神のまにまに【完結】   作:puc119

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神様、会話をする

 

 

 夏の暑さは完全に和らぎ、今は過ごしやすい日が続く。そんな秋の季節。

 緑色に色づいていた葉々は、その色を一斉に変えこの世界へ多くの色をもたらしてくれる。少々肌寒く感じる時もあるが、この季節は嫌いじゃない。

 

「ふむ……不気味と言えば不気味だが、これはまた見事な景色だ」

 

 そして、私の目の前には、まるでこの世と感じない真っ赤な景色が広がっていた。燃えるようなその赤色は地獄の熱を彷彿させる。

 彼岸花。死人花。葉見ず花見ず。そう呼ばれる花が再思の道を埋め尽くしていた。

 そろそろこの花が咲く季節だと思い、ふらと訪ねてみたが、その予想は見事に的中。しかし、いつ見ても此処の景色は美しい。それは博麗神社の桜や、あの夏祭りで見た弾幕ごっことまた違った美しさ。強いて言うのなら、あの妖怪桜に近しいものだろう。

 つまり、此処の景色は美しい以上に、悲しくなるのだ。

 

「おや? 誰がいるかと思ったらお前さんだったか。神ってのは案外暇なものなんだねぇ」

 

 突然落とされたそんな声。

 其方の方を振り向くと、赤髪赤眼に大鎌を持った少女がいた。

 

「いや、神と言うのも案外忙しいものだよ。それにしても死神。君はまたこうやってサボっているのか?」

 

 私がそうやって死神へ言葉を落とすと、相手はいつものようにクスクスと笑った。この死神が仕事をせずサボっているのはいつものこと。三途の川の渡しと言う大切な使命を請負ながら、その働く姿を見ることは少ない。いや、まぁ、三途の川へ行くことが少ないのだし、当たり前だが。

 ただ、この死神がなかなか働かないのは本当のことで、あの説教好きの上司から怒られている姿はよく見かける。そして、いつだってそれに私も巻き込まれるのだ。迸りも良いところである。

 

「最近、外から来た本で読んだのだけど、どうやら適度な休憩が仕事の効率を上げるらしい。だから、あたいもこうやって休んでいるのさ」

「……いや、そう言うのは元々ちゃんと働いていた奴が言うセリフだろう」

 

 こんな調子じゃそりゃあ、あの閻魔も怒るはずだ。そして、閻魔がこの死神を怒るのは構わんが、私を巻き込まないで欲しい。八雲以上に私はあの閻魔が苦手なんだ。

 

「んで、お前さんはこんな場所で何をしているんだい?」

 

 どうやら私の言葉はさらと流されたらしい。流石は閻魔の説教に慣れているだけのことはある。私も見習った方が良いかもしれない。

 

「この葉見ず花見ずたちを見に来たのだよ。此処は悲しい場所だが、だからこそ美しいと思える場所だからな」

 

 それにこの場所へ訪れる者は少ない。ひとりで何かを考えるとき、そのような場所は便利だ。再思の道を越えた先にあるあの紫の桜も悪くないが、今はその季節でない。

 どうせ此処へ訪れるのはこの時期くらいなのだ。一年で一度くらいはそんな日もある。

 

「はぁ、相変わらずな性格だねぇ」

 

 そう言って、死神は私の頭を乱暴にわしわしと撫でた。こら、やめなさい。確かに、君の方が大きいが、私の方が年上なんだぞ。ああもう、髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃうでしょうが。

 

 

 それから、死神とふたりして道へ座り、だらだらと会話を続けてみた。私とこの死神に直接的な繋がりはない。しかしながら、どうしてなのやらその仲は悪くなかったりする。

 

「……なぁ、お前さん」

「うん? どうした」

 

 私とこの死神が交わす会話はいつだってその中身を持たない。他愛なく、次の日には忘れてしまうようなこと。手を放せば、何処かへ飛んでいってしまうのではないかと思えるほど、軽いもの。

 そして、今日だって交わした会話はその程度のものだった。

 

「本当に大切なものってなんだと思う?」

 

 しかし、そんな他愛なく、中身のない会話を私は気に入っているのだから手に負えない。私の元へ訪れる者は全て皆、何かしらの想いを馳せた会話をする。重い想いとまでは言わないが、私とてたまには軽い会話をしたいと感じていたのだろう。

 

「ふむ、そうだな……私も長い間、それを探したことがあった」

「それで、見つかったのかい?」

 

 神と言うこの立場。なかなか軽くなれるものじゃないのだ。

 今はこうして落ち着いてしまったが、昔……遠い遠い昔から生きてきた私の中には色々なものが入りすぎた。重くなったこの身体では満足に浮くことすら叶わない。

 

「いや、見つからなかったよ。本当に色々な場所を探した。長い長い時間をかけ、それを探したが見つからなかった」

「そりゃあまた、難しいものだねぇ」

 

 そんな私にとってこのような会話はやはり貴重だと感じる。

 

「だからだな、私は思うのだ」

「んー? 何をさ?」

「きっと、本当に大切なものは、普通じゃなくよほど見つけ辛いところにあるか……よほどくだらないことの中にあるのだろう、と」

 

 だから、私はそれを探すのを諦めた。それが何方の中にあるのかは分からない。しかし、そうだとしたら、私に見つけることはできないだろうから。

 それにきっと、見つけてしまっては駄目なのだろう。私はそう思うのだ。

 

「なるほどねぇ……そりゃあ私も見つけられないはずだ」

 

 そう言った死神の顔は、心から楽しそうだった。

 この死神が何を思っているのかは分からん。それでも、私の言葉を受け、何かしらの想いを馳せたのだろう。

 

