帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ

チョウリ死す――――以上



二週間ぶりの投稿!
遅れてごめんね!お待たせ!忙しかったんだ!言い訳です!
やっと、三獣士が戦うぞ!


三獣士を斬る! (前半)

森では殺し合いに釣り合わない美しい音色が流れていた

戦況は控えめに言ってレオーネの不利だった

中身のない樽に腰掛け笛を演奏する三獣士ミャウ

彼は名門貴族の子息であるが、エスデスのSっぷりに、帝国一のSであると思い上がっていた己を恥じてエスデス軍に入隊した

ミャウは三獣士の中で一番惨い趣味をしている

今も笛の帝具『軍楽夢想スクリーム』で聴く者を無気力にする演奏をしながらレオーネの皮を剥ごうと虎視眈々と狙っている

レオーネは体が重くなるのを感じ、原因であるミャウを早々に潰そうとする

が、ダイダラが立ち塞がり抜けられない

 

「どけ!」

 

「音が効いてるのに良いパンチじゃねぇか!」

 

邪魔なダイダラをどけようとするもスクリームの無気力化を受けたレオーネの突きは、弱く軽々しくダイダラに受け止められる

 

「一発止めたからって調子に乗るな!」

 

余裕をこいているダイダラに蹴りを直撃させて怯んだ僅かな隙を狙い、ミャウへ向かうも

 

「がっ!?」

 

水の壁を叩きつけられ押し戻された

ミャウの前にはリヴァが動くわけでもなく責めてくるでもなく構えている

リヴァがエスデスより授かった指輪の帝具『水龍憑依ブラックマリン』は触れたことのある液体を自在に操る

ダイダラが担いで運んだ樽に詰められていた水が壁となりレオーネを押し返したのだ

水浸しになったレオーネはダイダラの追撃を掻い潜り、またもミャウを目掛け疾走する

水の蛇は獅子を叩き潰す

戦闘というには余りにも作業的だ

 

「流石だなナイトレイド。スクリームの演奏を聞きながら私とダイダラを相手取るとは」

 

「ハ……ッ、オッサンこそ」

 

レオーネはふらつく足に拳を叩きつけて喝を入れて、リヴァを睨み付ける

リヴァはダイダラを抜いたときしか手を出してきていない

とてもダイダラとリヴァを相手出来ているとは言えない

 

(糸の帝具使いはどこだ?)

 

一方、リヴァは決してレオーネを侮っているわけでなない

ナイトレイドがもう一人潜んでいることに勘づいているからこそ警戒しているのだ

スクリームの演奏を聴く者は無気力になるが意思の強い者は関係なく動いて立ち向かってくる

主であるエスデスなどスクリームの演奏を聴いても一切影響を受けなかったのだ

殺し屋風情が主と同格とは毛ほども思っていないが油断は大敵だ

いつ襲ってきても対応できるように待機している

 

「お前、ナンで帝具を使わない?」

 

レオーネはダイダラに向き合う

手負いの獅子の眼光は爛々の鋭く死んでいない

ダイダラは潰し甲斐があると獰猛に嗤う

 

「俺は最強になる為、戦って経験値が欲しいんだよ」

 

三獣士ダイダラは最強を目指し、武者修行の途中でエスデスと一騎打ちをし、初めての完敗を喫し、その強さに心酔に忠誠を誓った

それでも最強への道を諦めたわけではない

いずれ敬愛なるエスデスに肩を並ぶために膨大な経験値が必要なのだ

ベルヴァークを使えば呆気なく殺してしまう

それでは経験値にならない

だから、素手のレオーネに素手で挑むのは当然であるとダイダラは言う

 

「そうか。後悔するなよ!」

 

獅子は倒れない諦めない喉ぼとけを噛み千切らんと噛み付く

無謀な挑戦者を見て、やはりダイダラは嬉しそうに嗤う

 

※ ※ ※

 

大運河を悠々と行く『竜船』

その完成セレモニー乗り込んだ招かれざる客はタツミとブラートだけではなかった

華やかな立食パーティーで無作法に無遠慮に料理を掻っ攫う姉妹がいた

悪目立ちするのも構わず食い散らかす姉妹を見て良識派の文官を暗殺しに来たなど思うものはそういないだろう

というのは建前で、飯があった、我慢できない、だから食べる、が本音であった

食べながらアカメはどうしたものかと考えていた

肉のカーテン(護衛)に囲まれている標的を葬るのは容易だ

だが、セレモニー中に殺るには目撃する目が多い

クロメは皆殺しにすればいいと気軽にいうが、アカメは好き好んで殺戮者になりたくはない

出来れば、目撃者を少なく、かつ、ナイトレイドに罪を押し付けたい

三獣士のミャウなら簡単に殺さず目撃者を無力化できる

竜船には三獣士が乗り込むべきだった

それなのにエスデスはアカメとクロメに竜船に乗り込むように命じた

これしき乗り越えてみろとエスデスに試されているとアカメは取った

エスデスがただドSなだけなのだが、知らぬが花という言葉がある

それはそうとこのテーブルの料理は平らげてしまったので移動するのだった

そんなセレモニーの料理を食らいつくそうとしている姉妹に声をかける者がいた

 

