9月19日
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「待たせたな……!」
艦橋で大声を上げられるのは迷惑なはずだが、艦橋要員は嫌な顔一つしない。それどころか、微笑を浮かべているものもいる。
それは、大声を発した人物が艦隊司令官であり、部下の心情を完全に把握しているからに他ならない。
TF16司令官ウィリアム・ハルゼー中将。
「猛牛」のあだ名で呼ばれ、合衆国海軍一の猛将だと知られる指揮官である。
好々爺とした外見に、相手のいない格闘家のような目つきをしており、ややとっつきにくく感じてしまうところもありそうだ。
だが、「空母部隊の指揮官になるなら、パイロットの身になって考えなければならないこともある」と思い、わざわざパイロット養成学校に入学するなど、部下思いの一面もある。
そしてパイロット資格を取ってしまうから驚きだ。
部下からの信頼も厚く、その存在はチェスター・ニミッツ大将(米太平洋艦隊司令長官)からも一目置かれている。
合衆国海軍は、この猛将に日本への増援部隊を託したのだ。
(レイには苦労をかけたな…)
正面に淡路島が見え始め、誘導の日本駆逐艦が姿を現した頃、ハルゼーは胸中で呟いた。
当初、日本に回航する部隊ーー
その優秀な艦隊指揮能力と、勇猛果敢な性格が、フィリピン奪還に役立つと考えられたからだ。
しかし、太平洋艦隊司令部から「待った」がかかる。
オアフ島真珠湾に司令部を置いていた前太平洋艦隊司令部は、3月1日に全滅しており、ハズバンド・キンメル前太平洋艦隊司令長官や、次席指揮官とされていたウィリアム・パイ中将は全員死亡してしまった。
そのため、前任からの引き継ぎがまったく出来ぬままに、ニミッツは太平洋艦隊を任されてしまったのだ。
優秀な現場指揮官も圧倒的に不足し、太平洋艦隊は危機的状況に陥ってしまう。
新生太平洋艦隊の最初の任務は、深海棲艦の攻撃から米西海岸を防衛することだった。
西海岸にはサンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴといったメガシティが点在し、数百万人の民間人が住んでいる。
ーー彼らをフィリピンの二の舞にしてはならない
と考えた太平洋艦隊は、残存艦艇で
そして、指揮官にハルゼーを指名したのだ。
ハルゼーは優秀な指揮官であり、胆力もある。
その力でこの状況を乗り切ろうと考えたのだ。
個人的にハルゼーは、極東の友軍をこの手で救い出したいと考えていたが、命令には逆らわなかった。
だが、自らの代わりにTF8司令官になる人物を指名することとなる。
それが、TF8の指揮下で第四巡洋艦戦隊の指揮を取っていたレイモンド・スプルーアンス少将だった。
物事をつぶさに観察して分析することに長け、冷静かつ的確な判断を下すことができる。
だが、その時は無名の少将であり、ニミッツは難色を示したが、ハルゼーの「彼ならやってくれる」の言葉を信じ、TF8司令官、強いては米アジア艦隊司令官に任命する。
その判断が正しかったは、ここ半年間に証明されていた。
一癖も二癖もある日本帝国海軍や、タイワンに派遣された陸軍戦略航空軍と協調し、フィリピンの深海棲艦と互角以上に渡り合っている。
ハルゼーはスプルーアンスとの再会を楽しみにしていた。
日本に到着すれば、ハルゼーは米アジア艦隊の一員として、スプルーアンスの指揮下で戦うこととなる。
スプルーアンスは少将、ハルゼーは中将。
上下関係が厳しい軍としては、良い傾向とは言えなかったが、ハルゼーはスプルーアンスの下でなら戦ってもいいと考えていた。
ハルゼーの脳裏に、スプルーアンスの顔が浮かび上がる。
現在の米アジア艦隊の戦力は、重巡「シカゴ」「アストレア」軽巡「フェラデルフィア」「フェニックス」「ボイジ」「サヴァンナ」中型空母「ハンプトン・ローズ」「ホワイトオーク」駆逐艦二十二隻。
今までに重巡二隻、軽巡一隻、駆逐艦十三隻を深海棲艦との戦闘で失っている。
ベーリング海経由のNシリーズ船団を護衛してきた部隊を、増援艦艇として編成に組み込み続けていたが、その戦力は貧弱であり、それらの増援でアジア艦隊が特別強力になるわけではなかった。
