南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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俺、受験生で何やってんだぁぁぁぁぁ!

と思いながら投稿しました。

至らない点がありましたらお気軽にどうぞ。


第二十話 敵艦隊迎撃

10時39分

1

 

米アジア艦隊は三つの任務群を編成している。

ベーリング海経由でやって来た船団の護衛艦隊が、そのままTF8の指揮下に入ったため、一つの艦隊として扱うのが難しくなったためだ。

編成はTG8.1が重巡三隻、軽巡二隻、駆逐十二隻。TG8.2が軽巡一隻、駆逐八隻。今回の作戦には参加していないが、TG8.3は中型空母二隻、軽巡二隻、駆逐十八隻を有している。

 

 

そのTG8.1旗艦兼米アジア艦隊旗艦、重巡「シカゴ」にTG8.2からの打電が届いたのは、TG8.2が夜間空襲を受けてから十五分後のことだった。

 

 

「『チャールズ・H・ヒューズ』より入電です!」

 

紙切れを持った通信士が、息を荒げながら「シカゴ」艦橋に入って来る。

アジア艦隊司令官レイモンド・スプルーアンス少将を始めとする司令部要員達は通信士が入ってきた瞬間、顔を強張らせた。

通信士の様子から、尋常じゃない情報が入ってきたと思ったのだ。

 

読め、米アジア艦隊参謀長カール・ムーア大佐はそう顎で示した。

 

通信士はムーアと目を合わせると、すぐさま読み始めた。

 

「”我、空襲ヲ受ク。『ベンソン』『LST-16』沈没。『LST-7』大破。揚陸作業ハ続行ス”……以上です」

 

 

通信士が読み終わると、若干の沈黙が艦橋に広がったが、その沈黙を突き破るようにムーアがスプルーアンスに口を開く。

 

 

「来ましたな…」

 

「ああ…これで敵艦隊が出現する可能性が出てきたわけだ」

 

スプルーアンスは腕を組んだままそう返答した。

 

「しかしなぜ『チャールズ・H・ヒューズ』が打電してきたのでしょうか?TG8.2の旗艦は『アトランタ』ですし、同艦は最新鋭艦だけに通信設備もベンソン級駆逐艦より高性能です。連絡してくるのなら『アトランタ』からだと思うのですが…」

 

通信参謀のリアム・ノア中佐が疑問を投げかけた。

 

それを聞いた幕僚達は確かにそうだ、と呟き思案顔になる。

 

そしてTG8.1唯一の航空参謀メイソン・キッド少佐が恐る恐るといった風に口を開いた。

 

 

「『アトランタ』は大破、または撃沈されてしまったのでは…」

 

 

メイソンの意見を聞いたスプルーアンスは言下に否定した。

 

「いや、それは無いと思うな」

 

そう言うと、冷静は表情で理由を話し始める。

 

「第一、旗艦である『アトランタ』が沈没ないし大破したら、必ず電文に記されているはずだ。それにTG8.2の指揮を取っているレヴィ大佐は優秀だ。新鋭艦を沈めるようなヘマはしないだろう」

 

 

「では何故『アトランタ』では無く『チャールズ・H・ヒューズ』からなの入電なんでしょうか?」

 

ノアが首を捻る。

 

「恐らく、『アトランタ』は敵機の機銃掃射か飛来した破片で、通信アンテナを損傷したのだろう。その理由ならこのーー」

 

 

スプルーアンスが言いかけた時、新たな報告が上がった。

 

 

 

「『シーガル1』より入電。”敵艦隊見ユ。〈ラオラグ〉ヨリノ方位300度、30浬。巡洋艦二、駆逐艦十”!」

 

ラオラグとはルソン島西部にある街の名前だ。米アジア艦隊ではこの街を基準に位置を伝えるように取り決めてある。

 

 

「やはり来たか…」

 

 

スプルーアンスは目を光らせながら、そう言うのだった。

 

 

 

2

「打電終了!」

 

後方の座席からネイサン・カード兵曹の威勢の良い声が響いた。

 

「了解!」

 

「シーガル1」こと「シカゴ」搭載一号機のOS2Uキングフィッシャーを操るオーウェン・キャメロン少尉も、風切り音に負けないように大声で返答する。

 

 

眼下にはルソン島西岸と、それに沿って北上する敵艦隊がぼんやりと見える。

夜目に慣れていてもはっきりと見えないが、オーウェンはしっかりと機体を敵艦隊に追従させていた。

 

 

「巡洋艦は二隻だけか…」

 

オーウェンは敵艦隊を見下ろしながら言った。

 

キングフィッシャーの高度は二千メートル。この距離からでは薄っすらとしか見えないが、確かに巡洋艦と思われる中型艦が二隻、駆逐艦らしい小型艦が十隻ほどしかいない。

ルソン島は深海棲艦が極東で最初に制圧した場所だ。イギリス領マレー半島や、オランダ領ボルネオ島にはない飛行場姫も位置している。

人類側からは極東における深海棲艦の一大拠点と考えられているが、迎撃に向かってきた敵艦隊の規模が予想より小さい。

この戦力では合計で戦艦二、重巡七、軽巡四、駆逐三十二を有する日米連合艦隊は元より、TG8.1にすら勝利は難しいだろう。

 

