「ちょっ・・・、浩貴っ?」
翔多は、おそらくなにをされたのか一瞬分からなかったのだと思う。だが、カーペットに押し倒されるに至り、ようやく自分がキスをされたこと、そして、これからなにをされようとしているのかを悟ったようだった。
その、ひどく戸惑いを浮かべた顔と声。
浩貴の方は気づいてしまった。翔多にキスをしたことによって、彼への本当の気持ちに気づいてしまった。
もしかしたら、一生気づかないままで済んだかもしれない本当の気持ちに、恋心に、気づいてしまった。
もう知らなかった頃の自分には戻れない。時間は決して過去へは戻らないのだから。例え一秒さえも。
翔多への気持ちが、いったいいつから、友情ではなく恋情へと変わっていたのか、浩貴自身にも分からなかったけれども。でも。想いに気づいた次の瞬間、浩貴の唇は動いていた。
「翔多、オレ、おまえが好きだ」
「・・・・・・」
翔多が息を呑む気配。浩貴は、更に続けた。
「たった今、気づいた。友達としてじゃなくって、その、おまえに恋してる」
「浩貴・・・」
あまりにも突然すぎる告白に、翔多の瞳がこぼれそうなほど大きく見開かれる。
「ごめん。本当にいきなりだよな。でも、オレ真剣だよ、翔多」
「・・・う・・・ん・・・」
勢いに任せて押し倒してしまったが、翔多の気持ちも分からないまま、次の行為に及ぶことはできない。浩貴は、翔多の手を引いて体を起こした。呆然としている翔多をそのままに、浩貴は彼の部屋をあとにした。
浩貴自身が大きな混乱の只中にいたのだ。気づいてしまった想いに戸惑い、これからどういうふうに翔多と接すればいいのか、告白などしないほうが良かったのではないかと、後悔の気持ちが生じる。
もしかしたら『親友』としての翔多まで失ってしまうのではないか。
浩貴は、いっそ途方に暮れる思いで、気づいたばかりの恋を胸に抱え、家路を辿った。
当然その夜は眠れるはずもなく、浩貴は次の朝を迎えた。
――――どんな顔をして翔多と会えばいいのか。
浩貴は寝不足の頭を抱え、緊張も頂点で翔多と顔を合わせた。
だが、翔多の方はまったくの普通。いつもと変わらない自然体。昨日の告白などなかったかのように能天気な態度で話しかけてきて、いつもと同じく無邪気に笑い、ミヅキのことを気にかけて。
その次の日も、また次の日も、同じ。翔多はまったく変わらない。
浩貴は、そんな翔多を見て、思った。
・・・ああ、なにもなかったことにしたいんだな、と。
しかたないか・・・。オレたちは男同士だ。親友だと思っていた相手に愛の告白をされ、キスされ、押し倒されて。うれしいはずがない。気持ち悪がらず普通に接してくれるだけでもマシなのかもしれない。