南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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なんか半休載の告知したのにどんどん文章が進むので投稿します。





第六十九話 新たなる目標

 

1

 

オーストラリア大陸を巡る戦いは、1941年8月10日。深海棲艦のロックハンプトン・ブリスベンへの上陸戦から端を発する。

 

ロックハンプトンに上陸した深海棲艦には「A軍集団」、ブリスベンな上陸した深海棲艦には「B軍集団」の呼称が用いられており、上陸後、A軍集団は北上してマッカイ、ダウンズヒルといった北東岸の都市を、B軍集団は南下してゴールドコースト、ポートマッコリーといった東岸の都市を次々と陥落させた。

今年初頭にはA軍集団は大陸北東部に伸びるヨーク岬半島一帯を制圧し、B軍集団はニューキャッスルを占領してシドニーへ侵攻可能な足場を得ることとなる。

 

 

イギリス製の兵器を装備していたオーストリア軍は局地戦で善戦したが、深海棲艦の大物量やBDやDDの攻撃力に対して有効な戦いを展開できるはずがなく、多くの被害を出していた。

当時、未だに人類統合軍は創設されておらず、日本、アメリカ、イギリスは極東を巡る戦いで精一杯であり、オーストリア軍は単独での戦いを余儀なくされたからである。

 

豪州戦線に転機が訪れたのは、今年の3月のことだった。

極東の深海棲艦を一掃した日米英軍は、世界中の国々と人類統合軍を創設し、「統合軍オーストラリア軍団」を編成。多数の部隊をオーストリア大陸に派兵したのである。

同軍団は豪州の戦場に投入され、深海棲艦の破竹の勢いを停滞させた。東部戦線ではシドニー北方160kmに位置しているニューキャッスル、北部戦線ではヨーク岬半島の西側付け根にある町カーペンタリアにて深海棲艦A、B集団を釘付けにし、それ以上の侵攻を許していない。

 

以来、東部戦線はニューキャッスル〜シドニー間、北部戦線はカーペンタリア湾周辺での一進一退の攻防が続けられている。

 

 

 

2

 

「なんとか盛り返したか…」

 

オーストラリア軍団第二方面軍(2DA)の司令官であるバーナード・モントゴメリー英陸軍大将は、机上に広げられている戦況図を見下ろしながら呟いた。

 

場所は、シドニー市街の中心部に建設されているホテルの一室である。

2DAのシドニーへの展開に際して徴用され、2DA、第三航空集団(3AG)の司令部として三ヶ月前から機能している。

ホテルの窓辺からは夕焼けに照らされるボタニー湾を一望することができるが、室内にいる参謀らは皆眉をひそめ、戦況図をただひたすら凝視していた。

 

作戦室には、モントゴメリー司令官を手始めとした2DA司令部幕僚全員と、3AG司令官のジョージ・C・ケニー米陸軍中将、同参謀長のフランク・スコルキン米陸軍少将、日本陸軍豪州東部派遣軍の参謀長水淵(みずぶち)(あきら)大佐、ドイツ陸軍第七装甲軍エルヴィン・ロンメル中将、同参謀長のハインツ・ヴィーラー少将らが顔を連ねている。

なお、モントゴメリーはイギリス第八軍、ケニーは第五航空軍、ロンメルはドイツオーストリア軍団の司令官をそれぞれ兼任していた。

 

「確かに撃退には成功しましたが、我が軍も大きな被害を受けました。戦車第一師団は二度の戦いで壊滅し、米第三機甲師団も損耗率38%との報告が上げられています」

 

2DA作戦参謀の武居(たけい)清太郎(せいたろう)中佐が、顔を曇らせた。

 

「航空兵力の損耗も無視はできません。DDの対空砲、敵機との交戦によって多数の対地攻撃機が撃墜され、各国パイロットの疲労も蓄積しています」

 

ケニー3AG司令官が、武居に続いて言う。

今回の戦いでは多数の航空機が反復攻撃を実施しており、その度に熾烈な戦闘に身を投じている。度重なる戦闘が、機体を消耗させた原因のようだ。

 

机上の戦況図は、2DAの部隊配置が一目でわかるようになっている。

所属する戦車部隊、歩兵部隊、砲兵陣地を示す凸型の青駒が、シドニーを囲むように並べられおり、ニューキャッスルから南下した敵部隊を迎え討つ態勢を整えていることが分かる。

それらの北には、先ほどの戦闘で撃退され、ニューキャッスルへと引き上げてゆく深海棲艦地上部隊を示す赤駒が、二つ並べられていた。

 

今日、2DAは深海棲艦地上部隊の二度にわたる大規模攻撃を受けた。

一度目に攻撃を実施した敵部隊には「第一集団」、二度目に攻撃を実施した部隊には「第二集団」の仮名称がつけられている。

 

「第一集団」は日本軍戦車第一師団と、米軍第三機甲師団がシドニー北方にて迎え撃ち、ドイツ空軍を主力とした航空支援の下に撃退したが、直後「第一集団」と同規模の兵力を持つ「第二集団」が入れかわるように侵攻してきた。

