世はまさに悪鬼羅刹の地獄絵図。
人は奴隷同然に扱われ、命の値段は一杯の水より安い。
畑で採れると噂の人間さん。
その様はまるでリアル中世のようで――――。
爛々と照り付ける日差しに、鳥の涼やかな音色が重なる。
そよぐ風は木々をしならせ落ちる葉は土を緑に塗る。
天気だけ見るならまさしく快晴。しかし作物に何の影響も与えてくれない心地よいその日。
そこに少年は居た。
「蠱毒って知ってる?」
「な、なんだよそれ……」
少年の問いかけに人工物は狼狽える。
知ってるのか知らないのか。微妙に判然としない。
構わず、説明する。
「毒虫を一つの容器にたくさん突っ込む。最後に生き残った虫の毒は、何にも増した毒になると言う」
正確には呪術の類なので、少年の言っていることは微妙に外れている。
しかし人工物は己の置かれている状況から、少年の言いたいことが嫌と言う程分かってしまった。
「落とし穴にひいふうみー……。4人。大漁だねえ。良い事だ」
見上げる人工物。見下す少年。
残念ながら、日は既に沈みかけている。
夜間外出は禁止されているので、少年はそろそろ家に帰らなきゃいけない。
「人は、極限状態だと共食いしてでも何をしてでも生き残ろうとする。あたりまえだ人間だもの」
みつを。
「さて、影の大王に作られた憲兵諸君。僕は以前から君たちに目を付けていたんだ。人工的に作られた物のくせしてやけに人間臭い。言動の一つ一つがまるで生き物のように理に適ってる。
何から造られているのかは知らないし、どうやって作られているかなんて興味が尽きないけれど、でも僕これだけは知ってるよ。君たち使用期限あるよね?」
手慰みに手元のナイフをくるくると。
曲芸のように器用に扱うもんだと、憲兵は感心する余裕はない。
「今回の罠を仕掛けるにあたって、ターゲットは選ばせてもらった。生まれたばかりの若い憲兵。つまり君らだ」
人差し指を一本ピッと。
「憲兵は同期の仲間とつるむことが多い。特に、平和なデルの維持部隊は指揮系統なんかあってないようなもんだ。平和ボケって奴。これもまた人間らしい側面だね。おかげで今まで好き勝手やらせてもらってるよ。ありがとう。じゃあ頑張って」
ごそごそと少年が穴の淵から姿を消す。
ずずずっと何かを引き摺る音がして、穴は塞がれた。
光りは完全に遮られ、暗闇が穴を包んだ。
憲兵は叫んだ。命乞いをした。あるいは怒声を。あるいは悲鳴を。あるいは懇願を。
けれどそれはもう外には聞こえない。
憲兵は仲間の身体を踏みつけ、どかして穴を掘る。
どうにかして脱出しようと試みる。道具はない。
脱出さえできればどうにかなる。素手で横穴を掘る。
どれだけ経ったか。
憲兵の手はすぐにぼろぼろになった。
手に力が入らなくなり、痛みに動けない。
穴は一mも掘れていない。
背後で仲間の憲兵が一人起き上がった。
この憲兵以外は、落とし穴に落ちた際に気絶していた。
それは幸運とも言えるし不運ともいえる。
どちらの割合が多いかは、日ごろの行いしだいだ。
起きた憲兵は動揺する。
真っ暗なことを眼が見えないと勘違いしているのか、やたらめったら暴れるものだから、残りの二人も目を覚ました。
状況は悪くなる。穴は余りに狭い。
一人で何とか動けるぐらいだ。今までは半ば敷物にしていたからいいが、四人が己の意思で自由に動いては、不自由とかいう話ではない。
ストレスで一日たたずに殺し合いだ。
――――どうにかしなければ。
憲兵は、使い物にならない拳を握りしめた。
数日後。
「おやおや。くっさ」
少年は穴を見下ろして、鼻をつまんだ。
中から卵の腐った匂いがする。
「食べ物は大事にしないと罰が当たるよー」
小石を一つ放る。
カランと乾いた音が三回。ポスンと柔らかいものの上に落ちる音。
「ァァ……」
声は一つ。力なく穴の中に反響している。
「…………」
少年は穴を塞いで、聞かなかったことにした。
見たくなかった。なんか気分悪くなりそうだったから。
穴の中の光景は、まあ予想通りの気持ち悪さなのだろう。