だが、ハルゼーはスプルーアンスを満足させれるだけの戦力を揃えられたと自負している。
今回の日本に対しての増援は、今までで最大規模だ。
TF16と、
TF16はヨークタウン級正規空母の「エンタープライズ」「ホーネット」と護衛の重巡洋艦二隻、駆逐艦十五隻という編成であり、TF17も「ヨークタウン」「ワスプ」に重巡洋艦二隻、駆逐艦十三隻という編成だ。
TF25は戦艦を中心とする水上砲戦部隊であり、戦艦「ノースカロライナ」と「ワシントン」「コロラド」「ウェーストバージニア」を中心に、軽巡洋艦二隻、駆逐艦八隻となっている。
ヨークタウン級空母は、1937年より順次竣工し始めた大型正規空母だ。
編成にもよるが、八十機〜九十機の航空機を搭載することができ、空母機動部隊の中核をなす存在である。
右側にアイランド型の艦橋を据えており、艦首から艦尾まで広大な飛行甲板が広がっていた。
威容は戦艦に及ばないが、航空機新時代にふさわしい精悍な姿を、海上に浮かべている。
同型艦の「ヨークタウン」「エンタープライズ」「ホーネット」は全てTF16、17の編成に組み込まれており、近々実施予定の大規模反攻作戦に参加する予定だった。
「ワスプ」はロンドン海軍軍縮条約の制限ギリギリのトン数で建造された中型空母だ。
中型空母と言っても、搭載機は七十六機を搭載することができ、日本海軍の「ヒリュウ」「ソウリュウ」の機数よりも多い。
さらにハンプトン・ローズ級中型空母の原型になっており、能力は他の空母と遜色ない。
TF17の指揮下に入っており、航空戦の一翼をになうことが期待されている。
「ノースカロライナ」と「ワシントン」は、合衆国海軍が満を持して送り出す新鋭戦艦だ。
ワシントン軍縮条約が失効した後に建造されたため、様々な新技術を盛り込んだ高性能艦として完成した。
新開発の機関を搭載し、最高速度は二十七ノットを記録。
主兵装は四十五口径四十センチ三連装砲を三基九門を搭載しており、タ級戦艦と互角の火力を誇る。
航空機に対応した両用砲や、世界初の射撃管制コンピュータが搭載され、新鋭戦艦に相応しい能力を手に入れていた。
艦影は従来の籠マストではなく、教会の尖塔のようなものに変化しており、空母同様、新時代の雰囲気を醸し出していた。
戦艦戦力の一翼をになう「コロラド」「ウェストバージニア」の二隻はコロラド級戦艦の一、三番艦である。
海軍休日では、世界に七隻しかいない四十センチ砲搭載艦であり、真珠湾攻撃で沈められた「メリーランド」、日本海軍の「ナガト」「ムツ」、イギリス海軍の「ネルソン」「ロドネー」と共に、世界のビックセブンと呼ばれた。
ノースカロライナ級戦艦の登場までは合衆国海軍最強の戦艦であり、同級登場の後も、四十センチ砲八門の大火力は貴重な戦力である。
半年間に渡ってTF99の主力を務めていたが、今回はTF25の指揮下に入っており、真珠湾に眠っている姉妹艦の雪辱を晴らすべく、反攻作戦に参加する予定だった。
ハルゼーがそんなことを考えているなどいざ知らず、TF16、17、25は紀伊海峡を通過し、淡路島をかすめ、瀬戸内海に進入する。
駆逐艦、巡洋艦、空母、戦艦の順で進み、点在する島を避けるようにして目的地に向かう。
ハルゼーは周囲を見渡した。
心地よい海風が肌を撫で、点在する小島の緑と海の蒼色の組み合わせが美しい。
夏らしい日差しが照りつけ、海面は宝石のように輝いている。
遠方の空と地の境界線には山々の連なりが見え、それもまた綺麗で、とても幻想的な風景だった。
ーー日本駆逐艦に先導されて進むこと三十分。
三つの任務部隊は、柱島泊地に到着した。
小型艦、中型艦、大型艦別の錨地に誘導され、機械的な音響とともに錨を下ろす。
アンカレッジを出港して十日。
計五十隻の大艦隊は、一隻の落伍艦も無しに、目的地にたどり着くことができたのだ。
ハルゼーは、ひとまずそのことを喜びたかった。
柱島泊地は日本帝国海軍が内地に持つ泊地の中で最大だ。
連合艦隊司令部も位置しており、合衆国で言うところのサンディエゴか、真珠湾である。
当然のごとく、先客として多数の艦艇が停泊してた。
