南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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遅れましたぁ…。
今回の話の前半は、「深海棲艦目線」です。


第八十三話 鉄嵐

1

 

ガダルカナル島エスペランス岬沖で米艦隊を待ち構えていた深海棲戦艦は、ニューアイルランド島沖海戦を辛うじて生き残ったタ級戦艦だった。

同海戦で深海棲艦はタ級二隻、巡洋艦四隻、駆逐艦十一隻でラバウルの人類飛行場の破壊を試みたが、人類艦隊の決死の反撃を受け、戦艦一隻、巡洋艦二隻、駆逐艦三隻を失って敗退している。

 

今。第六十七任務部隊(T F 6 7)を迎え撃っているタ級戦艦も同海戦に参加しており、魚雷一本と砲弾二百発を被弾して大破した。

海戦後。大破した艦体のまま、加えて人類軍に勘付かれぬまま、ニューアイルランド島を離れることには成功したものの、艦隊拠点であるニューカレドニア島にまで帰還する力は残っておらず、ガダルカナル島の対岸にあたるフロリダ島で力尽きた。

幸い、人類軍の攻撃目標は飛行場姫であり、偽装も相まってタ級は発見を逃れ、今日まで同島南岸のツラギで応急修理を受け続けていたのだ。

 

──タ級戦艦の艦橋の上部には、人類の巡洋艦を見つめる蒼い二つの目がある。二の腕まで伸びる銀髪が海風にたなびき、楽観など微塵もしていないであろう表情が浮かび上がる。

「女性」。艦橋天蓋に佇むそれは、恐ろしく白い肌、獣の用に光る青い目、腰の左右に接着した艦砲のような艤装を除けば、「女性」と称して良い容姿をしていた。

頭部から脚部までスラリと伸びた体型をしており、左肩には肩当てが、上半身は水兵が着るようなセーラー服を身に纏っている。それらの上からマントのようなものを羽織っており、風になびいて激しく揺れていた。

 

天蓋に佇む女性は、右腕を敵艦隊にかざす。

艦首と艦橋の間に搭載されている二基の主砲が、重々しい音と共に右に旋回し始める。

艦橋後部の第三砲塔は、忌々しい敵巡洋戦艦の三十八センチ砲弾を喰らって破壊されていたが、後部砲塔を除く健在な主砲は一番砲身から順に角度を上げ、人類艦隊が距離一万メートルを切った頃には、全門が目標に指向していた。

現在、タ級戦艦は停止している。応急処置によって左舷喫水線下の穴はふさがったが、速力を出そうものならたちまち水圧によって切り裂かれてしまうだろう。それを防ぐためだ。

停止中が功を奏し、タ級戦艦は敵艦隊に感知されていない。

レーダーには映っているだろうが、岩礁かなんかと誤認しているようだ。

 

その考えに至った「女性」は、薄っすらと笑い、侮蔑に近い表情に変化する。

人類艦隊の巡洋艦六隻は、無防備な状態で近づいてくる。

 

なんの前触れもなく、タ級の主砲は咆哮した。

爆風が眼下から突き上げ、「女性」の髪をはためかせる。衝撃が艦体を貫き、そのまま海中に散ってゆく。

放たれた四十センチ砲弾六発が、さほど防御力の高くない巡洋艦群に殺到する。

距離は一万メートル以下。巡洋艦は、回避もままならない。

目標は隊列先頭に位置している敵巡洋艦である。

六発は目標の左右に着弾し、巨大な水柱をそそり立たせた。

閃光は無い。放たれた六発は敵艦を夾叉したものの、その艦体を抉ることはなかったようである。

 

タ級の存在を察知した敵艦隊の反撃は早かった。

目標としている一番艦を皮切りに二番艦、三番艦が発砲し、後続の四、五、六番艦も主砲を撃つ。

彼方の水平に六つの閃光が立て続けに走り、敵艦一隻一隻を暗闇の中から照らし出し、輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。

輪郭から、一、二番艦は三脚檣を、残りの三、四、五、六番艦はがっしりとした箱を、それぞれ艦橋にしているようだった。

 

