恋の形   作:ククルス

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龍田さんです。

人体実験、生体兵器といった後ろ暗い軍部ですが
誇り高き軍人であれとしている以上は
本人や家族による志願制です。

男は戦場へ行き、女は銃後を守る。
帝国が余力を残したまま存続した場合は
やはりそうなるのではないでしょうか。

そうなると最初に候補へ上がるのはきっと生きるのにも
苦しい生活を余儀なくされた人々かなぁと。


※別SSより移設しました。


心の仮面

 

人の業は何処までも深い闇の中。

まるで遠い昔見た、深い深い井戸の様。

あの時、もし……私が井戸に落ちなければ。

私たちは幸せでいられたのかしら。

 

 

居るかもわからない神様に、告白します。

私は二つの罪を犯しました。

 

一つは大切な人に消えない深い傷を負わせて、

二つに彼女の誓いを裏切ったのです。

 

あぁ、でも赦しは結構。

要りません……これは私の罪。

否定したら、また彼女を裏切ることになるのだから。

 

 

 

 

私たちは裕福な家庭とはいえなかったし姉妹なのに

性格も好みもまるで正反対で、それでも仲良く暮らしていた。

今の様に玩具などは手に入る物ではなく

自然と子供が遊ぶ場所は絞られる。

 

私はいわゆる女の子らしいものを好み、

活発な姉は男の子らしいものを好んだ。

そんな二人の要望に適う場所は、私たちの知る限りは一つだけで。

 

街から少し離れた森の奥、獣道を通って

少し進むと開けた場所に出る。

そこには自然に出来た花畑と蜜が

放つ香りに引き寄せられた様々な虫がおり、

片隅には井戸がひっそりと存在していた。

 

私は虫が好きではないけれど、

姉に誘われれば一緒に虫取りに興じたし

姉はおままごとを好んではやらないが、

願えば笑いながら付き合ってくれる。

互いに居られるだけで幸せだった。

 

この想いが私だけのものだとは思いたくはない。

今となっては思い出を共有出来ないのが、

悲しくて心の中で涙を流す。

 

その日は何時もの様に二人で森には行かず

少しだけ早起きして先に飛び出した。

前々から姉にはとびきり綺麗な花冠を

内緒で贈りたいと思っていたのだ。

井戸の周りには見た事のない花が

点在していて花冠が完成した頃になると陽が丁度、

私の真上で輝いていた。

 

(そろそろ、〇〇ちゃんが来る頃かしら)

 

立ち上がり膝下の土を払おうとして

――――後ろに倒れる。

 

どんどん空が遠のいていく光景に頭が回らず。

ドシン、と激しく背中を叩き付けられて。

 

でも痛みを感じたのは最初の一瞬。

それからは痛みを感じなかったから、

ぼうっとした頭で井戸の中から空を見上げていた。

 

姉が動けぬ私を見付け街の大人たちに助けを呼ぶと、

しばらくして近所の人々が私を引き上げてくれた。

目を赤くする姉に辛うじて動いた腕で花冠を被せると

激しく泣いてしまい、当時の私は喜んでくれているなんて

勘違いをしてしまったが幸せだったのはそれまで。

 

脊椎を損傷した私は下半身不随を引き起こしていて

当然、治療費すら支払うことは出来ない状態だった。

その晩は姉妹一緒に部屋で眠り、姉は私の手を握ってくれた。

 

朝になると姿が何処にもなく両親に聞いても、

国に奉公しに家を出たと返すばかり。

私はその日の内にそのまま、軍病院に運ばれて入院した。

 

ここまでくると幼い私でも何となく察してしまう。

 

一年経過して、白い軍服の男から私は姉の遺書を受け取った。

 

 

 

 

細胞を活性化させるらしい浴槽に身を沈めながら、

既に人としては死んだ自らの身体に触れる。

あれから私は、姉の遺書を渡した軍人に「姉に会いたいか?」と

問われ一も二もなく飛び付いた。

それが姉の誓いを破ることになるとしても、

私にとっては姉が世界の総てだったから。

 

幼過ぎる身体では適さないらしく、改造を随時行いながら数年。

十六歳を数えた今日、最期の調整を行うらしい。

呼び出され浴槽から上がると素肌を晒したまま継承室に入る。

中には沢山の台座と、台座から伸びたケーブル群が

よく分からない黒く硬質な物体に繋がっているのが見える。

 

隣やガラス窓の向こう側には白衣姿の男たちが私を見ていたけれど、

恥ずかしさに腕で身を庇いそうになるのを押し止め、

弱味など見せぬ様に努めて冷静に振る舞った。

 

「乙一〇三号、継承を開始する。台に接続しろ」

 

「…っ」

 

