南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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決戦機動増殖都市風に


第七十六話 独艦奮闘機動烈火海峡 : 上

 

1

 

E2部隊がニューアイルランド島沖で死闘を繰り広げている頃。

 

ニューブリテン島とニューアイルランド島を分かつセント・ジョージ海峡の中央で、ドイツ海軍ラバウル戦闘群は敵に備えて遊弋待機をしていた。

 

「プリンツ・オイゲン」「シャルンホルスト」「アドミラル・グラーフ・シュペー」「アドミラル・シューア」の順で単縦陣を組んでおり、針路は270度。海峡に蓋をするような針路を描いている。

 

ラバウルないしカビエンを目指して海峡を北進する敵艦隊に対して、T字を描けるようにしているのだ。

 

最初は、平穏そのものだった。

 

東南東の水平線では稲光のような閃光が絶えず走り、遠雷のような砲声が殷々と響いていたが、セント・ジョージ海峡に突入してくる敵艦は一隻もおらず、大型艦四隻は東西のピストン運動を繰り返した。

 

各艦の乗組員は緊張した面持ちで戦いの水平線に目をやり、長大な主砲は南を睨み続けるが、深海棲艦隊がイギリス艦隊を突破して海峡に突入して来ることはない。

 

「来ぬか」

 

隊列先頭に立つ重巡ーー「プリンツ・オイゲン」艦長のオットー・マティス大佐は、敵艦が来るかもしれないであろうセント・ジョージ海峡の入り口を見やった。

敵艦隊には四十センチ砲搭載艦がいるようだが、イギリス艦隊はよく食い止めているのだろう。敵艦隊が姿を現わす様子はない。

 

「深海棲艦との戦いを恐れはしませんが…できれば来て欲しくはありませんな。本艦のコンディションは、決して良いものではありませんから」

 

航海長のフーベルト・バイルシュミット中佐が、双眼鏡を左舷にむけ、不安そうに言う。

それを聞いて、オットーは前部甲板に鎮座する主砲に視線を移した。

 

「プリンツ・オイゲン」は昨日まで、オーストラリア大陸北部戦線の最前線である町ーーーカーペンタリアの艦砲射撃任務についていた。

単艦での陸軍支援を三日間に渡って実施したため、主砲の二十.三センチ砲にしろ十.五センチ高角砲にしろ消耗が激しく、砲弾残数も少ない。

主砲に至ってはアウグスト・ボルマン砲術長曰く、「摩耗が激しく、砲身寿命が限界に来ています」とのことだった。

それだけではない。

二日目の艦砲射撃では敵機の反撃に遭い、中央上部構造物の右側に爆弾を受けている。

 

これから戦艦を含む敵艦隊と戦うかもしれない…と考えると、かなり不安になる状態だ。

 

「それでも…やるしかあるまい。我がドイツ海軍が派遣できる最良の水上砲戦部隊が、我々なのだからな」

 

オットーは半ば自分に言い聞かせるように言った。

 

 

フーベルトの危惧は、数分後に現実のものとなる。

 

 

「『シャルンホルスト』より発光信号。“RK、針路180度。速力二十八ノット”」

 

「何?」

 

見張員の報告に、オットーは首を傾げた。

「RK」とは、ラバウル戦闘群(Rabaul Kampfgruppe)を示している。戦闘群の指揮を取る「シャルンホルスト」艦長のハンス・ラングスドルフ少将は、今までの遊弋待機を中止し、艦隊を南へ移動させるようだ。

 

「フーベルト」

 

オットーがフーベルトに軽く目配せすると、フーベルトは指示を発した。

 

「取舵。針路180度。変針後、速力二十八ノットに増速せよ」

 

今まで東西のピストン運動しかしてこなかった羅針艦橋、操舵室が、少しの喧騒を増す。

 

「取舵90度。宜候」

 

数十秒の間を開けて、全長二百十六メートル全幅二十二メートルの艦体が、左にへと艦首を振る。

真正面に見えていたニューブリテン島の稜線が右に流れ、同島最東端のガゼル岬を右に望む針路へと移行する

 

