幻想郷は白に覆われた。吐き出す息すら白に変わってしまい、それを見ているだけで寒く感じてしまう。そして、今は凍てつくような寒さが続いていた。
「うむ、これもまた会心の出来だ」
降り積もった雪を使って作った雪だるま。その身長は私よりもずっと高い。世が世ならどこぞ神によってその建設を辞めさせられるほど。と言うのは少々大げさだが、とにかく私は大きな雪だるまを作ることに成功した。
雪が降り積もるこの季節。私の神社へ訪れる民草の数は少ない。そんなものだから、やはり私は暇になってしまった。じゃあ、何をしようかと考え、今年は雪だるまを作ることに。そうやって持て余した時間にせっせと雪だるまを作り続けたため、その作った数は100を超えているだろう。そのため、人里から私の神社までの道は雪だるまが沢山ある。
とは言え、流石にそろそろ飽きてきてしまっている。やはり民草が訪れないとつまらない。
う~む……そうだ。せっかくこうやって雪だるまを沢山作ったのだし、コイツらを使うとしようか。
「これ、雪だるまどもよ」
ずらと並んだ雪だるまへ声をかける。
「この雪だ。きっと人里の民草は苦労していることがあるはず。其処で貴様たちが人里へ行き民草の手助けをしてやるのだ。確かに、貴様らひとつ一つの力は弱いだろう。しかし、貴様らが力を合わせればどんなことだってできるはず。私からは以上だ。さぁ行ってこい」
この私自らの手で作り出した雪だるま。それもこれだけの数を作ったのだ。多少の力は持っているはず。いつもいつも民草には助けてもらってばかり。だからその恩返しとして、少しばかりの手助けをしてやろう。
私が声をかけ、少しばかりの力を込めてやると、100を超える雪だるま達は一斉に人里を目指して動き出した。うむ、どうか人里を頼んだぞ。
くふふ、これであの雪だるまたちが民草の助けとなってくれれば、きっと時間の空いた民草は私のところへ訪れてくれるはず。うむうむ、その時が楽しみだ。
作った雪だるまを人里へ向かわせてから、数日ほど経過した。しかし、相変わらず私の神社へ訪れるその民草の数は多くない。
うーむ。やはりこの季節は単純に訪れる者が少ないらしいな。それは寂しいことであるが、仕方の無いこと。全く人が訪れないわけではないのだし、受け入れるしかない。そんなんだからやっぱり私は暇だった。
ふむ、雪だけならまだまだ沢山あるのだし……よーし、次はもっともっと大きな雪だるまを作るとしよう。
そう考えてから、せっせと雪を集めていた時のこと。あの博麗の巫女が私の傍を通りかかった。
「これ、博麗の巫女よ。なんだか慌ただしそうだが、どうしたのだ」
消していた姿を現してから、博麗の巫女へ言葉を落とす。しかし、その腋が開いている服じゃこの季節は寒いだろうに。一応、マフラーをしているみたいだが、なんだか色々とおかしいぞ。
「あら、いつかの。それがね、人里に妖怪……ではない気がするけど、変なのが沢山訪れたからどうにかしてくれって頼まれたのよ」
なんと、人里ではそんなことが起きていたのか。なるほど、そんなことが起きていれば、民草も私のところへ訪れる暇などないはずだ。しかし、そんな民草も心配だが、私の雪だるま達は大丈夫だろうか。残念ながら、アイツらが持つ力は弱い。妖怪に襲われたらどう仕様も無い。
それにしても、まさか人里で暴れる者が現れるとは……人里で人外が暴れることは御法度。そうなると、最近来たばかりの者か、ルールも理解できぬ愚か者かの何方かだろう。全く……今は八雲が寝ていると言うのに面倒な。
「人里の者達は大丈夫なのか?」
「ええ、直接的な被害はないみたいだけど、気味が悪いと言うか……まぁ、邪魔らしいからどうにかしてくれってことらしいわ」
うーん、それはまた何をしたいのかよく分からん奴らだな。急に幻想郷へ来たものだから、自分たちに何が起きているのか分かっていないのだろうか。
「それで、その妖怪共はどんな奴らなんだ?」
「だから、妖怪じゃないって。多分だけど……えと、それでソイツらだけど――雪だるまって聞いてるわよ」
ああ、なるほど雪だるまだったか。……雪だるまだと!?