 そんな時だった。

 ピリリと嫌な気配を感じた。

 

「……死神、君に客人が来たぞ」

 

 あれだけ見事に咲き誇っている葉見ず花見ずなど見えていないかのように、それらを踏み潰しながら、その姿を現した。

 

「確かに死んでいれば私の客だけど……いやぁ、アレはあたいの管轄外だよ」

 

 牛の首に蜘蛛の胴体。口からは瘴気を撒き散らし、人を好んで食べる妖怪。性格は残忍で獰猛。地底ではよく見かけるそうだが、まさかこんな場所で見かけるとは。

 

「牛鬼――の成れの果て、か」

 

 牛鬼は大妖怪と言って良いような存在だが、ボロボロのその姿を見るに、どうやら何かがあったらしい。あの様子ではもう元に戻るのは無理だろう。後は自然に導かれるだけだ。

 

「半分死んでいるようなものだろう? それなら君がちゃんと運んでやれ」

「いや、半分は生きてるから三途の川を渡し切れないって。それにアレはちょっと運びたくない」

 

 どうせあの様子では、私たちの言葉も届かないだろう。そんな状態でも此処へ来たのは、自ら導かれるためと言ったところか。

 

「×××――っ!」

 

 そして、牛鬼が何かを叫んだ。しかし、その声はやはり言葉になっていない。

 

「うおお!? こ、こっちへ来るぞ!」

「ああもう! こう言うのは別の死神の仕事だってのにっ!」

 

 見事に咲いていた葉見ず花見ずを蹴散らし、此方へその巨体がものすごい速さで近づいてきた。ただの牛鬼程度なら見慣れているが、そのボロボロの姿も相俟って超怖い。

 

「ちょ、ちょっと神ならどうにかしておくれよ!」

「無茶言うな! 君こそ死神なんだからアレをどうにかしてくれ!」

 

 そして始まる鬼ごっこ。

 ごっこ遊びと言えば可愛らしいものだが、この状況はちょっとヤバい。想像しても見ろ。言葉にならない叫び声を上げながら、化物がものすごい速さで追いかけてくるなどたまったものじゃない。

 

 だから、私は一生懸命逃げた。しかし、まぁ、逃げきれるわけがないのだ。転びました。詰みました。

 そんな私を牛鬼が見逃すはずもなく、8本ある脚のうち2本を使って私を拘束。いや困ったね、こりゃ。

 

 はぁ……これは仕方無い、か。

 

「……夢の中でしか会うことのできない私の友にな。食べることだけを得意とした奴がいる」

 

 私を殺そうとしているのか、2本の前脚を大きく振り上げた牛鬼。もう逃げることはできそうにない。

 

「なにを落ち着いてるんだ! いくらお前さんでもやられたら……ああもう、ホントはやりたくなかったけどっ!」

 

 死神の慌てたような声が聞こえた。

 残念ながら、私はアイツほど得意でない。しかし、だ。それでも、アイツの真似事程度ならできる。

 

 不得手なものだから、上手く君を導いてやれるかどうか分からない。それでも、どうか君の魂がもう一度廻ることができることを願っているよ。

 

 さて、それじゃあ――

 

 

「いただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前さん、今、何を?」

 

 食べ終わり、けふっと一息。う、うむ、やはり慣れないことはするべきじゃないな。なんだか変な気分だ。

 私を拘束していた牛鬼は消えた。私が食べたことで。ただ、私はアイツと違い全てを食べるわけじゃない。多少、迷ってしまうこともあるだろうが、どうか導かれることを願っているよ。

 

「ただ食べただけだよ。それ以上のことは何もしていない」

 

 私が食べたことで、牛鬼の身体は種へと変わった。残ったのは魂だけ。

 倒れていた身体を起こし、汚れを叩いて落とす。

 

「……よく分からないけど、とにかく助かったよ。私がやってしまったらまた報告書を書かないといけないところだった」

 

 ふむ、死神と言うのも面倒なものなのだな。

 くふふ。それじゃあ、これで貸しひとつとしておいてやろう。

 

「さて、これで邪魔者もいなくなったのだ。それじゃあこの葉見ず花見ずを見ながら、一杯といこうじゃあないか」

「おおー、いいねぇ。丁度あたいも飲みたいと思っていたところなんだ。それじゃあ、あたいは摘みを持ってくるからちょいと待っていてくれ」

 

 うむうむ。任せたぞ。目の前にはせっかく見事な景色が広がっているのだ。お酒を飲まなければもったいない。ちょいと予想外なことも起きたが、今日は良いとなりそうだ。

 

 なんて、ことを考えていた時のことだった。

 

 

「……貴方たちは何を、やっているのですか?」

 

 

 静かな静かな声が聞こえた。小さな小さな声だったはず。しかし、その声はやたらとよく聞こえる。

 

 ……ヤバい。

 

「大きな力を感じ、慌てて訪れてみれば……それに小町? 貴方はまだ仕事中のはずでしたよね?」

「あ、あと、えと、その……ですね」

 

 現れたのは地獄の裁判長。口うるさい有り難いお話。私がこの幻想郷で最も苦手にしている相手。四季映姫・ヤマザナドゥだった。

 

 よし来た。ほい逃げろ。

 

「ふむ……どうやら、私の神社に民が訪れたらしい。それではな」

「逃げたら貴方の神社へ行きますよ?」

 

 逃げ道を潰された。逃げられなかった。先程の牛鬼なんかよりよっぽど怖い。

 

「とりあえず、ふたり共其処へ座りなさい、話はそれからです」

 

 ……説教、嫌い。

 

 

 

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