南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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受験終わった〜長かった〜

今日から南洋海戦物語復活です!

更新頑張るぞ!


第二十二話 ル級の影

午後10時55分

 

 

1

「『シカゴ』より入電。”全艦突撃。第三十、三十三、三十八駆逐隊ハ敵駆逐艦ヲ牽制セヨ“」

 

第三十三駆逐隊(DDG33)旗艦、駆逐艦「バトラー」の艦橋に通信士の報告が上がった。

 

「DDG33、針路285度。最大戦速!」

 

通信士の報告を聞くや、DDG33司令のワイアット・グレン大佐は、早口で下令した。

DDG33はTG8.1に所属する駆逐隊であり、指揮下にリヴァモア級駆逐艦「バトラー」「ナイト」「フランクフォード」「ハーディング」の四隻を収めている。

 

「バトラー」周辺の海面が激しく泡立ち、艦が加速される。

左正横に位置している重巡洋艦「クインシー」を初めとする巡洋艦部隊が後方に過ぎ去り、「ナイト」「フランクフォード」「ハーディング」も遅れじと加速し、DDG30、DDG38の駆逐艦八隻も続く。

 

やや艦首が右に振られ、接近中の敵駆逐艦と相対する。

 

「敵駆逐艦、二群に分離。第一群は右前方、第二群は左前方より接近。距離一万三千ヤード!」

 

見張りが大声で言った。

ワイアットは正面の海域に目を凝らすと、左右に展開し始める敵駆逐艦群がぼんやりと見え、その後方に、発砲を開始した二隻のへ級軽巡洋艦が位置している。

 

「こいつは…乱戦になるぜ」

 

ワイアットは軽く唇を舐めながら言った。

敵駆逐艦はDDG33、DDG30、DDG38を左右から挟撃しようとしている。

砲戦によって駆逐艦十二隻を突破し、後方の巡洋艦を雷撃しようとしている根端かもしれない。

 

「DDG33、砲撃開始しつつ針路340度。奴らに魚雷を撃たせるな!」

 

「了解。面舵一杯(ハードスターボード)、針路340度!」

 

ワイアットが命じ、「バトラー」艦長ジェラルド・タッカード中佐が航海長に指示を出す。

 

「バトラー」の舵輪が回されている最中に、第一、第二単装砲塔が正面の敵駆逐艦に向かって火を噴く。

二門の砲口から五秒毎に直径十二.七センチの砲弾が発射され、鋭い砲声と衝撃が艦を包み込む。

すぐに「バトラー」の艦首が右に振られる。

リヴァモア級駆逐艦は基準排水量が千六百トンほどしかないため、舵輪を回してから艦が回頭するまでのタイムロスがなきに等しいのだ。

 

やがて「バトラー」が直進に戻り、後続艦三隻も順次直進に戻って行く。

 

針路340度に変針した事で、DDG33の駆逐艦四隻は右前方から接近しつつあった敵駆逐艦第一群の頭を押さえる形になっている。

 

四隻の駆逐艦の艦上では、計五基の十二.七センチ単装両用砲が素早く左側に指向し、砲撃を開始する。

 

敵も俄然、反撃する。

先頭の敵駆逐艦が発砲し、閃光によってその姿が海上に浮かび上がらせ、それを皮切りに後続の敵駆逐艦も撃ち始める。

 

(少し分が悪いな…)

 

ワイアットは敵艦隊を見ながら思った。

水偵の報告によると敵駆逐艦の数は十隻とあったが、見た所十五隻はいる。

敵駆逐艦第一群は七、八隻ほどで、こちらは四隻のみである。

DDG30とDDG38は共に第二群を相手取っており、DDG33は自らより倍の敵駆逐艦を牽制しなければならないのだ。

 

四隻のリヴァモア級駆逐艦の主砲が、数秒おきに咆哮し、火力が先頭の敵駆逐艦ーーイ級駆逐艦ーーに集中される。

 

「バトラー」が放った四回目の射弾から、命中弾が出始めた。

 

イ級駆逐艦の前部に十二.七センチ弾が直撃し、火焔が躍る。それと同時に砲塔らしき四角い箱が宙に舞い、イ級の艦上で火災が発生し始めた。

 