タ級のレーダーは、それ以外の敵艦も捕捉している。

八、九隻の駆逐艦が、放された猟犬の勢いで巡洋艦群を離れ、こちらに急速接近中である。

それに対応するべく、タ級戦艦の後方に待機していた中型艦二隻が増速し、艦の右舷側を通過して敵隊列へと向かってゆく。

ガダルカナル防衛のために急遽派遣された部隊である。駆逐艦嚮導巡洋艦として配備されていた軽巡を改装し、主砲を取っ払い、多数の魚雷発射管を搭載した重雷装巡洋艦だ。

それが二隻。

タ級を足すと三隻。これが飛行場を守る深海棲艦の全艦艇であった。

 

重雷装艦戦隊がタ級の艦首脇を通過した頃。

敵巡洋艦六隻から放たれた敵弾が、一番艦から順に降り注いでくる。

タ級は停止しているため、命中弾を得るのはさほど難しい事ではないのだろう。一番艦の射弾の大半はタ級の左右に水柱を奔騰させ、一発が第一主砲の脇を舷側を抉り取った。

二番艦は命中はなかったものの、やはり両舷に水柱をそそり立たせ、驟雨のような海水が「女性」に降りかかる。

 

三番艦以降の着弾は一、二番艦とは違った。

いや…着弾ではない。着弾寸前に炸裂し、巨大な火球と無数の火の粉が花火のように四散させたのだ。

一発や二発ではない。合計九発の敵弾がタ級周囲の空中で爆発し、火焔と鋭利な破片がタ級に摑みかかった。

余裕、侮蔑と言った表情を浮かべていた「女性」の顔が、大きく豹変する。

炎と鉄の暴風雨の只中、四番艦、五番艦さらに六番艦の砲弾が続け様に炸裂し、互いの爆風と破片、火焔が入り混じり、タ級戦艦を灼熱の大嵐の只中へと放り込んだ。

 

その嵐が止む頃、タ級の艦上ではいたるところに小火災を確認でき、甲板や機銃と言った表面的な部分が広範囲にわたって傷つけられていた。

主砲や舷側の装甲帯が貫通されることはないが、巡洋艦四隻による巨大な「散弾」は、今までの応急修理によって張り替えられていた甲板をズタズタにすることなど容易い。

甲板には数え切れないほどの鋭利な破片が突き刺さり、艦橋上部の露天に佇む「女性」も、一発の弾子を受けていた。

腹部から黒色の液体が流れ、艦橋の外板を黒く染める。

 

右前方の海域では敵駆逐艦と重雷装艦戦隊との戦端が開かれており、はやくも一番艦の飛翔音が自らに迫っている。

先の「嵐」を奇跡的に乗り切った射撃管制レーダーを基にして、タ級は敵一番艦への第二斉射を放つ。

砲の力強さは変わらない。音速の二倍以上の初速で、重量一トン以上の巨弾六発を叩き出した。

 

敵一、二番艦の第二射が入れ替わるように、大気を切り裂きながら落下してくる。両艦とも夾叉弾を得ているため、斉射だ。

十発ほどの敵弾群が二回続けて飛来し、着弾した瞬間、水柱が突き上がり、鈍い衝撃が艦体を揺らす。

破壊音が三回、鉄塊同士が激突したような音が二回響き渡り、計五発を被弾したことを伝える。

右舷側の副砲が爆砕され、後部甲板の第三主砲近くの甲板に穴が穿たれる。副砲からは火災が発生し、一条の黒煙を狼煙のように噴き上げ始めた。

 

水平線上にも、発射炎とは異なる閃光が走った。

火焔が湧き出し、一番艦の姿がこれまで以上に浮かび上がる。

長細いものや板のようなものが飛び散り、決して小さくない艦体が跳ね上がる。

三脚檣が根元からちぎれ、左舷海面に倒壊した。

 

タ級が放った第二射弾が艦橋に直撃したのだ。

一番艦は隊列先頭を維持しているものの、この距離からでも艦影が一変していることがわかる。

 

そこまで確認した時、三番艦以降の敵弾が飛来してくる。

「女性」は空中を睨みつけ、その時を待った。

 

