神のまにまに【完結】   作:puc119

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神様、神様と出会う

 

 

「くはっ……」

 

 春の暖かな空気に誘われた私の口からは、大きな大きな欠伸が出た。

 季節は巡るものだが、その中でどの季節が始まりと呼ぶのが相応しいのか考えると、やはりこの春だと思う。多くの新しい命が生まれるこの季節。始まりと呼ぶには丁度良い。少なくともあの静かな季節よりはあっているだろう。

 私はそう思うのだ。

 

「さーて、今日は何をしようか」

 

 暖かな空気と優しい風に誘われたままうたた寝してしまうのも良いかもしれない。そう思えてしまうほど今は心地良い天気なのだ。

 

「おや? いるとは聞いていたけど……貴方の神社ってこんな場所にあったんだ」

 

 少しずつ少しずつ、目蓋が下がり始めたところで、そんな声が聞こえた。くたり横になっていたが、顔だけを上げ、その声の方を見る。

 

「おお、洩矢の神か。君が私の場所へ来るとは珍しい。どうしたのだ?」

「いや、とりあえず起きなよ……それで、私はただお散歩をしていただけ。そしたら貴方を見つけて声をかけたのさ」

 

 起きろと言われたものだから仕方無い。屋根の上でくたり横になっていた身体を起こし、いつものよう屋根へ腰掛ける。

 しかし、私は姿を薄くしてるはずだが、こうもあっさり気づかれるとは……同じ神と言うのが原因だろうか。

 

 洩矢の神の姿は昔見たその姿と特に変わった様子が見られない。若干小さくなっているような気もするが、こんなものだったと言えば、こんなものだったかもしれん。しかし、ずっと気になっていたが、その目玉のついたへんてこな帽子はなんなのだ?

 

「ふむ、そうか。それならばゆっくりしていくと良い。私も暇していたところだ」

 

 完全にお昼寝する気分だったが、こうして訪れてくれたのだ。お昼寝はまた今度にしよう。

 

「貴方は変わらないねぇ」

 

 そう言って洩矢の神はケロケロと笑った。

 まぁ、私はそう言う存在だからな。

 

 

 

 

「それにしても自分の神社を放って、私の神社などへ来ても良かったのか?」

 

 奉納されていたみたらし団子を私と同じよう、屋根の上へ腰掛けた洩矢の神へ渡し、そんなことを聞いてみた。

 山の上にある守矢神社は私の神社と比べ、かなり立派だ。場所が場所だけに参拝客には恵まれないそうだが、それでも留守にするのはよろしくない。

 

「お団子ありがと。ん~神社には神奈子がいるしなぁ。別に私がいなくても大丈夫だよ。それに私があの神社の祭神だと知っている奴も少ないと思う」

 

 ふむ、そうか。

 今からどれほど昔のことか忘れたが、確かこの洩矢の神には色々とあったはず。土着神を束ねるこの洩矢と大和の神である八坂との間で。あの侵略戦争の詳しい経緯や、その詳しい結末のことを私は知らない。しかし、この洩矢と八坂が同じ神社で暮らしているのはまたなんとも変なものだ。まぁ、ふた柱の仲はそれなりに良好なようだから問題ないが。

 

「うーむ、しかし、君のような力を持つ神がこの幻想郷へ来るとは思わなかった」

 

 洩矢の見た目はちっこいが、その中身は土着神の頂点だ。へんてこな帽子を被ったただの少女にしか見えないがその力はかなり強いはず……だった。

 

「これも時代だからねー。別に私はあのまま消えちゃっても良かったんだ。ただ、神奈子は違ったみたいで、最後に頑張ってみたって感じ」

 

 よくまぁ、そんなあっけらかんと言えたものである。この洩矢は土着神……つまりその土地との関わりを強く持つ神だ。そんな性質を持つ洩矢が元の土地を離れるなど、簡単なことではないだろう。少なくともその力は大きく失ってしまったはずだ。そこにどれほどの覚悟や決意があったのやら。

 そして外の世界では、そのような状況になってしまっているのか。昔はよくふらふらと色々な場所を訪れたものだが、神となってから私はずっとこの場所にいるため、外の世界のことは詳しくない。しかしながら、洩矢の話を聞くに相当な数の神が消えてしまったのだろう。それは私にとって嬉しいことだが、他の神々はどう思っているのだろうな。

 

「そう言えばさ、ずっと聞きたいと思ってたんだけど……」

「どうした?」

 

 私の方を見ることなく、何処か遠くを見ながら洩矢は言葉を落とした。

 

 

「貴方は何者だい?」

 

 

 相変わらず私の方を見ないまま、まるで独り言かのように洩矢はそんなことを私に聞いた。

 

 私が何者なのか、か。

 

「さてな。そればっかりは私にも分からん。これでも長い長い時間を過ごしてきたが、それは分からなかったよ」

 

