南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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wowsスマホ版を出たんでやってるんですけど…。
おもろいわぁ


第五十五話 再びの地獄

1

 

「イングラハム」含むDDG13が、敵潜水艦数隻と渡り合っている頃、すでに三十本以上の魚雷が統合任務艦隊の隊列に迫っていた。

 

戦闘の焦点はマニア湾方面となると考えられていたため、ほとんどの駆逐艦が隊列右側に置かれており、水上打撃部隊の左側に展開している駆逐隊はDDG13の四隻のみである。

DDG13は孤軍奮戦し、敵潜三隻を撃沈したが、いかんせん敵の数が多く、魚雷発射を許してしまったのだろう。

深海棲艦の魚雷は航続距離が酸素魚雷に匹敵し、打撃力もそれに迫るものがある。

唯一の救いは雷跡を残し、発見が容易だということだけだが、今の状況から見れば気休め程度でしかない。

 

だが、あらかじめ「イングラハム」から敵潜の警報を受け取っていたからだろう。各艦の動きは素早かった。

 

「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦橋からは、米アジア艦隊の各艦が時間差をおいて一斉に左に回頭する様が見える。

夜になれた目は、左へ身を捻らせる米艦隊の後ろ姿をしっかりと捉えていた。

水上打撃部隊の先頭に位置している「シカゴ」以下巡洋艦五隻が真っ先に艦首を左に回頭させ、後続する戦艦部隊ーーーノース・カロライナ級、コロラド級各二隻も遅れじとその巨体を左へと誘う。

 

ちょうどその時、「プリンス・オブ・ウェールズ」も左に回頭し始める。

英東洋艦隊Z部隊司令官のトーマス・フィリップス大将が「Z部隊全艦、取舵一杯。魚雷が来る!」を命じてから一分半ほどの時間を開け、基準排水量三万七千トンの巨体は が回頭を開始したのだ。

 

「『クイーン2』取舵!『ビショップ1、2』取舵!」

 

後方を追走する巡洋戦艦「フッド」も、さらにその後ろを続くロンドン級重巡も、魚雷を回避すべく取舵に転舵する。

 

 

「やはり仕掛けていたか。罠を」

 

フィリップスは顔を引きつらせながら呟いた。

 

深海棲艦は、大量の潜水艦をマニラ湾沖の海底に鎮座させ、JTFの接近を待っていたに違いない。

水上打撃部隊は、挺身戦隊群の機雷敷設を支援するため、マニラ湾に肉薄しなければならない。敵艦隊が湾内に閉じこもっているとなれば、なおさらである。

深海棲艦がこちらの“セントラル・ガード”作戦の全容を知っていなくても、JTFがマニラ湾に近づくことは容易に想像できるだろう。

 

深海棲艦は、それを背後から潜水艦で襲わせることによって部隊の退路を断たせ、かつできる限りのJTF艦艇を撃破しようという魂胆のようだ。

 

 

「そうはさせんぞ、ディープ・フィッシュ」

 

 

フィリップスは、多数の魚雷が向かってきているだろう暗闇の海面を見下ろしながら、吐き捨てるように深海棲艦の蔑称を言った。

 

マニラ湾口への機雷敷設は、被害を出しながらも予定通り進んでいる。この敵潜からの攻撃さえ軽い損害でしのげば、閉塞される湾内に位置している深海棲艦アジア艦隊は、湾外に出ることができず、戦わずに無力化することができるのだ。

 

(ここを切り抜ければ、より完璧な形で"セントラル・ガード作戦は完了する。いや、させる!)

 

フィリップスは目に炎をたたえ、決意を新たにしていた。

 

 

「舵中央!最大戦速!」

 

艦長のジョン・リーチ大佐が指示を飛ばす。

その命令により舵が中央に戻され、「プリンス・オブ・ウェールズ」の回頭は緩やかになり、やがて直進になる。

それと同時に機関出力が上げられ、二十一ノットから最大の二十八ノットに増速される。

 

水上打撃部隊で米艦隊と隊列を組んでいる時、隊列全体の速力は一番遅いコロラド級戦艦に合わせなければならず、二十一ノットで統一しなければならなかった。

コロラド級のような鈍足戦艦を組み込むことによって、ノース・カロライナ級二隻や「プリンス・オブ・ウェールズ」、巡戦「フッド」の高速性は失われてしまうが、戦艦戦力を敵艦隊と同等にするためには致し方ないことだったのだ。

 

