合宿5日目の夕方、朝から行った遺跡調査を終えた蓮たちは合宿所に戻っていた。
蓮たちが昨日開いた八階と甲板を結ぶ直結通路から調査を再開し、無事に十階層まで到達。幸いなことに、
最深部に入る前の十階の管理室エリアで今、ラ・クルシェが記憶の復元をしている。約半日かかるという話なので、最深部にいたる扉を開くのはラ・クルシェの記憶の復元が終わるのを待ってからにしようという話にまとまり、調査メンバーは地上に帰還した。
明日はいよいよ遺跡の最深部に入るのだから準備は万全にしなくてはいけない。
遺跡から戻った後、蓮は島の工房で自分の機竜の整備をしていた。
「ヘイズ…。何でもお前の思い通りにいくと思うなよ」
《ヴリトラ》の装甲を磨きながら呟く。
昨日の夜、ルクスから何があったのかを話してもらった。
地上に出たオルトロスを追い、ルクスとフィルフィが協力して倒した後、フィルフィが苦しみだしたと思ったらルクスに襲い掛かったらしい。すぐに気絶したが、そこにヘイズが現れた。
ヘイズはルクスにフィルフィの体は
そして、ヘイズがルクスに持ち掛けた取引が、
「ユグドラシルにフィルフィを救うための命令を特別に出してやる。その代わり、お前達は『
と言うものだった。
明らかな罠。しかし、現状でフィルフィを救うにはヘイズの言う通りにするしかない。もちろん、救える保証があるわけではないが、それを信じるしかないのも事実。
加えて、今回の遺跡調査がレリィの独断だったこともルクスは話した。目的は言わずもがな、フィルフィを救う術を手に入れるためだ。
「…………」
昨夜の会話を思い出し、作業の手が止まる。が、すぐに再開した。
(今度は、逃がさないぜ)
選抜戦の時のことを思いだして、静かにこぶしを握った。
蓮が機竜の整備をしているのと同じ頃、ルクスは合宿所裏の森を抜けた先にある開けた場所で長年探していた人物と邂逅していた。
「久しぶりだな、賢弟」
「フギル、アーカディア……!」
5年間追い続けていた男がそこにはいた。
「……何をしに来た?」
「……………」
「あのヘイズというヘイブルグの軍師も、お前の差し金か?」
「さあな」
不敵な笑みを浮かべて、フギルはおどける。
ルクスは捕えようとして一瞬踏み込んだ足を止めた。
「ほう、よくそこまで考えが至ったな。賢弟」
フギルはルクスの行動の意味が分かったかのように感嘆し、手を叩いた。
「俺とヘイズにつながりがあるのは確定。ならば、捕らえて人質にして交換条件とする。しかし、俺がここに居る必要はない。なぜなら―――」
「意味がない。わざわざ条件を敵に与えるなんて愚を犯すことはない」
「その通りだ。さて、俺に人質としての価値がないとわかったところで、本題だ」
フギルは不敵な笑みを浮かべたまま話し始めた。
「一言で言うなら“協力”だ。俺はあのヘイズという女を止めようとしている。俺は連中の味方の筈なんだが、あまりに勝手な行動が多いんでな、ここらで止めておきたいんだ。つまり、今この瞬間だけはお前と利害が一致しているのさ」
「………。何をすればいい?」
「奴の持っている角笛は特別製でな、
「それがお前の罠ではないという証拠は?」
ルクスは内心の動揺を押し殺すように低い声で問うた。
フギルはその真意を隠すように仮面のような笑みを張り付けたまま――
「それはお前が考えろ」
――と言い残して踵を返した。
ルクスはその姿が見えなくなるまで、その背を睨み続けた。
(まずい、このままじゃ――!)
