本編約7万文字
あとがき・解説約1.5万文字
となっております。
ここは普通の世界ではない。
まるでファンタジー世界。
空にドラゴンが普通に居るし、モンスターだって居る。
人々は魔法を使るし、獣人もいるし、
そう、ゲームでは割と有り触れた設定の世界だ。
そういう世界なのだ。
そしてここは喫茶店、ブルーベア。
営業時間中は必ずといって良いほど、ピアノの音と騒がしい人たちの声が絶えない。
今日も快晴であり、平和である。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
回を追うごとに長さを増すこの叫び声も、もはやお馴染みだろうか。
このシリーズを見ている人は説明が無くても1発で誰が叫んでいるか分かると思われる。
だがあえて言う。
ジョンの叫び声である。
「姐さん!!吐きそう!!」
「今回は何も入れてないわよ」
「そこの雑用係が味の質を落としてるんすよぉ!!」
「ぬぁーにぃー!!?」
ジョンの失礼極まる言葉に盛大に反応するのが、前回3話において敵の頭目だった鬼島十八朗。
その前回の服装は、やたら高そうな物ばかりで揃えた、まさに悪役らしい感じだったのだが、
今では真っ白Tシャツに安物黒めのジーンズ、そしてきわめつけて目に優しくないピンクのエプロン姿という、見るからに杜撰で凄惨な格好であった。真ん中にハートマークあるし。
彼自身腕も太く、なかなか良い体つきなだけに、目も当てられない。
更に言うなれば腕は毛むくじゃら。悲惨以外の何物でもない。勘弁して欲しい。割りと本気で。
しかしそんな事は関係無いと言わんばかりのブルーベア。
見ていて食べ物飲み物が不味くなると言われたところで、いいや何時でもどんな時でも、こう言うのだ。
「目を瞑って飲めば(または食べれば)いいじゃない」
こんな鬼島をクビにするという考えは最初から持ち合わせていないのか、そもそもなんでこんな格好を容認しちゃったのか。
元より鬼島は、この喫茶店ブルーベアの店主兼バーテンダーであるブルーベアが、ほとんど非合法的手段を用いてまで雇い入れをした男である。
雇った理由は簡単。
やられたらやり返す。それがブルーベアの基本理念。
今まで雇われて命令されての立場だったブルーベア、逆の立場に転じて、鬼島を使って遊んでいる立場にあった。
まさかピンクエプロン着用させたの、ブルーベアじゃないだろうな。
しかしそんな様々な意味で酷い経緯があったにも関わらず、ブルーベアと鬼島の現在の関係はさほど悪い事もなく、
鬼島も既にただただこの騒がしい空間の一名に成り下がるだけに被害は留まっている。
ただしジョンのみは鬼島を毛嫌いしており、何時まで経っても慣れないままであった。
まあジョンもひたすら格好にツッコんでるだけだから、格好が改善されたら話は別なんだろうけど。
むしろ他が一切苦情や文句を垂れてない方が可怪しいんだけども。
「おい18番wwww
掃除の手が止まってるぞwwwwwwww」
「ぬぁ!しまった!掃除せねば!!」
鬼島十八朗、今ではただの雑用扱い。
可哀想なことにも、現在この喫茶店で一番格が下な扱いになっているのは、この
しかしなんともノリノリである。
年長者かつ元軍事国家の長がなんで雑用を意気揚々とやってんだよとかツッコミ入れていい?
「不味い!早く裏方行けよ!!」
「ぬぉ!?」
「はいはい、喧嘩しないの。
ほら十八番、手が止まってる。掃除しなさい」
「ぬぅ!!」
「お前は幼児退行でも進んでんのかwwwwwwwwwwww
ハッキリとした言語で返せよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「オイヨイヨさん、コーヒーです」
「っとwww
さんきゅーwww」
この喫茶店も萌え要素ことミア=ミアミスは淡々と仕事をこなし、それこそこの場に自然に溶け込んでいる始末。
この店はまさに異常空間となって果てている。
ちなみに、騒がしい面々をも一切無視して優雅に演奏を続けるのはピアノ少女。
このピアノ少女に関してはいかなる場合であろうとも、誰ですらもが1mmたりともツッコミも入れない。寧ろこの空気に馴染んでいるのか怪しいのはあの少女だけだろうか。
いや馴染みすぎてるっていうか。背景に溶け込みすぎてるというか。
ともかくあの少女だけが孤立的であるのは確かだろう。
他は例外無く巻き込まれているのだ。
主にジョンを中心として。
こんな騒がしい喫茶店は他には無く、こんな状況下で客が来ないにも関わらず対処しない店も他には無いとも言える。
随分話をそらせるが、彼らの正義稼業、喫茶店は両方共に割かし儲かっている。
正義の味方であるオイヨイヨとジョンは、十八番が持ってくる多量のクエストを消化していっているのが現状。
そんな中であっても、ジョンが独断で“正義の味方っぽいクエスト”ばかりを受けるので、実質消化に貢献しているようでそうでもないし、そんな適当やってる所為で報酬額もマチマチという始末。
その蜜を吸うべくぼったくりしているのが、ブルーベア。
何とも言い難いこの面々の関係だが、特に誰も何も言わない。
だが、他所から指摘を受けたとしても、彼らにこれらを変える意思が無いのも事実。
彼らは現状にかなり満足していたのだった。
って言うとちょっといい感じっぽい語りだけど、喫茶店ブルーベアはそろそろ運営に関して何かしらの対策した方がいいと思う。主に約2名が可哀想だし。
「ちーっす、姐さーん。ぜよ」
「あらご苦労様」
裏方から顔を出したのは、通り名、バルカン砲の武藤。
本職がなんと配達運送業であり、この街にて会社を持っている比較的小さな企業の社長でもある。
彼は前回、ジョンとオイヨイヨを限界まで追い込んだという凄い男なのだが、全く持って勿体ない話。本当に本業が運送業でいいのか。
いや、フライパンケーキで傭兵モドキをやってたあたり、技能を活かす仕事には困って無いのかな。
というかなんで鬼島の元で傭兵やってたかの説明とか全然してないけどいいのかな。あとがき・解説でやってたっけ。忘れた。
「今回の伝票ぜよ。ここ置いとくぜよよ。
あと、そこの正義の味方に渡すものぜよ」
「んあ?w」
「黒い封筒とは、なかなか悪趣味ぜよ。
危険物じゃないのは魔法で調べといたから、問題ないぜよ」
「くれー!」
ジョンが自分で座っていた場所の椅子を倒しながら前に進んでいく。
ブルーベアにゲンコツを貰ってから、その手紙か何かを受け取った。
それは確かに、紛れもなく黒い封筒。店売りではなかなかお目にかかれないタイプの封筒である。
黒い封筒は金箔や銀箔の装飾が映えるので、高級感ある材質を使用したりして使われる事も多々あるが、今回は何もなし。無地というと変な言い方だが、ただただ真っ黒な封筒であった。
ジョンはそれの表と裏を確認しつつ、厚みも確認。
大した中身は入って無さそうだが、表には鉛筆で正義の味方さんへ、と書かれていた。
黒い紙に鉛筆って見えるのか?とか思われそうだが、結構見える物である。黒鉛ってテカテカ光るからね。
そしてジョンに表情変化があった。
それは僅かな変化であり、僅かな時間の出来事だったが、封筒の文字を見た途端、眉間が動いたように見えた。
が、それに気がついたのは恐らく、メイド服のミア・ミアミスだけだっただろう。
じっくり顔でも見ていれば誰でも気がつけたとは思うが、ブルーベアはグラス磨いてるし、他は黒い封筒に目を伸ばしていたのだ。気がつけるワケもない。
寧ろ気がついたミアの方がちょっとどうかしてる感じか。
「ちょっと目を離した隙に置かれてたぜよ。
ジョン=オ=ラルクかバーロー=オイヨイヨ宛てらしいぜよよ。
大事だったらいけないからと一応で持ってきてみた次第ぜよ」
「そうかよwwありがとなwww」
こういう場合、面倒事がほとんどだと分かっているのはオイヨイヨだけではない。
ブルーベアも武藤も十八番もミアも、なんとなくそれを察している。いや面倒事以外に何だよって話だが。
ジョンに至っては心当たりがありそうな感じだったのだが、彼にとってはそれが面白い事であればどうでもよかったのだろう。
いいや、本当にそうだろうか。
ジョンにとってこれは面白い話だといえるのだろうか。
ともかくジョンは黒い封筒を掲げ、差し出す。
相手はオイヨイヨ。
「オイヨーヨ!」
「んだよw」
「読めない!読め!」
「じゃあ受け取るなwwwwwwwwwwwwwwww」
げんこつの音が、あたかもピアノ演奏に合わせるドラムの役割かのように響きまくっているが、全然リズムは刻んでいない。
8ビートなんか刻んでいたら、ジョンの頭はそれこそタンコブだらけだし、それ以前にアホさが悪化するだけである。
元よりオイヨイヨに8ビートを刻む気など無かった。
オイヨイヨはそのまま黒い封筒を受け取り、中身を取り出す。
びっくりだが、封筒には糊付けさえされていなかった。
すんなりと中から便箋一枚が取り出される。
こちらは普通の便箋らしい。特に装飾も無い、無地の便箋。
ただし、文字数はそれなりにびっしりとあった。
「…ん、ジャック。これ、お前だけ宛らしい」
目の動きからして、たかだか数行読んだだけのオイヨイヨ。
そのまま目を閉じ、すぐに便箋を折りたたんで封筒に入れ直した。
「えー!
今日俺寄る所あるんだよなー!!」
「そうかよw
多分ソレと関係あるんじゃないか?コレw
流石に色々読めるだろw
なんか俺が触れちゃいけない感あるしよww」
そう言って封筒を返すオイヨイヨ。目線もどっち向いてるんだか分からない感じだった。
ジョンも乗り気とは違うのか、酷く鈍い動きで封筒を手にし、便箋を開いて読み始める。
「…あ、マジだ。関係ある」
読めるんかい。と誰もが心の中で思ったが口には出さなかった。
というか本当に読んだのか怪しい。なにせ1秒から2秒程で手紙を雑にポケットに突っ込んでいたから。
そしてそのままに、足を進めるのはジョン。
「なんだ?wもう行くのか?ww」
喫茶店の出入り口に向かって歩くジョンは、憂鬱なのか億劫なのかひたすら面倒臭いのか、ともかく前向きな表情ではなかった。
微妙な表情過ぎて、その心境はどうとも取れる。
さて何を考えているのやら。
「……ん。
じゃ、俺行ってくる。
仕事入ったらそっちで頼むよ」
「おうよwww」
ベルの音がカランカランと、随分寂しく響いた。
数秒程はその音が喫茶店中に木霊すのだが、すぐにピアノの音に負けて消え失せる。
そんな頃合いを見計らってか、ブルーべアがオイヨイヨに尋ねた。
流石にあんなジョンを目の当たりにしては、無視も放置も出来なかったようだ。
黒い封筒は、オレンジジュースの代金と一緒にテーブルへ置かれている。
「何だったの?」
「さーなww
少なくとも文章チラ見程度で、理解出来るような内容じゃなかったよw」
ジョンはチラ見で全部理解したっぽいんですがその辺どうなんですかね。
いや理解出来てたのかな本当に。内容に興味無かっただけ?
もしかするとこの後くらいにじっくり読むつもりでポケットに入れたのかも?
とか言うのは白々し過ぎると思うので、その可能性はここで否定しておこう。
ジョンは確かにあの僅かな時間に手紙の中身をしっかり読んでいた。
それは、手紙を見ずして一言一句間違える事無く朗読が可能な程、しっかり読んでいた。
今まで馬鹿だ阿呆だ何だと言ってきたが、ジョンは実のところ馬鹿や阿呆とは両極の所に居る。
現在の間抜けっぷりがどうして巻き起こっているかは、この後の長い長いお話を添えながら、読者に伝えようと思う。
「追尾するぜよか?」
やたらに武藤がオイヨイヨに接近し、意味不明な事を催促しようとしているが、オイヨイヨはコーヒーを飲み終えたカップを顔面にぶつけ、武藤を退けた。
飲み終えたからってカップをぶつけるのはどうなんだ。
ほらみろコーヒーが数滴だけど武藤の顔面に飛び散ってんじゃねーか。ミア、タオル持ってきてあげて。
「ばーかww
今回のジョンは結構マジっぽい。
追尾してたら、多分1km離れてても撃墜されちまうっつーの。
されなくても撒かれるのは目に見えてる」
「あら、何か知ってるって素振りね?」
ここぞとばかりに突っかかるブルーベア。
その割にグラス磨いてるあたり、単なる好奇心だろうか。
少なくともジョンを心配していたり、これから追尾しようという風ではない。内心は知りようも無いが。
「さーな。
別の店にオレンジジュースでも飲みに行ったんじゃねーの?w」
「…あ、なるほどね。
私にも心当たりがあったわ。
なるほどね…」
「あるのかよwwwwwwwwwwww」
流石にそれは無いだろと言いたい所だが、ブルーベアなら何かを知ってそうな気もする。
伊達に伝説の暗殺者ではないし、ジョンとは長い長い付き合いなのだ。
ジョンの素性も本来の実力も能力も、ブルーベアはよく知っている。理解している。
だからこそ動かない。
信頼しているから。
ここで急に、オイヨイヨが立ち上がる。
「よぉっこらせぇwww」
と、無意味にオジン臭い感じの掛け声までおまけ付き。
それは要らない。即刻やめろ。明日からやめろ。
「…どこ行く気よ」
「さーなw
ちょっとしたヤボ用だ。
ジョンの後つけるって話じゃあねえさ。
ただ…」
「ただ?」
「鬼島の情報網で妙なモンが拾えてな。
ソレに関する調査ってところか。
ま、トップシークレットだww」
そう言ってケタケタ笑いながら、倉庫に消えていくオイヨイヨ。
準備してから行くつもりなのだろう。
と思ったのだが、ブルーベアは感づいていた。
何を配慮してなのか、裏口からワザワザ出ていったのだ。
「なんだか大変ですね、彼らも。
ですが、いつもは仲良しカップルみたいに行動しているのに、今日は別行動なんて、らしくありませんよ」
代金達を拾い集めつつ、台拭きでテーブルを拭き終えたミアがそんな事を言う。
随分と面白可笑しい皮肉っぷりである。
だがこれに対して反応したブルーベアは、これ以上無く意味深な事を言うのだ。
「彼らは、難しいから」
「え?」
ミアが疑問符で返すが、残念ながら返事はなかった。
ピアノの音とグラスを磨く音だけが、ひたすら反響するだけだった。
*****
CABINという企業・会社は、その昔は名前を別としており、ただ漠然と、傭兵の集まりというような区分だった。それが今から100年以上も前の話。
公式的にCABINという名前に決まったのは、今から50年ほど前……、赤鋼暦1188年頃だったか。
傭兵会社としての側面が強いこの企業・会社は、現在も昔も相も変わらず、構成員達の実力によるナンバリング…、要するに順位が存在する。
しかしそのナンバーは、単なる成績で決められていたワケではない。
確かに、強く、そして戦果を上げた者こそが上位のナンバーに登っていくのは間違いのない事実だ。
しかし上位ナンバーの中でも特に一桁台は、皮肉がひどく含まれている。迷信によって選ばれる事が実に多かった。
実質上、実力戦果共に傭兵1番にならざるを得なかったソルジャー、当時、赤鋼暦1237年のジョン=オ=ラルク。12歳。
彼のナンバーは、あくまでも日本においてではあるが、それに則り、死を意味する4番を与えられていた。
彼は当時、死神とも殺戮兵器とも言われ、多量の命をその手で奪い続けていた。奪い続けなくてはならなかった。
その理由はまた別の機会、物語にてに語ろうと思うが、奪ってしまった数に関しては、ここで語らなくては始まらないと思うので、明記する。
記録は実のところ測定不明。正確な数値の算出は酷く困難。
だが“約”で計られてもその数は尋常ではない。
あろうことにも世界記録保持者だが、その内容が内容。皮肉なことにも名前を彫られている。
大量殺害世界記録1位
二足歩行の生命体を殺した数No.1
ジョン=オ=ラルク
推定最低人数 20万
2位とのその差、実に17万。
ならず者とも言うべき傭兵達を難なく取りまとめていたCABIN社長でさえ、手を余す程の化物。
そんな存在に、誰が近寄ろうとしただろうか。
近寄るのは、それはそれはよっぽど頭のオカシイ人間か、自惚れの過ぎる輩か、何かを企む者か、無知か。
だとするならば、彼女はどの部類の人間だったのだろうか。
頭がオカシイ人間だったのか。それとも、それ以外だったのか。
これから語る話は、彼がCABINに在籍し、更にはそのソルジャーナンバー4であった頃の、数年ほど前、比較的近い過去話。
しかしジョンにとってすれば、随分古い話になる。懐かしみを覚えるには充分過ぎる過去。
季節は不明。
赤鋼暦1237年。
約3年前の、お話。
***
「テッキーラ!」
「…は?」
突然の声に、ジョンは呆れた声を上げた。
相手を問わずに侮蔑しきっているジョンのその双眸は、喫茶店ブルーベアで馬鹿をやり続けているジョンからは想像もつかない程、威圧と殺意に満ちた瞳の色だった。
しかし「テキーラ」とかを叫んだ彼女は、そんなジョンの目に対しては一切何も言わないし、思うところがないという様子。
寧ろ何もかもを気にしてすら居なかった。
自分の意味不明な発言によって発生するであろう他者からの冷たい目線すら意にも返さない彼女には、ほぼ全ての事がどうでもいいのだろう。悪意にすら鈍感なのかもしれない。
ジョンはただひとり、ベンチに腰掛けていた。
荒んだ彼に誰も声をかけるワケもなく、おかげでジョンは、ただただ仕事を待っているだけだった。
しかしながら最近ではめっきり仕事に呼ばれる事も少なくなり、おかげで定位置を独占し続けている。置き物のように、身動きもロクにせず。
そんな彼の目の前でいきなりに暴走を開始した彼女は、完全に、誰にとってものイレギュラーであった。
OK。お前はよっぽど頭のオカシイ人間だ。間違いない。
「はい、お仕事お疲れ様テキーラ。
今日のジュースは、お姉さんの奢りテキーラ」
「…」
開幕の発言どころか、語尾すらもアホ過ぎだった。
おかげでジョンは呆れている。いやこんなの誰でも呆れると思うが。
しかも何故か当たり前のように馴れ馴れしく、ジュースをジョンに差し出しているのだ。
無論、ジョンがそれを受け取らなかった。
彼女が差し伸べているそのジュースは、自動販売機で売られている缶ジュース。
それはもう、非常に冷えたオレンジジュース。
それを見つめるジョンの瞳もそれはそれは冷ややかな物。
毒の混入はまずあり得ない。
ジョンの耳にもついさっき自販機でジュースを買う音は届いていたし、彼女は何度か飲み物を意気揚々振るっていたのだ。
無論それでも毒を混入させるのは比較的簡単な場合はあるが、毒に若干の耐性があるジョンにはそもそも関係はないし、相手がこれだけ堂々していると、疑いの目を向ける事すら憚られた。
そもそも何故オレンジジュースというチョイスなのか、という疑問が真っ先に浮かぶが、恐らくジョンの好みが分からなかったからという理由と、見た目がどう考えても子どもだという理由だと思われる。
コーヒーでも炭酸ジュースでもない理由は、それしかあるまい。
ジョンはそれをなんとなく理解出来ていた。子ども扱いされている事をよく理解出来ていた。
そうだったからこそジョンは、目の前のそれを受け取らなかった。とんでもなく馬鹿にされていると感じたから。
ただでさえ馴れ馴れしい限りなのだ。鬱陶しかった。信用も出来なかった。
その意思を伝える為に、ジュースを一瞥してから彼女を睨みつける。無言で返答する。
しかし彼女は随分と意味を履き違えて解釈。
「あ、嫌いだったテキーラ?」
「……」
「ふふ、可愛い」
「ウゼェよ、失せろ」
「隣、いいテキーラ?」
「失せろ。殺すぞクソ女」
これだけ言っても隣に座る女性。
態度で伝わらなかったからと喋り始めたジョンだったのに、結局会話すら成立してくれなかった。
その女性は、相当な美人だった。せめて語尾さえどうにかすれば、と思わないでもない。
黒の際どい上着、へそ出しの胸元谷間強調。黒の際どいミニスカート。
太ももまである黄色と黒の縞模様のソックス。オーバーニーというやつだろうか。
黒いリボンにより、ツインテールになっている髪。
髪の色は黒。毛先に行くにつれて茶色。少々傷んでいるらしい。
傭兵稼業をしているにしては凄い格好であるが、髪の方が痛むのは無理も無い話、だったかもしれない。
またその両肩にあるホルスターには、拳銃が存在していた。
どちらも同種。Cz-85と呼ばれる拳銃。他には持ち合わせが無い様子。
彼女は銃をメインウェポンとしているらしい。
見れば腰にはかなりの数の弾倉が吊り下げられている。
弾丸が非常に高価な世の中であり、弾丸を撃ち果たしてしまえば攻撃手段を失う拳銃。
攻撃力も攻撃範囲も確かに凄い代物だが、これをメインに扱っているという彼女に対し、ジョンは若干正気を疑っていた。
この時代でも現在でも、銃の認識などこんなものだった。
正気を疑うべき部分はそこではなくて、語尾の方だとは思うが。
「君、ラルク君って名前であってるテキーラ?」
「…お前は誰だ」
これは大嘘だ。
彼は彼女の名前は知っている。
あくまでも通称を、だったが。
そして彼女のナンバー、ランキングも知っていた。
それは今回あまり意味を成さない為に、伏せておくが。
(ナンバーに関しては今もなお決まっていないだけだが、意味がないので決めてないのである。作者悪くない。とりあえず一桁台では無い。)
「んー、お姉さんはテキーラでテキーラ。
良く聞くでしょ?