両師団とも「第一集団」との戦闘で激しく消耗していたが、新たにイギリス第八軍隷下の第一軽装甲旅団が援軍として戦闘に加わり、辛くもシドニーを守りきっている。

だがその結果、長時間激戦にさらされた戦車第一師団と第三機甲師団は大損害を受け、絶えず支援航空機を出撃させた3AGも多数の航空機を失ってしまったのだ。

 

「深海棲艦B軍集団は、シドニー攻略に本腰を入れはじめたのでしょうか?」

 

イギリス第八軍司令部から2DA司令部に参加しているパーシー・カークス中佐が疑問を提起した。

「第一集団」「第二集団」の総兵力はBD、DD合わせて六百体に達する。オーストラリアに展開する敵地上兵器の総量から見れば一握りだが、この規模の敵がシドニーに攻めて来たのは今までに一度もない。

カークスは、これが深海棲艦大攻勢の予兆ではないか、と思っているようだ。

 

「それが事実だとして、なぜ今なのか?という疑問が残るな。積極性を好む奴らが、数ヶ月間ニューキャッスルで進撃を中止していた説明がつかん」

 

2DA参謀長のケビン・シールズ米軍少将が首をひねる。

 

「補給の問題では?」

 

水淵が口を開いた。

水淵は2DAの幕僚ではなく、あくまで日本陸軍豪州派遣軍の参謀であるが、意見があれば積極的に発言しようと考えていた。

 

「深海棲艦は巨大構造物(棲鬼)で自らの燃料を精製しておりますが、豪州大陸に棲鬼の姿は確認されていません。恐らく、ハワイないしマーシャルの棲鬼から産出した燃料を輸送船にて豪州に輸送しているのでしょう。大陸に備蓄していた燃料が底をついたため、B軍集団は一時的な侵攻停止になっていたのではないでしょうか?」

 

敵の占領下にあるブリスベンには、連日のように輸送ワ級と護衛艦艇で構成された船団が入港し、荷下ろし作業を実施している。

2DA司令部、統合太平洋艦隊(JPF)司令部では「AB軍集団への増援部隊を揚陸している」との見解を示していたが、揚陸対象には燃料も含まれているのかもしれない。

 

「筋は通っているが…」

 

シールズが天井を仰ぐ。いまいち説得性にかけるようだ。

 

「シドニー攻略のための戦力を集中していた期間だった可能性もあります。B軍集団はシドニーに展開する第二方面軍の存在を知って彼我の兵力差を認識し、対抗可能な戦力の結集を待っていたのでは…?」

 

続けて武居が憶測を述べる。

深海棲艦は非常に侵略的な軍隊だが、兵力が劣る状態では無理な進軍はしない。戦場によって積極性と消極性を選択できる戦略眼を、彼らは持っているのだ。

武居の憶測もあながち間違えではないのかもしれない。

 

「いずれにしろ、B軍集団は攻勢の色を強めて来た。今日の戦闘で、それだけははっきりと言い切れる」

 

ロンメルがやや口調を強めにして発言した。

敵が大規模な攻撃を仕掛けてきた理由ではなく、これからどのようにしてシドニーを守るかを議論すべきだ、と言いたげだった。

それを聞いて、作戦室内の全員が頷く。

 

「当面の問題はいかにしてシドニーを守り切るか、だが…」

 

モントゴメリーがまとめ、室内を見渡す。

 

「ひとまず、今日の戦闘で消耗した部隊は後方に下がらせましょう。キャンベラで再編に努めるさせるべきです」

 

カークスが戦況図の戦車第一師団、第三機甲師団の青駒を見つめた。

キャンベラはシドニーの南西に位置している都市で、オーストラリアの首都である。

2DAの後方支援基地として機能しており、主に補給や部隊の再編、訓練場の提供を行っていた。

 

「それが良いでしょう。第二方面軍は、今の時点でもB軍集団に対抗可能な戦力を有していますから」

 

第七装甲軍参謀長のヴィーラー少将が、カークスに言った。

同時に壁に貼られている2DA参加部隊の一覧を見やる。

 

ドイツ陸軍からは第七装甲軍に所属している第十三装甲師団、第五軽師団の二個師団がシドニーに展開しており、新たに第十五装甲師団が東部戦線に配備される予定である。

日本陸軍は戦車第一師団が壊滅したものの、新たに戦車第二師団がメルボルンに揚陸されており、他にも重砲や高射、歩兵など四個師団を有している。

イギリス第八軍も大陸派遣のアメリカ軍も一大兵力を保有しており、ソ連極東軍の戦車旅団も無傷で残っている。

 

「第二方面軍の全兵力は戦車七百輌、装甲車五百輌、火砲一千二百門、兵員十九万に登ります。深海棲艦をロックハンプトンまで押し戻すならまだしも、シドニーを防衛するだけなら容易です…………問題点はありますが」