「『シャルンホルスト』転舵。『グラーフ・シュペー』転舵」

 

後続艦の状況がリアルタイムで届き、隊列の針路が西から南に移ったことを伝える。

「プリンツ・オイゲン」の鋭い艦首が真南を向いた時、機関の鼓動が高鳴る様が、足の裏を通じて感じ取れた。

 

「増速します」

 

風切り音が増し、「プリンツ・オイゲン」は巡航速度から二十八ノットに加速した。

本来なら三十三ノットを発揮できる艦だが、今回はドイッチュラント級と隊列を組んでいるため、それに合わせ形である。

 

「敵艦隊でしょうか?」

 

変針指揮を終えたフーベルトが、不安げに聞いてくる。

 

「まだ分からん」

 

オットーは短く返した。

イギリス艦隊と敵艦隊は依然戦闘中だが、こちらに近づいて来ている様子はない。

「国籍別の艦隊が事前調整もなく夜戦を戦うのは、同士討ちの危険が高い」としてラバウル戦闘群はイギリス艦隊と距離を置いたが、指揮官のラングスドルフ少将はそれを覆し、イギリス艦隊の支援に向かうのつもりなのだろうか?

 

「『シャルンホルスト』より入電です」

 

通信士が艦橋に上がってくる。

読め、とフーベルトが通信士に顎で示す。

 

「読みます。“敵戦艦、ニューブリテン島沿岸ヲ北上中トノ通報アリ。RKハ此レヲ邀撃。殲滅セントス”です!」

 

「イギリス軍の航空攻撃は失敗していたか…」

 

艦橋内にどよめきが広がるが、オットーは冷静だった。

 

今日の日没前。イギリス海軍の空母艦載雷撃機が敵艦隊に対して空襲を実施しており、戦艦一隻に魚雷数本を命中させて撃破したという。

だが、それは誤認だった。

深海棲艦隊のタ級戦艦二隻は依然健在であり、敵は艦隊を二分し、一隊でE2部隊を引きつけ、もう一隊でガラ空きのラバウルを攻撃する腹づもりだったに違いない。

 

E2部隊が敵主隊と戦闘になっても別働隊が現れなかったのは、ソロモン海を大幅に迂回していたからだろう。

タ級戦艦の機動力と速力ならば、迂回など訳はなかったようだ。

 

「まさか…艦隊を二分していたとは」

 

フーベルトが気の抜けた声を出す。

戦闘の生起が確実となり、「プリンツ・オイゲン」がしっかりと戦えるだろうか…と考えているようだ。

 

「我々にとって敵戦艦が二隻とも健在ということは大きな誤算だったが、それは敵に対しても同じだ」

 

オットーはそこで言葉を切り、フーベルトの肩に手を置いた。

 

「敵も我々がいるとは思っていまい。E2部隊を牽制して事足りていると考えている敵の慢心を利用すれば、必ず勝てるさ」

 

フーベルトはなにも言わなかったが、力強く頷いた。

 

「『シャルンホルスト』より信号。“敵位置、ワイド湾ヨリノ方位160度。敵針路15度。沿岸トノ距離、十一浬”」

 

「再度信号です。“敵艦隊、タ級戦艦一。補助艦艇ハ確認出来ズ。速力三十ノット以上”」

 

恐らく、ニューブリテン島の地上部隊からの通信を転送しているのだろう。「シャルンホルスト」が敵戦艦北上を察知したのも、地上部隊からの通報からかもしれない。

 

(敵はワイド湾に差し掛かったあたりか)

 

オットーは、脳裏に海図を描いた。

ニューブリテン島は、南西から北東にかけて北にカーブするような輪郭をしており、ラバウルはその北端付近に位置している。

ワイド湾は同島南東部にある湾であり、ラバウルからの距離は決して遠いとは言えない。

 

ラングスドルフはそれに鑑み、出来るだけラバウルから離れた海域での迎撃を決定したのだろう。

 

(かかってこい。深海棲艦)