うー!!テキィラーー!!って!!」
「……」
意味が分からない。
最初から今の今まで、全然、その全てが意味分からない。
ただよっぽどの変わり者、もしくは天然、または相当の馬鹿であることだけはジョンにも理解出来た。
出来れば関わり合いになりたくないタイプでもある。
あとジョンが知っている彼女の通称と、彼女の自己紹介とが合致していなかった。
勿論「テキーラ」と関係がある通称を持つ彼女ではあるのだが、何故かその通称で名乗ってこなかった為に、ジョン、真顔で困惑気味だった。
「はい、ジュース。要らなかったら捨てていいよ。目の前でやられても怒らないテキーラ。
捨てるならゴミ箱テキーラ。あそこにあるテキーラ。何ならテキーラが捨ててこようかテキーラ?」
「……」
ジョンは結局、それを受け取った。
それはただの気まぐれだった。
だがプルタブをぎこちなく開けて、一気に飲み干すまでやってのけた。
飲む義理など無かった。それこそ常々のジョンの印象通り、目の前で蓋を開けてやった後に、そのまま地面へ垂れ流して捨ててやっても良かったのだ。
気まぐれだった。
そうとしか言えない。
ジョンにも何故、どうしてそれを飲み干したのか不思議でならなかった。
水分が欲しかったのか、それとも、まだ人を気遣うだけの気持ちと“勇気”が、わずかに残っていたのか。
そんな様を見て彼女は笑顔を強める。
滅茶苦茶に嬉しそうだった。
「いい飲みっぷりテキーラね。
じゃ、テキーラはこれからお仕事。
いっテキーラ」
「……」
別れ際まで馬鹿っぽかった。始終馬鹿っぽかった。
馬鹿な女だと、思うまでもないかもしれないがジョンも強くそう思っていた。
行動もそうだが、発言が最強に馬鹿にしか見えないのだから、思っても仕方ない。
彼女を見て馬鹿と思わない人が居るとは思えないくらいである。
無駄に水滴のついた空き缶。酷く軽々しい。
ジョンはそれをただ抱えて、テキーラを名乗り、テキーラを連呼していた彼女の後ろ姿をただただ、見えなくなるまで眺めていた。
そうしてジョンは再び頭を沈めて、ベンチに深く腰かけ直す。
だがまもなくして、ジョンは呼ばれた。
次の仕事の依頼だろう。また戦場の後始末へと放り出されるのだろう。
ジョンは空き缶をゴミ箱に捨て、呼ばれた方向へ歩いていく。
過去もこうしてかなぐり捨ててしまえたらいいのに。
置き去りに出来ればいいのに。
彼の足取りは、重かった。
***
「おつかれテキーラ!」
「……」
あれから1週間も経過した、とある昼下がりのお話。
先週にジョンが請け負うこととなった任務内容は、名目上は治安維持と環境改善。実質は、魔物退治を兼ねた雑兵狩りだった。
これはジョン単独任務の筈だったのだが、社長が勝手に数名を補佐として付けさせていた。
戦果は上々だったが、結果は杜撰。
ジョン以外の全員が死んで、終わった。
ただし、これは毎度の事ではない。
今回は本当の本当に、運が、ひたすら運が悪かっただけだった。
しかしそんな死神を思わせる彼の打ち立てた最悪級の結果と、帰還を果たした当の本人の後ろ暗い姿を見るやいなや、皆の見る目は、やはりいつもと変わらず酷いものであった。
にもかかわらず、彼女だけが意気揚々と話しかけてきてくれた。
しかも、まるで帰ってくるのを待っていたかのように、今日の今の時間帯に帰ってくる事が分かっていたかのように、CABINの支部、その受付のあたりでだった。
その手にはまたオレンジジュースがあった。
見るなりジョンは呆れてため息が出る。
今日の結果が結果だっただけに、ジョンも余裕は持ち合わせていなかったのだ。
というよりも、鬱陶しいという気持ちが強かった。煩わしさはかなりのものだった。
この様子だと彼女は、何も知らないで声を掛けてきた可能性がある。
何も知らない癖にと、悪態をつきたくもなった。
勿論だが、既にこれだけ噂になっていて、彼女が知らないワケもない。
十中八九、ジョンの失敗を知っている上で、恐れる事も蔑む事も無く話しかけ来ているのだろう。
常々のジョンならばそんな事、少し考えれば分かったと思われるが、この時のジョンにそこまで頭を回せと言うのは酷だった。
「あれ、嫌いだった?」
「……」
無視して部屋に戻ろうとするジョンだったが、無理やりに前に出てきて行く道を塞ぐのが彼女。
不意に殺意さえ湧き上がってきて、色々とどうしようもなくなる。
だけれどジョンは、睨むだけにとどめた。
手を出す事を一切しなかった。
疲れていたし、自らに対しての扱いなど、所詮どうでもよかったから。
この世で一番どうでもいい命だと思っていたから。
そう思いながらも、自らを世界最低と自己評価を叩き出しつつも、それでも自害しようとしないのは、彼の命がどうしようもなく大勢の命の上で成り立っていたから、だった。
彼は呪われていた。彼自身の使命感に。責任感に。
それは筆舌に尽くしがたい程の、悲しい物語があったのだ。
もっともその物語は重ね重ね言って、今回は明かされる事は無い。
更に言えば、何でも屋をやっている今のジョンに言わせれば、同情などしてほしくも無いと言うだろう。他者に同情されるだけの価値なんて在りはしないと言ってしまうだろう。
あまり人の事を理解しようとし過ぎない方がいい。恐らくはジョンに限ってのみ、その方がきっと良い。
「ラルク君、はい、オレンジジューステキーラ。
お姉さんの奢りテキーラ☆彡」
「……」
「ささ、一緒に飲みまテキーラ」
この時のジョンには全然別の感情、自らの自己評価云々とか以前の、非常に筆舌に尽くしがたい程の感情が膨れあがっている最中だった。
とりあえずイライラしていたのは確かだ。
何にせよ、彼女の行動は、もう何から何まで余す所無く意味が分からなかった。
ジョンは否応を訊かれもせず、そのまま腕を掴まれ引きつられていく。
場所は、1週間前と同じベンチ。
疲れていた。そして馬鹿らしくもなっていた。
そのまま無理やり座らされて、ジュースを押し付けられて、ジョンは一人で落ち込んでいて、同時に困惑していた。
放っておいてくれとも言えないでいる彼は、見ていられないくらいに、どうしようもなかった。
「んく、んく、んく、っぷっはああああ!!テッキィラーー!!」
「………」
ひたすら騒がしいだけ、ではない。
完全に彼女も、この烏合の衆の傭兵の中では完全に目立ちきっていた。言い換えれば、浮いている。悪く言えば、悪目立ちしていた。
だがそれは当然の話。
かの死神、ジョン・オ・ラルクの隣に居るというだけではなく、あろうことか話しかけてさえ居るのだ。
誰がこの状況を普通だと言うだろうか。
そんな事、恐らくどんな人間でも断言できる。
普通では無い、と。
そして口々に聞こえるのだ。
余計なことを。
早く離れろ。
危ない。
何をするか分からない。
命が惜しくないのか。
刺激するな。
今すぐやめろ。
そんな、心のない言葉達が、小さく、しかしジョンにも届くように、ハッキリと。
ジョンは未だにこうした悪意には慣れていなかった。
悪意をぶつけられる事が平気だと言える人間は、決して多くはないだろう。
いいや、居ると思いたくはない。居ないと信じたい。
だからジョンはずっと独りで、ただただベンチに座り、黙り、何も言い返さず、不動のままで居続けた。
受け止めるではなく、しかし言い返したり抗うではなく、ひたすら続く嵐のような静けさが去るのを、待っているだけだった。
そんな日々、そんな現実が、全てが、あろうことか色々な意味で覆されているのだ。
たった一人の、そう、今まさに隣りに座る一人の女性によって。
ジョンが困惑するのは無理も無い。
あの事件以来、彼の周囲は悪意だけが並んで立っていたのだから。
今更こうして話しかけられても対応に困ったし、辛かった。
彼は本当は、誰も殺したくなんてなかった。
「皆酷いテキーラね。
ラルク君は何も悪くないのにテキーラ。
テキーラは知ってるテキーラ。
あれは、悲しい事故だったって、知ってる。分かってる」
「……」
だからもう、やめて欲しかった。
関わるのはやめて欲しかった。
自分の所為で死んで欲しくなかった。
だけど、寂しくって。
悲しくって。
混ざり合って、痛くて。
「ふふ、可愛い」
「……」
「テキーラアタック!!」
「……」
しかし感傷に浸る暇すら与えてくれなかった。
というかとりあえず、先ほどよりもずっとずっとイライラしてきていた。
今、彼女によってほっぺたに指をひっつけられ、ぷにぷにとされている。
ジョンはその行動に呆れつつも鬱陶しいと思った為、いつもの睨みを効かせる。
しかしこの女性にそんな態度は一切の効果がなかった。これは1週間前と全く同じ結果。
というより、ほっぺたを突かれてる分、滑稽な顔だった。
「ほっぺた柔らかいなあ。
あーあ、いいなー。若いって事テキーラ?」
目先で微笑む彼女も随分な若さだと思うが。
少なくとも20歳はまだ迎えていない、そんな幼さをほんのりと残した顔立ちだ。
16歳か、17歳か、18歳か。恐らくはそのくらいの年齢だろう。
「…うるさい」
「怒らないでってーテキーラ。
別に悪気があったわけでも、悪意があってのことでも無いテキーラよ」
「……」
言い訳しながら手を離し、優しく微笑む彼女。
ジョンは、この優しさが怖い。
失うのが酷く恐ろしい。
裏切られると思うと、恐怖出来た。
だが同時に、離れられるのも怖い。
失うのが酷く恐ろしい。
彼女がこの場を去ってしまうのが、あろうことか恐怖だとさえ思っていた。
この瞬間、確かに彼は、揺れ動かされていた。
やり直せるなら、やり直してしまいたかった。
0から、やり直せるなら……。
「
「おっと、お仕事テキーラ」
遠くから呼ばれる声に反応する彼女。
これが彼女の通り名。ジョンが知る、彼女のコードネームのような通り名。
ジョンはふと、そのリュウゼツランが何かを脳内の辞書から引き出す。
リュウゼツランとは、それこそテキーラというお酒に使われる植物。
ただしその全てがテキーラの原料に使えるワケではない。
触れるだけで死に至る程の猛毒をもったリュウゼツランも存在する。
その種類は様々で、その場その場の環境に適した形になろうとする力が非常に強く、まさに変幻自在。故に同種類でもかなりの個体差が出る植物。
恐らくこれは皮肉なのだ。彼女に対するCABINからの皮肉を込められた通り名なのだ。
適応力が高すぎて、他とはほぼ相容れない価値観を持つ事が出来てしまえる彼女への、異常な能力に対する皮肉。誰かにとっては猛毒足りえる程。
他とは違うのだ。気味悪がられもするだろう。
だがそれでも、死神ほどに皮肉な名前でもないなと、ジョンは思った。
実際、死神まで逃げ出すなどと言われているジョン程ではないだろう。
しかしそれは押し付けがましい価値観。
できればそうであって欲しいと、自分ほど彼女は蔑まれていない筈だと、そう信じたい願望が含まれていた可能性があった。
俺よりマシだ。
俺より断然言い訳出来る名前だ。
俺とは違い、良い方向に変われる可能性がある。
そんな風に、まるでそんな無意味で意味不明な気持ちか願望かになんとなく、縋っていたのかもしれない。
自分と同じ最低のカテゴリに含まれて欲しくないという、身勝手な願望に。
「ラルク君、バイバイ。また話そうね。
じゃ、いっテキーラ」
「……」
異様な空気だった。
いつもならば彼を罵倒する者達が、今だけは何も言い出さなかった。
これまた彼が体験した事もない、ただの静寂が訪れる。
「……」
それがかえって耐えかねた。
こんな中途半端な扱いは、彼の基準を酷く狂わせる。
俺は最低な奴だ。だから罵倒は当たり前。そしてそれを言い返す権利などない。
そう思って日々の重圧を受け続けていた彼からしてこの静寂は、本当の意味で調子を狂わさせられた。
ジョンはふとその手にあったオレンジジュースを飲み干し、缶をベンチに置いたまま、逃げるように立ち去ろうとした。
だがそれは半ばで失敗に終わる。
「こらー!ゴミはしっかり捨てなさい!!テッキーラ!!」
「…あ?」
「ちゃんとした所に捨てないと、もう奢ったげないテキーラ!」
「……」
彼女の怒声。受け付け前から堂々と放たれた大声。ジョンに向けて。
それに対して周りは騒然とする。
だが驚いていたのはジョンも同じ事だった。
彼は例の事件以降、こうして怒られた事など無かった。
それもそうだ。彼に対して悪意を向ける事はあれど、ここまで大胆不敵に喧嘩を売るかのような真似、真性のバカでもなければ到底不可能。
だって彼の事を皆は本気で恐れているのだから。
恐れ知らずの社長でさえ、馬鹿をやって絡みにくるだけ。
逆鱗に触れる恐れさえある、叱りつけるという行為を誰も試した事など無かった。
それ故、ジョンにとってこれは、ほぼ初めての出来事となった。
死神と呼ばれる以前から彼は恐ろしい能力を持っていたのだ。
誰もが彼を刺激しようとはしたことがなかった。
こんな程度の事さえロクに言われた事が無いというのだ。
それくらいに歪んだ環境で彼は育っていた。
初めてだった。
しかしジョンは非常に機嫌悪そうな態度を見せる。
その割に、言われた通りの行動を開始。
渋々と缶を所定位置に捨てるジョンは、傍から見ても気分を害しているようにしか見えない。
だが実際は、ジョンも内心では驚きに満ちていて、何がなにやらで、何も分かっていなかった。
渋々した表情に見えたのは単に、こういう時、表情をどうすればいいか分からなかったから。
昔はどうしていたっけ。こういう時、どういう顔をすればいいんだったっけ。
そんな事を思いながら、しかし、驚いていた。
ジョンは確かに、確かに揺らいでいた。
「よろしい!じゃ、いっテキーラ」
「……」
その身なりの細い背中が見えなくなるまで、ジョンはただただゴミ箱の前から眺め続けていた。
見えなくなってもその方角を、何時までも見続けていた。
周りもそんなジョンに声をかける勇気もなく、いつものように、ただ恐る恐る移動していた。
ほぼ1時間くらい経過した頃。
突然我にかえったジョンは、自らの部屋の方角へと足を進め始めた。
その瞬間、皆の視線はジョンに釘付けだったが、多分、驚きばかりが含まれているだろう。
畏怖よりも、ただビックリしただけ。
そんな一風変わった視線を浴びた事でさえ、ジョンにとっては驚きだった。
いつもと違う事が巻き起こりすぎて、もうただ、驚いていた。
***
「ジョーン・オ・ラールクー、おっひさーやでー」
「…んだよ、クソジジイ」
彼は仕事のない日と、仕事から帰ってきた日は、所定のベンチに座るようになっていた。
殆ど座っているだけ。何もしてはいない。時折、居眠りしている姿を見る事があるくらいに、そこに入り浸っていた。
一方で周りも特に何も干渉しようとしなかった。
勿論それは今までの通り、触れてはならない物を見ているような態度。腫れ物扱い。
故に皆も距離こそ置くのだが、以前ほど彼を脅威に思う度合いを減らしているようだった。
というよりは、現状は好奇心の方が強い観衆たちである。
竜舌蘭とジョンの絡みは見ていて不安には違いないのだが、しかし、こうして竜舌蘭を待っているらしいジョンを見ていると、どうにも悪意を向けづらくはあった。
見てくれだけならばただの子ども。12歳。
今までの経緯や色々がある分、ジョンに対して悪意を持ち続ける者も大勢居る反面、死神の名にそぐわない彼のこのような行動に、妙な心持ちを抱かざるを得なかったのだ。
それでも心の底から応援しているワケではないだろう。
失敗してしまえと思っている輩も大勢居るだろう。
幸せになってほしいなどとか、付き合っちまえと囃し立てる者は居ないだろう。
出来るならば竜舌蘭には、ジョンと接触するのを止めて欲しいと皆が思っている事だろう。
だが邪魔してはならないと、そう思う程度の良心は彼らにもあったという事。
結局は余計にジョンには近寄りがたくなっている具合だったが、それでも少しは前進があったという事だろうか。
竜舌蘭という存在の介入は、良くも悪くも周囲に大きな影響を与えていた。無視できる規模では既に無かった。
だがここで、CABIN社長がジョンに対して声をかけているのだ。
わざわざ本社からはるばるご登場したかと思えば、即座に。
いつもの調子の、相手を馬鹿にしたかのような、恐れ知らずな態度で。
おかげでこの場に居た周囲の全員が、余計な事するなと不満そうにCABIN社長に悪態をついていた。
まるで常々悪態を付いていた側の人間たちが、ジョンの味方に回っているかのような状態にあった。
しかし社長は無視。
寧ろ周囲の態度の変化を滑稽だと思っているだろう。
実際に滑稽だった。可笑しかった。面白く思っても仕方はなかった。
これが現実だというのだから、余計に。
「噂には聞いてるでー」
「……」
「お前、竜舌蘭と、最近よく一緒らしいな?」
「……」
「っと」
ジョンの隣に座る社長。馴れ馴れしさは竜舌蘭の遥か上だ。
途端に辺りは騒然となった。
毎回のことなのだが、社長とジョンは接触するだけで喧嘩をする。
しかも巻き起こるのは、酷い喧嘩ばかりである。喧嘩なんて軽い物ではない場合が多い。
お互い決して本気ではないのだが、喧嘩が勃発してしまった場所は基本的に、ボロボロの焼け野原と化しているのだ。
当然場所は問わない。規模も問わない。
基本的にジョンの怒りの度合いが、その周囲へと無差別的に反映される。
周りは何も起きない事を祈りながら、ジリジリと距離を取り始める。
毎度喧嘩が始まるのだから、当たり前の行動だった。
一方で好奇心の塊達。いつもよりもその及び腰は、随分緩かった。
元より死者が出た事は無いのだ。軽い怪我人は出るとはいえ。
「べっぴんやろ?
ワイもな、竜舌蘭は超美人やなー思てんねん」
「…殺すぞ」
「うらやましいでー。どうやった?どうやって手篭めにした?ん?ん??」
「殺すっつってんだろーが!!!!」
「うわ怖いわー。
ホンマ怖いわー。
最近の若者はホンマに切れやすいんやなー」
「…テメェ!」
ジョンにとっては非常に不愉快な発言達だった。余すところ無く全てがだ。
そもそも怒らせる気満々で、悪意を持って発言しているのが社長なのだから、怒っても当然ではある。
だからジョンは感情のままに、胸ぐらを掴んで社長を持ち上げた。
一方の社長は何も思っていない表情。本当の意味で、何から何まで。
サングラス掛けてて表情なんて見えるのかと言う話も出来るが、置いておこう。口元だけでも充分に感情表現可能だとかとりあえず言って誤魔化しておこう。
その実、社長は異常な存在だった。
何がどうなろうと彼は倒れない。
心臓を剣で一突きされても平然としているし、爆発に巻き込まれてもピンピンしているし、荒波に呑まれようが土砂崩れの犠牲になろうが、何一つとして致命傷にならない。平然と立ち上がる。
故に不死身と呼ばれている。
本当の意味で何もかも効かないのだ。
そんな存在だからこそジョンも怖くないようで、毎度毎度失言を繰り返し続けている。
それこそジョンの攻撃全てを受けて尚無事で居られる存在であり、そんな馬鹿げた存在は社長ただ一人だけ、だろう。
にしても煽る意味は不明。
ひたすらからかいたいだけにも見えるが、真意は不明である。
社長は笑顔でジョンの腕を掴み返し、器用に抜け出してみせた。腹の立つ限りである。
しかしジョンも、更なる行動には移さなかった。
流石に周りを気にしたのだろうか。
「本題はなー、竜舌蘭と少しの間やけど、行動共にしてもらおう思てて」
「ああ!?」
「前ーにお前が出張した所の相手組織が見事潰れて、殲滅戦は今ん所無しや。
紛争あたりはまだあるし、テロもボチボチ続いてる。
せやけど、お前が出張って行くような必要性もないし、他で全然対処出来るんやな。
前回の任務かて犠牲者も出たけど、しっかり世界に貢献してんねん。お前」
しっかし相変わらず下手くそな関西弁だった。
お聞き苦しいとは思いますがスルーお願いします。わざとです。
「………」
ジョンに言い訳する気はなかった。
人を沢山殺したのは事実だったし、仲間と呼べるほど親しい間柄ではなかったにせよ、前回の任務での同行者達を助けられなかったのも事実なのだ。
事実しか社長が言わないものだから、彼は言い返す必要がなかった。
言い返せなかった、とも言い換えられるが。
「これからも殲滅戦は多いと思う。ワイがそう思うし、誰もがそう思てる。
せやけどな、普通の仕事もこなして貰わんと困るねんよ。
それこそここ数年でお前が成し遂げた戦争の終決は、平和の兆しを見せとる。
おかげさまで派兵よりも普通の仕事の方が増えに増えて大変なんや。
うるおいを得たワカメ状態やね。
まさに人手不足。猫の手でも借りたい状態や。
ま、虎の手でも…、と言ったほうがしっくり来るけどな。
何せ敷き紙のジョーンを使おうってんやしなー?」
「……」
誤字じゃないから。煽りだから。
別箇所で誤字やらかしまくってる作者が言うと説得力無いけど、これに限っては煽りだから。
「まさかやけど、今更マトモな仕事よこすなや!とか思うてたり考えてたりしとんとちゃうやろな?
……まあええわ。
ともかく、事が無い限りは竜舌蘭の下で働いてもらうさかい、頑張りーや」
「…くそ!だからか!」
一応で喧嘩沙汰にはならなかったが、非常に空気が悪くなっている。
狭い部屋の中でサンマ焼いちゃったくらいには空気が悪いし目に痛いし、心臓にも悪かった。セルフ火災報知機だった。
だがこの場には社長を慕う者も本当に多い。
そんな存在を相手にしている故、ジョンに対して色々な目線が飛び交っている。
社長が負けるワケはないにせよ、しかし、手出しはさせないだろう。
張り詰めた空気はどうしようもなく、
「うー!!テキィーラーー!!!」
「……」
「テッキラッ☆彡」
「……」
空気を全然読んでる様子ではない彼女は、これまた意気揚々と地の文すら阻害しながら登場。
ジョンはその声を聞いた瞬間に、怒りという物が萎えてしまっていた。
それほど間抜けな登場であったし、それこそ間抜けな行動と発言でもあったし、なんかもう、馬鹿らしくなった。
馬鹿らしくもなるよね。何なのお前。ポーズなにそれ。
なによりジョンの中で彼女は今や、何とも抗いにくい存在となっている。
それは別に恋心を抱いているとかそういうんじゃなく、やりにくい相手というか、とにかく真面目に相手していられない相手という意味で。
現状でも文句の一つや二つを述べたくもなるものの、それを言い放った所で無意味であることをよく理解しているジョンはもはや、諦めにも似た感情に支配されていると言っても過言ではない。
そもそも竜舌蘭が近くに居る事を察しているようだったし、ジョンには概ね社長の思惑は分かっていたのかもしれない。
「よう竜舌蘭ちゃん。おかえりんしゃい」
「組長さん、ただいまっテキーラ!」
「此処がウチのシマやでー!
って誰が組長やねん!!」
言うまでもない気しかしないが、ジョンのみならず、この場にいた全員が呆然としていた。
あまりに馬鹿らしい行動をとっている二人を見て、緊張の糸さえ簡単に解けていた。
おかげで空気は多少なり回復したのだが、違う意味で変な空気ではある。
彼女は社長の面白くも何ともないノリツッコミに大笑いしてあげ、ある程度すると、話題を元に戻した。
どうやらまともに話をする気はあるらしい。
「聞こえてたテキーラ。
私の要望がようやく通ったんだね、テキーラ」
「せやでー。結構無理通してるけどな」
死神のジョンの戦場からの退場は、相手側の士気を上げてしまうだろう。
一方で死神のジョンの普通の仕事への投入は、一般市民への信頼問題。
これを認可した社長の頭はどうかしていると思うが、しかしこれも仕方のない事。
ジョンが死神になった理由を知っている社長は、
いや、やめておこう。
それは別の機会に語ろうって散々言ってるし。
言えるとすれば、社長はジョンの事に対して否定的ではあれど、同情しているのも事実、という事くらいか。
それに死神の戦場離脱は、相手の士気を上げる事に繋がるとはいえだ。
他の人員にとっては名を上げる絶好のチャンスでもある。相手よりもコチラ側の方が、よっぽど士気が上がる。志願者の士気は異様に高い物だ。良し悪しは問えないが。
これを期に大勢が移動になったり、または勝手に移動してきたりするだろう。
上手くいけば、死神の時代は終わりを迎える事となる、そんな奇策。
「感謝感謝ー。テッキーラテキーラー!」
「褒めてくれ!もっと褒めてくれや!へははははははは!」
「…」
ただ、ジョンはもはやこのノリについていける気がしなかった。
というかそれは周りもそうだった。
正直こんな意味不明な光景に誰もが、不安な気持ちを山のように重ねたに違いない。
周りは勿論、ジョンもそう思っていただろう。
きっと不安だっただろう。
出来るとか出来ないとかじゃなくって。
だって彼は、死神だったから。
***
彼は日を改めさせられてから、竜舌蘭と同行任務の内容を聞かされた。
どうやらとある農村に魔物が出没し、散々な状態で困っているのだという。
規模はさほど大きくもなく、人口も100名程度。
そんな村で、魔物の目撃情報が後を絶たないらしい。
しかし積極的なのかそうではないのか、今までは不穏な雰囲気、一触即発の事態ばかりが続いていたらしい。実質的に被害皆無だったようだ。
が、最近はそれだけでは済まなくなり、田畑や農村内部が荒らされたりするという事態が急増。
挙句、本当に最近の話、1人が軽傷を負う惨事となっているとの事だった。
簡潔に言って今回は、問題を起こしていると思われるモンスターの討伐依頼だった。
ジョンからすれば「怪我をした程度」の軽い話でしかなく、任務内容に強い不満を覚えていたのだが、仕事とあっては断る事も出来ず。
そもそもこんな任務で済むのであれば、ジョンとしても気が楽だった。
だから不安あれど、安請け合いしたのだった。
問題があったとすれば、ジョンが配属されていた支部と現場が、大陸から違っていた事。
おかげ様で、社長と一緒に飛空艇に乗る羽目に合う事が決定。旅路が完全に一致していた。
というより、現場から最も近いのが本部(当然、社長がいつも居る場所、要するに現在のCABINの支配する街)だったのだ。まさかの最大限、目一杯、上限まで社長と一緒する羽目に。
まるまる2日程、寝床と風呂を除いて食事から何まで彼らは、四六時中一緒に過ごす事を強制された。
不愉快で仕方がないジョンは悪態をつきまくっていたが、飛空艇を堕とすような真似をしでかすワケにもいかず。
竜舌蘭はそんな最悪の空気の中でも元気いっぱい。全てを完全無視して自由にしていたので、余計始末に負えなかった。
幸い、そんな本部から現場は言うほど遠くはなく、羊の馬車で移動しても4時間程度の移動距離ではあった。
本当、それだけが幸いだったとジョンは思っていた。思うしか無かった。
別の飛空艇を用意して欲しいと懇願しても拒否してくれた竜舌蘭が原因で、無駄に精神力を削られた旅の中でも、つかの間の休息足り得た。
予想していたよりは短い時間で到着予定であったし、のんびりも出来たし、社長が居ないというだけで清々しい気分だったから。
清々しいとは言っても、隣で竜舌蘭が暑苦しく騒いでいるので、丁度いいくらいだったが。
そんな荷馬車に載せられている最中のお話がこちらである。
あろうことか到着間際のお話。
「はい、オレンジジュース。
ラルク君はこういう仕事、初めテキーラ?」
「……」
羊の馬車なんて珍しい物でもないだろうに、始終騒がしかった竜舌蘭。
到着間際になってやっと静かになったかと思えば、随分遅れてオレンジジュースである。
恐らく今の今まで忘れていたのだろう。かなり温くなっていた。
大して美味しいとも感じないオレンジジュースを更に不味くする気で居るのか、大して面白くもないテキーラ流ギャグ(初めて?というちょっぴりドキッと来るべき発言にテキーラを混ぜあわせるという非常に分かりにくいながらにかなり腹のたつギャグの事)を聞きながらも、ジョンは首肯いた。肯定した。
それでも、何とも複雑な心境ではあったが、正直言ってしまえば緊張はなかった。
“この程度の任務”なのだ。緊張している方が可怪しかった。
一方、彼女はジョンの首肯きを見て、何故か笑顔を強くする。
「そっかー、初めてかーテキーラ」
「……」
「ま、お姉さんに任せテキーラ!」
「……」
任務に対する緊張は無かった。
だが、別の意味で緊張はしていた。
気恥ずかしさが、きっとあった。
ジョンは会話もロクにする気が無かったし、メタ発言っぽく言ってしまうと、ツッコミも出来ないような奴だった。
語尾がどうにかならないのか、と毎度思うが、それも伝える事ができず終いだ。
なによりもこの任務で、彼女が死んでしまうというような事態を考えてしまうのだ。
彼は目の前で何度も何度も仲間を失った。何度も何度も。
何度も。
だからこそ、そんな光景の中に彼女が居ることも容易に想像出来でしまえて、恐ろしくて仕方がなかった。
不安だった。
「さーて、付いたよついたよー!!
