南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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皆さん、お久しぶりです。



第八十八話 接触と攻撃

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 「蒼鶴」二号機の二式艦偵から“敵艦隊見ユ”の電文が二航艦旗艦「海鶴」に届いている頃、二航艦の北西三〇浬に位置している合衆国海軍第六十一任務部隊も、敵偵察機の接触を受けていた。

 

「レーダー・コンタクト。敵味方不明機探知。数一。我が艦隊と交錯する針路です!」

 

 TF61旗艦「レキシントン」の艦橋に緊迫した報告が上がる。

 

「オスカーです。おそらく、敵の偵察機でしょう」

 

 TF61航空参謀のパーシバル・フリーガル少佐の分析を聞いて、司令官のフランク・J・フレッチャー中将は苦い表情を作った。

「レキシントン」の頭上を飛び越えて、空中警戒中のF4F“ワイルドキャット”の小隊が敵偵察機に向かうが、おそらく間に合わない。

 

「敵機から発せられたと思われる電波を傍受!」

 

 通信室から報告が届き、フレッチャーは目を伏せた。

内容が分からずとも、想像はできる。こちらの艦隊規模、針路、位置等を母艦に通報したのだ。

 今頃、連絡を受けたヲ級空母の艦上では、攻撃隊の発艦作業が開始されているかもしれない。

 

「我々のとるべき方策は、二つあります」

 

参謀長のヘンリー・H・ミラー少将が言った。

 

「第一、直ちに攻撃隊をガダルカナルのエスペランス飛行場姫に差し向ける。飛行甲板上の爆装攻撃隊を空にすることで、敵攻撃隊の攻撃に伴う誘爆という最悪の事態を避けられます。が、その代わり、東海域に存在する可能性が高い敵機動部隊への攻撃手段を一時的に失います」

 

 人類統合軍太平洋方面艦隊司令部は今作戦にあたり、敵機動部隊の撃滅を第一優先とし、その後にガダルカナルの飛行場姫を叩くよう、日米空母機動部隊に命令を発している。

 しかし、TF16は敵機動部隊が発見できなかった場合に備えて、第一次攻撃隊は全機を爆装としていた。

 つまり、魚雷を抱えながら陸上基地攻撃に向かうという無様な真似ををせずに済む。

 

「第二はなんだね?」

 

「敢えてリスクを負う。つまり、攻撃隊の発進を待ち、現在放っている偵察機が敵機動部隊を発見する可能性に賭ける。賭け勝てばこの段階から敵機動部隊へ大きなダメージを見込めますが、負ければ合衆国海軍最上の空母機動部隊である我がTF 61が危機に陥ります」

 

 フレッチャーは黙考した。

 彼は自分が堅実な用兵家であることを自負してきた。ハルゼーのような勇猛果敢さはなく、スプルーアンスのような計算高さもない。だが、『堅実』こそが戦場でもっとも有用であることを信じて疑わない。

 TF16の第一次攻撃隊が爆装状態であることも、万が一の敵機動部隊未発見という事態に備えた措置だ。

 彼の答えは決まっていた。

 

「攻撃隊を出す。目標はエスペランス岬飛行場姫だ。敵艦載機か来襲する前に飛行甲板を開けさせろ。爾後、艦隊針路3-0-0。擬態針路を取る」

 

 方針は決まった。

 命令を受けたレキシントン級空母、ハンプトン・ローズ級空母各二隻、そして「ワスプ」で喧騒が増す。パイロットや艦載機を管理する整備員、兵器員、そして発艦指揮所に詰める将兵が慌しく動き始めた。

 洋上に巨大なまな板を乗せたような様相の空母五隻が、護衛の駆逐艦に誘導されながら艦隊を離れ、風上へと疾走する。

 甲板上では、合衆国海軍の主力艦上戦闘機であるF4F“ワイルドキャット“が、エンジンを咆哮させ、そのずんぐりとした体に似合わないスピードで飛行甲板を駆けさせた。

 機銃のスポンソンや艦橋見張台から将兵らの声援を受けながら、同機は飛行甲板の縁を蹴り、上昇していく。それに同じ戦闘機隊のF4Fが続き、そして数分後にはSBD“ドーントレス“急降下爆撃機、今回が初陣となるTBF“アヴェンジャー”雷撃機も飛翔してゆく。

 

 その報告が入ったのは、最後から四番目のアヴェンジャーが甲板をかけ始めた時だった。

 

 紙切れを持った通信兵が艦橋に駆け込み、敬礼もままならずに報告した。

 

「日本海軍第二航空艦隊旗艦『カイカク』より入電。“我、敵空母機動部隊ヲ発見ス。位置、ガ島エスペランス岬ヨリノ方位55度、距離二四〇浬。敵針路225度。速力二十ノット。撃滅ニ協力サレタシ“。以上です」

 

 フレッチャーは思わず笑ってしまった。そしてミラー参謀長に言った。

 

「ヘンリー。日本海軍が我が陣営にいてよかったと思わないかい?奴らの獲物を見つける目はサバンナのピューマ並みだ」

 

「まったくです。敵にだけはしたくありません」

 

 艦隊上空で編隊を組みつつある攻撃隊。その指揮官機に、「レキシントン」のアンテナから命令が飛んだ。攻撃目標変更の指示だった。

 

 


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