こしても直ぐに解決しやがる化け物しか浮かばねぇ…。あいつらは無駄に優秀すぎるから…。

他の場所へ行くように仕向ける案も不可だ。三好がベルリン行きの列車に乗ることは既に決定事項だろう。そこに私の介入など出来ない。

 

そもそも三好がベルリン行きの列車に乗ること自体、本来なら、私が知るはずのない情報だ。結城中佐の付き添いでなければ、三好がドイツにいることすら教えられなかったはず。余計な情報は時として致命傷になるからなあ…。

例えば、スパイである私が決められた範囲外の情報を持っていたとしよう。もしも捕まった場合、芋蔓式に他の情報が引っ張り出されることがあるのだ。だからこそ、結城中佐は各D機関員に対して必要以上の情報を与えない。私が事前準備ができなかったのもそのせいだ。『お前、何故知っている』となり、余計な波紋を呼んでしまう。

 

(他にも色々な案を考えたけど…全部駄目だ。三好の死が計画的なものならなんとかなったんだけどな…)

 

三好の場合、『偶然の列車事故』だ。原作でも、流石にこれは予測できなかったのだろう。あの化け物が死ぬ羽目になった。というか、計画的な殺人であれば結城中佐がとうの昔になんとかしてるわ。私の出る幕なんてないわ。

 

(それに、この前世の知識は間違っている可能性があるし)

 

前世の記憶を信じながら、私はその実、あまり信じていない。原作通りに進んだとしても、『別の可能性がある』と常に考えていた。この考え方は、D機関での教育の賜物だろう。

確かに、今までは原作通りだった。しかし、違う場合がでてくるかもしれない。その時、責任を取るのは私だけではないのだ。他のD機関や、場合によっては民間人達にも影響を及ぼす。そんな危険な真似は出来なかった。

 

(私ができることは信じることだけ、か)

 

私は凡人だ。決して英雄などではない。凡人ができることなど高が知れている。私がすべきは不確定な事故の考慮ではない。任務を全力でやることだ。

 

(自分の凡庸さが憎い…。あーあ、孫悟空みたいな人が現れてくれないかな。かめはめ波で全て解決してくれるとか)

 

ま、ねーけどな。このスパイ小説はそういう系統の話ではない。一介の人間如きが『ありえない』事をしでかすのが売りだ。力の法則を無視したスーパーサイヤ人とかは出てこないだろう。無念。

なんとか抗いたい…。うーん、ハッそうだ! 防弾チョッキでも三好に渡すか…?! 奴の致命傷は腹に刺さった鉄棒みたいだったし。多少マシになるのでは?

 

私はベッドから立ち上がる。床に置いてある旅行鞄をパカリと開けた。そこには防弾チョッキがしまわれている。あー、あったあった。他の国でパシリをしている時に必要だったんだよね。胸に銃弾を受けなきゃいけなかったから…。怖かったなー。

 

私は当時のことを思い出して、遠い目をした。その時、コンコンと扉を叩かれる。『八重、僕です』という、真木こと三好の声が聞こえてきた。余談だが、八重は私だ。

私はこれ幸いにと防弾チョッキを持って三好の元へ行く。その後、扉を開ける。すると、そこには完全に帰る準備をした三好がいた。あっやべぇ。早くしなきゃ。

 

「貴方のお父様とのお話が終わりました。そろそろベルリンへ向かいます。その挨拶にと———ん? 何をしているんです?」

「真木さん」

「はい」

「防弾チョッキを着ません?」

「何を言っているんだ貴様」

 

怖ッ! 三好さん怖ッ!

 

確かに、良い言い訳が思いつかなかった私も悪い。だが、そこまでキツく切り捨てることないじゃん?! 急にいつもの口調に戻るのやめて?! 流石に心にキた。

三好が蔑んだ目でこちらを見てくる。怖すぎ。それに対して私は引きつった笑いを浮かべた。「じょ、冗談ですよ〜」と言いながら。三好は眉をひそめる。

 

「突然、何を言い出すのかと思えば…。相変わらずですね」

「どういう意味だよ。絶対にいい意味じゃないだろ」

「ある意味で褒めていますよ。あまりに貴方が変わらなさすぎて」

「貶してんの?!」

 

三好はあらかさまにため息を吐いた。それを見て、口がひくひくと動く。ムカつくなあ…! こんなこと、出来れば私も言いたくないんだよ。でも、お前に死んでほしくないから、わざわざ防弾チョッキを渡したのに…! はー…ま、分かるはずがないよね。説明もしていないんだし。私が悪いな。

そう考えて、肩を落とす。その時、三好は「そろそろここを発ちます。では、また」と言ってきた。そのまま踵を返そうとする。私は慌てた。何か、何か言わなければ———!