うー!テキィラー!!」
「……」
ただそんな事よりも先に、うるさいなとか思っていた。
***
荷馬車を降りたジョンは、さっさと先行する彼女の後をついて行き、しばらくしてから村長らしき人と対面した。
結局その場ですら何も喋らないジョンだった。
それをどう解釈しているのかは知る由もないが、彼女は村長に細かく質問しては説明を聞き、細々とメモをとっていた。
だがジョンにはそもそも必要がない。質問もメモをとる行為も必要ではない。
彼は異常な脳みそをしており、記憶した事を決して忘れる事が無いのだ。
つまるところ、ジョンは完全記憶能力者に匹敵する記憶力を持っている。
集中して聞いていたならば、それは抜かりも無く絶対に忘れることはない。
この時の彼は特に集中して生きている為、今までの出来事、色、動き、体の感覚、文字、絵、表情変化、言葉、天気、気温、湿度、風向き、……全てを覚える事が可能だった。
それは当然、喫茶店ブルーベアで今存在しているジョンも持ち合わせている能力である。
馬鹿っぽい彼はその裏腹で、全てを理解している。
絶対記憶能力を持っているというだけで随分と凄い話なのに、理解力も異常であり、知識や学力まで桁違い。
ジョンはまさに天才であった。
現在喫茶店に居るジョンからそれがいまいち感じられないのは、これまた複雑かつ詮無き理由があるのだが。
「それでは、任務をしっかり行いますテキーラ」
「え、ええ、頼みます」
一段落ついたようである。
しかし何というか。
村長との会話であってさえ、彼女は結局語尾の「テキーラ」を外すことはしなかった。
咄嗟の修正が困難な程、口癖として定着しているのだろうか。
それにしても恥ずかしい口癖だろうし、こう、あの、これはこれで信頼問題だと思うのだが。
しかし会話内容には特に問題は無かったと言い切れる。
的確な質問であったとジョンも感心はしていた。
何をすればいいのか、何処を重点的に探せばいいのか。
モンスターの傾向は。時間帯は。大きさは。特徴は。鳴き声は。
モンスターの正体が導き出せる程度の最低限の情報を、しっかりと得ることに成功していた。
つまりそれは事前に対策を練れるという事。これによって生存率と依頼成功率を上げる事が出来る。それに直結する。充分過ぎた。
彼女は意味不明な語尾を除いて考えれば、優秀な狩人に他ならない。
勿論、無能な輩がCABINの上位ランカーに居るワケもないが、それにしても高いスキルだとジョンはこの時になってようやく思ったのだった。
そのまま彼女は村長に対して礼を述べ、その場を後にする。
ジョンも適当で素っ気ない限りの会釈をして、そのまま彼女の後を追った。
到着した時にも感じていたが、こうして改めて見ると、農村は大した被害を受けている事が分かる。
畑などの被害は言うまでもないくらいの物であり、民家への被害もそれなりに甚大だ。
が、これは意図された物である事が容易に分かる。
可怪しい事が盛りだくさん。読者の中にもこの一件、違和感を抱いた人が居るかも知れないが、お察しの通り。
具体的に語っていこうか。
大前提。
農村にまでモンスターが入り込んでおいて、民家にまで被害が及んでいて、軽い怪我人が1名のみ。
明らかに、器物破損に対して民間人への被害があまりにも低い。
通常、モンスターや魔物と呼ばれる存在達は知能が低い場合が極めて多い。
故に餌を目当てにやって来たならば、どうしても被害は畑にのみ集中する。
だが民家がこうして爪痕を残されていたり、一部破壊されていたりしている。
これは人間達を襲おうとする者達の行動である。さもなくば民家に被害はまず発生しない。よほど興奮状態にあったり、戦闘狂クラスで凶暴でもない限りは、精々外に置かれていた作業道具達やらが倒されている程度に留まる筈。
にも関わらずだ。民家を破壊出来るのだから侵入なんて容易の筈なのに、奴らは中に居た人間達を完全に無視しているというのだ。
被害を受ける時間帯は深夜に集中しているらしいのだが、ならば尚の事被害は大きくなるのが自然。
深夜という条件下では避難誘導もは手間取るし、寝静まった人間を襲う事自体は酷く簡単。
元より農作物の被害こそがいの一番に巻き起こっていないという、非常に不可思議な点。
農作物被害よりも先に、不穏な気配や魔物の気配、目撃情報、それも多数存在していたという不自然さ加減。
つまりこれは、警告の意味合いが強いと見るべきだろう。
相手はかなりの知能を有する何者かだ。
何かしら農民達が余計なことをしているのか、それともここに居座られると邪魔か、ともかく農村に対する被害をある程度抑えつつも追いだそうとしている風ではあるか。
どちらにせよ奥手な方法である。非常に奥手。少なくとも穏便ではない話とも取れるが、モンスターや魔物の行動にしては、穏便だと言えるだろう。
「ラルク君、今回の敵は何か分かったテキーラ?」
「…ワタリガラス」
「正解テキーラ☆彡」
この答えに至るには、村長の述べていたモンスターの特徴を聞いている必要があるので、読者は答えに至れなくて当たり前であるが、さておいて。
村長が言っていたモンスターか魔物かの特徴の中でも、異質な存在が1つ。
他通常種と思われる魔物達とは違い、それは姿が人の形のようでありつつも、逃げるときは必ず大きな鳥の姿になる、そんな存在が居るとの事だった。
それは事が起こる際にほぼ必ず現れており、その場に必ず残される鳥の羽根、その色が黒であるとも。
その羽根も実際に先ほど見せてもらっていた。非常に大きな物だった。
同時に、それがカラスの物である事も察せられた。
あまりにも条件がそのまま過ぎて、ジョンにはワタリガラス以外に今回の騒動の犯人を導き出せなかったくらいだった。
さて、ワタリガラスとは何かから語ろうか。
彼らは我々の世界において、北米で見られるカラスの事を言い、オオガラスとも呼ばれる。つまりワタリガラスは実際に居る種のカラスである。
一方で、彼らに関する伝説や伝承、神話が多く残されている。
これは日本で言う所の化け狐や化け狸と同じような物で、実在する動物でありながらそういった架空の要素を持たされている存在なのである。
更にワタリガラスの伝説や伝承や神話は、これまた面白い事に、英雄でありつつイタズラ者であるという不思議な二面性を併せ持っている。
この世界(作中の世界)でもその架空の認識(我々の世界での伝承上の存在)として現存しており、イタズラ程度の事は頻繁に発生している。
ワタリガラスは非常に知性が高く、人語を話す。だがこのような暴挙に出ることも滅多にない。
しかしながら現に村人は襲われているし、度を越す程の畑荒らしと村荒らしという事態がずっと巻き起こっている。
何かが彼ら、ワタリガラスや森の動物達、もしくは魔物達を強く刺激したのだろう。さもなくばここまでの事態にはまず発展しない。
それもよほど切羽の詰まった事態が巻き起こっている事が予想出来る。
ともなればこの場所、村のある場所に問題でもあるのかもしれない。
「さーて、調査テキーラよ。
この村を軽く見て回って、原因調査テキーラね。
それが終わったらとりあえず待機するテキーラ。
出没時間は早くても17時、遅くて22時から2時の間って話テキーラ。
今はまだ13時くらいだから、余裕を持ってご飯を食べるテキーラよ。
飯食わぬ女房、戦うべからずテキーラ」
「……」
ジョンは何の言葉も発しなかった。
何というべきか、興味は酷く削がれていた。
今回の一件は恐らく、この村の方に問題があると見るべき。ワタリガラスは寧ろ被害者だろう。
そう考えるのが妥当。他にここまでの展開になる原因や理由が無い。
本来ならば、こんな仕事を受ける義理など無いだろう。
CABINが設けている契約書の項目に従うならば、この村は見捨ててしまうべき。
現時点でジョンや竜舌蘭が行うべきは、CABINとして履行されるべきは、依頼の拒否に違いない。
CABINの掲げる契約が第一。そしてジョンの思う正しさもまた、ワタリガラスに一票を投じられていたのだ。
にも関わらず彼女はそれをしなかった。
契約内容を知らなかった、なんて筈はないだろう。
これだけ入念にメモを取り、ワタリガラスが犯人だと目星も付けられるくらいに頭の切れる彼女が、CABINの契約書やら約束事やらをポッカリうっかり忘れているワケもなく。
彼女はただ見捨てられないで居るのだ。
誰かが困っているからどうにかしてあげようという善意で行動したいのだ。
きっと優しいから。
それでいて臆病だから。
偽善者だから。
理想家だから。
世界に平和であって欲しいから。
あと飯食わぬ女房は妖怪であって、あの、腹が減っては戦は出来ぬじゃ……、いや、何でもない。
「今日のご飯はあのお店にするテキーラよ?
何でも言ってね。奢るテキーラ。
テキーラも頼むテキーラ」
「……」
酒を呑む気でいる彼女にツッコむ気さえ起きなかった。
起きなかったが、しかし嫌な予感は強まっていた。
彼女は正義の味方であろうとしているのだろう。
恐らくだが村人達を救った上で、ワタリガラスも救おうとしている。
それが理想形だ。確かに理想だ。誰も不幸にならない大団円だ。ただの和解ではなく、完全なる解決方法。後腐れのない形がより望ましい。
しかしその理想はあまりにも大きく、あまりにも矛盾が多く、あまりにも、残酷な結末が待っている事をジョンはよく知っていた。
彼が理想を押し付けられて、でも本気でそれを信じて、待ち続けて、幸せが待っているんだって思って待ち続けて、その結果待ち受けていたのは……。
世界最大級の絶望だったから。
それがどれほど特別な例だったかは、ジョンにも分かっている。
彼ほどの絶望感は中々味わえる物ではない。
そうそう起こってたまるものではない。
容易くそれが起こる世界ならば滅んでしまった方がいい。
そう思うくらいに酷かった。凄惨だった。杜撰だった。
だがそれでも断片か一部か片鱗かを、彼女もまた味わう事になる。絶対に。
今すぐか遠い未来かはさておき、いつかは、絶望にぶち当たるだろう。
しかしそれを言葉に形容しそびれた。
何故ならこの絶望は、待ち受けている未来は、直面した者にしか絶対に分からないようにできているから。
栄光を掴んだ者にしか分からない感覚があるように、絶望を与えられた者にしか分からない感覚なのだ。
これは言語化出来る出来ないの問題ではない。
否、言語化は容易。問題は、相手に余程の想像力が必要なのである。
感受性が豊かで、理解力が破格的でなくては、1割と伝わらない事だ。
だがそんな人間はこの世には存在しない。
それだけの感覚を持っていたら、生まれた瞬間に死んでいるだろう。
そうでなくとも若いうちに壊れてしまうだろう。
結局ジョンには何も言えないのだ。
伝える事が出来ないのだ。
歯がゆかった。
悔しくもあった。
何一つとして前進出来ていない自分が、情けなかった。
でも、それでも。
これ以上無く無責任には違いないとは思った。
しかしそれでも、祈るくらいはしてもいいだろうと。
これさえ剥奪されたら救いは無い。
誰も信じられない、神を信じられない、善も悪も信じられない、そんなどうしようもない灰色の世界を歩む事になってしまうだろう。
だから。
「竜舌蘭……」
「ん?なにテキーラ?」
「…お守りだ。持っとけ」
特に身に付け続けた理由は、特には無い。
特別な効果があるワケでもない。
ただそれは銀製で、綺麗で、嘘みたいな本当の象徴。
「…わ、これペンダントテキーラ?
ってこれ、貴方の……」
「……」
これ以上喋る気がないジョンはそっぽを向き、そのまま沈黙。
死神の数字が入った、CABINのエンブレム入り。
英語の「J」の文字が裏に大きく彫られた代物。
小さく彼の名前も、そこにはある。
死神の証。
彼女は躊躇い気味にゆっくりそれを首にかけた。
彼女の繊細な指が、ゆっくりと、撫でる。
美しさを際立てる、着飾るようなそんな様。
嘘偽りの塊は、紛れも無く銀色だった。
ジョンは横目にそれを見て、またつまらないと言わん顔をして、そのへんを眺める。
どうでもいいくらいに晴れ渡った空。青くて青くて、太陽もとりあえず眩しくって。
それもまた、絶対に忘れられない美しさだった。
***
「うー、テッキーラ☆彡」
「…」
深夜遅く。薄暗く。あと喧しく。
時刻にして23時頃。この段階になって彼らは移動を開始した。
どうにも相手側は色々と察知したようでで、様子見に回っているらしいのだ。
しかしこう、本来ならば緊張感ある空気であるべきなのに、これさえ台無しにしてしまう彼女のテンションは、ジョンもビックリだった。
あとマジで昼間っから彼女は酒呑んでた。呑んだくれてた。多分今も酒の余韻が残っていると思われる。
仕事熱心なのかそうでないのかもうちょっとハッキリしてくれないかな。
あんま変な事されてるとさ、地の文書いてる俺の調子が狂うからさ。
別に作者がシリアスな空気に耐えかねて照れてギャグ路線に走ってるワケじゃないからね?
あと竜舌蘭お前この段階では17歳だろお前こら酒呑んでんじゃねーぞ。
「確認するテキーラ。
今回はモンスター討伐が本筋テキーラ。
でも、あわよくば捕獲の方がいいかもね」
「……」
静かな声でなるべく喋る竜舌蘭。
その歩幅のほうはいつも通りだったが、しかしプロ。
なるべく気配を消す為に、かなり慎重な足取りだった。
だがそんな事はどうでもいい。
ジョンが考えていた通り、やはり彼女は理想主義者だった。
この期に及んで捕獲などと言っているのだ。呆れるしかなかった。
「なんで?って顔テキーラね。
理由は簡単テキーラ。
出来ることなら無駄な殺生は避けたいテキーラよ。
貴方も出来ることなら、その方がいいと思ってるんじゃいかしら?テキーラ?」
「…分からない。
何のメリットがある。任務の難易度が上がるだけだ。そして危険が増すだけだ。
で、捕らえてどうする。仮に会話が出来る相手だったとして、それを見込んで、説得でもするつもりでいるのか。
馬鹿馬鹿しい。怪我人が出てるんだぞ。誰も納得しない。どうせ殺される。嬲り殺しにされるだけだ」
ジョンがそう述べると、彼女は驚いた顔をした。
意外も意外、びっくり仰天したと言わんばかりの表情でジョンを見ていたのだ。
ジョンには何のことか分からなかったようで、怪訝な表情を彼女に向け返していた。
そして少ししてから、彼女は微笑んだ。
銀のペンダントが、星明かりに照らされ輝いて、目を奪う。
「なんだか、たくさん喋るね」
「……」
「お姉さん的には想定外テキーラよ?
否定してくるのはともかく、意見を述べてくるだなんて」
「……否定もしたくなる」
ジョンに限らず、CABINの人間ならばその殆どが否定するだろう。
それでも竜舌蘭は譲らない。
「そう、貴方のように否定するのが普通テキーラ。
普通っていうか、正しい事テキーラね。
貴方が言うように、どう考えても、難易度を上げてるだけテキーラ。これは不効率テキーラ。
でもさ、話こそは通じる可能性があるでしょ?
それって、人間を相手しているのと同じような事にならないかな?
人間と何が違う?亜人と何が違う?竜人族やエルフ、ドワーフ、オーク、魔族、天使と、一体どう違うの?
可哀想だって思うのは、この生業をやっている以上、道理違いの筋違いだって思われるのも言われるのもよく理解出来てるよ。
でも、切り捨てられないよ。切りきれないよ。やり切れないよ。
そりゃ、貴方ほどじゃないけど、私もたくさんの命を奪ってきた。
その度に後悔はしてきた。懺悔してきた。何度自殺してやろうと思ったか知れない。
だから、だから私は、もうこれ以上は嫌だって思った。誰かの役にたとうと思った。役に立てる筈だって考えた。
こんなこと程度で罪滅ぼしにならないんだとしても、私の汚れた手が綺麗にならないんだとしても、呪いから解き放たれることがないんだとしても、それで私が殺される事になっても。
それでもね。
テキーラは、目の前の命をもう死なせたくないテキーラ」
ジョンからしても想定外の言葉達だった。
しかし彼には理解が出来ない。というよりは、理解したくなかった。
何の意味もない行動だと知りながら、それを続ける気で居る彼女のその心持ちに、共感だけはしたくなかった。
意味が無いのだ。利益もない。メリットもない。
ただ命を粗末にしているだけに聞こえた。
それが正しい事とはとても思えなかった。
嫌悪感。理想主義者の理想論は、反吐が出た。
一方で否定しようとは思わなかった。
それは間違いだと、胸を張って言えなかった。
別にその理想論に惹かれたワケではないし、不効率を感じる屁理屈であると思っている。彼女の言っている事を受け入れる気は全く無い。
だが、だからこそ、だった。
自分は今だに大勢を殺し続けている。
殺したくもないのに殺し続けている。
もう辞めたいのに、殺し続けている。
そうやって現状に抗う事も、逃げることも諦めている彼は無気力な現実論を語るばかり。
抗い立ち向かう彼女は、そんな彼のやっている事よりも遥かに難易度の高い理想のために戦っている。
結果論はこの場合重要ではなくて、その姿勢が、目線の向きが、まるで違っている事が大事で大切。
何も言う権利はないのではないか。
抗う事を諦め、逃げる事すら諦めて、ひたすら地面を虚ろに眺めているばかりの自分が、誰かに現実を見ろなんて偉そうに言える立場かと。
そう思い、そう感じざるを得なかった。
故に不愉快を感じても居る。
彼は理不尽と矛盾の渦中、その中心に居た。
「ふふ、可愛い」
とはいえ、理解の範疇を越えているのは違いなかった。
ワケは分からない。
何がどう可愛いのかもよく分からない。
結局、彼は何も分からないままにそこに突っ立っているだけだったのだ。
今のジョンがもしこの時のジョンに何かを言い放つなら、
「カッコ悪すぎだぞお前」
だろうか。
言ってやればいい。
今の自分を誇れないで、正義の味方なんてやれないだろう。
ジョン・オ・ラルク。お前はたったの3年で随分、進歩したんだな。誇らしく思うよ。思ってやれるよ。俺は少なくとも。
「さーて、そろそろ来るテキーラ」
「……」
「ふっふーん、なんで分かる?って顔してるテキーラよ」
「…能力」
「残念。経験則テキーラよ☆彡」
彼女がそう述べた瞬間、ものすごい勢いで何かが滑空して迫ってきた。
それは暗闇から突如として現れた。黒い姿故にそのように錯覚させられた。
だが威嚇だったのだろう。攻撃する気は無し。脅し程度。
容易に交わす二人の様を見ればそれは明らかだろうか。
が、ジョンはその時に察する。
彼女は確かに並の神経はしていない。
それは感覚から運動能力、全てに当てはまる。かなり出来る人材。
しかしジョンより弱いというのもまた明白だった。
何もかもが劣る。格下もいいところだったのだ。
そんな彼女が大層な理想論を語っていたのだと思うと、妙に残念な気持ちにさせられた。
だがそんな事を考えている場合ではない。竜舌蘭を観察している場合ではない。
目先の敵は、本当に目と鼻の先まで迫って来ては襲ってきたばかり。
脅威とするには微妙とはいえ、今はあちらの大きな大きなカラスを視野に入れるべきである。
「会話が通じる相手かもしれないテキーラ。
ちょっと交渉ターイム、テキーラ」
ジョンは警戒しつつ、その巨体を観察する。
どうやら特にジョンに対して強い警戒心を抱いているようだった。
それも当然。彼の能力が雷に類する以上、鋭敏に反応しても不可思議ではなかった。
一方でかなり頭がいい部類なのも察せられた。一瞬で距離を取ったその判断力は大した物であったし、こちらが攻撃をしかける意思が無い事も早々に理解したらしいのだ。
巨大なカラスは少しの間飛び回ったが、直ぐ様大きな木へと止まって、コチラを見つめる。
竜舌蘭がゆっくり近寄って行っても、逃げ出す事も襲う事もしない。
もしかすると本当に、説得出来る相手かも知れない。
ジョンはほんの少しだけそう思ったが、しかしそれはかなり難しいだろうとも思った。
何故ならばワタリガラスの要求はほぼ決まりきっている。
農村の立ち退きだ。出て行けと要求する気なのだ。
それに対して村人達が素直に応じる筈もなく。
ワタリガラスが手を引く可能性は、そして村人達がそれに応じる可能性は、身もふたもない話、望み薄もいいところ。
お互い一歩も妥協しないだろう。
今回の交渉は、始まる前から破綻していた。
「カラスさん、どうして村を襲うテキーラ?」
竜舌蘭の声に、ワタリガラスは低い声で答える。
しかしこればかりは、ジョンの予想を上回っていた。
『ここに住む人間どもは、この土地の生命を多大に傷つけた。
もはや許すわけにはいけない域へ到達したのだ』
よりにもよって、だった。
というのも、この場所はかなり特殊であった。
現在のCABINが支配する街より南西方面、約300km。
しかし問題は距離ではなく、場所。
そこは神聖な森、もしくは山脈の一部。
広大な自然は彼らによって管理されており、数多くの伝説や伝承が残っている、そんな場所。
農村地帯からたかだか10kmの距離にそれは広がっている。故にこの農村が被害に遭うのは仕方のない事、この付近を縄張りにするワタリガラスが攻撃的になっているのも仕方のない事、だとジョンは思っていた。
簡単に言って、付近に住んでいる事そのものが問題になっているのだろうと勘違いしていたのだ、ジョンは。
だが違った。
そうじゃない。
農村に住まう村人達は、この森に手を出しているのだ。
それもちょっとやそっとじゃない規模。
恐らく信じられない規模でそれを執り行っている。
きっと知らないのだ。
この付近に元々住んでいた人々ではないのだ。
あの農村の人々は恐らく、遠い地域からやって来た移民。
何も知らないからこんな恐れ知らずな事が平然と出来るのだ。
かなり冗談になっていなかった。
この時になってやっとジョンは、自分がここに送り込まれた理由を理解した。
社長はよりにもよって、ジョンと山脈とを戦わせる気なのだと。
確かに適任だが、身に余る。今までの戦場とは質が違いすぎている。
まるでジョンを始末するにはもってこいってくらいに、危険な任務だという事がここに来て今更発覚したのだった。
詳しくは7話くらいで触れようか。
今はとりあえず、このワタリガラスの後ろにもっと強大な勢力が控えているという認識で居てくれればいい。
「例えば何かしらテキーラ」
『森林の伐採。そして過激な土地の開発。
今までは共存出来ると信じ、多少の事は目もつむってやっていたし、見守ってやっていたが、信じがたい程に度を越したのだ。
広大な面積の緑は焼かれ、その大地は相当に力を失い、美しき水は濁り果てた。
食料と住処を奪われた我々森の民は次第に追いやられ続け、今がまさに限界といったところ。ここが最後の砦だ。
人間どもに愛想を尽かし、この地を離れた存在も数多く居るが、本来我々がこの場を立ち退く義理は無い。
我々はお前達などよりも遥か昔からこの地に住まい続けてきたのだ。
限度を知れ。恥を知れ。そして罪を知るがよい。我々はもう限界だ』
この期に及んでもジョンは何も言わなかった。
とにかく社長に対して腹を立てていた。
同時に、村人達へも腹を立てていた。
彼は今、ワタリガラスに完全に同調していた。
しかし竜舌蘭、場を取り持とうとする。必死になっている。
「…ちょ、ちょっと待って欲しいテキーラ。
村の人達はその事実を知らないテキーラよ。
私が交渉するテキーラ。今日は引いて頂戴」
『人間の言葉を信用すると思ったのか』
「信じる信じないじゃないテキーラ。
明日まで待ってもらえないかって話テキーラよ。
説得できるか分からないけど、保証なんて出来ないけど、出来る限りやってみるから。
明日に私達が何も出来なかったら、それが答え…。
もう好きに、攻撃を続ければいいテキーラよ。
私達、その時には、完全に貴方の敵になってしまうけどね…テキーラ」
何を言っているんだとジョンは思った。
説得なんて出来るワケがないだろうと。
それにワタリガラス、今にも襲いかからんとする殺気を放っているのだ。
理想論も馬鹿も大概にしろと思って、考えて、でも口に出せなかった。
邪魔してはならない気がしたから、と言い訳する事も出来るが、違う。
彼は迷っていたのだ。どちらの味方をするべきかを。
しかも事は予想外の方向へ進んだ。
あろうことかワタリガラスは、こう答えたのだ。
『良かろう。
ただし、明日にも交渉決裂となれば、我々は総攻撃をしかける』
「……」
恐らく今日、本当はその総攻撃をしかける気だったのだ。
今も合図を待っているであろう大群が奥で息を殺して、殺意を滾らせているのだ。
それを今から抑えに向かうであろうワタリガラスは、確かに話の通じる相手なのだろう。
彼は彼で苦労しているようだった。
もうこれでは誰が悪で誰が正義なのか、分かった物ではない。
とりあえずで農村の人間達を悪とするのは簡単だが、しかし、そう単純に括れる話でもない物だ。
だから戦争が起こるのだ。起こってしまうのだ。
それがこの世界の悲しい現実であるし、我々も他人事では無い筈の事実だと思う。
『また明日、この時間に来るが良い。さらばだ人間共』
そう言って彼は飛び立つ。
黒い羽根を撒き散らしながら、月を一回だけ背にして、森へと……。
ジョンがその黒い姿を見失った後、竜舌蘭の背中を目に入れる。
何歩も率先して前に出ていた筈のその背中は、とても小さくて狭い背中に見えた。
自信の無さと、無力さを体現しているかのようにしか見えなかった。
これだから理想論は馬鹿にされてしまうのだ。
それもまた、悲しい現実だ。
***
次の日の朝は、遅かった。
気がつけば日は高く昇った後であり、何ら偽りなく言ってしまうならば、とっくに昼間だった。
深夜中に報告するのは悪いと言った竜舌蘭は、かなり渋い顔をしながら部屋に戻って、こんな時間まで出てこなかったのだ。
それに対して心配する村人達も居て、早々に起きているジョンに様態を聞く者も居た。
一方で気の利いた台詞の言えないジョンは、気まずい雰囲気の時間を過ごす羽目に。
驚くべきは、村長が様子を見にも来なかった事。
統率者もしくは代表者がこんなことでどうするんだと思ったが、こちらも引率者がこの体たらくなので、特にもの申す権利も、その気も無かった。
しかし彼女が引きこもっていたのは、決意を固める為。決して逃げていたワケではない。
それを理解しているジョンはこうしてひたすら宿の別室で待っていたし、無理に彼女を連れだそうともしなかった。
勿論、連れ出す気こそ最初から無かったが。
彼女は出てきてすぐに村長や村人達と交渉すると言って、ジョンをその辺に置き去りにしていく。
流石に待たされていた身であるジョンはそんな指示に対して理不尽を感じ、ちゃっかり命令無視。無論ジョンは同行したのではなくてこっそりと尾行したのであり、村人達との接触は完全に避けていた。
竜舌蘭の交渉は失敗するだろうと思っていた。
もし失敗しなかったら、竜舌蘭は本当に凄い女性だろう。
どれだけ話術巧みに会話を進めれば、彼らを納得させられるだろうか。
強いて言えば村人達を騙すような情報を流して、移動を促すくらいの妙計を用意出来れば、あるいは。
しかし頭脳明晰のジョンでさえそれも不可能だと考えているのだ。彼女に成し遂げられたらそれは、奇跡に等しい。
案の定だった。
村長の部屋で執り行われた会話は、最初から支離滅裂を極めていた。
知識どころか危機感さえいまいち無いらしい村人達は、目先の利益にしか目を向けていない様子。
挙句は彼女に罵声を浴びせ続けるという暴挙に出て、しかもこれは最悪。一度、強く何かを叩く音が聞こえてきた。
それは物を叩いた音ではなく、誰かが誰かを平手打ちした、そんな乾いた音だった。
外で待機していたジョンは、呆れ果ててしまう。
こんな村、救う価値はあるのだろうか。
竜舌蘭は一体何を正義として行動しているというのか。
ある意味では場所取りのために戦争をしているようなものだろう。モンスターや動物達と、ここの村人達は、戦争をしている。
戦争に善悪など存在しない、関係ないと言えばそうかもしれないが、しかし、ジョンは村人達に同情する気は起きなかった。
いっそのこと、ワタリガラス達を応援でもしてやろうかというくらいの気持ちにさせられる。
それくらいにここの村人達は救いようが無い。
目先の被害を見て見ぬふりして、利益ばかりが目移りしているとあっては、もはや盲目と同じ。
そして竜舌蘭も、随分目が曇っているとジョンは思う。
理想は理想。現実は現実。
これらの簡単な区別さえ付けられない竜舌蘭への同情心は、徐々に薄れていく。
馬鹿な女だ。
そう思ってから、更に残念に思うのだ。
口に出さない事が処世術なのかどうだか。
ジョンが彼女にこういった素直な気持ちを告げる機会こそは、訪れないまま終わる事になる。
「あ、ラルク君、居たんだ…テキーラ」
「…」
涙目の彼女の左頬は、赤くなっていた。どうやら叩かれたのは頬だったらしい。
これ以上無く暴力を受けなかったのは、不幸中の幸いだろうか。
まあもしそんな真似をしでかす奴らだったらこの時点で皆殺し決定だけども。この世界ではそういう奴らは真っ先に死ぬ運命にあるから。作者権限で。
頬の腫れは隠し通せる物でない事をハッキリ理解しているであろう彼女は、それでも気丈に振る舞おうという素振りを見せる。
それを見せつけられる側のジョンも、酷く複雑な気分にさせられていた。
無論、彼女を擁護する気もないが、勿論のように村人も擁護する気こそない。
少なくとも彼女への労いの言葉は出てこなかったし、慰めの言葉も出てこなかった。
ため息さえ出てこなかった。
平和ボケした人間達の行動。
しかしながらそれは、戦争とも酷似している。
結局人間は、目先の利益の為だけに道理も道徳も命も簡単に切り捨てる事が出来る、醜い欲望の塊なのだと、それが平和だとかそんな事は関係ないのだと、思い知った。
それは、決していい気分ではなかった。
守るとは。戦うとは。殺すとは。
一体何の為にと、考えざるを得なかった。
正義の味方っていうのは、だから難しいのだ。
「…ご飯にしよう。テキーラ。
今日はどうあれ、討伐テキーラよ。
据え膳食わぬには戦は出来ないテキーラ」
「……」
ジョンがこの期に及んでも全く喋らないのは、全てが面倒だったという理由で殆ど説明がつけられるだろう。
だが違うのだ。
掛ける言葉が浮かばなかったのだ。
ここに来て少しずつやる気を持ち始めたにも関わらず、もう彼には、何も出来なかった。
何もかも、もう止まらない。
そんな未来だけが目前に迫っていて、何も言えなかった。
未来を彼は知っているから。
何度も何度も越えてきたから。
***
評価すべきは、こんな有様であってさえ、竜舌蘭は様々な手を施し、村を守る算段をしっかりとつけていた事。
農村の人々をこれ以上傷つけられないように、罠を張り巡らせて敵を無力化する、広範囲の魔法の設置を施した事。
守る価値があるのかどうかではなく、とにかく被害を抑える事だけに念頭を置き、なおかつ敵とみなすべきモンスター達さえも無力化するに留めるという、一見すれば甘い算段。
しかし被害を抑えこむ事が可能であろうこの罠の設置は、少なくとも農村の安全を一定値確保出来ており、また相手の勢いを削ぎ、時間稼ぎが出来る。
本当に上手くいけば、敵が撤退する可能性もあるだろう。可能性は低いが。
元より問題は、相手の数にある。
規模が知れない以上、どうしても絶対の安全は確保しきれないのが実情。
恐らくそれを見越してのジョン・オ・ラルクの投入なのだろうが。
社長は少なくともこの事態を見透かしていたのだ。竜舌蘭単独では、どうあがいても最悪の事態になるという事を。
それを上手く回避出来る、竜舌蘭の死を回避可能な、補佐官としての適任者が、彼という存在だったというワケだ。
要するに、竜舌蘭の手腕でどうしようもなくなった場合は、お前がどうにかしろ、という話。
非常に癪に障る話だったが、しかしそれに乗らざるを得ない。
ジョンはもう誰であっても死んでほしくなかったから。
それでいて竜舌蘭という女性には、本気の本気で、心の底から、死んで欲しくないと思っていたから。
だったら誰の意思か采配かは関係ない。社長の思惑などどうでもいい。
護ってやらねば。
そう決意を固めて到着したのは、昨日と全く同じ場所。時間すら同じであった。
違っているとすれば、既にワタリガラスがそこに居た事。
昨日と変わらず赤い目がコチラを見つめている。
月明かりも、こちらを見つめていた。
綺麗な夜だった。
それなのに。
『人間共、答えはどうなった』
そういえば描写してなかったが、ワタリガラスはかなり巨大である。
高さにして2mを超えており、羽根を広げれば恐らく5m以上になるだろう。
見た目こそ普通のカラスではあっても、それだけ大きいと色々洒落になっていない感はある。
ただしワタリガラスでも2mを超える個体はかなり珍しい。通常は1m前後である。(我々の世界におけるワタリガラスは全長約60cm前後。)
彼らの生態系は今だに謎な部分も多い為に、このワタリガラスの年齢は知りようが無い。だがかなり長生きしていないとこれ程大きい個体にはならないだろう。
故に他のワタリガラスに比べて非常に知能も高いのだろう。同時に賢明でもある。
それが逆に怖い所。一体どれほどの手勢を持っているかが知れない。測れない。
これから巻き起こる戦争の規模が不明。おかげで死亡者の予測も出来ない。
分からない事だらけだ。どうしようもなく。
だからこそ、どうしようもない展開になってしまったとも言える。
「…ごめんなさい。
村人は話を聞きもしなかったテキーラ。
そして仕事だから、私達は今から、貴方達の敵になるテキーラよ」
『誠に残念だ。
我らも仲間を失いたくなど無いのだが、仕方ない。
残念だ。非常に残念だ。
貴様はまだ話の通じる相手だった。
この土地に住まう人間共が皆、貴様と同じならばこうはならなかっただろう。
引くなら今のうちだ。
それとも、仕事と割り切り、万にも成る我が軍勢と戦うつもりか?』
「仕事テキーラ」
万にも成る我が軍勢と戦うつもりか、で留まっていた。
我が軍勢と戦いここで果てるつもりか、では無かった。
恐らく、負け戦を予想しているのだろう。
彼らはここで負け、ここで死ぬ気なのだろう。
ジョン・オ・ラルクという存在が常軌を逸している事を悟っているのだ。
だが不満だった。
いいや、不愉快だった。
ジョンにとってそれは、本当に許せない事だった。
「…待て」
ジョンがズカズカと前に出て行く。
それを見て一番驚いていたのは、竜舌蘭。
それもそうだろう。常々積極的に喋ろうとしない奴がいきなり会話する為に前にまで出て行っているのだ。今までの彼とは明らかに違うのだ。
しかも彼はやっと彼の意見を述べるつもり。
感情のままにではあるが、それでも今から述べようとしている言葉は、彼の信じる正義に他ならない。
『…震えて喋れないのかと思っていたが、若造よ、随分と酷い目をしておるな。
何ぞ。言ってみせろ』
「何故戦う。
たくさん死ぬんだぞ。たくさん死ぬ。
なのに何故戦う。
死にたがりなのか。
自己犠牲が美徳だって言うつもりか!
