恋の形   作:ククルス

7 / 15
診断メーカーお題より。
長門の『怖いよ』という台詞を使った
「暗い場面」を作ってみましょう。

お気に入りありがとうございます!


暗闇を照らす

 

 

 

弩級戦艦「長門」 この名が意味するものは深く、重い。

戦後二十年、今なお語り継がれるその末期を知ると

私は不安に押しつぶされそうになる。

 

帝国の興亡をつぶさに眺めてきた彼女は何を想い沈んだのだろう。

 

後世の評論家はこう語っている。

あの時、日本が中国に介入し英国に宣戦布告していたら

今の帝国は無かった…なんてたられば話。

護国は果たせたと満足出来たのか、出来なかったのか。

色々な考えが浮かんでは形を得る前に消えていく。

 

私が死ぬのは明日。

猶予を飛ばして唐突に決まった継承の日付は、

戦況がそれだけ逼迫している事を私に悟らせた。

 

 

 

 

一九六〇年、七月の初め。

私が彼と出会ったのは今から五年も前になる。

 

この頃、既に甲初期型なる艦娘の建造に成功していた軍部は

主戦力となる「戦艦型」適合者の選定に入っていたらしい。

らしい、というのは開発主任を任された彼自身にも

計画の全容は知らされていなかったから。

 

それでも、適合者なんてそう簡単に見つかるものではない。

志願性で有りながら機密、そんな状態では探す事が

一苦労なのは軍人ではない私にも容易に予想出来た。

見つからない適合者に業を煮やした海軍司令長官が取った対策が、

海軍軍人を輩出した家系より優先して検査を行うというもの。

 

そうして私があの長門の有力候補として選ばれたと聞いた時、

嬉しさよりもまず形容し難い不安を抱いた。

彼の言を鵜呑みにするなら適合率は一割を切っていて

失敗すれば、戦艦長門の生みの親とまで呼ばれた祖父の墓前に

泥を塗ることになり、高官の父は後ろ指を指され続けるかもしれない。

 

日本帝国海軍の大看板を背負った長門に大和、

これらは時間を掛け他の艦娘で得た経験を活かす為に猶予を

取るらしく「まだ先の話だよ」と彼に撫でられながら言われ、

ひどく安心したのを私はまだ覚えている。

 

 

 

 

今日まで彼は暇を見つけては私に会いに来てくれて、

彼だけは私に重荷を抱かせなかった。

部屋をノックする音に意識を戻して入室を促す。

 

「あぁ、…酷い顔をしているよ」

 

「……そういうことを他の女性には言ってはダメだぞ」

 

開口一番の言葉に酷く傷付いた、振りをする。

最期まで変わらない彼に内心では嬉しくて

励ます言葉も取り繕うこともしない彼だからこそ、

私は気を許せるのだろう。

 

「今、僕のことを笑ったかい?」

 

「気の所為だ」

 

こんなやり取りも最後だと思えば、

また胸にもやもやと霧が掛かる。

浮かない表情の私を見て、迎え入れる様に腕を広げた。

 

「おいで」

 

いつもの様に優しい笑顔をしていて暫く見蕩れてしまう。

大人しく彼の腕の中に収まって頭を撫でられると

心が落ち着いてゆくのを自分でも理解して。

出会い始めた頃は兄と妹で済んだが、

今では平均的な男性を超える長身になってしまったものだから

客観的に見てしまうと酷い絵図だろう。

 

「恥ずかしい…」

 

「あはは、あんなに小さかった娘がね」

 

彼は私を常に気遣ってくれている。

今だってそう、職務の範疇を越えているのに…。

だからこの気持ちを忘れてしまう前に。

 

彼に気持ちを。

 

 

 

ーー伝えられる筈がない。

何と馬鹿な事を考えているのか。

私は伝えられて満足かもしれない。

もし私が消えても彼の中に結果(記憶)は残る。

 

だけど彼は?

一方的な都合で告白され、辛い思いをするかもしれない。

好いた相手に苦しみを強いる行為が、自分本位な恋が

愛だとはどうしても思えなかった。

 

「ありがとう…もう大丈夫」

 

「そうか、うん…最期の継承には立ち会うからね」

 

「…嬉しいな」

 

私はあの長門になるのだから。

ならせめて長門らしく、振る舞おう。

彼を不安にさせてはいけない。

 

でも…本当は、怖いんだ。

彼が部屋から去って、口から言葉が漏れる。

 

 

「もう逢えないのが、怖い…」

 

 

 

 

室内からは悲鳴が響き渡る。

男はそれを眺めながら拳を握り震わせた。

成功しても少女は死ぬ、だが失敗すればその死に意味はなく。

男は少女にとって、どちらが幸せかを測りかねた。

長い時を経て静寂が辺りを包む。

 

「ん…此処は、貴様が提督か?戦艦 長門、着任したぞ」

 

黒く長い髪を揺らして少女が微笑む。

その眼は涙に濡れていて、そこに少女は居なかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。