 今ではこうして神として崇められているが、この洩矢などとは違い、私は最初から神だったわけでない。いつの間にか、崇められ神となっていた。

 じゃあ、神となる前の私はなんだったのか、となるが……それが私には分からないのだ。少なくとも、私の仲間……私の同族はこの世界にいないだろう。私は最初からひとりで、きっと最後までひとりだ。唯一仲間と呼べる存在も、あの夢の中でしか会うことのできないアイツだけ。

 

「ふーん。やっぱり貴方は変な奴だねぇ」

 

 まぁ、普通ではないだろうな。私は変わらない存在だが、変わった奴ではあるだろう。

 

「大神ですら打ちのめす力を持っているくせしてさ。その力を使って何かやろうとかは思わないの?」

 

 私の力……そりゃあ、この力を使えば、色々なことができるだろう。

 しかしなぁ、別にそれでどうこうしようなどと思いはしない。それくらいには今の生活が気にいっているのだ。それにこれ以上望めはしないだろう。

 

「確かに私の力を使えば、この世界を恐怖のどんどこに落とすことはできる」

「太鼓を叩いてどうする。どん底ね、どん底」

 

 それくらい分かってる。ちょっと噛んじゃっただけだ。

 

「けれども、それにどんな意味があると言うのだ。例え、私がこの世界を支配したとして……それができたとして、その先に何がある。少なくとも、そのような世界が今より輝くとは思えん」

 

 支配したいわけではないのだ。私は民草が幸せに暮らしてくれることだけを望んでいる。例え、私がこの世界を支配できたとしても、其処に民草の幸せはないだろう。そんな世界など意味がない。

 

「……やっぱり貴方は変わってるねぇ。ただ、それもそうか。それに貴方がこの世界を支配できるとは思えないし。絶対に何処かで失敗しそうだもん」

 

 そう言って洩矢はやはりケロケロと笑った。なんだかすごく馬鹿にされた気もするが、どうしてなのやらそれほど悪い気分でもない。

 まぁ、同じ神とは言え色々な奴がいる。しかし、それもまた一興。全てが全て同じと言うのも面白いことではないのだから。

 

「うーん、でも貴方はそれでいいのかもね。廻り巡るこの世界で貴方みたいな奴がひとりくらいいても」

 

 そんなところだ。私のような存在が沢山いても困るだろうし、私もそう思っている。

 

「うん、いただきました」

 

 団子を食べ終わり、洩矢は両手を合わせてからそんな言葉を落とした。

 

「お団子、ありがとう。美味しかったよ」

「気にするな。私もひとりで全てを食べるのもアレと思っていたところなのだし」

 

 うむうむ、やはりみたらし団子は美味い。この甘い醤油だれと焼き団子は私の心を掴んで放さぬのだ。

 これは私の神社の隣へ団子屋を建ててもらうのを真剣に考える必要があるかもしれん。私が団子を作ることができれば一番だが、それも難しいのだから。

 

「よし、今日は楽しかった。それじゃあ、私はこれで帰るとするよ」

「私も今日は楽しかったぞ。またいつでも来ると良い」

 

 君と私は違うが、同じ神同士、何か繋がるものもあるだろう。

 

「ふふっ、それも良いけれど、今度は貴方が私たちの神社へ来なよ。神奈子だって貴方と会いたいだろうし。それにどうせ今だってふらふら出かけることが多いんでしょ?」

 

 うん、お散歩好きだもん。

 しかしなるほど、今度はそうさせてもらおうか。

 

「うむ、それではそうさせてもらおう。その時、団子があると私は嬉しいかもしれん」

「わかった、その時は早苗に準備させるよ」

 

 それは楽しみだ。あの山には五月蝿い天狗がいるため、あまり好きな場所じゃないが、団子のためなら仕方無い。

 

 そして、隣に座っていた洩矢はぴょんと屋根から飛び降りた。

 

「それじゃ、またね」

「ああ、また」

 

 そんな言葉を交わしたところで、洩矢はぽてぽて歩いて何処かへ。

 洩矢も洩矢で何を考えているのか分からない奴だが、嫌いではない。今度、守矢神社へ行くのが楽しみである。

 

 

「くはっ……」

 

 洩矢と別れてから直ぐ、私の口からまた大きな欠伸が溢れた。

 心地よい春の特有の暖かさと優しい風。そんなものに誘われてしまったのだから、それも仕方無いと言うもの。

 

 外の世界ではきっと多くの神々が消えていっているはず。それが神にとって幸せなことなのか、不幸せなことなのか、それは分からない。では、神にとっての幸せとはなんだろうか?

 

 そんなことを考えながら、春の陽気に誘われた私は、いつの間にかアイツの待つ夢の世界へと旅立った。

 

 

 






諏訪子さんのセリフにあった「いただきました」は長野県で使われている方言です
意味は「ごちそうさまでした」

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