 

「吊光弾を投下して確認しますか?」

 

ネイサンが聞いてくる。

確かに吊光弾を投下して敵艦隊を照らすと、詳しい敵の陣容が分かるだろう。だが、これからTG8.1が敵艦隊と戦うことを考えると吊光弾を温存していた方が良い気もする。

 

オーウェンは考えながら、キングフィッシャーが敵艦隊を追い抜かした事に気付き、操縦桿を左に倒した。

キングフィッシャーが左に旋回し、正面に敵艦隊が見え始める。

 

(どう見ても巡洋艦二隻、駆逐艦十隻なんだけどなぁ〜)

 

だが、物事に100%は無い。

敵艦隊の中型艦はもしかしたら巡洋艦では無く、戦艦の可能性もあるのだ。深海棲艦のル級戦艦はハワイ以外では確認されていないが、それが逆に不気味だった。

 

もし、あの二隻は本当に巡洋艦か、と聞かれたら俺はYesと言えれるのか……?

 

 

 

「吊光弾投下準備。……いいか、一発だけだぞ」

 

オーウェンは言った。

 

「吊光弾投下準備。数一、了解!」

 

ネイサンが復唱し、吊光弾の投下準備に入る。

 

オーウェンには引っかかる事があった。

何か分からないが、第六感という奴だろうか?

 

(俺の勘はよく当たるんだ。決まって嫌な方向にな……)

 

 

「3、2、1、0。投下!」

 

ネイサンはカウントを行い、一発の吊光弾を投下した。

 

 

(どうだ…?)

 

 

オーウェンがそう思った時、高度800mで吊光弾が点灯した。

今日の夜空は雲に覆われており、月はもちろん、星も見えない。そんな中で閃光を発した吊光弾は、一際明るかった。

 

 

おぼろげな光に照らされて、敵艦のシルエットが先よりも鮮明に見えてくる。

 

(俺の杞憂だったか…)

 

オーウェンは心の中で呟いた。

 

シルエットを見たところ、三脚マストに前部と後部の二基づつの主砲。

おそらくへ級軽巡洋艦であろう。

15cmクラスの三連装砲を五基装備しているホ級軽巡より火力は弱いが、対空兵装が充実しているという情報が有る。

 

 

「『シカゴ』に打電だ。”先二発見シタ敵巡洋艦ハ、へ級軽巡ト認ム。駆逐艦ノ艦種ハ不明。単縦陣ニテ接近中”」

 

 

「了解」

 

オーウェンはネイサンに打電するように指示を出すと、再び敵艦隊を見下ろした。

吊光弾は内部燃料が無くなったのか光が消えており、暗闇が周辺を支配している。

へ級軽巡を中心とする敵艦隊は、ルソン島北西部に到達したようだ。次々と陸地に沿って面舵を切る。

TG8.1もルソン島北西部沖周辺に展開していたはずだ。そろそろ始まるか?と思った時、ネイサンが落ち着いた様子で報告する。

 

「『シカゴ』より入電。”シーガル1、吊光弾投下準備”」

 

報告を聞いた瞬間、レシプロ機が発する音がとどろき始めた。

多分、周辺の警戒に当たっていた重巡「クインシー」「アストレア」や軽巡「フェニックス」の搭載水偵が飛来したのだろう。

 

「よし、吊光弾投下用意!今度は三分に一発の割合で投下だ!」

 

「了解です!」

 

 

TG8.1は闇のヴェールに包まれており、ここからは見えないが、着実に敵艦隊と距離を詰めているはずだ。

 

 

この時、オーウェンは初の実戦ということで興奮しており、頭に引っかかる事などスッカリと忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

3

 

TG8.1は敵艦隊にT字を描かれていた。

敵艦隊の方がTG8.1より速く、ルソン島の北側に躍り出たため、頭を抑えられる形となったのだ。

 

だが、スプルーアンスとしては予定通りの状態だった。

 

「逆探感二、出力増大中。方位110度」

 

「対水上レーダーに反応あり。中型艦二、小型艦多数。艦隊正面!我々はT字を描かれています!」

 

 

逆探とレーダーの管面を覗いていた二人のレーダーマンが、立て続けに報告を上げる。

 

ほう、という声がスブールアンスの口から漏れた。

レーダーが敵艦隊を捕捉した瞬間に「シカゴ」搭載の逆探が反応したという事は、深海棲艦は地上だけでなく、艦艇にもレーダーを搭載している、ということになる。

 

ルソン島沖海戦の戦闘祥報は、距離二万から敵艦隊は第三艦隊を発見していた可能性が高いと書かれていたが、それは敵レーダーに第三艦隊が探知されていたからかもしれない。

 