タ級を飛び越えて左上方で炸裂した初弾を皮切りに、合計九発が弾け、凄まじい数の破片、火焔を四散させる。

第一射目と同様…四番艦、五番艦の十八発も遅れ時と炸裂し、六番艦の射弾もやや遅れて爆発した。

凄まじい熱風が吹き荒れ、再びの鉄の嵐が停止中で回避もままならないタ級に襲いかかる。

応急修理で新たに設置され、機能を維持していたレーダー、通信アンテナ、機銃座は二度の嵐で全て破壊され、降り注いだ破片で副砲の数基が機能不全に陥る。

 

「女性」はこのままではただの的だと考え、自艦の機関を始動させた。少しでも前進し、敵弾を空振りにしようと考えてたのだ。

推進機にエネルギーが注ぎ込まれ、鼓動が徐々に力強さを増す。

スクリューが回転し、艦首が海面を切り裂き始めた。

さざ波の音が届き、前から後ろへ風が通過する。垂直に上がっていた黒煙が引きずられる。

 

敵巡洋艦群が隊列順に発砲する。

驚いたことに、艦橋を消し飛ばされて満身創痍であろう一番艦も発砲した。

発射炎が、一変した艦影を浮かび上がらせるが、火力は変わらない。

続いて二番艦が撃ち、三番艦が撃つ。タ級が一番艦への第三射を撃つのと、四番艦が撃つがほとんど同時だった。

 

一、二番艦の通常弾が大気を切り裂きながら飛来する。

タ級戦艦は停止中から十五ノットに増速しているため、敵弾は艦中央部から後ろにかけて着弾した。

一番艦から放たれた十発は三発が命中し、うち一発が跳ね返されずに炸裂する。

すでに破壊されている第三主砲の天蓋に直撃し、残骸を飛び散らせた。

二番艦から放たれた十発は二発が命中し、その全てが鈍い音と共に跳ね返される。

ニューアイルランド島沖での戦いで大きな傷を負っていても、タ級の装甲は健在だ。重巡二隻からの斉射を耐え抜き、実質的な被弾は一発のみである。

 

四番艦以降の敵弾が迫る中、一番艦を目標とするタ級の第三射弾が着弾する。

自艦の増速も計算にいれて放ったつもりだが、それでも着弾範囲はやや後方にずれてしまった。

それでも、一発が艦後部に直撃する。

刹那、凄まじい大きさの爆炎が被弾箇所から天に向かって噴出し、膨れ上がり、弾けた。

雷鳴のような音が海上にこだまし、艦後部から砲塔のようなものが海に落下する。

 

タ級艦上からは知る由もなかったが、敵一番艦はノーマン・スコットTG67.2司令が座乗する「ペンサーコラ」だった。

タ級から放たれた四十センチ砲の一発が、後部第三、第四主砲の間の甲板を貫き、艦体に食い込んで二つの揚弾塔の間で炸裂したのだ。

側面から突き破られた塔内を巨龍のような火焔がのたうち回り、揚弾装置で装填を待っていた砲弾と、さらに下層にあった弾火薬庫に誘爆する。

第三砲塔と第四砲塔は眼下からの破砕エネルギーによって天蓋を切り裂かれ、五本の砲身はばらばらの方向に吹き飛んだ。

上部の爆発エネルギーは主砲をぶち抜いて上方に消えたが、弾火薬庫の砲弾百五十発の誘爆エネルギーは艦の奥底に留まり、艦の背骨たる竜骨(キール)をへし折り、艦底部、舷側を切り裂いた。

「ペンサーコラ」は二基の後部主砲の間を境に切り裂かれ、二つに分断された。

艦尾(二割)は急速に海中に引きずり込まれ、残り八割は艦首を上に向ける。

赤色の艦底部が晒される。

艦が浮いていられる時間は限られたものだが、脱出する将兵はいない。試みるものもいない。

弾火薬庫誘爆の衝撃は凄まじく、乗組員の全員が衝撃や音、火焔で人事不調に陥っているのかもしれなかった。

 

 

2

 

