南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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メリークリスマス!


うーむ。クリスマスプレゼントでもらったXウィングとYウィング作ったんですが…

かっこよすぎるわ。

スターウォーズまじ神…エピソード8はやく見たぁぁぁぁぁいです




第四十九話 防空巡洋艦「青葉」

10月6日 午前8時17分

1

 

「それで姉貴が言う訳ですよ、『深海棲艦ぐらい刺身にできなくってどうするの!』てね。それで同期の連中かしこまっちゃって。いやぁ。おれんちで壮行会やってよかったなぁ」

 

「そりゃぁ、男勝りな姉さんだな。写真ないの?美人だったらバツ4の俺がもらってやる」

 

第一航空艦隊に所属する戦艦「霧島」の電測室では、二人の電探員がスコープを見ながら他愛もない会話をしていた。

一大作戦が遂行中に世間話をするのは良いこととは言えなかったが、二人とも会話しつつも、鋭い視線をレーダーの画面に向けている。

 

山倉豊(やまくら ゆたか)兵曹長と、篠上三郎(しのがみ さぶろう)一等兵曹である。

 

この二人、「霧島」に配備される以前は台湾・垣春の電探基地におり、そこで何度もルソンから来襲する敵機を探知し、司令部に報告している。

その時の経験が、他愛もない会話をするという余裕を生んでいた。

 

「バツ4?先輩バツ4なんすか?マジで?」

 

「む。言ってなかったっけ?」

 

篠上が自らのパートナーの意外な一面を知り、目を丸くする。

そんな男に姉貴を嫁にやれるか、と思っているのだろう。はっはっはと笑い、肩をすくめた。

 

「貴様ら。また無駄話か…」

 

その時、カッカッと階段を降りる音が響き始め、同時に二人の無駄話を咎める声が聞こえた。

 

「げっ、電測長」

 

「『げ』とはなんだ『げ』とは」

 

階段を降りてきた「電測長』と言われた男は、そう呆れるように言い、電探計器の脇に立った。

 

「霧島」電測長の茅峰翔太郎(かやみね しょうたろう)大尉である。

 

彼も、山倉、篠上と同じく垣春電探基地から「霧島」に異動になった将兵の一人であり、二人とは「霧島」に配備される前から上司部下の関係だ。

茅峰大尉の呆れた表情からは、垣春基地の時代から二人の雑談に頭を痛めていたことを伺わせた。

 

「だいたい、お前なんか会話癖を直したらすぐにも出世だぞ。どんだけ損してるんだか…。きっと今頃、俺みたいな戦艦の電測長だ」

 

茅峰大尉は呆れた表情を崩さないまま、山倉に言った。

 

「いえ、自分はこいつを眺めるのが一番性分に合っております。事務仕事などやりたくありません」

 

そう言って、山倉は電探計器の管面を軽く小突いた。

「それに…」と言葉を続ける。

 

「アメちゃんの最新電探に切り替わってから、管面が断然見やすくなりましたしね」

 

 

ーー日本海軍は、主要艦艇に米国製艦載レーダーの搭載を進めている。

 

試験的な意味合いが強かった「金剛」の電探搭載が、第二次ルソン島沖海戦で有効的に働いたと判明した後は、さらなる搭載計画に拍車がかかることとなる。

以前からアメリカ・イギリスを筆頭に軍用レーダーの開発が行われており、その発展には眼を見張るものがある。

海軍中央は、両国との軍事交流を通じてレーダーは近代戦に不可欠な存在だと判断し、搭載を決断したのだ。

 

だが、ここで一つの問題が発生した。

強引な搭載計画により多数の電探が艦艇に搭載されたが、それを扱う人間が圧倒的に足りなかったのだ。

 

従来より、日本海軍では横須賀通信学校で電測機器に関する教育が実施されていたが、「電探より砲術部門や航海部門」という風潮が強く、受講数も卒業数も多くなかった。

 

海軍省では“KD”作戦に間に合わせるべく、早急にアメリカ・イギリスのレーダー学校への留学や、海外からの技術顧問の奨励など、様々な対策を講じたが、第一艦隊、第二艦隊の電探搭載分の操作要員しか確保できずに終わってしまう。

そこで、横須賀通信学校を一期生、二期生といった早い時期に卒業し、日本各地の陸上電探基地に配備されている電測員が、目に留まった。

 

