デルトラクエスト ~Another One~   作:紺南

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第5話

ジャスミンと別れたバルダとリーフは、昼になり比較的安全となった『沈黙の森』を歩いていた。

目指すは最奥にあると言われる化け物の巣。

 

蔓で覆われたドームで、中がどうなっているのかは全くの不明。

今から乗り込むその場所のことを考えると、嫌にも不安が高まるのをバルダは感じていた。

だが、その緊張に水を差す輩が約一名。

 

「バルダ、水ちょうだい」

 

「またか」

 

リーフからの朝から三度目になる要求に、バルダは眉をひそめた。

 

「どうしてそんなに水が飲めるんだ」

 

「しょうがないだろ、渋いんだよ」

 

リーフの手には果物。

朝ジャスミンに要求したそれは、一時間経った今でも半分も食べれていない。

 

「昨日のより格段に渋い。もはや兵器だよこれ」

 

「全くお前は……」

 

ドームがわずかに見えるようになり、少しずつ近づいているというのにリーフは変わらずこれである。

それを注意すべきか感謝すべきか、バルダは悩みどころだった。

 

リーフが果物相手に四苦八苦している内に、二人は木々を抜け蔓で出来たドームに辿り着いた。

ドームを中心に平野のようになっているそこには、いくつか古い木の根が残っている。

切断面を見るに鋭利な刃物で切られているようだ。

 

「ここが……」

 

続く言葉は出てこない。

肌を指す嫌な空気。不安と緊張で汗をかく。

だがその空気はなにも嫌なことばかりではない。ここに宝石があると確信させてくれた。

 

「入口は何処だろうね?」

 

見る限りない。

幾重にも張り巡らされた蔓は人一人も通らせてはくれなさそうだ。

 

「ぐるりと回って探そう。……油断するんじゃないぞ」

 

怪物の巣は目の前だ。

もしかしたらすぐにでも怪物が現れ襲い掛かってくるかもしれない。

 

バルダとリーフは周囲を警戒しながら一周回ってみた。

 

「ないんだけど」

 

「ないな……」

 

一周回って、入り口は見つからなかった。

どういうことだろうと二人は考える。

 

「化け物は空を飛べて、もっと上の方にあるとか?」

 

「かもしれんな」

 

二人で外観を眺める。

目の届く範囲にはそれらしきものはない。

あるとしたら頂点付近だ。

 

「登ってみようか?」

 

「いや、あるかもわからんものを探す余裕はない。切った方が早かろう」

 

剣を抜いたバルダは蔓を斬りつけた。

あっさりと、蔓は両断される。

 

どうやら植物自体はそこらにある物と何ら変わらない種らしい。

これなら斬り進むことが出来る。

 

「あんまり音出したくないんだけどねえ」

 

言いながらリーフも蔓を切る。

余裕がないと言うのはその通りで、あまり時間を掛け過ぎて夜になったらまずいし、何より登っている最中に怪物が現れでもしたら逃げる場所がない。

 

こっちのほうがまだ安全かと考えた次第である。

 

黙々と切り進む二人。

蔓の壁は思ったより厚く、二人がかりでようやく人が一人通れる道を作ることができる。

今まで切り捨てた蔓の数を考えるに、巣の中は日の光すら届かない真っ暗闇でもおかしくはない。

 

もしそうだとすると、怪物はとっくのとうに二人の狼藉に気づいていて、道を切り開いたところで待ち伏せている可能性がある。

そこまで考えて、まあ結局のところは運だとリーフは楽観して考えることにした。

 

嫌な可能性ばかり追っても仕方がない。

なるようになる。そう考えないとやってられなかった。

 

「む……?」

 

蔓の間を先陣して斬りつけていたバルダが唸る。

少し離れた所で様子見していたリーフが尋ねた。

 

「どうかした?」

 

「いや、少し明るくなってきた……」

 

「へえ?」

 

見ると、淡く薄緑色の光が蔓の合間からこちらに届いている。

日の光ではないそれに、バルダはこれ以上進むのをためらっているようだ。

 

「どう思う?」

 

「なんだろうね……」

 

答えは出ない。

 

「一旦引返すか?」

 

「引き返したところで結局は同じさ。進まないと何も前進しないよ」

 

リーフの言葉に、バルダは進むことを決めたようだ。

威勢の良い掛け声とともに剣を振り下ろした。

 

「…………」

 

「…………」

 

自然無口になる二人。

段々と狭くなる穴に、やりにくそうにバルダが剣を振っている。

 

三振りも振ったところで、バルダが小さく声を上げた。

 

「見えたぞリーフ!」

 

蔓の隙間から空間が広がっているのを確認できる。

円状に丸いその空間は、薄い緑に染まっていた。

外縁すべて蔓で作られていて、やはり入口らしい穴は見当たらない。

 

「どうなってる?」

 

「地面から光が漏れている。それと……あっちに見えるのは、なんだ……?」

 

バルダの指す方向に、赤く輝く木の株がある。

そのすぐ側には人影も確認できた。座っている人影は見る限りピクリとも動かない。

 

――――あれが怪物なのか?

