Extra Chapter : 作:回避盾
デイトナの朝は早い──
現在の時刻は午前四時。早朝に鳴り響く時計から、彼の一日は始まる。
「朝だよデイトナくん! 起きてー!」
昨夜遅くまで仕事をしていた十六歳の少年にとって、この時間に起きるのはやや辛いのだろう。しばらく微睡んでいたデイトナだが、
「おはようモルフォちゃん! 今日も素晴らしい朝だね!」
あのデイトナがまるで好青年の様に爽やかな笑顔で清々しい挨拶をしているのは、紫電から
仕事をサボりがちなデイトナのやる気を出そうと紫電が画策した結果、ホログラム映像のモルフォと四六時中過ごせるというデイトナにとって正に夢のような装置が開発されたのだ。
だが一度仕事をサボるとモルフォが別れを告げながら爆発四散を起こす映像と共に、ホログラム装置が木っ端微塵になるという仕掛けが組み込まれている。そのおかげでデイトナの勤務態度は非常に良好となった。
ちなみにデイトナは、この仕組みを説明する映像がトラウマになっていて、たびたび悪夢を見るようになった。夢が現実になるのを恐れて、真面目に頑張っているのだろう。いつか巨人となって関西弁を喋り出しそうな勢いだ。
時々、夢の中でモルフォが爆発したのかモルフォと幸せに過ごしている今が夢なのか分からなくなるようだが。
朝の挨拶を終え、毎日欠かさず行う日課の為にデイトナはPCデスクへと向かう。紫電の特権で作ってもらった、No.0のモルフォファンクラブ会員カードを取り出し、PCに接続した機器に読み込ませる事で特別なページへアクセスする。
「まったく、今日のシアンちゃんも最高だぜ!」
デイトナはPCの画面を見て、思わず感嘆の声をあげる。
そのディスプレイに表示されているのは、シアンが穏やかに眠っている姿だった。なんとこの男は、監視カメラに映っているシアンの映像を紫電から提供してもらい、目の保養のために毎朝鑑賞する事を楽しみにしているのだ。
毎日のシアンの様子と写真が載っていて、それを賛美する内容が一日あたり数ページも書かれている日記の数は、半年で数十冊にもなっている。
「動いてるシアンちゃんも可愛いが、やっぱり機械に繋がれてるシアンちゃんはサイコーに胸キュンだな! 寝顔も堪らないぜ……」
さきほどの爽やかな笑顔はどこへやら。気色の悪い笑みを浮かべながらおぞましい事を口にしているデイトナ。しばらくシアンを眺めつつ名無しにかわりましてブイ・アイ・ピーがお送りしていると、アラームのような音と同時に装置からモルフォが映し出された。
「デイトナくん! お仕事の時間だよ!」
その言葉を聞き、デイトナは気だるげな雰囲気を出しそうになる。だが愛しきモルフォがわざわざ呼びかけてくれている事を思い出し、瞬時に支度を整え家を出た。
「シアンちゃん、モルフォちゃん、行ってきます!」
◆
「はぁ……今日の仕事もダルかったぜ……」
勤務を終え、帰宅したデイトナ。モルフォやシアンによってやる気が出ても、やはり仕事は嫌いな様だ。愛しのシアンを眺めて疲れを癒そうと、小さい……幼さを残した若い女の子の画像がたくさん詰まっているPCを起動した。
世が世なら、両手首に冷たい鉄の感触があってもおかしくないような画像が山ほど入っているが、今はそれを見る気は無いようだ。
「……あン? 紫電からメールが来てやがる。珍しいな、何の用だ?」
紫電は、業務に関する連絡などをデイトナに送ることがある。このメールもそうなのだろう。
一応マジメに仕事をしてたハズだ、とモルフォとの幸せな生活が続くよう祈りながらメールを開いた。
『やあ、デイトナさん。最近はよく働いてくれてるみたいで、ボクも嬉しいよ。
今回の連絡なんだけど……。落ち着いて読んでほしい。実は、モルフォ……シアンを狙ってフェザーが襲撃してくるという情報を掴んで、襲われる前に輸送する計画だったんだ。しかし……それが失敗してしまった。
あのガンヴォルトが、彼女を攫っていったらしい。単独で行動している様でね……。中々足取りが掴めなくて困るよ。
デイトナさんも心配だろうけど、まずは冷静になってほしい。シアンを取り戻し、ガンヴォルトを倒す機を伺うんだ。それじゃあ、今回はこの辺で失礼するよ。ごきげんよう』
──デイトナの時が止まった。壊れた機械のように何度もメールを読み返すが、いくら読もうが文面は変わらない。
どれだけの時間そうしていたのだろうか。日付けが変わった事をモルフォの映像が告げ、その声で
でいとなは しょうきに もどった!
「うッ! も、モルフォちゃんが……。し、シアンちゃんが、攫われた?」
デデデデーン
シアンちゃんを うばわれた!
俯きながら、あまりの怒りに震えているデイトナ。怒り狂った
「あのヤロォ、オレの毎日の楽しみを……! 目の保養を……! 愛しの人を奪いやがって! ガンヴォルトォッ! テメェは、ゼッテーに蹴り殺すッ!」
ガンヴォルトは一級ドルオタのデイトナの足元にも及ばない貧弱一般人。その一般人が一級ドルオタのデイトナに対してナメた真似をしたことで彼の怒りが有頂天になった。
この怒りはおさまる事を知らない。ガンヴォルトを燃やし、蹴り貫くまで。
シアンと機械の繋がりを感じなくなった