そこに生産性があるのか!?
そんな事で未来が築けるのか!?
そんな筈はない!!
その戦いの先にあるのは後ろ暗い破壊の爪痕と殺戮の痕跡だけだ!!
皆して土塊になるだけの救われない絶望だけだぞ!!
凍りついた死体の山が限界まで累加されるだけの生産作業が始まるだけだ!!
始まったら最期だ!!
どちらかが死滅し尽くす事でしか止まりはしない!!
いつまでもいつまでも死体が搬送されるだけだ!!
美しいものか!!死体の山がどうして美しいものか!!
そんな場所を物見遊山して喜ぶのは狂人だけだ!!
一体何度繰り返す気だ!!一体何度繰り返させる気だ!!
世界中の生命体が土に還ったらその時はもう何も残されていないっていうのに!!
そんな世界で一体誰がお前達に称賛の声を投げかけるというんだ!?
そんな事をしたって死体は感謝も罵倒も恨み事も寝言も何も喋ったりしない!!
もう一度訊く。
どうして戦うんだ」
「ラルク君……」
彼が見てきた世界は、黒と白の世界。灰色の世界。
怒りを吐き出す為に見上げれば、血の味がする空。
火薬と弾丸まみれの土には煙の花が咲いていた。
それが、全ての終わった世界。
彼が全てを終えた後に見る世界。
神の力の体現であって、
破壊神のような武勲であって、
死神かのごとき異形の結末。
何度見て、何度後悔し、何度絶望し、何度、何度、何度、何度、何度。
そして土塊は何時でも返事してくれなかったのだ。
いかなる時でも、どんな場合でも。
何度話しかけても、揺すっても、何をしても。
全てを終えてからやっとのこと後悔した彼は、だから彼らの行動を見過ごせなかった。
死んだら終わりなんだ、それっきりなんだ、土塊は喋らないんだ。
そう言いたくてたまらなかった。だって本当にその通りで、その事実が本当に悲しいって思っていたから。
だが彼らは止まらないだろう。知っていた。
今までもそうだった。
誰も止まってくれなかった。
だって言葉だけじゃどうしても伝えきれないのだから。
どうしようもなくて。
本当この世界はどうしようもなくって。
これが言語の限界の証明だ。
だから数ある優秀な教訓は簡単に踏み倒され、繰り返される。
人間は教訓の意味を、全てが終わってから知る。手遅れになってから知る。
そうしてまた繰り返す。永遠に。全ての生命体が終わりを知るまで。教訓を墓標にして。言語とともに風化し、消える。全て。
『意見の相違だ。
我々も死にたくはない。
だが現状のままでは、住まう土地を失い死んでしまうのだよ。
戦う他に選択肢を失わせたのは、人間共だ』
「…他に方法はないのか」
無かった。
もしこのジョンの絶望を誰かに完璧に伝えられる不思議な力があったならば話は変わるだろうが、無いのだ。
無かったから彼は50万も殺したのだ。
そうでしか止まらない。知っている。分かっている。
吐き出したかっただけだ。
吐き出してそれで、もう良かった。
罪悪感は少なくとも軽減された。チャンスをしっかり与えたと言い訳出来るから。
自分は少なからず間違えていないという意思表明も出来たから。
元よりどうしようもない事だった。
『まさか、この土地を去れと言うつもりか。
我々は人間が住まうより数千年も前からここに居るのだ。
そうでなくとも我慢し続けたのだ。何も言わず、その過ちに気づくまで待っていたのだ。
だがもう限界なのだ。臨界点を突破したのだよ。
昨日も待ってやったではないか。それも実に、特例だった。だが待った。
もう無理だろう。話し合う余地はない。
攻撃する度に私は言っているのだ。『森林を汚すな』と。
貴様らはそんな話も聞いておるまい。人間共は、嘘を平気で付ける愚かな生き物だ。
利益のためなら手段を選ばない。そうだろう?
さあ選べ。
逃げるか戦うか。
止められると思うか?』
「……」
バチバチと、ジョンの体から電気が流れて駆け巡り、時折地面か木かに飛んでいく。
魔法という概念を含むこの世界での放電は、実際に発生しうる放電とはまた性質が異なっている。
本来ならば超高電圧でもないと、空気を伝って電撃が飛ぶ事などあり得ない。
こればかりはそういう能力だと言う他に無い。
そして彼女には当たらぬようにしていた。つまり操作も出来るという事。
だが明確に戦う意思を、見せた事になる。
これは威嚇ではない。これが答えだ。
彼は全部を殺す気だ。
繰り返すのだ。彼は。
こんな場所ですら。
だから死神なんだよお前は。
今は、違うのかも知れないけど。
『残念だ。非常に残念だ。
同士よ、人間共を食い殺せ。全てを破壊しろ』
そんなワタリガラスの言葉を聞いてか、数多くの動物たち、モンスター達が一気に進撃を開始した。
一体今までどのようにその姿を隠していたのかは知れないが、予想を遥かに上回る数、それこそ万にも成る軍勢と言ってもなんら差し支えがない程、ゾロゾロと出てきたのだ。
一方、距離はまだ随分あった。
ワタリガラスのやり方は非常に正々堂々としている。馬鹿正直に真っ向から潰すつもりでいる。
これは恐らく、人間のような卑怯な手段を極端に嫌っているからだろう。
不意打ち、騙し討、奇襲、情け容赦のない蹂躙は、確かに人間の特性とも言える。
必ずしもそうとは言えない気もするが、とにかく今は是が非でも人間のような手段を用いるのを避けたがっているらしかった。
だがそんな事を考察している場合ではない。
根本的に言って、数で圧倒するという手段こそは人間とそう変わらない。
結局これを食い止めなければ、戦場となんら変わらない世界が広がって終わる事になる。
これは紛れも無い戦争。戦争は戦争だ。結果論はそこだ。結論はそこにある。
「竜舌蘭、離れろ」
「なっ、まさかここ一帯を全部潰す気テキーラ!?」
そんな事を言っている場合ではない。
現にワタリガラスは先陣を切り、既に飛び立った後。
大きな翼は誰よりも早く農村へと。
流石に制空権を取られては手の打ちようは無い。
空に魔法陣を設置など出来ないのだ。つまり防衛がら空き。好き放題されてしまうだろう。
「ゴチャゴチャ言うな。
ワタリガラスは村の方角へ飛んでいった。
今回の依頼はモンスター討伐。
失敗は村の崩壊。
それが全てだろ。
引き分けなんて無い。
いい加減、……理想を捨てろ」
「………、分かったテキーラ」
彼女は悔しそうな表情のままに、村へ向かう。
選択の余地は無い。
自らがどちら側なのかをもっと自覚すべきだろう。
相手の被害をどうこう言えた立場ではないし、そもそも義理も資格も無い。
説得は失敗に終わったのだから。
いいや、それは分かっているのだろう。
迷いはあるのだろうが、それでも彼女の行動は早かった。
ジョンの言葉に変に突っかかってきたり、否定的だったりはしなかった。
これから沢山の生命が消える事を理解した上で、すぐに同意したのだ。
綺麗事を言う事も無く。
そういう所も腹が立った。
結局ジョンにはもう分からない。
何を言われた所で胃がムカムカするのだ。
竜舌蘭が悪いワケじゃない。
動物達が悪いワケでもない。
村人達がどうしようもないのでもない。
どうしようもなく虫の居所が悪いのは、ジョン・オ・ラルクただ一人なのだ。
「…ケラヴノス」
ジョンは目先の軍勢を見据え、少し前へ。
その少しの後、辺り一帯は真っ白になった。閃光が走った。轟音もまた遅れて遠くまで鳴り響く。
彼の本領、広範囲魔法。超広範囲の雷の嵐。稲妻。災害。
喫茶店ブルーベアに居る今現在のジョンとは違い、この頃のジョンは武器を一切所持していなかった。
しかしその代わりと言うにはあまりにもな代物。それほどに凶悪な能力を彼は所有し、これを武器として使っていた。
攻撃範囲は他に類する物がほぼ無いくらいには絶大に広く、挙句は威力もケタ違いだった。
50万という数を殺し尽くした、前代未聞の大魔法。成し遂げられるだろう。これ程ならば。
無論、殆ど一瞬の出来事だった。
空に居た鳥も、大地に居た大型生物も、木に隠れていた存在も、地面の中さえその攻撃の範囲に含まれていた。
全てが消し炭と、消し炭のにおいと成って果てた。
木々の中には火が付いている物もあったが、燃え広がる事は無さそうだった。山火事の心配は無い。
雷の広範囲・高威力の影響で、もうほとんど燃える物を失ったのだ。黒煙すらもほとんど上がらず、土煙が僅かに立ち上っているだけに留まっていた。
魔法の範囲はかなり正確かつ安定的な広がりだったようで、ジョンの半径300m程度の綺麗な円形が黒塗りに、上空からならば完璧に確認出来た事だろう。何も知らない人が見ればミステリーサークルだとか言いそうなくらいだ。
勿論、範囲外への木々の被害も僅かな物。範囲外に居たであろうモンスター達も当然無事。
しかしこれだけの圧倒的な力を見せつけられて突撃しようとする馬鹿も居なかったらしく、すぐさま大多数が逃亡を開始。
今のでいくら殺したかがジョンにはよく分かっていた。
概ね今の攻撃で800前後。正確な数を答えてもいいが、もう、約800でいい。
正確な数は問題ではない。
それに急がなくてはならなかった。
ワタリガラスが生きている以上、進撃は今回だけに留まらないだろう。
対策を練った上で再度戦争が巻き起こされるだろう。
堪ったものではない。これっきりにして欲しい。
また、竜舌蘭が上手くやれているかも心配だった。
迷っている彼女の事だ。恐らくは…。
彼は踵を返し、村へと急ぐ。
逃げ出すかのように、ただ急いだ。
***
殆ど間もなく到着したジョンだったが、ワタリガラスのその様を見て驚かざるを得なかった。
精々大きめのカラスという具合だったワタリガラスは、今ではもはやそんなレベルではない程に、カラスなのか疑う大きさをしていた。
ニワトリくらいには大きなサイズ。下手をすればそれよりも大きいかもしれない。
これでは竜舌蘭に倒せるワケもないなとジョンは思ったが、意外にも中々健闘していたらしく、竜舌蘭はほぼ無傷。それでいてワタリガラスはかなりボロボロの状態だった。
魔法が駆使出来る分、優位に事を運べたのだろうか。
しかしワタリガラスも魔法を有している筈なので、単純に技量の差かもしれない。竜舌蘭も伊達に修羅場は潜っていないようだ。
竜舌蘭はジョンの接近に気が付き、声を掛けてきていた。
それくらいには余裕綽々か。
「ラルク君……、終わったテキーラ?」
「ああ。終わった」
ジョンは淡々と言った。言わなくてはならない。
ワタリガラスを動揺させる意味合いでもそうだし、竜舌蘭への報告という意味でもそうだし、何より命を奪ったのだ、見苦しい言い訳などする権利は無いとジョンは思っていた。
しかし彼女は彼女で、何ともやりにくそうな様子を見せる。少なくとも今の報告は、分かり切っていたながらに嬉しい報告ではなかったのだろう。
結局の所、ワタリガラスとも本当は戦いたくないのだ。
ここに来て何もかも今更だと思うのだが、だが竜舌蘭は今だに迷っていた。
だからジョンが「終わった」と言ってしまった事で、ワタリガラスとの戦闘はもはや避けられない段階にまで到達してしまう。
どんな言い訳を用意しても回避不可能。そういう段階だ。重ね重ね、今更だとは思うが。
それは残念な事なのだろう。竜舌蘭の中では。
が、まどろっこしい。
ジョンも今更が過ぎると思った。
もう手遅れ。最初からどうしようもなかった。
それを何時までも何時までも戦いたくないだとか綺麗事を抜かし続けて事態を無意味に継続して。
ジョンはとにかくイライラしていた。
様々な考えと記憶とが頭の中で右往左往していて、刺激され続けて、もううんざりだった。
早く終わらせたかったのだ。
そして深い眠りについて、休んでしまいたかった。もう目を動かすのも面倒になっていた。
「俺が殺る」
「駄目テキーラ!」
「相手も殺す気で来ている。
存亡をかけた戦いなら余計、遠慮したら失礼だ。
そもそもアイツは逃げていない。これだけ不利な状況下でもだ。
もう殺す事でしか終わらせられない」
「…だ、駄目!」
「グロザー」
竜舌蘭の制止の言葉を聞き流し、ジョンは無遠慮に攻撃を放つ。
一点集中であり、ほぼ回避不可能攻撃。光の速さ、は大袈裟だが、人間からすればそれくらいに速い攻撃。
たかが一瞬の出来事ではあったが、その電圧量が凄まじかったのだろう。
空中にて丸焦げになったワタリガラスが、地面に落下。息の根は一瞬で止まったようだった。
まだ生存している動物やモンスター達も一部は結局村の内部にまで侵入していたらしかったが、その様を見て戦意を喪失したようで、逃げ出していく。
村人達は窓からその様を見ていたようで、ワタリガラス討伐成功と知ったとたんに出てきて騒ぎ始める。
今の今まで隠れておいて。ジョンはそう思う。
だがこの後が最も腹が立った。
聞こえてくるのは、どれも偉そうで他人ごとな言葉達。
「ざまあみろ」「人間様に逆らうからこうなるんだ」「ありがとうございます」「これで平和が戻る」
ジョンからすれば反吐が出るほどに不愉快な言葉達。
もう限界だった。色々な物が限界に到達した。
この動物達は、ワタリガラスは、本当に困り果てていて、やむを得ず戦わなくてはならない程に追い詰められたのだ。そして勇敢にも戦い、散ったのだ。
少なくとも彼らは行動した。行動によって現状打破を行おうとした。勝ち取ろうとした。戦った。命を張っていた。
それをこいつら、戦いもせず傍から傍観し続けた奴らが。
彼らを
そうジョンは思う。思って拳を握りしめた。
振り上げてやろうとさえ思った。
思ったが、思うだけに留まる。
そんな彼らを殺したのは、彼だったから。
「助かりました、テキーラ様。
報酬はしっかり払いますので、何卒お納めください」
村長すら今更村長面。
どうすればいいこの理不尽。
一体全体なんでこんなに歪んでいるのか。
納得出来ない。理解出来ない。腑に落ちない。割り切れない。受け入れきれない。
腹の虫がおさまらない。
隔靴掻痒とも言う。
「…動物たちの大半は戦争に来た」
「は?」
ジョンは殆ど無意識に語り始めていた。
彼女もそれを聞き、止めようとする動作を見せていたのだが、それすらすぐにやめた。
彼女も迷っていたし、本音では言ってやれと思っていたのかもしれない。
竜舌蘭もまた納得出来ていないだろうから。
「俺達は村を壊そうとする存在達を殺した。
沢山殺した。消し炭にした。
これからアンタらは、この土地の恩恵を受けたりはしない。
土塊は喋らないし、誰も守らないし、誰も助けない。手を差し伸ばす事もしない。
だがお前達は違う。傍観者は誰も助けないしだれも守らないが、立派な加害者になれる。
これは赦される事ではない。全員して天罰を受けてしまえ。俺が手を下すまでもなく、この大地がお前達を裁くだろう」
「……何の事ですかな?」
「…ああ!
何でも無いですテキーラ。
それではお世話になりましたテキーラ。
何かあればまた、CABINの方へご連絡を!」
ジョンを無理に引き連れるように、彼女は走っていく。
竜舌蘭にとっても居心地の悪い村だった。だから早々に退散を開始。
また社長の手筈が完璧だった。帰りの荷馬車は既に用意されており、二人を待っている状態だったのだ。
それに乗り込んで二人はすぐさま、
逃げるようにしてその場を後にしたのだった。
***
「…テキーラは、怒ってるテキーラ」
「……」
「殺す必要は無かった…とは言わないテキーラ。
でも、あんまりな結果テキーラよ」
「……」
「ごめんテキーラ。
結局は、テキーラの所為テキーラね…」
誰の所為だったとか、
そんな事、どうでもいい。
誰が悪かったかを言及する行為もまた酷く虚しくなるだけ。
少なくとも竜舌蘭に対し、ジョンは何も言えないで居る。
2つの意味で。
「…ラルク君?」
竜舌蘭、異変に気がつく。
ジョンはとても疲れた表情をしており、荷馬車の壁に体重全てを預けていた。
そう、今まさに眠りそうになっていたのだ。
おかげでロクに喋る事も出来なくなっていた。
「…噂通り、だね。
能力を使うと、眠くなる、寝ちゃうって。
貴方の能力は、神様みたいな能力だからね。
人間が本来持っていい能力じゃないって、持ち得ない筈の能力なんだって、聞いたことある」
「……」
「でも、安心しテキーラ。
今は羊の馬車で帰る途中。
眠ってしまっても、特に問題はないテキーラよ。
そのうちCABINの本社に到着して、医療班が貴方を抱えて、」
「…俺は」
「……ん?」
「間違ったことなんて言ってない……」
絞る出すように。
「…そうだね」
「今も昔も、これからもだ………」
本当に眠くて眠くて。
「…そっか…」
苦しくて、悔しくて。
「間違った事なんてやっちゃいない…」
「…」
「ちょっと…不器用なだけ…だ…」
彼がそう告げて、そこが限界だった。
もう無理だ、眠りにつこう。
そう思って目を閉じた時、その時に聞こえて来た言葉は、とてつもなく透き通った声だった。
「……自分を貫くっていうのは、自分を殺す行為。
例え自分を表にだそうが隠そうが、それは絶対に、他者に削られてしまうのだからね……。
変わらない人間は居ないし、変われない人間なんてきっと居ないよ……。
それが良い方向に進んでくれたならそれが一番なんだけれど、それすら難しい事なんだって、そう思う」
意識が、途切れそう。
そんな最後に聞いた言葉は…、
「お守り…、ありがと……。本当に、嬉しかったよ…?」
そんなさみしげな声だった。
次の日の朝、馬車の運転手に起こされたジョンは知ることとなる。
テキーラと勝手に名乗る女性、竜舌蘭がいなくなっていた事を。
当然のようにCABIN本社には帰っていなかったようで、また馬車の運転手すら気が付かぬ間に、居なくなっていたらしかった。
結局は後に行方不明として扱われ、彼女の名前はCABINの正社員名簿からすら姿を消した。
それから彼は一度も彼女に会った事はなかったし、決して探すこともしなかった。
そのまま色々あり、彼は無理言ってCABINを退社。それは竜舌蘭が正社員名簿から名前を抹消された頃合い、つまり竜舌蘭が行方不明になってから比較的すぐの事だった。
それから喫茶店ブルーベアにて護衛とは似ても似つかぬ、用心棒とも成りては成りきれぬ、半端なヤツとなり果てたのだ。
考える事を放棄してでも、彼は正義の味方になる事を選んだ。望んだ。
思考を放棄することで今の彼は無茶苦茶阿呆になってしまっているが、そうでもしないと正義の味方になれないと彼は考えたのである。
だがそれでも理解者は居ると思いたい。
彼がとんでもなく格好良い正義の味方なのだという事を、理解してくれている人が居るのだと、信じたい。
辛くて苦しくて悲しくて、そんな気持ちで生きていたお前を理解してくれる人が居る筈だと信じてやりたい。
少なからず俺はお前の味方のつもりだよ。
*****
「んで、社長よw
真顔なところ悪いんだがよwww
さっさと喋れwwwwwwやwwwwwwwwwwwww」
「俺が真顔なところにウケとるんかお前。
マジでちょっと表でえや名前だけ名探偵の名言野郎。
なんで今のシリアスな過去回想の後にそんな感じで喋れるんやねん」
さてシリアス続きで疲れているであろう読者達に朗報である。
残念ながらシリアスはまだちょっと続くけど、この何とも表現し難いギャグなのかそうでないのかハッキリしないゆるゆるした時間が舞い戻ってきたのである。
いや370mLは息切れしていない。ちょっと疲れただけである。平気平気。
あと今回、修正版もしくは完全版、無駄に話長いんだけどどうすればいいかな。削るとこある?