 

二人は顔を見合わせる。

 

「手筈道理に」

 

「ああ」

 

ゆっくりと、出来る限り音を立てない様に最後の蔓を切断した後、バルダは道を開けた。

リーフがマントを被り透明になって穴から外へ出た。

 

その際何か踏みつけたらしく乾いた音が小さく響く。

……人影は動かない。

 

ゆっくりと人影に近づく。

リーフは、近づくにつれ光の正体が株ではなく三輪の花であることに気が付いた。

赤く輝く花は、己の花びらの重さで頭を垂れている。

 

その美しさに息をのむリーフは、直後聞こえた声に戦慄した。

 

「……感じる」

 

リーフは動きを止める。

今まで物言わぬ骸の様であった影が突然言葉を放った。

 

「感じるぞ。近くに何かいる……。侵入者だ……」

 

低く物々しい雰囲気。

良く見れば、その影は鎧をまとっていた。

手には地に突き刺した剣。

リーフは確信した。

 

こいつが宝石を守る番人なのだと。

 

「この瞬間をどれだけ待ち望んでいたか……。邪魔する者は容赦せん。蔓の養分に変えてくれよう!!」

 

影は立ち上がり、剣を引き抜いた。

バルダ以上の長身。剣の大きさもそれにふさわしい物で、鎧は黄金色に輝いている。

 

「どこだ? どこにいる?」

 

幸いにも、番人はリーフの姿が見えていない。

リーフは動かずにじっと息をひそめる。

 

横目でバルダの潜む横穴に目を向けると、彼の姿はどこにもなかった。

番人が動き出したのを見て上手く身を隠したか、それとも逃げたか。

どちらにせよ無事であることに変わりはない。

 

番人は周囲を見渡しながらリーフの目の前を通過した。

鎧がこすれる金属音。踏み出すたびに揺れる地面。腕を伸ばせば届く距離にある剣。

リーフは、その剣の柄に大きな宝石がはめ込まれているのを見つけ、苦々しく顔を顰めた。

 

――――あれはトパーズ。よりにもよってそんなところに……。

 

あんなところにあっては番人を避けて宝石を取り戻すことは不可能だ。

番人との衝突はほぼ避けられない。

 

その現実をなんとか飲み込もうと、リーフは大きく息を吐いた。

瞬間、足下に踏んでいたなにかがリーフの体重に耐え切れず乾いた音を立てた。

 

「む……?」

 

番人が、リーフの方を振り向く。

リーフは剣に手を伸ばした。

 

足音を響かせながら近づいてくる番人。

リーフは十分ひきつけてから、マントを脱ぎ棄て斬りかかった。

 

「なに……っ!?」

 

番人は数太刀鎧に受けながら、即座に対応してくる。

鎧には傷一つない。

 

「驚いた。姿を隠すマントか……」

 

「驚きついでに剣置いてけ」

 

「それは出来ぬ相談だ!!」

 

番人の横薙ぎを受け止めて、そのあまりの重さに吹っ飛ぶリーフ。

地面を転がり急いで体勢を立て直すも、番人は既に目の前いる。

 

「ぐおっ……!!」

 

見た目の鈍重さに反し、やけに俊敏だ。

膝をついたまま何とか振り下ろされた剣を防ぐ。

 

火花を散らし、つばぜりあう二人。

上から体重を掛けられる番人が圧倒的に有利で、少しずつリーフの剣が押される。

 

「リーフ!!」

 

そこでようやくバルダが駆けつけた。

無防備な番人の横っ腹にタックルする

番人はたたらを踏んで数歩後ずさった。

 

「無事か、リーフ」

 

「やあ。逃げたかと思ったよ」

 

「守ると言っただろう」

 

「人の言葉ほど信じられないものはないよ」

 

今度は二人で番人に剣を構える。

バルダと言う頼もしい加勢があってなお、リーフは絶望的な状況は変わってないと分かっていた。

人一人増えた所で、あれを倒すことなど出来ないと心の底で理解していた。

 

勝てないのならば逃げるしかないが、番人がその隙を与えてくれるとは思えない。

何がしら引きつけないと背を向けることなど出来はしない。

 

「バルダ!」

 