 

「『真木』!」

「なんです?」

「囚われるなよ」

「はあ、何だ。そんな事ですか。わかってますよ」

 

呆れた表情でそう言う三好。知っている。そんなこと、『既に知っている』よ。三好という男は死の直前でさえスパイであることを止めなかった。腹を鉄棒で貫かれ、意識が朦朧としても、本懐を遂げたのだ。己が常に身につけている協力者のリスト。それを敵へ渡さないよう、隠しきってみせた。

私は微妙な顔をする。そのまま、こう言った。「何でもない」と。化け物ではない自分。凡人な自分。それが腹立たしかった。

 

———この出来事を私はきっと一生後悔し続けるのだろう。

 

小さく唇を噛んだ。

 

 

♂♀

 

 

「———囚われるな、か。あいつはこういう意味で言ったのか?」

 

ゴホッと小さく咳き込む。意識が朦朧とする。震える手で腹に突き刺さった鉄棒を撫でた。ぼんやりとする視界には大破した列車が入る。内心で舌打ちをした。

 

(まさか列車事故に巻き込まれるとは…。恐らく、僕の命は長くないだろう)

 

助かるための凡ゆる手段を一瞬で何百通りも考えた。だが、無理だ。完全に鉄棒は身体の急所へ突き刺さっている。数分もしない間に僕の命は尽きるだろう。僕が人体について知り尽くしているからこそ、出てしまった結論だった。

 

(列車事故か。計画的なものならば絶対に阻止したものを…! 佐久間さんに『化け物』と呼ばれた僕も、所詮は人間だったてわけか)

 

———人間は運命には逆らえない、か。それを考えて、眉をひそめる。

運命なんてものは信じていない。軽々しく『運命の所為だ』と言って、諦めるのは容易いだろう。けれど、殆どの場合、それは『運命』の責任などではない。自分自身の責任ということの方が多いのだ。しかし、僕はこうして予期せぬ事故にあっている。あれ程までに運命を信じていない、この僕が————事故程度で死ぬ。その馬鹿馬鹿しさ加減に笑いそうになった。

 

(だが、それがどうした?)

 

神が僕へ死を運ぼうとも、することは変わらない。僕は僕の任務をやり遂げるだけだ。このような不測の事態への対処の仕方など、とうの昔に頭に入れている。ああでも、『死ぬな』というD機関の信条を破ってしまったことは本当に残念だな。だが、僕はその程度の気がかりで思考を停止させるわけがない。『ありえない』。ありえるはずがない。何故ならば僕は、

 

———D機関の三好なのだから!

 

僕は笑いながら手をあげる。その時、先程の藤原から言われた『囚われるな』という言葉が頭に響いた。ああ、この僕が囚われるわけがないでしょう。そう思いつつ、マイクロフィルムが縫い付けられている襟に血をつけた。このフィルムにはドイツでの協力者のリストが入っている。

 

(僕は幸運な方だ。まだ結城中佐と藤原が近くにいる。彼らならば必ずマイクロフィルムに気づくだろう)

 

なら、思い残すことはない。スパイとしての後悔もない。

そう考えている間に視界がどんどん暗くなっていく。身体の感覚がなくなってきた。そろそろもうダメか。その時、頭に浮かぶのは藤原だった。

 

(あの男、もしやこの列車事故を想定していた?)

