不幸を書き連ねるのは好きだからまだ良いのですが、
こう…オチが気に入ってません。
数多くの艦娘が他者に依存する傾向にある。
多くは姉妹に、そして残りは異性に対して、まま例外はあるけれど。
それらは自身の足りない
控えめに言っても彼女はそれが顕著なのだ、とても強く。
◇
秋の訪れを肌で感じる。
任務のない者らは、談笑したり自主訓練に取り組んだりと様々だ。
戦時中だという事を忘れそうになる平和な
僕も執務に手を止めて、秘書艦の翔鶴と熱めの緑茶を頂いていた。
翔鶴が煎れてくれた茶啜りながら煎餅を口にする。
なんと贅沢な一時だ、とのんびりしていると廊下を足早に走る…。
もといお淑やかに早歩きする小さな足音が聞こえてきた。
――彼女だ。
ふと脳内には腰まで届く少し癖のある黒髪を、
左右に揺らす少女の姿が浮かぶ。
足音が執務室の前で止まると一呼吸置いてから、
扉が思い切り開け放たれる。
「提督、”暁が”任務を完璧にこなして戻ったわ!」
「あらあら」
一等駆逐艦「暁」、吹雪型駆逐艦の二十一番艦であり
駆逐艦にしては長い戦歴を持つ彼女は、
腰に手を置いて無くもない胸を誇示する様に上半身を反らしていた。
思わず、隣で優しく微笑む翔鶴の胸と交互に見比べてしまうと
「ちょっと提督!翔鶴さんと比べるのは酷いわ!?」
こうして大いにご不満気な表情を見せた。
「いや、君ね…艦隊の旗艦は君じゃあないだろう?
雷はどうしたんだい」
「雷には代わって貰ったのよ!」
「あー…そう」
言うまでもないが、これは中々に愉快な命令違反に当る。
とはいえ海岸線を港から港へ往復するだけの簡単な輸送遠征だし、
日本帝国が国防圏を再確保して久しい。
(危険もなければ雷も聡い子だ、きっと形だけのものだろう)
雷は良い子だから問題あるまいと一人頷いていると
隣の翔鶴からつんつんと肩を突かれ、僕は思考の海から浮上する。
視線を小さな少女に戻せば食べ物を頬袋に詰めすぎた小リスも
かくや…といった様相で上目遣いで僕を見て、いや睨んでいた。
何を求めているのかすかさず察して頭を撫でてやると手を払い退けられる。
「えっ…痛い」
「提督!私は立派なレディよ、子供扱いしないで!」
はて…何時もなら喜んでくれるのだが、何が不満なのだろう。
すわ反抗期かと背に汗が流れる。
こんな見た目でも、小さな乗用車程度なら軽々しく持ち上げるのだ。
罷り間違って本気で殴られでもすれば、
僕は馬に蹴飛ばされるよりも酷い惨状を執務室に晒すだろう。
「えっと…じゃあ、飴かな?ほら好きだろう」
犬に噛み付かれるのを警戒する様に、
僕は恐る恐る苺味の飴玉を差し出した。
「…子供扱いしないでってば!!」
沸点を越えたやかんの様になって机を叩くと
ズシンっ…と地面が揺れ暁は執務室を飛び出した。
これが怒髪天という奴だろうか。
彼女が飛び出してから数秒、椅子から転げ落ちた僕が座り直す。
「僕は、何か不味かったかい?」
「そうですね…提督は女性の心を理解されていないと思います。
あまり彼女を子供扱いされない方がよいかと」
何が悪かったのか分からず同じ女性に尋ねると強く肯定されてしまった。
苦笑しながら翔鶴が冷めたお茶を煎れ直してくれる。
「子供扱いって…僕から見れば、彼女は十二分に子供だよ」
四十代半ばにもなると、容姿の上でも実年齢から鑑みても子供だ。
それは間違いない、少し伸びたあご髭の感触を楽しみながらそう口にする。
「めっ、ですよ?他の女性が居る前で好きな殿方に
子供扱いされてしまったら、きっと私も泣いてしまいます」
少なくとも僕が知る限り、誰よりも可憐なレディは
両手の人差し指でバッテンを作って見せる。
年甲斐もなく見蕩れてしまい頭を軽く振って暁のことを考えた。
「好き…ね、思えば報告の受理もしてないなぁ。
ああ、迎えに行くとするよ」
重い腰を上げて扉へと向かう僕に、頼れる秘書艦は
「それでこそ、私の好きな提督です」と手を振りながら見送ってくれた。
やってしまった……と激しい後悔に襲われる。
港にある搬入用の大小並んだクレーンの下で、
私は膝を抱えて自己嫌悪に浸りながら大好きな提督を
脳裏に浮かべてひたすら謝った。
「はぁ……ごめんなさい、提督」
本人に言わなければ謝罪に意味は無いと知りつつ。
でも、まだ面と向かって謝る勇気が出せそうにもやはりなかった。
(私って全然、レディじゃないわ…)
私は翔鶴や、愛宕といった尊敬してやまない大人の女性になりたい。
でも、この身体が改装を施さずに成長することは残念だがないのだ。
不死ではないが不老、自死する遺伝子とやらを弄くり回した
結果らしいけれど私に難しいことは分からなかった。
重要な事は一つだけ。
提督が私を子供扱いするのも仕方がないのだ、こんなちんまりとした身体では
父と娘…もしかしたら孫に見られているのかも知れない。
「ごめんね…提督」
「うん、怒ってないよ」
返る筈のない独り言に、背後から返事が聞こえた。
驚きの余り前のめりに退けぞって足を踏み外す、と眼前に海が広がり
「ブクブク……ぷはっ!ちょ、ちょっと、びっくりするじゃない!!」
「おー、悪い悪い…暁は元気だねぇ」
悪びれる素振りも見せないで、何時もの様に飄々と口にしながらも
手をこちらに差し出してくれる。
惚れた弱みかもしれないけれど、こういう泰然自若とした様に
私は恋してしまったのだ。
だから問題があるのは提督ではなく私。
今もこうして情けない所を晒して…優しくしてくれる提督に
嬉しい気持ちと情けないような気持ちが私の中でゴチャゴチャになる。
海から引き上げられた時は、もう身体中びしょ濡れで
やっぱり情けない気持ちが勝ってしまうと涙が出てくる。
(私じゃ駄目なんだわ…)
「ひっく…ッ!ふぇ……」
泣いちゃ駄目だと思えば思うほど、
流れでる涙が止まらなくなる。
「あー…なんだ、その飴食べるかい?」
私の濡れた身体に、軍服の上着を被せて。
提督はピンクの袋に包まれた飴玉を差し出した。
「僕はね、暁のそういう女の子らしい所さ…凄い可愛いと思うよ」
普段の提督であれば絶対に口にしないであろう言葉に、
思わず涙が止まった。
私が知る限り、特定の誰かに女性を意識する様なことを
言ったことはない筈…長年連れ添っている翔鶴にもないかもしれない。
そう思うと今度は嬉しい気持ちが逆転した。
「…ほんと?」
「心外だなぁ…僕、嘘は付かないよ」
「暁はレディだから…仕方がないから、許してあげるわ!」
「ああ、良かった嬉しいよ」
提督の手から摘みとった飴玉を口に入れると恋の味がした。
今は無理でもいつかきっと。
私は立派な女性になって、提督を骨抜きにしちゃうのだ。
「これ甘いわ!」
「そりゃまぁ…飴だからねぇ」
身体小さき少女、されど夢は大きく。
付け加えるなら、翔鶴は指輪を見せない配慮をしていたオチを。