神のまにまに【完結】   作:puc119

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神様、想いを描く

 

 

 身体を薄くし、姿を見られぬようにしてから人里の中をゆっくりと歩く。客引きの声や人々の話し声や笑い声。のんびり歩く私の横を数人の幼子と妖精が駆けていき、それを見た私の口からは自然と笑い声のようなものが溢れた。

 

「良い世界になったねぇ」

 

 そして、そんな言葉も自然と溢れてしまうのだ。

 

 春と言う季節もあり、人里のあちこちに植えられている桜木は薄桃色の花を開いていた。その桜木に誘われたのか、幾人かの者が足を止め満開の桜木を見つめる姿が見受けられる。

 そんななんてことのない景色を私は嬉しく思ってしまうのだ。だって私は、そんななんてことない景色を望んでいるのだから。それはどんなに私が力を使おうとも手に入らぬもの。

 そんな景色なものだから私が気に入ってしまうのも仕方無い。

 

 廻り廻り、巡る巡るこの世界。何故生きるのか、何を思って消えていくのか。輪廻転生、森羅万象の理の外れにいる私にその気持ちは分からない。

 生まれ生まれ生まれ生まれて生のはじめに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し。……そう謳っていたのは誰だっただろうか。

 

 私に廻る命を理解することはきっとできないだろう。いくら私が神になろうが、私はそんな存在である。どれだけ歩み寄ろうがソレに決して届くことはない。

 それでも、私はこうやって足掻いているのだ。神となり民草の願いを聞いてきた。それは手に入れるには遠すぎて、諦めるには近すぎたあの距離のせいでもある。そんなことをしたところで、私は彼らに近づくことなどできやしないと言うのに。

 だからと言って、私が歩み寄っていけないと言う理由にはならない。それに今のこの生活もそれなりに気に入っているのだ。昔みたく、ふらふらと旅へ出ているのも悪くなかったが、今のように民草の願いや話を聞くこの生活は気に入っている。

 

 何より此処最近となってまた知り合いも増えた。それもまた一興。

 

 きっと今日もまた、博麗の巫女はあの縁側でお茶を飲んでいることだろう。きっと今日もまた、あの白黒の少女はその博麗の巫女のいる場所へ訪れていることだろう。

 時間を操る瀟洒な従者は、吸血鬼の我が儘に振り回されながらも今日を楽しみ、氷精は自分が目指すものへ向かってただひたすらに進んでいるはず。

 不器用な不老不死者は不器用なりに今日を楽しみ、怠惰な三途の川の水先案内人はゆっくりとした時間を楽しんでいる。

 あの説教好きの閻魔は今日もまた救い歩き、忘れかけられた土着神は今日もまた自分なりの楽しみを探す。

 そんな日常がきっときっと広がっているのだ。そんな日常を何よりも愛おしく感じてしまうのも仕方無い。

 

 そして、ゆっくりと少しずつ、目には見えない程度にこの世界は変わっていくはず。それが良い方向へ進んでくれることばかりを私は願っている。

 何か変わったことや、特別なことばかりを願ってしまうが、何でもないただの日常だって、きっときっと沢山の大切なものが詰まっているはず。それを忘れてしまうのは少々もったいないことだ。

 

 

 

 一通り人里の中を歩き回ったところで満足。民草の笑顔も沢山見ることができたのだ。きっと今日もまた良き日となるだろう。

 

 桜木の花の香りが乗る風とともに、ふわり宙へ飛び私の神社へ帰宅。こんなにも心地の良い季節なのだ。もしかしたら、うたた寝をしてしまうかもしれないが、ふわふわりと浮く意識の中、民草の願いへ耳を傾けるとしようか。

 

 

 そうして、春風に乗り私の神社へ着くと、其処には人影がひとつ。

 

「お待ちしておりました。古き神よ」

 

 それほど強くない日差しだと言うのに、ソイツはいつものように日傘を差し、いつものあの笑顔を浮かべながら言葉を落とした。

 春と言う季節はどうしても眠くなってしまうものだが、多くの者が起きる季節でもある。

 

「ふむ、もう君は起きていたのか。それでどうしたのだ、八雲よ」

 

 まぁた、どうせ私をいじめに来たのだろう。この八雲は会う度に私をいじめるが、この季節はソレが特に酷い。きっと寝起きだから機嫌が悪いのだろう。それに付き合わされる私は堪ったものじゃないが。なんだってこの八雲はこうも私を構うのだ。

 

「特に用事などはありません。ただ、こうして起きたのですから、貴方様へ挨拶をしようと思っただけですわ」

 

 そう言って八雲クスクスと笑った。

 ……絶対に嘘だ。此処で少しでも油断をすれば八雲は私をいじめる。実際、周りにはこの私と八雲以外の姿が見られない。どうせ、この八雲が何かをやったのだろう。

 

 まぁ、そんなことを言ったところで私にはどう仕様も無いわけだが。

 

「人払いまでやっておいて、良く言えたものだ」

「ふふっ、そんな硬いお顔をしなくとも安心してください。今日は本当にただ貴方様へ会いに来ただけですゆえ」

 

 むぅ、そう言うのなら信じてやるが、そう言っておいて急に『わーっ』とかやるのはダメだからな。私は()()()ほどそう言うことが苦手でないが、好きではない。てか、できればやめてほしい。せっかく新しい季節となったのに、そんな始まりは勘弁してもらいたいのだ。

 

「……この幻想郷は少しずつ少しずつ変わっています」

「それはそうだろう。この世界に変わらぬものなどないのだから」

 