 

シールズが言った。「問題点」という言葉を強調しているように思えた。

シールズが口を閉じると、変わって2DA補給参謀ハーネス・トラガルファー大佐が手元のノートをめくった。

 

「ガソリンは、使用量が供給量を遥かに上回っています。メルボルンには一週間の間に一、二度の割合でタンカー船団が入港しておりますが、現在の残量は一万ガロン以下であり、兵力、特に戦車の行動せざるおえない状況が続けば、底をつく危険があります」

 

2DAは深刻な事態に繋がりかねない問題を抱えている。

戦いの激化による、ガソリンの不足である。

 

オーストラリア軍団が豪州に展開して以来、オーストラリア大陸での燃料消費量は格段に跳ね上がった。

もちろん、統合軍も戦闘における燃料の消費量を計算に入れていたが、戦いが始まってみると予想を上回る勢いで消費し、第一方面軍(1DA)、2DA共に燃料の不足に喘いでいる。

 

太平洋に展開する統合軍陸、海、空戦力の燃料の大部分は、オランダ領インドネシアにあるパレンバン油田、パリクパパン油田がまかなっているが、両油田フル稼働でも十分とは言えていない。

ソ連や米国、英領中東も統合軍への燃料輸出を実施しているが、ソ連は自国参加軍に対してのみであり、米国は中部太平洋の制海権を深海棲艦に握られ、北太平洋経路での細々とした補給しか行えていない。

さらに英領中東は太平洋航路が軌道に乗っておらず、大々的な燃料補給への目処は立っていないのだ。

 

さらに燃料の補給は、統合艦隊や航空軍に優先して回される傾向があり、豪州へのタンカー船団は絶えず深海棲艦の潜水艦に付け狙われている。

 

「肥大化した戦力」「燃料分配の優先度の低さ」「敵による通商破壊」の三点が積み重なり、ガソリン枯渇の可能性が高まっているのだ。

統合軍が莫大な燃料消費率を抱えている以上、無理からぬことだったが…。

 

「万が一にも燃料が枯渇したら目も当てられません。以後の我々の方針は、従来と同じく『敵の占領地を増やさない』でよろしいかと思います。現状では勝つ戦ではなく、負けない戦をするべきです」

 

2DA戦務参謀のフョードル・アレフスキー少佐が言った。

司令部内唯一のソ連人参謀であり、第五十独立重戦車旅団から参加している。

 

「フョードル参謀に賛成です」

 

スコルキン3AG参謀長が賛成の意を表した。

 

「我々第三航空集団でも、燃料の不足は深刻な問題として受け止められています。航空機の運用には戦車以上の燃料が必要な上、数も多い。第二方面軍が積極的な攻勢に出るのは、燃料補給の状況を改善してからにしていただきたい」

 

燃料の問題は、2DAのみならず3AGでも同様である。

多数の航空機を有する以上、2DAよりも切迫しているのかもしれない。

 

「しかし、消極的な姿勢のままではオーストリアから深海棲艦を駆逐することはできません。もしもAB軍集団に我々を凌駕する力を得ることを許せば、我が国土から奴らを追い落とすことなど永遠に不可能になります。…いいや、それだけではありません。シドニーが落とされ、キャンベラにまで魔の手が伸びる可能性すらあります」

 

オーストラリア軍連絡官のヴィンセント・スタットリー大尉が、力説するように言った。

将官や佐官というそうそうたるメンバーの中で唯一の尉官だが、臆することはなかった。2DA、3AG両司令部の方針が、消極策に傾いていることに焦りを感じだのかもしれない。

彼を含むオーストリアの人間は、一刻も早く国土から深海棲艦を追い出したいのだ。

 

「安心したまえ、ミスター・ヴィンセント」

 

モントゴメリーがたしなめるように言った。

 

「我々は燃料の問題を抱えているが、早急に改善されるだろう。そうなれば積極策に転じ、貴国の領土を奪還することも可能だ。それに統合艦隊では、オーストラリア大陸の戦況を打開する作戦が立案されているらしい」

 

「打開する作戦、ですか…」

 

ヴィンセントは半信半疑で聞き返す。

作戦室内の各国軍司令官も、顔を見合わせる。

 

「その作戦は、ミスター・ミワに説明してもらう」

 

モントゴメリーは、後ろに立つ将校を振り返った。

純白でスッキリとしたデザインの軍服に、統合同盟マークが入った制帽を被っている。そのマークの中心には「JPF」の文字が入っており、統合太平洋艦隊から派遣されたことを示している。

名前と容姿からして日本人だろう。その男性に、作戦室内全員の目線が集中した。

 

「統合太平洋艦隊司令部から参りました、三和義勇大佐です。これから、本司令部で立案された豪州分断(“FS”)作戦について、説明させていただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十九話 「新たなる目標」

 

 






オーストラリアの現状についての回でしたわ

次からは太平洋に戻ります
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