戦艦は十隻が舳先を並べており、空母や巡洋艦、駆逐艦などの艦をも合わせると百隻を優に超える。
戦艦は、日本特有のパゴダマストを天に向けて屹立させており、さながらマンハッタンの摩天楼を見ているようだ。
ビッグセブンの一員である「ナガト」「ムツ」、ニューメキシコ級戦艦、テネシー級戦艦のライバルと言えるイセ・タイプやフソウ・タイプ、最大速度ならノースカロライナ級すら上回るコンゴウ・タイプなどの日本戦艦が勢揃いだ。
空母、巡洋艦も「アカギ」「カガ」やショウカク・タイプ、ミョウコウ・タイプやモガミ・タイプ、トネ・タイプなどが、錨を下ろしている。
少将旗を掲げている「シカゴ」も停泊しており、米アジア艦隊のマニラに変わる母港でもあった。
日本海軍艦艇識別表に掲載されている主力艦のほとんどが、ここ柱島泊地に集結しており、大規模反攻作戦が近いことを否応にも伝えてる。
いや、一隻だけ合衆国海軍の識別表に載っておらず、他の艦に比べて異彩を放っている艦がいた。
隣に停泊しているナガト・タイプが、巡洋艦に見えてしまうほどの巨艦だ。
長さ、太さ共に比べ物にならない。
艦橋は日本海軍伝統のパゴダマストではなく、かなりスッキリとした印象を受ける。
上部構造物は中央よりやや後ろにまとまって配されており、主砲も他の日本戦艦では類を見ない三連装砲だ。
日本海軍も、合衆国海軍のノースカロライナ級戦艦と同じく、軍縮条約開けの新鋭戦艦を建造したようだ。
「あれが、『ヤマト』か…」
ハルゼーは、そう独り言ちた。
日本海軍からの事前情報で、ハルゼーは事前に「ヤマト」の存在を把握していたが、実物を見るのはこれが初めてだ。
ぶっちゃけ言って、ノースカロライナ級よりも力強く見える。
その容姿は、大日本帝国海軍がいかに精強で、いかに頼りになる味方かを、合衆国海軍全将兵に語りかけるかのようだった。
数秒間「ヤマト」を見続けたハルゼーは、頭を切り替えると、振り向いてこう言った。
「では諸君。行こうか」
それを聞いて、参謀長マイルズ・ブローニング中佐を初めとするTF16司令部の参謀たちが、一斉に頷いた。
2
二十分後、呉鎮守府内の第四会議室には、室内一杯に将校が集まっていた。
六つある窓は全て開けられており、計三台の扇風機が回っていたが、9月の残暑とこの人口密度の中では、なんら意味をなしていない。
風巻康夫GF首席参謀は、扇子で自をあおぎたい衝動を抑えつつ、室内を見渡した。
第四会議室は呉鎮守府にある会議室で、もっとも大きいはずだが、席に座りきれずに立っているものもいる。
だが、予定の人物は全員集まったようだ。
レイモンド・スプルーアンス少将を始めとする米アジア艦隊司令部、米増援部隊の総指揮を取っていたウィリアム・ハルゼー中将らTF16司令部、フランク・J・フレッチャー少将らTF17司令部、台湾に展開しているカール・スパーツ中将ら
その他にも、英東洋艦隊の連絡員として、同参謀長のアーサー・E・パリサー少将や、三和義勇GF作戦参謀、宇垣纒GF参謀長なども列席していた。
いずれも今回の作戦に参加する部隊の幕僚たちだ。
傍らに座る山本五十六GF司令長官と目が合うと、山本は軽く頷いたため、風巻はGOサインが出たと判断し、書類を左手に、指揮棒を右手に持って立ち上がった。
会議室の壁に立てかけられている黒板の前まで歩く過程で、ざわざわしていた会議室が静まり返り、全員の目が風巻に向く。
「今回の作戦の決行日は、10月6日に決定されました。作戦名は“KD”作戦です」
風巻は、開口一番そう英語で言った。
“
今日は9月19日だから、作戦発動日は約二週間後だ。
作戦内容を部隊内に行き渡らせ、最終調整するには十分な時間であろう。
「ここにいる全員は当然承知していると思いますが、今回の作戦が失敗して南方航路を復活できなかった場合、国内備蓄の重油が底をつき、陸海軍関係なく全ての兵器が使用不能になります。よって、戦略目標を忠実に、正確に、完璧に達成していただきたい」
風巻はそう言って、傍に立つ従兵に顎で示した。
二人の従兵は、磁石を使って二つの大きな紙を黒板に貼り付ける。
一つは東はハワイ、西はシンガポールまで、太平洋の西半分が網羅された地図。