火災という格好の標的を得たDDG33は射撃の精度を上げ、これ見よがしに砲弾を叩き込んでゆく。

四発の十二.七ミリ弾が同時にイ級の艦橋に直撃し、これを粉砕する。

艦橋の上半分が消失し、イ級の艦影を特徴づけていたマストが衝撃でへし折れる。

艦橋を飛び越えた砲弾は対空機銃や煙突を爆砕し、舷側に命中した砲弾はこれをえぐって大穴を穿つ。

生き残った第二砲塔が砲撃を継続していたが、やがて直撃を喰らい、沈黙する。

イ級駆逐艦に雨霰と砲弾が降り注ぎ、主砲だろうと艦橋だろうと、次々と破壊されていく。

 

わずか四十秒ほどの間に、二十発以上の砲弾を叩き込まれたイ級駆逐艦は、速力が大幅に低下し、艦影が大きく変わっている。

いたるところで火災が発生し、さながら海の幽霊船だ。

 

先頭のイ級が落伍し、黒煙を突いて後続のイ級駆逐艦が姿をあらわす。

 

「目標、二番艦!」

 

タッカードが射撃指揮所に怒鳴り込み、次の瞬間には新目標に向けて射撃が再開される。

 

その時、衝撃が「バトラー」を襲った。

艦全体が小刻みに震え、後方から炸裂音が響く。

 

「一番煙突に直撃!」

 

「敵もやられっぱなしじゃねえな」

 

見張りの報告に、ワイアットは顔を引きつらせながら呟いた。

敵駆逐艦が放った砲弾の一発が 艦橋の真後ろにある煙突を吹き飛ばしたのだ。

少し前にずれていたなら、艦橋に命中していたかもしれない。

 

しかし、それでDDG33の勢いを止めることは出来なかった。新たに先頭になったイ級駆逐艦も、一番艦と同様の運命を辿る。

 

四隻の駆逐艦に袋叩きにされた二番艦は、短時間で多数のダメージを受け、戦列を離れる。

 

「いいぞ!」

 

ワイアットは喝采を叫んだ。

短時間でイ級二隻を戦闘不能にしたのは、上出来と言える。

 

 

「第一群、針路150度に変針!」

 

DDG33が、新たに先頭になったイ級三番艦に対して砲撃を開始した時、艦橋見張りが報告を上げた。

 

ワイアットは彼我の針路を脳裏に描いた。

DDG33の針路は285度、敵駆逐艦第一群は針路を90度から150度に変針したという事は、敵はDDG33の後方をすり抜ける形で突破しようとしているのだ。

 

「そうはさせるか。DDG33、右一斉回頭!」

 

ワイアットはタッカードに言った。

素早く命令電文が指揮下の駆逐艦に飛び、一糸乱れず四隻の駆逐艦が回頭する。

 

左後方に見えていた敵駆逐艦が左に流れ、視界の外に消える。やがて「ナイト」や「フランクフォード」の後部が視界に入り始め、先まで左後方に見えていた敵駆逐艦が右前方に見えて来る。

 

一斉回頭をおこなった事で、「バトラー」が最後尾に、「ハーディング」が先頭に入れ替わったのだ。

 

砲撃を再開したのは、敵の方が早かった。

双方の変針で、DDG33の右前方をやや先行する形となった敵駆逐艦第一群が、先頭の鑑から導火線に火をつけたかのように順に発砲を再開する。

発砲の閃光の数から、敵駆逐艦は六隻ほどだろうか?

 

「ハーディング」の周辺に、多数の水柱が上がる。

敵艦隊は、先頭の艦から順番に無力化していこうと考えているのかもしれない。先にDDG33が敵にやったことを、そのまま返す形だ。

 

「敵艦隊との距離は?」

 

「五千ヤード!」

 

ワイアットの問いに、タッカードは即答した。

少し考えた後、ワイアットの口が開いた。

 

「DDG33、魚雷発射用意!」

 

リヴァモア級駆逐艦の搭載している魚雷はMk11魚雷で、射程距離は

五千五百メートル。十分に敵艦隊を捉えられる距離だ。

 

「魚雷戦用意。発射角調整始急げ!」

 

タッカードが水雷指揮所に指示を出す。

 

一隻に五連装発射管は二基付いており、四隻で合計四十本のMk11魚雷を発射することが可能だ。

敵駆逐艦六隻を、切り札の魚雷で一掃してしまう考えだ。

 

しかし、DDG33が発射準備をしている間、破滅は突然に訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、右前方より雷跡多数。距離五百ヤード!」

