神のまにまに【完結】   作:puc119

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神様、雨を楽しむ

 

 

 アレだけ見事に咲き誇っていた桜は皆残らず散ってしまい、今は青々とした葉々を広げるばかり。

 春の終わり。夏の始まり。今はその間の季節だった。“梅雨”などと呼ばれるこの季節だが、この季節はしとしとと雨の続くことが多い。

 梅雨だから雨が降るのか。雨が降るから梅雨なのか。私には分からないが今はそんな季節だ。

 

「ふむ、今日もまた雨が降ってきてしまったか」

 

 そして、今日もまたしとしと雨が降る日。最近はこんな日ばかりだ。社の軒下で、思わずため息がひとつ落ちる。

 この神社にはそれなりの数の民草が毎日訪れてくれるが、雨となればその数はどうしても減ってしまう。そのため、雨の日は暇になることが多かった。雨自体は嫌いじゃないが、民草が訪れないとやはりつまらない。だから、雨の日は少しばかり苦手だ。

 

 立っているのも疲れたため、賽銭箱へ腰掛け、意味もなく足をぷらぷら。どうしよっかなぁ。どうせ今日は参拝客も少ないだろうし、いっそフラフラと出かけてみようかなぁ。

 神と言うのは便利なもので、例え何処かへフラフラ出かけても、自分の社へは直ぐに戻ることができる。つまり、私の身体は常にこの社にあるのだ。そのため、例え誰かがこの神社へ訪れても直ぐに戻ることができる。

 

 ふむ、それならこの雨の中ふらふら歩いてみるのも悪くはない。

 そう考えてから、歩きだそうとした時だった。

 

「はぁ、ホント最近は急に雨が降ってくるのね。こんなことになるのなら、もっと早く時を止めておくべきだったわ」

 

 そんな言葉を落としながら、人里ではまず見ることのない洋風の格好をした少女が私の神社へ訪れた。傘は持ってきていないのだろうか? この様子では当分止まないと思うが……とは言え、私も暇していたところだ。訪れた理由は雨宿りだろうけれど、歓迎するよ。少々狭い場所だが、のんびりして行ってくれ。

 

「それにしても、こんな場所に神社なんてあったのね。初めて知ったわ」

「あまり大きな神社ではないからな。それも仕方無い。しかし、最近修理をしてもらったため、まだ檜の良い香りが残っている。まぁ、ゆっくりしていけば良い」

 

 先日のとある夜。龍の子供がいたずらに雷を落とし遊んでいた。それだけならよくあることで、微笑ましいものだが……その雷が私の神社へ直撃した。もう笑うしかない。

 此方は気持ちよく眠っていたと言うのに、いきなり轟音が響いて驚いたし、神社は燃えるしと踏んだり蹴ったりだ。私の懸命な消火活動により、どうにか神社の全焼は免れたが、屋根はなくなった。

 

 その日、私の社から見えた星空は泣けるほどに綺麗だった。

 

 それから直ぐに、人里の者が修理をしてくれたため、今の社はなかなかに綺麗なもの。本当に有り難いものだ。

 

「ふむ、こうして雨宿りさせてもらっているのだし、お賽銭でも入れておいた方がいいのかしら?」

「君の好きにすると良いさ。私もお金に困っているわけではないのだ」

 

 私の声はこの少女に届かない。しかし、一方通行の会話と言うのもなかなかに愉快なものである。時偶、本当に会話をしている感じとなる時などが面白いのだ。

 

「はぁ……雨、止みそうにないわね」

「ああ、この雨は長くなりそうだ」

 

 少女の隣、直ぐ傍に腰掛ける私。しかし、その私にこの少女は気づかない。それがまた面白い。

 

「仕方無い、濡れてしまうけれど帰るとしましょう」

「おろ、もう行ってしまうのか。それは残念だが、どうか気をつけて帰ってくれ。それに帰ったら直ぐに身体を拭き着替えをするのだぞ。風邪などひかぬようにな」

 

 せっかく訪れてくれた客人であるが、どうやらもう行ってしまうらしい。まぁ、それもまた一興。出会いと別れは裏表。次の機会が来るのを私は待つとしようか。

 

「さて、それじゃお邪魔したわね」

「別に私は気にしてなどいないよ。いつでも来れば良い」

 

 そして、少女がこの雨の中帰ろうとした時のことだった。

 世界が――止まった。

 

「むぅ、時間を止めてもこれは濡れちゃうか」

 

 そんな止まった世界で、少女は言葉を落とす。なるほど、これはこの少女の力か。

 くふふ、これはまた面白い。

 

 

「人間でありながら時を操るとは……君もまた面白い者だな」

 

 

 そんなこの少女に興味が湧いた私はその消していた声を出し、見えなくしていた姿を現した。

 

「はっ? えっ? 貴女は……いえ、それよりもどうして」

 

 驚いた様子の少女。きっと此処は君だけの世界なのだろう。其処へ私などがいきなり現れたのだ。驚くのも仕方無い。

 しかし、時を操る者とは久方ぶりに出会った。まぁ、アイツは神だったため、時を操る人間と会うのは初めてだが。

 

「私は此処の神社の神だ。そしてずっとずっとこの場所にいたよ」

「神、ねぇ。え、えと……それでどうして貴女は動けるのかしら?」

「これでも古い時代から生きている神だからな。君のように司ることはできぬが、留まることくらいはできるよ」

 