もう一つは台湾南部から南東シナ海、バジー海峡、フィリピン全土を網羅された地図だ。
後者は、前者よりもフィリピンの締める割合が大きかった。
「作戦は、言わば“極東打通”を戦略目標の根幹に据えています。目標はあくまで南方油田地帯との航路復活であり、フィリピンの奪還ではありません。極東の制空権、制海権の奪還が第一目標です」
そう言った瞬間、ハルゼーの眉毛がピクリと動いたような気がしたが、風巻は意に返さない。
ここで一息つき、指揮棒を後者の地図上のマニラ湾に向けた。
「極東の深海棲艦海上兵力は、ここ、マニラ湾に集中しています。配布した資料にも載ってると思いますが、タ級戦艦二隻を含む戦艦五隻、巡洋艦はリ級やホ級、ヘ級を合わせて十隻、駆逐艦は三十隻以上が停泊していることが確認されています。潜水艦の数は判明していませんが、二、三十隻は展開していると見て良いでしょう」
マニラ湾には、敵艦隊を示す赤い磁石が貼り付けてあった。
敵艦隊は、かなり厄介な存在になるだろう。
極東の制海権を奪取するには、全てを敵艦を戦闘不能にしなければならないからだ。
「続いて敵航空兵力についてです。飛行場姫は、ここと…ここと、ここ。計三ヶ所が確認されています。中でも、最大規模の大きさを持つのは、クラーク・フィールド飛行場姫です。推定五百機の甲型戦闘機、乙型爆撃機が展開しており、敵航空兵力の約半分を占めています。他の二ヶ所も、二百五十機以上の航空機を有していると見られており、同地の制空権を奪取するには、初戦で潰しておく必要があります」
風巻は、タンタンタンと三ヶ所の飛行場姫がある場所を交互に指揮棒で叩き、そう言った。
クラーク・フィールド飛行場姫、イバ飛行場姫、バレル飛行場姫の三ヶ所には、敵飛行場を示す赤い飛行機マークの磁石が貼り付けてある。
合計で、約千機。
全ての飛行場姫を使用不能にするのは、骨が折れそうだ。
「それと…」と風巻は言葉を続ける。
「マニラ中心街に発見された深海棲艦の巨大構造物ーー通称『南方棲鬼』ーーですが、我が国の研究機関の分析によると、深海棲艦のエネルギー精製施設である可能性が高いという結論に至りました。まだ確実な情報ではありませんが、75%の確率でそうだと判断することができます」
風巻がそう言うと、間髪入れずに一航艦司令長官の南雲が手を挙げた。
風巻の発言内容で、疑問に思うところがあったのだろう。
「その、南方棲鬼……だが、どのような根拠で、深海棲艦のエネルギー精製施設だと判断したのか?」
風巻はその問いをある程度予想していた。南雲の言葉が耳に届くや、ある人物に目配せをする。
「それについては、私からお伝えします」
風巻に劣らない流暢な英語が、会議室に響いた。
深海棲艦戦略情報研究所の所長である山口文次郎(やまざき ぶんじろう)大佐だ。
長らく対米諜報を担当する軍令部第三部五課の課長を務めており、3月8日以来では、新たに設立された深戦研の所長に収まっている。
情報分析のプロであり、技術士官や科学者などの部下の掌握にも長けている。
謎が多い深海棲艦と戦うには、情報の面で必要不可欠な人物だった。
「南方棲鬼が敵のエネルギー精製施設だと判断される根拠は、二つあります。第一の理由は、構造物の発光現象と発熱現象です。複数回の偵察で得た航空写真を分析した結果、南方棲鬼は常時閃光と水蒸気を放出していることが確認されています。これらの原因は、なんらかのエネルギーが棲鬼内で精製される際に、完全に変化し切れないものが具現化し、構造物表面に光と熱として発生したと思われます。使い続けて熱を持ったバッテリーを想像して頂ければわかりやすいかも知れません。続いて第二の理由です。南方棲鬼のような巨大構造物は、マニラ以外に真珠湾でも確認されています。二つの棲鬼に共通することは、巨大構造物周辺の海水が黒く汚染されている、ということです。マニラ周辺の海水は我が軍の伊162が採取し、ハワイ周辺の海水は貴国海軍の潜水艦が採取しました。二つの海水を長時間かけて慎重に分析した結果、台湾に不時着した深海棲航空機の内部から検出された液体と、全く同じ性質を持つことが判明しました。我々はこの液体が深海棲艦の動力源ーーすなわち燃料だと見ています。以上のことをふーー」
