南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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風邪ひきました。今回は短めです。


第五十二話 第三次ルソン島沖海戦

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「コレヒドール島に発射炎。陸上砲台です!」

 

「そう来たか!」

 

「エコー」こと第二挺身戦隊群に所属する第五水雷戦隊旗艦「名取」の艦橋で、同戦隊司令の原顕三郎(はら けんざぶろう)少将は左前方のコレヒドール島を睨みつけた。

 

なだらかな稜線をもつ島が、暗黒の洋上にぼんやりと見える。

そして、その稜線に沿って複数の発射炎が、断続的に閃らめきはじめていた。

 

コレヒドール島は面積9平方キロのオタマジャクシのような形をした島であり、マニラ湾と南シナ海を隔てる湾口の西寄りに浮かんでいる。

深海棲艦侵攻以前は、アメリカ極東軍によって全体を防備され、三十センチカノン砲八門などの多数の火砲が配備されていたらしいが、深海棲艦もそれと同様に陸上砲台を設置していたようだ。

 

発射炎が光った数秒後、「名取」の前方を進む英海軍の敷設巡洋艦「アブディール」「マンクスマン」の周辺に、弾着の水柱が上がりはじめる。

敵国泊地に機雷を強襲敷設することを目的に作られた二隻は、度重なる至近弾に射すくめられているようだったが、それらに怯まず、最大戦速で突撃を続けていた。

 

「名取」の周囲にも着弾の水柱が上がり始める。

 

甲高い砲弾の飛翔音が響き渡り、それが途切れた瞬間、爆発したように海面が奔騰し、水柱を突き上げさせた。

敵弾が落下するたびに最新鋭とはとうに言えない艦体が軋み、鉄塊を擦り付けるような音が艦内に響く。

 

水柱の大きさは、それほど大きくはない。

コレヒドール島の敵砲台は、15.5センチ砲や12.7センチ砲と言った小中口径砲が主力のようだ。

 

コレヒドール島は、スペイン統治時代から航路の要衝として栄え、同時にマニラ湾に近づこうとする敵船の排除にも一役買ってきたという歴史がある。

それは、島の主人が人間から深海棲艦という異形の存在になっても変わらないようだ。

マニラ湾口の海峡に近づく「エコー」に対する猛射が、それを雄弁に物語っていた。

 

「『朝風』『春風』に至近弾!」

 

「第二十二駆逐隊より入電。“我、砲撃ヲ受ク”」

 

艦橋見張員と通信士が、矢継ぎ早に報告を上げる。

「名取」に後続する第五駆逐隊、第二十二駆逐隊の神風型、睦月型駆逐艦もコレヒドール島からの砲撃を受けているようだ。

 

深海棲艦は、「エコー」に所属する英敷設巡洋艦、五水戦の全艦を目標に定め、砲撃している。

単縦陣の先頭に位置している「アブディール」から、最後尾に位置している「長月」まで、まんべんなく砲弾がばら撒かれているのだ。

 

だが、「エコー」の左右を並走し、同じくマニラ湾の海峡を目指している「デルタ」「フォックス」には砲門が向けられていない。

「エコー」が敵火力を吸収することによって、他の挺身戦隊群は無傷を保っているのだ。

 

「『エコー1」より発光信号。『全艦、射撃開始』」

 

「目標、コレヒドール島の敵砲台。撃ち方始め!発射炎を目標に撃て!」

 

「エコー1」こと第二挺身戦隊群旗艦の「アブディール」から「射撃開始」の命令が飛び込む。

それを聞いて、原は間髪入れずに命令した。

 

前方を進む「アブディール」「マンクスマン」が主砲である10.2センチ連装高角砲二基を撃ち始め、「名取」も左前方へ旋回可能な14センチ単装砲四門を撃ち始める。

さらには後方の神風型四隻、睦月型四隻も、「名取」に負けじと搭載砲をコレヒドール島へ向けて撃ち始める。

 

「バターン半島にも発射炎。その対岸にもです!」

 

見張員が新たな敵情を知らせる。

原は左前方と右前方を交互に見やった。

コレヒドール島ほどはっきりと見えず、水平線上にぼんやりとしか見えないが、バターン半島の沿岸部に発射炎がポツポツと光っているのがわかる。

その対岸も同様だ。

 

深海棲艦は、コレヒドール島のみならず、マニラ湾口の両岸にも砲台陣地を築いていたのだ。

射程距離に入ったため、挺身隊に砲撃を開始したのだろう。

 

左の「デルタ」。右の「フォックス」。今まで攻撃を免れていた二つの挺身戦隊群は、自らを砲撃しているそれぞれの陸上砲台に向けて射撃を開始する。

 

「デルタ」隊は英敷設巡洋艦「アヴェンジャー」と第七水雷戦隊。「フォックス」隊はアブディール級敷設巡洋艦の「ラトナ」「ワルシュマン」と第六水雷戦隊で編成されており、任務は「エコー」と同じくマニラ湾口への機雷の敷設である。

三個挺身隊は、陸上砲台より発射される敵弾をかいくぐりつつ、ひたすら自らの敷設区画に向けて突き進む。

 

敵の砲撃は勢いを増してゆく。

 

「名取」周辺の海面は激しく沸き返り、5500トン級軽巡の艦体を荒れ狂う波や水飛沫が叩きつける。

 

数秒ごとに主砲が反撃の砲火を放っているが、それすらも押し戻す勢いである。目標は巨大な島であり、放たれた14センチ砲弾は敵にダメージを与えていると信じたかったが、目に見えた形の効果は未だ現れていなかった。

 

(やはり我々だけの火力では足りない…!)

 

原がそう思った瞬間、「名取」の後方から稲光のような光が届き、その数秒後、落雷のごとく強烈な砲声が響き渡った。

 

「後方の味方艦隊、砲撃開始しました!」

 

見張員の声は、無数の砲弾が頭上を超える轟音にかき消される。

特急列車が鉄橋を通過するような轟音であり、海上の空気が激しく鳴動した。

 

「いいぞ…」

 

原は満足気に頷く。

後方に展開する米英の水上打撃部隊が、挺身隊を支援すべく砲撃を開始したのだ。

 

頭上を後ろから前に飛び越えた砲弾群は、ほぼ同時にコレヒドール島に着弾した。

着弾した瞬間、一際大きな閃光が島に発生し、暗闇に包まれている海峡をありありと照らし出す。

数発が敵砲台を直撃したようだ。砲弾炸裂の光に照らされ、舞い上がる土砂の他に、鋼板、砲身のような残骸を確認することができた。

 

 

「機雷敷設区間まで残り一〇(一千メートル)!」

 

航海長の九條悠太郎(くじょう ゆうたろう)少佐が落ち着いた声で報告する。

「エコー」こと第二挺身戦隊群の敷設担当区間は、マニラ湾口の海峡を三等分したうちの中央部分である。

コレヒドール島の南東側にあたり、サウス海峡と呼ばれる海域だ。

 

そこまで至ったら、敷設作業が実施できる。

さっさと終わらせて、敵弾の砲火から抜け出したい……原はそう思っていた。

 

 

マニラ湾口の海域は、陸上砲台と艦隊との砲戦で、昼間のような明るさになっている。

 

戦いは激しさを増してきていたが、湾内の敵艦隊が動き出す様子はなかった。

 

 

 

 

 

第五十二話「第三次ルソン島沖海戦」

 




オリジナル小説書きたいと思うこの頃
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