神のまにまに【完結】   作:puc119

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神様、お祭りへ行く

 

 

 茹だるような夏の暑さも多少は和らいでくれたと感じる季節となった。とは言え、昼間は相も変わらず日の光が強く、暑いことに変わらない。

 

「そろそろ夏も終わりとなりそうですね」

「ああ、そうだな。この暑さに文句ばかりを言っていたが、いざ終わるとなるとやはり寂しく感じてしまうよ」

 

 先日、もう一度あの太陽の畑を訪れてみたが、其処には見事としか言えない景色が広がっていた。数えきれないほどの向日葵がその大輪を開き、畑を黄色で埋め尽くしていた。私の記憶の中で今年一番の景色だったと思う。

 種を蒔いただけとは言え、あの向日葵たちには思い入れがある。そして、その向日葵たちがああも見事に咲いてくれたとなれば、嬉しいことこの上ない。

 どうか来年も、またその見事な花を咲かせてほしいと願うばかりだ。

 

「今宵は今年最後の納涼祭があります。それほど大きな祭りではありませんが、神様も是非お越しになっていただければ、と」

「おおー、今宵もまたお祭りがあるのか! くふふ、それは楽しみだよ。あい、分かった。私も参加させてもらおう」

 

 お祭りは、好きだ。

 それは私が神であるからかもしれんが、それだけではないと感じる。きっと私はお祭り独特のあの雰囲気が好きなのだろう。やはりお祭りには愉し気な空気が流れる。そんな雰囲気が私は好きなのだ。

 

「それでは、祭りの準備がある故、これで失礼します」

「ああ、気を付けて帰るのだぞ」

 

 そう言って私の神社へ訪れた青年は深々と頭を下げ帰っていった。

 うむ……お祭り、か。今年の夏もそろそろ終わるのだ。最後に楽しませてもらうとしよう。

 

 お祭りまでまだまだ時間はあったが、頭の中はもうお祭りのことでいっぱい。幾人かの参拝客が訪れてくれたものの、その話をしかと聞くことはできなかった。それも、仕方の無いことである。

 

 そして、お祭りの始まる時間が来た。

 以前、奉納されたものの袖を通すことのなかった浴衣を身にまとい、片手に“祭”と書かれた団扇を持つ。金魚模様が刺繍された水色の浴衣は見た目も涼しく、今宵着るのには丁度良い。良い物をくれたものだ。

 賽銭箱の上へいつも通りの紙も置き、準備は完了。よーし、神様お祭りに行くぞー!

 

 

 

 

 私の神社から人里までは近く、神社を出て直ぐに祭囃子が聞こえてきた。太鼓を叩く音は良く響き、空気を揺らす。

 そんな音につられ、私の気持ちも少しずつ少しずつ揺れ始めた。そんな雰囲気も嫌いじゃない。祭りはそれ自体も楽しいものだが、私はその祭りへ向かうまでの雰囲気とかそう言うものも好きなのだ。

 

 人里の中へ入ると、其処はまた何とも愉し気な空気が流れていた。人里の中で一番広い通りの両脇にはずらと出店が立ち並び、多くの人々が足を止めている。

 さらに、この祭りへ訪れているのは人だけでなく、鬼、河童、天狗などの妖怪や数多くの妖精もいた。普段から人里へ妖怪や妖精が現れることもあるが、これほどの多くの人外が集まるのは祭りくらいだろう。

 しかし、これもまた一興。せっかくの祭りなのだ。皆で楽しまなければもったいない。

 

 お面屋で買った狐の面を顔の横へつけ、焼き鳥を頬張りつつ、お酒をくぴりくぴりと楽しむ。うむ、やはりお祭りとは良い物だ。次は綿菓子を食べようかなぁ。ああ、納涼と言うのだし、次は冷たい物でもいただくとしようか。

 そんなことを考えてからふらふら歩いていると、かき氷を売っている出店を見つけた。ふむ、運良く混んでいないし、あの店のかき氷をいただこうか。

 

「ちょいとよろしいかい?」

「あっ、お客! らっしゃい!」

 

 その店を出していたのは人間ではなく妖精だった。まとっている雰囲気などを考えるに氷精だろう。夏と言うこの暑い時期は君にとって酷だろうに、よくやるものだ。

 

「それで、此処はどんな味があるのだろうかな?」

「水味だよ!」

 

 なるほど、水味か。

 

 ……水味?