刈り取るとするならオイヨイヨの草かな。ちょっと誰か除草剤か草刈り機を買ってきてくれない?根っこから根絶させるなら鎌がいいかも。オイヨイヨの喉辺りを狙えば一発さ。HAHAHAHA。
あとさっきまでの過去話さ、370mLの能力の低さが露見してるよね。
びっくりするくらい同じ言葉使いすぎだよね。重複させすぎだよね。語彙力無さすぎだよね。削ろうかな今から。あーでも面倒くさいな。
置いといて。
本編の約半分を使った、長い長い過去話はとにかく終わり。
今は、黒い封筒云々の後にジョンが出かけてすぐの話。
オイヨイヨはCABIN社長のところへ来ているのだった。
何故か受け入れられていないのか、オイヨイヨはCABIN入り口で社長に会わせてもらえないみたいな話をされ、随分な苦戦を強いられていた。
しかし案外難なく突破して、今は社長の真ん前で偉そうに座っていた。
なんで難なく突破されちゃったかっていうと、現在1級ソルジャーが出払っていて、この会社の防衛力が堕ちていたというのが一番の理由。
雑魚しかいない、というワケでもなかったのだが、格上であるオイヨイヨを止められる存在は皆無に等しかった。ただそれだけの話である。
なんでオイヨイヨが社長との面会拒否を受けてしまったのかは、不明。
強いて言えば元猟団幹部という肩書が邪魔しているのだろう。
元、とは言えど、一応最高に犬猿の仲の組織の幹部だった奴だもんね。無理もないよね。
3話でも片鱗見せてたけど、過去のこいつも結構やばい奴だったんだよね。無理もないよね。
というかアポもなしに来てるからね。それでいて社長に会わせろって言ってたんだからね。無理もないよね。
無理もないっていうか、オイヨイヨ、頭が高いよね。
「まあさっさと喋れやwww
茶ぁ持ってこいwwwww
あと和菓子な和菓子wwwwwww
よーかんっつーやつがいいwwwwwwwwwwwww
あの竹なんとかっていうフォークみてーなの使ってみたいwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「お前ちょっと草生やすのやめえや。話す気失せるわ」
随分な言い草であるし草も生やし放題ではあるが、そもそも非があるのは、エセ大阪弁を喋る社長にあったりする。
元より対応し切れないのだから素直に通してしまえば良かったのに、わざわざ拒否。
おかげでオイヨイヨは無意味に体力消耗を強いられたので、偉そうであっても当たり前。
無論、偉そうが過ぎるけども。
いやもう度を越して鬱陶しい限りで偉そうでしかないのだが。
というか根本的に、アポも無しにやって来たオイヨイヨが悪いんじゃないかなやっぱり。
手のひらを返すようで悪いが、社長に非があるのかどうかちょっと怪しいな。
あと竹なんとかって言ってるけど全然違うから。竹製ばかりでもないし。
あの二又のフォークみたいな道具は、菓子フォーク・菓子楊枝、もしくは黒文字って言うのよ。
羊羹が出てきたらまずそれで一口サイズに切り分けてから刺して口に運んで食べるんだ。
丸かじりしたりする食べ方は行儀が悪いのさ。
というかこの世界に羊羹ってあるのだろうか。
「ジョンがいないからwwwww
なんかもうツッコミ出来ないからwwwwwwww
それだけでなんかよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「文字数増やすだけやからやめいっちゅーてんねん!w」
「テメーまでメタ発言すんなやwwwwwwwwwwwwwww」
社長にまで草が感染する始末である。
あともうちょっと関西弁上手く喋ってくれないかな。俺が主に疲れる事になるから。
関西弁らしい関西弁じゃなくてもいいからさ。方言が正しければそれでいいからさ。
そんな馬鹿をやっているうちにお茶と和菓子がご丁寧にも用意。受付のお姉さんとは別の人である。さっさと下がっちゃったけどね。マジで羊羹出てきたな。
オイヨイヨは腹を抱えて散々笑い続け、疲れた頃合いかにようやく手をつけ始める。
なんか非常にただのクレーマーである。いやクレーマーの方がマシ?
いいや、クレーマーの方が断じて害悪……うーん。
誰が悪い議論はもうどうでもいいから、威力業務妨害でオイヨイヨを逮捕しとこうぜ社長。少なくとも静かになるんじゃないかな。黒文字でオイヨイヨを切り分けて埋めれば万事解決だ。
「お前が欲しがっとる情報はまあ無料でええわ。
今回ばかりはちと面倒事やし、寧ろ報酬出したるわ」
「へえ?www
いくらだ?wwww」
「ざっとこんなもんでどうや」
社長はワザワザそろばんを叩き、そのまま机に置く。どっから出てきたそれ。
オイヨイヨはそれを一瞥し、ボケではないことを知ると、羊羹をかじりながらイスに深く腰掛け、ふんぞり返る。だから正しく食べろって言ってるだろーが。黒文字そのまま刺してんじゃねーよ。
オイヨイヨの態度は相変わらずだったが、ちょっと空気が重くなったか。
金額が金額なだけに、話を聞く気が出たのか。
それとも不穏な空気を感じ取ってしまったのか。
「へえw
結構な額じゃねーかww
軽くオレンジジュース1万個くらい買えるんじゃねーの?www」
「どーいう換算やねん。
ラルクにどんだけ影響受けとんねや。
ま、換算方法なんざ個人の自由や。それはおいといて。
実際それだけの額出すくらいの事なんや。
部下の尻拭いも、時にはせんとな。
へーこらへーこらして頭を下げるんは上も下も同じやで」
アンタが頭を下げてる姿を想像出来ないんだが。
「…、じゃ、そろそろ真面目に話を聞かせてもらうとするかw
なあ社長さんよw
今回の件はちーっとばかし、こんな金でも足らねーくらい、面倒っぽい話になりそうだぜ?」
そう唐突に真顔のオイヨイヨ。
それを見て、ため息を吐く社長。
だがすぐさま行動は成された。胸ポケットからある物を取り出したのだ。
高価とは言えない見た目の代物。
恐らくはネックレス系のアクセサリーだろう。いや、ペンダントといった方が正しいか。
シルバーの四角いような、なんかちょっと角部分が丸くなっているような物が、それこそシルバーの鎖につながれただけの、随分簡単な作り。
オイヨイヨはそれを手に取り、眺める。
表はCABINのマーク。今と少しデザインが違うようでもある。
ナンバー4を意味する、「4」の数字もしっかり入っている。
裏に刻まれる文字は、「J」と筆記体で描かれた、ただそれだけの物。誰かさんの名前も小さく入っている。
身分証明になる程の物ではない。
何故ならこの手の物は偽造品が驚くほどに多いから。
偽造品が簡単に作れる程度の簡単な作りなのが悪いといえばそうなのかもしれない。
ともかくこれがオリジナルである保証は無いだろう。
だが、細かな傷までは流石に模倣し切れないか。
これを見て確かにオリジナルだと言い切れるとすれば所持者だった当の本人か、目の前の社長くらいだろう。
社長は少ししてから、開口。
「あの馬鹿に渡しといてくれ」
「あん?wwwwwwwww」
「誰のかも知らん忘れ物や。ゴミ箱に捨ててあってな。届けたってくれ」
誰のかも知らんワケは無い筈だが、とは思ったが、オイヨイヨは口にしないでおいた。
言及した所で意味も無いし、会話がとりあえず面倒くさくなる気がしたからである。長話は御免だった。
そしてこの依頼、請け負う義理こそ無い。
だがジョンならこの手の依頼は請け負うだろう。
こういうどうでもいい依頼こそ、ジョンが気に入るような依頼だ。
そう思うとちょっと癪ではある。
依頼達成数は別に競っていないが、ジョンならば、と思考すると居ても立ってもいられなくなるのだ。
オイヨイヨはそれでも、請け負う気はなかった。
ただでさえ込み入った話盛りだくさんの曰く付きっぽい代物であったし、直接テメーが渡せやと言ってやる方が断然正しい気もしていたから。
しかし『ジョンに渡せ』と言っているのが社長である。
そこが妙に引っかかる。
これが一体何時、何処のゴミ箱に捨ててあった物かをオイヨイヨは知らない。
これが捨てられる事になってしまった経緯も知らない。オイヨイヨは何も知らない。
ただ何となくこう思う。
社長が直接あの馬鹿野郎に渡してやるべきなのは確かだったのだ。
そう思っていたからこそ社長はこれを大事に保管していたのだろう。
渡すタイミングもそれなりには見計らっていたのだろう。
時間を掛けてでもいつかはジョンに渡そうと考えていたのだろう。
しかしそうも言ってられなくなったのだ。
早急に届けなくてはならなくなったのだ。
それくらいに事態は進んだのだ。社長の思惑を無視して。都合を無視して。
さもなくばこんな大事な役目、いきなりにやって来たオイヨイヨに渡すだろうか。
そもそも最初に若干オイヨイヨの邪魔をして時間の無駄を引き起こした理由は何だったのか。
まさか時間稼ぎじゃあるまいな、と。それは考え過ぎかもしれないが。
オイヨイヨは結局、乗り気ではないながら、依頼を受ける事を決意。
「報酬は?www」
鬱陶しい限りの決意方法であった。
お前に至っては進歩無いな本当。昔とあんま変わってないぞ。
「ジョンに貰えや。ワイは知らんで」
社長はそう言って、本を読み出す。
ケツの下に敷いてあったエロ本らしい。
何故か情報はくれないようである。時間が惜しいのだろうか。情報は無料にしといたるだからなのだろうか。
それならもっとすんなり渡してくれよと思わないでもないけども。
オイヨイヨは羊羹をすぐに平らげ、そのままペンダントを手に、悠々と歩き去る。
まずはジョンの行き先を調べる所から始まる。
あまり時間があるとは言えないが、仕方あるまい。
のらりくらりとやっていても、まあ上手く行くだろうなと、結構お気楽気分のオイヨイヨだった。
綺麗に磨かれているらしいそのペンダントは、文字通り綺麗な銀色をしている。
それを随分雑にポケットに仕舞いこむオイヨイヨ。
責任をもって渡してやらねばならないだろう。
そう思うと少しだけ足取りが重くなった。
なんだかんだ言ってやっぱり面倒だった。
オイヨイヨはジョンの事になると、結構億劫になるのである。
これもまた理由の方は、別の機会にしておこう。
そしてここで場面転換である。
***
「……竜舌蘭」
「あ、やほー、呼んだテキーラ?」
ジョンが歩み寄る先に居たのは、あの竜舌蘭だった。
あの日から随分経つが、ほとんど変化していない、あの時の竜舌蘭そのまま。
紛れも無く当の本人だった。
その微笑みを、見間違えるなんて事は絶対にあり得ないだろう。
でも、彼女はやっぱり変わってしまった。
そうジョンは思う。
「……呼ぶも何も、目の前じゃないか」
「あはは。そうでしたー」
そう、そもそもジョンを呼び出したのが彼女であり、そもそもを言えばずっと岩陰に背を預けていたのが彼女。
まるで想い人でも待つかのように、そこに居たのは彼女だった。
何時見ても変わらないその美しい輪郭の色は、とても怪しげで、危険な香りを仄かに感じさせてくれる。
しかし、以前より少し痩せたように見えた。
もともと痩せ型だった彼女が更に痩せた、と見える事に、ジョンは多少不安を覚える。
しっかり食べているのか。ちゃんと寝ているのか。
不穏な文面、封筒まで不穏。
そんな物で呼びだされておいて、久しぶりに会っておいて、気になる点はそこだった。
それもその筈。
竜舌蘭は、ジョンが正義の味方を志す理由となった人物であり、馬鹿を演じる上で多大に影響を受けた人物であり、きっと本音の所は。
好きな人だったから。
…場所は廃ビル。
何時に廃れたのか、街の随分外れた場所にある、たった一つぽつんとそびえる廃ビルと、建物群。
何時崩れるとも知れないような、そんな場所。元々は何かの工場でもあったのだろうか。
ここ一帯はCABINの管理下の筈なのだが、場所が場所だけに監視も曖昧なのだろう。
証拠に植物の侵食を受けており、ある意味で幻想的な雰囲気を抱え込んでいる。
静かに消えていこうとしている。
「…なんだか、変わったね。ラルク君」
「アンタもね。
風のうわさでよく聞くよ。
殺し屋に転職したんだっけ?
最近は音沙汰も無しだったけど、2年前まではよく悪い噂を耳にしてたよ」
ジョンが言う噂、情報源は、意外も意外。なんとブルーベアだった。
噂程度の話をジョンに話す理由こそ無い気もするのだが、ブルーベアはジョンの過去を知っていた。
それはジョンが簡潔に語ったから。ジョンはブルーベアを信頼していたから。
だからブルーベアも竜舌蘭の些細な情報を話さない理由は特に無かった。
時々入ってくる竜舌蘭の情報を、時々ジョンに教えてあげていた。
ジョンはジョンで竜舌蘭の事を積極的に調べようとはしていなかったから、せめてもと教えてくれていた。
ジョンも話を聞く時は非常にどうでも良さげに受け答えしていたのだが、
残念ながら、無視出来る内容ではなかった。
きっと不愉快だっただろう。
「ご名答テキーラ。
私は殺し屋。間違いないよ。
でも本質的には、今の君のように、苦しむ人達を守るため、そして、自然を守るため、世界を、地球を護るため、何でもする何でも屋……かな?」
「そりゃまた……。
まんまそんな感じの目的持ってる俺達の何でも屋とは、随分と違ったもんだな。
誰かを助ける為に精一杯戦って、出来うる限り死人を出さないよう尽力して。
毎日喫茶店ブルーベアでのんびりして、毎度面倒事に巻き込まれて……」
ジョンがここまで自らの事を語るのは、とても珍しい事だった。
少なくともオイヨイヨやミアには見せたことのないジョンである。
社長だってこんなジョンは見た事すらないだろう。
ブルーベアですらこんなジョンは滅多に見た事がない程である。
だがジョンも滑稽に思えたのか、ここで口を閉じる。
いいや、語るだけ無駄と悟ったのだ。
数秒の沈黙の後、竜舌蘭が代わりに口を開く。
「ねえ、ラルク君。
私と一緒に来て?」
「…なんでさ」
勧誘。間違いなく。
しかしジョンは乗り気な返事ではなく。
「こんな世界じゃ、貴方はまた人を殺すかもしれない。
こんな世界じゃ、貴方はどんどん黒くなるかもしれない。
今までのような悲劇が永遠に続くかもしれない。
ねえラルク君。
誰かが不幸になって、誰かが傷ついてしまうこんな世界が、今の世界が、正しい形だって思う?
こんなちっぽけで粗雑で杜撰な世界、貴方が守るに値する世界だって、今も思ってる?」
「…俺、馬鹿だから分からないな。もっと簡単に……」
「そんなわけ無いよね。
君はとっても頭がいいもの。
機転が利くし、理解力もケタ違い。
記憶力も、その所有する能力もケタ違い。
だから世界の良い一面も悪い一面も知っていて。
だから良い一面を維持する為に悪い一面も必要だって知っている筈。
でも必要悪なんて言葉以上の悪がこの世界に跋扈している事も理解できている筈。
そして貴方はそれら全てを取っ払う事が不可能に近い、もしくは不可能だという事も本当は知っている筈。
同時に貴方はそんな現実が正しくない事も理解できていて、葛藤していて、迷っていて、辛い思いも悲しい思いも沢山している筈。
私以上に世界を見えている筈の貴方が、私の言っている事を理解出来ないなんて事、絶対にあり得ないよ」
そう長々と言いながら、彼女がジョンに身を寄せようとするも、その媚びるような態度が気に食わなかったのか、身を寄せるその寸前、ジョンは竜舌蘭の肩を押した。押し返した。
竜舌蘭はふらふらと数歩下がるも、その表情は怪しく微笑んだまま。
ずっとずっと、怪しく微笑んだまま。
やっぱり、痩せていた。
ここでジョンはこう言う。
「テキーラって言わなくなったな、あんた」
やんわりと拒絶感を伝える。
だが直接的に言うより、冷たい一言となっていた。
「そんな事ないテキーラよ?
でも今は真面目な話をしてるの」
「竜舌蘭……か。
名ばかりだな、あんた」
「竜舌蘭だったのは、昔の話テキーラよ」
更に言う。
ジョンは言う。
遠慮無く。容赦無く。
彼女の先ほどの身を寄せるという行動に、随分腹を立てたのかもしれない。
否。それ以上に、見ていられないくらいに弱々しい彼女に、本気で腹を立てているのだろう。
「悪いけどそのお誘いはパス。
俺、守るよ。この世界を」
「……」
「聞こえなかったか?
俺は、守るって言ってるんだ。
シンプルな方がわかりやすくて好きだからな」
「…何故そうなるの。
たくさん死ぬのよ。皆、たくさん死ぬ。
このままじゃ戦争がまた巻き起こっちゃう。
人も沢山死んで、自然も沢山失っちゃう。
なのになんで変えようとしないの。
貴方は根っから人殺しなの?
それがラルク君の、美徳ってやつなの?
私達だって世界を救おうって、護ろうって話してるのに……。
本気なのにッ!」
「これは前にも言ったと思うけどさ」
ジョンは少し頭を掻いて、ため息を吐く。
呆れて物も言えない、とそう言いたいかのような態度。
そんな悪態には竜舌蘭も多少表情を歪めざるを得なかった。
しかしジョンは一切気にしない。
今までだってそう。
誰かに気兼ねしたり、誰かに遠慮したり。
ジョンはそんな面倒くさい事、滅多にやらない。
自分の信じる正義を絶対に曲げる事がない。
それはきっと強さだろう。
間違いだとか正解だとか、そんな事は無関係に。
「俺は間違った事なんか言ってないよ。
間違った事だってやっちゃいない。
今も昔も、これからもね」
「ふざけないで。
言い訳してるだけじゃない……。
貴方はそんなに自分の命が大事?
沢山奪っておいて、どうしてそんな事が言えるの?
どうかしてるよラルク君。どうにかなっちゃってるよ……ラルク君…」
「いいじゃないか。
世界がどうなろうが知ったことじゃないよ俺は。
ただね」
今は武器を全部フル装備しているジョン。
一度家に寄ってからここにやって来たのだろう。
武装する意味とは。
勿論、戦闘を予期していたのだ。
最初から竜舌蘭と戦う気だったのだ。
竜舌蘭が何を言うかも分かっていて、それに対してジョンがどういう風に返すのかも分かり切っていて。
交渉決裂。
次に起こるのは戦闘。
予想出来ないワケもなく。
ジョンはそれなりに大きな一本の剣を抜き取り、竜舌蘭、彼女へ向ける。
攻撃の意思。敵対意思の表明。
決して味方に対してやっていい行為では無い。
これにて、敵対者として成立した。完璧に。
「仲間を守る。ただそれだけの事だよ。
俺の場合はちょっと不器用だってだけだ」
「…それが…」
「…ん?」
「貴方の導き出した、答えなんだね……」
「そうだ」
「…前言撤回。
やっぱラルク君は、変わらないね。素敵だね。
でもね、敵は敵なんだと思うよ」
構えられた武器を睨みながらも、廃ビルの方へ歩く竜舌蘭。
ジョンも、分かっていたことだった。
全て承知でここに来た。
覚悟も充分。もう必要は無い。
彼女は変わった。変わってしまった。
闇の世界にに足を踏み入れてしまった。
元々闇の世界だったのではないか、と言われるのであれば、更に闇へ。深淵へ。その方角へ更に進んだ先だと答えよう。
今までが外道の道だとするならば、今は下衆の道へ。
修羅の道だというのなら、今は煉獄への道へ。
見損なった。
もうここに竜舌蘭は居ない。
竜舌蘭と呼ばれていた誰かさんが目の前に居るだけだ。
「あんたはめっきり変わっちまったな。
薄汚れた。汚くなった。
泥をすすって生きながらえて、痩せこけた泥人形だ。
あんたが抱えていた筈の美しさを、全部闇の中に捨ててきやがった。
竜舌蘭は毒に侵されたってか?
違うね。
環境に適応出来ない弱い草が竜舌蘭の真似事して、腐っちまっただけだ。
だから…」
「なははw
なんか面白い事になってるじゃねーかww
俺も混ぜてくれよww」
「…オイヨーヨ、悪いけどお前をここで倒す」
「ごめんちょっとまってどんな展開になっちまってんだよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
空気読まず出てきたオイヨイヨに武器を構えるジョン。
決して味方に対してやっていい行為では無い。
もう一度言っとこう。
決して味方に対してやっていい行為では無い。
「…仲間になってくれるって事テキーラ?」
そんな言葉にハッとするジョンは、竜舌蘭へ武器を構え直す。
「冗談だ」
「冗談にしても事態飲み込めない俺にとっては心臓バクバクもんだっつーのwwwwwwwwwwwwwwwwww
つーか今イラッと来ただけで俺に武器構えただろクソ馬鹿野郎wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
今のはオイヨイヨが悪い。決定。
ともあれオイヨイヨの空気読まない登場により、事態は意味不明な方向へ進んで行こうとしている。
かのようにも思えるけども、結果あまり変わっていないような気もする。
要するにこれもまた、いつもどおりである。
……問題は、廃ビルから出てくる大量のモブ……もとい、真っ黒いアーミーコートを羽織った敵達である。
武装は以前に戦ったフライパンケーキと大差はないようにも見える。
多少武器が新しかったりもするが、統一性が無い、ように見えてあるか。
FA-MAS、と言って伝わるだろうか。
口径が5.56mm、ブルパップ方式のアサルトライフル。
全員が全員装備しているワケでもなさそうだが、概ね標準装備の扱いらしかった。
他の武装は自由奔放でアレだが、しかしよほど訓練された部隊のようで、気配を探る限りでも20名以上居るのも確認出来た。
銃器に拘った部隊は当然、強い。
それに加えて訓練もされているとあらば、本当に強い。
パンケーキで戦った時とは比べ物にならない程、苦戦を強いられるだろう。
そして場所も悪い。
ジョン達はこの廃ビルの内部構造を知らない。
この近辺の状況も知らない。
それどころかこれ程に自然に侵食されているとなると、数で優っている相手には待ち伏せや奇襲もやりやすいだろう。
こんな場所でゲリラ戦をされてしまうのは、厄介を通り越して脅威。
「オイヨーヨ、殺すなよな」
「わーってるよwww
だがこの人数は骨が折れるぜ?www」
二人はやる気満々ではあるが、殺さない縛りとなると、流石にオイヨイヨもジョンも厳しい所がある。
今までだってそうだった。
奇跡的な確率と天才的センスにより今まで回避出来てきただけの事。いつまでもそうあれる保証もなく、確証もなく。
当然、今回もそれを平気でやりかねない彼らであるのだが。
「…皆、そいつら殺して」
竜舌蘭はそう言い放ち、そのまま廃ビルへと消える。
それと同時に数名の兵士達がアサルトライフルを構えた。
「腐ったか竜舌蘭!!!!」
「リュウゼツラン!?www
噂に名高い殺し屋のか!?www
にしては小物臭するぜあいつwwww」
「っくそ…、一発ぶん殴らなきゃ気が済まねえ…」
「…ww」
銃なりナイフなり何なり種類豊富に持った兵士達が襲い来る中、それでも的確な対処の元、時々予想もしないような型破りをやってのけつつ、ジョンとオイヨイヨは進んでいく。
敵の数は鬼島の従えていたフライパンケーキと比べれば数少ない物。それが幸い。
なかなか竜舌蘭に追いつけないとはいえ、決して引き剥がされることもなく。
それも竜舌蘭が随分のんびり歩いている故に成立している現状ではあるのだが。
「おい竜舌蘭!!!」
「止まれよ!!www」
階段だろうが廊下だろうが、頑なに歩き続ける竜舌蘭。どんどん上へ、上へ。
その度執拗なまでの待ち伏せ戦法を受けつつ、どうにか進むジョンとオイヨイヨ。
そのうち広い場所に出る。
もともとは会議室か、ホールか。
とにかく広い場所で、椅子と机を並べても余裕で100名は集められそうな場所。
気になるのは、セメント作りである所。そして、老朽化がどうしようもなく進んでいる事。
そしてここに似たような場所、第三話あたりで見たことがあるような気がする事、である。
「っち…、このパターン前回でもあったぞw」
「…中ボスって所だな!?」
前回はこんな感じの場所でバルカン砲の武藤が出てきて行く手を塞いでくれたのだった。
こんな風に前回をぶり返す言い方をしていたら当然、フラグが立つわけで。
ちなみにフラグは建てる物であって、立てるという言い方は厳密には間違いなのだ(、というのも、一級フラグ建築士という言葉を見てもらえれば分かる通り、建築しているからである)が、昨今ではもうどっちでもいいと作者は思う今日この頃。
「中ボスとは言うねぇ~。
俺ぁそんなタマじゃあねぇ~よ~?」
急に馴れ馴れしそうで鬱陶しそうなのがポップしてきたが、ともかく。
姿を現せた存在は、忍者のような姿をした男だった。
天井にでも張り付いてスタンバイしていたのか、上から降ってきたようにも見えた。
ごめん俺が表現を選ばなかった所為で一気にお前の登場がダサく見えるようになっちゃったごめんな。
その男の隣に移動し、こちらを蔑むように眺めるのは竜舌蘭。
今度は逃げ出さないようだ。
「竜ちゃんよぉ~、アイツらが例の~?」
「そうよ、百足侍」
「忍者じゃねーの!!??wwwwwwwwwwwww」
百足と書いて、ムカデと読む。
滅茶苦茶忍者の格好をしているのだが、額当てみたいな物にはしっかり「侍」と印字(?)されている。
「そっか~。な~んかパッとしね~なぁ、噂の死神ラルクってのもよぉ?
さぁ~て、ムカデザムライの由来をよぉ~、魂に刻みこむよ~に、教えてやるぜぇ~?」
「なんかバルカン砲の武藤の30倍はウゼェなコイツwwwwwww
見た目だけなら武藤より強そうに見えるけどよwwwwwwwwww
忍者効果ってすげーわマジでwwwwwwwww」
「頼んだわよ。私は行くね」
竜舌蘭はそう言い放つと、そのまま更に上を目指し始める。
ただその話をする気だけだったようだ。
竜舌蘭は止まらない。
「おい!!竜舌蘭!!!」
「ジョン!それどころじゃねーぞ!!w
あ、ほれ、これwwww」
「なんだよこんな時に!!!」
何やら大忙しな主人公達をよそに、百足侍は勢いよく何かを投げてくる。
それは明らかにクナイ。二つ名がサムライとは思えないくらい、完全に忍者な道具である。
だがただのクナイではない。目の錯覚かと勘違いしそうにもなるくらいの代物ではあるが、細い細い鋼鉄線が備え付けられているようである。
随分特殊なギミックでもあるのか、長さも調節可能らしい。
ジョン達に対してそれは投じられず、壁に、床にと突き刺さったかと思えば、鋼鉄線はピンと張られる。
蜘蛛の巣とするには粗悪な感じだが、しかし張り巡らされたそれは、蜘蛛の巣に似ていなくもない。
「…ワイヤー……、っち、そういえばそうだったな」
オイヨイヨもワイヤーの存在に気がついたが、遅過ぎだった。
「オイヨーヨ!!」
「わーってるよ!!!!」
時すでに遅し。
そのワイヤーがあたり一面に張り回されて終わっている。
しかもその全てが、百足侍とかいう男の日本刀に繋がっていた。
オイヨイヨもジョンも感覚だけで全て把握する。
そのワイヤーの数はぴったり100本。
これが百足侍の由来で間違いないだろう。
問題は、百足侍の戦闘スタイルをこの主人公達は全く知らない事。
百足侍は無名というワケではないのだが、しかし知らなかった。
それは無音の暗殺者、幻影殺しのブルーベアとほぼ同じ理由だろう。
相手をほぼ抹殺し続けてきている上で、恐らく、これほどの大技は使用回数を制限しているのだ。
必殺性を保つ上で、誰にも知られていないという事実は、とんでもない有効性を実現する。
それこそがゲームなどでよく言われる、初見殺し。
本当の意味で命を断つに足りうるとあらば、冗談ではない。
現状で攻撃を予測するならば、ワイヤーの伸びる限りの広範囲、今の現状ならば部屋全体に対して、強力な魔法を放つ事……、くらいだが、自信満々な百足侍の表情を見るに、その程度ではないのだろう。
もっと厄介で、もっと強烈で強力で凶悪な、そういう攻撃がやってくると見るべき。
「逃げれねぇ~よぉ。
喰らいな~?