TG67.2二番艦の「ソルトレイクシティ」が、凄惨な姿になり今まさに沈没しつつある「ペンサーコラ」の脇を通過する。

大半の艦体が海に引きずり込まれつつあり、火災が海水に消火されて発生した大量の水蒸気が「ソルトレイクシティ」の三脚檣にまとわりつく。

 

「スコット!」

 

三番艦──重巡「サンフランシスコ」の艦橋で、TF67司令のダニエル・J・キャラハン少将は、「ペンサコーラ」に座乗していた次席指揮官ノーマン・スコット大佐の名を叫ぶ。

当然ながら返事はない。脱出している気配すらない。

「ペンサコーラ」は四十センチ砲の直撃と弾薬庫誘爆を受け、650名の乗組員と共にガダルカナル沖の海域に沈んでゆく。

 

「第三射弾、炸裂します!」

 

砲術長のブレナン・シーウェル中佐の声で、キャラハンは戦友の死を悼む気持ちを心の底に押し込め、右正横の敵戦艦へと目を向ける。

敵戦艦の頭上の中央から後方にかけて、「サンフランシスコ」から放たれた三式弾(T 3)九発が炸裂する。

炸裂点から漏斗状に大量の弾子・焼夷弾が飛び散り、海面と艦上に突き刺さる。一発はゼロ距離で炸裂したらしく、上部構造物の側面から凄まじい量の破片をまき散らした。

「サンフランシスコ」の三式弾の余韻が収まる前に、四番艦「ニューオーリンズ」、五番艦「ミネアポリス」、六番艦「ヴィンセンス」の砲弾が炸裂する。

「サンフランシスコ」艦上からはわからないが、タ級戦艦の周辺は凄まじい状態になっているだろう。

全弾の余韻が収まると、タ級は艦のいたるところに小火災を発生させている。

焼夷弾が突き刺さり、依然燃焼しているのだ。

 

「敵戦艦、加速。停止状態から航行状態に移りました」

 

シーウェルが報告する。

敵戦艦は停止した状態でTF67との戦端を開いたが、三式弾の炸裂を脅威と取ったのかもしれない。増速し、狙いを外しにかかったのだろう。

 

「司令。如何しますか?」

 

参謀長のビクター・ロゼッター二大佐がキャラハンに問う。

何が言いたいか、キャラハンにはわかる。

敵戦艦が動き出した今、第三巡洋艦戦隊(C D 3)第八巡洋艦戦隊(C D 8)の重巡五隻と敵戦艦は反航戦の針路を描いており、各々がこの針路のまま前進すれば、距離を置くことになるのだ。

任務の目標はあくまでルンガ飛行場姫であるため、敵戦艦が離脱する針路を描いている以上、飛行場破壊に専念すべきだ、と考えているのだろう。

だがキャラハンは否定した。

 

「飛行場姫よりも、今は敵戦艦の撃滅が最優先だ。艦砲射撃中に横合いを突かれれば、『ペンサコーラ』の二の舞は避けられぬ」

 

それに対して異議を唱えようとしたのだろう。ロゼッター二は口を開きかけたが、「ソルトレイクシティ」の斉射音に遮られた。

「ソルトレイクシティ」の三脚檣が逆光で浮かび上がり、三連装・連装の混合の主砲から十発の二十センチ砲弾が発射された。

唯一の姉妹艦を目の前で轟沈させられ、怒りに震えているようにキャラハンには思えた。

 

十秒ほどの間を開けて、「サンフランシスコ」の主砲も三式弾を叩き出す。

装甲を貫徹させる必要がないため、三式弾の発砲には弱装薬が使用されているが、二十センチ砲九門の斉射は強烈だ。

全長百七十九メートル、基準排水量一万トンのニューオーリンズ級重巡四番艦の艦体が衝撃を受け止め、武者震いのように振動した。

 

「“アース”より“サターン”、“ユレイアス”、左一斉回頭」

 

キャラハンは隊内電話を手に取り、各重巡に言った。

後方に離脱しつつある敵戦艦に食い下がり、砲撃を続行するのだ。

「サンフランシスコ」に続いて「ニューオーリンズ」や「ミネアポリス」が発砲する中、ロゼッター二が大声で異議を唱えた。

 