 

「いや、ちょっと待て。水? 水味?」

「うん!」

 

 あれ? かき氷にそんな味ってあったっけ。そう言われるとあった気もするけど、どんな味なのか全く思い出せない。

 

「ああ、うん。じゃあひとついただこうか」

「まいどありっ!」

 

 なんだかよく分からないが、食べてみないことには仕方無い。

 そして、氷精から買った水味なるかき氷を一口。

 

 水の味がした。

 

 

 

 

 

 

「あー! おっちゃん、もっかい! もっかいやらせてっ!」

「え、えと、嬢ちゃん? そんなに金魚が欲しいのなら1匹くらい……」

 

 あのかき氷は少々残念だったものの、まぁそんなこともある。くそぉ、あの氷精め……

 そんな残念なことはあったものの、それからは思う存分祭りを楽しめている。

 

「馬鹿者。自分の力で掬わないと意味ないだろうが」

「ああ、そうかい……まぁ、じゃあ頑張ってくれ」

 

 そして今は全力で金魚掬い楽しんでいるところだ。しかし、先ほどから一向に金魚が掬えぬ。失敗した数はそろそろ二桁になってしまうのではないだろうか。

 むぅ、中有の道にある、掬うより救ってやった方が良いと思う死金魚掬いは上手くできたのだが。

 んもう、なんだってこうもこのポイは直ぐに破れるのだ。こうなったらいっそこのポイに神力を流し込んで……

 

「あら? 貴女はあの神社の」

 

 なんて、ちょいとずるいことを考えていたら、そんな声が聞こえた。其方を振り向くと其処には、以前私の神社で雨宿りをしていたあの少女の姿。

 

「おお、君か。久しいな。あの後、風邪はひかなかったか?」

「ふふっ、ええ大丈夫よ」

 

 うむ、それなら良かった。少しばかり心配していたんだ。まぁ、あの後、私はダメだったが。

 

「咲夜ー、ソイツ誰?」

「えと、人里の傍にある神社の祭神ですよお嬢様」

 

 そして、その少女の隣には吸血鬼が。多分だが、この吸血鬼があの霧の湖の近くに建っていた館の主だろう。

 

「ふーん、神ねぇ」

 

 さして興味もなさそうな声で吸血鬼はそう言った。

 基本的に神とは人間の味方だ。だから君たちがそう言う反応をするのも仕方無い。それに私も妖怪の願いを叶えることは少ない。

 

「まぁ、せっかくのお祭りなんだ。君たちも楽しむと良い」

「ふふっ、そんなこと言われなくとも分かっているわ」

 

 そう言って吸血鬼は不敵に笑った。くふふ、要らぬ世話だったか。

 

 せっかくのお祭り。今ばかりは人も妖も神も関係なく皆で楽しもう。お祭りとはそう言うものなのだ。

 

 

 あの吸血鬼たちと別れた後、私も金魚を掬うことは諦めた。その店の者は1匹私にくれると言ったが、それは断ることに。そもそも、もし私があの金魚を掬うことができたとしても、それは店へ返すつもりだった。だって、私の神社じゃ金魚飼えないもん。

 そんなことでまたふらふら歩いてみることに。次はどうしよっかなぁ。またお酒を飲もうかなぁ。

 

 とは言え、この祭りもそろそろ終わりが近づいてきている。開いている出店の数は減ってきているし、何かを買うのなら急いだ方が良さそうだ。

 そんなことを考えながら歩いていると、道の脇でしゃがみ込み泣いている幼子を見つけた。

 

「これ、そんなところで泣いてどうしたのだ?」

 

 神として泣いている民を放っておくことはできない。私に何ができるのか分からないが、できる限りの手伝いはしてやるべきだろう。

 

 そして、幼子に話かけてみたものの、泣いているばかりで一向に何があったのか話してくれない。それでは仕様が無いため、後で食べようと大事に取っておいた綿菓子を与えたり、背中を優しく擦ってやることで漸く泣き止んだ。