ルクスは《ワイバーン》を纏い、
フギルが消えた後、少ししてレリィの姿が合宿所から消えた。
レリィの行きそうな場所は全員で探し回ったが、見つからず。
ルクスは単身、探していない中で彼女が一番行きそうな場所――遺跡『
解放済みのポータルから8階層に飛び、下層を目指したその時、数体の
ルクスはそれらを迎撃する。が、悲鳴が新たな
目に見えるだけでもガーゴイル、キマイラ、グリフォン、クラーケン……十数体の
装甲を《バハムート》に切り替えなければ押し切られる!
ルクスがそう判断し、襲いかかってきたガーゴイルを迎撃しようとした瞬間――
「……やれやれ、少しは頼れよ。―――
パアン!
空気がはじけるような音と共にガーゴイルが横合いからのパンチに吹き飛んだ。
「――え?」
ルクスが驚きに目を見開き、周囲に視線を向ける。
「よお、俺たちは仲間だろ?少しくらい仲間に背負わせてくれよな」
「相変わらず強引なヤツだな、おまえは」
「焦る気持ちはわからないわけではないけど、あなたがやられては本末転倒よ」
「学園長もそうですが、貴方も十分無謀です。帰ったらお説教が必要だと断じます」
蓮、リーズシャルテ、クルルシファー、セリスの神装機竜の使い手4人。
「学園長は十階層です。反応から見て隣にはラ・クルシェもいます。ですが、周囲には
「さ、ここは私たちに任せて君は行きたまえ。少年」
「お礼はあとではずんでもらうからねー、ルクっち」
「まったく。兄さんはいっつも無茶ばっかりするんですから」
どうやら、全員が来てしまったらしい。
皆を巻き込むまいと単身乗り込んだはずだったのに。
「みんな……」
「さぁ、行って来い、ルクス。
「――ありがとう。頼んだよ、みんな!」
ルクスとリーズシャルテ、セリスを先に行かせた後、三人を追おうとする
「さ、ここから先は有料だ。代金はてめーらの命ってことでな」
「レン君。それ、完全に悪役のセリフよ」
「じゃあ、あたしこう言うね~。――ここを通りたければ、あたしを倒していけ!ってね!」
「ティルファー。それは蓮さん曰く、“死亡フラグ”と言うものらしいです」
「ハハハ、君たちといると本当に退屈しないな」
「みなさん……ふざけすぎですよ……」
アイリのツッコミが悲しく響く。
直後、戦端が開かれた。
「ここが最後の扉か……」
蓮たちはあれから数度の
レリィとラ・クルシェは無事。ルクスたちは間に合ったようだ。
今はクルルシファーがラ・クルシェのサポートで最深層の扉を開けている。
レリィは驚いていたが、クルルシファーは後で説明すると言って取り合わなかった。
ガシィィイイン!
重厚な金属音と共に、ついに扉が開かれる。
しかし、その先にあったのはおおよそ、宝物庫と呼ぶにはふさわしくない空間だった。
レリィが困惑気味にラ・クルシェに問いかける。
「どういうことなの?記憶の再生に失敗したの――」
「いいえ、再生は成功しました。ただ、同時に思い出したのです。私の為すべきことは―――」
すると、ラ・クルシェは笑みを浮かべる。
獲物を罠にかけることに成功した、捕食者の笑みを。
「――あなた方を一人残らず始末することだと」
刹那、扉が閉まる音が聞こえる。
クルルシファーが慌ててどういうことか聞き出そうとするが、ラ・クルシェは答えない。
ただ、敵意に満ちた目を向けるだけだった。
「アッハハハ!やっぱり、てめーらはアホだなぁ!」
蓮が声のした方に振り向きざま、ダガーを投擲する。
しかし、カランという金属音からして失敗したようだ。
「あっぶねぇな。相変わらずまともな挨拶もできねぇのか、おまえは」