 

見張りが悲鳴じみた声で叫んだ。

突然の出来事で艦橋にいる全員に衝撃が走る。

 

「馬……鹿…な!」

 

ワイアットはかすれるような声で言った。

 

敵は、いつ魚雷を発射したのか。なぜ五百ヤードという距離まで雷跡を発見できなかったのか。敵駆逐艦は巡洋艦を魚雷で仕留める為に突撃して来たのではなかったのか。などの疑問が頭から湧き出て来たが、それは「馬鹿な」という一言にしか表現できなかった。

 

直後、凄まじい衝撃が「バトラー」の艦首から突き上がり、セコイヤの木のような、途方もない大きさの水柱が天高く上がった。

 

 

艦橋は巨大な手に振り回されているように揺れた。

ワイアットは衝撃で隔壁に後頭部をぶつけ、頭蓋を砕かれてしまう。

視界いっぱいに海水が見えた瞬間、ワイアットの意識は暗転した。

 

 

この時、「バトラー」の他にも「ナイト」「フランクフォード」の二隻が艦首に被雷し、「フランクフォード」は艦の半分以上が海面下に没している。

 

辛うじて魚雷を躱した「ハーディング」はなおも砲撃を続けたが、六隻のイ級駆逐艦に何十発もの砲弾を叩き込まれ、艦首から艦尾までどす黒い煙を吐き出しながら海上に停止している。

 

 

DDG33を壊滅さした駆逐艦第一群の六隻は「ハーディング」との砲戦で被害を受けたものの、針路を50度に取り、戦場の混沌へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

2

 

 

 

轟音が響き渡った。

 

それと同時に雷を何十倍かにしたような閃光が走り、周辺を一瞬だけ真昼に変える。

左前方を航行中の「アストレア」の後部が照らされて暗闇に浮かび上がり、自分が乗っている「シカゴ」の艦首や錨、揚収機が鮮明に照らし出される。

第一砲塔と第二砲塔の各二番砲身が、艦隊正面でT字を描いているへ級巡洋艦に向かって放たれたのだ。

 

 

「砲術より艦橋。敵巡洋艦、針路200度に変針。距離二万五千ヤード」

 

「シカゴ」が放った砲弾が着弾するより早く、「シカゴ」砲術長マーチン・ガルシア中佐が報告した。

 

「またか…」

 

TG8.1司令官レイモンド・スプルーアンス少将は軽く舌打ちしながら呟いた。

戦闘開始以来、十五分以上が経ったが、TG8.1の巡洋艦五隻は敵艦に一発の砲弾も命中させることができていない。

 

二隻のへ級軽巡洋艦は、数分毎に変針を繰り返し、砲弾をことごとく躱わしているのだ。

しかも南北へのピストン運動を行い、巡洋艦に対してT字を維持し続けている。

 

彼我の戦力差を考えれば当然の戦法かもしれないが、スプールアンスは敵が消極的すぎる、と疑問に思っていた。

 

「砲撃待て」

 

「シカゴ」艦長クリス・バーモント大佐がマーチンに指示を出す。

夜間、変針中の敵艦に発砲しても当たりっこない。その事を考慮したのだろう。

「クインシー」「アストレア」「フェニックス」「フェラデルフィア」も砲撃を中断し、駆逐艦同士の砲声のみが海上にこだまする。

 

針路を200度に変えたことで、右前方に見えていた敵巡洋艦が正面に移動する。

さっき放った砲弾は着弾してると思われるが、水柱は見えなかった。

 

スプールアンスが砲撃再開の指示を出そうとしが、艦橋に届いた報告に遮られた。

 

「『バートン』より入電です。”DDG33全滅。DDG30戦力半減、我、苦戦中”」

 

「シカゴ」の艦橋にどよめきが広がったが、スプールアンスの対応は素早かった。

 

「砲撃目標を駆逐艦に変更。各艦、準備でき次第射撃を開始」

 

放っておけば後々厄介になると思い、へ級軽巡を砲撃していたが、へ級は変針を繰り返し砲弾を躱し続けるだけで、らちがあかない。

 

ここは味方駆逐艦を援護し、なおかつ敵駆逐艦の魚雷攻撃という不安要素を取り除こうと考えたのだ。

 

射撃を繰り返していた主砲が沈黙し、右前方に旋回する。

 