「よォ、いい食いっぷりじゃねェか」

 

柄の悪そうな顔をした執事だ

アカメとクロメは顔を見合わせる

 

「誰だ?」

 

「知らない」

 

姉妹の知らない男が声をかけてきた

姉妹の思考はシンクロする

 

((ナンパか))

 

アカメから僅かに、クロメから諸に、殺気が放たれる

最愛の者に粉をかけようとはいい度胸だ死にたいのかと過激極まりない姉妹の殺気に、良識派の文官を護衛している黒服に緊張が走る

 

「おいおい、急におっ始めるつもりかァ?ハッキリ言って、エスデス軍のペットは教育がなってねェな」

 

ゲラゲラと下品に笑う男

アカメは男がエスデス軍と口にしたことで冷静になった

アカメに倣いクロメも敵意を収める

護衛のお兄さん方もホッと胸を撫で下ろす

あの男が戦闘を始めればセレモニーは台無しになってしまうところだった

 

「何者だ?」

 

「ハッキリ言ってテメェから名乗るもんだろうが。まぁ、知ってるからどうでもいいけどよ。俺は帝都宮殿使用人、フランオス。殺り合うってなら相手してやんよ」

 

同じく帝国に仕える身でありながらフランオスは命の奪い合いを提案する

こいつ頭おかしいと思うクロメだが、クロメのシスコンぶりも負けていないと指摘する者はいない

アカメにはフランオスの目がダイダラと似た戦いを渇望する者の目に見えた

だが、それがダイダラのものより危ういものであることまでアカメは見破れなかった

気付くにはきっと矛を交えるしかない

 

「あぁー!フラン君また喧嘩騒ぎ起こそうとしてるですぅ!」

 

再びボルテージを上げ、張り詰め始めた空気を台無しにしたのは一人の侍女だ

フランオスは舌打ちをして振り返る

 

「無理すんなメヌイ!ですぅ、なんて歳じゃねぇだろうが!」

 

メヌイと呼ばれた眼鏡をかけたドジそうな女性は酷いですと言いショックを受けて崩れ落ちる

芝居がかった動作故に、本気なのか判断しにくい

一見隙だらけだが人は見かけによらない

チェルシーから宮殿の使用人には帝具使いの手練れが数人いると聞いたことがある

使用人がわざわざ宮殿の外に出て竜船に乗っているのはそういうことだろう

アカメとクロメに話しかけてきたのだ

大臣に付いているエスデスの部下であるアカメとクロメを疑って、監視しているのだ

アカメは思う

皆殺しにするのは無理であると

標的を殺すためには監視を掻い潜らなければならなくなった

 

竜船で争いは起こらず――――

 

※ ※ ※

 

「いいぜぇ!最高だ!潰し甲斐がある!」

 

「オラオラ!」

 

レオーネはダイダラと殴り合いながらスクリームの演奏に耐性を付けていた

調子が戻ってきたレオーネの拳はダイダラには荷が重い

殴殺されかねないと感じたダイダラはベルヴァークを手にしていた

それでもダイダラの表情には喜色が見える

互いの一撃は命を易々と刈り取る

ダイダラに殴られた傷はレオーネの帝具『百獣王化ライオネル』で得られる超回復力の恩恵で無いも同然だ

対してダイダラはタフだが殴り合いで受けたダメージが確実に残っていた

ダイダラはベルヴァークを投じる

何度目になる動作か覚えていないが獅子は一度掠って以来、ベルヴァークの刃で捉えることが出来ていない

戻ってくると分かっていれば躱すのは難しくない

 

「どうしたどうした!遅くなってないカ!?」

 