『100にも満たない超微振動』」
「100本ぜんぶ震わせろよwwwwwwwwwwwwww
つか超がつくほど微振動に何の意味があんだよwwwwwwwwwwwwwww」
大爆笑してる場合かお前。
「オイヨイヨ!!!」
「wwwwwwwwww…っがは……っ!?」
ハッキリを言って、オイヨイヨには全く理解できなかった。
気がつけば内蔵が揺らされるような感覚を覚え、そして嘔吐していた。
寧ろ嘔吐した事さえ遅れて気がついたくらいだった。
草生やしてる場合ではなくなっていた。
だがジョンは駆け寄る事さえしなかった。
元より駆け寄るような真似をしでかす程に愚かではないのだが、それ以前に、現在彼らは非常に動きにくくなってしまっている。
オイヨイヨに近づくにしても、ワイヤーが非常に邪魔。
それどころか現在も振動による何かは効果継続中の可能性が高い。
下手に動くと二の舞いを受けるだろう。
「100にも満たないってのはそーだろ~よぉ。
この100の内どれかは敵に当たるんだからぁよぉ?振動吸収されるわなぁ~?
つーかぁ、超微振動ってどういう意味か分かるかぁ?
微振動ってのは少しの振動だけどよぉ、
その振動がどれだけ脳みそ揺らして、どれだけ体の信号乱して、どれだけ内蔵揺らすか知ってるかぁ?」
「……物体を介する為に、音速よりもずっと速く相手に振動を伝える事が可能、ということか。
だが超微振動ってのは語弊だろ。
そんな軽い振動程度じゃ脳震盪も起こせやしない筈だ。
ワイヤーの振動程度で内蔵を揺らすなんてとてもじゃないけど不可能だろう。
でも魔法じゃ無さそうだ。スキル技とも違う。
なら今のは、アーティファクトか、ワイヤーに事前に何かを付加していたか」
まあ微振動で脳みそ揺らせるなら、携帯電話のバイブ機能程度の事で人がぶっ倒れまくる事故が多発してるよね。あり得ないよね普通。
「悪いがぁ~、スキルだぜ~?」
「…そりゃ凄い」
いや何悠長に話してんの?
オイヨイヨ横で悶え苦しんでるんですけど?
作者がのんびり解説してるのは作者都合なだけで、お前らはリアルタイムだろ?
「…ぇ…うぇ……、くっそ…」
「よし。オイヨイヨ、ここは任せた」
「全然任せていいタイミングじゃねえだろーがwwwwwwwwwおげぇぇえぇぇぇwwwwwwwwwww」
ジョンはそんな悲痛な叫びすら無視し、ワイヤーを起用に避けて突破。奥に突っ込んでいく。
そのまま階段を駆け上がり、オイヨイヨの視界からは消える。
すぐに聞こえてくる発砲音。銃撃戦。百足侍を避けて進めたにも関わらず、ジョンはジョンでこれから大忙しか。
いいや、違うか。
単独行動の方がお互いによっぽどやりやすいだとか何だとか、3話くらいでオイヨイヨが皮肉めいて言っていたのだった。
ともかく。
オイヨイヨは口を拭いながら、そしてグラつきながらも立ち上がる。
百足侍………。
これ(タイピングの都合的な意味で)長いので、ここからは彼の事を百足と略して呼ぶ事としようか。
その百足はこれまた奇妙な笑みを浮かべながら、器用にワイヤーの上へ移動した後、びっくりするくらいの長さの刀を構える。
対してオイヨイヨも、絶妙に力強く笑っていた。
オイヨイヨの場合は、単なる強がりだと思われるが。
「…百足侍の戦法っつったら、聞いたこと…あるぜ…w」
「おぉ~、知ってんのぉ~?それともぉ……、現状を見てからの当てずっぽうで言ってんのかよ~い?」
「自由自在にお前は動ける…、そんな風に聞いてる…w
口封じは殆ど成功してるって話だな…w
ロクにテメェの情報出回ってねえもんな…。
“同僚だった俺”ですらお前の事はよく知らねえくらいだ……。
通称が『100本足の忍者侍』ったら、そら今や相当な殺し屋だwww
仲間からすらそう言われるってだけの数少ない不確かな情報wwww
そりゃそうだよなwwwwwwww
知ってるのは味方だけwwwwwwwwwwwwww
だが、その本質を見たら殺されるwwwwwwwwwwwwwwwww
だから確実に通称でしか名前は出てこねえんだろwwwwwwwwwwwwwwwwwww
俺も今日初めて知ったぜ、お前の通り名の由来はよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
きっとムカデも、「草どんどん増えてるなんかウゼェ」とか思っている筈である。
ちなみに百足は、確かに元猟団である。
こちらもまた数年前、オイヨイヨとほぼ同時期に仕事を辞めている。
そしてこれまた奇遇というか。オイヨイヨと同じく幹部であった男だった。
しかし無印猟団という組織は他組織とは一風変わった形態を取っており、同じ幹部であってさえ馴れ合う事はまず無く、共闘戦線も非常に稀。
また幹部故に数多くの幹部補佐やら部隊長やら色々な部下や権限を持っているにも関わらず、その部下とも連携が取れている方が珍しい。
つまるところ、名目上の上下関係と所属が存在しているだけであって、基本は1名~10名程度の編成で成り立ち、しかし所属も階級も基本関係なく仕事を請け負い任務を遂行する、そういった形式。
無印猟団のフットワークの軽さはここから来ているし、ギャングと揶揄されるだけある杜撰な管理体制なのだ。
それ故、オイヨイヨは百足侍を、百足侍はオイヨイヨの能力や戦闘方法、それは愚か人柄すらもロクに把握できていないのである。
「…はっはっはははは、俺も今日、てめ~の由来を知る事になるのかねぇ~?」
オイヨイヨはようやくに構える。
両手に計8本のスローイングナイフ。
力強く構えるのだが、そんな様に百足は大笑い。
「甘いんじゃぁな~いかあ!?
100のワイヤー、1の刀に対してそんなぁチンケなナイフ10本以下でなぁ~にが出来るってんだよぉ!!!!!」
百足が舞い上がる。気分的にも、物理的にも。
それに合わせてワイヤーも大きく揺れる。
これすら攻撃の可能性があるので、下手にオイヨイヨは移動できなかった。
だがそんな事すら些細な出来事。
「っはあ!!!?www」
百足は跳躍した後、よくわからない剣かナイフかを天井に突き刺した。それと同時にワイヤーを器用に張り切る。長さ調節可能なだけあって、便利な代物といえるだろう。
しかもそれだけではなかった。
更にワイヤーを吐き出すように拡散、そのまま地面へも新しく剣かナイフかを突き立て、ワイヤーをピンと張る。張り巡らせる。
そして百足は鞘を投げ捨てるようにしながら、抜刀。
小細工も何もない長刀。
だがしかしその長さ、なんと実に2mにも及ぶ代物だった。
これ以上無くワイヤーを張り巡らせた場所では振るうのも容易くない筈だが、しかしそれで戦う気という事は。
咄嗟にオイヨイヨはナイフを投げつけたが、半数はワイヤーに弾かれ、更には残りさえ交わされる。随分容易に避けらてしまう。
とんでもない話だが、曲芸士も拍手を送るくらいに器用なワイヤー移動をやってのける百足。
いいや、それどころか、凄い高速での移動も開始している。曲芸士も顔真っ青だろう多分。少なくとも人間業ではない。
「ばぁ~か!!
ムカデの足は50本くらいしかねえんだよぉ~!?
ならなんでムカデは百の足って書くか分かるかぁ!??」
「いきなりなんだよ知るかよ馬鹿野郎!!ww」
「たくさんありゃあとりあえず100なんだよぉ!!!!!」
「……っけ、笑えねえ。冗談は夢の中で言ってろ」
オイヨイヨはワイヤーの一本を握りしめ、強力な電圧をかける。
しかしそれが一切の意味を成さないのをオイヨイヨが一番良く分かった。
分かったも何も、やってみた所、一切の電流が通らなかったのだ。
原因は不明だったが、不発。意趣返しは呆気無く失敗に終わった。
「うぉっ!!」
突然に振動し始めるワイヤーをオイヨイヨは急ぎ手を離すが、ズッパリと切れてしまっていた。
大量の血がドバドバと地面へ落ちる。
どうやら百足、あの長い刀を使って上手く振動させてくれたようである。
先ほどからオイヨイヨの行動殆どが裏目に出ている。
しかし手際よく一瞬で止血するのがオイヨイヨ。
異常なまでの判断力。異常なまでの行動力。
脊髄反射の如きその応急処置は的確であり正確。
応急処置を1秒で終わらせているので、決して作者、大袈裟に言ってない。
だが事態は悪化していく。
この場所は今、相手に有利な環境にも程がある。
これを打開するには、上下に固定されたナイフかを取り外すくらいの事をしなくてはならないが。
「ひゃぁ~っひゃあああああ!!!!」
「うるせぇよぉ!!ww」
オイヨイヨは強がるのだが、無意味。というよりは無慈悲。
百足は恐ろしい速度でワイヤーを縦横無尽に移動。
そのトリッキーさだけを見れば、ジョンを相手にするよりもやりにくいだろう。
おかげで上下固定された部分を攻撃するのは非常に困難。
ワイヤーもかなり強固。ナイフを押し当てたくらいでは切断は難しい。
しかもかなりの長さで張り巡らせているが為に、ナイフを押し当ててもグワングワンと揺れ動いてくれて力が伝わりきらない。それどころかかえって振動させてしまって、より危なっかしい。
一方、軽やかに動きまわる百足はオイヨイヨを切り刻んでいく。
まるでなぶり殺し。
斬られるまま。
相手に合わせるように攻撃しても、交わされる。
そもそも武器のリーチ差が大きすぎるのだ。
ナイフで長刀を相手に出来るワケもない。
「どーしたどうしたどうしたどうしたどうしたどうしたぁああああ!!!!」
「…っ」
オイヨイヨは接近戦を断念。すぐさま雷をあたり一面に撒き散らす。
しかしこれも当たらない。半ば不発も同然の結果が現れる。
雷は一瞬で地面と天井へ刺さるソレへと吸い込まれるように直進。
剣なのかナイフなのか定かではないソレに何かしらの能力があるのか、それともそういう風に魔法でも込められているのか。あるいは両方か。避雷針的な役割を担っているのは間違いない。
本来ならばジョン対策の武装だろう。当然、ジョンの仕事仲間であるオイヨイヨの介入も、ある程度予測されていたと思うが、全然関係ない事でオイヨイヨ、被害合いすぎである。
「ばぁ~か!!
テメェの能力はぁ氷だろうよぉ!!?ニブルヘイムぅ!!!!!」
「言ってんじゃ…うぉっ…!!」
オイヨイヨが膝をつく。
猛攻は鋭い。
しかし傷は案外浅い。
これは、恐らく意図してやられているのだ。
百足の名前が名前でしか知られていない事を考えれば、分かる通り、無力化されている相手ただ一人を瞬殺するなど造作もない筈。本当ならばオイヨイヨは既に死んでいる筈。
引き出したいのだ。オイヨイヨの本質を。
それだけの為に致命傷を避け、戦闘に支障の出ない程度に痛めつけているのだ。
それが裏目に出るか、吉と出るか。
「どーしたよぉ!!!
テメェ腐っちまったかぁ!!?
“昔のお前”はもっと氷のように冷徹だったぞ!!!」
「…るせぇ」
「お…?」
「…凍りつかせてやる…」
「へはははへへへへ!!!」
突如、辺りが凍りつき始める。
彼の付近のワイヤーは砕け散り、それどころか、地面に刺さっていたソレすら砕け散った。
やはりこの能力は少々常軌を逸している。
一気に現状打開を可能とする上で、一方的となり得る。
しかし一切おじけづかないのが百足だった。
そのまま大きく後ろに下がり、長刀を大きく振りかざす。
そしてその長刀に、炎が宿るのだ。燃え盛り始めた。
対するオイヨイヨは今だに腰を下ろしたままだったが、片手を前に突き出し、指を少し動かしている。何かしらの能力を使っているのだ。
その双眸、誰が見ても凍りつくような鋭さと冷たさを持っている。
3話ではバルカン砲の武藤、この技に為す術もなくやられてしまっていた。
流石に百足、これでは不利なのではないだろうか。
そうも思うのだが、百足はそう思っていなさそうである。
「そんなマッチみてーな炎程度で、この俺の氷の息吹を抑えられると思ってんのか!!?」
「そぉれだよそれぇ~!!!
やっぱ本気出さなきゃなぁ!!!
薄皮斬り続けてやってたのはこれの為よなぁ!!!
来いよ!!どっちが優秀か決定戦やっちまおうぜぇ!!?
非情冷徹!!有象無象を氷結する、“悪魔の申し子ニブルヘイム”ぅ!!!!」
「うっせえんだよ!!
テメェも見ない間に随分腐りオチちまったどころか!!
知性という名の鎖さえ引きちぎっちまったようだな!?
やってやるぜ!!!100本足の百足侍!!!
あと言わせろやあ!!!!」
「言ってみろよぉ~!!?」
「女ってのは足多い生き物は嫌いだからなぁ!!!
お前絶対モテないだろwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「てんめぇにだけは言われたくねぇよぉ~!!!」
この局面でいつも通りの台詞言えるお前も本当凄いと思うわ。
何が非情冷徹だよ。ギャグだよ。
「引け」
しかし唐突に現れた男が、何もかもをかき乱した。
闘争心、殺意はおろか、ボケとツッコミ、モテるモテない云々の話題さえも。
それは唐突に現れた。
オイヨイヨにも理解出来ない登場だった。
確かにオイヨイヨと百足は対面していた。
お互いがお互いに睨み合う形だった。
にも関わらず、気がついたらその間に、その男が立っていたのだ。
身長は180cmを優に超え、真っ黒のコートを羽織り、真っ黒のYシャツ、真っ黒のスーツパンツ、真っ黒の革靴という、黒尽くめ。
ボサボサの赤くて少々長い髪。多少なり蓄えられた無精髭。目線だけで人を殺してしまいそうなくらい、鋭い三白眼。
左頬に、蛇なのか竜なのか、随分抽象的に描かれた赤の刺青。
オーラが違っていた。
オイヨイヨがそう思う程には、何かが違っていた。
まるでこの世の者ではないかのような、しかしそう思うには充分過ぎるだけの異質感。
少なくとも明らかに普通ではないだろう。そして常人ですらあるまい。言うまでもないとは思うが。
「…紅蛇の大将~、なんでここにぃ~?」
「…紅蛇?ww
冗談だろwwwwww」
あれほど楽しげに笑ってた百足も笑みを一切消し去り、武器を少し下げている。
オイヨイヨはというと、それこそ喫茶店のテンションに戻りきってしまっていた。
緊張感ゼロな主人公も、ここまで来ると芸術的である。
「冗談ではない。
俺は紅蛇だ。
血に染まり、血を吸い、紅く染まった愚かな蛇だ」
「へえwww
今初めて実物のアンタを見たけどよwwww
蛇ってタマかよてめえwwwwwww」
少なくとも並大抵の存在でない事くらい、オイヨイヨにも分かった。
故に戦意が失せたのも百足と同じだった。
勝てるか否か。
本気を出して、勝てるか否か。
奥底が見えない悪感。無限螺旋。
メビウスの輪を思わせる。
それほどに、威圧は尋常ではない。
「しっかし大将ぉ~、今いい~所なのに~ぃ」
「次に取っておけ。いずれ奴らも介入するだろう。
お前には今から別の事をしてもらう」
「…ま、いいぜぇ。
せっかくだがぁ、その命令様を優先してやら~よ大将ぉ」
「俺スルーすんなやwwwwwww
殺されてえのかよテメェwwwwwww」
紅蛇は笑わない。
オイヨイヨ、眼中にすら無いらしい
無表情のまま、こう言い放つ。
「竜舌蘭を、今すぐに殺せ」
「…おいおいw
それ聞いて安心したぜwww
行かせるワケねえだろーがよww」
「俺が貴様の遊び相手だ。
だが安心するといい。
貴様がここで死ぬ事は無い。
今は祈りを捧げる必要は無い」
「舐めてんじゃww
……なッ!?」
爆発音。強烈な爆発音。
遅れて強い振動。上からパラパラといろいろな物が落ちてくる。
オイヨイヨは上を見て、唖然。
上にはジョンが、竜舌蘭が居る。居るはずなのだ。
「大将ぉ、悪いがもう終わってる筈だ。
手は打って終わっちまってんだよな~ぁこれがよ~?
気になるってんならぁ、大将だけで行きなぁ?
俺ぁ帰ってるぜぇ」
「……様子見はさせてもらう」
「…じゃあ仕方ねえww
てめーをぶっ殺して、とっととトコトコ先に進ませてもらうぜえ!!?」
横を当たり前のように素通りする百足を無視してオイヨイヨは構える。
これに対しても紅蛇は特にリアクションは無し。
しかしその双眸は確かにオイヨイヨに向けられていた。
オイヨイヨの頬に、汗が伝う。
***
爆発音の少し前の事。
怪我をしながらもどうにか竜舌蘭に追いついたジョンは、しかし殆ど満身創痍状態だった。
場所は最上階。最終決戦の場所としては、前回の二番煎じ感はあるが。
しかし罠も特に無し。
遮蔽物もビルの柱くらい。
兵隊は一人とおらず、そこには竜舌蘭とジョンだけが居るだけだった。
そういう意味では竜舌蘭、ラスボスとしてのカリスマが薄いか。
鬼島の方がよっぽど利口だった。
元より竜舌蘭は、ボスに向いたキャラでは無いだろう。
たかが知れているし、これから先に起こる結末は、読者が予想している通りで間違いあるまい。
「追いついたぜ、竜舌蘭……!」
「……ラルク君、来ちゃったんだね。
何故死にに来るの?
どうして死にに来るの?」
「話くらい最後まで聞けよ竜舌蘭!
俺は俺のルールで生きてんだよ!!」
人の話を聞いてないのはジョンも同じな気もする。
だがどっちもどっち、とは言いたくはない。
ジョンは竜舌蘭の言っている意味こそ理解しているだろうから。
「…馬鹿ね貴方…。馬鹿ね……」
「あー!!オイヨイヨみたいな事言うんじゃねえよ!ムカつく!!
アンタ本気で変わりやがったなあ!!
こういう言葉は知ってるか!!?
あのな!馬鹿って言う奴が一番に馬鹿なんだよ!!!」
ジョンが剣を抜き取り、しかし何故かその辺に投げ捨てる。あろうことか全て。
その様に呆れて息を吐くのは竜舌蘭。
だが当然だろう。ここに来て武器を放棄して、説得でもする気なのかと。
愚の骨頂。
無謀としか形容できない。
だがこれは見事なブーメランでもある。
これこそが昔の竜舌蘭が理想とした形なのだから。
彼女は銃を取り出す。
Cz85。自動式拳銃。
これはチェコで開発された有名な銃。左利きや右利きを問わない、Cz75のモデルの一つとして量産された物。
ただし致命的な欠陥が指摘されるモデルでもある。
それを二丁。左右に持ってはそれを一瞬で構え、撃つ。一切の遠慮と躊躇いは存在しなかった。
しかしジョンはそれをなんと避ける。
一応補足するが、弾丸より速く交わしたワケではなく、弾道を予測して事前に回避行動に出ていたのである。
挙句、竜舌蘭に高速で接近。そのまま押し倒してしまう。
随分乱暴なやり方ではあったが、腕もしっかり押さえつけられており、竜舌蘭は早速何もできなくなっていた。
結局、ジョンは最初から戦う気などなかったのだ。
故に武器を全部捨てて身軽になり、最も最短経路かつ最高のタイミングで突っ込んで、相手を無力化させる方法を取ったのである。
武器を捨てるという一見愚かな行動を見せつける事で竜舌蘭も油断。それが竜舌蘭にとっての致命的な隙にもなったとも言える。
「竜舌蘭!!」
「っ!!離して!!!」
抵抗は一切無意味。腕力さは歴然だった。
なんか、若干エロい様にも見えなくはないが、ジョンにそんな気は一切無い。
あったら俺が許さん粛清する。
「腐りやがって!!腐り切りやがって!!
テメェは性根が腐ったワケじゃあねえよ!!
もっと肝心な部分腐ってるんだ!!!」
「うるさい!!全てから逃げた貴方に何が分かるの!!!」
「何を言ってんだ!!
逃げたのはお前だけじゃねーか!!」
「ふざけないで!!私は立ち向かった!!
あの世界に私の理想はなかった!!
私の理想は!!あんな所では絶対に達成出来ない!!
私は立ち向かったのよ!!!」
「何が立ち向かっただ!!
色々捨てて来たくせに偉そう言ってんじゃねえよ!!!」
「…私は!」
「腐っちまったよお前は!!!」
「私は間違ってなんかいない!!!!」
ジョンは一気に顔と顔の距離を縮める。
さすがの竜舌蘭もそこまでされると顔を赤らめ、口を強く結ぶ。変に身も固まってしまった。
それでもお互いに、睨み合いこそやめなかったが。
「魂まで腐って堕ちたかよ、竜舌蘭……」
「……」
そんな一言に竜舌蘭の表情は、睨んでいるという言葉では括れないものへと変化した。
様々な感情が含まれた、様々な想いが、表に出てきてしまっているそんな顔である。
変化の兆しは、「色々捨てて来たくせに」と言われた段階からあった。
というよりは、それを言われてここまで追い詰められてしまったと、そう言った方が正しいかも知れない。
何を捨ててきたのだろうか。
とか謎のミステリアス感出してもいいが、もうお分かりかとは思われる。
あの日に何を捨ててしまったのかは、ご存知の通りだ。他に何もない。何でもない。
そしてそれ以降、彼女の日々は痛烈なまでに悪化しただろう。どうしようもないくらいに悪化してしまったに違いあるまい。
捨てた所為で、より苦難が増しただけに終わり、そして、絶望しただろう。
きっと後悔しながら生きてきただろう。今の今まで。
だが止まれなくなっているのだ。ここまで来たからには。
後戻りするには遅過ぎたのだ。
でもジョンはまだまだ言葉を続ける。
口を強く結んで何も言えなくなっている竜舌蘭に、追い打ちをかける。
止まる気がないのは竜舌蘭だけではない。ジョンも同じだった。
「アンタは和解を望み、平和を望んでた。
確かに、アンタのそんな甘えた考え方と理念は、俺も絶対に実現不可能だと思ってた。理想論でしかないって思ってた。
だけどそれでもアンタの正義は確かにまっすぐだったよ。
まっすぐ伸びて立派に育って、木の実ってのを沢山つけてる、……うん、オレンジの木みたいに……。
俺、俺にはそんなの無かったよ。
今だって、昔だって、そんなたいそれた代物、持てた試しなんてないよ。
あんだけ立派で美味しいオレンジを作れてしまえる立派な木、今まで、他所でも見たことはない。
でも俺だって、そんな大きくて暖かい、んでもって美味いオレンジ作れる木を夢見て、希望を抱いて俺だってそれなりに頑張ってここまで来てたんだよ……。
竜舌蘭、お前は魂を、正義を、どこにおいてきちまったよ。
その辺のゴミ箱に、捨ててきたのか……?」
言った瞬間だった。
急にジョンと竜舌蘭の居るフロアの柱が、爆発した。
相当に高火力の爆発。断続的に爆発。連鎖。
無論それに気がついて顔を上げたジョンではあったが、しかし行動に移せる猶予は皆無だった。
瞬く間に天井は崩れて落ち始め、彼らを襲う。
酷い土埃を舞い上げながら、鈍い音が響き渡る。
その場所は、見るも無残な瓦礫の山と化してしまった。
幸いと言っていいのかは定かではないが、床は抜けなかった。
もしもここが最上階で無かったならば、恐らくはビル全体が倒壊するまで事が進んだだろう。
「……ッ…竜舌蘭!!」
ジョンが無理やりに瓦礫から脱出し、竜舌蘭を探す。
ジョンもどうしようもないくらいに大怪我を負っていて、意識もハッキリとはしていないだろうに。
「……ラルク君…、ラルク君…平気……?」
「竜舌蘭ッ!!
竜舌蘭ッ!!!」
彼女を探す目印は、
赤に染まるその一点だけ見れば充分だった……。
青ざめた顔のジョンはすぐさまに駆け寄って、彼女を助けにかかる。
瓦礫に埋もれる彼女の怪我は酷い。ジョンよりも重症。
死んでいない事が奇跡みたいな状態。
その通りだ。ふたりとも、よく生きていた。
紛れもない奇跡だ。
この世界が、二人に生きるべきだと言っているかのような、そんな奇跡だ。
しかし現実は、甘くない。甘く出来ては居ない。
「私、も平気……。
あ……、でも、手、右手無くなっちゃった…」
「……」
ジョンは瓦礫を掘り起こし、投げ捨てながら、竜舌蘭を引きずり出した。
見るも無残だった。ひどい有様だった。
現実はとてつもなく重たかった。
これが竜舌蘭に対する天罰だと言うのならば、これが列記とした粛清だと言うのならば。
これは流石にあんまりだとジョンは思い、唇を噛み締める。
一体何に怒りをぶつければいいだろうか。
そんな、ワケの分からない怒りが彼を侵食する。
何に対して怒っているのかさえよく分からない、そんな怒り。
まるで昔に湧き上がって仕方がなかったあのイライラした感情と、皮肉ながらよく似ていた。
ジョンはとにかく誰かの所為にしたかった。
寧ろ自分の所為であればよかった。
そんな風に思っていた。
思いたかった。
いっそ自分もこれくらい酷い怪我を負っていればよかったのにと、意味不明な事を考えていた。
そうであれば今すぐにでもこの両腕を切り落として、彼女と一緒に、命を絶てただろうにと。
彼はらしくもなく混乱し、動揺していたのだ。
「…あれ、あはは、足ももしかして無いかな…。
……あるね…、でも、力入らないよ…はは…」
「笑ってる場合じゃねえだろ!!
