神のまにまに【完結】   作:puc119

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神様、鍋をする

 

 

「むぅ、最近は急に寒くなってきてしまったな」

 

 社の屋根の上。奉納されたみたらし団子を頬張りつつ、私はそんな言葉を落とした。

 アレだけ鮮やかに色づいていた木々の葉は茶色に変わってしまい、そのことに少しばかりの寂しさを覚える。

 つまり、もう直ぐにでもあの静かな季節が訪れると言うこと。多くの命が還るこの季節は非常に重要なものだ。それに、この静かな季節があるからこそ、その次に訪れるあの季節が輝くと言うもの。しかしながら、どうしても私はこの季節が苦手だった。

 どうしてか分からないが、この季節は無性に悲しくなるのだ。悲しく思うことなど何もないと言うのに。

 

 それにしても、このみたらし団子はやはり美味い。提案したら私の神社の隣へ店を出してくれないものだろうか。もしそうなれば嬉しいのだが……

 

「それでは神様。私はこれで」

「うむ、ご苦労だった。最近は寒くなってきたのだし、君も体調には気をつけるのだぞ」

 

 深々とお辞儀をしてからそんな言葉を落とした翁へ、労いの言葉をかける。季節が変わったばかりのこの時期。どうしても体調を崩しやすいものだ。どうか気をつけてくれ。

 

 冬と言う季節は私が暇になってしまうことが多い。降り積もった雪の影響で、参拝に訪れる民草の数は減り、あの凍てつくような寒さの中を出歩く元気は私も無くしてしまうから。そのため、冬の間は引き篭りがちとなってしまう。そうなってしまう前にふらふら出歩いておきたいところだが……はて、何処へ行ったものか。

 この季節を楽しむことができるものがあれば良いが、どうにも思い浮かばない。

 

 とりあえず奉納物の中で何か楽しめるものはないかと、神社の中をごそごそと探索。そして、見つかったのは兎肉、葱、白菜だった。

 

「うむ……これは鍋だな」

 

 よしきた、鍋するぞ、鍋。

 きっと肌寒くなってきたこの季節には丁度良いと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 面倒くさいと思いつつも、桜木から落ちる葉を掃いている時のこと……なんか変なのが来た。

 

「それじゃあ博麗の巫女よ。早速始めようか」

「いや、あんた誰よ」

 

 頭へ鍋を被り、背中に兎肉を背負い、その両腕には白菜と葱。そんな意味の分からない格好で訪れたちっこいの。なんだコイツ。

 

「あー……まぁ、アレだ。そんな細かいことを気にするな。それよりも鍋やるぞ、鍋」

 

 妖怪……じゃないだろう。かと言って人間にも見えない。そうなると妖精かしら? 羽は見えないけれど、きっと鍋の妖精とかだろう。そんなもの聞いたことないけど。

 鍋、ねぇ。最近は急に寒くなってきたから、丁度良いと言えば丁度良いけれど、色々待ってほしい。

 

「……もしかして鍋、嫌いだったか?」

 

 私が乗り気じゃなかったせいか、しゅんとしてしまった妖精。そのことへ少しばかりの罪悪感。

 

「別に嫌いじゃないわよ。はぁ……わかったわかったから、とりあえず上がりなさい。あっ、ちゃんと手は洗ってからね」

 

 何と言うか、私も最近は随分甘くなってしまったように感じる。以前の……それこそレミリアが起こしたあの赤霧の異変前の私なら問答無用でこの妖精を蹴散らし、その食材だけをいただいていただろう。それが今じゃこの有様だ。

 そして、それを私が悪いと思っていなかったりするものだから手に負えない。

 

「おおー、それは良かったよ。あい分かった。くふふ、洗ってくるからちょいと待っていてくれ」

 

 そう言って可愛らしく笑ってから、妖精は水場の方へとことこと走って行き、直ぐに転んだ。何やってんだ。

 ……変な奴。ホント、何を考えているのかしらね?

 

 

 

 

「あっ、ごめん。丁度、味噌を切らしていたんだった」

 

 なんだかよくわからない妖精と鍋をやると決めたのは良いけれど、肝心の味噌がなかった。

 

「……鍋、できないのか?」

 

 ああもう、だからそのしゅんとする顔をやめなさい。あと、さっき転んだ時に鼻の頭を擦りむいたみたいだけど大丈夫?

 とは言え、困ったものね。味噌がなくても鍋はできるけれど、水炊きじゃやっぱり味気ない。人里へ買いに行くのも面倒だし……

 

「こんな大きな神社なのだ。味噌くらい大量に奉納されていそうなものだが」

 

 一瞬嫌みでも言われたのかと思った。でも、多分違うだろう。そう言う性格ではなさそうだし。

 

「神様へ納める用の味噌ならあるのだけど、流石にそれは使えないわよ」

 

 流石の私でもその辺りのことはきちんとしておきたい。

 

「良い。私が許す。よし、鍋を始めようか」

「いや、あんたに許されても……」

 

 何様のつもりだ。まぁ、妖精にそんなことを言っても意味ないから仕方無いのだけど。

 しかし困ったわね。せっかく食材を持ってきてくれたのに、これじゃあ美味しく食べることができない。なんだかんだ私だって鍋を食べたいところなんだ。

 

 

「ふふっ、味噌なら此処にあるわよ?」

 

 もういっそ塩だけでどうにかしようと考えていたら、突然空間が歪み、いつものスキマからアイツが現れた。その手には味噌が入っているらしき袋とお酒。

 普段から突然現れるし、碌なことをしない奴だけど、今ばかりは紫に感謝できそうだ。

 

