南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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「逆探搭載型B17」なんて出しちまうんだが大丈夫かな…-_-b


深海棲艦のレーダー基地を捜索します!


第十六話 空の要塞

6月14日 午後3時49分

1

台湾とルソン島の間。バジー海峡上空三千メートルを南に向かって飛行する一機の機体があった。

その機体はかなり巨大で翼には左右二基づつ、合計四基のエンジンが付いている。

全体が茶色に塗装されており、翼や胴体には星のマークが描かれている。

 

 

第八航空軍所属のB17だ。

 

この機体の任務は偵察や爆撃ではない。もっと重要な任務を帯びていた。

 

 

「現在位置は?」

 

B17機長 ハワード・ロックウェル中尉は上部旋回機銃の銃座に座りながら航法士のランス・オリヴァー兵曹に聞いた。

 

 

「ルソン島より方位0度、90浬」

 

オリヴァーはチャートを見ながら答えた。

 

方位0度というのは真北の事だ。B17の針路は順調らしい。

 

 

(ていうか、なんで機長の俺が旋回機銃の役割分担されてんだよ⁉︎……まぁ理由はわかるが…)

 

ロックウェルは悪態をついた。

本来、機長が旋回機銃を撃つことはない。どの機体でもクルーに指示を出すか、他機と連絡をとるなどの役割しかないのだ。

しかし、ロックウェルが機長のB17はそうしなければいけない理由があった。

 

ロックウェルは爆弾槽を見やった。そこには爆弾ではなく、巨大な機械が搭載されている。

 

 

 

電波探知機……通称「逆探」だ。

 

 

その機械からは、二つのテニスラケットのようなアンテナが伸びており、開けっ放しの爆弾扉から機外に飛び出している。

 

敵のレーダー波をキャッチしようとしているのだ。

 

 

 

 

 

3月3日以来、台湾に展開する第十一航空艦隊はルソン島への航空偵察を度々行ってきた。

連合艦隊からの指令通り、敵の情報を集めようとしていたのだ。

だが、現在でもクラーク・フィールド飛行場姫にたどり着けたのは3月8日、同地に向かった九七式大艇一機のみ、他の偵察機は全て到達前に撃墜されるか、偵察を諦め退避している。

 

なぜか分からないが、ルソン島の手前で敵戦闘機が捕捉して来るのだ。それにより、二十機以上の偵察機が帰らぬ身となっている。

 

第十一航空艦隊司令部はこの事を重大視し、深海棲艦戦略情報研究所に分析を依頼すると共に、独自に情報収集を行った。

 

その結果、二つの結論が出た。

 

一つ目、「深海棲艦の潜水艦がバジー海峡に潜伏し、上空を通過する日本海軍の偵察機を全て飛行場姫に通報している」という物。

 

二つ目、「ルソン島周辺に敵レーダー基地、ないしレーダーピケット艦が展開しており、発見した偵察機を飛行場姫に通報している」

 

という物の二つだ。一つ目はともかく、二つ目の結論は疑問に思う参謀がかなりいた。

「深海棲艦がレーダーなどの電子機器を持っているはずがない」などの意見が挙げられたが、第十一航艦司令官の塚原二四三(つかはらにしぞう)中将が説き伏せ、この二つの結論を元に行動を開始した。

 

第六艦隊に要請し、バジー海峡に潜水艦を送り込んで敵潜水艦を捜索すると共に、日米共同で開発されていた逆探試作一号機を第八航空軍とも協議した上で爆弾搭載量が大きく、防御力も大きいB17に搭載して敵レーダー基地を捜索する事を決定し、出撃準備が進められた。

 

以来二週間。未だにルソン島北岸周辺に敵潜水艦やレーダーピケット艦のような物は発見されていない。

それにより、第十一航艦は深海棲艦はレーダー基地を設置している可能性が高いと判断したのだ。

本来ならばレーダー基地はルソン島北部に作りそうなものだが、北部はアメリカ極東軍が確保している。

そのため、ルソン島の北に位置しているバブヤン諸島に目を付けた。

第八航空軍と第十一航艦はバブヤン諸島に敵レーダー基地があると考え、ロックウェルの逆探搭載型B17を派遣したのだ。

 

これで逆探に反応があれば、敵がレーダーを保有しているという事になる。

 

ロックウェル自身も深海棲艦がレーダーを使っているとは信じられないが、行ってみなければ分からなかった。

 

 