 まぁ、それも私の視界内で時を止めてくれたらって話だが。流石に認識外の時に留まることはできない。

 それにしても、雨が降る中、時の止まった世界へ来るのは初めてだ。うむ、なかなかに幻想的な景色じゃあないか。たまにはこう言うことも良いかもしれない。

 

「それで、君はもう帰るのか?」

「……ええ、そう思っていたところよ」

 

 どうやら警戒されているらしい。ピリピリとした雰囲気がはっきりと分かる。別に悪いことなどしないんだがなぁ。

 

「そうか、そうか。しかし、この天気じゃその身体も濡れてしまうだろう。ちょいと待て、せっかく訪れてくれたのだから、良いものを貸してやろう」

 

 少女へそう言ってから、社の扉を開け、その中を散策。

 以前、誰かが置いていってしまった傘があったはずだが、あれー? 何処いった? 確かこの辺に……ああ、見つかった見つかった。うむ、今度この中もちゃんと整理するとしようか。

 

「ほれ、この傘を使うと良い。ただ、時を止めたままではあまり効果がないだろうし、それはオススメしないぞ」

 

 傘とは上から落ちる雨粒を弾くもの。時の止まった世界の雨粒は、落ちることなく留まり続けている。それでは傘もその力を上手く発揮できやしないだろう。

 

「あっ、うん。ありがとう。でもいいのかしら?」

「なに、気にするな。()()()()()()気にせず使うと良いさ」

 

 どうせその傘を私が使うことはない。その傘だって誰かに使ってもらいたいはず。だからこれで良いのだ。

 しかし、これでこの少女と別れてしまうと、私はまた暇になってしまうな。う~む……よし、決めたぞ。

 

「その傘を貸す代わりと言ってはアレだが、ちょいとお願いを聞いてもらっても良いか?」

「その内容にもよるけど、何かしら?」

 

 こんな天気の中、どうせ訪れる者もいないだろう。それに、せっかくの雨なのだ。楽しまなければもったいない。

 

「その帰り道、一緒に行っても良いだろうか?」

「ふふっ……ええ、もちろんよ」

 

 そう言って、その少女は優しく微笑んだ。

 良かった。断られたらどうしようかと思っていたが、どうやら同行しても良いらしい。

 

 そして、少女がゆっくりと目を閉じ、その目を再び開けた時のことだった。止まっていた世界がまた動き出したのは。

 雨音は強く響くが、この音だって嫌いじゃない。やはり止まっている世界よりは此方の方が私に合っているらしい。

 

「それでは行きましょうか」

「ああ、短い旅となりそうだが、よろしく頼むよ」

 

 少女がそんな言葉を落とし、渡した傘を開いたところで、私も強く降る雨の中へその身体を飛び出させた。

 

「ちょっ、貴女。もしかして、これ以外に傘は……」

「ああ、残念ながら持ち合わせていない」

 

 降っていた雨は予想以上に強く、直ぐに私の服を濡らしてくれる。

 

「それじゃあ、この傘は貴女が……」

「いや、私はいらない。せっかく雨が降っているのだ。傘など差してしまったらソレを楽しめなくなるだろう?」

 

 確かに服は、身体は雨で濡れてしまう。しかし、それ以上にこの雨の中、身をさらけ出すのは愉快なこと。せっかく雨が降っているのだ。ソレを楽しまないんじゃあもったいない。

 この梅雨の季節。これもまた一興よ。

 

「はぁ……でも、そうね。たまには私も雨を楽しんでみようかしら」

 

 ため息を溢し、呆れたように笑った少女だったが、開いたはずの傘を閉じ、私と同じようにその身を雨へ晒した。

 

「ふふっ、こうやって雨に打たれるなんて久しぶり。それと傘、せっかく貸してもらったのに、ごめんなさいね」

「君の好きにすると良い。ただ、帰ってからちゃんと身体は拭くのだぞ? 風邪などひいてしまったら堪らない」

 

 妖怪と比べ、人間の身体は強くない。楽しむのは良いことだが、自分のことは大切にするべきだ。

 

「ええ、わかっているわ。それじゃ、改めて行きましょうか」

「ああ、改めてよろしく頼むよ」

 

 それから、私と少女はのんびりのんびりと雨を楽しみながら歩いた。途中で私が転んでしまい、泥だらけになってしまったりもしたが、これもまた一興。泥んこだけど歩いて行こう。

 

 どうやら、少女は霧の湖の傍にある真っ赤な館に住んでいるらしく、その館が見えてきたところで私と少女は別れた。さて、それでは私も戻ろうかと思ったところで、気づいたことがひとつ。

 アレだけ降っていたはずの雨が止んでいたのだ。

 雲の切れ間から差し込んだ陽の光が、また幻想的な景色を創り出していた。

 

「うむ、美しいものだ。これもまた一興じゃあないか」

 

 長い長い道のりだ。何をして良いのか分からなくなる時もあるが、そんなもの楽しんだ者勝ちなのだ。少なくとも私はそう思っているし、そうやって生きてきた。

 それじゃ、雨上がりのこの景色を楽しみながら私も帰るとしよう。其処にはきっとまた新しい何かを発見することができるだろうから。

 

 

 雨の日はどうしても気分が落ち込んでしまう。だからこそ、全力で楽しむのだ。

 ただ、次の日、体調を崩した。

 

 

 






読了ありがとうございました
少しずつ少しずつ、この作品を読んでくれる方が増え嬉しい限りです
この作品ですが、20話になる前には完結するのかなと思っています

相変わらず、執筆には慣れませんが、これからもお付き合いいただければ私は幸せです

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