 

正面海域は、マッチ一本ほどの光も見えない。

頭上には南半球の溢れんばかりの星々が輝き、戦闘群右舷には巨大なニューブリテン島の海岸がぼんやりと見えている。

オットーは、敵が近づいているであろう正面海域を凝視し、まだ見ぬタ級戦艦に対して言った。

 

「イギリス艦隊を封じ込めたからって、簡単にラバウルを攻撃できると思うなよ。我々の目が黒いうちは、指一本触れさせん」

 

味方は二十八ノット、敵は三十ノット以上で、双方が近づき合っている。接敵は近い。

暗黒の海域からは、近づいてくる敵の気配をひしひしと感じることができた。

 

 

2

 

「『プリンツ・オイゲン』より信号。“敵艦見ユ。本艦ヨリノ方位320度。距離一万。敵ハ戦艦タ級ナリ”!」

 

南下を開始してから十五分後。

「シャルンホルスト」の艦橋から、「プリンツ・オイゲン」艦橋に発光信号の閃光が瞬く様が見てとれた。

信号は、敵がタ級戦艦であること、距離が一万メートルであること、戦闘群の左前方を進撃していることを伝えている。

 

「戦闘群針路90度。右砲戦、目標敵戦艦。全艦、夜戦に備え」

 

接敵を把握した同戦艦艦長兼ラバウル戦闘群指揮官のハンス・ラングスドルフ少将は、凛とした声で矢継ぎ早に命じる。

 

「命令了解。取舵一杯、針路90度。『プリンツ・オイゲン』回頭点の手前で変針」

 

「主砲、右砲戦。射撃目標敵戦艦。測的開始します」

 

艦長の指示を受け、航海長のツェーザル・キッシンジャー中佐、砲術長のエルンスト・グロックラー中佐が各部署に命令を飛ばす。

 

眼下の二十八センチ三連装砲二基が砲身仰角を上げつつ右に旋回し、前方を進む「プリンツ・オイゲン」の薄っすらとした影が左への回頭を開始した。

やや置いて、「シャルンホルスト」もその鋭利な艦首を左へ振り、「プリンツ・オイゲン」を追って針路90度ーーー真東へと向ける。

後続するポケット戦艦二隻も転舵し、ラバウル戦闘群は敵戦艦の正面を左から右へ横切る針路へと移った。

 

「後続艦、どうか?」

 

キッシンジャーが後部見張員に聞く。

 

「『グラーフ・シュペー』が軸線上から右に逸れています。『シューア』は正常」

 

「『プリンツ・オイゲン』も右にずれてますな」

 

ラバウル戦闘群は、ラバウル防衛のため臨時に編成された部隊である。初めて単縦陣を組んだ艦もあるため、変針によって隊列が少し崩れてしまったようだ。

 

「構わんさ」

 

ラングスドルフはたかをくくった。

敵は戦艦一隻のみである。駆逐艦や巡洋艦がいないのなら、少し隊列が乱れていても問題はない。

もしかしたら、敵戦艦が目標選定を迷う分有利かもしれない。

 

「砲撃準備完了」

 

グロックラーが落ち着いた声で報告した。

「シャルンホルスト」は前部二基、後部一基の主砲の発射準備を整えたようだ。

「シャルンホルスト」がそうなら、他の三隻も同様だろう。

 

「“RK”。射撃開始」

 

ラングスドルフは気負ったところを見せずに下令した。

刹那、各砲塔の一番砲身から真っ赤な火焔が躍り出し、直径二十八センチ、重量三百十五キロの徹甲弾三発が発射された。

 

戦艦に搭載される砲としてはかなり小口径に分類されるが、足元に落雷したかのような鋭い轟音が耳をつんざき、固形化した空気がラングスドルフの身体を突き上げる。

全長二百三十五メートル、基準排水量三万二千トンの艦体が発砲の衝撃を受け止めて震え、水兵によってピカピカに磨かれていた甲板を爆風が駆け抜けた。

 