だが、魚雷回避のために隊列を解かれた今、律儀に二十一ノットを守る義理はない。

足かせを外された「プリンス・オブ・ウェールズ」は、中世の古城のようなガッチリとした艦橋で、向かい風を真っ向から受け止めながら海上を疾駆する。

艦首に砕かれ、飛び散った水滴が艦橋にまで降りかかり、窓に斑点を形成する。

暗闇のため判別はつかないが、深海棲艦によって汚染されてしまった黒々とした海水が、窓にこびりついているのだろう。

 

「正面より雷跡近づく!数、視界内に四本!」

 

フィリップスの意識が窓から敵魚雷に戻った時、艦橋見張員が報告する。

フィリップスは正面海域を凝視した。

確かに、見える……。夜間という黒と、汚染海水という黒。その両方に塗り潰されそうになってはいるが、明らかに雷跡と思われる白いラインを四つ、確認することができた。

 

お互い接近する針路なため、近づくのは早い。

気づいた時には、魚雷はすぐ手前まで迫っていた。

 

「『ルーク1』被雷!『ルーク4』被雷!」

 

「『キング3』被雷!」

 

「『キング2』被雷!』

 

見張員が悲鳴じみた声で報告する。

フィリップスは顔を引きつらせた。

 

東洋艦隊より先に変針し、敵魚雷と相対していた米艦隊に魚雷群が到達したのだ。

被害は覚悟していたが、まさか瞬時に「ルーク1、2」こと重巡「シカゴ」、軽巡「フェニックス」と、「キング2、3」こと戦艦「ワシントン」「ウェスト・バージニア」が被雷するとは思っていなかった。

 

「魚雷近い!二本直撃(コリジョン)コース!」

 

フィリップスは首にかけているロザリオを握りしめ、運命の瞬間を待つ。艦首の影に、時間差で雷跡が入るのが見えた。

 

神よ(マイゴット)……!」

 

フィリップスが天を仰いだ時、凄まじい衝撃が艦首から突き上がり、巨大な水柱が噴き上がった。

 

 

 

2

 

JTF旗艦の戦艦「ノース・カロライナ」の艦橋では、同艦隊司令官のレイモンド・スプルーアンス少将が立ち尽くしていた。

 

先程上がってきた艦橋には、ひっきりなしに味方艦の被害が飛び込んでくる。

戦艦では「ワシントン」が三本、「ウェスト・バージニア」と「プリンス・オブ・ウェールズ」が各一本の魚雷を艦首に受け、大破した。

 

そのほかにも、以前まで米アジア艦隊の旗艦であり、スプルーアンスも乗艦していた「シカゴ」、その後方を進んでいた「フェニックス」が敵魚雷を喰らい、停止して炎上している。

 

「バカな……俺は、二度までも…」

 

スプルーアンスは立ち尽くし、そんな渇いた声しか出せない。

唖然とした表情で、空中の一点をただただ見つめていた。

 

「司令!スプルーアンス司令!」

 

そんな中、参謀長のカール・ムーア大佐がスプルーアンスの両肩を掴み、激しく揺らす。

 

「戦艦は何隻かやられましたが、まだ本艦も、『コロラド』も『フッド』も、巡洋艦も多数が残っています!戦いはまだ終わっていません!」

 

ムーアは力の限り大きな声で言い、それに続いて他の参謀から「勝機はまだあります!」や「やってやりましょう!」という声がかけられる。

 

スプルーアンスはそれでも数秒間沈黙していたが、やがて制帽を深く被り、大きく息を吐いた。

 

「皆、すまない」

 

そう短く言い、顔を上げる。

その顔は、さっきまでの後悔に満ちた苦渋の表情ではなく、艦隊司令官の男らしい顔になっていた。

そして艦隊内電話を手に取り、口を開く。

 

「『サクリファリス』より全艦。艦隊隊形を再編する。艦隊針路310度。米艦隊と英艦隊は別個に変針せよ」

 

スプルーアンスは命じた。

アメリカとイギリスは、魚雷回避のための緊急回避でバラバラの有様だ。

ここはそれぞれの艦隊ごとに針路を戻すことで、混乱を戻そうという考えだ。

 

 

水上打撃部隊の各艦が針路を310度に戻すために取り舵を切っている頃、通信室から敵情が飛び込む。

 

「『エコー3』より入電。“マニラ湾内ノ敵艦隊。始動セリ”です!」

 

「やはり、来たか…」

 

参謀達のどよめきが広がる中、スプルーアンスは冷静に言うのだった。

 

 

 

 

 

第五十五話「再びの地獄」

 

 

 

 





最近更新が間延びしてますが許してください!

定期テストが近くて…もしも下手したら数学A単位落とすんですよ(涙)

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