ロックウェルのB17は出来るだけ重量を軽くするために搭乗員の人数や機銃を減らしている。

本来なら搭乗員10名、12.7mm重機関銃13丁だが、現在は搭乗員7名、重機関銃7丁になっている。

そのため一人二役ほど、こなさなければならないのだ。

 

従来より弱い防御火力で情報を持ち帰られるかが鍵だった。

 

 

 

「バブヤン諸島よりの距離60浬………間も無くです」

 

やがて、オリヴァーが報告する。

 

第八航空軍司令部は敵レーダー波を逆探が探知するのを、人類のレーダー性能と照らし合わせて50浬程だと予想している。

あと10浬で予定の空域だ。B17の巡航速度でも数分で到達できる。

 

改めて命じる事はない。そう思い、旋回機銃のトリガーに指をかけた。

 

その時だった…

 

 

 

 

 

「逆探感あり!方向機体正面、出力増大中。敵のレーダー波です!」

 

 

 

 

逆探の操作をしていた電測員のサミエル・ジェイコブ軍曹が大声で報告する。

 

 

「高度を落とせ、早く!」

 

 

ロックウェルが素早く操縦士であるマイケル・グール少尉に命令し、B17が機首を下げて降下に入る。

 

(やはり持っていた……深海棲艦はレーダーを駆使して偵察機を撃墜していたんだ!)

 

降下時特有のフワリとした感触に体を包まれながらも、ロックウェルは考える。

 

今ので、こちらの位置は奴らにばれてしまっただろう…敵戦闘機が向かってくるのは時間の問題だ。

 

(敵に捕捉されるのが先か、レーダー基地を発見するのが先か……)

 

 

B17は高度を落とし続ける。風切り音が全てを満たし、正面に海が見える。そして……

 

「逆探、反応消えました!」

 

高度六百メートルに達した時、ジェイコブが報告する。

 

直後、B17が機首を起こし、水平飛行に戻った。海面を見下ろすと、先よりも鮮明に波濤が見える。高度六百メートルはB17にとってかなり低空飛行だ。

 

人類のレーダーでも低空飛行の航空機は探知しずらい。それに関しては深海棲艦のレーダーでも同様なようだ。

事実、逆探の反応は消え、ロックウェルのB17は敵レーダーの探知外にいる。

 

深海棲艦は今頃、目標が急に消えてパニックになっているのかもしれない。

 

 

 

「無線封鎖解除、司令部宛て打電。”敵レーダー基地ハ、バブヤン諸島二アル可能性大”だ」

 

ロックウェルは通信士に言った。

それを聞くと通信士は頷き、モールス信号の通信キーを叩く。

 

 

 

トン・トン・ツー・トン・ツー・トン・トン………

 

 

 

ロックウェルは部下がしっかりとキーを叩いている事を確認すると、再び12.7ミリ連装旋回機銃の銃把を両手で握る。

 

その時、ロックウェルの目にある物が写った。

 

 

前上方の断雲の中から、黒いゴマ粒のようなものが4つ。こちらに向かってくる。

こんな空域に味方はいない。恐らく深海棲艦が保有する主力航空機ーーー甲型戦闘機のだろう。

 

ロックウェルの予想よりかなり早い出現だった。もしかしたら深海棲艦はルソン島北部に新たな飛行場姫を建設したのかもしれない。

 

「前上方より敵機!」

 

ロックウェルはそう叫ぶと、機銃を旋回させて敵機に向けた。

 

敵機もこちらを発見したらしい。先頭の機から順に機体を翻す。

 

翻した瞬間、太陽光が反射して機体が不気味に黒光る。

 

「喰らえ!」

 

ロックウェルは罵声を発し、引き金を引いた。

 

直後、鼓膜を震わせるほどの音と共に、直径12.7ミリの弾丸が連続して発射される。

機首の機銃も発砲し、弾丸を敵機に向けて撃ち上げ始める。

青色の曳光弾が流星のように伸び、敵機に吸い込まれたかのように見えた。

だが、敵機は素早く機体を横転させて回避する。二番機も同じだ、あたかもベテランパイロットが操っているような見事な機動だった。

 

一、二番機はそのまま旋回して離脱するが、残りの二機は所構わず突っ込んで来る。

 

 

三番機が発砲し、一条の火線がB17の胴体を斬りつける。

四番機も同じだ。ミシンのように弾丸がB17に命中し、ささくれを立たせる。

だが、B17は動じない。「空飛ぶ要塞・フライングフォートレス」の名に恥じぬ防御力だ。

 