彼らは国産の対空、対艦電探を以前から扱っており、電測機器の扱いを熟知している。

国産と海外製ではスコープなどの仕様がだいぶ違うが、短時間の教育でも、扱いを習得できると考えられたのだ。

何よりも本土電探基地の電測員はベテランが揃っており、台湾でルソンからの航空攻撃を通報し続けた強者や、トラック諸島から引き上げてきた者もいる。

 

海軍省のやや強引な処置だったが、予想通り、彼らは素早く米国製電探の操作方法を習得し、艦隊の新たな目として機能していた。

 

山倉、篠上、茅峰も、それによって「霧島」に配備されているのだ。

 

 

「そうですねえ。これの名前、PPIスコープでしたっけ?台湾基地のAスコープとえらい違いですよ」

 

篠上も、自らがにらめっこしている電測機器を撫でながら言った。

 

 

以前のAスコープ式電探は、画面上にメモリ付きの横線が伸びており、反応があればその距離のメモリ上にエコーが発生する仕組みだった。

エコーの高さで反応物の規模を判断するのだが、探知する方角は固定式であり、警戒レーダーとしては難がある。

さらには電探の質が悪かったのだろう、画面はノイズの嵐であり、その中から突出したエコーを読み取るのは相当な熟練の技が必要だった。

だがPPIスコープ式電探は、自らの位置している点が画面の中心にあり、そこから360度全周の警戒をすることができる。

Aスコープ式と違って射撃管制レーダーには向いていないが、警戒レーダーならこれ以上のものはない。

さらに米国製の電探は質が良く、ノイズがとても少なかった。

 

 

「PPI式でも、世間話なんてしてたら発見できるものも発見できん。貴様らの腕を疑うわけじゃぁないが、ほどほどにしとけよ」

 

今度は真剣な表情になり、茅峰大尉は諭すように言った。

 

「了解です」

 

「以後、気を付けます」

 

篠上と山倉も威儀を正して答える。

二人とも、少し反省している様子だった。

 

「しかし、電測長が電測室(ここ)まで降りてきたのは、それを言うためだけじゃないんでしょう?」

 

「当然」

 

篠上の言葉に、茅峰大尉は即答する。

 

「一時間ぐらい前、第十六任務部隊が深海棲艦機に発見されたらしい。敵機接近を一番最初に探知するなら、お前らか『比叡』電測の連中だから注意しとけよ」

 

第一航空艦隊に配備されている「霧島」「比叡」は艦橋が高く、その分レーダーは高いところに設置されており、他艦と比べて探知範囲が広い。

それを踏まえて、茅峰大尉は二人に注意を喚起しに来たようだ。

 

「「わかりました」」

 

二人は同時にそう言い、再びPPIスコープへと鋭い視線を向ける。

 

 

だが、この時、スコープの画面は常に異常を示していた。

 

艦隊の西側に、複数の光点が見え始める。

PPIスコープの中心点を軸に回転している光線が通るたびに反応し、徐々にその数を増やしていく。

 

山倉は最初、帰還してきた第一次攻撃隊かと思ったが、帰還してくるのはもう少し遅いはずであり、時間的に辻褄が合わない。

その考えに至った直後、コンマ1秒にも満たない時間で「敵」だと判断した山倉は、茅峰大尉に叫んだ。

 

「電探感三。艦隊よりの方位280度。距離35浬。敵編隊と認む!」

 

 

 

2

 

「左舷前方、敵編隊視認!」

 

第一防空戦隊旗艦「青葉」の艦橋に、見張員の報告が響いた。

 

「来たか…」

 

同戦隊司令の角田覚治(かくだ かくじ)少将は、そう言って自らの唇を舐めた。

 

8時20分に「霧島」から全艦に警報が発せられてから、30分ほどが経過している。

その間に艦隊直掩の零戦九機とF4F十二機が敵編隊に向かい、第一航空艦隊の各艦では対空戦闘用意が発令された。

 

第二次攻撃隊はすでに出撃した後であり、各空母の飛行甲板は閑散としている。

だが、発艦させる機体がなくとも、迎え入れる機体はある。

空母は飛行甲板に一発でも被弾したら機能を失ってしまうため、なんとしてでも守らなければならなかった。

 

 

角田は、双眼鏡を手に取って左舷前方に筒先を向ける。

 