「おう!」

 

バルダが向かって右からリーフは左から斬りかかった。

番人は主にバルダの剣を受け止め、リーフの剣は半ばされるがままにする。

非力なリーフに、鎧を壊すことは出来ないと踏んでいるのだ。

 

――――その油断は命取りだ。

 

鎧には、身体を動かすために隙間がある。

もっとも目立つところで腋と首筋だ。

鎧自体は壊せなくてもその隙間に剣を滑りこませられれば関係ない。

 

「ここ!」

 

「むう……」

 

見つけた隙。

掴んだ勝機。

 

番人は、向かってくる剣先へ向けておもむろに手をかざした。

途端、リーフの身体は硬直する。

 

リーフが状況を理解する前に、不可視の力で遠くに投げられた。

 

「リーフ!」

 

バルダの声が遠い。

背中から叩き落ちたリーフは、衝撃で呼吸が止まり、痛みに悶絶する。

 

――――念力か!? 冗談じゃないぞ。

 

内心でその反則技に狼狽えるリーフ。

あれを使われては、逃げることもままならない。

背を向けた途端、引っ張られることは想像に難くない。

 

生き残るには奴を倒すしかないと、ようやくリーフは腹をくくった。

地面に敷き詰められた骨を踏みしめ立ち上がった。

 

「うおおおおおおお!!!」

 

己を奮起させるバルダの声。

応じる番人は容易く剣戟を捌いている。

 

――――実力であれに勝つのは無理だ。隙を作らないと。

 

リーフは辺りを見わたす。

依然輝く赤い花が周囲を明るく照らしている。

使えそうなものは何もない。

 

しかし、自分たちが作った穴にほど近い場所に、番人と同じ鎧を2つ発見した。

それは蔓に絡まり朽ちている。

 

「番人よ!」

 

リーフは咄嗟に声を上げた。

番人は念力でバルダを吹き飛ばしたところだった。

 

「なんだ盗人よ」

 

「お前は人間か? それとも化け物か?」

 

「何を異なことを。見ればわかるだろう。私は人間だ」

 

「ならなぜこんな場所で一人居る! あの鎧はなんだ? あれはお前の仲間の物だろう!」

 

「…………」

 

番人は動きを止め、鎧をじっと見た。

その身体がカタカタと震え始める。

 

「おお、友よ……。我が兄弟たちよ……。もうすぐ、もうすぐ我らの悲願は果たされる。もうすぐだ……!」

 

「お前の悲願とは何だ! お前はなぜここにいる!?」

 

「知れたことを。我が悲願。我が望み。それは不老不死になること」

 

「なんだって……?」

 

リーフは己の耳を疑った。

すでに不老不死にほど近いだろう番人が、なぜそんなもの求めているのか。

 

「この花は命の百合。これの蜜を飲めば、私は永遠の命を手に入れられる。見よ、この輝きを。もうすぐだ。もう間もなく蜜を垂らす。丁度盃一杯の蜜を」

 

聞きながらリーフは静かに立ち上がる。右手には剣を。左手には長い骨を持っている。

番人の後ろで、バルダが音なく忍び寄っているのが見えた。

 

「……僕たちの目的は、その花ではない。君の剣についている宝石だ。それを渡してくれれば、僕らは君の邪魔はしないと約束しよう」

 

「嘘を吐くな。今まで何度お前のような輩が来たことか。そのたびに切り伏せ、蔓の養分にしてきたのだ」

 

「互いに望まない戦いは止めにしないか? 宝石を渡してくれれば――――」

 

「くどい!!」

 

番人の怒号。

それに重なる様にリーフは骨を投げつけ、己は剣片手に走り出した。

向かってくるリーフを切り捨てようと、番人は剣を高く掲げた。

 

その、腕を上げたことで見える鎧の隙間。

そこに背後からバルダが剣を突きいれる。

 

カランと空洞音が聞こえ、ビクンッと番人は震えた。

 

バルダはあまりの手応えの無さに違和感を覚え、リーフは血の一滴も付着していない剣先に絶望的な声を漏らした。

 

「逃げろ、バルダ!!」

 

言われるまでもなく、バルダは剣を捨て後ろに跳躍していた。

しかし番人の剣を避けきるには間に合わない。

 

右肩から左わきへと袈裟に切られたバルダは、鮮血を散らしながら着地することなく仰向けに倒れた。

 

「……まず一人」

 

倒れたバルダ。

傷口から血が染み出し、じわじわ流れ出している。

すぐに手当てしないと間に合わない。

 

リーフは冷静にそう判断して、冷酷に見捨てる決断を下した。

 

「……お前は――――」

 

