叢雲の『手遅れだね』という台詞を使った
「暗い場面」を作ってみましょう。
ギャグも浮かんだんですけど、こちらにしました。
人は目的の為ならば、時として残酷な選択も許容する。
その分水嶺が何処に在るかは人それぞれだと思うけれど、
私にとっては至極当然な理由から。
相手の思惑通りにされるのが我慢ならない、ということ。
◇
私を見下ろす女の視線が勝利を確信して喜悦に歪む。
いっそ幻想的なまでに色素を失った肌に、
両脇で束ねた銀糸の様に細い髪が生暖かい風に揺れていて。
その黒い腕で私の首に手を掛ける。
「…がッ……な、によ。そんなに、嬉しいって訳……?」
「………」
応えはなかった、もとより期待もしていない。
空を覆い尽くさんとする敵艦載機の群れが、
海には艦艇だった残骸と、乗員の死体が漂う。
数刻前までは仇を討たんと笑いあっていた彼らは、
今際の際に何を想っていたのだろうか。
(アンタもこの中に居るのかしらね…)
馬鹿な男は私たちをまるで普通の女の子として扱った。
最初は見下されているのだと憤りもしたが、
後になればただ馬鹿なだけだと理解して……きっと
多くの艦娘が想いを寄せていた事も知らぬまま死んだのだ
初期に生み出された艦娘たちは、酷い扱いを受けていたらしい。
なら私はまだ幸運だったのだろうか。
(私が最期に惚れさせてあげるんだから)
「…見ていなさい」
「……?」
絶望的な戦力差から生み出される戦術もある。
――挺身して可能な限り次へと繋ぐのだ、生命を。
聯合艦隊が壊滅状態になり長門が生き残りを率い撤退を
開始しても何隻かの艦艇と艦娘はその場に残った。
仮に無秩序な撤退ではなくとも、万全を期して敗北したのだ。
船足が同じなら逃げきれる保証はない。
現に痺れを切らした奴らは、何処に隠していたのか
艦載機を飛ばし始めたではないか。
残った私たちと去った彼女たち。
生命に重さが有るとしたら、やはり彼女たちを生かすべきだ。
もう動けない私たちの脚を彼女たちは見ていた。
『…すまない』
伏し目がちに謝り、敬礼する長門たちを思い出しながら
私の首をゆっくりと締める姫級を睨み上げる。
「…馬鹿ね、もう手遅れよ」
脚は動かず、武器を懸架していた腕は
肩から消えてしまったから私に出来ることは
屈してやるものかとただ睨むだけ。
泣いてなんてやらない。
苦しんでもやるものか。
お前たちの様に堕ちる位なら…。
奴が首に手を掛けたまま持ち上げる。
ふと浮遊感を感じると一層と苦しさが増す。
残った左腕でせめて殴って…。
(………?)
動かない腕に疑問を感じて視線を下げる、
と気色の悪い口で左腕を咀嚼する
目に入り「ヨウヤク、気付イタノ?」と再び嬉しそうに
奴か嗤う、今度は口に出して。
「……く、そッ!」
ボキリと身体の中から不快な音が聞こえると
私は海に落とされた。
身体がどんどんと沈んでいくのがわかる。
『知ってるかい、叢雲?
海はね太陽に照らされているから青く見えるんだ』
太陽に照らされた海はとても”赤く”て、
(ウソじゃない…文句言ってやるんだから)
そのまま眠りについた。
帰れた那智さんと帰らなかった叢雲。
真面目な話、血に染まった海というより眼底出血では。