身体を改造を施した時、私たちの脊椎には艤装と

繋がる為の受信部を植付けられ、そのお蔭で再び歩けるようになった。

台座から飛び出しているのは送信部と云ってよいのだろうか。

 

これと繋がれば総てが終わる。

ようやく姉に逢える。

 

その一念で、黒く微かに胎動するそれと私は繋がった。

何か形容し難いものが流れ込んで来るのを感じて。

 

 

誰かは運命を嗤い、誰かは自身に怒り、

誰かは何かを喪って泣いていた。

私じゃない誰かの想いが、記憶や生命が流れ込んでくる。

私が受け止めると同時に彼らもまた私の総てを覗き込むのを感じ

拒否反応から吐き気が込み上げる。

 

「私を見ないで!駄目、それは…ッ…嫌だ、嫌嫌嫌だァ…あっ…?」

 

途端、洪水の様な流入が止まり心の中が静かになってゆく。

心の中に私ではない誰か大きな存在を感じて振り返ると

私と瓜二つのそれが、悲しそうに笑いながら抱きしめてきた。

 

「貴女も失ったの…そう、悲しいわね。

 私の様にはならないで、駄目な姉を助けてあげてね…〇〇ちゃん」

 

 

(貴女は…誰?)

 

 

「私……私は……そう龍田よ、宜しくねぇ」

 

意識が覚醒し繋がりを断たれると周囲に光景が戻ってくる。

男たちが喜ぶのを見るに成功したらしく

私は私の中に、何百人もの人間と彼女を感じる。

先の狂ったような叫びも潜まり、私に追随するかの如く。

だからだろうか、思考する前に口から言葉が漏れた。

 

「喜ぶのも良いのだけれど、約束はまだかしらぁ?」

 

身体から自然と殺気が出ると男たちは怯えた様に

此処にはいないと口にし、司令官殿に聞いてくれと言われた。

 

残念ながら自ら取次ぎを願う権限は私にはなく、

暫くは簡易的な訓練と調整を繰り返し行い、夜は与えられた部屋で眠る。

そんな一日を繰り返していたらある日、あの白い軍服の男に呼び出された。

 

「あら、貴方は提督だったのね」

 

私が知らない事を彼らが教えてくれる。

驚いた様な表情をして私を見つめているのが、

あまりにも可笑しくて笑みが漏れてしまう。

 

「俺を、覚えて…いるのか?」

 

「えぇ、勿論よ~。だって私に申し訳なさそうに遺書を渡す姿、

 少し可愛らしいかったから…あら、怒ったかしら?」

 

「そうでは…」

 

「ふふふ…嘘よ、私は私と凄く相性が良かったみたい。

今後の艦娘は私を元にするらしいわぁ。

あ、先に言っておくわね~…悪いけれど私、

貴方の懺悔なんて真っ平御免なの。それで?」

 

この男が人として随分と真っ当であることも、

何かしらの罪悪感を持って私に重ねていることも理解出来る。

だが、私には関係ない。

龍田()がそういう存在になってしまったのも、

私がこの選択をしたのも私の罪で、

断じてお前のものではないと言外に告げてやる。

 

「……あぁ、そうだな。私の用はこれだけだ、貴艦の無事を祈る」

 

苦笑しながら帽子を被り直すと、男は一枚の書類を差し出した。

差し出された書類には転属命令が記載されていて、

呉の水雷戦隊に加わる様に記してある。

 

「…ふぅん、そこに?」

 

「そうだ、お前の姉だった者。今のお前の姉がそこに居る」

 

「分かったわ~、提督。今までお世話になりました、じゃあねぇ」

 

 

 

 

ここまで来るのに何年掛かったのだろう。

呉にて転属挨拶をするや否や、水雷戦隊司令の隣で

眼帯を着けた少女が私に飛び付いてくる。

 

「龍田!!元気だったか!久しぶりだ…あれ、どうかしたか?」

 

「ううん、何でもないわぁ~。お久しぶりね?天龍ちゃん」

 

覚悟はしていたつもりだった。

だったのに……姉は姉ではなくて、約束を破った私を嬉しそうに

迎えることなんて、ある筈がない。

 

――――心の仮面にヒビが入った気がした。

 

男勝りな性格も誰よりも乙女なところだって間違いなく姉なのに。

それからは毎日の様に一緒に居て会話して、でも。

 

(嬉しくない…何でかしら)

 

 

『 〇〇へ

 

 手紙なんて書くのは初めてだから何を書けばいいかすごく迷った。

 きっとお前のことだから、自分を責めるんだろうけど

 これは私の"ちかい"だから、そこのところは分かってくれよな!