「重巡ではタ級に歯が立ちません」

 

「CD3、8の仕事は敵戦艦の火力の吸収だ。とどめは駆逐艦の魚雷でする。敵の補助艦艇はト級軽巡二隻のみだから、駆逐隊にはその余裕があるだろう」

 

「……」

 

それに対して、ロゼッター二は無言で返した。

不承不承といった様子だった。

 

「敵戦艦発砲!」

 

見張員が伝えるように、タ級戦艦が第四射を撃つ。

光量から考えて斉射だが、後部砲塔は今まで通り発砲しない。

六発の巨弾が、轟々たる音を奏でながらTF67に迫る。

それが着弾する前に「ソルトレイクシティ」の射弾が落下し、タ級の艦前部と中央に閃光を走らせた。

黒いチリのようなものが四散し、火焔が揺らめく。

 

「サンフランシスコ」の三式弾が炸裂するのと、敵弾が「ソルトレイクシティ」を至近弾夾叉するのは、ほとんど同時だった。

 

タ級戦艦を炸裂に伴う閃光、硝煙が包み込んだ刹那。ペンサコーラ級重巡の三脚檣のトップを遥かに超え、六本の水柱は天を串刺しにする勢いで奔騰する。

1929年就役という、合衆国重巡のなかでもっとも最古参な「ソルトレイクシティ」は、艦底から突き上げられる水中爆発で悲鳴を上げ、艦のいたるところから金属的な叫喚が鳴り響く。

 

極太の水柱によって姿が見えなくなったため、キャラハンは最初「ソルトレイクシティ」は轟沈してしまったのでは…?と思ったが、水柱が引くと、精悍で力強い後ろ姿をキャラハンに見せる。

 

「『ソルトレイクシティ』夾叉されました!」

 

「大丈夫だ。大丈夫」

 

見張員が緊迫した声を上げるが、キャラハンは艦橋内に聞こえる声ではっきりと言った。

キャラバンが指令した「左一斉回頭」はすでに実行されており、各艦ではすでに舵を切られている。

タ級が装填、発砲し、着弾する間に「ソルトレイクシティ」は回頭を開始しているだろう。

 

敵弾の飛翔音が聞こえ始めた頃、CD3とCD8の重巡五隻は一斉に左への回頭を開始した。

「サンフランシスコ」の鋭い艦首が左に振られ、艦体が右に傾く。正面に見えていた「ソルトレイクシティ」が右に流れ、やがて視界の左からCD8の僚艦──「ニューオーリンズ」「ミネアポリス」「ヴィンセンス」が姿を見せ始める。

タ級の射弾は狙いを外され、「サンフランシスコ」と「ソルトレイクシティ」の間に水柱を上げるだけだった。

一分後、CD3とCD8は回頭を終え、タ級戦艦と同航戦の形式に移った。

六番艦「ヴィンセンス」が先頭に立ち、二番艦「ソルトレイクシティ」が殿艦となる。

各主砲は回頭と同時に旋回しており、全砲門が左舷側に向き終わっていた。

 

束の間の沈黙の後、「ヴィンセンス」が発砲し、「ミネアポリス」も撃つ。逆光でシルエットが浮かび上がり、艦左側に発砲炎が噴出した。

再測的を終えたタ級戦艦も主砲を咆哮させ、ニューオーリンズ級のネームシップである「ニューオーリンズ」も、キャラハン座乗の「サンフランシスコ」も、今や最後のペンサコーラ級となった「ソルトレイクシティ」も、遅れじと二十センチ砲を放った

左に回頭したため、九千ヤードほどだった距離が一万一千ヤードにまで開いている。双方の砲弾が高なりの放物線を描きながら交錯し、大気を鳴動させながら、それぞれの目標へと飛翔した。

 

「敵軽巡一隻、左前方より接近」

 

キャラハンは敵戦艦との交戦に必死であり、レーダーを総括するトム・カドリッツ少佐のその報告を重視することはなかった。

 

 

 

 

 

第八十三話 鉄嵐(メタル・ストーム)





次回はチ級雷巡が大活躍かな?

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