残響が湿った空気に消える中、前方を進む「プリンツ・オイゲン」も二十センチ砲を発砲し、後続のドイッチュラント級二隻も「シャルンホルスト」と同様二十八センチ砲を放つ。

前後から頼もしい砲声が届き、視界内に捉えている「プリンツ・オイゲン」の後ろ姿が逆光で浮かび上がった。

 

放たれた二十八センチ砲弾七発、二十センチ砲弾四発の計十一発は、低い放物線を描きながら一万メートルをひとっ飛びし、タ級戦艦に殺到する。

だが、この砲弾群が敵戦艦を捉えることはなかった。

 

「敵戦艦、面舵!」

 

レーダー員が敵情を知らせる。

今まで逆探知を恐れて稼働させていなかった対水上レーダーだが、数分前から探知を開始している。

レーダーの反射波が、敵戦艦の動向を感知したようだ。

 

四隻から発射された十一発は敵戦艦が直進する前提で放たれたもののため、狙いを外され、敵戦艦の左後方に落下する。

はっきりとは見えないものの、水平線の手前に白いモヤが盛り上がる様が、複数見てとれた。

 

「敵艦同航。本艦の右後方…距離九千!」

 

レーダー員が新たな情報を知らせる。

 

(敵は我々を脅威と取ったか…)

 

報告を聞いて、ラングスドルフは呟いた。

タ級はラバウル戦闘群を強引に突破するわけでもなく、正面対決の同航戦に持ち込んできた。

戦闘群が健在である限り、ラバウルへの艦砲射撃は不可能だと判断したのだろう。戦闘群を壊滅させた後、ゆっくりと基地設備を叩くつもりのようだ。

 

「舐められたものですな」

 

ラングスドルフと同じ考えに至ったキッシンジャーが苦笑した。

 

「個艦の性能では劣りますが、こちらは四隻です。短時間で壊滅させられる筈がありません」

 

それに対してラングスドルフが口を開きかけた時、右後方の海域を瞬光が包み込む。周囲の星々の光が薙ぎ払われ、巨大な火焔が敵艦上にほとばしった。

 

「敵艦発砲!」

 

見張員が絶叫を上げた刹那、「シャルンホルスト」に砲声が届き、遠雷のような音が響き渡る。

次いで大気が鳴動し始め、名状しがたい圧迫感を持つ飛翔音が聞こえ始めた。

艦橋内の空気が小刻みに震え、音は瞬く間に増大する。

 

(狙いは本艦か)

 

ラングスドルフは増大する飛翔音を聞き、敵の砲撃目標を悟った。

重々しい飛翔音によって全ての音が掻き消され、堪え難い音量まで上がった刹那、それは唐突に止む。

「シャルンホルスト」の右舷側に三本の水柱が奔騰し、頂きはマストを超えて遥かな高さまで突き上がった。

艦底部から水中爆発の爆圧が突き上げ、波浪によって艦が動揺する。

 

「深海棲艦も目が高い」

 

水柱を見つめながら、ラングスドルフは口角を吊り上げた。

ラバウル戦闘群の中で、「シャルンホルスト」は最も強力な艦である。タ級戦艦はそれを見抜き、それを優先して撃破しようしているのだ。

恐らく、レーダー反射波の一番大きい艦を一番強力な艦と考え、目標を選んだのだろう。

 

「艦長…!」

 

キッシンジャーが顔をひきつらせる。

各艦の射撃指揮所が再測的に勤しんでいる中、変針後の発砲はタ級戦艦が先手を取ったのだ。しかも目標は自艦と来ている。

そのことに、少しの不安を感じたようだ。

 

「案ずるな、航海長」

 

ラングスドルフはたしなめるように言う。

今の状況は、ラングスドルフにとって概ねプラン通りであった。

 

タ級の射弾が飛来してから二十秒後、再測的を終えた「シャルンホルスト」は二度目の射撃を実施する。

各砲台の二番砲身が咆哮し、真っ赤な火焔と二十八センチ弾三発を、九千メートル先の目標に向けて叩き出した。

 

