聞き慣れた轟音がすぐ間近で鳴り響くと視界は一瞬白に包まれ、耳には鐘のような音が木霊した。
雫と共に、私の体は宙を舞っていく。
誰かの悲鳴が聞こえた気がした。
◇
私という人間は、生きるという事柄において最も不適格な存在でしかなかった。
下半身不随という障害を抱えて生まれてきた私は誰かに迷惑をかけずには生きていけない存在で、寝台から覗ける窓、その空だけが、私の狭い世界。
空に浮かぶ欠けた月がまるで私の似姿のようだと思ったことは一度や二度ではない。
生きることは戦いだ、嫌なことからは逃げられない。
恐怖は常に隣にあって、それに抗い戦うことは素晴らしいと人は言う。
その考え方は理解できるし、その通りに出来たら素晴らしいと思っている。
それでも私は逃げ続けた。
逃げて逃げて逃げて、時には嘘を吐きあらゆることから目を背けて、そしてこの軋む胸の痛みに私は苛まれる。
その痛みに反して高いところから落ちる水のように落ち続けることは、酷く簡単なことだった。
救いを求めて、結局それを口にできず私は生きることを諦めようとした。
戦うことを諦めようとした。
なぜならば、それは自業自得だったから。
そんな時に、あなたに出会った。
あなたに出会って、私の心根に変化が生じたわけではない。
寧ろ胸の息苦しさは一層増すばかりで…。
それでもあなたの顔、あなたの熱。
想えば想うほど、私の心臓は浮かされたように動き続けた。
幸運にも、私は艦娘としての適性を持っていて差し伸べられた手にしがみつくように人としての生に別れを告げる。
「駆逐艦、〇。それが君の新しい名前だ。」
「おめでとう、今日から君は我が鎮守府の艦娘だ。」
「そしてありがとう、君の覚悟に私も応えたいと思う。」
感謝の言葉を初めて耳にして嬉しさにただ涙をしたのを、私は覚えている。
重く引きずるだけだった私の体は、海の上では嘘のように早く駆けることができ新たにできた姉妹という関係に暖かさを感じながら、ひたすらに戦場を駆け抜けた。
でも、それも叶わない。
◇
冬三日月の浮かぶ寒空にぽつり、ぽつりと小さな雫が私に降り注ぎその一滴一滴が、確かに私の熱を奪っていく。
「寒いなぁ…」
手足はピクリとも動かず、浮遊感が消失し落下していく感覚に私の視界もまた変化を告げる。
彼方に見える信じられないものを目にしたような表情を浮かべる仲間たちと海面に浮き続ける誰かの下半身。
それが私自身のものだと理解しても不思議と痛みは襲ってこなかった。
ただ、海面に叩きつけられる感覚とと共に私の視界は暗転していく。
(提督、私はお役に立てましたか…?)
脳裏に浮かんだあなたの顔が微笑んだ気がした。