 

「にしても、ヘ級軽巡洋艦二隻、駆逐艦十隻ですか…。私はてっきりリ級重巡かル級戦艦が出てくるものだと思っていましたが」

 

 

ムーアが言った。

確かに敵戦力は予想よりかなり弱小だが…。

 

「まだまだ謎が多い深海棲艦です。我々の予想が外れたのでしょう」

 

ノアが薄く笑いながら言った。良い方向に外れてくれた、とでも思っているのかもしれない。

 

「どっちにしろ、叩く以外にあるまい。ここを通させるわけにはいかないからな」

 

スプルーアンスが落ち着いた声で言ったが、顔は正面を向き続けている。目は闇の中から近づいている敵艦隊を見続けているのだろう。

 

 

「司令。日本艦隊にも戦闘に加わるように通達しますか?」

 

ムーアが聞いてくる。

 

「いや、敵艦隊が出現した事だけを伝えればいい。言語の違う艦隊が同じ海域で夜戦を戦うのは同士討ちの危険が多すぎる」

 

もし敵艦隊がル級戦艦を有していたら、コンゴウ・タイプの火力が必要になる。

だが敵艦隊は軽巡二、駆逐艦十のみだ、T字を描かれていても、現有戦力で何とかなるだろう。

 

 

「距離一万八千ヤード(約一万六千メートル)!」

 

 

「敵巡洋艦発砲!」

 

 

二つの報告が、立て続けに飛び込んだ。

一瞬、敵巡洋艦一番艦のシルエットが鮮明に浮かび上がり、轟音が海上に響き渡る。

二番艦も同様だ。艦上の前部と後部に閃光が走り、数秒後に雷鳴のような音が「シカゴ」の艦橋に届く。

 

スプルーアンスは、実物の深海棲艦を初めて見たのだ。

 

その姿は無機質で機械的で、いかにも人類が建造したようなシルエットの巡洋艦だ。

しかし、その艦は人類のいかなる艦艇識別表にも載っていない。

 

 

「司令…!」

 

ムーアが焦慮を隠せない表情で問いかけてくる。敵艦隊に先手を取られた事に焦っているのだろう。

 

「うろたえるな…。『シーガル』全機、吊光弾投下」

 

スプルーアンスはムーアをなだめてから命令を発した。

 

命令電文は、通信アンテナから素早く敵艦隊の上空を舞っているであろう五機のキングフィッシャーに送られる。

 

敵弾が飛来した。

砲弾が高空の空気を切り裂く、甲高い音が轟き始め、それが消えた…と感じた瞬間、「シカゴ」の左前方を航行している重巡「クインシー」の周辺に落下する。

四発の砲弾が二回続けて着弾し、水柱を発生させるが、「クインシー」には命中どころか至近弾すらならない。

ニューオーリンズ級重巡の六番艦として生を受けたの巨体は動じる事なく、最大速度で前進を続ける。

 

現在、TG8.1の巡洋艦五隻は、重巡「クインシー」「アストレア」「シカゴ」軽巡「フェニックス」「フィラデルフィア」の順で斜め単横陣を形成している。

敵艦隊にT字を描かれている場合、前部の主砲しか使えないが、斜め単横陣にする事で全艦が発砲できるようにしたのだ。

 

スプルーアンスがこのような不自然な陣形を選択したのには、理由がある。

 

 

深海棲艦の装備している魚雷のことだ。

 

以前、この海域で生起したルソン島海戦では、日本海軍第三艦隊が深海棲艦との開幕雷撃戦で、巡洋艦三隻と駆逐艦一隻を戦列から失っている。

第三艦隊は自軍の雷撃で同等の被害を敵艦隊に与えたが、TG8.1は…いや、合衆国海軍は日本海軍の酸素魚雷ほど高性能な魚雷を保有していない。

 

そのため、艦首を常に敵艦隊に向けて魚雷に備え、なおかつ全艦が敵を砲撃できるようにしたのだ。

 

「シカゴ」の左前方には「クインシー」、「アストレア」の後ろ姿が見え、艦橋からは死角で見えないが、右後方には「フェニックス」と「フィラデルフィア」が位置しているだろう。

 

 

敵巡洋艦の頭上で、数発の吊光弾が点灯する。

鮮明には程遠いが、無いよりかは何倍もましだった。

 

 

「敵小型艦、針路90度に変針。急速接近!」

 

「距離一万三千ヤード!」

 

レーダーマンが報告し、続いて砲術長のライアン・ガルシア中佐がスペイン語訛りの声で報告する。

その報告を聞き、スプルーアンスは大声で下令した。

 

「『クインシー』『アストレア』『シカゴ』目標、へ級巡洋艦一番艦。『フェニックス』『フェラデルフィア』目標、同二番艦。砲撃開始。第三十、三十三、三十八駆逐隊は敵駆逐艦を牽制せよ!」

 

 

 

 

 

 




いいところですが、切らせていただきます。


次回の話で会いましょう!
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