 

一瞬だけ計画的なものかと疑った。だが、それを瞬時に否定する。計画的なものならば、僕か結城中佐が絶対に気がついていただろう。その程度に気がつかない僕らではないのだから。

 

(藤原は最後の最後までよく分からないやつだった…)

 

彼は至って凡人な人間だ。人を慈しみ、誰かを騙す事なんてできない奴である。だが、同時に異常な人間だった。この世界を本の中の物語程度にしか考えていないような男。更に、度々奴はまるで未来を見ているみたいに話し出す事もあった。

色々とチグハグで、この時代に合っていないような奴。それが藤原だった。

 

(藤原。『藤』原ねぇ)

 

藤の花言葉には色々ある。「優しさ」「決して離れない」などだ。藤原は優しい人間である。だが、それと同時に異常でもある人間だ。だからこそ、このD機関から離れることができない。そういう意味で結城中佐は彼へこの名を授けたのだろう。今更ながら、そう気がついた。しかし、一つだけ正解か分からない考えを思いつく。

 

(藤の花言葉には「佳客(良いお客様)」なんてものもありましたねぇ。もしかして、本当に未来から来た『お客様』が藤原だったりするのか…?)

 

先程も言ったように、藤原は未来を知っているような言動を取る時がある。まるでD機関一人一人の先を既に『知識』として身につけているかのようだった。本当に未来の知識が彼にあったとしたら? それならば、藤原と別れる前に彼が防弾チョッキを渡してきた理由に説明がつく。

結城中佐は彼が『未来からの客人』だと知っていたのか? だからこそ、彼をD機関に入れた?

そこまで考えて、プハッと噴き出す。馬鹿馬鹿しい。そんなSFのような話があるか。僕の頭もついにおかしくなったか。

 

(結城中佐にその答えを聞いてみたいものだが————もう出来ない。この答えはあの世で聞くか)

 

ま、あの世なんて信じていないが。これから先は誰もが経験するが、誰もが知らない世界。もう僕の視界には何も映らない。最早、感覚もない。世界と世界が切り離される刹那、声が聞こえた。見えない筈の目に何故か灰色のスーツが映り込む。

 

———よくやった、三好。

 

———当たり前ですよ。僕は『魔王』結城中佐が手掛けた化け物の一人、『三好』なんですから。

 

一人の化け物が笑った。

 

 

♂♀

 

 

「それは本当か?」

「本当さ、『草薙』」

 

抗日活動家・草薙行仁として活動する俺———『福本』は若干目を見開く。すると、同じD機関員の『藤原』は小さく笑ってみせた。

俺は現在、上海のとある食事処にいる。そこで藤原へ定期報告をしていた。珍しく藤原が情報の受け取り係として来たと思えば…。

 

(まさか三好の死が伝えられるとは)

 

あの男が? 『ありえない』! 驚いて、もう一度確認してしまう。それ程までに信じられないことだった。三好という男はD機関の中でも特に優秀だったからだ。もしかしたら、将来、結城中佐の後任としてD機関のリーダーになっていてもおかしくない男である。簡単に死ぬような奴ではない。

 

(だが、三好の死は本当なのだろう)

 

任務中に態々冗談を言ってくるわけがない。それに———。

藤原の顔を見た。彼は笑っている。いつものように笑ってはいるが、どこかおかしかった。そうだな。言うならば、『後悔』があるように見えたのだ。この藤原という男がそんな誰かを惜しむような表情をしている。それだけで信じるに値した。

 

———藤原という男はこの世界を見ているようで、『見ていない』。誰が死んでも、諦めた表情しかしなかった。もしくは興味がないか。藤原は決して『死』なんぞに囚われるような男ではなかった。 何者にも囚われない男。それが藤原だった。

 

(この男も『後悔』なんてするんだな)

 

それに対しても少々驚きを抱いている。彼はいい人のように思えて、その実、とんでもない『人でなし』だからだ。

 

(藤原が何者にも囚われない理由————。それは、別の何かに『囚われている』からなのかもしれない)

 

今、気がついた。

藤原は基本的にこの世界に囚われていない。だが、一つだけ表情を変えることがあった。それは『未来』の話をする時だ。もしかしたら、彼は『別の世界』に囚われているのではないか。だからこそ、この世界に囚われてないのではないか?