 

 くわしくは書けないけど、軍人が私が国にほうこうすれば

 〇〇はびょういんに行けるっていうんだ。

 でも、俺はしぬらしくてだからいしょを書きなさいって言われた。

 しぬのはこわいけど、〇〇のためならへっちゃらだ!

 

 だから、やくそくだぞ。

 ぜったいにしあわせになってすてきな夫をみつけるんだ。

 いろいろ考えたんだけど、これくらいしか思いつかなかった。

 

 花かんむりありがとうな!                  』

 

 

私は気持ちが落ち着かなくなると、この手紙をいつも読んでいる。

思えば本当に良い姉だったのだと気付いて誰にも見られぬように涙を流す。

 

(馬鹿よ…幸せになんてなれる筈がないじゃない)

 

部屋の扉が開く音が聞こえて、急いで涙を拭き遺書を懐に仕舞う。

 

 

「お、龍田。戻ってたのか」

 

「えぇ、さっきねぇ。天龍ちゃんはどぉしたの?」

 

「いやな、ちょっと忘れ物しちまってよ」

 

「ふぅん…」

 

天龍が自分の棚を開けて何かを探しているのを横目でみた。

引き出しの中に、姿を変えた花冠があるのを見てしまった。

 

「え……?」

 

「ん~、どした?」

 

息切れしたかもように動悸が治まらない。

悟られない様、平静を装って聞いた。

 

「ねぇ、天龍ちゃん。その花冠はなぁに?」

 

「うん?花冠、あぁ…これか?なんだろうなぁ。

記憶にはねぇんだけどよ、何か大切な物だって気がして…。

なんつーか見てると安心するんだ。あ、龍田…またからかうなよ?」

 

「……っ」

 

きっとからかわれると思ったに違いない天龍は、

警戒するように私を見てくる。

泣き出すのを堪えられなくなって、部屋を飛び出した。

 

鎮守府の片隅にある花畑を見つめながら、私はもう一人の私に問いかける。

すると答えはあっさり返ってきた。

 

『記憶がなくなるっていうのは半分本当で、半分は嘘なのよ』

 

「勿体振った言い回しはやめて、今はそういう気分じゃないの」

 

『…なんていうのかしらぁ、体が覚えてるっていうのか分からないけれど。

 他の艦娘を見ていても思ったんだけどね。

 きっと好みや個性は残るんじゃないかなぁって私は思うわ』

 

「……天龍(あれは)、私の姉なの?」

 

『そう、そして私の姉でもある。

 だって考えてもみて、島居大佐や加々良中佐の様に沢山の人間が

 私に乗って戦ったの。当然、核たる私は艦だから好みなんてない』

 

『じゃあ、あの性格は?好みの食べ物とか癖、私なら気付いてるんでしょう?』

 

「…………っ、じゃあ思い出すことも?」 

 

『それはないと思うわ、残念だけど。

 だから、それが私たちの罪なのでしょう。

 生きていれば後悔しないことなんてない、後悔するから未来を見れる。

 私たちだって、好きでこうしている訳ではないけれど。

 戦う為に生まれたから姉妹たちが志し半ばで沈んで…。

 それを間近で見ちゃったらぁ、きっと私たちの後悔。

 分かってくれると思うんだけどなぁ~…』

 

「あ、龍田っ!お前どうしたんだよ、急に飛び出して」

 

心配した姉が私を探してくれたらしい。

本音を言えば泣きたい位に心が震えている。

弱さを吐露したいけれど、それは龍田のすることじゃない。

そんな弱さは赦されないから……泣いてなんてあげない。

 

だから何時ものように仮面を被る。

大好きな姉を、飛び切りの笑顔で迎えてあげよう。

 

 

――――今日だけは本心から笑えた気がして。

 

「ふふふ、何でもないわぁ~。大好きよ、天龍ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多分、心の中にいる龍田さん。
『客観的に対比できる私たちでこれじゃぁ、他の子たちが心配だわ~』


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初期型 "鳳翔、天龍、音羽、沖風、矢風"

記憶を上書きされ過去を失う。
重要な点として常識や大まかな記憶は艦と乗員の
それが適応されるので違和感を抱かない。


甲初期型 "龍田"

早い段階から身体改造の施術を行い、
下地を作っていたからか元の相性からかは分かっていない。
ある程度精神が同一しながらも共存している。


報告書 ―― "〇二二号"より抜粋

自身を初めから人ではないと認識していることは危険を孕む。
肉体強度などの問題ではなく初めから人と自分を別視するなら、
彼女らにとって人を見捨てたり滅ぼすことは容易くなるからだ。
身体や精神性も既に深海棲艦に近い兆候が見られる者も居る。

今後は人の意識を維持していく
方向での研究を実施する。
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