「悪いな。だったら、今度は正面から気配を消さずに来いよ。それなら挨拶してやる」
声の主――ヘイズが苦笑しながらそう言うと、蓮はおどけたように肩をすくめてそう言い返す。
「ああそうかい。ま、俺の目論見通りに動いてくれたことには感謝しなきゃな。これで、目障りなテメーら全員ぶっ殺せるぜ!」
「させると思いますか?」
ヘイズの存在を確認したセリスが《リンドヴルム》で強襲する。
――が。その一撃は受け止められていた。
「なっ―――!?」
ヘイズの隣にいたもう一人のローブ姿の人間によって。
信じがたい光景にセリスが硬直したその隙を見逃さず、ローブが翻る。
「くっ……!いったい――!?」
「なっ!?」
「う、うそ…でしょ……!?」
とっさに障壁を強化して受け止め、後退したセリスは己が目を疑った。
それはその光景を見ていたルクス、レリィ、その他の面々も同じだった。
なぜなら、その正体は――フィルフィだったからだ。
「「「「ッ!?」」」」
「ハハハッ!テメーらにもっと絶望を与えてやるよ!」
ヘイズが笑い、その懐から角笛を取り出す。
『フィルフィ・アイングラム!そこに居る下賤どもを殲滅しろ!それを終えたとき、お前は自由になる!ハハハハッ!』
異音の直後、暗示をかけるように響くヘイズの声。
そしてヘイズは酷薄な笑みとともに、扉の向こうに消える。
「あのゲスめ…!」
「泣き言を言っている場合ではありません。外への扉は開きますか?」
「わからないわ。でも―――」
「させませんよ。マスター。どのみち
ラ・クルシェがその指を指揮棒のように振るうと、三機の《ワイバーン》が彼女を守るように現れる。
その姿は普通の《ワイバーン》と変わりないが、ただ一点。そこに人はおらず、金属の人形が配置されていた。
「さらに追加です」
続いてラ・クルシェが淡く輝くと、今度は3機の《ワイバーン》たちが姿を変える。
「これは、まさかっ!?」
「はい。
リーシャがその正体に勘付いて驚愕の声を上げると同時、その三機はルクスめがけて殺到する。
ルクスがとっさにブレードでガードするが、
さらに追い打ちをかけるように、鞘走りと
「――始動せよ。星砕き果て穿つ噛み殺しの巨竜。百頭の牙放ち全能を殺せ、《テュポーン》」
《テュポーン》が召喚され、連結される。フィルフィが構えを取る。
全員が息を呑む中、もう一つの声が響く。
「――降誕せよ。幾数多の憎悪を身に宿し蛇竜。怨恨放ち雷霆を弑せ、《ヴリトラ》」
蓮が装甲を《ドレイク》から《ヴリトラ》に切り替え、フィルフィと対峙するようにその正面に立つ。
「フィルフィ、悪いが加減はしない。速攻で叩かせてもらう。そして、ヘイズ…。テメェは俺を怒らせたぜ……!」
怒気を発し、蓮は《ヴリトラ》を滑翔させる。
同時に、フィルフィも《テュポーン》を滑走させた。
「セリスさん…、フィルフィは……」
「ええ、わかっています」
蓮とフィルフィ。
ルクスと無人機たち。
彼らが激突する中、覚悟を決め、表情を引き締めたセリスに訴えるようにレリィが声を掛ける。
セリスは小さく頷いて、背後の仲間たちを見る。
「レン君とルクス君に加勢して、さっさと終わらせる。でしょ?」
「はい。みんな、行きますよ」
クルルシファーの確認にセリスは頷く。
彼女たちは二手に分かれて、戦闘で戦う二人の男の子に加勢する。
お待たせしました!ようやくの更新です!
投稿が遅れに遅れてすみません。
始めたバイトとかFGO(つい最近ガチャで爆死した)とかで時間を使ってしまって……。
予定としては次話と次々話でユグドラシル戦。その後にエピローグ挟んで五巻の内容に入る予定です。
修正点や感想等を待っています!では!