「敵駆逐艦六隻接近。本艦より方位320度、距離一万ヤード」

 

レーダーマンからの報告が艦橋に届く。

スプールアンスは報告のあった方向に双眼鏡を向けた。

 

六隻の駆逐艦が視界に入ってくる。

最後尾の一隻は多数の砲弾を喰らったらしく、火災を起こしているようだ。

それでも、敵駆逐艦は真一文字に突っ込んで来る。

 

左前方に位置している「クインシー」が一番最初に発砲した。

発砲した瞬間、「クインシー」の姿がくっきりと浮かび上がり、右側海面にさざ波が立つ。

 

「アストレア」も続く。

 

「クインシー」より距離が近いため、砲声は強烈だ。

 

発砲した瞬間、真っ赤な火焔が砲身から噴き出すのが、はっきりと見える。

 

「射撃を開始します」

 

クリスが確認を取るように言うと、スプールアンスは静かに頷いた。

 

「艦長より射撃指揮所、射撃開始。繰り返す、射撃開始!」

 

クリスが三脚マストのてっぺんに位置している射撃指揮所に連絡すると、一拍の間を空けて、「シカゴ」の第一、第二、第三主砲が轟然と咆哮した。

各三門、計九門から二十.三センチ砲弾が火焔と共に叩き出され、衝撃が艦全体を打ちのめす。

戦艦ほどでないにしろ、衝撃、轟音、閃光、どれをとっても強烈だ。

 

マーチンは敵駆逐艦を砲撃するにあたり、斉射を利用すると決めたようだ。

 

後方の「フェラデルフィア」「フェニックス」も十五.二センチ三連装砲を敵駆逐艦へ向け発砲する。

 

五隻の巡洋艦が発砲した砲弾は、敵駆逐艦の周辺に着弾する。

先頭のイ級は、立て続けに落下してくる砲弾に射すくめられているようだ。

 

「駆逐艦の隊列、乱れます!」

 

見張りが報告する。敵も、まさか全ての巡洋艦が駆逐艦を攻撃してくるとは思っていなかったのかもしれない。

 

だが、第一射での命中弾はない。

深海棲艦駆逐艦部隊は、臆する事なく距離を詰めて来る。

 

「蹴散らせ。DDG33の仇だ!」

 

クリスが皆を鼓舞するために叫ぶ。

その声に触発されたかのように「クインシー」「アストレア」が第二射を放ち、「シカゴ」は第二斉射を放つ。

艦首から艦尾までを衝撃が貫き、少しの間、硝煙が視界を防ぐ。

 

「クインシー」「アストレア」の射弾は外れるが、「シカゴ」の射弾は違った。

イ級駆逐艦の左右に高々と水柱が上がり、艦上に閃光が走る。

 

逆光で一瞬だけ見えたが、箱型の艦橋は二十.二センチ砲弾に爆砕され、跡形もない。同時に長細い物や鉄板のような平べったい物が周辺に飛び散り、海面に飛沫を上げる。

 

「目標、後続のイ級!」

 

スプールアンスは五隻の巡洋艦に指示を出した。

「シカゴ」の砲弾を喰らったイ級は、致命傷を受けたようだ。速力が衰え、続々と後続のイ級駆逐艦に追い抜かされている。

 

脅威度が高いのは、無傷のイ級駆逐艦だ。

 

イ級二番艦に対しては、三回の射撃修正で「フェニックス」が直撃弾を得て、斉射に移行した。

 

「フェニックス」が搭載しているのはMk16 十五.二センチ三連装速射砲であり、約五秒で再装填を完了し、発砲できる速射性能を持っている。

 

第一斉射で二発が命中し、イ級は前部の主砲一基と後部煙突が粉砕される。

第二、第三斉射ではそれぞれ三発が命中し、イ級の艦首、中央部、艦尾と、まんべんなく艦体をえぐる。

 

「フェニックス」が第四斉射を放つ必要は無かった。イ級駆逐艦二番艦は、一寸刻みに破壊され、黒煙を引きずりながら左に回頭する。

「フェニックス」の連続斉射を受けて、回避せざるおえなかったのかもしれない。

 

二番艦が回避行動に移り、新たに先頭になった三番艦にも、火力が集中される。

二十.三センチ、十五.二センチ砲だけでなく、射程距離に入った各艦の十二.七センチ単装高角砲も砲撃に参加し、三番艦は先頭になってから数秒後には直撃弾を受け始める。

果敢に発砲していたイ級の前部主砲二基に、十二.七センチ砲弾が命中し、正面防盾を切り裂き、砲身を吹き飛ばす。

被弾したマストが根元から倒壊し、煙突を下敷きにする。

 