見張員が報告した敵編隊は、二分したうちの一つだ。

15分前、「霧島」からの続報で、敵編隊が二つに分かれ、一方がTF16へ、もう一方が一航艦に向かっていることが判明している。

接近中の敵編隊は、敵機全体の二分の一の戦力であり、八十機ほどの攻撃隊だった。

 

丸い視界の中に、多数の黒点が見え始めた。

どの機体も形まではわからないが、緻密な黒点の集団と、その集団の周辺を縦横無尽に飛び回るゴマ粒のようなものが確認できる。

 

おそらく、前者が深海棲艦の攻撃隊で、後者が迎撃に上がった零戦だろう。

数分に一回ほどの間隔で、その敵編隊から一筋の黒煙が海面に伸びる。

「青葉」艦上からははっきりと見えないが、熾烈な空中戦が繰り広げられているようだ。

 

(ようやく出番だな。「青葉」「衣笠」)

 

だんだんと艦隊に近づいてくる敵編隊を見ながら、角田は胸中で自らが指揮する一防戦の二隻に呼びかけた。

 

 

ーー「青葉」「衣笠」は僚艦の「足柄」「古鷹」「加古」と共に、第三艦隊の一翼として、半年前の第一次ルソン島沖海戦に参加し、深海棲艦との夜戦を経験している。

同海戦で青葉型の二隻は各一本の敵魚雷を艦首に喰らい、早々に隊列を離れてしまった。

その結果、目的である避難民船団の護衛は成功したが、旗艦「足柄」を失い、準同型艦の古鷹型二隻も大破するという、大きな損害を被ってしまうことになる。

 

青葉型重巡の二隻は、第三艦隊で唯一、主砲を一発も撃たず戦闘不能になる。という不愉快極まりない結果となってしまったのだ。

 

 

だが、修理と並行して、青葉・古鷹型重巡は新しい力を得ることとなる。

新時代の艦艇にふさわしい、「防空巡洋艦」と言う艦種に生まれ変わったのだ。

砲術を専門とする角田としては、重巡洋艦がそのような艦種に変わることに一途の寂しさを覚えていたが、この艦が対空戦闘に凄まじい威力を発揮することも、同時に実感していた。

 

なお、「青葉」「衣笠」の容姿は、改装前に比べて大きく様変わりしている。

以前まで主兵装だった三基の二十.三センチ連装砲は、全て撤去され、新たに新設された台座に、前後合わせて六基の六十五口径十センチ連装高角砲を艦の軸線上に沿うように配している。

他にも、上部構造物左右に配されていた単装高角砲や、魚雷発射管、カタパルトなどを全て取っ払い、詰める限りのボフォース四十ミリ機関砲や二十五ミリ機銃を搭載し、艦橋から後部にかけて、さながらハリネズミのような様相を呈していた。

 

変わったのは兵装だけではない。

 

前部高角砲と後部高角砲が別々の目標を射撃出来るよう、射撃指揮装置と予備射撃指揮所が増設され、レーダーや逆探などの電子機器も新たに搭載されている。

それらを設置したことにより、艦橋がさらに複雑になり、以前とは比べ物にならないほど精悍な見た目になっていた。

 

改装の結果、排水量の増加で最大速度や波浪生は少し低下してしまっていたが、「青葉」「衣笠」はそれらと引き換えに強力な防空力を得るに至ったのだ。

 

「有効射程に入り次第撃ち方始め。空母に指一本触れさせるな」

 

角田は重々しい声で「青葉」艦長の久宗米次郎(ひさむね こめじろう)大佐に命じた。

久宗は軽く頷き、射撃指揮所へと繋がる艦内電話を手に取る。

 

やがて艦橋目の前の第一、第二、第三高角砲が機械的な音響とともに左に旋回し、各二本の長砲身を天空へと向ける。

艦橋からは死角で見えなかったが、後方の第四、第五、第六高角砲も敵編隊に狙いを定めているだろう。

 

 

 

 

敵機は、零戦の迎撃を受けつつも、艦隊に近づいてくる。

 

 

「青葉」の対空砲群が轟々と火を噴くのは、まもなくと思われた。

 

 

 




日本海軍のレーダー事情と青葉の解説で終わってしまいましたが、許してください。。。

追記
皆さま!良いお年を!

あともう一つの作品も久々に更新しました〜

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