外に出ると自転車の近くで
「早く早く!」
と言わんばかりの笑顔で曜が待っていた。そんなに乗りたいのか……。まあ、普段一歩一歩歩いて行く所を自転車で勢いよく走って行ける爽快感は俺も好きだしよくわかる。
「ほら、鞄貸せ。」
そう言うと曜は鞄を差し出す。
俺は自分の鞄と一緒に前のカゴに入れるとサドルに座る。そして、『さっきの仕返しだ。ちょっとからかってやろうか。』と考える。
「じゃあ、出発しますよ。お嬢様。」
というベタな台詞をぶっこんでやる。
すると曜は、
「うむ、苦しゅうない。参れ!」
と返してくる。ノッてくるのかよ……。俺の作戦はあっけなく失敗。(笑)
そんなことを考えながらペダルを漕ぎだす。俺は特別運動ができる訳ではない。むしろ苦手だ。しかし、自転車を漕ぐのは割と得意なのである。モトクロスとかは知らんけどな。てか、そんなこと考えてたから気付かなかったけど曜の腕が俺の腰に回されている。周囲の目が痛いし恥ずかしかったので、
「こ、この手は何かなぁ、渡辺さん。周囲の目が痛いんだけど。」
と恥ずかしいのを堪えて言う。なんで恥ずかしいのを悟られたくないかって?からかわれるに決まってるからだよ……。
「だって危ないじゃん。」
「いやいや、抱きつく形になってるんだが。それは流石に……。」
「まあまあ、それは幼馴染みなんだからいいってことで。もしかして……意識しちゃってる?」ニヤニヤ
「バ、バッカ。意識なんかしてねえよ!周囲の目が痛いだけだ!」
「ほんとかな~?」ニヤリ
「うっせ。振り落とすぞ。」
「またまたぁ~」
いい加減恥ずかしいのを堪えられなくなったので無言でペダルを漕ぐペースをあげる。全く、こいつは。そうこうしているうちにとある旅館、「十千万」に着いた。
この「十千万」は俺のもう一人の幼馴染み、高海千歌の自宅でもある。曜は俺の自転車の荷台から降りると
「宗くん、行くよ」
と言ってくる。
「はいよ。」
俺は一言そう答える。え?何処に行くのかって?千歌の部屋だよ。あいつを起こしに行くんだ。最初のうちは年頃の女子だし寝起きに部屋にいるのはまずいだろうと考えていたが、曜に無理矢理入らされて起こすハメになった。今ではもう慣れてしまっている。大丈夫だろうか、俺。
そんなことを考えているうちに正面の玄関から志満さんが出てくる。千歌の姉だ。
「あら、おはよう、今日も起こしに来てくれたの?ありがとうね。曜ちゃんは相変わらず可愛いわね~」
あのー、最後の一言なんですかね。余計だったんじゃないですかね。何故かって?すぐ調子に乗るからだよ、曜は。おっと、挨拶ぐらいしとかないと。
「「おはようございます。」」
そう言うと俺と曜は千歌の部屋へと向かう。その途中でだ。曜がこんなことを言い出した。
「志満さん、私のこと可愛いって言ってくれたよ?宗くんからは何かないの?」ニヤリ
やっぱりな……。俺の思った通りだ。この目はまたからかおうとしているに違いない。今度こそ避けないとな。
「はいはい、可愛い可愛い。」
俺はそう軽くあしらった。
すると曜は
「絶対思ってないでしょ。」
と睨み返してくる。
いや、実際可愛いんだけどね。でもまたからかわれるのは御免だからね。そんな思いを胸にしまいながら
「さあな。」
俺はその一言で済ます。
そして、千歌の部屋に着いた。
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千歌はまだぐっすりと眠っている。気持ちよさそうだな……と和んだり世話の焼ける奴だと溜め息をつきたくなったり。いかんいかん。和んでいる場合ではない、早く起こさねば。ベッドの方を見ると曜が布団をひっぺがえしたところだった。
「千歌ちゃーん!早く起きなさぁーーーい!」
「うぅ……あと5分……いや10分……。」
「駄目だよ!てか増えてるじゃん!早く起きて!」
なんて会話が繰り広げられている。俺も一言ぐらい何か言わないとまずいな。
「おい千歌、新学期早々遅刻していいのか?」
「あれ?しゅーくんもいたの?」
「最初から居たよ。てか早く起きろ。曜も困ってるだろ。」
そう言うと千歌は
「うわ!ごめん!早く用意済ませるからロビーで待ってて!」
と慌てて走って行った。朝から騒がしい奴だなぁ。さて、ロビーで待っとくか。
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ロビーのソファで俺がぼーーっとしてると
「大丈夫?起きてる?死んでない?」
と曜が顔を覗きこんでくる。近いっての。てか、「死んでない?」って何だよ。俺の目、死んでたのか?とくだらんことを考えていると
「さっき、私が困ってるって千歌ちゃんに言ったでしょ?私のこと、気遣ってくれたの?」
なんて聞いてくる。わざわざ聞くなよ、恥ずかしい。
「いや、あれはただの口実に過ぎな「嬉しかったんだよ?ありがと。」
俺の言葉を遮って礼を言ってくる。見つめられながらそんなこと言われるとかなり恥ずかしい。俺は
「お、おう。」
としか言えなかった。
そこにやっと千歌が来た。
「お待たせー!遅れてごめん!」
両手を顔の前で合わせて謝る。
別に怒ってなんかないけどな、曜も。
「じゃあ、行くか。」
「「いってきまーす!」」
二人の声が後ろで響く。
千歌の鞄もカゴに入れといてやるか。
そして、三人で学校へと歩き始めた。
俺は自転車を押しながら進む。その後ろに二人が並んで何か話している。そんな形だったのだが、千歌がいきなり俺の少し前に出てきて
「私、部活を始めようと思うんだ!」
と言い出した。また突拍子もないことを。いきなりどうしたんだ。曜は
「千歌ちゃん、それほんと!?」
と驚いて聞き返している。千歌は笑顔で
「うん!本当だよ!『スクールアイドル部』っていうんだ!」
と言った後、部員勧誘用のポスターらしき物を両手で広げて見せびらかしてくる。
「もうこんなのまで作ったんだ……。」
と曜は驚いている。一方俺はというと、『スクールアイドル』という言葉を何年か前聞いたことがあったような気がするので気になって手元のスマホで調べている。
「早い方がいいからね。」
と千歌は得意気に答える。千歌がこんなことを言い出すなんて珍しい……と思っているとスマホの画面の「8:03」という数字が目に見えた。
「もう8時過ぎだ。やばい!急ぐぞ!」
「えぇ!もうそんな時間!?急がないと!全速前進ヨーソローー!」
「ちょっと!二人共待ってーー!!」
と各々の声が響く。
次で第1話を完結させるつもりです。千歌ちゃんも入って少しずつ賑やかになってきましたね。ご意見、感想等受け付けますので、遠慮なくどうぞ!
次回も期待していてください。あと、前回の作品も見やすく訂正しました。よければそちらの方もどうぞ。