 その幼子だが、どうやら親と逸れてしまい、どうして良いのか分からず泣いていたらしかった。まぁ、これだけの数の者がいれば逸れてしまうのも仕方無いか。

 

「あい、分かった。それじゃあ、君の親と再会できるまでこの私が一緒にいてやろう」

 

 本当ならさっさとこの幼子の親を見つけてやるのが一番だが、残念なことに私にはそれだけの力がない。だから私にできるのはこれくらいだ。

 

「……お、お姉ちゃんも探してくれるの?」

「ああ、手伝ってやるだけだがな。ほれ、だから君も立つんだ。止まっていては仕様が無い。歩かなければ始まらないのだから」

 

 そんな私の言葉を受けてか、ようやっと幼子は立ち上がった。うむ、その調子だ。

 それからその幼子の手を取り、私も歩き出すことに。人が多すぎるせいで、どうしても見つけにくいが、この幼子の親のいる場所はだいたいわかる。ようはこの幼子と似た魂の気配を探れば良いのだから。

 そして、その親のいる場所だが……ふむ、なるほど広場の方か。其処は先程まで妖怪の楽師が能楽を行っていた場所。うむ、あの場所なら見通しも良いし、直ぐにこの幼子の親を見つけることができるだろう。

 

 幼子とあること数分。件の広場へ到着した。

 其処には――

 

「ほう……これはまた見事な」

「どうしたの? お姉ちゃん」

 

 あれは、風見と……ああ、先ほどの吸血鬼か。

 

「ほれ、上を見てみると良い。なかなかに幻想的な景色が広がっているぞ」

「上? ……あっ、うわーすごい! すごくきれい!」

 

 数年ほど前、この幻想郷に新しい風が吹いた。

 命名決闘法。スペルカードルール。砕いて言えば弾幕ごっこ。それはただのごっこ遊びであるものの、人外が繰り広げるソレはなかなかに美しい。それも、風見や吸血鬼のような大妖怪が行っているとなれば見事なものだ。

 

 そんな晩夏の夜空に広がるソレに私は見蕩れてしまった。

 

「おっ、やっと見つけたぞ。こら! 勝手に歩いちゃダメだって言っただろ!」

「あっ、お父さん! ご、ごめんなさい……」

 

 そして、この幼子の親と無事再会することができたらしい。うむ、良かった良かった。

 

「もしかして、そこのお嬢ちゃんが連れてきてくれたのかい? 悪かったね、うちの子が迷惑をかけてしまって」

「これくらい気にするな。別に迷惑などと思っていない。それにこうして無事再会できたのだ。それは嬉しいことだろう」

 

 そう言った幼子の親を見て気づいたが、昼間私の神社へ訪れ、私にお祭りのことを教えてくれたあの青年じゃあないか。

 ふむ、こんなこともあるものだな。相変わらず世界は狭いものだ。

 

「はは、これはまた大人びた……あっ、えっ? あ、貴方様は神社の!」

 

 おろ、気づかれてしまったか。それは少々面倒くさい。

 今日ばかりはずっと姿を現していようかと思っていたが……まぁ、仕方無い、か。

 

「私は私のやりたいことをやっただけだよ。ただ、そうだな。もし、また私の神社へ来てくれるのなら……みたらし団子があると私は嬉しい」

 

 姿を消し、声だけを青年へ届ける。あまり高価な物をいただくわけにはいかない。だから此処はあのみたらし団子を要求させてもらおうか。

 

「は、はいっ! 必ずお持ちいたします!」

 

 くふふ、まぁ、そう肩肘張るものではない。ただ……楽しみに待っているよ。

 

 青年たちから離れ、もう一度夜空を見上げる。其処にはやはり色とりどりの綺麗な弾幕が広がっていた。

 祭りと言えば花火を楽しみたいものだが……たまにはこれも悪くない。

 

 ふむ、これで夏も終わり、か。

 アレだけ鬱陶しいと思っていたこの季節。ただ、まぁ……この夏と言う季節も悪くない。だって、私はもう来年の夏が楽しみと思えているのだから。

 

 晩夏の夜空に広がる、花火と言うのには少々美しすぎる景色を見上げながら私はそんなことを思った。

 

 

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