くそ!!っくっそ!!」
止血作業だけとにかく済ませる。
そもそもだ。諦めるには早すぎるだろう。
腕はともかく、まだ足の方は希望がある。
そう思うジョンは、ただ必死に行動を起こす。
ここで終わらせるわけにはいかない。出来ない。たまるもんかと。
「足の腱、やっちゃったのかな……。
あはは…、テキーラったら、
紅蛇に…、うん…、裏切られたみたい…」
「今、今運び出してやる!!病院連れてってやる!!!」
自分も怪我まみれの体なのに、重症の竜舌蘭をしっかり背負い、移動を開始した。
しかし目指す出口も瓦礫によって封鎖されている。
ここから出るには、どうにせよそこをどうにかするしか手は無いだろう。
ジョンは瓦礫を蹴飛ばし、時には瓦礫に足を取られながら、そちらへ向かっていく。
足取りは、重々しい。痛々しい。血の音が生々しい音を響かせる。
そんな彼らの血液を減らす為にか、心臓が早鐘を打ち鳴らし続けている。
「…ごめんね、貴方の言うとおりだった……。
私、捨てちゃったよ…、ゴミ箱に……」
「今はいい!!喋るな!!!」
「お守り…、捨てちゃったよ……」
泣き出しそうな彼女の声が、ジョンの必死の行動の合間に、これでもかと言わんばかりに響き倒した。
小さく寂しく反響するだけだったのに、心に響き渡って嫌になる。
泣き出したくなってしまう。
「……、もういい、もういいんだ。
あんなの何時だって用意出来るし、換えだって全然効く代物なんだよ…!!というかっ!!!」
「…あはは…、あはははは……」
「……」
「私、一体いつ、間違えちゃったんだろ…。
お守りを捨てた時かな…。
ラルク君に出会った時かな…。
ワタリガラスの一件の時かな…。
それとも、CABINに入社した時かな…。
生まれた時から、間違ってたのかも知れないね…。
もう戻れないよ。
戻れないよ、あの頃には…。
腐ったオレンジは、もう絞っても…飲めないよ…」
「…飲める。飲んでやるよ」
「無理だよ…、お腹壊しちゃうよ……」
「腐ってようが毒入ってようが俺には関係ねえ。
オレンジの根っこだろうが木だろうが一回腐っても、種植え直せばまた立派に生えてくるんだよ…、諦めんな。
俺が、何でも屋の俺がまた、美味いオレンジ取れる木育ててやるから。
だから、こんなところで枯れ木になんかさせやしねえ。
信じろ。俺を。俺をただ信じろ。
だから弱音なんてもう辞めてくれ……」
「うん…、…うん…、ひく……、ありがと…、ラルク君…。
私、頑張るね……。
私また立派な魂を、真っ直ぐな魂を、正義を、取り戻して…みせ………」
グチャリ。
そんな音が聞こえた。
ジョンの耳元で。
勿論耳を疑った。
信じがたい音だった。
彼が聞いた事のある音の全てを照合しても、すぐには理解出来ない音だった。
しかしそれを聞いた途端に彼の表情と体が強張った。
嫌な予感にも似た、突き抜けるような衝撃が彼を襲った。
ただでさえ重症の彼女の首が、重くのしかかって来たから。
「百足侍は仕留め損なったか。
女は斬らぬ主義…だったか。
侍とは難儀なものだ」
最初よりも明らかに力なくもたれかかる竜舌蘭。
その更に奥に見えるのは、真っ赤に染まった手。
視線を上げればそこには、
オイヨイヨが相手にしていた筈の男、紅蛇が立っていた。
冷たい双眸を、真っ赤に染まる自らの手へ向けていた。
その手の内にある肉を、躊躇わず潰す。握りつぶす。
容赦はなく、遠慮もなく、まるで何でもない何かを、気に食わんと言わんばかりに、力強く。
「竜舌蘭…っ竜舌蘭!!!!」
「死ぬ。その女は死ぬ。
精々祈ってやるがいい。
この煉獄という名の世界を彷徨わぬように、祈るがいい」
そのままその場を後にしようとする黒いスーツの大男を見て、ようやくに理解していく。
今、竜舌蘭を攻撃したのだ。
伝ってくる大量の血液が、だらりと下がった竜舌蘭の首から流れ出ているのだ。
もはや信じる信じられないではなく、ひたすら怒りがこみ上げてきて、
殺してやろうと思った。
純粋な殺意をもって。
「てめぇえええええええええええええええッ!!!!」
「ラ…ルク君…、…」
ここで、かろうじて動き、かろうじて声を絞り出す彼女を背中にしているジョンは、全く動けなかった。
一切、動くことが出来なかった。
状況は悪化した。重症は致命傷へと昇華してしまった。
この状態で戦闘を行おうものならば、竜舌蘭は即死しかねない。
寧ろ今、今どうしてまだ生きているのかが不思議なくらいなのだ。
ジョンが動く事は、竜舌蘭を殺すことと同じだった。
それは能力を使用しても同じ。
電撃を纏おうものならば、それはそれで竜舌蘭は無事では済まない。
万全であらばまだどうにでもなったかもしれないが、死にかけているとあらば、耐えかねるだろう。
一方で紅蛇、今のジョンを殺ろうものなら、文字通り今すぐにでも出来るだろう。
しかし、それをしないのは、目の前の紅蛇だった。
挑発的に血を舐めとる様を見せつけているが、ジョンを攻撃する意思はゼロ。
相手にされていないか、慈悲のつもりか。
歯ぎしりを立てるしか出来ない。
指を咥えて見る事すら叶わない。
手も足も出せない。
何も出来ない。
何もしてやれない。
果たしてこれ以上に悔しい事があっただろうか。
あったとも。
彼は何時でも何も出来なかったのだ。
何一つ成し遂げる事が出来なかったのだ。
だから正義の味方になって、精一杯頑張って来た筈なのに。
それなのに。
「酔狂もいいが、今はその女の僅かな余命に、余韻でも楽しんだらどうだ」
「てめ……!…ッ!?」
ジョンが驚くのも無理は無かった。
紅蛇は、完全に姿を消していたのだ。
確かに視界に入れていた筈なのに、居なくなっていた。
まるで幽霊のように。気配すらも、何もかもを消し去っていた。
ジョンは数秒辺りを警戒した後、完全に誰も居ない事を理解する。
だが束の間のため息を吐く事も出来ない。
ジョンは優しく、竜舌蘭を地面へ寝かせた。
精々出来る事がこれくらいなのだというのだから、歯がゆくて仕方がない。
胃袋がかき回されるかのような感覚が、胸の奥でザラザラと蠢く。
……絶望的。
首を大きく抉る、致命傷。
本当に、即死していないだけで充分に奇跡的な現状だった。
しかしそれが如何に奇跡的であっても、本当の奇跡は巻き怒らない。
このままでは、数分。持って数分。
彼女は、出血多量によるショック死で、このまま命を落とすだろう。
彼女の短い人生が、こんな局面で幕を下ろそうとしている。
太陽光が僅かに降り注ぐ廃ビルの一角で、土埃にまみれ、自らの血に濡れながら、黒くなりながら、どこかへ旅立とうとしている。
彼女は、至って穏やかな表情だった。
優しく微笑んで、幸せそうだった。
「…ラルク君…。ごめんね……」
「…俺の所為だ……。
俺が、俺がもっと上手く……」
「いいの……違うのラルク君…。
全部、私の撒いた種、だから…。
嬉しかったよ、貴方に会えて。
本当良かった…。ありがとう……。
最期に私が間違ってた事、気づかせてくれて…。
私…、これでよかったって思ってるよ…。
沢山の、罪を犯した私が、昔を少しでも取り戻せたんだもの…。
全部全部、ラルク君のおかげ…。
私、こんなに幸せだよ…。幸せだよ…。
本当、大きくなったね…、ラルク君…。
貴方は穢れないで…ね…。
私、立派にオレンジの木、心に植えつけられなかったけど。
貴方は絶対に腐らせたりしないで…。正義を諦めたりしないで…?
お姉さんとの、約束…だぞ…?
破ったら…、オレンジジュー…ス…、もうおごってあげないぞ…?」
泣き出しそうになるのを我慢して、ジョンは取り出した。
つい先ほど受け取って、ああ、あのクソジジイの奴…なんて思って、感謝して。
全てはこの時の為に社長が保存していて、オイヨイヨが配達して、ジョンの手に渡ってようやく、ようやくに意味を成す代物。
「………わ、忘れもんだ。竜舌蘭が捨てちまったモンだぞこれ。
お守り、だから。
もう二度と、と、手放したりす、すんなよな……」
銀色に輝く死神のペンダント。
ジョンは竜舌蘭の首へ、ゆっくりとかけてやる。
もはや痛みも感じないのだろう。抵抗は一切なかった。
じっとりと首の血を吸い上げながら、そうして赤黒く光るペンダントは、
それでも彼女をきれいに着飾って、美しく、彼女を照らしてくれていた。
ジョンが誰かに初めて贈った、ハッキリを言って、何気もないプレゼント。
だが、何にも代えがたい、大切なプレゼントだ。
ジョンにとっても。
竜舌蘭にとっても。
全てが変わってしまったその時のほろ苦い思い出と、
全てが変わってしまったその時の美しき思い出とが、
表裏一体の、大切な記憶の欠片だったから。
竜舌蘭は、振るえる左手でそれを摘んで、それを眺める。
キラキラと輝いていて、ちょっと輝きすぎていて変にチープにも見えて。
「…綺麗……。社長がとっといてくれたんだね…。
…お礼言いたいな……。
なんでこんな、こんな綺麗な物、捨てちゃったんだろ…。
私はなんで…」
「…」
竜舌蘭は強くソレを握り締める。
自分の血に濡れた手で、必死に。
「ラルク君にこんな綺麗で哀しい涙……、流させちゃってるんだろ…」
「泣いてない…」
「うっそだぁ…、泣いちゃって…るよ……。
本当、大きくなったね……。
背も伸びたし…、格好良くなった…。
凛々しくなって……、でも可愛いまんま……。
ほっぺたもほら………、柔らかいまんまだぁ……。
私の目に、狂いは、無かった…ね……。
立派な、男の子……。ふふ……、かあいぃ……」
「………」
ペンダントから手が離れ、そのままジョンの頬を軽く撫でる。
冷たい手だった。
とても生きている人間の体温ではなかった。
そしてすぐにまた、竜舌蘭の手は、ペンダントを握る。
もう手放したくない。
二度と捨てない。
だから……どうか………。
そんな神頼みをしているようにも、見えた。
だが滑稽にも程があるだろう。
握りしめる物は十字架ではなく、不吉の象徴、死神のナンバーなのだから。
呼吸が、荒くなる。
「し、死にたくないよ…。
ラルク君とまた…、お話したいよ…、嫌だ…、死にたく…」
「……」
「怖い…よ…、お守り…、握りしめてるのに……、震えが……止まらない……。
涙が、止まらないよぉ…っ!
もっともっと…生きたいよ………。
生きたいよ……っ!
魂…、オレンジの木…、育てて……。
育てて……。
私……。
正義……。
ラルク…くん……。
…………」
手は、解かれた。
ペンダントは静かに胸元にこぼれ落ちて。
彼女は、旅立った。
もうここには居ない。
「…竜舌蘭……」
力なく、重力に身を任せる体。冷たい手。
ペンダントを握りしめようとしていた筈の、冷たい手。
「なんなんだよお前…、結局、全然取り戻せてないじゃん……」
血まみれの首。綺麗なままの髪。頬を伝う涙の跡。
「だってお前…っ、全然鬱陶しい感じじゃ…あ…くっ…、無いじゃんか…っ」
横たわるだけの竜舌蘭は、死んだ。
「言ってよ!!
いつもみたいにワケのわかんない事を!!
腹が空いては力が出ないからとか何とかさ!!
今からでもいいから誰彼関係なく笑顔を振りまいて我儘を言ってよ!!
オレンジジュース奢ってくれるんじゃなかったのかよ!!
これから立派なオレンジの木を育てるんじゃなかったのかよおッ!!
なあ返事しろよ竜舌蘭ッ!!
俺アンタにまだ見てもらいたい事も話したい事も沢山あるんだよ!!
そうだよ俺アンタに俺の大切な人達を紹介するんだ!!
そして俺が頑張った事とか色々話して!!
一緒に酒を呑んで飲み明かして馬鹿をやって!!
笑い話もジョークも沢山用意してるからッ!!
昔みたいに笑ってくれてたらそれでいいからッ!!!
竜舌蘭!!竜舌蘭ッ!!!
もう一度だけでいいから俺にもチャンスをッ!!!
お願いだから目をあけてよぉッ!!!
お願いだから言ってくれよッ!!!
あの時みたいに!!!
所構わずテキーラテキーラって言ってくれなきゃ…ッ!!
全然お前じゃねえじゃんかよおッ!!」
気がつけばオイヨイヨはそこに立っていた。
だが何も言えず、何も出来ず。
ただただ、第三の目撃者になって終わっていた……。
***
「前回の事件以降、ジョン、喫茶店に来ないわね」
なんかシリアス過ぎて作者のテンションダダ下がりしてるが、とりあえず再開。
上の発言はブルーベア。
彼女が言うように、既にそれなりに日を跨いでおり、少々寂しい感じの喫茶店ブルーベアである。
ジョンはあの日以降、一度も喫茶店にやって来てはいない。
お陰でオイヨイヨは単独でどうでもいい依頼から難易度の高い依頼まで請け負って比較的疲れている始末であった。
それでもジョンの家に押しかけて、無理矢理に引っ張り出すなんていう無粋な真似をしないあたり、オイヨイヨも優しい限りである。
というよりは触れたくもあるまい。
いつもはハイテンションのジョンでも今回ばかりは相当に堪えた筈。
そんなローテンションのジョンなんて、オイヨイヨは是が非でも相手にしたくはなかったのだった。
少々冷たい話にも思えるが、下手に誰かが介入すべきではない。
ジョンの気持ちを概ね理解出来る存在などこの場には居ないのだ。
ならば全てを時間に解決していただく他にあるまい。
そんなこんなで数日も経過していて、進展無し。
流石にどうしたものかと、喫茶店面々も渋い顔をしているのであった。
ピアノの女の子は相変わらず優しい音色を奏でているけれども。
「まああんだけのことがありゃあなw
一応こじんまりと騒動は新聞にも載っちゃあいたが、俺達が関与している事だけはCABINも流石にもみ消したようだなw
廃ビルで所属不明の部隊が戦闘。あの廃ビルは明日か明後日かに取り壊すってんで、今は封鎖中だっけか。
……俺も紅蛇の野郎を、あろうことか一瞬でとり逃しちまったからな。
どんだけ軽く見積もっても、俺にも責任はありやがるよ。
あそこで逃さなけりゃ、あそこで確実に仕留めてりゃあ、こんな現在を堪能できちゃいなかっただろうからよ。
…この前、CABINからぶんどった金は全部ジョンにくれてやった。
割りと元気そうだったぜ?だが忙しいの一点張りで、すぐにどっか行きやがった。
その金がマジで
結局お前ジョンと会ってるのかよ。
お前の度胸マジですげーわ。
俺なら絶対無理だわ。
「ぬぁに!?紅蛇じゃとッ!?」
ここで部屋の隅っこ付近を入念に掃除していた鬼島十八郎がいきなり介入してくる。
あとミアもしっかり居るからね。仕事もせずに椅子に座ってるけども。
「お前詳しく知ってたのかよwwwwwww
最初に言えってのwwwwwwwwwww
そりゃ元々俺が動くキッカケになった情報元はお前だったけど結局お前俺に微妙な情報を提供しただけじゃねーかよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
そう言えばオイヨイヨも紅蛇と出会った際に、あたかも噂くらいは知ってる風に語ってたような。
そもそもCABINに情報を得ようとして突撃かましてた理由とか全然語ってなかったね。忘れる所だった。
オイヨイヨは紅蛇に関与しようとしてたんだよね。この付近に来てるっていう噂が流れてきてたから。
んでCABINに協力を依頼しようとして、突撃かましてたんだよね。
同時にジョンに不吉な手紙が届けられるしで、
「うわこりゃまた面倒な事になりそーだなw」
とか思ってたんだよねオイヨイヨ。
「ワシは掃除しとっじゃろーが!!
そもそもお前らに関係あるか分かるかっつーんじゃ!!
まあともかく、いい噂は聞きはしないな。
どうも組織としての規模はそう大きくもないらしいんじゃが、腕利きばかりの少数精鋭部隊とも聞くぞ。
貴様らが相手にしたとかいう雑魚達は所詮、その精鋭の部下程度だろうな。
奴らは異常じゃ。よっぽどな人材が所属しとる。
特に紅蛇は、普通じゃあない。
最近唐突に現れておいて、組織を急速に拡大しておるんじゃ。
世界政府ですらその拠点もメンバーも、いまいち把握出来ておらんようじゃしの。
言っとくがワシん所でも似たようなもんじゃぞ。ろくな情報は無いわい」
鬼島さ、お前そんなオジン臭い喋り方だったっけ。
一人称、俺、じゃなかったっけ。ワシだったっけ。あれ?
「なーるほどなww
CABIN社長、その組織か団体様かを相手に、俺達使って巣を突っつかせるつもりだったのかよwwww
まあ明らかにCABINみたいなデカい組織でもないと、結構厳しい相手っぽい感じみたいだしなwwwwwwwww
情報入手に何らかの期待が出来るだけの接触であったのは確かだわなwwwwwwww
結局何もつかめちゃいないんだろーなざまーみやがれだクソッタレめwwwwwwwwwwwwww」
そういう意図はあっただろう。
社長にとっては、ジョンと竜舌蘭との邂逅も実現させてやりたかった事ではあっただろうけども、
なにより相手の組織、そして紅蛇という人物について何かしらの情報を掴んでおきたいという考え、算段あってのオイヨイヨ特攻隊長任命だったと思われる。
しかしCABINは芳しい成果を上げられていなかった。
紅蛇を捕縛したり、その場で粛清してしまう事は愚か、補足もロクに出来ていないと思われる。
そもそもあの場で戦闘していた筈の兵隊達ですら誰一人として逮捕すら出来ていないのが現状である。
一体どんなマジックを使えば、CABINが支配するこの街の管理下にてこれ程大きな事件を巻き起こした上で、逃亡が可能なのだろうか。
だが考えるだけ無駄だろう。
CABINですら理解不能で混乱している状態。
CABINよりも規模の大きそうな世界政府ですら実態を掴みそびれているような組織。
オイヨイヨ達に理解出来るワケもない。
真実は闇の中に紛れ、幻の中に消えて、光に照らされて溶けてしまったのだ。
これ以上の考察は一切の無意味だろう。それだけは確かである。
と、ここで騒がしい入店者。
カランカランという鐘の音は、なんか心なしか苦しそうだった。
そりゃあもう滅茶苦茶乱暴に入店したのだろう。
「姐さーん!!オレンジジュース!!」
「なんであんな事あった後に第一声がそれであれるんだよwwwwwwwwwwwwww」
本当にね。
個人的にはオイヨイヨも大概だと思ってるけどな。
「いつまでもメソメソしてられないからな!!
うっわまだ居んのオッサン!!!
姐さんコイツさっさとクビにしてくださいよッ!!」
「なんじゃいその言い草は!!!!
出会い頭に言う言葉じゃ少なくとも無いし毎日毎日ワシにソレばっかりじゃないかッ!!!」
とりあえずよくわからないけどジョンは鬼島の事凄く嫌ってるよね。なんでだろうね。
ブルーベアを泣かせたからってのもあるだろうし、格好が最悪ってのもあるんだろうけど、なんかそれ以外にも理由ありそうだよね。
もしかしてストレスは発散に使ってるだけだったりする?
その場合、鬼島がストレスで死ぬぞ。もうちょっと老人をいたわってやれ。まだ50代だけども。
「はいはい。騒がないの。
で、ジョン、あまり聞きたくはないんだけど…、
今まで貴方、何をしていたの?」
ブルーベアも流石に切り込むのを躊躇ったらしく、言い訳混じりに質問を投げかける。
だがこれまた予想外な事に、ジョンはドカリとオイヨイヨの隣に腰掛けた後、やたら自慢気に語ってくれた。
「武器が全部廃ビルに埋もれちゃったんすよー。
だから新品、揃えました!!
ベリーベリーおにゅう!」
「なんかウゼェwwwwwwwwwwwwwwww
金少し返せやwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「いや、英語がなんだか激しく間違ってるところを指摘しましょうよ」
空気になっていたミアまでもがツッコミに参戦である。
言っておくが武器全部が埋もれて回収不能になったワケではなく、あくまで半数くらいがおにゅうである。
そのおにゅうを見せびらかす気こそはなかったようで、今の装備は最小限という所だったが。
「はいはい。騒ぐな。
それで、貴方は一体どうする気なの?
強力な組織って話だから、あんまり不用意な行動はさせられないわよ?」
「んー、姐さん、俺敵討ちとかそんなこと考えてないっすよ?
ただ、見つけたら潰すってだけです」
「それ敵討ちっていうんじゃないの?」
「正義の味方なんで!!俺!!」
「こーいう時こそ“俺達”にしろよwwwwwwwwwwwwwwwwwww
余計なときは俺を巻き添えにしてアスパラベーコン巻きにするくせによwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
オイヨイヨは流石に細かい。
ブルーベアも若干呆れ顔である。
いやオイヨイヨのツッコミに呆れ果てたワケではなくて、ジョンの考え方に、である。
別に敵討ちをするつもりこそないが、ジョンは正義の味方という立場なので、戦うつもりはある、という事らしい。
結構な考え方だろう。
敵討ちに走る事が正しいとは言わないが、これはこれで狂気じみている。
何というべきか。何が可怪しいのかを言語化出来ないが、とりあえず考え方が不気味というか、ずれているというか。
それでもブルーベア、ため息の後にこう言ってくれる。
「でもねジョン、もしその時が来たならば、ここにいる皆を頼りなさい。
それも貴方に言わせれば、正義の味方のあり方、なんでしょ?」
これまた身にしみるありがたいお言葉である。
「…はい、姐さん。お便りしてます」
「手紙送ってどーすんだよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
今後のことに心配していたオイヨイヨもブルーベアも、少しだけ気持ちを楽にして、ただただ、馬鹿を言っているジョンを皆で笑う。
彼がもしも何かに苦戦し、苦労し、一人で背負い込もうとするならば、
この場にいる全員が彼を助け、支え、様々な物を分け合って分かち合うだろう。
きっとこの場にいる全員にならば、乗り越えられない壁など存在しないのだと、ただ今はそれを信じよう。
そしてここは喫茶店、ブルーベア。
営業時間中は必ずといって良いほど、ピアノの音と騒がしい人たちの声が絶えない。
今日も快晴であり、平和である。
***
【あとがき】
どうも、370mLです(´・ω・`)
第4話、如何だったでしょうか。
余裕で3話を超えるボリュームになってしまいました。
原案時(読めたもんじゃない方)は精々3万文字程度だったので、倍以上に膨れ上がってしまいました。
これ冗長が過ぎるんじゃないか?
と思われても仕方がない表現、無駄が数多く存在していますが、仕様です。
しかし今回はシリアス全開でしたね。
語尾が「テキーラ」というぶっ飛んだキャラを登場させてすらそれを飲み込んでしまうくらいに重い話だったと思います。
死神のジョンのお話は、1話2話3話からは想像もつかない程に重いです。
彼は英雄になれなかった英雄ですね。
やりすぎた上で容赦も慈悲も無かった為に、化け物扱いされています。
どうしてやりすぎてしまったのかは、17話公開時点でも明かされていませんが、設定はほぼ決っているので、丁度いいタイミングで物語を公開したいと思っています。
とりあえず今のところ言えるとすれば、本編中でも言ってたような気もしますが、
最悪でした。
そしてとうとう明かされました、オイヨイヨの本名。
これまたネタみたいに見えますが、ニブルヘイム、ですね。
彼が両親を毛嫌いしているので、苗字の方は名乗る事を完全に辞めています。
あろうことかこの「ニブルヘイム」という名前すらも酷い経緯あって名付けられてたりするのですが、それも17話公開時点でも明かされて(ry
あと竜舌蘭ですが。
当時の370mLの中では随一ぶっ飛んだキャラ設定をしており、同時に試験的にぶっ飛ばせてみたキャラでもありました。
でもこういう変なキャラって、実は他創作のキャラクター設定としては決して珍しい部類ではないという^p^
正直このキャラに対する好みは分かれるとは思いますが、もし気に入ってくれた人が居るのであれば、幸いです。
ただ9の倍数話(基本的に過去のお話、竜舌蘭が紅蛇に殺されてしまうこの4話よりは前のお話)ではこの彼女、メタ発言し放題の暴走し放題、やりたい放題のキャラになって果てます^p^
悲劇のヒロイン的なイメージをぶち壊しにしていきます彼女自身が^p^
それもお楽しみにしていただけたら、いや、していただいていいのかな^p^
また紅蛇だとか、百足侍だとか、なんだか特殊な組織が登場しましたね。
3話におけるフライパンケーキとは一風変わった組織であり、CABINや無印猟団ともやはり違った組織です。
この組織は6話くらいまで名前すら明かされませんが、まあこれもお楽しみと言う事で。
さてさて、本当はもっともっと語りたい所なのですが、あとがき部分だけで1万文字超えるなんて事態に陥りかねないので、そろそろ例のアレ、始めてしまいましょう。
解説もまた長くなりそうだなぁ^p^
・鬼島十八朗
特に彼の元ネタは居ないのだが、劇的悪役オッサンを目指してイメージした結果、鉄拳シリーズに登場する三島平八だったり忍たまの稗田八方斎にちょっとだけ近い外見、顔になっている。だが一応無関係である。
オレンジファンタジー3話にて初登場した、前回のボス。フライパンケーキと呼ばれていた軍事国家の元頭目。
4話段階では喫茶店ブルーベアに雑用係の名目で雇われ、雑用に勤しんでいる。
3話ではロクにその技能を発揮できていないが、彼の銃の腕は達者であり、魔法の腕もかなりの物。
今は副職として、情報屋もしくはクエスト屋としても活動中。
現段階でも(人望こそ厚い為に)フライパンケーキの領土を半ば管理しており、結果その情報網はとんでもなく広く、ジョン達に質の良い情報提供とクエストを紹介出来ている。
また結構なお金持ちなので、携帯電話をかなりの数所有もしている。
あとどうでもいいが日曜大工が滅茶苦茶得意だったりする。
・目に優しくないピンクのエプロン姿
鬼島が何故か愛用しているエプロン。真ん中にハートマーク有り。チャイルドポケット製。
ジョンが主にこの格好に不快感を示しており、頻繁に絡んでいる。
しかしブルーベアは当然何も言わず、ツッコミ役のオイヨイヨすら触れもしないし、ミアも無視し続けており、常連客も特に苦情を言わない。
でも、一体何故この格好をしているのかは結局不明のままである。17話時点でも不明のままにこの格好を続けている。
・目を瞑って飲めば(または食べれば)いいじゃない
マリー・アントワネットの有名なセリフ(と言われ続けている)「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」とは無関係だけどなんとなく似ちゃった言葉。
ちなみにこの言葉はマリー・アントワネットの発言では無い事が(恐らく)発覚しており、実際にはトスカーナ大公国の公爵夫人の発言だと言われている。
ルソーがワインを飲むためにパンを探したが見つからず、家臣からの「農民にはパンがありません」との発言に対して「それならブリオッシュを食べればよい」とさる大公夫人が答えた、というお話。
何故こんな勘違いが普及してしまったかと言われれば、それはただの色々な勘違いだったり、他貴族がマリー・アントワネットに対して嫉妬した結果に生まれた嘘だったりと、諸説は数多く存在する。
・18番
通常は「十八番」と漢字で表現するべき。意味は、もっとも得意な芸や技の事。
鬼島十八郎という名前から喫茶店面々にこう呼ばれているが、十八郎の名前の由来自体は「十八番」から来ているので、元々あだなとして十八番と呼ばせる気満々だった。
そしてこの十八番という言葉の由来は諸説が数多くあり、同時にそれらが密接に関係している。
1.歌舞伎で七代目市川團十郎が、初代團十郎・二代目團十郎・四代目團十郎がそれぞれ得意としていた荒事の演目18種を選んでこれを「歌舞伎十八番」といった。ここから、得意とする芸という意味で広く用いられるようになった。
2.阿弥陀如来が仏になる修行をしている時に立てられた48種類の誓い(弥陀の48願)の十八番目が「念仏をする人達を必ず救済する」というものであり、これが他の諸仏の立てられた誓いより突出している(すべての生けとし生けるものすべてを救う)ことから、十八番が得意なものの代名詞となった[1]。
3.武士の嗜む武芸の種類(刀、弓、組みなど)などの種類が全部で18種類(武芸十八般)から来ている。この場合は「とっておきのひとつ」ではなく、18種類全てに優れた「多才」の意味も含まれる。
4.江戸時代、高価な書画や茶器などを丁重に箱に入れて、「真作である」ことを示す鑑定者の署名である「箱書き」を添えた。ここから、「本物の芸であると認定された」という意味で、「おはこ」と言うようになった。
(Wikipediaより引用)
またどうやら十八番と書いておはこと読ませた初出は、柳亭種彦が文化12年(1815年)から天保2年(1831年)にかけて書いた『正本製』で、この次の年に七代目團十郎が歌舞伎十八番を初めて公表した為、この頃の流行り言葉だったようだ。
・バルカン砲の武藤
3話における中ボス的立ち位置の男であったが、フライパンケーキとの関係性は中途半端。要するに雇われ傭兵だった。フルネームは武藤一郎。
その実力は折り紙つき。バルカン砲を軽々扱う上に、魔法にも長けた男で、知略策略もかなり達者。
口癖、というか語尾が「ぜよ」である。
また喫茶店ブルーベアのみならず、様々な場所へと食材や資材を搬送する、運送業を営んでおり、こっちが武藤にとってのメインの職業。
株式ではなくて有限会社。会社名は武藤運送有限会社。社員数は10名にも満たないが、かなり儲かっている。
あとこの武藤君には嫁さんが居る。しかも結構な美人さん。出来る男はやっぱ違うわ。ひゅーひゅー。
・黒い封筒
一般的に扱われる物ではないが、稀にこれを使う企業も実在する。
中が透けて見えないようにする為であったり、黒地に金色の印刷をすると見栄えが良いという特徴を持つ。
つまり黒の封筒であったらそれだけで不吉なわけでもない。
今回は不吉な意図を持たせて送られていると思うけども。
・大量殺人世界記録1位
ジョンの偉業として文章に記載されやすい表現が上記で、
口頭で皮肉を言われる際には「二足歩行の生命体を殺した数No.1」の方が使われやすい。
他にも皮肉の世界記録保持者、不幸を運ぶ渡り烏、死神のジョンという異名で知られている。他にも色々あるが、よく使われる表現はこれらが多い。
ひょっとしなくても世界一の有名人である。
彼は9歳の段階でCABINに入社しており、10歳の段階で既に上の称号を得てしまった。
作中では推定最低人数を20万としているが、実際、最終的には50万人を殺害しており、あろうことかジョンはその能力の性質上、殺した数を正確に把握。絶対記憶能力の効果も相まって、間違いがない。
彼曰く、現時点までに50万364人を殺害していると語っている。(これには竜舌蘭も含む。)
このシリーズを構想している段階(1話を書く前)から存在していたジョンの経歴設定でもある。
・テッキーラ!
