恋の形   作:ククルス

13 / 15
シーラヌイさんです。
4ヶ月ぶり位に慣れない筆を、駄文ですがお収め下さい。



生きること

人、という存在にとって生きることは辛く厳しい。

誰にでも付いて回るのは、環境に義務、そして人間関係。

 

宗教関係者にすれば現世は涅槃に至る為の修行の場とでもいうのだろう。

云わば欲を捨てよ。大欲は罪であり原罪である。

とはいえ欲あっての人、欲あっての向上心、現在に満足出来ぬ人だからこそ

人間は死ぬまで足掻き続けるのだ。

 

ならば、艦娘はどうか?

人に近く人になれぬ存在はどうなのだろう。

 

 

 

 

時の頃は二月初旬、冬の寒さはまだまだ続くと予感させられる

舞鶴鎮守府で私は報告書の整理を続ける。

作業にすればこれほど単純な職務もないだろう。

ただ確認し優先順位を付けて割り振り、上官に分かりやすく渡すだけ。

 

新しく割り振った書類の束を隣の机に司令に渡そうと横へ視線を向ける。

 

隣の机には既に山と積まれた書類が登山家をして踏破断念する勢いで積み上がっており、

隙間から微かに我らが司令が見え隠れしている。

無意識に隙間を凝視していることに気付くと私は頭を振り声を掛けた。

 

「司令、こちら緊急の書類です」

 

「あぁ、そこに・・・・・・は積めんだろうからこっちに渡してくれると助かる」

 

立ち上がり直接手渡すと司令の目元に隈を残した顔がしっかりと見える。

疲れているのだとは理解できてもかすかに漂うアルコールの匂いには眉を顰めてしまう。

休戦状態になっている今こそ、こうした地味な作業は戦闘中のそれと比して膨大になるものだ。

とはいえ、忙しいと分かりきっているのだから酒を我慢すればいいのだ。

そう思いつつ口には出せない。

 

ただ嘆息を漏らし、書類の一部を掴み取り私の権限で出来るものに認可を押す。

すると書類の山から司令の労う声が聞こえるのだ。

 

「すまん・・・不知火」

 

「いいえ、気にせず。不知火にお任せ下さい」

答える私自身、その言葉だけで多幸感に包まれてしまう。

ああ、こうなり始めたのは何時からだろう。

 

 

私が舞鶴鎮守府に赴任し初めて司令と出会った時の第一印象は、

厳格であり冷徹な方だと感じたのを覚えている。

演説や大規模な作戦説明の場で見掛ける司令のお姿は、

まさに私が理想とする軍人像そのものだった。

 

そう―――"だった"。

 

この方の手足となりたい、支えたいと感じはじめた私は、

姉妹らが心配するのにも構わず、遮二無二に頑張った。

休日は訓練や当時の秘書艦から書類作成を請け負い、

機会があれば意見具申も積極的に行い続けたのだ。

 

その甲斐あってか半年前、漸く私は秘書艦に任命された。

そしてされてしまったがために深く絶望したとも言える。

 

基本、二人きりになりがちな提督室で見せられたこの方のお姿は

私の儚い理想に容赦なくボディブローを叩き込んで下さった。

口を開けば「面倒」「辛い」「眠い」の三拍子、

職務を終えれば私に毎晩酌を頼み愚痴を吐き、

その厳格そうだった表情はだらしなく緩む始末。

 

何時からか、こうした無防備な姿を見せられる度に

私は動悸が激しくなるのを自覚した。

 

はじめこそ、病かと内心慌てたが状況を整理すると、

ストレスから鬱憤が溜まっているのだろう。

そう解釈して司令と接する時間を減らし距離を離せば、

やはりというか動悸は収まるのだ。

 

のだが、今度は胸に喪失感を感じ職務にも食事にも身が入らない。

不思議に感じながらもそんな日々をしばらく過ごし、

その日も職務の為に仕方なく朝から提督室に向かおうと廊下を歩いていた時、

向かいから歩いてきた陽炎に声を掛けられた。

 

「待って!ねぇ、最近何かあったの?」

 

「何か・・・とは何でしょうか」

彼女のあまりに漠然とした問いに私は首を傾げた。

 

「えっと提督と喧嘩でもした、とか・・・。

最近、不知火が悲しそうな表情してるものだから」

と、こちらを心配する様に陽炎が私を見つめていた。

 

「悲しそう…?いえ、特に思い当たることはないのですが」

よくはわからないが心配させてしまったことは憂慮せねば、

と私が気にしない様にと口を開こうとした時だ。

 

「そうなの?前は提督と居る時は微笑んでいて、

まるで恋人同士の様だったけれど最近のあなた達はなんだか・・・」

 

微笑んでいた?私が?

恋人同士とは我が姉ながら冗談が過ぎる。

相手が誰であれ、上官にそれは不敬に値するだろう。

そう思い陽炎を咎める様に見つめるがどうにも冗談を言っている雰囲気ではなかったから、

私は混乱した。大いに失態を晒したと言ってもいい。

 

「な、なな…何をっ!?」

呂律は回らず脳裏に浮かぶは司令のお姿、

脳内の司令はどういう訳か私に甘い言葉ばかりを投げ掛ける。

頭は高潮し息も絶え絶えになるのを自覚しながら

私の意識は暗転した。

 

付け加えるなら私の名を叫ぶ陽炎の声は私の聴力に影響を与えた。

 

 

目を覚ますとそこは医務室で、窓を見やれば外は夜。

私はベッドに横になっていて隣の椅子には司令が腰掛けており

私の左手を強く握りながら眠っていた。

距離を置く前も司令と触れ合ったのはこれが初めてだとぼんやりと気付いた。

心音が段々と高まり顔熱くなるのを感じて私は理解した。

 

どうやら私は恋をしたのだと。

 

しかも私の知る限りこれは初恋で、どうするべきかも判らない。

ただ翌日から、司令との距離を戻して今こうして秘書艦を続けている。

彼への想いを自覚してからは悩むことはなくなったから。

 

親しくない者からは鉄面皮だと言われ続けた私だが、

彼の前では素直に感情を表したいと思っている。

 

職務に影響しない範囲で、だが。

 

 

 

 

人の欲は限りない。

現状に満足出来ぬからこそ生きることは困難を極める。

叶わぬ想いを続けるのは辛いだろう。

多くの艦娘が歩もうと志半ばに潰えた道であっても私は諦めたくない。

やらないで後悔する位ならば、やって後悔する道を選びたいのだ。

 

 

 

 

 




提督は全然喋らせませんでした。
何か要望とか修正案あると嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。