敵機は高速でB17の頭上を通過し、後方に抜ける。

甲型戦闘機の大きさはP40や零戦とあまり変わらないはずだが、何倍も大きく見えた。威圧感がそうさせたのかもしれない。

 

「正面にバブヤン諸島!」

 

「逆探に反応あり!」

 

二つの報告が上げらる。

 

ロックウェルは機銃を撃ちながら首をねじり、正面を向いた。

水平線上に島が見え、だんだんと数を増やしていく。

バブヤン諸島は主にバブヤン島、カラヤン島、カミギン島、ダルピリ島、フガ島の五つの島からなる。

ジャングリに包まれ、火山が点在している。未開の島々だ。

 

この五島から敵のレーダー基地を探し出さなければならない。

 

 

「来るぞ!」

 

 

誰かの叫び声が聞こえたとき、B17の後方から二機の敵機が向かって来た。

ロックウェルが慌ただしく銃座を旋回させ、敵機に向けて発砲した時には、B17の脇を猛速で追い抜かしている。

 

「クソッ!」

 

敵機が高速すぎ、当てるのが至難の技だ。

機銃を向けた時には、すでに通過している。

 

 

「マイケル。海面ギリギリまで降下して、機体を振れ!」

 

ロックウェルは新たな命令を出した。

このままでは敵に撃墜される。海面付近まで降りて、敵機の攻撃パターンを減らしてやろうと思ったのだ。

 

B17が再び高度を落とし、日本海軍艦攻隊顔負けの超低空飛行を披露する。

同時に機体を左右に振り、敵戦闘機に照準を付けさせない。

 

逆探を搭載し、単機で敵地に乗り込む事を任されたB17のパイロットであるだけに、操縦技術は優れたものだ。

 

 

 

「右後方より敵機!」

 

の報告が入った瞬間、B17が右に旋回する。

 

右の主翼が海面に触れそうだ。とヒヤヒヤしながらロックウェルは機銃を敵機の未来位置に向け、撃ちまくる。

ロックウェルの銃座だけでは無い。右側面の12.7ミリ機銃や尾部銃座の機銃も発砲する。

その敵戦闘機はB17の撃墜を焦りすぎていたのかもしれない。単機で突っ込んで来たのだ。

B17から発射された四条の火線のうち、一条が敵機に命中した。

直後、火焔が踊り、海面ギリギリのため、その敵機は数秒とせずに海面に叩きつけられる。

 

深海棲艦の甲型戦闘機は高速だが、防御力が少ない。数発当てればバラバラに吹き飛ぶのだ。

 

 

「敵のレーダー波はどの方角から発せられてる?」

 

「我々の左前方からです!」

 

ロックウェルが機銃発射音に負けないように大声で聞くと、逆探を操作しているジェイコブも大声で返答する。

 

ロックウェルは左前方を向いた。

 

「あれか…!」

 

そこには一つの島が浮いていた。

 

バブヤン諸島の最北に位置し、五島の中で一番標高が高い島。

 

 

 

 

 

バブヤン島だ。

 

 

 

 

 

あそこに敵のレーダー基地がある。

 

「マイケル、バブヤン島に向かえ!」

 

 

ロックウェルが命令すると、B17の巨体が左に旋回する。

 

 

その時、敵機が正面から向かってきた。先に離脱して行った二機のようだ。

 

B17の進路を予想して先回りしていたのかもしれない。

 

 

ロックウェルが機銃を向けるより先に、敵機が発砲する。

 

敵弾はB17の機首を直撃する。丸みを帯びた窓ガラスが粉砕され、破片がキラキラと中に舞った。同時にスピードが少し落ちる。

 

機首を破壊された事によって、空気抵抗が増したのだ。

 

 

「機銃手戦死!」

 

ジェイコブが悲鳴染みた声で報告する。

機首機銃を担当していた兵が敵機の弾丸に撃ち抜かれてしまったのだ。

敵機の機関砲は20ミリクラスだということが判明している。生身の肉体に喰らったらひとたまりもなかっただろう。

 

一番機は風を巻いてB17とすれ違い、二番機が距離を詰めてくる。

 

ロックウェルは二番機には発砲できたが、命中しない。

 

二番機が発砲し、敵の射弾が左翼の四番エンジンを直撃する。

命中した瞬間、プロペラが吹き飛び、炎と煙が噴き出される。

ガクン!という音と共にB17の機体が大きく振動した。

 

自動消火装置が付いているはずだが、作動しない。

 

 

B17は四番エンジンから火を噴きながらも、バブヤン島の上空に入る。

次の瞬間、地上に発射炎が閃めいた。

 

「……!」

 

ロックウェルは声にならない叫びを上げる。

 

敵弾がB17の周辺で炸裂し始めた。

B17は右に左にと翻弄されてしまう。

 

ロックウェルを始めとするB17搭乗員は血眼になって地上を見回す。

 

通常、ただの小さな島に対空砲を配備するはずがない。必ずどこかにレーダー基地があるはずだ。

 

B17は五百メートルほどの高度を保ちながらバブヤン島にある山ーーースミス火山の脇を通過する。

 

(この島は決して大きい島ではない。一体どこにあるんだ!敵のレーダー基地は!)