会話をして動揺を誘う。

その切っ掛けの会話は、上から落ちてきた蔓に気を散らされる。

ぽたぽたと連続して落ちてくる蔓。

そのほとんどは番人の甲冑にあたり金属音を奏でた。

 

上を見ると、数時間前に別れたはずのジャスミンが蔓を切っていた。

怪訝げに見上げる番人。作業を一段落させたジャスミンは、怒りに燃える眼で番人を見下ろした。

 

「聞いたわよ。あなたは周囲の木を切り、ここに住んでいた鳥たちを殺して、その血肉でこの蔓を育てていたのね?」

 

「……なんだ小娘。それがどうしたと――――」

 

「ならもう話すことはないわ。報いを受けなさい!」

 

ジャスミンは手元の蔓を手首の動きだけで切断する。

そうして、蔓に絡まっていた木の幹が数本、重さに耐えきれず番人の頭上目がけて落下した。

 

「うおおおぉぉぉ――――!!!!????」

 

木霊する悲鳴。

すぐにそれ以上の爆音で掻き消される。

 

衝撃波と、土ぼこりのせいでリーフは何も見えなくなった。

ようやく土ぼこりが晴れた時、そこには木の下敷きとなった番人の姿がある。

 

唖然と上を見ると、幹が落ちてきた場所はぽっかり穴となって日の光が差し込んでいる。

それを後光としながら、ジャスミンは憎しみと怒りの瞳で番人を見つめていた。

 

 

 

――――番人との戦いは、意外な形で幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一先ず、リーフはバルダの元へ走った。

傷口からは相変わらず血が流れていて、手当てしようにも満足な道具がない。

苦しみに歪むバルダの顔を見て、楽にしてあげるのも優しさだとリーフは剣を構えた。

 

「ちょ……っ!? なにしてるのあなた!?」

 

「介錯だよ」

 

「バカじゃないの!? まだ生きてるわ!!」

 

「こんな所じゃ碌に治療も出来ない。死ぬのも時間の問題だ」

 

「可能性はあるわ!! ほら!!」

 

ジャスミンが指したのは命のユリの花。

今、まさに蜜が垂れているそれを見て、リーフはジャスミンが何を言いたいのか察した。

 

「なるほど。ジャスミンなにか容器ある?」

 

「……これ使いなさいよ」

 

差し出された小瓶を手に、リーフは急いで蜜を採りに向かう。

 

結構な勢いで滴る蜜は、あっという間に瓶を半分ほどまで満たしてくれた。

さあもうちょっとで満杯だと最後まで採る気満々のリーフの背に、ジャスミンが怒鳴る。

 

「まだ採る気なの!? バルダが死んじゃうわよ、早くしなさい!!」

 

「もう少しなのに……」そう不満を露わにするリーフ。

名残惜しく、命のユリの花を離れる。

 

「これで足りるかな?」

 

「飲ませないと分からないわ」

 

ジャスミンがリーフの差し出した小瓶をバルダの口へ流し込む。

少しずつ蜜を飲まされていたバルダは、半分も飲み込んだろところで突然咽込んだ。

 

「ごほっ、ごほ……!!」

 

「あ、生き返った」

 

「死んでないわよ失礼ね」

 

億劫そうに眼を開けたバルダは、ジャスミンの顔を見て驚きに目を見開く。

 

「なぜ、お前がここに……?」

 

「心配で後を追ってきたの。追ってきて正解だったわ。あなた死にかけてるし」

 

「……そうか、俺は……」

 

起き上がろうとするバルダは、傷が痛むのか苦しそうに呻く。

しかしもう血は止まっている。傷もじきに癒えるはずだ。

 

ジャスミンが手を貸す横で、リーフは小瓶片手に蜜を採集しに行った。

 

「やつはどうなった?」

 

「死んだわ。木の下敷きになってね」

 

数メートル離れた所に木が数本重なり合って落ちている。

隙間から黄金色の小手が見えた。その先に剣が投げられている。

 

「……宝石を探さなくては」

 

「宝石? あなたたちそんなもの探しにここまで来たの?」

 

呆れたように言うジャスミンに、バルダは苦笑する。

リーフが小瓶三分の一も満たして戻ってきた。

 

「結構採れたよ、傷薬。花はもう枯れたけどね」

 

先ほどまで赤く輝いていた花は萎れ、輝きは失せている。

リーフの言う通り、じきに枯れることだろう。

 

「リーフ、宝石を見つけなければ」

 

「ん、ああ。もう見つけてるよ。ほらそこの剣に――――」

 

リーフが指さした剣。その近くで、番人の手が動く。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

 