前方を進む「プリンツ・オイゲン」が続けて発砲し、後続の「グラーフ・シュペー」「アドミラル・シューア」も遅れじと第二射を撃つ。

後者二隻の砲声は、第一射より倍以上も大きい。

ドイッチュラント級装甲艦は通商破壊を目的で建造されたため、搭載主砲の直径は二十八センチとシャルンホルスト級に劣らないものの、搭載数は三連装二基のみである。

交互撃ち方では二発しか発射できず、弾着修正に手こずってしまうかもしれないのだ。

両艦の艦長はそれに鑑み、第二射から斉射に切り替えたのだろう。

 

四隻のドイツ艦から放たれた射弾は高空を矢なりに通過し、やがて着弾する。

艦橋から、九千メートル先の物体を視認することはできない。

水柱にしろ敵戦艦にしろ、「白くもやもやとした影」としか表現できない状態である。下手をすると、闇に溶け込んで見えなくなってしまう。

さながら、幽霊と戦っているような感覚であった。

 

だが、タ級が第二射を撃ち、無骨な艦影をさらけ出す瞬間、それが紛れもなく戦艦であることを認識させられる。

 

敵の巨弾を受ければ甚大な被害を被り、逆に砲弾を撃ち込めばダメージを与えられる。深海棲艦は海の亡霊であると言う主張もあるが、明らかに実体対実体の戦いであった。

 

タ級の第二射弾が着弾する直前、「シャルンホルスト」は第三射を撃つ。

三たびの閃光、轟音、衝撃が艦橋に襲いかかり、五十四.五口径という長砲身から砲弾が撃ち出された。

シャルンホルスト級から新生ドイツ海軍の大型艦に採用され始めた低い構造物に円筒という特徴的な艦橋が、発射炎によって照らし出される。

 

直後、「シャルンホルスト」と「プリンツ・オイゲン」を結んだ線上に、敵弾が吸い込まれた。

爆圧が艦底を突き上げ、真正面に三本の水柱がそそり立ち、アドミラル・ビッパー級重巡の姿を完全に遮る。

アトランティック・バウの艦首が水柱の一つを突き崩し、大量の海水が前部甲板と第一砲塔、第二砲塔に降り注いだ。

 

艦体を上下に揺さぶられながらも、「シャルンホルスト」は第四射を撃ち、第五射を撃つ。

「シャルンホルスト」の搭載主砲は打撃力に欠けるものの、砲弾重量が軽いため、装填時間はわずか十七秒である。

その速射力に物を言わせ、タ級戦艦が三回目の射撃を実施する前に「シャルンホルスト」は五回の射撃を行ったのだ。

 

第五射弾の三発が空中にある内に、タ級戦艦が第三射を放つ。

三度目の…あたかも稲光のような光が「シャルンホルスト」よりも一回り大きい艦体を照らし、三基の主砲、箱型の艦橋を浮かび上がらせた。

 

聞きたくも無い轟音が鳴りひびき、巨弾が落下してくる。

飛翔音は「シャルンホルスト」の頭上を右から左へ飛び越し、艦橋の真横に着弾した。

三本の水柱のうち二本が舷側をかすめ、水柱に押しのけられるようにして「シャルンホルスト」は右に傾く。

大量の海水が滝のように降り注ぎ、艦橋周辺は濛気に包まれた。

 

敵弾は「シャルンホルスト」から五十メートルと離れていない箇所に二発が落下した。

少しでも右にずれていたら艦橋を爆砕されていたかもしれない。そう思えるほど危険な位置だったのだ。

 

(そろそろか…)

 

ラングスドルフは崩れゆく水柱と時計を交互に見、そして命令を発した。

 

「『アドミラル・グラーフ・シュペー』に信号。“探照灯、照射セヨ”」

 

「本艦、砲撃中止。これより『シャルンホルスト』は、敵弾の回避に専念する!」

 

 

 

 

第七十六話 独艦奮闘機動烈火海峡 : 上





上と書いている通り、ドイツ艦の奮闘は次回に続きます!


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