「ちょ、ちょっと待て」
やや荒い声を上げて、ハルゼーが山口の言葉を遮った。
「じゃあ、お前らは深海棲艦が燃料を垂れ流しにして、マニラやハワイの海を汚染させていると言いたいのか?…サンタアナ沖海戦ーー第二次ルソン島沖海戦の米軍呼称ーーの
「深海棲艦が汚染目的で行っているかは不明ですが、重要なのは台湾に不時着した敵機、八十九機を全て分析した結果、マニラやハワイ周辺の海水と類似した性質の液体を内部に保持している、という事実です」
その時、ハルゼーは失望したかのように首を横に振り、大きくため息をついた。
「それのみでは、その液体が燃料である、と思う判断材料が不足しているのではないかな?」
「そうです。不足しています」
ハルゼーの指摘を、山口はあっさりと認めた。
何人かの幕僚が「は?」と言った風の顔をして、山口を見る。
山口は咳払いを一つしてから、話を進めた。
「先ほど、風巻参謀が言ったように、この判断が正しい確率は75%です。実物を調査しなければ確証は得られません。ですが…もし南方棲鬼が極東深海棲艦の燃料を一身で賄っているエネルギー精製施設だとすれば、深海棲艦の弱点はそこです」
山口は、ここで一旦言葉を切る。
「…南方棲鬼を潰すことによって、深海棲艦の兵器を燃料不足で行動不能に陥らせることができるかもしれません。人類のマニラ偵察に、深海棲艦が過激なほどの反応を示したのも、彼らにとっての重要施設があったから、という考え方もできます」
ハルゼーは、なおも何かを言おうとしていたが、三和が覆いかぶさるように発言する。
「我々もバカではありません。攻撃目標は敵艦隊と飛行場姫であり、南方棲鬼の優先順位はその次です。確かに、南方棲鬼を破壊して、極東の深海棲艦を行動不能にすることができれば、それに越したことはありませんが、日本海軍はそんなに楽観主義ではありませんよ…南方棲鬼の攻撃は、言わば保険ですね」
それを聞いたハルゼーは、安心したようにゆっくりと頷いて、席についた。
「さて…話がずれましたが、“KD”作戦の概要について説明します」
風巻はハルゼーが着席するのを見計らってから、そう言った。
「作戦は二つの段階に分かれています。第一段階、10月6日夜明けと同時に、台湾の8AF、十一航艦、五飛団の基地航空部隊と、第一航空艦隊、TF16、TF17の空母機動部隊から同時に攻撃隊が発進。三ヶ所の飛行場姫を覆滅し、フィリピンの制空権を奪還します。第二段階、米アジア艦隊は、制空権争奪戦の最中に南シナ海上で英東洋艦隊と合流し、マニラの西方九十浬で敵艦隊に備えながら待機。6日夜半に東進してマニラの敵艦隊と決戦、しかるのちに撃滅します。南方棲鬼の攻撃は、それら全てが完全に終了した場合、余力があれば行ってもらいたいと考えております。なお、作戦中、第一艦隊は予備兵力として佐世保で待機。深海棲艦太平洋艦隊の本土攻撃、フィリピン救援という万が一に備えていただきます」
ハワイに十隻前後の大型艦を中心とする敵艦隊が存在していることは、数ヶ月前から確認されている。
第一艦隊の戦艦七隻は、その艦隊の備えとして佐世保で待機するのだ。
一息で言い切った風巻は、書類を閉じ、指揮棒を下ろす。
「以上のことが、極東の深海棲艦兵力と“KD”作戦の全容です。詳細が書かれた書類は、ブリーフィング終了後に配布されます。何か質問のある方はいますか?」
そう言い、風巻は会議室内を見渡した。
質問する人も、挙手する人もいない。
それを確認すると、書類を整理してから自らの席に戻る。
「諸君」
心に刻まれそうな、重い、そしてよく響く声で、山本が口を開いた。
「“KD”作戦の成否には、日本の命運がかかっている。資源枯渇のタイムリミットまでは時間が少なく、作戦実施のチャンスは一回だけだ。まさに、『背水の陣』と言ってもいい。“皇国ノ興廃、コノ一戦二アリ”の言葉は誇張ではなく、この現在の状況に当てはまるであろう……。決して楽じゃない戦いになることが予想されるが、各員の骨を粉にした奮戦を期待する!」
役者は揃った!準備完了!って感じですかね〜
感想待っとりますん