まさしく、全身全霊の大絶叫。

木を押しのけて立ち上がった番人は、リーフたちには眼もくれず、しぼんでしまった花へ手を伸ばす。

 

仲間を殺し、全てを捨ててまで守った命の百合。

こんなところでこんな結末に終わらせたくはないと、番人は諦め悪く数歩歩いて、負った傷に耐え切れず鎧が崩れ落ちた。

 

鎧が落ちた後、中に居るはずの人間はどこに居らず、直前までの叫びも今や聞こえない。

静寂が辺りを包む。

 

「なんだったんだ……」

 

茫然と呟いたバルダ。

ジャスミンは崩れ落ちた鎧を見つめ、リーフは憐れむように手の中の小瓶を見ていた。

 

 

 

 

 

 

「ほらこれ」

 

リーフが番人の剣からひっぺはがした宝石を見せる。

黄金に輝く宝石。大きさは5センチほど。

細長く、少し平べったいそれはリーフの手の中で光を反射しキラリと輝いた。

 

「ほう。これが」

 

「きれい……」

 

ジャスミンが目を輝かせてトパーズを眺める。

 

「これはどの宝石なんだ?」

 

「これはトパーズかな。誠実を司る宝石だ」

 

「ちょっと見せてよ」

 

ジャスミンがリーフの手からトパーズを強奪。

日にかざして、まじまじと眺める。

 

「しかし、これで念願の宝石一つ手に入れたわけだな」

 

「うん。あと6つ。あとこれを6回繰り返す……。はぁ……」

 

うんざりとリーフは溜息を吐いた。

あと6回。

今回でさえジャスミンの手がなければリーフたちは死んでいただろう。

まさしく奇跡と言っていい。最初の一つでこれなのだから、いよいよ宝石集めは難局を迎えそうだ。

 

「ジャスミン?」

 

リーフが悲しみに打ちひしがれる横で、バルダがジャスミンの異変に気が付いた。

トパーズをじっと見つめたまま動かないジャスミンは、バルダの呼び掛けにはっと我に返る。

 

「…………」

 

「ジャスミン、どうかしたのか?」

 

「……いえ、なんでもないわ」

 

リーフの手に返るトパーズ。

手の中で弄びながら、リーフはデルトラの書の一節を思い返していた。

 

『トパーズ。誠実の象徴。精神力を高め、真実を見抜く力を与える。満月の夜にはその輝きを増す。また、霊界への扉を開くという』

 

今日は満月だったかなとリーフは日の差しこむ穴を見上げた。

その横で、笑顔を取り繕ったジャスミンが話題を変えようと、変わらぬ調子で言った。

 

「ところであなたち、すこし手伝ってよね」

 

「手伝う? なにをだ?」

 

「この蔓を取り払うのをよ」

 

男二人顔を見合わせた。

 

「なぜ僕らがそんなことしないといけないんだ?」

 

「あら、命の恩人の言うことが聞けないのかしら」

 

「…………」

 

リーフ沈黙。

続投バルダ。

 

「しかしだな、なぜ蔓を取り払う必要がある?」

 

「約束したのよ、邪魔な蔓は取ってあげるって」

 

「誰に?」

 

「木に」

 

何言ってんだこいつ。二人の胸中は初めて一致した。

 

「今まで言わなかったけど、わたし木々の言葉が分かるの。クリーとフィリの言葉もね」

 

「そりゃあ、ペットの言葉は分かってもおかしくはないが……しかし木々の言葉は……」

 

何となく、言いにくそうに否定するバルダ。

ジャスミンは眦を吊り上げた。

 

「あんな頭上に都合よく木が落ちてくれるわけないでしょ。この辺りの蔓を切り払う代わりに、あそこに落としてってお願いしたのよ。だからあなたたち助かったんだから、文句言わずに働きなさいよね」

 

二人とも異句は発せない。

事情はどうあれ、たしかにジャスミンは二人の命の恩人なのだ。

 

「まずはあの辺りお願い」

 

ジャスミンがそう言って指し示した位置は頭上遥か上だった。

 

……登れと?

二人は再度顔を見合わせた。

 

「参ったな……命の恩人だから無下にはできないぞ」

 

「諦めるしかないね。……例え変人奇人の類だろうと」

 

とりあえず、まだ思うよう身体の動かないバルダを置いて、リーフは剣を抜いた。

「早くしなさいよー!」一人既に登り始めているジャスミンを追いかけ、リーフは蔓を登る。

 

するすると登るジャスミンに比べ、リーフは酷く危なっかしい動きだった。

内心で思う。

 

「やっぱあいつ猿だな」と。

 

 

 

 

 

 

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