傷は回復できても疲れまでは回復しない

それでもレオーネの調子は絶好調だ

レオーネはスラムで育った

親の顔は知らない

貧乏どころの話ではなかったが泥水啜ってでも飢えを凌いだ幼少期

同じく親無しの仲間達がいたから寂しくはなかった

大人になると生活は安定した

金はないが税を払わなければ生きていける

帝国の偉い奴等は高い税を毟り取る癖に、税を国民に還元せず私腹を肥やすばかりで嫌いだ

目の前にいれば殴り殺してやりたい位だ

ある日、貴族(クズ)がスラムの子供を馬で踏み殺すゲームをしているところに出くわした

スラムではよくあることだ

よくあることだが気に食わない

気に食わないから殴り殺そうとしたら普通に出来た

貴族はこうも簡単に殴り殺せるのかと脆さに驚いたが、自分の拳が獣のようになっているのにはもっと驚いた

闇市で買い叩いたベルトは帝具だったと貴族の護衛を撒いた後に気付いて大笑いした

思わぬ掘り出し物だった

それからレオーネは気に食わない奴は懲らしめるか、殴り殺した

レオーネを称賛する者はいても止める者はいなかった

ここはスラム、アウトローの掃き溜めだ

やがてレオーネの噂を聞きつけた革命軍にスカウトされ、大臣を殺せると聞いてナイトレイドに入った

 

(どうして今、こんなコト思い出してんるんだろな……)

 

敵は斧を振り上げている

腹ががら空きだ

図体の割りに力も早さもあるがレオーネには及ばない

腹に穴を空けてやろうと足に力も込めて――――激痛が走った

足に穴が空いている

水に撃ち抜かれたと気付いたときには手遅れだった

 

「水塊弾。少々、質も量も落ちるが、動きを止めるには十分だろう」

 

これだけ出てこないとなると糸使いは逃げたのだろうとリヴァは判断した

逃げたにしろ、援軍を呼びに行ったにしろ

これ以上の長居は無用

リヴァは無常にレオーネの足を止めた

レオーネはリヴァのことをダイダラを抜いたときしか出張ってこないからと失念していた

 

「あばよ。楽しかったぜぇ」

 

振り下ろした

直後、ベルヴァークの刃はレオーネに血に濡れる

 

(あぁ、そっか。これが走馬灯ってやつカ)

 

獅子は不思議な納得を得て地に伏した

 

「ふぅー、ナイトレイドはいい経験値になったぜ。これでまた最強へ一歩前進したな!」

 

「まだ気を抜くなよ。まだ標的の暗殺が住んでいない」

 

「わかってるけど、僕疲れたー」

 

「気張れよ。帰ったら料理を振る舞ってやる」

 

(要らねぇ……!)

 

(あの腹ペコ姉妹が遠慮する料理だよ!?)

 

ナイトレイド一人を狩った喜びに浸る余裕を消し去るほどリヴァの創作料理は危険だ

リヴァ本人は料理が得意なつもりだが、彼のオリジナリティが料理を兵器と変えている

その恐ろしさはエスデスを数秒気絶させるほどで帝具並だとダイダラとミャウは恐れを抱いている

調理する本人は一切味見をしないから質が悪い

 

「そうだ!そのお姉ちゃんから帝具回収しなくっちゃね!」

 

「お、おぅ!忘れてたぜ!」

 

生命の危機を察知した二人は露骨に話を逸らす

リヴァの料理は気絶で済めば御の字、下手すれば命を落とす

ダイダラは自らの血の池に沈んでいるレオーネに歩み寄る

未だ、獣化が解けていないレオーネに迂闊に近寄るべきではなかった

それをダイダラが後悔することはない

無防備に接近したダイダラの顎を脚撃が叩き込まれる

衝撃は逃げ道はなく、首が飛ぶ

レオーネの文字通り命を振り絞った最後の足掻きだ

首を失ったダイダラの胴体が後ろ向きに倒れた後に、間抜け面を晒した頭が落ちる

 

「ザマーミロ……」

 

レオーネは不敵に笑うと、今度こそ変身が解けた

ライオネルの治癒力は瀕死からも戦線復帰可能だと言われている

だが、レオーネは血を失いすぎた

獅子はただでは死なず、最後まで噛み付いて見せた

 

「見事だ」

 

リヴァは仲間を失った悲しみより先に敵に称賛を送った

この敵は命を賭して自分の使命を全うした

これほどの実力があればリヴァ達から逃げるのは困難ではなかったはず

圧倒的不利と知りながらそれでも戦い抜いたのは糸使いを逃がす殿

ではない

やはり援軍が来るまでの時間稼ぎだったのだ

斯くして、それは叶った

 

「――――そう、レオーネは死んだのね」

 

死神の鎌はリヴァを捉えている

 




今回で終わるとは言っていない
はい、オリジナルキャラで帝国使用人一同という第三勢力が出てきましたね
フランオスにメヌイ、どんな帝具を使うんだ……?
オールベルグといいオリキャラ増える増える
どうしてこうなったんだっけ……
帝具使いの使用人は原作のあの子に出番あげるためだったんだけどなー
それが原作ブレイカー誕生しちゃったよ(白目

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