 

ロックウェルが地上を見渡しながら思った時、ジェイコブが報告した。

 

「逆探の反応が消ました!」

 

「消えた⁉︎バカな!」

 

ロックウェルはそう言うと、B17の周辺を見渡した。

 

すると、バブヤン最高の標高1080mの山。「バブヤン・クラロ」が目に止まる。

 

ここでロックウェルは思い出した。

確か、レーダーは山などの障害物を挟んで反対側の物体を探知する事が出来ない。

山に遮られてレーダー波が届かないためだ。

 

(だとすると…)

 

逆探の反応が消えたのは「バブヤン・クラロ」にレーダー波が遮られたからかもしれない。そうなるとB17の反対側、すなわち「バブヤン・クラロ」の西に敵のレーダー基地がある事になる。

 

「正面の山を飛び越せ‼︎マイケル!」

 

ロックウェルが指示を出すと、B17が最後の力を振り絞って上昇を開始する。

 

「後方敵機!」

 

「しつこい!」

 

敵機接近の声が耳に入り、ロックウェルはそう叫ぶと反射的に引き金を引いた。リズムよく弾丸が発射され、敵機に吸い込まれる。

 

今度は効果があった。

 

吸い込まれた瞬間、敵機は黒い塵を吐き出し、錐揉み状態になりながら、山腹に墜落する。

 

 

次の瞬間、傷だらけのB17は「バブヤン・クラロ」の山頂を通過し、反対側に踊りだした。

 

ロックウェルははっきりと見た。

 

 

「バブヤン・クラロ」の西側中腹にそびえ立つ、骨組みの建造物を。

 

 

高さは二十メートルほどだ。四角い骨組みの上に、巨大な長方形の板が乗っかっている。

 

「見つけた!」

 

ロックウェルが歓喜の声で叫ぶと、ジェイコブがロックウェルの方を見て言った。

 

「逆探に感あり!今までで最大です!」

 

顔は上気しており、喜びが溢れ出ている。

 

 

「司令部に打電!”ワレ、バブヤン島ノ、バブヤン・クラロ山西側ニテ敵レーダーサイトヲ発見ス”だ!急げ!」

 

せめて第八航空軍司令部に報告するまで落とされる訳にはいかない。

 

ロックウェルはそう思い、通信士に矢継ぎ早に言った。

言い終わると、ブローニング12.7mm重機関銃を敵機に向け乱射する。

 

マイケルも速度が大幅に落ちた機体を左右に振り、回避を試みる。

 

 

しかし、B17の機動は悲しくなるほど遅い。そのような状態で敵弾わ回避できる筈もなく、敵機の弾丸が一番エンジンに命中する。

エンジンを包む鋼板の一部が後方に吹っ飛び、甲高い音を立てながらプロペラが停止する。

 

「まだか、打電は!」

 

ロックウェルが焦りを隠せずに聞くと、通信士が即答した。

 

「打電終了!」

 

 

その言葉を聞きロックウェルが安堵した。

その刹那、轟音と共にB17が大きく振動し、機首が地上を向いた。

 

咄嗟に機首を見てみると、跡形もなく粉砕されている。

恐らく、敵の20ミリ弾が集中的に直撃したのだろう。

あの様子ではマイケルは戦死している可能性が高い。

 

B17はパイロットを失い、真っ逆さまに落下していく。

 

そんな状態で、ロックウェルは薄く笑った。

もう少しで地面に叩きつけられるのに、彼は笑ったのだ。

 

 

「もう遅い、深海棲艦。お前らの大事なレーダー基地はオレ達が発見した!」

 

 

「すぐさま味方が叩きに来るだろう……覚悟しておけ!」

 

 

 

 

 

 

ロックウェルが叫び終わると同時に、凄まじい衝撃が襲いかかり……

 

B17は地面に激突して粉々に爆散した。

 

 

 

 

 

 

 




テストが多くて、これから更新遅くなりそうです‼︎


スンマソン……



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