そこまで考えて、小さく笑った。

 

(それはどうでもいい情報か)

 

恐らく、こんな藤原の顔を見るのはこれで最後になるだろう。彼もまた結城中佐が手掛けた化け物の一人。この程度のこと、直ぐに乗り越えてみせるに違いない。ほら、藤原からは既に『後悔』の感情が消えている。あるのは『スパイ』としての顔だけだ。

 

「ああ、そういえば————」

 

肘をつきながら藤原は世間話を始める。重要な情報が入った世間話を。

 

 

♂♀

 

 

「以上が福本からの報告です」

「了解した。もう下がっていい、『八重』」

「はい」

 

私、藤原は相変わらず女装をしている。今は第二次世界大戦中の真っ只中だ。そんな時に若い男がスーツを着て、うろうろしていたらおかしいからね。はー…戦争って嫌だわ…。

私は結城中佐へと頭を下げる。そして、部屋から出て行こうとした。その時、結城中佐から声をかけられる。

 

「貴様は今、『囚われている』か」

「………、………どういう意味でしょうか」

「質問しているのは此方だ、『藤原』」

 

結城中佐の質問に思わず身体が硬直する。一瞬、声を出すのを躊躇ってしまった。

えっ……え? 結城中佐は何を言ってんの…?? 突然の『囚われているか』発言に戸惑いを隠せない…。どういう意味ですか、結城中佐。私は馬鹿だから、一からちゃんと言ってくれないと理解できません、中佐。

ぐるぐると思考する。脂汗が滲むレベルで私は悩みに悩みまくった。そして、一つの考えに行き着く。

 

———まるで分からん!

 

だめだ。分かんねぇ! 何を言っているのかさっぱりだ! 馬鹿な私に何を求めているの?! だが、まあ、そんなことは言えるはずがない。言った瞬間、冷たい目で見られるのは確定している。考えても答えが出てこないってことは、『囚われてない』ってことでいいだろう。

私はクルリと身体を回転させる。国民服と呼ばれるモンペの裾へ空気が入り、少し膨らんだ。今の時代は『贅沢は敵だ』と言われているから、スカートを履くことができなくなってしまったんだよなあ。そう考えながら私は口を開く。

 

「I am not able to answer it because a secret makes a woman woman」

 

————ごめんなさい。その答えは言えないわ。だって、女は秘密を着飾って美しくなるものだもの。

 

ごめん、某名探偵漫画に出てくるベルモット姐さん。色々とパクった。しかも、なんか付け足してしまったわ。女は秘密を着飾って美しくなるって言っとけば大丈夫大丈夫。それだけでベルモット姐さんの魔法が利くから。あの美人に『良い女になるためだから秘密は教えられないわ』的なことを言われたら、私なら黙るもの。だ、大丈夫だよね…? 頼む、これで納得してください、結城中佐。

 

そう言った瞬間、結城中佐は笑った。あの結城中佐が『笑った』のだ。その瞬間、寒気がした。嫌な予感しかしない。

 

「貴様は『それ』でいい。そうでなくてはな」

「は、はあ、」

「藤原」

「はい」

「死ぬなよ」

 

結城中佐は珍しく、『死ぬなよ』しか言わなかった。『囚われるな』とも、『殺すな』とも言わなかったのだ。それに少し首を傾げる。

 

(もしかして三好が死んだから、そんなことを言うのか?)

 

三好の死は衝撃的だった。今でさえ、彼のことを考えると手が震える。あれ程の化け物でも運命には逆らえない。どれだけ優秀で、天才だったとしても、死ぬときは死ぬのだ。それがどんなに恐ろしいことか。死は平等だ。死だけは天才だろうが、金持ちだろうが、貧乏だろうが、誰にだって降りかかるもの。結城中佐が『死は虚構なもの』と称した意味がよく分かる。

だが、結城中佐が私へ『死ぬな』といった理由が三好の死の所為かは分からない。何故か? そんなもの、一言で片付く。

 

———結城中佐は我らがD機関の元締め。化け物達を育てた、『魔王』なのだから!

 

私如きが結城中佐の考えなんてわかるはずもないのだ。故に私は余計な疑問を直ぐに頭から弾いた。考えても分からないなら仕方がない。いつものことだ。それよりも、次の任務について考えなければ。そう思いながら、私は口を開く。

 

「もちろんです」

 

ああ、どうしてこうなってしまったんだろう。私はただ死にたくなかっただけなのに。『生』にしか興味がない私が、『死』に近い場所にいる。本当に笑える話だ。その時、頭の中で声が響いた。

 

———スパイになってしまったのだが、どうすればいいと思う?

———どうもこうも、生き残るしかないだろう。

———それもそうだな。

 

私は、いや、『藤原』は笑う。結城中佐と同じ笑みで。

どうやら、藤原というスパイの物語はまだまだ終わりそうにないようだ。私は肩を落とした。

 

 

 

 

 

end

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