いわずもがな、あの名曲から抜粋。
The Champsという名のバンドグループで最も有名な曲、Tequilaより。
元々は知人との会話で生まれた語尾設定で、作者が異常なまでに気に入ってしまったキャラ設定の一つ。
鬱陶しいキャラ、カワイコぶったキャラが劇的なシーンで死ぬという物語まで勝手に妄想をふくらませた結果、今回の結末を発生させた。
当時の370mLの中ではぶっ飛んだ設定だったのだが、後々にこれ以上にぶっ飛んだキャラが発生したりする。
しかもよくよく色々な漫画やアニメ、小説を読んでいる内に、
「語尾がテキーラだけのキャラじゃあインパクト足りないわ」
と思うに至ってしまっている。だが370mLの創作の幅を大きく広げるキッカケになってくれたのも事実である。
・竜舌蘭
実在する植物である。
この種類からテキーラというお酒が作られているというのも事実である。
竜舌蘭はその種類がとても多く、特質の違い、形の違い等から、学者たちの頭を悩ませるような、癖のある植物として有名。
作中でも語っているように、同個体ですらそれぞれ環境に適応しようとする力が強く、その変貌っぷりは凄まじいので、同種であるかどうか確認するのも一苦労である。
また竜舌蘭は花が10年~20年に一度しか咲かない。昔は100年に一度だけ花咲くものだと言われており、結果として竜舌蘭には世紀樹という別名も存在する。
また今作における悲劇のヒロイン的なポジションの彼女の説明をするならば、
過去話のさなかでは17歳の可憐な美少女であり、ジョンと再び再会を果たした段階では20歳。つまり彼女は若くして死亡してしまった事になる。
黒の際どい上着、へそ出しの胸元谷間強調はYシャツを織り込んで居る所為であり、服自体は普通の物。ただし黒の際どいミニスカートは、まじで際どい。そして恐らくノーブラだったと思う。なんて格好してんだよお前。若気の至りも大概にしとけよ。(作者がなんで怒ってるのかは不明。犯人俺だと思うんだが。)
太ももまである黄色と黒の縞模様のオーバーニーソックス。黒いリボンで、ツインテールになっている髪。髪の長さは腰のくびれくらいまであった。
彼女がジョンの事を好きだったかどうかは分かりかねるが、多分、好きだったと思う。そうであれば両思いだった事にもなるだろう。そう考えるとちょっと悲しいけど。
非常に前向きな性格にも見えるが実際はかなり後ろ向きで、頻繁に悩みを抱えていた。
そうであったからこそ、とある組織、紅蛇の組織への介入、殺し屋に転職というような、暗い方面へ彼女を誘ってしまう。
しかし不可思議な魅力を持っていたのはジョンも認める所であり、理想を追い求め奮闘する彼女のその姿は、確かに気高く美しかっただろう。
何故紅蛇に殺されてしまったのかは、今のところ不明、としておこう。
あと語尾設定は彼女のキャラ付けであって、普通に喋る事も出来る。というか普通に喋ってたよね頻繁に。
・Cz-85
元のモデルであるCz75は、1968年に開発が計画され、1975年に製造されたチェコスロバキア製(現在のチェコ)の自動式拳銃。Cz75のシリーズは、370mLがそのデザインを最も気に入っている自動式拳銃。
基本的には9*19mmの弾丸(パラベラム弾)を使用、弾倉に15発装填可能、有効射程約50mで、重量約950~1000g。
これを射撃者の右利き、左利きを問わないようにセーフティーなどを両側に配置したモデルが、Cz85。
初期型はスライドストップ(銃をよくしらない人に超簡単に説明すると、上のあのカシャカシャってスライド出来る部分を、引いた状況で固定出来る装置、仕組みの事)の軸が折れやすい、周辺のフレームに亀裂が入りやすい等の欠陥が存在していたが、これらは改善され、Cz85 Bという名前に変更もされている。
竜舌蘭がどうして両手利きモデルを使用しているかと言われれば、彼女が二丁拳銃使いだからである。
・テキーラアタック
ジョンの頬をつんつんする、竜舌蘭渾身の攻撃、必殺技。
ジョンを困惑させつつ苛立たせる効果を持つ。
・CABIN社長
500歳超えであり、白髪であり、黒いサングラスを掛けた、今だに謎の多い人物。またCABINの創設者。
ジョンと仲良くする気が無いのか、それとも仲良くしようとしていてあんな具合の鬱陶しさなのかは不明。
一方で判断力と経営手腕はかなりの物で、社員達からはかなり信頼が厚い。
すんごい違和感まみれの関西弁使い。370mLの技量不足が発端ではあったが、それをいい事に更に酷く間違えた関西弁を使わせている。
また作中でも語っているが、彼は不死者としても知られている。事実上、彼を殺せる存在は居ない。
・敷き紙のジョーン
お菓子などを盛り付ける前に敷く紙。
見た目はとてもおしゃれになってくれるし、油などを吸収してくれる。ジョーン流石やで。
・テッキラッ☆彡
登場の際に可愛いポーズを決め、相手を翻弄する竜舌蘭48の媚び技の一つ。
マクロスFに登場するランカ・リーの例のポーズと台詞(歌詞?)ほぼそのまま。
詳しくは星間飛行で検索して実際に動画を見て頂きたい。
口頭で説明出来ないくらいのネタの宝庫。突如そこだけ見たら笑うわあんなん。
・羊の馬車
表現として明らかに可怪しいが、意味は伝わると思う。
この世界では馬よりも何故か羊が多い。その為原動力によく羊が登場する。
とはいえ、あまり描写した記憶が無い気もする。
・モンスターや魔物と呼ばれる存在達は知能が低い場合が極めて多い
必ずしもそうではないが、大抵の場合はそういう定義で間違いない。
さもないとハンターギルドだったりがモンスターを狩る行為に対し反対する過激派愛護団体とかが存在していただろう。まあ多分この世界にもそういう意味不明集団は少数ながらに居ると思うけど。
・ワタリガラス
作中でも言っているが、この種は実在するカラス。とても大きく、全長60cmにもなる。
別名をオオガラス。特に北海道などに移動してくる渡り鳥の一種。
彼らは伝説や伝承、神話にてかなり頻繁に登場しており、英雄でありつつイタズラ者であるという、不思議な二面性を持つ存在、というのも本編で説明していたか。
実在する存在が妖怪のように、魔物のように、神のように扱われるのは日本も同じ。
このオレファン世界では1m前後のサイズが一般的。
またこの事件をキッカケにして、不幸を運ぶ渡り烏の異名が出来たのだと思われる。
勿論の事、ジョンは別に不幸を運んだりしてこないので、根も葉もない噂で出来上がった異名である。
・飯食わぬ女房、戦うべからずテキーラ
飯食わぬ女房とは、食わず女房という名前での方が最もよく知られている、日本に伝わる昔話。
とある男の望みどおり、食事をしない女が嫁入りをするのだが、何故か毎朝になると米が減っている事を男は知る。
それを不思議がって寝たふりをしながら女房を見ていると、なんと頭の後ろに大きな口があり、そこからご飯を沢山に平らげていた。要するに人間ではなかった。
それから離縁しようとすると、女房は本来のおぞましい姿を現し、男を連れ去ってしまうのだが、男はすきを見て逃亡。菖蒲の生えた湿原に身をひそめることによって、追跡から逃れることが出来た、という流れまでが物語。
ただ竜舌蘭は「腹が減っては戦はできぬ」を盛大に言い間違いし(恐らくワザと間違え)ている。
またこの「腹が減っては戦はできぬ」の言い間違い設定は原案時(読めたもんじゃない方)では存在していなかった設定。完全版にて新たに追加された。
・大団円
小説・芝居・事件が、めでたくおさまる最後の局面。大団円を迎える、という表現が一般的か。
時折これを大円団と覚え間違いされているが、文字の形が何となく似ているし、あまり聞き馴染みのない言葉故に仕方がない気もする。でも正しく覚えよう。団体名じゃないのだ。
・それは銀製で、綺麗で、嘘みたいな本当の象徴
ジョンがCABINに入社した後、皮肉のナンバー4になった際に送られた、死神の証。銀製のペンダント。
長方形の四角の角を若干削った六角形で、CABINのマークと4の数字が浮き彫りになっている。
裏には大きく筆記体で「J」の文字、小さくジョンの名前と、製造されたときの年号が刻まれている。
これを装備した所で特に効果は無いが、ジョンはこれを当時から意味もなく装備していた。それを竜舌蘭にプレゼントしたが、結構呆気無く捨てられてしまっており、それを社長が見つけて保管してくれていた。
また竜舌蘭の死後、これを再び身につけるようにもなる。
竜舌蘭との思い出を大事にしたいという意思か、それとも。
・そこは神聖な森、もしくは山脈の一部
確か14話でこの神聖な森、山脈の名前が明かされる事になる。随分先だなあ。
また「社長はよりにもよって、ジョンと山脈とを戦わせる気なのだと」という大袈裟な表現があるが、これは決して大袈裟ではない。
これに関連する情報は、7話で明かされる。
・この世界ではそういう奴らは真っ先に死ぬ運命にあるから。作者権限で。
結構割りとマジで実行している。
そのおかげでこの世界では女性に対してその手の暴行を働く輩はまず居ない。削除削除ォ!
・据え膳食わぬには戦は出来ないテキーラ
据え膳食わぬは男の恥とは、女性のほうから言い寄ってくるのを受け入れないのは、男の恥だということ。
据え膳とは、すぐに食べられるように支度が整えられた食膳の事で、「どうぞ食べてください」と用意されたこれに手を付けない男は恥知らずだという所から転じ、女性から持ちかけられた情事を拒否する男は恥知らずだ、とする考え方。
なんつー言い間違いしてんだよ竜舌蘭。明らかに好き好きアピールしてんじゃねーか。
・自己犠牲が美徳だって言うつもりか!
ジョンが発した言葉。これは意外と考察出来る発言である。
これは日本人的考え方の代表例とも言える。
海外からすれば日本は、こう見えるしこう言えるらしい。
何故ならば海外では、自殺すればその者は地獄に堕ちるとする宗教的な考え方があるから。
故に神風特攻隊の行動は、アメリカ軍からすると異常にも程がある行動であり、結果として大勢の兵士に重大過ぎるトラウマを残したとも言われている。
・皆して土塊になるだけの救われない絶望だけだぞ!!
一応、この世界の独自の言い回し、「土塊は喋らない」という言葉を意識して発せられた言葉。
意味合いは「死人に口なし」と同一の意味合いで使われる事もあるが、そこに哀愁や悲しみ、不可逆的でどうしようもない、かなり直接的な現実論を含む場合が数多い。
この言葉は、オレファン世界において今から350年程前まで実在し、また今から約900年以上も前から活動を続けていた竜人族の女性、トトフの書いた自叙伝の中でも有名な表現。
竜人族は死亡すると、竜人の砂と呼ばれる砂状に成って果てる。骨すら残らない。
恐らくはそれが理由でトトフは死体の事を「土塊」と表現している。
またジョンが立て続けに言い述べた中に、
「そんな世界で一体誰がお前達に称賛の声を投げかけるというんだ!?
そんな事をしたって死体は感謝も罵倒も恨み事も寝言も何も喋ったりしない!!」
という表現もこのトトフ自叙伝の影響を盛大に受けた発言に違いは無い。
しかしこれはジョンが体験してしまった最悪の絶望を如実に表現した発言でもあった。
・血の味がする空
これも竜人族トトフの自叙伝に出てくる表現の一つ。
彼女が初めて体験した戦争にて多大な犠牲を払いながらも勝利し、雄叫びを上げる事を許された空を見上げながら、だがトトフが皮肉めいてそう表現した。
自叙伝内でも特に感情的な文面だった。
・これが言語の限界の証明だ
教訓が数多くあるにも関わらず、過ちを繰り返してしまう人類に対する盛大な皮肉。ジョンの言葉。
そして現時点ですら、ジョンが抱える最大の悩み。
言葉で誰かを完璧に説得したり、完全に食い止める事は事実上不可能だという結論付けをしている。
故に彼は今もなお、剣を手に戦っている。
・ケラヴノス
ケラウノスとも。
ジョンが持つ最強の力。現時点ではジョンにしか扱う事が出来ない能力。
この言葉は、ギリシヤ神話の神、ゼウスの別名もしくはゼウスの武器である雷、雷霆の事。
ゼウスという神の名前はよく聞くと思うが、実はその規模は人智を超えており、軽く宇宙規模の戦闘に発展する事もしばしば。
ジョンの技としての説明をすると、驚くほどの超広範囲に渡り雷の雨を降らせる魔法の一種。また威力も絶大であり、魔王級クラスでもないとまず凌ぎきれない。
こんな強大な力を持っていた所為で50万を殺すという偉業を達成してしまうのである。
ただしこの技の連射はジョンの魔力保有量の都合で不可能でもある。
現在のジョンはこれを二度と使わないつもりで居る。
・グロザー
グローザとも。
ロシア語で「雷雨」の意味を持つ。この名前のブルパップ方式のアサルトライフルも存在する。
しかし引用元は、ロシアの暴君として知られているイヴァン4世から。
きわめて残虐・苛烈な性格であったためロシア史上最大の暴君と言われており、彼の強力さと、冷酷さを共に表すものとして、「イヴァン雷帝」と呼ばれた。
ただし、実は「グロザー」ではなく「グローズヌイ」という、峻厳な、恐怖を与える、脅すような、という意味を持つ形容詞で呼ばれており、雷の意味は持たない。雷帝という和訳は本来ならば誤り。
しかし元となった名詞に「雷雨」もしくは「ひどく厳格な人」という意味の「グロザー」が存在していた為、この単語との連関から畏怖を込めて「雷帝」と和訳されている。
ジョンが魔法のように放ったこの技は、ケラヴノスとは違って一点集中の雷撃。
ジョンが扱える雷撃技の中でもトップクラスの威力を誇る。
実際、ワタリガラスはたったの一撃で死亡した。
・そう、今まさに眠りそうになっていたのだ。
作者がよくこの設定を忘れてしまっているという酷い話も含めて、ジョンが抱える弊害の一つ。
本編でも語っているが、彼のこの能力はとんでもない性能を誇っている反面、人間の魔力値を優に超えた使用を余儀なくされる。まさに神が持つ力である。人間が持ち得ていい代物ではない。
この影響でジョンは能力使用後、不可避の睡魔に襲われる。
現在のジョンも頻繁に気を失っているが、実はそれらは不可避ではなくて癖。2話や3話で眠らなかった点を考えてもらえば分かる通りである。
だが癖になっている以上、やはり眠たくなってしまうのは本当のようで、事が終わった後はぐっすりと眠ってしまう。
・考える事を放棄してでも、彼は正義の味方になる事を選んだ。望んだ。
考えすぎると思い詰めてしまうという理由で、現在のジョンは阿呆のフリをしている。
しかしもう一つ理由があり、それは酷くどうでもいい理由。
「正義の味方は馬鹿である方が正義の味方っぽい」
である。
ただしこれは馬鹿にしているワケではなく、ジョンはこの「馬鹿さ加減」がとんでもなく侮れない物であるとも考えており、奮闘中。そしてそれは概ね達成出来ている気もする。
・少なからず俺はお前の味方のつもりだよ。
50万人も殺した人間が誰かに認めてもらうのはきっと難しいと思うのだが、作者は少なくとも応援している。自分所の子でもあるからね。贔屓もするよそりゃ。
・名前だけ名探偵の名言野郎
言い過ぎであるが、その名探偵が一体江戸川誰ンなのかは語るまでもないか。
・FA-MAS
フランスのGIAT(現・NEXTER)傘下のサン=テチエンヌ造兵廠が製造したブルパップ方式のアサルトライフルで、1975年に製造が開始。フランス軍において1977年に初の配備が決定されてから現在でも現役で、製造も続けられている。無論改良型も進んでいる。
ブルパップ方式とは、弾倉(弾が入ってるアレ)をはめ込む場所が、持つ部分(トリガーやグリップ)より後ろにあるタイプの自動小銃の事。携帯性に優れ、反動もかなり制御しやすい為に連射時の安定性・集弾性も良い。
ただし欠点も無くはない。利き手次第で薬莢が顔に当たりやすくなったり、利き手問わず硝煙によって射手の健康を害する恐れがある。これはブルパップ方式全般に言える。
全長75.7cm、重量3.7kg、口径5.56mm。5.56x45mm NATO弾を使用。弾倉は25発が基本だが、30発の物もある。有効射程は300~450m程度。
ちなみにこの銃、フランス人の傭兵の多くが「実戦で使う銃ではない」と酷評しているという話もあるようだ。古い設計箇所が多いためか。
実際、フランスの警察や特殊部隊は、M16やM4カービンという銃を採用していたりするし、このFA-MASを採用している軍や組織は割りと少なかったりする。他に比べると、あまり人気は無いようだ。
・百足侍
見た感じでは竜舌蘭の仲間のように登場した、ほぼ忍者の格好の自称サムライ。通称を100本足の忍者侍。
オイヨイヨと同じく、元無印猟団の幹部。ほぼオイヨイヨと同時期に猟団を辞めているが、その後の消息は不明だった。だがどうやら紅蛇の元に移動したようである。
辺り一面にワイヤーを張り巡らせ、相当に有利な環境を作り上げて戦う戦法を取る事が多いが、仮にそうせず、平面上で正々堂々と戦わせてもびっくりする程に強い。
またワイヤーにクナイを取り付けていたり、格好がそもそも忍者だったり、ワイヤーを飛び跳ねまわる動きや戦闘スタイルがどう捉えても忍者なのだが、忍者刀と言われる刀ではなく、長刀と呼ばれる代物を使っている。それがほぼ唯一のサムライ要素。
ワイヤーを振動させて相手を攻撃する事を非常に得意としている上で、魔法を無力化する特殊な道具を幾つも所持している為、戦闘相手にするととんでもなく厄介なのは本編をご覧いただいた通り。
というか武藤の時もそうだったけど、ジョンやオイヨイヨって、チート級の能力を使わないと基本的に弱いんだよね。
常々、チート級の能力でゴリ押ししてる証拠だよね。基礎がなってないよね。まったく。
・100にも満たない超微振動
百足侍の得意技の一つ。
数多くのワイヤーを振動させ、相手にその振動をぶつけて様々な状態異常を引き起こす。
ただしこれはあまり強い効果は期待できない。それでも一瞬怯ませる事が出来るのだから、かなり凄い技能である。
ジョン曰く、魔法や特殊な道具の効果を使っている筈だと疑ってかかったが、百足侍がそれを否定しているので、恐らくマジで自力でそれをやってのけているのだと思われる。凄い。
・アーティファクト
この世界における過去の遺産、現在では製造方法がロストしている武器防具、魔具、アイテムの事。
これの別名にレリックパーツという言葉もあるが、基本的に区別されているわけではない。
あくまでも製造方法が不明とされているだけで、その全てが凶悪な能力、強力な能力を持っているワケでもないが、現在では考えられないような効果を持つ代物も数多い為、頻繁に取り合いになったり、盗難被害が起こっている。(再現が不可能なので希少価値が高い為。)
またこれらをある程度でも再現しようとしたり、真似たりして作られた代物をブランクメーカーと呼ぶ。
ブランクメーカーという名前を聞くと、なんだかアーティファクトやレリックパーツに随分劣る代物しかない感に聞こえるが、物によってはアーティファクト等よりもずっと高性能な物も当然ある。
・ニブルヘイム
ニヴルヘイムは、北欧神話の九つの世界のうち、下層に存在するとされる冷たい氷の国の事。
天地創造以前から存在し、ニヴルヘイムには世界樹の根の一つが伸びているらしい。
なんとこれがオイヨイヨの実名。名付け親の顔が見てみたいわ!(犯人は370mLだがそういう意味ではなく。)
FF7でもこの地名が使われているが、今回のニブルヘイムという名前は別にそれから引用したわけではない。
またオイヨイヨの通り名は悪魔の申し子である。
・凍りつかせてやる
福本伸行先生の作品の中でもカイジに並び圧倒的な人気を誇る作品、アカギ、に登場する赤木しげるの名言の一つ。
「みてな…凍りつかせてやる…!」
から。
・紅蛇
今回のBOSS的なキャラクターだが、今までとは明らかに異質。
この登場の感じだと、この物語上のラスボスだが、果たして。
見た目はカウボーイ・ビバップの劇場版、天国の扉に登場する「ヴィンセント・ボラージュ」そのままであるが、一応、赤髪だったり頬に刺青があったりする点が違う。
それでも370mLはこのヴィンセント・ボラージュを盛大に意識しており、パロディで済ませていいレベルじゃない感溢れている。えへへ^p^
彼の部下に竜舌蘭や百足侍が居るが、当然、他にも大勢居る。正直言って結構やばい組織のリーダー的ポジション。
また5話で登場予定の、
紅蛇の存在は17話に至ってさえ不明な点が多いが、このオレファン世界の住人でない可能性がある。
でもとりあえずカウボーイ・ビバップに登場したヴィンセント・ボラージュ本人ではない。(寧ろ本人だったら困る。)
・メビウスの輪
メビウスの帯と呼ばれる事の方が多いようだが、メビウスの輪と呼ぶのも間違いではない。
帯状の長方形の片方の端を180°ひねり、他方の端に貼り合わせた形状の図形(曲面)である。
数学的には向き付け不可能性という特徴を持ち、その形状が化学や工学などに応用されているほか、芸術や文学において題材として取り上げられることもある。
文学作品においてメビウスの帯はしばしば無限の繰り返しを比喩的に表すものとして用いられる。
メビウスの帯は1周して戻ってくると向きが逆転しているという性質を有していることから、ループ構造を持つプロット(ループもの)や登場人物がなんらかの経験を経て考えをあらためて過去(あるいは元いた場所)に戻る際の比喩としてメビウスの帯が使われることもある。
超簡単に言うと、単純な円形でないこの形状は、何かと引用したり考察したり比喩に用いたりしやすい、みたいなイメージが強い、みたいな話である。
今回の場合はなんかとりあえず使ってみたかっただけだよね、って言われても仕方がないくらいに意味分からない引用だったと思う。
・相当に高火力の爆発
恐らくダイナマイトを用いた爆破解体の一端。
爆破解体とは、本来は大型の建造物をダイナマイトなどの爆薬を用いて爆破し、建造物中心に向かって瓦礫や建物全体が崩れるように誘導させて解体することを言う。
これらが行われる映像をテレビやネット上等で見たことがあるという人は多いと思われる。
この解体方法が執り行われる理由としては、解体時間が非常に短時間である事、人件費があまり掛からない事、非常に安価で可能である事が挙げられる。
今回は最上階のみを上手く解体するという、中々凄い真似をしでかしている。結構老朽化が進んでいたのまって、最上階付近の床が何層か抜ける大惨事になっても不思議は無かったと思うのだが。
まあ魔法が存在する世界だし、何かしら設置してたのかも。ちょっと下の階層に百足侍も居たワケだし、巻き込まれたくはないよねそりゃ。
・出血多量によるショック死
ショック死と聞くと、即死のイメージが強いかも知れないが、失血死もショック死に含まれる場合がある。
特に今回の場合、竜舌蘭を襲っているであろうショックを循環性ショックと言い、主に、血圧が下がって、死にそうになっている状態のこと。
基本的には慢性的な貧血の事とは別物で、急速に血液を(1/3程度以上を)失う場合が該当し、十分な血圧が保てなくなる為にショックに陥る。
要するに臓器に血が廻らなくなっている状態の事であり、早急に輸液と輸血を行わないと、臓器が機能を停止し、結果短時間で死亡してしまう。
竜舌蘭の場合の死亡原因は、失血死の分類の中でも、出血性ショック死と呼ばれる物だった。
これが脳の機能停止が先だったのか、心臓停止が先だったのかは、流石に分からないし、あまり考えたくはない。
言えるのは、彼女が死亡したという事実がそこに、あろうことか転がっていたという事だけだ。
・鬼島さ、お前そんなオジン臭い喋り方だったっけ。
3話を終えた後の鬼島は何故か一人称を俺じゃなくてワシに変更し、喋りも若干年寄りっぽくなっている。
多分フライパンケーキの解散を期に、定年退職でもした気分なのだと思われる。深い意味は無い。
・ベリーベリーおにゅう!
言いたいことは分かる。
・お便りしてます
頼りにさせてもらいます、が本来あるべき返事だったと思うのだが、ちょっと滑稽にしようと思って改造してたらなんか酷い事になった。
ある意味では冒頭で送られてきた黒い封筒に入った手紙に掛けたギャグにも見えるが。
以上で解説終わります。
なんか重い。シリアスやばい。重い。カナシイ。
以上、370mLでした。