 廻り巡るこの世界。本当に一部の例外を抜かして変わらぬものなどないのだ。この私とて少しずつではあるが、変わってきている。

 

「ええ、そうですね。しかし、変化とは怖いもの。ただでさえ、不安定なこの世界、揺らぎ動くソレが何方へ傾くのかは分かりませんわ」

「そのために君がいるのだろうに。この世界をより良い方へ傾けさせるため」

 

 この八雲が思っているのはいつだって幻想郷のことだ。真っ直ぐに純粋にただただこの幻想郷のことを想っているはず。

 私はこの八雲のことが苦手だが、その真っ直ぐな想いだけは気に入っている。

 

「分かっております。それでも、私には……私だけでは力が足りません。いくら狭い幻想郷とは言え、私の力だけではあまりに大きすぎます」

 

 なるほど。今回は……いや、違うか。いつだって八雲はソレを狙って私へ声をかけてきたのだろう。相変わらず何を考えているのか分からん奴であるが、コイツが考えているのはソレだけなのだから。

 

 純粋で真っ直ぐな想い。それは時として考えもできぬような力となる。良い方へも悪い方へも。だからこそ美しく見えてしまうのだろう。

 

「……くふふ。それで私を利用するのか」

「ふふっ、話がお早いことで」

 

 莫迦にするな。それくらいのことは私でも分かる。

 ……私が願っているのは民草の幸せであり、幻想郷の幸せではない。つまり、私と八雲の願いは似ているようで違うもの。

 

「残念だがな、八雲よ」

「……聞きましょう」

 

 八雲の想いを聞いた私の口からは無意識のうちに笑が溢れた。

 八雲の想いと私の想い。近いようで遠いこのふたつ。しかし、きっと重なる部分は存在してくれているはずだ。

 そうだと言うのなら、私のやりたいことなど決まっている。

 

「私はな、我が儘なのだ」

「……は?」

 

 そんなもの予想していなかったのか、私の言葉を聞いた八雲は、またなんとも面白い表情をした。

 

「だからだな八雲。私は我が儘なのだよ。例え命令されようが、やりたくないことはやらない。そもそも命令されることを好まない。気が乗らなければ動かないし、民草のためと謳いながら、実のところは自分の感情を一番大切にしている。そんな我が儘な存在だ」

 

 私の願いは民草の幸せただひとつだが、その願いのためだけに行動しているわけではない。自由に気ままに私の思うように歩んできた。そして、これからもきっとそれが変わることはないだろう。

 

「何を言いたいので?」

「君は私を利用しようとしているが、私ほど扱い難い存在はいないだろう。飼い慣らされなどはせず、その手へ噛み付くこともある」

 

 理の外れにいる私と言うこの存在。例え八雲だろうが、そんな奴を上手く扱うことなどできやしない。私はそう言う存在なのだ。

 確かに、私の力を利用できれば、この八雲はさらに動きやすく自分の想いを描くことができるだろう。しかし、それは私を上手く扱うことができた場合の話。私自身ですら上手く扱うことができないのだ。それはこの性格と捻じ曲がった力が原因で、やはりそのふたつは扱い難い。

 

「私はそんな存在なのだよ。君が思っている以上に私は複雑で、君が考えている以上に私は単純だ」

 

 複雑ゆえに解き難く、単純ゆえに扱い難い。

 詰まるところ、私を利用するのは難しいと言うこと。私はそう言う存在だ。

 

「それでも……そんな私でも利用したいと言うのなら、そうだな……」

 

 八雲へ向けていた視線を外し、そっと目を閉じてみた。

 その瞬間、ふわりと春の風が吹き、あの薄桃色の香りがわずかに私まで届いたことを感じる。始まりの季節でもあるこの春。優しくそよいだその春風は新しい何かの香りがした。

 

 うむ、良い香りじゃあないか。

 

 

「みたらし団子で手を打ってやろう」

 

 

 君の思い描く幻想郷がどのようなものなのかは分からん。しかし、この八雲の考えならば民草にとっても悪いものではないはずだ。そうだと言うのなら、この私が協力しするのも吝かではないのだから。

 そして、そう思ってしまうくらいにはこの八雲のことを信頼している。

 なに、これまでだって長い付き合いだったのだ。どうせこれからもこの八雲と関わることは多いだろう。私が八雲に協力したところで直ぐに変わることはないだろうが、少しずつ少しずつ思い描いたものを作っていこうじゃあないか。

 

「ふふっ……ええ、神のまにまに」

 

 うむ、それで良い。

 上手くいかないことばかりであるが、それでも前へ進んでいこう。私と八雲の理想は高くこれら願いを叶えるのは難しいかもしれん。

 それでも、進んでみる価値は十分にあろうだろう。なにせ、この私が協力してやるのだから。

 

「さて、それじゃあ話も終わったことだ。こんな季節なのだし、お花見するぞお花見。八雲よ、どうせ君も暇だろう?」

「もちろん。お付き合いいたします」

 

 長い長い道のりとなるのだ。戻るようなことはしないが、寄り道も悪くない。

 

「……うむ、良い世界となればいいな」

 

 風に乗った新しい香りを感じつつ、私はそんな言葉を落とした。

 

 






読了お疲れ様でした

全16話とそれほど長くありませんでしたが、これでこの作品は完結とします
ここに書くのもアレですし、後書きはいつも通り活動報告へ書かせていただきます

この作品を読んでいただいた全ての読者の方々へ感謝を

ありがとうございました

それでは、感想欄や活動報告などでまたお会いしましょう
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