そこに、とどめと言うべき砲弾が飛来して来た。

「アストレア」が放った二十.三センチ砲弾が艦首に命中し、これを粉砕する。

やや前のめりになり、速力の低下したイ級に「シカゴ」の斉射弾が落下する。

三番艦の周りを多数の水柱が突き上がり、イ級駆逐艦の姿を隠す。水柱が、真っ赤な爆炎を反射して赤く染まる。

水柱が収まった時、至る所で火災を背負い、スクリューを覗かせているイ級駆逐艦が、海上に停止していた。

 

「残存敵駆逐艦、速度変わらず。なおも接近!」

 

レーダーマンが焦りを露わにして報告する。

敵駆逐艦は、いくら損害を受けても遮二無二に突撃してくる。

 

この時、スプルーアンスの脳裏に、忌まわしい記憶が蘇った。

潜水艦に囲まれ、右往左往する巡洋艦、魚雷を喰らい、大きく跳ね上がるタンカー、「ノーザンプトン」が被雷した時の天地がひっくり返るような衝撃。

 

敵駆逐艦の魚雷発射だけは阻止しなければならない。

 

 

「『クインシー』に至近弾。敵巡洋艦からの砲撃です!」

 

「敵巡洋艦、針路120度。距離一万四千ヤード!」

 

 

見張りの報告と、レーダーマンの報告が同時に艦橋に届く。

 

今まで逃げ回るだけだった二隻のへ級軽巡洋艦が、好機と見て距離を大幅に詰み、「クインシー」を砲撃しているのだ。

 

「斜め単横陣から単縦陣に移行。針路300度!」

 

「本艦、『クインシー』『アストレア』は敵巡洋艦を攻撃せよ」

 

スプルーアンスは矢継ぎ早に二つの命令を発した。

 

敵巡洋艦と敵駆逐艦を砲撃しつつ、これらの間を通る針路だ。

 

「針路300度、ハードスターボード!」

 

クリスが操舵室に通じる伝声管に怒鳴り込む。

すぐさま舵輪が回されたと思われるが、舵はすぐに効かず、巡洋艦五隻は前進を続ける。

 

舵が効くのを待っている間も、砲撃は続行される。

 

敵駆逐艦四番艦は「フェラデルフィア」と「フェニックス」の砲撃を受けており、今にも直撃しそうだ。

 

敵駆逐艦の砲弾が「シカゴ」に命中したが、中央舷側の重要防御区画(バイタルパート)に当たったらしく、鉄塊同士をぶつけたような音と共に弾かれる。

 

「シカゴ」の第一、第二砲塔が敵巡洋艦を捕捉すべく左側海面に指向している途中、前方の「クインシー」「アストレア」が右に艦首を振り、「シカゴ」も続いた。

TG8.1の巡洋艦五隻は、斜め単横陣から単縦陣に移行するため、計算で弾き出された周回半径に従って回頭する。

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

顔を真っ青にしながら、通信長が入ってきたのは。

 

 

 

 

 

「TG8.2より入電です!」

 

通信長はスプールアンスや、カール・ムーア参謀長に断らずに話し始めた。

 

 

「”我、戦艦二隻、巡洋艦四隻ヲ含ム敵大艦隊ト遭遇ス、至急来援コウ“です!」

 

 

 

 

 

 

 

最初、スプールアンスは通信長が何を言っているのかわからなかった。

いや、それを真実とは思いたくなく、理解しようとしていなかっただけかも知れない。

 

「司令…!」

 

ムーアの声で、スプールアンスは我に返った。

すごい勢いで窓際に寄り、「シカゴ」の後方に目を向ける。

 

戦闘開始時には見えていたルソン島が、どこにもない。

TG8.1は敵艦隊との戦いで、ルソン島が見えない海域まで釣り出されてしまったのだ。

 

「これが狙いか…深海棲艦!」

 

スプルーアンスは頭が熱くなり、怒りがこみ上げて来た。

 

その半分は深海棲艦の策略にはまってしまった自分自身に向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 




やべえ、深海棲艦強すぎる。自分でも思いました。


次回「灼熱のアトランタ」

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