い、いや、ちょっと待ってくれ。何だかすごく嫌な予感がしてきたぞ。
ああ……ああ、どうかどうか私の勘違いであってくれ。
「え、えと、その……人里で暴れているのは雪だるまなのか?」
「私はそう聞いてるわ。それもひとつや二つ程度の数じゃなくて、それこそ100近い数の雪だるまが暴れている……と言うか、わちゃわちゃしているみたい」
嫌な汗が吹き出す。
100近くの数の雪だるまが人里で悪さ。……マズい。これは非常にマズいぞ。これはもう私の勘違いでないだろう。どうしてこうなった。
「それじゃ、私はもう行くわ。全く、何を考えてそんなことをしているのかしら」
い、いや、私はその、民草の助けとなれば良いと思ってやっただけで、そんな迷惑をかけようと思っていたわけじゃなくてだな……まぁ、今更そんなことを言ったところで仕様が無いが。
「あ、ああ、気をつけて行ってくるのだぞ」
……さて、これは私も人里へ行く必要がありそうだ。
誰にも見つからないよう姿を消し、空を飛んで人里へ。流石に今の私の姿を見られるわけにはいかない。
「なるほど、これはまた……ああ、うん。どうしよう……」
そして気になる人里の景色だが、何と言うか、なかなかにすごい光景だった。
まずアレだ。大きく作りすぎたせいで、予想以上に私の作った雪だるまが目立つ。そんな雪だるまが怖いのか、人間は近寄らないし、幼子はその姿を見て泣き出す始末。
そんな雪だるまたちが何をしているのかと言うと……ただただ、跳ねていた。ひたすらにぴょんぴょん跳ねていた。
い、いや、違うんだ。アイツらだって一生懸命人間の手助けとなるよう頑張っているのだ。ただ――アイツらには手がない。あと足もない。
そんな状態なため、ちゃんとした手伝いなどできず、ひたすらに跳ねることしかできない。大人の身長ほどある100以上の雪だるまがあちらこちらでぴょんぴょん跳ねる人里の光景は異様だった。
もし、これが他人のやったことなら笑い話のひとつにでもなるが、これをやったのは他の誰でもない、私だ。正直、今にも泣きたい。ホント、どうしてこうなった。
そりゃあ民草だって博麗の巫女に助けを求めるだろう。こんなわけの分からない状況、どうして良いのか分からないのだし。
正直、もう帰りたい。このことに目を背け帰りたい。しかし、流石にそれはできないのだ。直接的な被害がなかったことは唯一の救いと言ったところ。今の私にできるのは、直ぐにこの雪だるまどもをどうにかするだけだ。
姿を消し、空を飛んだまま、人里の中心へ移動。
其処でパンっと両の手を叩き、音を響かせた。そして、大きく大きく息を吸い込み、人間には聞こえない高い高い声で――
「聞け、我が眷属達よ!」
そう叫んだ。
そんな私の声が届いたのか、ぴょんぴょん跳ねていた雪だるま達の動きは止まり、その雪だるま達が一斉に私の方を向いた。
「貴様らの働き見事……じゃなかったけど、よく頑張った。もう十分である。だから……」
だから、どうしようか。このまま雪だるまを残したままと言うのは民草だって邪魔だろう。そうなると元の場所へ戻るのが一番だが、元の場所とはつまり私の神社と言うこと。それは少々マズい。この雪だるま達がわちゃわちゃいていたのは私のせいだとバレてしまう。
さて、それではどうするかだが……うむ、決めた。その場所へ行ってもらおう。
「うむ、よく頑張った。しかし、貴様らにはまだ最後の仕事が残っている。此処で私とは別れてしまうが、どうか貴様らが最後まで仕事を遂行できるよう願っている。さぁ! それでは――あの口うるさい説教好きの閻魔の元へ向かうが良い!」
あの閻魔にはいつもいつも怒られてばかり。その仕返し……じゃなくてそのお礼をしてやろうじゃないか。閻魔の場所へ行くのに三途の川を超える必要はあるが、これだけの数がいればひとつくらいは届くかもしれん。なんせこの私が作り出したのだ。期待しているぞ。
そして、私が言葉を落とし終わると、雪だるま達は彼岸を目指して一斉に動き出した。
うむ、これで一件落着と言ったところだな。あの八雲に今の姿を見られていたら、何を言われるのか分かったものじゃないが、今の季節はアイツが眠る冬。そればかりは運が良かった。
それにしても人里へは少しばかり迷惑をかけてしまったな。直接的な被害がなかったから良いものの、やはり慣れないことはやるべきでない。どうかこのことが民草の間で笑い話にでもなってくれることを私は願っているよ。
さて、それでは帰るとしようか。こんなことがあった手前、もう雪だるまは遠慮したいところ。次はそうだな、かまくらでも作ろうか。
ひとつの事件を解決した私はそんなことを考えながら、自分の神社へと戻った。とは言え、早く春にならないかなぁ……
その次の日、鬼の形相を浮かべた閻魔が私の神社へきた。