「……八雲よ、なぜ君がいる。そろそろ眠る時期だろうに」

 

 そして、紫が現れたことで急に不機嫌となった妖精。紫が苦手なのかな? まぁ、この紫を得意にしている奴なんていないだろうけど。

 

「あらあら、随分と嫌われてしまったものね。ええ、そろそろ眠ろうと思っていたところです。ただ、せっかくこうやって貴方様が博麗神社へ訪れてくれたのだから、私も参加したいと思っただけですわ」

 

 相変わらずの胡散臭い笑み。何を考えているのかなんてわかったものじゃない。

 それにしても、紫がただの妖精へ此処まで意識を向けているのは珍しい気がする。うーん、この子は妖精じゃないのかしら? じゃあ、神とか? ……いや、それはないか。

 

「……何を考えているのだ」

 

 ぶっすーとした顔の妖精。でも、ちゃんと紫から味噌とお酒を受け取っているところがなかなかにシュールな光景だ。

 

「ふふっ、ですから私は貴方様と一緒に今年最後の季節を楽しみたいと思っただけ。ほら、せっかくの可愛らしいお顔なのに、そんな表情をしていたら台無しよ?」

 

 可愛らしいと言われたことが嬉しかったのか、妖精の表情は少しばかり和らいだように感じる。……ちょろいぞ、この妖精。

 

「う、うむ、そうだな。せっかくの鍋なのだし、皆で楽しむとしようか。八雲よ、私の広い心に感謝すると良い」

「ええ、もちろん。貴方様にはいつもいつも感謝していますわ」

 

 いや、まぁ、私は紫がいようがいまいがどっちでも良かったけど……ただそうね。せっかくだし、皆で楽しむとしましょうか。

 

 

 

 それから、妖精の持ってきた食材を使って鍋を作り、紫が持ってきた“泡盛”なんて言うお酒を3人で楽しんだ。

 どうやら妖精は紫のことを苦手にしているみたいだったけれど、私からしてみれば別に仲が悪いと言う感じではなさそうに思える。それに私は紫と此処まで関わり合う奴なんて知らないから、なんとも不思議な感覚だった。いくら狭い幻想郷とは言え、こんな奴もいたのね。

 

「そう言えば、どうしてあんたはウチに来たのよ?」

「うん? 鍋をしたいから来たのだぞ」

 

 ……いや、それはわかってるけど、私が聞きたいのはそう言うことじゃない。

 

「そうじゃなくて、別に鍋なんてウチじゃなくてもできるでしょ? それなのに、どうして此処へ来たのかってこと」

 

 この妖精は初めて見た……気がする。少なくとも私とこの妖精の間に深い繋がりはないだろう。

 そして、そんな私と妖精の会話を紫はただ笑って見ていた。

 

「ふむ、確かに此処へ来る必要はなかった。それでも、此処へ訪れたのは……まぁ、ただの気まぐれだ」

 

 気まぐれ、ねぇ。妖精なんてそんな奴らばかりで、何を考えているのかなんてわからないし、聞いたって意味ないことだったかな。

 ただ、この妖精……なんか引っかかるのよね。危ない感じはしないけど、こう、何と言うか……うーん、気のせいかしら?

 

「しかし、今代の博麗の巫女と会話をしてみたかったと言うのはあーっ! 待て、八雲よ。その最後の肉は私の……」

「ふふっ、これで鍋もお仕舞い。それじゃあ、これで私は帰るわね」

 

 あら、紫は本当に鍋を食べに来ただけなのね。てっきりそれは建前で、小言のひとつでも言われるのかと思っていた。

 

「くそぉ、私の肉だったのに……んもう、八雲よ、早々に帰るが良い!」

「ええ、神のまにまに。それではまた暖かくなった頃お会いできる日を楽しみにしています」

 

 そう言って紫は、妖精の頭を優しく撫でてからいつものスキマの中へ消えていった。

 

「全く、アイツもいつもいつもそうやって私を子供扱いして……私の方が年上だと言うに……」

 

 紫が消えていった方を眺めながら、ぽっぽこと怒る妖精。その様子じゃ子供扱いされるのも仕方無い。

 

「それで、あんたはどうするの?」

「うむ、それでは私も帰るとしよう。今日は世話になったな博麗の巫女よ。ああ、あとその鍋は君にやろう。どうか大事に使ってやってくれ」

 

 あら、それは有り難いわ。ずっと同じ鍋を使っていたものだから、丁度そろそろ代えようと思っていたところだし。

 

「さて、それでは……おろ? ああ、なるほど風花か。これはまた見事なものだ」

 

 帰ろうとした妖精はそんな言葉を落としてから、くふふと笑った。

 そんな妖精に続き私も外の景色を見てみると、雲ひとつない空から、はらはらと小さな雪が舞っている様子。その雪が太陽の光を反射し、なかなかに幻想的な景色だった。

 

「これから更に寒くなる。博麗の巫女も体調には気をつけるのだぞ」

「ええ、言われなくてもわかっているわ。あんたも気をつけなさいよ?」

 

 そんな会話を交わしてから、もう一度空を見上げてみた。キラキラと光る雪はやはり綺麗で、思わず見蕩れてしまう。

 これからは寒い季節が続くことになりそうだ。

 

 そして、またあの妖精へその視線を移してみた。

 

「あれ? どこ行ったのかしら?」

 

 しかし、其処にあの妖精の姿はない。どうやったのか知らないけれど、その姿を消してしまったらしい。

 

 ……ホント、変な奴。

 ただ、また会うことを少しだけ楽しみにしている自分がいたりした。

 

 

 

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